皆さんはダートを駆けるウマ娘についてご存知だろうか?
現在、私は地方のレース場にきているのであるが、それは、ある理由があった。
なんと、チームアンタレスに新たに入りたがるウマ娘がこのレース場にいるらしいのである。
話を聞いた時は正気かよ、と思ってしまったがどうやらほんとの話らしい。
このレース場で走っているという情報を聞いて、ライスシャワー先輩と共にやってきているのであるが…。
「フェブラリーステークスを走れるウマ娘…ですか…」
「確かにウチはダートウマ娘は居ませんもんね」
「そうね、だから今回のウマ娘の加入はチームとしてはすごく大きいと思うの」
そう言いながら、私に微笑みかけてくるライスシャワー先輩。うん相変わらず天使である、可愛い。
さて、ダートというのは日本のG1ではクラシックほどの注目はされていない。
土と芝、走るレース環境がそもそも違うのであるが、このダートというのは甘く見られがちである。
普通、走るんなら芝だろと思っている方もたくさんいるかもしれない。だが、このダートこそが、なかなか凄いレースが盛りだくさんなのである。
何故か? それは、日本ではなく海外に目を向ければ一目瞭然である。
鎖国後の日本はイギリス洋式のウマ娘のレースをモデルに発展してきた。
そして、今のクラシックと呼ばれる歴史のあるレースはその積み重ねにより出来上がったレース。
だがしかし、アメリカのレースの基本はこのダートなのである。
私が、初めてルドルフ会長にあった時に憧れているウマ娘の名前を言ったのを覚えているだろうか?
セクレタリアト。
アメリカ三冠を始めとした数多くの大記録を打ちたてたアメリカ合衆国を代表するウマ娘である。
バテないスタミナや、ウマ娘離れした筋肉とバネのある独特のフォームから繰り出される爆発的な加速力は等速ストライドと呼ばれた。
セクレタリアトはレース展開によって2種類のストライドを使いこなしていたとされている。
あだ名はビックレッドと呼ばれ、彼女の代表的なレースといえば、やはり、米国三冠の最終戦であるベルモントステークスだろう。
なんと、2着のトワイスアプリンスに31身差も離し、三冠を達成したのである。
40年以上経過した2018年の現在でもダート12ハロンの世界レコードとされている彼女の持つレコードはもはや更新不可能といわれることも多い。
さて、このアメリカを代表する怪物であるが、主戦場としていたレースは果たしてなんだったのか?
そう、ダートなのである。米国ではダートが主戦場なのだ。
何故、芝が少ないかとされているかというと多分、西部劇などでよく見る開拓時代にウマ娘達が走っていたのが土が多かったからではないか? という風に私は思っている。
詳しい話はよくはわからないが、米国のレースのルーツはこのダート、つまり、ダートレースがより注目されるのである。
ちなみに賞金額が半端ない。
特にウマ娘のレースで世界最高賞金額を誇るペガサスワールドCなどは総賞金1,200万ドルだ。
ようは、日本のダートウマ娘は下手をすれば日本のどのウマ娘よりも大スターになれる可能性を秘めているのである。
私はスマートファルコン先輩が地方周りをしてると聞いてたので、リギルのオハナさんにその話をしてあげたところ、血相を変えてスカウトに飛び出していったのは記憶に新しい。
ダートウマ娘とはすなわち、アメリカン・ドリームの塊なのだ。
ちなみに、たまにだが、芝もダートも両刀でいけるウマ娘も稀にいるとか、エルコンドルパサー先輩なんかも多分、その口だろう。
レズとかホモとかそういう話ではないですよ? 違いますからね?
