アクセル・ビルド   作:ナツ・ドラグニル

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これまでの、アクセルビルドは!

美空「仮面ライダーとして戦っているハルユキは、兎美の記憶を取り戻す為謎の組織と戦うのでありました!」

兎美「そんなハルユキに1人の少女が近づき、災禍の鎧の討伐に赴くため加速世界の本当の戦場へと足を踏み入れるのでありました!」

美空「てゆうか、本当の戦場ってなんなのよ」

兎美「さあ?推測だけど...そこは何か特別なんじゃないの?」

美空「まあいいわ、それではどうなる第5話!」


第5話

――アンリミテッド・バースト!

 

 

無我夢中で叫ぶと同時に、いつもの倍する音量の加速音がハルユキの意識を叩いた。

 

 

視界が一瞬、暗転する。

 

 

だがすぐに闇を銀色の光が切り裂く。

 

 

それは、ハルユキの五体を鋼のメカニカルボディと変えていくエフェクト光だ。

 

 

通常の加速――《バースト・リンク》コマンドならば、まず最初は桃色ブタアバターになるはずだが、そのフェーズをすっ飛ばしてハルユキは純銀のデュエルアバター《シルバー・クロウ》へと変身した。

 

 

直後、周囲の暗闇もまた虹色の光に吹き払われていく。

 

 

放射状のオーロラの彼方から現れたのは、青黒い鋼鉄の輝きだった。

 

 

自宅マンションのリビングだったはずの場所は、まるでファンタジー映画に出て来る魔王の城のような、寒々とした金属の回廊へと変化していた。

 

 

南向きに開けていた窓は全て消え去り、鉄板を放熱フィン状に何枚も連ねた意匠の壁や柱に、薄青い炎が幾つも灯っている。

 

 

足元には薄い霧がわだかまり、高い天井は薄闇に沈んでよく見えない。

 

 

金属質な所は《煉獄》ステージによく似ているが、生物的な猥雑さは一切無い。

 

 

どこまでも冷たく直線的な光景をハルユキはしばし眺め回した。

 

 

改めて視線を戻すと、すぐ近くに3つのデュエルアバターが立っていた。

 

 

濃紺のアーマーに逞しい四肢、そして右手に巨大な杭打ち機(パイルドライバー)を装着した《シアン・パイル》。

 

 

真紅の華奢な体躯にハンドガンひとつだけをぶら下がる《スカーレット・レイン》。

 

 

そして純黒の半透明装甲を纏い、鋭い剣状の四肢を輝かせる《ブラック・ロータス》。

 

 

同じ場所に立つと、2人の《王》はともかく、同レベルのシアン・パイル――タクムに対してまで湧き上がってくる劣等感をこっそり呑み下ろしながらハルユキは呟いた。

 

 

「...ここが《無制限中立フィールド》...」

 

 

「そうだ。このフィールドで以前も災禍の鎧を狩ったのだ」

 

 

電子的なエフェクトのかかった声で肯じると、黒雪姫はふわりと身を翻した。

 

 

つま先がごく鋭利な切っ先となっているブラック・ロータスは、通常の歩行ではなく、床面からわずかに浮き上がるホバー移動を行なう。

 

 

脚と同様に長大なブレード状の右手を掲げ、黒雪姫は回廊の先を示した。

 

 

「あちらが出口だろう。実際に見たほうが早い」

 

 

「だな。行こうぜ」

 

 

スカーレット・レイン――ニコも、アンテナめいたツーテールをぴょこっと動かして頷いた。

 

 

濃霧に沈む鋼鉄の通路は、数10秒歩いただけで行く手に白い外光を含ませはじめた。

 

 

思わず早足になりながらハルユキは3人を追い抜き、左への曲がり角を回り込むや、眼を見開いた。

 

 

もとはマンションの表通りに面した東側の壁だったはずの場所は、全面が外へと開かれたオープンテラスに変わっていた。

 

 

現在地の高さは自宅のある23階相当のままなので、テラスからは外界の様子が一望できる。

 

 

凄まじい――と言うよりない光景だった。

 

 

空には、分厚い灰色の雲が幾重にもうねっている。

 

 

その隙間を、頻繁に青紫色の雷光が貫く。

 

 

そして地上は、ハルユキの自宅マンションと同様、鋭利な鋼鉄板を連ねた意匠の建築物に覆われていた。

 

 

まっすぐ正面、朧に霞む新宿福都心は、最早高層ビル群というよりも邪悪な軍隊のひしめく要塞のようだ。

 

 

どれほど眼を凝らしても、動くものは見えない。

 

 

まったくの無人だ。

 

 

魔都、そんな言葉を脳裏に浮かべながら、ハルユキは傍らに進み出た黒雪姫にささやきかけた。

 

 

「こんなフィールド、初めて見ます。これ、属性は...」

 

 

「《混沌》だ」

 

 

短く答えてから、ヴァイオレットに発光する両眼をハルユキに向け、付け加える。

 

 

「その意味はいずれ解る。それより、ハルユキ君。景色に見とれるのもいいが、もっと早く気付くべきことが他にあるぞ」

 

 

「え...え?」

 

 

ハルユキは慌てて周囲をキョロキョロ見回してから、ようやく見るべきものに視線を向けた。

 

 

今までの対戦フィールドでは、常に視界の上側に自分と敵のHPバーが固定表示され、その中央で1800秒から始まるタイムカウントが残り時間を刻んでいた。

 

 

しかし今は、HPバーは自分のものしかなく、カウントの数字も見当たらない。

 

 

これまでハルユキが体験してきたゲームアプリとしての《ブレイン・バースト》は、現実としか思えない精細さのフィールドや完璧にリアルな五感フィールドバックといった技術面は究極的だったものの、内容そのものは古色蒼然とした1対1の格闘ゲームだった。

 

 

それがこの無制限中立フィールドに来た途端、画面構成がわずかに変化しただけなのに、ゲームがいきなり最先端の大規模ネットワークゲームに衣替えしてしまったように感じられて、ハルユキは我知らず叫んでいた。

 

 

「の、残り時間がない...!?どういうことです...?」

 

 

「そのまんまっつうこった」

 

 

答えたのは、左に並んだニコだった。

 

 

「ここには、ダイブの上限時間が設定されてねぇ。だから《無制限》なんだ」

 

 

「一度ダイブすれば、ずっといることも可能だよ。もっとも、レベル4以上じゃないと入れないけどね」

 

 

「えっ」

 

 

再び言葉を失い、ハルユキは今開かされたことの意味を懸命に考えた。

 

 

「...あ、あの、僕達、《加速》はしてるんですよね?」

 

 

「無論、そうだ」

 

 

黒雪姫の回答に、もう一度思考をフル回転させる。

 

 

「ってことは...仮に現実世界で丸一日こっちにいたとして、えっと...さ...3年!何でもっと早く教えてくれなかったんだよタク!それだけあったら、こう、いろいろと!」

 

 

「やめておいたほうがいいよ、ハル」

 

 

「えっ?」

 

 

ハルユキがタクムを問い詰めるが、アバターの逞しい肩をすくめ、親友は笑いを含んだ声で続けた。

 

 

「僕も、前に一度だけここに来た事があるんだ。その時は君と同じ様に興奮して、しかもバーストポイントを10も消費してるんだからすぐに帰ったら損だと思って内部時間で3日も粘ったんだけどね。現実に戻ってから、加速に入る直前にしようとしてたこととか全部忘れてて大変だったよ」

 

 

「そうだぞハルユキ君。3日くらいならまだ予定を忘れるくらいのことで済むが、仮に1ヶ月、半年とこっちで過ごしてしまうとな...」

 

 

そこまで言ってから、黒雪姫は声の調子を真剣なものに変えた。

 

 

「――戻った時、人間が変わってしまう(・・・・・・・・・・)。当然だ、それまでの自分とはヘタをすると魂の年齢までが異なってしまうのだからな。兎美君達やチユリ君達に怪訝な顔をされたくなければ、ここにはあまり来ないことだ」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、ハルユキは脳裏に1つの声を蘇らせていた。

 

 

――あたしやそこの女が、これまでいったいどんくれーの時間を加速世界で過ごしてきたか知ったら...。

 

 

