アクセル・ビルド   作:ナツ・ドラグニル

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これまでのアクセル・ビルドは!

兎美「仮面ライダークローズ、そしてバーストリンカーとして戦う有田春雪は、上月由二子の頼みで黒雪姫達と共に災禍の鎧の討伐に向う」

美空「だがその途中、黄の王イエロー・レディオの策略によって絶体絶命の危機に陥ったのでありました!」

兎美「一方、このて~んさい!な有田兎美は葛城拓未の真相を確かめるべく、聞き込みしていた。だがこちらでもスマッシュが現れ何とか元の姿に戻したものの...謎の怪人に襲われて絶体絶命のピンチを...む、迎えるので...ありました...」

チユリ「毒が回って話どころじゃないっての?じゃあ、私が代わりにどうなる第6話!」




第6話

最初に降り注いできたのは、当然ながら豪雨の如き遠距離攻撃だった。

 

 

《黄のレギオン》と言っても、もちろん全員が黄系統――間接攻撃属性のバーストリンカーで構成されているわけではない。

 

 

クレーターを包囲する30の敵のうち、赤系統が少なくとも10人は含まれていたようで、放たれたビームや炸裂弾の数はまさに集中砲火と言うにふさわしいものだった。

 

 

そのほとんどがニコを狙っていたが、赤の王は要塞モード時とはかけ離れた俊敏さでバックダッシュし、見事に回避して見せた。

 

 

しかし1本の青い光線が、狙ったのか誤射なのか、黒雪姫を抱えるハルユキに襲い掛かった。

 

 

「くっ...」

 

 

ハルユキは黒雪姫をお姫様抱っこし、横に飛ぶことでなんとか回避する事が出来た。

 

 

一瞬であったが立ちすくんでしまったハルユキの頭上に、わずかな時間差を置いて複数の小型ミサイルが殺到した。

 

 

「オオッ!」

 

 

咆えたのはタクムだった。

 

 

ハルユキと黒雪姫の前に立ちはだかり、シアン・パイルの右腕の杭打ち機をミサイル群に向けてまっすぐ掲げる。

 

 

ガシュッ!という金属音とともに鋭い鉄杭が打ち出され、衝撃波によって敵陣の大部分が爆発した。

 

 

しかし幾つかのミサイルが生き残り、青いアーマーに包まれた体のあちこちに命中した。

 

 

閃光。

 

 

爆音。

 

 

「ぐあっ...!」

 

 

呻き、体をぐらつかせながらも、タクムは倒れなかった。

 

 

煙の筋を上げる巨体を振り向かせて短く叫ぶ。

 

 

「ハル、走れ!」

 

 

「わ...解った!」

 

 

すまない、と心のうちで親友に謝りながら、ハルユキは黒雪姫のアバターを両手で抱き上げたまま走り始めた。

 

 

行く手では、すでにニコが拳銃を抜き、クレーターの東に陣取る敵目掛けて乱射している。

 

 

まずはこの包囲から抜け出せねば、撤退も応戦も不可能だ。

 

 

幸い、敵は直径100メートルはあるクレーターをぐるりと包囲しているため、壁そのものは薄い。

 

 

一気の突撃で囲みを破り、グリーン大通りまで出れば、脱出ポイントがあるというサンシャインシティはもうすぐだ。

 

 

ハルユキは背中の羽を開いた。

 

 

クレーターの端までスライドダッシュするくらいなら可能だ。

 

 

 

ニコの連射によって、東の囲みの1点に綻びができかけていた。

 

 

そこを凝視し、ハルユキは思い切り地面を蹴った。

 

 

その時、背後で黄の王イエロー・レディオの、爽やかながらどこか軋みのある声が一際高く響いた。

 

 

「...《愚者の回転木馬(シリー・ゴー・ラウンド)》!!」

 

 

必殺技!

