これからも末永くよろしくおねがいします。
今日も元気にドカンを決めたら長ラン背負ったウマ娘!
はい、皆さんアフトクラトラスです。
長ランもドカンも着てないし、履いていませんけども先輩ヤンキーウマ娘達からレースの戦い方を指南して頂きました。
『いいか? あのな? 寄せてくる奴がいるだろう? そんときゃな、手を振るフリをしてこう右フックを脇腹に突き刺すんだよ』
『目潰しはバレないようにやるのがコツだな、まず、後続の奴に向かって土を蹴り上げるんだが…』
『えっ? 何? 格闘技の試合の話ですか?』
私は二人の話に耳を思わず疑いました。
これはあかん(危機感)。
喧嘩のやり方っていうか提示してくることがいちいちダーティーすぎる、私がルドルフ先輩に怒られるわっ!
汚ねぇとかそんなレベルじゃ無いですよ! アカンて。
まあ、私がそういうと二人は首を傾げていましたがなんもおかしく無いです。
とまあ、そんなことはありましたけど、ちゃんとした指導も受けさせていただきました。
そんなこんなで特訓が終わった私はグテーとしながらプカプカといつものように大浴場の風呂にて浮かんでいました。
しかも、分校には露天風呂があるんですよ!
てな訳で、露天風呂の浴槽で浮かんでいるんですけども。
「ほげぇ…なんか別の意味でちかれた」
いやー、夜空が綺麗だなー(白目)。
お風呂大好きな私としては何という素晴らしい学校なんでしょうか。設備は凄い、飯は美味い、風呂は最高。
こんなん即堕ちものですよ、もう堕ちてますけどね。
そんな中、露天風呂を私が堪能しているとガラリと戸が開く音が聞こえてきます。
「おー、アフ公、ここにいやがったか」
「ファッ!?」
「水くせーじゃねぇか! せっかく特訓してやったんだからよ、ちょっとはあたしと裸の付き合いくらいしよーや、なぁ?」
そう言って現れたのは普段は結んでいる髪を解いたエリモジョージ先輩でした。
裸の付き合いとは(意味深)。
い、いやらしい意味では無いとは思いますよ? えぇ!
まあ、普段はブライアン先輩と風呂やら添い寝やらで付き合いって意味じゃたくさんしてるんですけどね私。
というか、なんでこう、皆さん前を隠さないんですかね、確かにウマ娘同士かもしれませんけど少しは恥じらいを持って欲しいものです。
そんな事を私が考えていると私の側に近寄ってきたエリモジョージ先輩はいきなり背後からむんずっ! と私の両胸を鷲掴みにして一言。
「お前、すごいもん持ってやがんな! 手が沈むし、すっごい柔らけーぞこれ!」
「にゃあああっ!? な、何すんですかー!?」
まさかの奇襲にジタバタする私。
いやー離してー! ニャメロン! 私の胸を揉みしだくんじゃあない!
私の側に近寄るなああああああ!
とい言いつつも抵抗できずされるがままの私なんですけども、しかしながら、先っぽを刺激するのはやめて!!