昨日、ニコが笑いながら放った台詞だ。

 

 

その意味するところは、つまり――。

 

 

しかしその先を考える前に、当の本人に軽く背中を叩かれた。

 

 

「んなことより、とっとと移動しようぜ。あたしらが加速した時点で、チェリーの乗った電車が池袋に着くまで現実時間であと2分はあったから、まだまだ余裕だけどな」

 

 

「う、うん。移動って...つまり、池袋までだよね」

 

 

現実世界の2分は加速世界では32時間以上にもなる。

 

 

むしろ余裕過ぎるだろうと思いながら、ハルユキは視線を北東方面へと向けた。

 

 

どこまでも際限なく続くような青黒い鋼鉄都市の彼方に、薄らと浮かぶ巨大構造物が視認できる。

 

 

あれが池袋のサンシャインシティだとすると、そこまでの距離は現実世界と同じく6キロほどもあるはずだ。

 

 

「えーと...歩くの?それとも走って...?」

 

 

「なわけねーだろ。何のためにあんたがここにいるんだよ」

 

 

「へ?それって...」

 

 

唖然としたハルユキに、可憐な真紅のデュエルアバターがハルユキに抱きついた。

 

 

「抱っこして飛んでくれるよねっ、おにーちゃん♪」

 

 

「ええっ!!」

 

 

驚くハルユキだったが、黒雪姫のアイレンズが光ったのを気付いた。

 

 

「何を言っている、私が抱えてもらうしかなかろう。何せ腕も脚もこの通りなのだからな」

 

 

「うわあ!!」

 

 

黒雪姫はそう言って、剣となっている腕を見せるがハルユキはキラーンと光った腕を見て悲鳴を上げる。

 

 

「レイン!貴様はシルバークロウの脚にでもぶら下がれ!」

 

 

「冗談じゃねぇ!なんでそんな屈辱的な真似しなきゃなんねーだ。あんたがそんなデザインなのが悪いんだろが!1人だけ電車で行けよ!」

 

 

「なんだと?」

 

 

ばちばちと火花を、比喩ではなく本当に飛ばして睨み合う2人に、タクムがため息混じりに割って入った。

 

 

「ああ、じゃあこうしましょう。僕が...」

 

 

「お呼びじゃねえんだよ眼鏡!」

 

 

「そうだぞ!博士君!」

 

 

「ああ...」

 

マスクで見えないが、タクムの目に涙が浮かぶ。

 

 

タクムは隅に移動し、体育座りして地面にパイル・ドライバーでのの字を書いていく。

 

 

「ハル...後は任せた...」

 

 

「タク――!」

 

 

ハルユキはタクムに助けを求めるが、傷ついたタクムには聞こえていなかった。

 

 

「さあ、どうすんだ?」

 

 

「どうするのだ?シルバークロウ」

 

 

「えーっと...取り敢えず、必殺技ゲージ貯めておきます」

 

 

 

 

オープンテラスに設置されていた異形の彫像や鉄格子といったオブジェクトを《パンチ》と《キック》で破壊し、必殺技ゲージを上限まで貯めたハルユキは「えーっと...」と口籠りながら振り向いた。

 

 

「じゃあ、先輩を右腕で抱えて、ニコを左腕で抱えた後、タクムを両脚にぶら下げます」

 

 

いまだ不満そうなニコと黒雪姫の前に進み出ると、ハルユキはまず右手を伸ばした。

 

 

「し、失礼します」

 

 

ブラック・ロータスの、黒蓮の花を模したアーマースカートから伸びる細い腰をしっかりホールドし、次に左腕でスカーレット・レインの更に華奢な胴を抱え込む。

 

 

両手に花だワーイなどと思う精神的余裕は欠片もなく、ハルユキは恐る恐る肩甲骨に力を込め、背中に折畳まれていた金属フィンを展開した。

 

 

しゃらっ、と涼しげな音と共に広がった羽が、すぐに軽い振動音を放ちはじめる。

 

 

発生した仮想の揚力が、つま先を床面から浮かせる。

 

 

ごくゆっくりと上昇し、地上1.5メートルに達した所でハルユキは1度ホバリングした。

 

 

「タク、いいよ」

 

 

「よろしく、ハル」

 

 

すぐに、シアン・パイルの逞しい両腕がぎゅっとふくらはぎのあたりを抱え込む。

 

 

「それじゃ...行きます!」

 

 

宣言と共に、ハルユキは思い切りフィンを震わせた。

 

 

さすがに3人分の荷重はかなりの物だったが、それでも確かな加速で空へと飛び出す。

 

 

鋼鉄のテラスはたちまち遠ざかり、眼下に無人の異形都市がいっぱいに広がる。

 

 

「お...お、すっげ...!!」

 

 

左腕の中で、ニコが叫んだ。

 

 

「マジで飛んでるじゃん!あれが環七...あれが中央線か。あたしの学校を見えるかな!」

 

 

ハルユキにとっては、すでに見慣れた光景である。

 

 

「大丈夫かい?ハル」

 

 

タクムは、ハルユキに向って心配そうに声を掛けた。

 

 

「う...うん、ちょっとスピードは出せないけど」

 

 

「今からでも遅くねぇ、やっぱロータスは電車で行った方がいいんじゃね?」

 

 

「何を言うか、それなら貴様こそ」

 

 

空の上という事もお構いなしに、2人は言い争いをする。

 

 

「あの...やめてください、落ちそうで僕が怖い」

 

 

タクムはハルユキの脚をしっかりと掴みながら、2人に注意する。

 

 

通常対戦フィールドには移動制限があると言っても、視覚的には東京どころか関東一円を捉えることができるからだ。

 

 

しかし、何度見ても胸の奥に突き上げてくる感慨は薄れる様子も無い。

 

 

何よりこの《無制限中立フィールド》は、黒雪姫の解説によれば、ソーシャルカメラネットの限界――つまり日本国の隅々まで果てしなく続いているということになる。

 

 

それはもう、ゲームのマップなどと呼べる規模のものではない。

 

 

ひとつの世界だ。

 

 

「そうか...これが」

 

 

ハルユキは無意識のうちに呟いていた。

 

 

「これこそが、《加速世界》なんですね。現実世界の隣に、常に存在する...一時的(インスタンス)じゃない、永続する(パーマネント)世界...」

 

 

「そうだ」

 

 

短く呟いたのは、右腕に体を預ける黒雪姫だった。

 

 

鋭利な形に発行する眼がハルユキに向けられ、厳しく、同時に優しい声が流れる。

 

 

「そしてバーストリンカーの真の戦場でもある。レベル9を目指すならば、キミもいずれはこの地で戦い、勝ち抜かねばならん。...ま、今はまだその時ではないが」

 

 

それはレベルが足りないという意味なのか、とハルユキは思考する。

 

 

「はい...それよりも...」

 

 

「ん?何だ?」

 

 

「ここが永続マップだってことなら、つまり、この瞬間にも僕ら以外のバーストリンカーがダイブしてるわけですよね」

 

「そりゃそーだ」

 

 

答えたのはニコだった。

 

 

顔の向きを変え、ハルユキは質問を重ねた。

 

 

「で、でも、その割りに...ぜんぜん人の気配もないんだけど...」

 

 

眼下の異形都市はしんと冷たい静寂に満たされ、一切動くものは見えない。

 

 

ハルユキはてっきり、いつもの対戦フィールドのようにそこかしこにデュエルアバターの姿があるものと思っていたのだが、これはどういうことなのか。

 

 

しかしすぐに、今度は脚にぶら下がるタクムが声を発した。

 

 

「はは、当たり前だよハル。バーストリンカーは総数千人しかいないうえに、同時にこの無制限中立フィールドにダイブしてる数はせいぜい100人程度と言われてるんだ。こう言っちゃなんだけど、こんな杉並みたいな何もないとこじゃ、誰も見かけなくて当然だよ」

 

 

「じゃ、じゃあ...もっと都心に行けば...?」

 

 

「そういうこった。だからこそあたし達は、そして《チェリー・ルーク》も、ブクロを目指してるっつうわけだ」

 

 

言うと同時に、ニコはぽんとハルユキのヘルメット頭を叩いた。

 

 

「んなことより、いつまでも浮いてねーで移動しねえとゲージがなくなるだろ」

 