 

 

だがもう遅い!クレーターの縁は目と鼻の先――

 

 

「...うわっ!?」

 

 

突如発生した現象に、ハルユキは棒立ちになった。

 

 

世界が回り始めたのだ。

 

 

いや、正確には、クレーターの縁を境界にしてその外と内が逆回転している。

 

 

背後のビル群と、立ち並ぶ敵デュエルアバター達が、左から右へと高速で流れていく。

 

 

しかも周囲はいつの間にか、朧な黄色に透き通るおもちゃの馬がいくつも出現して呑気な上下運動を行なっている。

 

 

更に耳には、陽気なカントリー調の――しかしどこか音の外れたBGMまでが聞こえてくる。

 

 

たちまち平衡感覚を失い、ハルユキはその場に片膝を突いた。

 

 

見れば、すぐ目の前のニコも、隣のタクムも精一杯脚を踏ん張り、ぐらぐらと体を揺らしている。

 

 

「フィ...フィールドが、回って...!?」

 

 

呆然と口走ったハルユキに、赤の王の鋭い声が飛んだ。

 

 

「回ってるように見えるだけだ!本当は何も動いちゃいねぇ!眼をつぶって走れ!」

 

 

「でも...どっちに!?」

 

 

すでに、実際にはどの方向が目指していた東なのかまったく解らなくなっている。

 

 

闇雲に突進してリーブポイントから遠ざかってしまっては元も子もない。

 

 

「あっちだ!」

 

 

「こっちです!」

 

 

ニコとタクムが同時に、正反対の方向を指差した。

 

 

瞬間、生じた硬直を狙い撃つかのように――。

 

 

クレーターの外縁から、怒涛の斉射が螺旋を描きながら襲い掛かって来た。

 

 

これは避けられない、とハルユキは色とりどりの火線を見上げながら直感した。

 

 

強く湾曲するあの軌道は、見かけだけのものだ。

 

 

黄の王イエロー・レディオの幻覚攻撃により、曲がっているように感じられるだけなのだ。

 

 

せめて黒雪姫だけは守らねばと考え、ハルユキは細いアバターを広げた羽の下に包もうとした。

 

 

しかしそれより早く、タクムが一声叫んだ。

 

 

「伏せて!!」

 

 

そして、逞しい両腕で3人をまるごと抱え、倒れるように覆いかぶさった。

 

 

「タ...」

 

 

眼を見開き、ハルユキが口走りかけた言葉は、凄まじい炸裂音の重奏にかき消された。

 

 

「ぐうううううっ!!」

 

 

今、タクムの広い背中には、ありとあらゆる種類の遠距離攻撃が雨あられと降り注いでいる。

 

 

タクムの神経を苛んでいる痛覚の総量はいったいどれほどのものか。

 

 

ハルユキには解らなかった。

 

 

「やめろ...タク、もうやめろ!」

 

 

ハルユキは叫び、タクムの下から這い出そうとした。

 

 

しかし鋼の如き腕はいっそうの力でハルユキを抑え込み、同時に喘ぎ混じりの声がすぐ目の前から放たれた。

 

 

「い...いいんだ、ハル。君への...借りは、こんなこと、くらいじゃ...返せな...」

 

 

「ない...そんなものない!何度言えば解るんだタク!」

 

 

必死に叫んだが、それに対する返事は再びの苦悶だった。

 

 

直撃の震動が生まれるたびに、シアン・パイルのマスクに刻まれたスリットから割れるような呻きが漏れる。

 

 

無数の射撃音に混ざって、黄の王の厭わしげな声がかすかに届いた。

 

 

「醜悪な...。あの木偶をとっとと焼き尽くせ」

 

 

それに幾つかの射撃音が呼応するが、しかしタクムは倒れない。

 

 

おそらく、現在の敵集団に含まれる赤系バーストリンカーには、それほどの高レベル者はいないのだろう。

 

 

それに対してシアン・パイルは、まだレベル4とは言え青系の、しかも耐久力重視型だ。

 

 

ゆえに、これほどの集中攻撃を受けてもまだ倒れずに耐え続けている。

 