ケラケラと笑うエリモジョージ先輩はひとしきり私で遊んだ後、吐息を溢し私の隣に座る。
「ふぃー、いやーいいもん持ってんなお前」
「ぜぇ…ぜぇ…、も、もうお嫁にいけない…」
私は息を溢しながら胸を庇いつつ涙目で呟く。
嫁の貰い手は無いから安心しろですって? 確かにそうですね、嫁になる気は無いんですけどそもそも。
しばらくして呼吸を整えた私はため息を吐き、気を取り直して湯に浸かる。
「全くとんでもない目に遭いましたよ」
「ははははは!! まあ、これも経験だ!」
「胸は揉まれ慣れてるんですがそれは…」
経験も何もあったもんじゃないですね、またデカくなったらどうすんですか本当に。
ケラケラと笑うエリモジョージ先輩にジト目を向ける私、ブライアン先輩やら他のウマ娘もなんですが、私の胸をなんだと思ってるんですかね。
あ、クッション枕? クッション枕ですか、確かに寝やすそうですもんね、ってやかましいわ。
そんな中、隣にいるエリモジョージ先輩は露天風呂から見える夜空を見上げながらこんな問いかけを私にしてきました。
その表情はうって変わりどこか真面目な表情です。
「なぁ、アフ公、お前、
「…はい?」
「いいから聞かせろよ」
そう言って、私に話すように急かすエリモジョージ先輩。
私はその言葉にしばらく考え込む。
私が走る理由、それは、やはり義理母と姉弟子の存在が大きいと言わざる得ない。
義理母は姉弟子の背中に夢を見ていた。そして、姉弟子の背中に私も夢を見ていたのだ。
だが、それは夢半ばで叶う事は出来なかった。私はその姿を見て、思ったのだ、義理母の示した道は間違いなんかじゃないんだと、あの日流した姉弟子の涙は私の涙なんだと。
だから、私は世界を取りに行く事に決めた。
無理だ、できっこない、バカな事言ってる、現実を見ろと多くの人は言うだろう。笑う者もいるだろう。
けれど、私はそうは思わない、ウマ娘に生まれたからには夢を見て何が悪いと言うのだ。
否定からは何も生まれません、誰もがいろんな可能性を秘めています。
ウマ娘に限った事ではない、生を受けたのなら自分の夢に向かって努力し、真っ直ぐに頑張れば報われる。
必ず報われるとは言いません、だけど、報われた人は絶対に積み重ねてきているのです。
その積み重ねは決して無駄にはなりません、私はそう思っています。
私はそのことを踏まえ、言葉にしてエリモジョージ先輩に語りながらこう締めくくります。
「私は自分の為、そして、私を育て、見守り、助けてくれた皆さんの為に走ります」
私は真っ直ぐにエリモジョージ先輩の目を見つめて迷いなく告げます。
それは、私が走る一番の理由だと思っていますし、これからも変わらないだろうなと思ったからです。
ミホノブルボンに見たみんなの夢は終わりなんかじゃない、なぜならば、夢は甦るものだからです。
私が皆さんが見た夢の続きを背負って走ります。
エリモジョージ先輩はそれを聞くと満足そうに微笑む。
「そっか…
「えっ…?」
「夢を背負うってのは重たいよな」
そう言って、エリモジョージは困ったような顔をしながら笑っていました。
それからエリモジョージ先輩は私に対して、ポツリポツリと夜空を見上げながら、口を開き始めます。
「…ちょっとした昔話なんだけどな」
エリモジョージ先輩のその表情は儚げな表情でした。
懐かしむように、そして、同時に悲しげな表情を浮かべてエリモジョージ先輩はそのことを私に語ってくれました。
エリモジョージさんは同じ出身の厩舎のウマ娘達と所謂、私達と同じようにアンタレスみたいなチームを作っていました。
同じ志し、そして、切磋琢磨する仲間であり心から自分の事を支えてくれる仲が良いチームメイトだったとエリモジョージ先輩は当時のことを語ります。
『よし! おめーら! 次のレースもあたしが一番取ってやるからよく見ときな!』
『よっ! 流石は姉御!』
『いやー、うちの番長はやっぱり気合いが違うねー!』
『はっはっはー! 何言ってんだ! あたしらがこのチームを日本一のチームにすんだろうが! おまえらも次のレースはちゃんと勝ってくんだぞ!』
仲間内でそう言いながらワイワイと盛り上がっていたと語るエリモジョージ先輩。
昔ながらの仲間達とエリモジョージ先輩は大層、仲がよかったと言っていました。
納得できないレースをして荒れていた時も、道を示してくれた仲間達だった。