 

「あっ、う、うん」

 

ハルユキは、自分のHPゲージの下に細く光る青い必殺技ゲージを確認した。

 

 

ホバリング中は消費は少ないが、すでに1割近くが減少している。

 

 

「じゃあ、直線コースで行きます」

 

 

宣言し、ハルユキは再び羽の振動数を上げた。

 

 

うねる黒雲のすぐ下を、滑るように進む。

 

 

たちまち無人の環七を横切り、中野区へと入る。

 

 

やけに尖ったデザインの柱に支えられた中央線の高架を視界に捉えたハルユキは、何気なくその先を眼で辿った。

 

 

そして意外な物を見て、小さく呟いた。

 

 

「あっ...で、電車が動いてる...!?」

 

 

黒光りするレールの上を、わずか2両編成ではあるが、確かに電車らしき細長い影が重々しい響きとともに新宿方面へと移動している。

 

 

「ちゃんと乗れるぞ。ポイントは消費するが」

 

 

どこか楽しげな黒雪姫の解説に、銀甲の下で思わず眼を剥く。

 

 

「えっ...誰が運転してるんです!?」

 

 

「ふふ、いつか自分で確かめるといい」

 

 

そんな会話を交わす間にも、線路はたちまち後ろへと遠ざかり、代わりに山手通りが見えてきた。

 

 

これを越えれば目白、そしてすぐに池袋だ。

 

 

現実世界では、ハルユキもよく旧時代のゲームソフトやペーパーメディアの古本を買いに行くが、杉並からだと案外アクセスが悪い。

 

 

1度電車で新宿に出るか、あるいは高円寺からバスに乗るしかないのだが、どちらも直角に移動するので時間がかかる。

 

 

こうして飛んでいければ楽なのになあ、と呑気な思考を巡らせかけた、その時――。

 

 

「ほら、ハルユキ君。あれを見たまえ」

 

 

右腕に乗る黒雪姫が、鋭い剣の切っ先で東側を示した。

 

 

何気なくそちらに視線を向けたハルユキは、驚愕のあまり抱えた2人の王を落っことしそうになり、慌てて力を込め直した。

 

 

「うわっ...な...なん...!?」

 

 

深い霧の流れる山手通りを、うっそりと移動する巨大な影があった。

 

 

異形、としか言いようがない。

 

 

全体のフォルムは四足獣のようだが、胴体はエイのように平べったく、頭のあるべきところから無数の触手を地面へと垂れさせている。

 

 

長くたくましい脚の先端には、昆虫が持つような、凶悪なまでに鋭い2本の鉤爪が伸びる。

 

 

そしてその大きさは、どう見ても3階建てのビルひとつぶんほどもあった。

 

 

下りの三車線をまるまる占拠し、悠々と南に向って移動している。

 

 

脚が路面に接するたび、ズズ...ン、という重低音が空気を揺らすのを感じながら、ハルユキは呆然と呟いた。

 

 

「なんです...アレ」

 

 

「《エネミー》だよ。システムが生み出し、動かす、この世界の住人だ」

 

 

黒雪姫の言葉に続けて、ニコが短く口笛を吹いた。

 

 

「いきなりあんなでっけぇの見られるなんて、ツいてるなあんた。でも、あんま近づくなよ。あれ級のにタゲられたら、このメンツでも手間取んぜ」

 

 

「タゲ...って、え、襲ってくるの!?」

 

 

「エネミーって単語の意味、中学ならもう習ってんだろうが」

 

 

ニコの憎まれ口に反応する余裕もなく、ハルユキは慌てて高度を取った。

 

 

異形の巨獣は、上空の見物人に気付く様子もなく、ゆっくりと歩行を続けている。

 

「なんでそんな危ないものが設定されてるんです...」

 

 

「それは...」

 

 

「あ、ほら、ちょうど始まるよ。《狩り》だ」

 

 

黒雪姫が答えかけたが、それを脚にぶらさがるタクムが、抑えた声で叫んだ。

 

 

「え?狩り?」

 

直後、まさに眼下を通過しつつある巨獣が突然の咆哮を放ち、ハルユキは文字通り数メートルも飛び上がった。

 

 

「うわっ!?」

 

 

仮面ライダーとして戦っているハルユキだが、相手のスマッシュは元が人間という事もあって大きさは人間に近い物だった。

 

 

さすがにこの大きさの相手と戦った事がない為、怯んでしまった。

 

 

獣は後ろの2本の脚で立ち上がり、頭がわりの触手の束を激しく振り乱しながらもう一度啼いた。

 

 

しかしその対象が自分達ではないことに、ハルユキはすぐに気付いた。

 

 

山手通りの更に南に、幾つかの小さな影がある。

 

 

最初は別の《エネミー》かと思ったが、すぐにそうでないことに気付いた。

 

 

色取り取りの装甲をまとう人型のシルエット――すなわちバーストリンカーだ。

 

 

先頭に立つ大柄の1人が、さっと右手を上げ、振り下ろした。

 

 

途端、通りの左右に並ぶビルの屋上から、幾柔ものビームや実弾の火線が迸り、巨獣の頭部に炸裂した。

 

 

一瞬巨体をぐらつかせた《エネミー》が、ユオオオオーン、と奇怪な雄叫びを迸らせ、その頭をひとつのビルへと向けた。

 

 

前脚で宙を掻いてから、地響きとともに突進を開始する。

 

 

しかし、巨体がビルへと激突する直前、道路に陣取るバーストリンカー達が一斉に中距離攻撃を放った。

 

 

立て続けの爆発に包まれた獣は、怒りの声とともにターゲットを変更し、路上に身を晒す数人へと突っ込んでいく。

 

 

「危ない!」

 

 

ハルユキは思わず叫んだ。

 

 

巨獣の前脚が遥か上空から振り下ろされ、リーダー格をひとたまりもなく踏み潰した――と見えたが、青銀色の重装甲を持つそのデュエルアバターは、交差させた両腕で巨大な鉤爪を受け止めてみせた。

 

 

とは言えそこで足を止めて戦闘をする気はないらしく、荒れ狂う巨獣の猛攻を数人がかりでガードしながら、徐々に後ろに退いていく。

 

 

二つのビルから充分に引き離した所で、再び屋上から一斉射撃が行われ、巨獣の尻尾の付け根に命中した。

 

 

どたどたと方向転換し、東側のビルへと突進する獣に、今度は地上部隊が追いかけながらの近接攻撃をかける。

 

 

「なかなかいいパーティーだな。ヘイト管理が上手い。あのリーダーは誰だ?」

 

 

感心したような黒雪姫の声に、ニコが答えた。

 

 

「確か緑のレギオンの幹部じゃねぇかな。つってもパーティーは混成みてーだけど」

 

 

その会話に、ハルユキはようやく、眼下で繰り広げられている戦闘の内実を悟った。

 

 

「そうか...あのバーストリンカー達は、でっかい怪物に襲われてるわけじゃなくて...あれを狙って倒そうとしてるんですね」

 

 

「そうだ。つまり《狩り》だよ」

 

 

「てことは、倒せば、経験値...じゃない、バーストポイントが...?」

 

 

「うむ、そういうことだ」

 

 

頷く黒雪姫に続いて、ニコがぽんとハルユキの頭を叩いた。

 

 

「もうあんたにも解ったろ。この無制限中立フィールドにエネミーが存在する理由は、つまるとこそれがフィールドの存在理由だからってわけだ。通常の対戦だけじゃなくて、ここで狩りをすることでもバーストリンカーはレベルアップできる。でもな...」

 

 

「...その効率は、対戦と比べれば著しく悪い。あれ級の大型獣を、全滅のリスクを冒して狩っても、同レベル対戦での勝利1回ぶん...つまり10ポイント入るかどうかだ」

 

 

説明を引き継いだ黒雪姫は、そこで1度声を途切れさせ、流麗なフォルムのマスクをわずかに振った。

 

 

「それは仕方のないことだ。この世界でエネミーを狩るのは、バーストポイントを無から生み出す行為なわけだからな。つまり、あくまで《対戦格闘ゲーム》であるブレイン・バーストにおいて、無制限フィールドでの狩りは本来、補助的なポイント供給方法でしかなかったのだ。しかし現在では、それがほとんど唯一高レベルへと達する道となってしまった。理由は...」