 

だがそれは、タクム本人が味わう苦痛がどこまでも長引く事をも意味する。

 

 

ハルユキにはもう何も言えなかった。

 

 

タクムは、黄の王の必殺技《シリー・ゴー・ラウンド》の効果時間が終了するまで3人を守り続ける覚悟なのだ。

 

 

それを既に察していたのだろう、ハルユキの隣でニコがぽつりと言った。

 

 

「...あんたの事を頭だけっつったのは撤回するぜ、シアン・パイル。あと30秒だ」

 

 

「りょう...かい、で...」

 

 

がすっ。

 

 

と嫌な音が間近で響き、タクムの声を掻き消した。

 

 

ハルユキは、自分に覆いかぶさる分厚い胸からわずかに突き出す3つの鋭い金属の輝きを、呆然と見つめた。

 

 

いつの間にか、周囲からの射撃は停止していた。

 

 

回転木馬の、陽気かつ奇怪なBGMがかすかに流れる中、シアン・パイルの巨体が自らの意思ではない動きで持ち上げられていく。

 

 

すぐ背後に立っていたのは、ほとんど同じくらいの体躯を持つ青緑色のデュエルアバターだった。

 

 

土木用重機を思わせる武骨なフォルムのなかで、一際巨大な右腕が目に付く。

 

 

その先端は凶悪な3本の爪になっており、それらがシアン・パイルの胸を後ろから深々と貫いていた。

 

 

待機させられていた近接タイプの1人が、業を煮やして飛び出してきたのだろう。

 

 

前世紀のCRTモニタを思わせる形の頭部ゴーグルを明滅させながら、アバターは太い声を放った。

 

 

「若手の《青》の中じゃあそこそこやる、と聞いてたんだけどな。ただの硬さ自慢の壁かよ、シアン・パイル」

 

 

串刺しにしたタクムをぐいっと持ち上げ、重機型アバターは低く笑った。

 

 

「へっへっ、くたばる前にちゃんと覚えろよ。お前を倒したのはこの、サックス...」

 

 

「馬鹿の名前に...興味はない」

 

 

掠れた声で呟いたタクムが、突然右腕を持ち上げ、発射筒を自分の胸の中央に押し当てた。

 

 

「《ライトニング・シアン・スパイク》!!」

 

 

弱々しくも毅然とした叫び声と共に、筒の後端から青白い閃光が迸った。

 

 

同時に、発射された一条の雷光が、シアン・パイルの胸、重機型アバターの右腕、そしてその延長線上にあった四角い頭部を射抜いた。

 

 

ぱしゃっ、という音とともにサックス某の右腕とゴーグルが飛び散り、両者は一瞬宙に浮いた後、轟音と共に相次いで倒れた。

 

 

回転木馬の幻覚のせいで、たとえ近接していても敵を正確には照準できない。

 

 

しかし、敵の腕が自分をホールドしているなら別だ。

 

 

その腕の延長線上に、絶対に敵の体が存在する。

 

 

「タ...タク!!」

 

 

ハルユキは叫んだ。

 

 

「ぎゃあああああああ!!」

 

 

ハルユキが叫ぶのと同時に、敵アバターは左手で顔面を押さえ、絶叫しつつ地面を転げまわる。

 

 

タクムが最後の余力で圧し掛かったのだ。

 

 

ちらりとハルユキに向けられたシアン・パイルのマスクの下から、短い掠れ声が漏れた。

 

 

「後...任せたよ、ハル」

 

 

そして両腕で敵をがっちりと抑え込み――。

 

 

「《スプラッシュ・スティンガー》!!」

 

 

密着した両者の隙間から、機関銃の如き連射音と閃光が立て続けに響いた。

 

 

跳ね回る敵の動きがぴたりと止まり、双方のアバターに光の亀裂が無数に走った。

 

 

一瞬の後、色合いの異なる2つの青い光の柱が、クレーターの底から高く屹立した。

 

 