話は逸れてしまったが、ダートレースというのは日本は地方が割と力を注いでいる。
日本にも、ペガサスワールドCみたいに馬鹿げた賞金額のダートレースができれば盛り上がるのにね? と私は個人的に思ったりしてる。
しばらくして、そのウマ娘との待ち合わせ場所に到着した私達は辺りを見渡し、待ち合わせをしていたウマ娘を探す。
「えーと…、多分、待ち合わせはここだと思うんですけど」
「どこですかね?」
そう言って、辺りを見渡す私とライスシャワー先輩。土地勘が私達は無いのでスマートフォンを使い現在地を把握しながら、待ち合わせをしていたダートウマ娘を探す。
すると、しばらくして、栗毛の綺麗な髪を赤いカチューシャで留め、靡かせている飄々とした雰囲気のウマ娘が私達の前に現れた。
独特な雰囲気のある彼女はニコリと微笑みながら私達に話しかけてくる。
「やぁ、君達が待ち合わせの2人かい?」
「えっ? あ…は、はい、そうですが貴女は…」
「御察しの通りだよ、私が待ち合わせをしていたウマ娘さ」
そう言いながら、彼女は肩を竦めて顔を見合わせる私達に告げる。
彼女が何者か、それは、彼女は地方競馬において英雄として名を轟かせているところを聞けば察しのいい方は気づいている方もいるかもしれない。
フェブラリーステークス
英雄は東北から来た。
日本ウマ娘史上ただ1人、地方から中央を制したウマ娘。
メイセイオペラ、栗毛の来訪者。
時代は外から変わっていく。
そう、彼女は東北の英雄、メイセイオペラさんなのだ。彼女の活躍は地方でありながら、トレセン学園でも話題によく上がっている。
飄々としながらその雰囲気とは裏腹に、東北出身の英雄としての看板を背負っている彼女には、口では言い表せない圧力というものが備わっている。
しかし、私にはわからない事があった。
確かにウチのチームにはダートウマ娘はいないのだが、地方でこれだけ名が売れているのにわざわざアンタレスにメイセイオペラさんが来たがる意味である。
「何故ウチのチームに…、他にもスピカやリギルという選択肢もあったと思うんですけど」
「うーん、チーム選びを迷ってもしゃあねぇべって思ってね。そっだことより、にしゃがおもしぇと聞いたもんでなぁ」
「え…っ?」
そう言って、私に向かいニコリと笑みを浮かべて告げるメイセイオペラさん。
いや、確かに色んな意味でみんなからは良く絡まれてはいるけれど、そんな理由で所属チームを決めるとは。
そういう決め方をされるとは予想外だった私は目をまん丸くしながらライスシャワー先輩の顔を見る。
ライスシャワー先輩は私に困ったような笑みを返してくれた。
そうですよねぇ、私もおんなじ意見です。
言わずもがな、伝わる。そう、何も知らないメイセイオペラさんがウチのチームのやばいトレーニングを見てどんな風に思うのか、想像するのは容易い。
だが、アンタレスといえど、チームトレーナーのほかにトレーニングトレーナーが居るのでバクシンオー先輩やタキオン先輩、ナカヤマフェスタ先輩のように私の義理母が見ないという所属の仕方ももちろんある。
ダートに関してはそれこそ、専門のトレーナーの方が良いだろうし、そう考えるとメイセイオペラさんがウチのチームに来るというなら多分、大丈夫だろうとは思う。
血迷っても、私やミホノブルボン先輩のトレーニングをさせてはいけない(戒め)。
彼女には学園生活を満喫してほしいのだ。
私なんてしょっちゅう筋肉痛で学園生活を満喫どころじゃないからね、もう慣れましたけども。
しかし、地方にも広まっている私の悪名、絶対原因はゴルシちゃんだろうな、間違いない。
あの娘、どんだけ言い回ってるんだよ! いや、多分、それ以外のウマ娘も言って回ってるんだろうなぁ。
もう、訂正する気も起きない、そうです、私がトレセン学園の誇る青いコアラのド○ラ枠です。
すると、メイセイオペラさんは慌てたように顔を真っ赤にして私とライスシャワー先輩にこう告げはじめる。
「やんだおら。出来るだけ標準語を話そうとしてたんだがね。 まだ、慣れてないもんで」
「そんな無理しなくても…」
「あはは、あまり訛っていてもコミュニケーションが取りにくいだろう? うん、徐々に慣れていかないとね」
そう言いながら、照れ臭そうに話すメイセイオペラさん。
とりあえず、彼女はウチのチームに転入という形で所属する事になった。これで、ウチには各レースにスペシャリストが揃い踏みする事になる。