 

 

「相互不可侵条約...ですね」

 

 

ハルユキは呟いた。

 

 

「ハイレベルのバーストリンカーは、通常対戦をしたくとも他のレギオンの領土に殴りこむわけにはいかない。理由となるべき週末の《領土戦争》は、条約のせいで機能していない...」

 

 

遥か眼下で繰り広げられる激戦から離れ、再び北上を開始したハルユキの足元で、タクムが考え込むような声を出した。

 

 

「マスター、でも...正確には、まだあと1つだけありますよね。今の状況下でも高効率でポイントを稼いで、ハイレベル帯まで駆け上がる手段が」

 

 

「え?タク、それって...」

 

 

「つまりさ...この世界には、《エネミー》以外にも狩りの対象が存在するんだよ。しかも、もっとずっと大量のポイントを持ってる獲物が...」

 

 

一瞬考え込んでから、ハルユキは鋭く息を吸い込んだ。

 

 

「そうか...さっきのでっかい獣じゃなく、彼らのほうを...」

 

 

ちらりと振り向くと、ずっと南でいまだに続く戦火が濃霧を瞬かせるのが見えた。

 

 

わずかな沈黙を、黒雪姫が静かな声で破った。

 

 

「そういうことだ。通常対戦では、自レギオンの領土からほとんど出てこないゆえ挑みたくとも挑めないハイレベルのバーストリンカーに、この場所でなら好き放題襲い掛かることが出来る。しかも待ち伏せ、不意打ち、なんでもありだ」

 

 

「そして、そいつを実行してるのが、まさに《チェリー・ルーク》...いや《クロム・ディザスター》ってわけだ」

 

 

低くニコが呟き、真紅のつぶらなレンズに覆われた両眼をきっと前方に向けた。

 

 

すでに放射七号線である目白通りも越え、池袋の中心部はもう目と鼻の先だ。

 

 

奇怪な鋼鉄の尖塔群に囲まれた宮殿は、漆黒の線路を呑み込んでいるところからしてJR池袋駅か。

 

そこから東に向けて巨大な空中回廊が伸び、少し離れた場所に屹立する超高層の要塞――サンシャインシティへと繋がっている。

 

 

回廊の足元にはごちゃごちゃと小さな建物が立ち並び、色取り取りの明かりが瞬いているように見える。

 

 

あれはただのライトエフェクトだろうか?

 

 

それとも実際に、あそこには現実の池袋と同じような繁華街が広がっているのか?

 

 

そういえば、前にタクムや黒雪姫が、《ショップ》がどうこうとか言っていなかっただろうか。

 

 

もしかしてあそこが――。

 

 

思わず深刻な現状を忘れかけ、前進しようとしたハルユキの頭を、ニコの右手がぐいっと引き戻した。

 

 

「おっと、ここで停まりな。まだチェリーの奴がこっちに来んのにはだいぶ時間があるはずだけど、念を入れて地上から行こうぜ。飛んでったんじゃ下から丸見えだ」

 

 

「まあ、そうだが...しかし、池袋と言っても広いぞ。どこに出現するのか解るのか?」

 

 

黒雪姫の問いに、ふんと鼻を鳴らす。

 

 

「これまでのパターンからすりゃサンシャインシティの周辺だ。南側から回り込んで、適当なビルの屋上に降りりゃいい」

 

 

ハルユキは、言われるままに東へと体の向きを変えた。

 

 

天を衝く要塞は、左斜め前方に見える。

 

 

その右に、ぽっかりと開けた窪地のような場所があった。

 

 

現実世界では南池袋公園だろうか、しかし樹木の類は存在せず、まるで巨大な隕石が激突してできたクレーターの如き荒涼とした雰囲気を漂わせている。

 

 

「じゃあ、あの空き地の手前に、っ!?」

 

 

降りようとしたハルユキだったが、脚にぶら下がっているタクムを気にすることなく、急いで右に移動した。

 

 

「ちょ!ハル!?」

 

 

今までゆっくり飛んでいたハルユキがいきなりスピードを出した事で、タクムは危うく落ちかけたがなんとか踏ん張った。

 

 

「どうしたんだ!?ハルユキ君」

 

 

「いきなり危ねーだろうが!」

 

 

抗議する2人だったが、先程までいた場所を地上に立ち並ぶビルの隙間から伸び上がってくる、眩いオレンジ色の火線を見て意味を悟った。

 

 

しかしそれに構わず、ハルユキは再び空中を、今度は左に滑った。

 

 

地上からの第2射を視界に捉えたのだ。

 

 

しかも、1撃目とは色が違う。

 

 

青白い光線をこれもなんなくと回避した直後、黒雪姫が低く叫んだ。

 

 

「まさか...クロム・ディザスターか!?」

 

 

それに対してニコが、緊張の中にも唖然とした響きのある声で答えた。

 

 

「有り得ねぇ...早過ぎる、出現までこっちの時間じゃまだ丸一日はあるはずだ!それに、あいつにはこんな技は...」

 

 

2人の会話を、ハルユキは絶叫で遮った。

 

 

「降ります!!」

 

 

なぜなら、地上のビル群の一画で、3撃目の――そして複数の光点が瞬くのが見えたからだ。

 

 

あれは直線的なレーザー攻撃ではなく実体弾、しかも恐らくは追尾機能つきのミサイルの発射光だ。

 

 

ハルユキは羽の揚力をいったん停止し、殆ど落下にも等しい急降下に入った。

 

しかしまっすぐ降りたのでは、謎の敵に即座に補足されてしまう。

 

 

羽を真横に広げ、グライダーのように滑空しながら、前方に見える巨大なクレーターを目指す。

 

 

「来たぜ!ミサイル!」

 

 

ちっと舌を鳴らし、ハルユキの腕の中で体を捻りざまニコが腰の拳銃を抜いた。

 

 

タタタン、と歯切れの良い連射音に続いて、小規模な爆発音が幾つも轟く。

 

 

しかし当然ながら拳銃1丁で全弾を迎撃できるはずもなく、炎を突き破って肉薄する幾つかのミサイルを――

 

 

「...ヤッ!」

 

 

黒雪姫が、左腕の剣の一薙ぎで切り裂いた。

 

 

わずかな間を開けて、再度の爆発。

 

 

その圧力をも利用し、ハルユキは最後の数十メートルを突っ切ると、円形のクレーターの中央で全力制動をかけた。

 

 

まずタクムが両腕を離し、地面を抉りながら着地する。

 

 

直後に左右の腕から2人の王が飛び出して、軽やかに地面に降り立つ。

 

 

ハルユキは3人の中央に降りたつと、しばし息をひそめた。

 

 

つい数秒前の連続攻撃がうそのように、世界は静まり返っていた。

 

 

遥か頭上の黒雲に閃く雷鳴と、吹き過ぎる風鳴りだけがかすかに響いている。

 

 

「無事か?」

 

 

黒雪姫が、周りを警戒しながら全員の安否を確認する。

 

 

「はい」

 

 

「何とか」

 

 

先にハルユキが答え、それに続いてタクムも答える。

 

 

と――。

 

 

ざし、と小さな足音と共に、クレーターの西側の縁に、1つの人影が現れた。

 

 

バーストリンカーだ。

 

 

間違いなく今しがたの攻撃者だろう。

 

 

殆どシルエットになっていて、色までは判別できない。

 

 

「あれが...さっきの攻撃者?」

 

 

ハルユキは、声にならない声で呟いた。

 

 

しかし、ほんの1秒後。

 

 

すぐ右隣に、2つ目の影が音もなく沸いた。

 

 

そして3つ目、4つ目も。

 

 

「い...いったい...」

 

 

タクムが低く呻いたのと、ざざざざざっという無数の足音が響いたのはほぼ同時だった。

 

 

見上げるクレーターの縁を、左右にどこまでも、どこまでもアバターの影が埋め尽くしていく。

 

 

大型、小型、遠隔、近接、その特徴は多岐にわたるが、たった1つだけ共通するものがある。

 

 

それは気配だ。

 

 

噴出さんばかりの戦意を視線に込め、無言で獲物を凝視する――狩人の気配。

 

 

