遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS
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鬼の胎動

 

 

 

 ドバイから帰国した私達。

 

 さっそく、ミホノブルボンの姉弟子は秋の菊花賞に向けての地獄のトレーニングを再開、私はそれに巻き込まれる形で重賞競走である東京スポーツ杯に向けてのトレーニングを開始することになった。なんでやねん。

 

 

 トレーニングしたくないでござるー、動きたく無いでごさるー。と嘆く間もないですねほんとに。

 

 

 だが、ミホノブルボンの姉弟子以上にこのクラシック最終レースに闘志を燃やしているウマ娘がいることを私は知っている。

 

 どんなにやられても、負けても、彼女は悔しさを露わにし誰よりもミホノブルボンというウマ娘に勝つことだけを目標にしてきた。

 

 誰もが心を折られた中、彼女は最後まで食らいつく事を諦めなかった。

 

 私と同じように小さな身体で恵まれた体型ではないにもかかわらず、努力を積み重ねてきた。

 

 

「ライスシャワーッ! どうしたっ! 顔を上げんかァ!」

「ぜぇ…ぜぇ…、はいッ!」

 

 

 歯を食いしばり、トレーニングトレーナーの檄に応えて身体に鞭を打ち、何度でも立ち上がる。

 

 私はドバイに行く前からずっと、そんな彼女の影ながらの努力を知っていた。いや、多分、クラシックレースが始まるずっと前から知っている。

 

 だが、彼女はこれまで以上の激しいトレーニングを望んだ。

 

 なぜならば勝つ為だ。勝利するため、積み上げてきたモノを証明するために彼女はミホノブルボンの姉弟子と同じように鬼になる必要があった。

 

 漆黒のウマ娘の目の先にはもはや、それしか見えていない。栄光を手にするためならば何度でも戦う。

 

 なんですけれども。

 

 

「アフトクラトラス! しっかりせんか!」

「ひゃいぃ〜…がんばりまひゅぅ〜」

 

 

 なんで私まで巻き込まれてるんでしょうね?

 

 ライスシャワー先輩のちょっとトレーニングに付き合ってくれる? という上目遣いからのお願いに秒殺されてからの記憶が曖昧なんですよ、私も。

 

 こうして、マトさんからの檄が私にも飛んできます。

 

 やったね! アフちゃん! トレーニングが二倍に増えたよ!

 

 おいやめろと誰か突っ込んでください。

 

 こんな地獄のトレーニングから私を保護するともれなく私の胸を好きなだけ好きにして良い権利を渡して上げますから。

 

 プライド? そんな物なんて微塵もありませんね胸くらい、いくら揉んでも減りはしないわけですし。

 

 あ、でもこれ以上おっきくなったら困るな、よくよく考えたら。

 

 そうして、私は鬼のようなトレーニングの最後にライスシャワー先輩と併走することになったのですが、ここで、ある事に気がついた。

 

 それは、ライスシャワー先輩と走っている時に抱いた違和感である。

 

 予想以上に以前よりも、その足の切れ味が格段に上がっていたのだ。

 

 

「…はぁ…はぁ…、嘘ッ…ここから更に伸びるんですかッ!?」

「ぜえ…ぜえ…」

 

 

 思わず、ライスシャワー先輩のその足の力強さに私は置いてきぼりを食らうところだった。

 

 踏み込み、加速、競り方が前に比べて格段にレベルが上がっている。

 

 いや、おそらくはまだこれは発展途上だ。これから先、更に磨きがかかってくるに違いない。

 

 ライスシャワー先輩と併走してわかるが、気迫が凄まじかった。

 

 それこそ、死神の幻覚が見えたというか、背後から迫ってくると考えるだけで背筋が凍りそうになる。

 

 これは、次のレースはミホノブルボンの姉弟子も一筋縄ではいかないなと私は改めて、そう感じた。

 

 気迫に満ち溢れているライスシャワー先輩はその後、更に、トレーニングで己を追い込んでいた。

 

 その姿は鬼か死神か、まるで、何かにとり憑かれているような怖さを私は感じた。

 

 

 それからしばらくして、お昼。

 

 私はいつものようにるんるん気分で楽しみにしている昼食を迎える。

 