ポリゴンの断片を振り撒きながら爆散したタクムと敵の姿は、もうどこにもなかった。

 

 

ほぼ同時に回転木馬の幻覚攻撃が終了し、世界が本来の様相を取り戻した。

 

 

 

 

刹那の沈黙が、南池袋公園跡のクレーターに満ちた。

 

 

外周からの射撃も停止し、遠雷と風鳴りだけが重く響く。

 

 

デュエルアバターの遠距離攻撃には、光線系なら過熱(オーバーヒート)、実弾系なら弾数という制限があり、永遠に連射できるわけではない。

 

 

しかしそれを差し引いても、この静寂は奇妙だった。

 

 

おそらくは彼らも呑まれたのだ。

 

 

シアン・パイルともう1人の、あまりにも凄愴な相討ち劇に。

 

 

逃走のチャンスだ、とハルユキは思った。

 

 

タクムが文字通り命がけで作ってくれた時間だ。

 

 

しかしなぜか足が動かなかった。

 

 

片膝立ちの姿勢のまま、ハルユキはぶるぶると細いアバター全身を震わせた。

 

 

自分でも説明できない感情が、胸の奥で渦巻いている。

 

 

親友に守られるだけで何も出来なかった無力感。

 

 

他人の心を弄ぶ卑劣な策を仕掛けた黄の王への怒り。

 

 

そしてそれ以上に――自分の右腕に抱えられたまま、まるで電源が切れてしまったかのように力なく項垂れる漆黒のアバターへの――。

 

 

「...先輩...先輩」

 

 

ハルユキは、喉の奥から軋るような声を絞り出した。

 

 

「黒雪姫先輩...なんで...なんで立ってくれないんですか......」

 

 

「無駄だ、シルバークロウ」

 

 

呟いたのはニコだった。

 

 

ざし、と力強い足音を響かせ、赤の王はその小柄な体をまっすぐ直立させた。

 

 

「《零化現象》...今、その女の魂から出力されてアバターに伝わるはずの信号はゼロで埋め尽くされちまってるんだ。闘志なきバーストリンカーにデュエルアバターは動かせねぇ。なぜならデュエルアバターの動力源は、それを宿す者の心の熱だからだ。

 

てめぇの傷と向き合えるだけの力がなきゃ、立つ事すらできねぇ。それが《ブレイン・バースト》っつうゲームなんだ。その女にも、それは嫌ってほど解ってる。解っててもどうにもならねぇ問題なんだ」

 

 

低い声でそう言い放ち、ニコはちらりとハルユキを振り返った。

 

 

「...悪ぃな、せっかくシアン・パイルが捨て身で時間を稼いでくれたが...あたしは逃げねぇ。ここでスタコラ逃げられっほど、修行が成っちゃいねぇんだよ。あんたはいいからその女を連れて離脱しな」

 

 

めらり、と真紅の少女型アバターが燃え上がったようにハルユキには見えた。

 

 

いや、錯覚ではない。

 

 

一歩前に踏み出したその足の周囲に、実際にごくかすかな火焔が湧き上がるのをハルユキは見た。

 

 

 

しかし、ハルユキはニコの言葉通り動く気はなかった。

 

 

ここでニコを置いて逃げてしまえば、後で後悔することになるからだ。

 

 

ハルユキはニコの隣に並び立ち、低く言い返した。

 

 

「逃げない...仲間を置いて逃げるなんて嫌だ!」

 

 

「仲間...。――筋金入りの馬鹿だな。なら、好きにしな」

 

 

短く絶句した後、呆れたようにそう呟き、ニコは更にもう一歩前に進もうとするがそれをハルユキが手で制した。

 

 

「あいつらは僕がやる、ニコは先輩を頼む」

 

 

「なっ!?てめぇ何言ってんだ!相手はお前よりも強い奴らばかりなんだぞ!どうやって戦うっていうんだ!」

 

 

ハルユキの言葉にニコは驚愕し、ハルユキに対して強く怒鳴った。

 

 

ハルユキはニコの言葉に答える事無く、アイテムストレージを開いた。

 

 

アイテムストレージから《ドラゴンフルボトル》を選択する。

 

 

「な、なんだよそれ...ボトル?」

 

 

「これは僕の奥の手の1つだよ、こいつらを倒せるほどのね」

 

 

シャカ、シャカ、シャカ、シャカ!