出現したバーストリンカーの総数は、たちまち30にも達した。

 

 

「何者なんだ、こいつらは」

 

 

「とても友好的な連中とは思えねぇな」

 

 

ニコがそう呟くのと、タクムがパイル・ドライバーを召喚するのはほぼ同時だった。

 

 

そして最後に、クレーターの外線を円形に囲む集団の中央が割れ、そこに一際存在感のあるアバターが姿を現した。

 

 

細長い。

 

 

身体はシアン・パイルをも越えるだろうが、しかし四肢の華奢さはシルバー・クロウなみだ。

 

 

まるで骨組みだけの人形のようなその体の、肩口と腰周りだけが丸く膨れている。

 

 

頭には、左右に細長く湾曲した太い角のような形の帽子を被っている。

 

 

角の先端にくっついた大きな球が音もなく揺れる。

 

 

そして顔は、笑い顔を模したマスクに覆われていた。

 

 

「ピエロ...?」

 

 

ハルユキは思わず呟いた。

 

 

アバターのシルエットは、トランプのジョーカー札に描かれる道化の姿に酷似している。

 

 

しかしそのマスクに滑稽さは微塵もない。

 

 

吊り上がり弧を描く細長い眼は、逆光の影の中で仄白く、冷酷な光を湛えている。

 

 

と、不意に上空の雲が1部薄くなった。

 

 

灰色の陽光が弱々しく地表に届き、クレーターをぐるりと取り囲むアバター達の姿を照らし出した。

 

 

色は様々だ。

 

 

しかし強いて言えば赤から黄にかけてが多い。

 

 

中でも一際鮮やかに輝いたのが、中央にひょろりと立つピエロアバターの装甲だった。

 

 

わずかなくすみも濁りもない、ウラン鉱石のような毒々しい黄色だ。

 

 

それを見た瞬間、ハルユキの背筋に強烈な戦慄が走った。

 

 

あれほど鮮やかな彩度を持つデュエルアバターは、そうはいない。

 

 

今まで直接見たことがあるのは、闇の漆黒と、炎の真紅をまとうたった2人だけだ。

 

 

つまり――、つまりあのピエロは...。

 

 

ハルユキの想像を裏付けるかのように、傍らに立つ真紅のアバターが、掠れた声を放った。

 

 

「《イエロー・レディオ》...《黄の王》...。なぜここに...」

 

 

「じゃあ、やっぱりあれが...黄のレギオンを率いるレベル9のバーストリンカー!」

 

 

ニコの言葉を聞き、ハルユキは確信する。

 

 

「でも、黄のレギオンが支配する領土は上野から秋葉原にかけてのはず...それがなぜ池袋に...」

 

 

タクムの言う通り、黄色のレギオンが今この池袋に、しかもこれほどの人数で存在することは不自然極まる。

 

 

無論偶然ではあるまい。

 

 

しかし、ハルユキ達4人がハルユキの自宅マンションで《アンリミテッド・バースト》のコマンドを使い、この無制限中立フィールドにダイブしてから、現実時間ではまだほんの数秒程度しか経っていないはずだ。

 

 

内部でレギオンの構成員がハルユキ達を発見し、外部に連絡し、メンバーを集めて池袋に集合するような時間的余裕は絶対にない。

 

 

ということは、彼らもまたチェリー・ルークの動向をモニターし、この時、この場所にハルユキ達が出現するのを予測して待ち伏せていたという事になる。

 

 

それが真実だとするならば、その理由はたった1つ。

 

 

全てが。

 

 

この状況に至る何もかもが、彼らの――

 

 

「そうか...てめぇか!!」

 

 

突然、ニコが咆えた。

 

 

タクムの言葉を聞き、ハルユキと同時に同様の推測に到達したのであろう赤の王は、1歩飛び出すと両拳を握り締め、胸を反らせて、幼くも威厳に満ちた声で獅子吼した。

 

 

「てめぇが全部仕組んだのか、イエロー・レディオ!!」

 

 

そう、それしかない。

 

 

烈火の如き糾弾を浴びせられ、しかし黄の王の痩身は微動だにしなかった。

 

 

不意に、ゆるりと骨のような右腕が動いた。

 

 

右に大きく広げられ、掌がひょいと上向く。

 

 

「おやおや、ふらふら飛んでいる小虫を落としてみれば、これは思いがけないお客様ですね?こんにちは、赤の王。奇遇ですねぇ」

 

 

スマイルマスクから流れたのは、爽やかで、流麗な響きのある少年の声だった。

 

 

しかし、まるで物凄い圧縮率でエンコードしたかのような歪みのあるエフェクトが、声にある種の毒々しさ加味している。

 

 

「何を白々しい、待ち伏せてやがったくせに何を...!」

 

 

「ひどい言いがかりですね、私はただ、不可侵条約に反して私のかわいい配下を襲い、ポイント全損に追い込んでくれた赤のレギオンの何方かに、その責任を取ってもらおうと出向いてきたまでですよ?ここ最近、うちの領土で傍若無人に暴れているあのデュエルアバターには、ほとほと困っておりましてねぇ」

 

 

金属の円環を無数に連ねて作られている帽子の角が、ゆらゆらと揺れる。

 

 

まるで笑いを押し殺しているかのように。

 

 

それに対して、ニコは右手の人差し指をまっすぐ突きつけると、炎が爆ぜるように叫んだ。

 

 

「そうさせたのはてめぇ自身だろうが!あたしをこの場におびき出す為に、隠匿した《災禍の鎧》をチェリー・ルークに渡し...あいつを唆して、条約違反の無差別攻撃に走らせたのはてめぇだな!!」

 

 

「隠匿?渡した?人聞きの悪い事を...《鎧》はずっと昔に消滅したはずですよねぇ?あなたの部下がまた作ったんじゃないですか?」

 

 

喉声でそう言ってのけてから、今度は左腕を伸ばし、これも異様に細長く鋭い指で空中をなぞりながら黄の王は続けた。

 

 

「かつて王の間で結ばれた神聖なる条約には、こうあります。もし条約違反の襲撃により、あるレギオンの構成員がブレイン・バースト強制アンインストールに追い込まれた場合には、そのレギオンは襲撃者の所属するレギオンから、誰でも1人を選んで同様の運命を与えることができる、と。目には目、歯には歯...実に野蛮な復讐法ですね?」

 

 

くっ。

 

 

くっくっく。

 

 

と、今度は確かな笑い声が、逆3角形の鋭角なマスクの下から漏れた。

 

 

上向きの弧を描く両眼が笑いに合わせてかすかに明滅する。

 

 

「しかし、決まりは決まり...ですよね?ここで王たる私が条約を無視すれば、次から次に同様の不埒者が現れないとも限らない。

 

そこでこうして已む無く、わざわざ池袋なんていう辺境まで出向いてきたというわけです。誰か1人、赤のレギオンのメンバーを見つけて、仲間の罪をあがなってもらうためにね?しかし...これもまた、運命の悪戯というものでしょうか...?」

 

 

両手を腰にあて、かくんと前かがみになった黄の王は、清涼かつ淫猥な声でその続きを言い放った。

 

 

「その1人が、偶然にも(・・・・)赤のレギオンの頭首...《スカーレット・レイン》当人であろうとは」

 

 

――偶然のはずはない!