私は訛ってた方が可愛いと思うんだけどなぁ、薩摩語検定一級(自称)と広島弁検定一級(自称)、関西弁検定一級(自称)の私が言うのだから間違いない。
一応、メイセイオペラさんは米国進出を視野に入れて、今年は国内ダート路線を制覇に動く事になる。
これがもし、実現し、米国のダートG1を制覇したりすれば地方ウマ娘による海外ダートG1制覇というロマンに満ち溢れた偉業になることだろう。
私もダートの走り方練習しようかな…、そして、ペガサスワールドCを優勝して賞金を使って豪遊三昧の生活をするのだ。
可愛い水着で南国の島でバカンス、何という最高な生活だろうか。
私はそんな想像を膨らませながら、ぐへへっという下品な笑いがつい出てしまう。
だが、現実は非情である。今の私はクラシック路線まっしぐらなので、メイセイオペラさんにダートの走り方を教わるのは後になるだろう。
それから、しばらくして、メイセイオペラさんをトレセン学園で私達は迎い入れる事になった。
もちろん、トレセン学園を案内する役は1番年下の私の役目です。
そして、トレセン学園の余計な豆知識をメイセイオペラさんに吹き込む私。
具体的にはスピカに所属しているダイワスカーレットちゃんはおっぱいが大きいことを始め、リギルのチームトレーナーであるオハナさんがどれだけ大天使なのか、そして、スピカのトレーナーさんがどれだけ聖人なのかという事をオペラさんに教えてあげた。
これは常識である。そしてウチは地獄の黙示録という事も教えておく。
それは、遠山式軍隊トレーニングをすればよくわかるのだが、オペラさんみたいな良いウマ娘を私は地獄に引きずりたくないので敢えてオブラートに包んで話した。
そうして、現在、私はオペラさんを連れて食堂の案内をしている最中である。
「この食堂の名物はオグリ先輩と言いましてね、たくさんご飯を食べるところが可愛いんですよー」
「ほうほう」
「トレセン学園の食堂は料理が非常に豊富なので、オペラさんも満足していただけるかと」
そう言いながら、満面の笑みを浮かべて、食堂の説明をオペラさんにする私。
ここはある意味癒しの空間なのである。たまに見かけるスペシャルウィークことスペ先輩もよく食べている光景をよく目にするのだが、あんなによく食べれるものだと感心する。
私なら多分、トレーニングの最中にゲ○吐いちゃうな、やはり、アスリート的な意味で食事はバランスよく食べるのが1番である。
そんな中、食堂の案内をし終えて、トレセン学園の廊下に出る私とオペラさん。
すると、そこであるウマ娘とばったりと遭遇してしまう。
「おー! アフちゃんじゃーん! この間のOP戦、流石だったなぁー! おい!」
「いいですか? オペラさん、関わってはいけないウマ娘とはこの娘の事です」
「…肩組まれて随分と親しそうだけんど?」
親指で私に馴れ馴れしく肩を組んでくる遭遇したウマ娘ことゴールドシップを差しながら告げる私。
しかしながら、そんな事は御構い無しにゴールドシップは私の肩をしっかりと組んだまま頬ずりまでしてくる始末。
これにはオペラさんも苦笑いを浮かべてそう突っ込む他なかった。
そんな中、私は冷静にこのゴールドシップについて何が危険かをオペラさんに説明しはじめる。
「いいですか? このゴルシちゃんは気性の荒さはあのマックイーン先輩同様にすこぶる凄くて特技がプロレス技というとんでも…」
「おー…お前またおっ○い大きくなったな」
「と、こんな感じに私のおっぱ○を何事も無いように鷲掴みにするとんでもない奴なんです」
「冷静に説明してくれるのは有難いだけんじょ、そこは突っ込んだがよくねぇべか?」
そう言いながら、たゆんたゆんと私の胸を背後から揺らしてくるゴールドシップとのやりとりを見て苦笑いを浮かべるオペラさん。
わかってるんですよ、この人はいつもこんな感じなんで突っ込むと疲れちゃうでしょう? 疲れるのは義理母の鬼調教だけで充分なんですよ。
そんな中、しばらくゴルシちゃんに胸を遊ばれた私はチョップを入れて止めさせると、冷静な口調でこう話をしはじめる。
「ゴルシちゃん、私は今、オペラさんの案内で忙しいのですが」
「えー! あ、なら、私も案内手伝ってあげようか? ん?」
そう言いながら、満面の笑みを浮かべて私の肩をポンと叩くゴールドシップ。いやいや、お前さんいつからそんなに慈悲深くなったのかな?