 何故、楽しみなのかって? それはもう可愛いマスコット、オグリ先輩を独り占めできるからである。

 

 オグリ先輩はいきなりハグしても怒られませんし、一心不乱にご飯をパクパク食べる姿は本当に可愛いんですよ。

 

 もう、私の癒しといいますか、私の特等席はいつもオグリ先輩の真ん前なのです。

 

 だが、今日はいつものお昼とは違い、事情が違った。それというのも、今、私の目の前にいるウマ娘がきっかけである。

 

 私と同じように青鹿毛の短い短髪に美形という感じの美人、そして、出るとこがしっかりと出ている抜群のスタイルの持ち主。

 

 そう、フジキセキ先輩である。

 

 

「やぁ、ポニーちゃん、ちょっと今日はご一緒してもいいかい?」

「誰がチビですかっ!」

「いやいや言ってない言ってない」

 

 

 そう言いながら迫る私に顔を引きつらせながら突っ込みを入れてくるフジキセキ先輩。

 

 ポニーちゃんだとう! あんなにちっこくないわ! 私の身長侮るなよ! まだ成長期なんだぞ! この間もちょこっと伸びてたんですからね1mmくらい!

 

 これは伸びた内には入りませんね、はい、知ってました(震え声。

 

 しかし、フジキセキ先輩はボーイッシュというか何というか、同じウマ娘にはやたらとモテる。

 

 ちなみにフジキセキ先輩の戦績としてはG1では朝日杯を勝っている。

 

 実力は間違いなくあるんだが、彼女自身、一線で走るよりもウマ娘達の統括や生徒会のサポートなどの裏方に回る方が多いかもしれない。

 

 実際も4戦しか走って無いですしね、アンタレスで例えるならば、タキオンさんと同じタイプのウマ娘です。

 

 さて、そんなイケメンでボーイッシュなフジキセキ先輩に捕まった私はこうして彼女の目の前で昼食をとるわけなのだが、一体どういった風の吹き回しなのだろうか?

 

 すると、フジキセキ先輩は口を開いて要件を述べ始める。

 

 

「さて、ポニーちゃん、本題に入ろうか。話っていうのはね…。ウチのチームのネオユニヴァースの事だ」

「…っ!? ゴホゴホッ! えっ? ネオちゃんリギルに入ったんですかっ!?」

 

 

 そう言いながら、フジキセキ先輩の衝撃的な話にむせ返る私。

 

 フジキセキ先輩もチームリギルなのだが、まさか、学園が誇る名門チームに同級生のネオちゃんが所属することになっていたとは予想外だった。

 

 でも、まあ、あそこはチームトレーナーのオハナさんが大天使だし、何より、アンタレスとかいうキチガイじみたチームに所属するよりは良いだろう。

 

 下手に姉弟子や義理母から鍛えて強くなると目をつけられた日には壮絶なトレーニングの日々を送ることになる。

 

 経験者が語るんだから間違いない、あの叩き上げで有名なバンブーメモリー先輩が根を上げてしまうほどの練習量だしね。

 

 とはいえ、それだけならわざわざ私に話をする必要性はさほど感じないような気はするんだけれど。

 

 すると、フジキセキ先輩はこう話を続ける。

 

 

「そうなんだが…、君の事についてネオユニヴァースがかなり意識していてな…。練習量を自ら増やしてオーバーワーク気味になっているんだ」

「はぁ……」

「このままだと彼女が潰れてしまうかもしれない、私としてはそれはあってはならないと思っていてね、どうだろう、君の方からも何かしら言ってはくれないだろうか?」

 

 

 そう言いながら、私の手にそっと柔らかな手を重ね、綺麗な眼差しで見つめてくるフジキセキ先輩。

 

 なんだこの天使、結婚してください。

 

 ウチのチームでそんな風なワードなんて一言も出た事ありませんよ。

 

 綺麗な眼差しでこっちを見つめてくるフジキセキ先輩の母性がヤバイです。いや、マルゼンスキーさんの母性もすんごいですけども。

 

 私、二人みたいに天使みたいなお母さんが欲しかったなぁ(遠い眼差し。

 

 しかしながら、ネオユニヴァースちゃんがオーバーワークか、果たしてそれはどのレベルでのオーバーワークなんだろうか?