そして、エリモジョージ先輩も仲間達が自分に夢を抱き、同時に目指す目標であるかのように頑張る姿にいつも力を貰っていた。
時には喧嘩もすることもあった。
しかし、それでいても家族のように親しい友人達だった。
「…やんちゃもたくさんしてきたけどよ、あたしはあいつらと一緒に居れてとても居心地が良かったんだよ」
「はは、良いお仲間さんに恵まれたんですね」
「ーーー…あぁ、最高の奴らさ」
エリモジョージ先輩は笑みを浮かべながら、私に迷わずそう告げる。
振り返れば仲間達と見た夢の跡がある。
共に走る仲間達、一緒に強くなろうと誓い合った友、彼女達の存在がエリモジョージ先輩の中でいかに大きなものだったか私にはよくわかった。
私もまた、仲間から支えられて助けられたからだ。
エリモジョージ先輩がレースに勝った時にはみんなで馬鹿みたいに騒いでいたそうだ。
それだけ、いるだけで楽しい仲間達だった。
『あぁ! テメェ! 俺のニンジンケーキ!』
『まあまあ、良いじゃないっすかー姉御』
『このやろー吐きやがれコラー!』
『ぬわぁ! 姉御! ちょっ! 揺らさないで!』
『ほらほら揉めなさんな、代わりのケーキはあるから』
たくさんの思い出がそこにはある。
帰る場所が、待ってくれる仲間達がエリモジョージ先輩にはあったのだ。
トレセン学園で腫れ物扱いされていた自分でも受け入れてくれる奴等がいてくれた。
そして、自分が頑張れたのもきっと彼女達のおかげだったとエリモジョージ先輩は語る。
だが、そんな日々は急に終わりを告げることとなった。
それは、負けが続き荒れていたエリモジョージ先輩が宿舎に帰ってきた日の事だった。
トレセン学園のトレーナーから休養を言い渡されたエリモジョージ先輩は機嫌がすこぶる悪かったと言う。
『…姉御、次頑張りゃ良いじゃねぇっすか』
『うっせーな! テメェに何がわかるってんだよっ!』
『そりゃわかりますよ! どんだけ姉御と一緒にいると思ってんスカ!』
『んだと! このやろー!』
『落ち着いてっ!』
激しい口論になったとエリモジョージ先輩は語る。そのことを話す、エリモジョージ先輩は悔しそうに下唇を噛みしめるかのように話をしていた。
その時は自分勝手にレースをしていたとエリモジョージ先輩は語る。
己が勝つことでチームは自然と強くなるし、何より、自分が世界の中心だとエリモジョージ先輩は思っていた。
仲間達の存在が当たり前になっていた。
『そんなかっこ悪い姉御なんて見たくないッスよ!』
『…んだと、もういっぺん…っ!』
『姉御は私らの目標なんっスよ!』
『!?』
その時、エリモジョージ先輩は気づいたのだという。
仲間達がどんな風にして、自分の背中を見ているのか、自分自身の姿を見てくれていたのかをこの時にエリモジョージ先輩は教えてもらったと語る。
涙目になりながら、全力で自分にぶつかってくれた。
エリモジョージ先輩はその姿を見て、仲間達の有り難みを改めて実感した。
『そうだな…あたしが…間違ってたよ…』
『姉御…』
『…次は…次は勝つ! だからよ、お前ら、あたしのレース楽しみにしとけよ!』
『…へへっ! そうこなくっちゃ』
いつものように気合いを入れて立ち直らせてくれた仲間達。
エリモジョージ先輩は次のレースこそは必ず期待に応えてやると心に決めていた。
それは、自分だけでなく、仲間達の思いを背負って自分は走っているんだと気づいたから…。
仲間達の支えも夢も全部背負って走ると決めていた。
その姿を仲間達に見て貰おうと思っていた。
次はG1の勝利を取ってきて、仲間達と馬鹿みたいに大騒ぎして、そして、きっと皆んなで日本一のチームを作っていくんだとエリモジョージ先輩は信じて疑ってなかった。
ーーーー…だが、その矢先の事だった。
目の前に広がる紅蓮、それは、エリモジョージ先輩から全てを一瞬にして奪い去ってしまった。
『…おい、…なんだよ…これ』
エリモジョージ先輩の目の前には火の手が上がる宿舎が広がっていた。
辛うじて、一階で寝ていたエリモジョージ先輩は気づきすぐに外に救出される事ができた。
だが、仲間達はまだ宿舎の部屋に取り残されたままである。
何人かの仲間達は無事に助かったものの、まだ中には何人ものウマ娘が取り残されていた。
助け出されたエリモジョージは居ても立っても居られず、その燃え盛る宿舎へと向かおうとするが。