 

 

ハルユキは歯を食いしばり、内心でそう叫んだ。

 

 

クレーター外周に並ぶデュエルアバターは約30にも達する。

 

 

王のレギオンとは言え、平日の夕方に動かせる数としてはほぼ上限だろう。

 

 

その目的は、最強の存在たる《王》を狩る事以外有り得ない。

 

 

黄の王は、スカーレット・レイン――ニコがこの行動に出るところまで読んでいたのだ。

 

 

ニコの性格からして、配下であるチェリー・ルークの犯した罪を自らの《断罪の一撃》によって裁く為に、こうして無制限中立フィールドに現れるであろうことを

 

 

いや、それだけではない。

 

 

 

ニコをこの状況におびき出し、自らがレベル10に(・・・・・・・・)上がるための5つの(・・・・・・・・・)首級の1つとするべく(・・・・・・・・・・)合法的に狩る(・・・・・)

 

 

――その目的のために黄の王は、強化外装《クロム・ディザスター》を赤のレギオンのメンバーに流した。

 

 

そうとしか考えられない。

 

 

ということは、つまり。

 

 

「...二年半前、4代目が倒された時、《鎧》がドロップしたのを隠したのは黄の王だった...」

 

 

ハルユキは無意識のうちにそう呟いた。

 

 

しかし証拠は一切ない。

 

 

ここでその推測を喚きたてたところで、水掛け論になるだけだ。

 

 

それを理解しているのだろう、ニコは無言のまま、握った両拳を激しく震わせた。

 

 

やがてその手が開き、だらんと垂れ下がった。抑制された、平板な声がクレーターの底に流れた。

 

 

「条約には、こうも書いてあるはずだ。《誰でも1人を選んで復讐できるが、レギオンマスターが自ら違反者を裁き、ポイント全損に処した場合はその限りにあらず》...あいつは、チェリー・ルークはあたしが裁く。それなら文句はねぇだろう」

 

 

「どうぞ、どうぞ!」

 

 

さっと両手を広げ、黄の王イエロー・レディオは楽しそうに言った。

 

 

「それがあなたにできるのならね!風の噂に聞きましたよ...先日、まさにそれを試みて、あなたは見事に失敗した...それどころか無様なタイムアップ負けまで喫したそうじゃないですか?再挑戦するというならご自由に、しかし...そのチェリー何某というのは、どこにいるんです?」

 

 

わざとらしく、巨大な帽子を被った頭を左右にひょいひょい振ってみせる。

 

 

「私たちも暇じゃないんです。いつ現れるのか解らないものを、ここで何日も待たせる気じゃないですよね?今すぐ処理できないなら...やはりあなたで間に合わせるしかないようですねぇ...?」

 

 

「くっ...」

 

 

ニコが口惜しそうに唸った。

 

 

ハルユキ達は、ニコの遠隔監視によってチェリー・ルークが現実サイドで動いたのを確認してから加速してるが、実際に相手がこの無制限中立フィールドに現れるまでにはタイムラグがある。

 

 

たとえ現実では数分のラグでも、1千倍に時間加速されたこの世界では、その差はへたをすると1日以上にもなりかねないのだ。

 

 

黄の王の言うとおり、今すぐチェリー・ルークを補足するのは不可能だ。

 

 

意を決し、ハルユキは1歩踏み出すと、ニコの背中にごく小さくささやきかけた。

 

 

「無駄だよ、ニコ。あいつは最初から君を罠にかけようと狙ってたんだ、見逃すはずはない...ここは、一度退こう。ログアウトして、次の機会を...」

 

 

「できねぇ」

 

 

答えは即時にして簡潔だった。

 

 

「システム的にそれはできねぇんだよ。無制限中立フィールドじゃ、即時ログアウトは不可能なんだ」

 

 

「な......」

 

 

絶句するハルユキの耳に、隣に進み出たタクムの呟きが届いた。

 

 

「そうなんだよ、ハル。ここから出るためには、各所に設置してある離脱(リーブ)ポイントまで行くしかないんだ。たとえ《自殺》しても、ログアウトはできない。

 

1時間後に死亡地点で蘇生するだけだからね。もちろん、現実側で誰かがニューロリンカーを首から引っこ抜いてくれれば別だけど...今、ハルの家には...」

 

 

美空がいるが、恐らく寝ているだろう。

 

 

兎美は出かけており、母親が出張から帰宅するのは明日だし、それまでにこの世界では実に1年以上が過ぎ去ってしまう。

 

 

ちらりと振り向いたニコが、再び早口でささやいた。

 

 

「こっから最寄のリーブポイントは、池袋駅かサンシャインシティだ。どっちもすぐには辿り着けねぇ。目指すにしても、包囲を破る為にどうあれ一度は戦わなくちゃならねぇしな...」

 

 

そこで一瞬言葉を切り、ニコは紅玉のような両眼を鋭く光らせた。

 

 

「でもな、レディオの野郎にも誤算はある」

 

 

「ご、誤算?」

 

 

「そうだ。あの人数は、あたしを...つまり王1人を倒すために揃えた数だろう。だがな、こっちには今、もう1人いるんじゃねぇか」

 

 

はっ、とハルユキは眼を見開いた。

 

 

デュエルアバターの属性を決定するカラーサークル上では、黄は《間接攻撃》に秀でた色だ。

 

 

あれこれ嫌らしく搦め手を得意とするが、直接の攻撃力では他の色に劣る。

 

 

対して赤の王ニコは遠距離火力の鬼だし、黒の王黒雪姫は、その戦闘を見たことは数えるほどしかないにせよ、フォルムからしても近接攻撃特化型だ。

 

 

この2人が互いをカバーし合えば、たとえ敵が王を含む総勢30人だとしても、勝機はあるのかもしれない。

 

 

そこまで考えてから、ハルユキはふと小さな違和感を抱いた。

 

 

なぜ黒雪姫はずっと沈黙しているのか?

 

 

普段の彼女なら、黄の王が現れたその途端、ニコ以上の勢いで食って掛かっているはずでは?

 

 

さっと右斜め後ろを振り向いたハルユキが見たのは――。

 

 

両手の剣をだらりと下げ、まるで何かを恐れるように項垂れる漆黒のアバターの姿だった。

 

 

「せ......」

 

 

先輩、と思わず呼びかけようとした寸前、再び黄の王の爽やかな声が高く響いた。

 

 

「チェリーとやらが現れない以上、やはりあなたに責任を取ってもらうしかないようですね、赤の王?...そんなわけですから...」

 

 

ゆるり、と持ち上がった左腕の細く長い指が、まっすぐにクレーターの底の黒点に向けられた。

 

 

「これから始まる楽しい楽しいカーニバルを、あなたも邪魔せずに見物してくれますよね、黒の王?」

 

 

あまりに独善的な言い様をぶつけられてもなお、黒雪姫は俯いたまま一切の反応を見せなかった。

 

 

たっぷり5秒以上も経過してから、ようやく軋むような動きで顔を上げ、右手の剣を黄の王に向ける。

 

 

「...ふざけるな、レディオ」

 

 

マスクの下から漏れた台詞は攻撃的だったが、声にいつもの苛烈さはなかった。

 

 

相手に、というよりも自分に言い聞かせるように、黒雪姫は言葉を吐き出し続けた。

 

 

「その陣営で、王2人を確実に仕留められるとは貴様も思っているまい。私が...黙って見ていると思うなら、それは巨大な誤りだぞ」

 

 

「ほう?ならば戦うというのですか?私にもその血塗られた刃に向けると?せっかくS席で見物させてあげようというのに、わざわざ辛い目に遭いたいと仰る...?」

 

 

黒雪姫の言う通り、絶対的に有利とは言えない状況なのにもかかわらず、黄の王はくくくと喉の奥で笑って見せた。

 

 

「...確かに、あなたが今日この時にスカーレット・レインと同行して無制限フィールドに現れるとは、私も思っていませんでした。

 

でもね...この程度のイレギュラーでは、我がレギオン《クリプト・コズミック・サーカス》の楽しいカーニバルは止まりませんよ。

 

私はね、ずっと、ずうっとこんなふうにあなたと会える日を心待ちしていたんです、ロータス。

 

長いことポケットに仕舞い続けていたこのささやかなプレゼントを、あなたに差し上げるためにね!」

 

 

芝居かかった仕草でまっすぐ差し伸べられた黄の王の指先に、何か四角いものがちかっと光るのをハルユキは見た。

 

 

トランプカードと同じ様なサイズだが、模様などは見当たらない。

 

 

ピエロアバターは、指先でカードを器用にくるくる回したあと、ぴん、と弾いた。

 

 

厚い雲の隙間から垂れる陽光を反射し、きらきらと輝きながら数10メートルも宙を舞ったそれは、ハルユキ達から少し離れた地面に音もなく突き刺さった。

 

 

攻撃的なオブジェクトとは思えない。

 

 

呆然と見詰めるハルユキの視線の先で、カード表面に横向きの三角形が浮き上がり、ちかちかと点滅した。

 

 

その途端、傍らのニコが低くささやいた。

 

 

「リプレイファイルだ」

 

 

直後、カードの表面が瞬く輝き、真上に逆円錐形の光を放出した。

 