何かまたロクでも無い事でも考えついたに違いない、私はオペラさんを守る使命がある。
にこやかな笑みを浮かべているゴールドシップに対して、私は冷静にかつ丁寧にこう話をし始めた。
「んー…貴女がですか? ほら、貴女は午後からトレーニングがあるでしょう」
「んなもんサボる」
「私の義理母がトレーナーなら、その発言聞いた途端ぶっ殺されますよ貴女」
そう言いながら、信じられないような言葉を発するゴールドシップに突っ込みを入れる私。
そんなもん、私だってやってみたいわ! どんだけ聖人なんですか! チームスピカのトレーナーさん! 私は逃げた日には坂路が倍に増えてトレーニングもエゲツなくなるというのに!
チームアンタレスなら到底考えつかないような事をさらっと言ってのけるゴールドシップに私は顔をひきつらせるしかなかった。
それから、仕方ないのでゴールドシップを交えて、オペラさんに私は学園内の案内を引き続き行なった。
途中、何故か広間の芝の上で昼寝をしていたヒシアマ姉さんことヒシアマゾンの顔にゴルシちゃんと2人で油性ペンで落書きしたりとかをしたりはしたが、特に問題なくオペラさんには学園内を案内できていたと思う。
ちなみに夜に部屋に一緒に戻ったブライアン先輩と2人でヒシアマ姉さんの顔を見て爆笑したのは良い思い出になった。
なんでも、昼間から夜の間、誰もヒシアマ姉さんに突っ込んで教えてくれなかったらしい。
同じチームで生徒会の仕事をしていたフジキセキ先輩やエアグルーヴ先輩は仕事中やたら笑いを堪えていたとか。
ちなみにルドルフ会長は全くノータッチだったらしい、曰く、新しいメイクだと思っただとか。
いやいや、確かに顔にインディアンみたいな落書きはしてたけどそんなメイクがあるかい! と思わず私は突っ込みを入れたくなった。
ちなみにその後、ヒシアマ姉さんから私は。
「アフトクラトラスぅ! このやろー!」
「あだだた! ごめんなさいっ! つい出来心で!」
「てめぇ! また胸でっかくなってやがるじゃねーかこら!」
「なんでみんな私の胸を触るんですかね!? やめてっ! これ以上はおっきくしないで! てか、姉さんもわたしよりデカイでしょうがっ!」
関節技を決められたまま、何故か身体を弄られるという拷問を宿舎の部屋にて受ける事になった。
チームは違えど、私にとってみればリギルの先輩たちも優しくて良い先輩ばかりである。
学園生活というにはあまりにも軍隊じみていて学園生活をエンジョイできているとは言い難い私であるが、それでも、この学園に来た私には、良い姉弟子、良い先輩、良い親友が出来て幸せであった。
まだ、長い春のG1ロードは残ってはいるが、新たに加わったオペラさんを加え、チームアンタレスはより邁進していく事になる。