『待て! 君っ! 何をするつもりだっ!』
『離しやがれっ! まだ、まだ中に仲間が居るんだよっ! あいつらがっ!あたしの仲間がっ!』
『無茶を言うなっ! もう火の手が上がってしまっている! あれでは助からないッ!』
『君も火傷してるだろうッ! 大人しくしろッ!』
『ふざけんなぁあああ! 離せぇぇぇ!』
エリモジョージ先輩はその時のことを鮮明に覚えているという。
火傷を身体に負いながら、とめどなく溢れ出る涙を流し、仲間達を助けたいと願っていた。
だが、何もかもが手遅れだった。
後はただ、呆然と燃えゆく宿舎を眺め、涙を流して見つめるだけだったという。
そして、エリモジョージ先輩はその日に誓った誓いがあるという。
「…あたしはあいつらに助けてもらっておきながら何にも返せず終いだった。だけどな、だけど、あたしは託されたあいつらの夢を背負ったつもりでいたんだ」
エリモジョージ先輩は亡くなる前の仲間達が掛けてくれた言葉一つ一つを思い出すようにして私に語る。
火災から火傷を負ったエリモジョージ先輩は長期に渡る過酷なリハビリを行なったという。
長期の間、レースやトレーニングから離れた自分が前のような走りができるとは限らない、それをわかっておきながら、エリモジョージ先輩はそれでも過酷なリハビリに取り組んだ。
ただ、ひたすらに意地だった。
自分の為だけじゃない、仲間達の為にエリモジョージ先輩は必死になった。
その身体を突き動かしていたのは死んでもなお、背中を押してくれる仲間達の支えだったのだ。
そして、エリモジョージ先輩は長い沈黙を破り、レースになんとか入賞を果たして、G1、天皇賞春への切符を手に入れる事に成功する。
その天皇賞春、仲間の思いを背負ったエリモジョージ先輩は積み重ねた厳しいトレーニングの末についに、仲間達への恩返しをすることができたのだと。
レースに勝ったエリモジョージ先輩は涙を流しながら、思わず天を仰ぎ拳を突き上げたと語ってくれた。
『見てるかっ!天国の仲間たちっ! 私はお前たちの分まで走ったぞっ!勝ったのはエリモジョージです! 何もないえりもに春を告げた!』
失意の中で、エリモジョージ先輩は失った仲間達の為に己の全てをかけた。
話をするそのエリモジョージ先輩の顔は儚げで悲しそうな表情を浮かべているのを私はなんとも言えない表情で見つめる。
「あれが、本当の恩返しになったかわかんねーけどな…今となっては」
涙するほど嬉しかったG1勝利、苦難を乗り越えてエリモジョージ先輩が得た栄光。
だが、今でもエリモジョージ先輩は時々思うという、あれが、仲間達に本当の意味で恩返しになったのだろうかと。
その言葉に私は夜空を見上げながら、エリモジョージ先輩にこう告げます。
「…どうでしょうね…でも、私がエリモジョージ先輩と同じチームメイトなら…」
「チームメイトなら…?」
そこで間を置くようにエリモジョージ先輩の目を見つめる私。
私が、エリモジョージ先輩と同じチームメイトならば…、きっと当たり前のように言うことだろう。
仲間達の為に、思いを背負って走ったエリモジョージ先輩は誇りであると思います。
「チームメイトなら、自慢の姉御だって言うと思います」
私は笑みを浮かべ、エリモジョージ先輩に迷わずそう告げました。
すると、エリモジョージ先輩は目を丸くしてしばらくの間、こちらを見つめてきます。
そして、吹き出すように笑い始めると上機嫌に隣に座る私の頭を乱暴にガシガシと撫でてきました。
「ははっ! …そうかい、なら良いんだけどな!」
そう言って、露天風呂から立ち上がるエリモジョージ先輩はそのまま私に背を向けたまま戸を開き立ち去っていきます。
そんな中、背を向けていたエリモジョージ先輩はふと私の方へとジッと視線を向け、意味深な笑みを浮かべ立ち去っていきました。
私はそんなエリモジョージ先輩の行動に首を傾げます。
大浴場から着替えて外に出たエリモジョージ先輩は、ふと、空を見上げます。
その日の夜空は綺麗な星空が見える良い夜でした。
「…今日はやたら良い月が見えるな」
夜空を見上げているエリモジョージ先輩は意味深な笑みを浮かべる。
それは、少しだけ昔の事を思い出してしまい感傷に浸ったからかもしれない。
だが、少なくとも、エリモジョージ先輩は自身の心の内が少しだけ、軽くなったなとなんとなく思うのだった。