 

 気になった私はもうちょっとフジキセキ先輩に聞く事にした。

 

 

「例えばどのくらいのオーバーワークですか?」

「最近では、練習終了後にひたすらトレーニングをして夜遅くに寮に帰ってくるね、内容としてはレース場を何回も走って周ったり、夜は水泳で足の筋力を鍛えたりしてるな…。オハナさんも心配していて…」

「すいません…ウチのチームはその数倍負荷掛けてやってもオーバーワーク認定されないんでなんとも…」

 

 

 私はそう言わざる得なかった。

 

 言ってはダメなんだろうが、ウチのチームだとそれ以上にきつい事をするのが当たり前で効率的にエゲツないトレーニングをするので、なんとアドバイスして良いか困惑してしまった。

 

 なんだこの大天使みたいな先輩は、私はもう涙が出ますよ。

 

 フジキセキ先輩はええ先輩やなぁ。私の姉弟子や義理母にも言ってやってくださいよ。

 

 私はハムハムと昼食のニンジンサンドイッチを齧りながらしみじみとそう思った。

 

 すると、私からの返答を聞いたフジキセキ先輩は残念そうな表情を浮かべて語り始める。

 

 

「そうか、ありがとう。確かにアンタレスでミホノブルボンの妹弟子である君には普通の事だったな、すまなかった」

「フジキセキ先輩…。ネオちゃんだけでなく私も救ってくれませんかね?」

「ごめんそれは無理だ」

 

 

 まさかのフジキセキ先輩の2秒即答に私は真顔で固まるしかなかった。

 

 いや、わかりますよ? ウチの義理母怖いですもんね、下手したら泣かされそうですもんね、トレーニング的な意味でもですけれど。

 

 でも、もうちょっと長考しても良かったのではないですかっ!?

 

 私を見捨てるなんて酷いウマ娘です。散々弄んでおいて(意味深)。

 

 はい、弄ばれた覚えは微塵もないんですけどね。

 

 さて、気を取り直して、即答したフジキセキ先輩に咳払いをした私は微力ながら、こんなアドバイスを送る事にした。

 

 

「こほんこほん、えー…、そうですね、ネオちゃんに過剰なトレーニングをさせるより効率化を計ってみたらどうでしょうか? そういった提案をオハナさんから彼女に提示すれば、少しは環境が変わるかと思います」

「…っ!? な、なるほど」

「ウチの練習の効率化にもオハナさんは協力してくださいましたし、あの手腕ならもうネオちゃんにはお伝えしてるかもしれませんがね」

 

 

 後輩思いのフジキセキ先輩にそう言いながら、私は食後の緑茶をズズッと飲む。

 

 そう、オハナさんのトレーナーとしての腕は間違いなく一級品、あらゆるG1ウマ娘を管理統括するにはそれだけの技量を持ち合わせていなければできない。

 

 ウチの義理母がよく、オハナさんの事を高く評価していたのを私は知っている。あの人も義理母から数多くのことを学んだ教え子の一人なのだから。

 

 という事はネオちゃんの件については既に把握済みなのだろう。

 

 無理をさせすぎない程度に見守るなんてやはりオハナさんは天使だなと私は思ってしまった。

 

 あ、ちなみに私の所属するチーム、アンタレスのスローガンは無理を超えて、限界を超え続けろなので、無理という言葉自体存在しないのであしからず。

 

 無理しすぎではなく、無理を超えろなんですよ、死線を超えろとか鬼ですね、ライスシャワー先輩とミホノブルボンの姉弟子は超え慣れてますけども。

 

 アンタレスがトレセン学園の戦闘民族なんて言われても私は微塵も驚きませんよ(白目。

 

 

 さて、話が逸れてしまったが、これにて、アフちゃんのお悩み相談室は無事終了です。

 

 

「ありがとう、アフトクラトラス、また何か相談があれば…良ければ乗ってくれないか?」

「任せてください、そりゃもう大天使フジキセキ先輩のためならえんやこらですよ」

「はははっ! そうか頼もしいよ、ほんとにありがとう、それじゃ私は生徒会の仕事もあるからこれで」

 

 

 フジキセキ先輩も私の返答に安心したのか、丁重なお礼を述べると笑顔を浮かべて頭を下げると踵を返して立ち去ってしまった。

 