 

空中にノイズのような横線が無数に走り、それはすぐにひとつの映像へと結実した。

 

 

半ば透き通る立体画像は、これまで見たことのないデュエルアバターのものだった。

 

 

赤い。

 

 

フォルムはオーソドックスな人型だが、各所がバランスよく盛り上がった装甲は、これ以上はあるまいと思えるほどの純粋な赤に輝いている。

 

 

スカーレット・レインを彩る炎の紅ともまた違う――言うなれば、情熱の色か。

 

 

再び、ニコが掠れた声を漏らした。

 

 

「先代...《レッド・ライダー》」

 

 

黒雪姫が1歩後ずさり、呻くように言った。

 

 

「やめろ...やめろ!」

 

 

半透明の立体映像が突然動き出したのはその時だった。

 

 

空中に大きく映し出された真っ赤なアバターが、体の前でぐっと右拳を握り、左手を真横に振った。

 

 

耳に快く響く、歯切れのいい少年の声が大音量で流れた。

 

 

 

 

『こんな...こんな下らない目的のために、俺達はいままで戦ってきたのか!?互いに憎しみ合い、奪い合い、殺し合う...そんなエンディングが見たくて、何年も、何千回も《対戦》を繰り返してきたのかよ!?

 

いや、たとえそれがブレイン・バースト開発者の書いたシナリオだったんだとしても...俺達はゲームマスターに操られるNPCじゃないんだ!このゲームの主人公は、俺達自身なんだ!そうだろ、ロータス!』

 

 

そこで画面が引き、赤いアバターが小さくなると同時に、そのすぐ前に座するもう一体のアバターがフレームインした。

 

 

長大な4本の剣を備える漆黒のアバター、ブラック・ロータスだ。

 

 

ひっそりと俯いたままの黒の王に、初代赤の王は尚も激しい身振りとともに激しい言葉をかけ続けた。

 

 

『俺達は、確かにそれぞれのレギオンを率い、これまでひたすら戦い続けてきた。でもそれは、決して敵だからじゃない!ライバルだからだろ!?

 

俺は...お前の戦い方が好きだぜ、ロータス。もしいつか現実世界で会っても、お前とはダチになれる。絶対なれる。!いや、なりたいんだよ!だからお前とサドンデスの殺し合いなんてしたくないんだ!お前だってそうだろう!』

 

 

その途端、画面外から少し尖った少女の声が響いた。

 

 

『ちょっとライダー、今の聞き捨てならないわよ!』

 

 

すると赤いアバターがうろたえたように左を向き、片手を立てる。

 

 

『い、いや、違うって。そういう意味じゃなくて...まいったな』

 

 

その声に重なって、幾つかの笑い声。

 

 

画面内で俯いていたブラック・ロータスが、不意に肩の力を抜いた。

 

 

顔を持ち上げ、穏やかな声で――。

 

 

『ああ...。そうだな。君の言う通りだ、ライダー。私も君が好きだよ。もちろん、尊敬という意味でだが』

 

 

するりと立ち上がり、1歩歩み寄ると、黒の王は赤の王に右手の剣を差し出した。

 

 

『解ってくれると思ってたぜ、ロータス!』

 

 

嬉しそうに叫んだ赤の王が、握手を交わそうと右手を差し出しかけたところで、戸惑ったように動きを止めた。

 

 

すると黒の王は肩をすくめ、笑いを含んだ声で言った。

 

 

『おっと、これは済まない。では...こうしよう』

 

 

するり、と赤の王の懐にもぐりこみ、両腕を相手の首に回してぎゅっとだきつく仕草。

 

 

赤の王も、照れたように頬を掻いたあと、両手をブラック・ロータスの腰に回した。

 

 

再び画面外から、先程の少女が喚く。

 

 

『ちょっとちょっとぉ』

 

 

『怒るなよ、握手の代わりだってば』

 

 

赤の王が焦り声で言い訳し、またしても複数の笑い声が響いた――

 

 

その瞬間。

 

 

ブラック・ロータスの漆黒のゴーグルの奥で、両眼が氷のような青白い光を灯した。

 

 

赤の王の首の後ろで交差された両腕の剣が、強烈なまでのヴァイオレットの輝きを撒き散らした。

 

 

『《デス・バイ・エンブレイシング》』

 

 

ひそやかに必殺技名が発声され、クロスする2本の剣が、まるで巨大な鋏のようにじゃきりと動いた。

 

 

レッド・ライダーの体からぐたりと力が抜け、ブラック・ロータスの足元に壊れた人形の如く崩れ落ちた。

 

 

しかしその頭だけは、黒の王の交差した両腕の上に残された。

 

 

切断面から真っ赤な火花を大量に滴らせる生首に、ブラック・ロータスはそっと頬を寄せた。

 

 

しん、と満ちた高密度の静寂を、甲高い絶叫が引き裂いた。

 

 

『い...いやああああぁぁぁぁ!!』

 

 

 

そこでリプレイ映像は終了し、ライバルの首を抱いたまま立ち尽くすブラック・ロータスの姿が再び走査線のようなノイズに溶けて消えた。

 

 

「フフフ...懐かしいですね」

 

 

「やめろ...やめろ、やめろ......!」

 

 

そこで、直ぐ隣にいる黒雪姫が何度も同じ言葉を発していることに、ハルユキはようやく気付いた。

 

 

「先輩?」

 

 

黒雪姫はわずかにハルユキを見たが、すぐに顔を逸らし、何度も首を左右に振った。

 

 

「ハルユキ君...私は...わたし、は...」

 

 

その先が言葉になることはなかった。

 

 

突然、黒雪姫の鏡面ゴーグルの奥で青紫色に光っていた2つの眼が、細い光の線となって左右に流れ、ぶつんと消滅したのだ。

 

 

同時に、まるで電源の切れたロボットのように、漆黒のアバターの全身から力が抜け――。

 

 

がしゃん、と乾いた音を立てて、黒の王はその体を青黒いクレーターの底へと転がった。

 

 

「先輩!先輩!」

 

 

何が起きたのか解らず、ハルユキはただ震える声で呼びかけ、ひざまずいて華奢なアバターをそっと揺すった。

 

 

しかし黒雪姫はもう一切の反応を見せなかった。

 

 

「...《零化現象(ゼロフィル)》...!ロータス、あんた...そこまで...」

 

 

背後で、ニコが低く呻いた。

 

 

言葉の意味が解らず、振り向こうとしたハルユキは、響いた高らかな笑い声を聞いて体を強張らせた。

 

 

「くくく......ふふふ、くふふふははははは!!」

 

 

哄笑の主は、高みから見下ろす黄の王イエロー・レディオだった。

 

 

「くふふふふ...矢張りね。あなたはまだこの裏切りを引き摺っていると思っていましたよ。そこまで期待通りに零化してくれるとは、むしろ残念ですらありますね...大人しく狭い穴倉に籠もっていればいいものを、その程度の覚悟で、よくもレベル10を目指すなどという大言を吐けたものですね、ブラック・ロータス!」

 

 

「貴様...!」

 

 

ハルユキの喉から軋むような呟きが漏れた。

 

 

その直後、打って変わって鞭のような鋭さを帯びた黄の王の声が、クレーターいっぱいに響き渡った。

 

 

「それでは、我がカーニバルの最終演目(プログラム)楽しんで頂きましょうか!――攻撃用意!目標スカーレット・レイン!邪魔をする雑魚も容赦なく潰しなさい!!」

 

 

「くそっ」

 

 

ひと言毒づき、ニコが可憐なアバターの両手を広げた。

 

 

「来いっ、強化外...」

 

 

しかし、さっと伸びたタクムの腕がニコの肩を押さえた。

 

 

「駄目です、赤の王!武装を展開したら、あなたは機動力を失って離脱できなくなる!あの人数は王といえども1人では無理です、クロム・ディザスター討伐は一時断念して、後ろの囲みを破ってサンシャインシティのリーブポイントまで撤退すべきです!」

 

 

細いスリットが並ぶマスクの下から、青白く輝く両眼を今度はハルユキに向けてくる。

 

 

「ハル、マスターを頼む!僕が壁になるから、何とかシティまで連れていくんだ!」

 

