Fate/Genuine Objects 作:N-Kelly
俺はこれまで順風満帆といえるような人生を過ごしてきたはずだ。
それは客観的に見てもおおむね誰もが同意できるような経歴であり、有体に行ってしまえば成功者の道程だ。
世の中不平等な境遇から這い上がって富を得た者もいれば、恵まれた環境に身を置きながら堕落し、満足いかない暮らしをせざるを得ない者が多くいる世の中、俺は我ながらにしても堅実にやってきたと思う。
それなりに裕福な家庭に生まれた俺の幼少期は、海外への単身赴任で父親がいないということを除けば実にありふれたものだ。
住まいは父の実家から少し離れたところにある一軒家で、広い家には母と二人きりだが寂しくはなかった。
日本と外国を行ったり来たりして偶に帰ってくる父親はその度に俺と遊んでくれて、汗水流して働いた上で家族を気に掛ける父親を俺は好んでいたし、母親は小さい俺を一人で育て上げ、学校から帰ってくるその日の出来事を語る俺を話をしっかりと聞いてくれて、優しかった。
学校に行けば友人にも恵まれていた上、俺が捻くれてしまう要素など一切存在しない健全な環境であったといえるだろう。
それを裏付けるように、俺は中学、高校に入ってからも素行不良はなく、勉強においてもそれなりの成績もとっていたし、誰かから嫌われるような性格もしていなかったと自負している。
どこにでもいる普通の人間であり、特に変わったこともなく俺は普通に、堅実に生きていたのだ。
しかし高校2年も半ばの時、単身赴任していた父親が俺と母親を海外へと呼びつけた。
以前に母親が海外にいる父親の元でひと月ほど暮らしことがあったのだが、その時の家族での暮らしが父親としても気に入ったことと、父自身が家族の団欒が取れないことをかなり気にしていたらしい。
そして何よりもこれまでそれなりの頻度で帰ってきていた父親だが、ついに日本に戻る目途が立たなくなったことが大きな要因だった。
そういった様々な事情も込みで、俺は慣れた故郷や友人たちとの別れも惜しみつつ母親といっしょに父が待つイギリスへと行くことになった。
環境が変わってすぐの時には混乱することも多かったが、俺はそのまま向こうの大学に進学し、海外の暮らしにも慣れていった。
一方で日本の友人と偶に連絡を取り合ったりもしていたし、こちらでできた新たな友人とも充実した毎日を送っていた。
これらの当たり障りのない境遇だけ聞けば、ああ誰が見ても誰が聞いても本当に普通の人生だと思うだろう。
確かに少しだけ境遇は特殊かもしれないし、人よりも恵まれた環境だとも思うが、それでも多くの人間と比べれば所詮些細な差異であり、世の中にありふれた一般的な家庭の範疇だろう。
そんなありふれた生活を俺は俺自身が幸せだと実感しているし、俺の周りでも誰も不幸になっていないと思っている。
きっと俺は、このまま堅実に生き、それなりの人生をもって、満足して行くのだろうと考えるのだ。
それは決して悪くない。そう、悪くないはずなのだ。
――白光の濃霧は既に晴れ、晴天は人理を照らす。極天へと至る路は、はるか昔に過ぎ去った。
だが俺は何か忘れているのだ。この充実した人生、誰もが満ち足りた俺の周囲の環境の中で。
――――これは閑話であり、空想以前の夢路の記憶である。
俺は満足しているはずなのだ。それなのに、これ以上求めてもいいのだろうかと自問自答する。
俺は俺なりに、自分の手の届く範囲で、努力を重ねてきた。堅実に、着実に。
――――――想起せよ、己が命題を。
だが俺は手を伸ばしてしまうのだ。欲しがってしまう。求めてしまう。無視などできない。
これは満たされた俺にとっては過剰だ。それ以上に求めるのは持っていない、満ち足りていない人たちへの冒涜なのはわかっている。
それでも俺は忘れていた、忘れようとしていたあの頃を思い出す。
出来ればどうか、罰を受けるのは俺だけのようにと。
―――Fate/Genuine Objects