 んー、これは敵に塩を送ってしまったのではなかろうか? ネオちゃんは手強いからなぁ、本当に…。

 

 皐月賞、ダービーでは必ず立ち塞がってくることだろう。

 

 ゼンちゃんも含めて二人には負ける気はないけれども、二人とも才能は一級品だから怖いなと私は緑茶を啜りながらしみじみ思う。

 

 すると、フジキセキ先輩が立ち去ったのを見計らってか、私の背後から迫る白い影が。

 

 しばらくして、緑茶を啜っていた私の胸が急な勢いと共に勢いよく上の方へと背後から豊満な胸を両手で持ち上げられた。

 

 私はいきなりの出来事に思わず変な声が出てしまう。

 

 

「ひょわぁっ!?」

「おーすっ! アフちゃん! いやーやっぱり揉み応えあるわぁ」

 

 

 そう言いながら、たゆんたゆんと私の胸を揺らしてくる白いコイツは言わずもがなゴールドシップである。

 

 私はカチンと来たので、スッと立ち上がると負けじとゴルシちゃんの胸を鷲掴みし返した。

 

 いきなり人の胸を触るという事は触られるという覚悟を持っているだろうな? とつまりはそういう事である。

 

 私は顔を引きつらせながら、互いに胸を掴みあっているゴールドシップに視線を向ける。

 

 昼間っからほんとに何してるんだろうか私。

 

 

「…いきなり胸を引っ掴むのはやめてくださいよ、というかゴルシちゃんも良いもの持ってるじゃないですか! ほら!」

「んー…まあ、そうなんだけど、アフトクラトラスのやつは実家に帰ってきた安心感みたいなのを感じるからさぁ…あ、触っても良いけど先っぽは掴むなよ、先っぽ」

「その言葉、そっくりそのままお返しします」

 

 

 そう言いながら互いに胸を鷲掴みしあうゴルシちゃんと私。

 

 昼間の食堂で何やってるんだろうと私はここで改めて冷静になる。

 

 ゴルシちゃん胸を掴んでいてもなんだか虚しさが残るだけだった。

 

 致し方ないので、私は胸を掴まれたまま、ゴルシちゃんの胸を下から手でポンポンと叩くように揺らしつつ呆れた表情を浮かべてこう話をしはじめる。

 

 

「それで何のようですか?」

「あー、そうだそうだ! 実はさぁ、お前にお願いがあって! ちょっとウチの併走パートナーやって欲しいんだよ」

 

 

 そう話すゴルシちゃんは笑みを浮かべながら、私の胸をゆさゆさと揺らしてくる。ええ加減手を離さんかい。

 

 チームスピカの併走パートナー? 私はまさかこのタイミングでそんな事をお願いされるとは思ってもみなかったので首を傾げて目をまん丸くしていた。

 

 確かに東京スポーツ杯に向けて、スピカの実力のあるウマ娘達の力を分析しつつ、走れるのは良いトレーニングにはなるはずだ。

 

 トレーナーさんも聖人ですからね、変態聖人ですけれど。

 

 あと、義理母のめちゃキツいトレーニングから少しでも逃れられるのでは? という邪の考えが私の中に浮かんだ。

 

 これは案外使えるのではなかろうか?

 

 私はゴルシちゃんににこやかな笑みを浮かべて二言返事でこう返す。

 

 

「ええ、いいですよ、よく話を持ってきてくれました」

「おっ、それは助かる! やっぱり話がわかるなーお前は!」

 

 

 そう言いながら、満面の笑みを浮かべるゴルシちゃん。おい、いい加減、胸から手を離せ手を。

 

 とはいえ、私はこうしてしばらくの間、スピカの併走パートナーとして出向く事になった。

 

 それから、話を終えたゴルシちゃんは用事があるからと、私に手を振りながらどっかに行ってしまった。

 

 あの娘は相変わらず自由奔放だなと改めてそう思う。

 

 さて、私はこうして併走パートナーを引き受けたわけだが、チームスピカの実力を肌で感じられる機会はそうそうないので楽しみである。

 

 うまくこの経験をアンタレスのみんなに還元できたらなと思いつつ、私は残っていた昼食を食べながら考えるのだった。








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