 

「で、でも...そしたら、お前が...」

 

 

「ぼくはいいんだ!奴ら、赤の王を倒したら、絶対にマスターを狙うはずだ!それだけはさせちゃいけない!」

 

 

凛とした、しかしどこか自分を追い込むように張り詰めたタクムの声に、ハルユキは頷いた。

 

 

「解った、頼む!」

 

 

叫び、ハルユキはぐったりとした黒雪姫の体を左腕で抱えた。

 

 

直後――。

 

 

「攻撃、開始ッ!!」

 

 

黄の王が、高く掲げた右腕を一気に振り下ろした。

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

時間は、ハルユキ達が無制限中立フィールドに入ろうとした所まで戻る。

 

 

「葛城拓未について?」

 

 

兎美は私立エテルナ学院の生徒であろう女子生徒に、聞き込みをしていた。

 

 

「はい、何か知っていることありますか?」

 

 

「彼女は誰もが認める天才だったのよ、でも...他の生徒からはこう呼ばれていたのよ...《悪魔の科学者》と...」

 

 

「悪魔の科学者?彼女は今何を?」

 

 

兎美は女子生徒に、さらに質問する。

 

 

「解らないわ、ある日突然登校しなくなったの」

 

 

「そう、ありがとう」

 

 

兎美はお礼を言うと、女子生徒はその場を去った。

 

 

「悪魔の科学者...やっぱり...あいつらと何か関係してるのかしら」

 

 

兎美はその場で考え込む。

 

 

その刹那。

 

 

「キャ――――!!」

 

 

女性の悲鳴が聞こえた。

 

 

兎美は急いで、悲鳴が聞こえた方へ向った。

 

 

 

 

現場に向うと、そこには先程受け答えしていた女生徒が忍者を連想させるスマッシュに襲われていた。

 

 

「なっ!?杉並にしか現れないスマッシュがなんで港区に!」

 

 

兎美はスマッシュに向って、飛び蹴りを放つ。

 

 

「はあっ!」

 

 

蹴りが当たった事で、スマッシュは吹っ飛んだ。

 

 

「早く逃げて!」

 

 

直ぐに襲われていた女性に、逃げるように促す。

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

女子生徒はお礼を言うと、すぐさまにその場を離れた。

 

 

兎美は女子生徒が離れた事を確認すると、懐からラビットとタンクのフルボトルを取り出す。

 

 

シャカ!シャカ!シャカ!シャカ!シャカ!シャカ!シャカ!シャカ!

 

 

「さあ!実験を始めるわよ!」

 

 

『ラビット!タンク!ベストマッチ!』

 

 

ビルドドライバーにボトルを装填し、レバーを回す。

 

 

ベルトからパイプが伸び、ラビットとタンクのハーフボディが生成される。

 

 

『Are You Ready?』

 

 

「変身!」

 

 

ハーフボディが結合され、仮面ライダービルドへと変身する。

 

 

『鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエーイ!』

 

 

ビルドはドリルクラッシャーを取り出し、スマッシュに攻撃を仕掛ける。

 

 

「はあ!」

 

 

スマッシュに攻撃が当たると思った次の瞬間、スマッシュは分身を作ってバラバラに散らばった。

 

 

「きゃあ!」

 

 

分身したスマッシュの一斉攻撃を、ビルドはなんとかかわす。

 

 

「危ないわね」

 

 

避けたのも束の間、別の分身体がビルドを攻撃する。

 

 

「うわっ!きゃあ!」

 

 

分身体による攻撃でビルドは怯まされ、もう一体がその隙に攻撃し吹っ飛ばされたしまう。

 

 

「なるほど...分身の術ってわけね」

 

 

ビルドは立ち上がると、ドライバーからラビットとタンクのボトルを抜き取る。

 

 

「面白いわ!」

 

 

ビルドは、タカとガトリングのボトルを取り出した。

 

 

シャカ!シャカ!シャカ!

 

 

「はあっ!」

 

 

ビルドはドライバーに、タカとガトリングを装填する。

 

 

『タカ!ガトリング!ベストマッチ!』

 

 

ドライバーのレバーを回すと、それぞれのハーフボディが生成される。

 

 

『Are You Ready?』

 

 

「ビルドアップ!」

 

 

ハーフボディが結合され、ビルドは《ホークガトリングフォーム》へと変身した。

 

 

『天空の暴れん坊!ホークガトリング!イエーイ!』

 

 

ベルトから、ホークガトリンガーが生成される。

 

 

『ホークガトリンガー!』

 

 

「勝利の法則は......決まった!」

 

 

忍者スマッシュは、また分身体を作り襲いかかる。

 

 

「はあ!」

 

 

分身体の攻撃を避けながら、ビルドはホークガトリンガーを放つ。

 

 

ホークガトリンガーから放たれた弾は、一発一発が小さな鳥に変化しスマッシュの攻撃を弾きながらスマッシュへと向う。

 

 

「ふっ!」

 

 

忍者スマッシュの攻撃を、跳躍して避けながら攻撃を加える。

 

 

「ん?」

 

 

ある程度、分身体を倒した所で、分身体は全員揃って空へと高く跳躍した。

 

 

「やっぱり本体を仕留めないと終わらないか...」

 

 

ビルドはホークガトリンガーの中央にある、リボルマガジンを回転させ空へと舞い上がった。

 

『TEN!TWENTY!THIRTY!FORTY!』

 

 

「はああああ!」

 

 

ビルドは尚も回転させる。

 

 

『FIFTY!SIXTY!SEVENTY!EIGHTY!』

 

 

「まだまだ!」

 

 

『NINETY!ONE HUNDRED! フルバレット!』

 

 

「行っけぇ――――!」

 

 

ババババババン!

 

 

空を縦横無尽に飛びながら、忍者スマッシュ球状の特殊なフィールド内に隔離し100発もの弾丸を連射する。

 

 

ドッガーン!

 

 

フィールド内で爆発が発生し、ビルドは地上へと舞い降りた。

 

 

「ふっ!」

 

 

ビルドは必殺技を受け、動けなくなっているスマッシュを発見する。

 

 

「う...うあっ...ぐぅ...」

 

 

ビルドはすかさず、スマッシュに近づき成分を抜き取る。

 

 

「ふぅ~」

 

 

 

 

 

 

バン!

 

 

 

 

 

一仕事終わった後で、一呼吸入れたビルドの近くで突如小さな爆発が起こる。

 

 

「ん?」

 

 

先程の攻撃で、何処か壊れてしまったのかと思い、ビルドは辺りを見回す。

 

 

何もないと思い、兎美は変身を解除する。

 

 

「うっ!!」

 

 

すると突如、兎美の背中に激痛が走った。

 

 

「ぐあっ!」

 

 

背中から何かが引き抜かれ、兎美はその場に膝をつく。

 

 

「ああ...」

 

 

兎美は激痛と発熱を、胸を押さえ耐えていた。

 

 

コツン、コツン。

 

 

そこに誰かの足音が聞こえた。

 

 

薄れゆく意識の中で、兎美が見たものは。

 

 

赤いコブラのような装甲をもつなにかだった。

 

 

「こ...コブラ...?」

 

 

その人物は、直ぐに兎美の前から姿を消した。

 

 

そしてその人物が消えるのと、兎美が意識を手放すのはほぼ同時だった。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

場所は梅里中学の風紀員室へと変わる。

 

 

「ようやく...スタークが動き出すみたいね」

 

 

幻がそう呟くと、近くにいた成海が話しかける。

 

 

「では、そろそろ」

 

 

「ええ、私達も本格的に動き出すときよ」

 

 

そう言う幻の手の中には、1つのボトルが握られていた。




はい!如何だったでしょうか?

今まで以上に長くなってしまいました。

あと1ヶ月で、この小説を投稿してから1年が経ちます。

何とかここまで投稿することが出来ましたが

それも、皆様の応援のお陰です。

これからも応援の程、宜しくお願いいたします。

それでは次回、第6話もしくは、激獣拳を極めし者第21話でお会いしましょう!

それじゃあ、またな!

文字数の調度いい長さを教えてください!

  • 7000~10000 第3章第3話参考
  • 10000~15000 第2章第8話参考
  • 15000~20000 第3章第2話参考
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