 

 

ハルユキはドラゴンフルボトルを数回振った。

 

 

 

その様子を高みから見下ろす黄の王が、尚も毒々しい声で叫んだ。

 

 

「恐れる必要はありません!あんなものは只のこけおどしです!」

 

 

さ、と右手を掲げる。

 

 

「近接チーム、出番です!遠隔チーム、援護を!――行きなさいッ!!」

 

 

黄色い反射光を閃かせて腕が振り下ろされると同時に――。

 

 

うおおおお、という鬨の声を響かせて、クレーターの外縁から15近い数のデュエルアバターが一斉に突撃を開始した。

 

 

「ニコは先輩を頼む」

 

 

「あっ、おい!」

 

 

シャカ、シャカ、シャカ、シャカ!

 

 

ニコの返答も聞かず、ボトルを振りながらハルユキは外縁から迫ってくる近接アバターに達に立ち向かった。

 

 

「ふん、たったレベル4で何が出来る。お前程度この俺が...」

 

 

「おらっ!」

 

 

ドゴン!

 

 

近接アバターの言葉は、ハルユキにお腹を殴られた事により遮られた。

 

 

その近接アバターは、一気にHPゲージが吹っ飛ばされ、分解、消滅したのだ。

 

 

――― 一撃!

 

 

「なっ!」

 

 

「い、一撃!?」

 

 

その場に居る全ての者達が戦慄する。

 

 

「な、なよっちい割りにそこそこやるじゃねぇかよ、シルバー・クロウ」

 

 

「そりゃどうも!」

 

 

動揺しながらも、ニコは憎まれ口を言う。

 

 

ハルユキは憎まれ口に叫び返し、次の敵に対して油断なく構える。

 

 

すると、今度は空手の胴着を連想される装甲を持ち、シアンパイルに負けない体格を持ったアバターが、ハルユキに襲い掛かる。

 

 

「ぬん!」

 

 

大振りのパンチがハルユキに対して繰り出されるが、それを難なく交わした。

 

 

「ぬうぅぅぅん!」

 

 

近接アバターはもう一度、ハルユキに大振りのパンチを繰り出す。

 

 

シャカ!シャカ!シャカ!シャカ!

 

 

「はああぁぁぁぁ!」

 

 

ハルユキはドラゴンフルボトルを振り、相手の大振りのパンチに同じく大振りのパンチで迎え撃った。

 

 

「なっ!何!?」

 

 

吹っ飛ぶと思っていたハルユキが吹っ飛ばず、それどころか自分のパンチと均衡するパンチを事に、空手家アバターは驚愕する。

 

 

本来なら、体の大きさから均衡する事もなく、ハルユキが吹っ飛ばされてしまうが、ドラゴンフルボトルの力が加わった状態では話は別だ。

 

 

「うおおおおおっらぁ!」

 

 

空手家アバターは驚愕した際に力が緩んでしまい、ハルユキはそれを見逃さず思いっきり拳を突き出した。

 

 

「ぐああああ!」

 

 

ハルユキに押し負けた空手家アバターは、そのままクレーターの縁まで吹っ飛んだ。

 

 

空手家アバターの消滅を確認すると、ハルユキは黒雪姫に向って叫んだ。

 

 

「いつまでそこで寝てるつもりですか!先輩!黒の王!!」

 

 

今、黒雪姫が直面している心の傷は、ハルユキには窺い知れぬほど大きいものなのだろう。

 

 

初代の赤の王――かつての仲間を、友を、衝動のままに裏切り加速世界から永久に退場させたその行為を黒雪姫は心の底では長い間悔やみ続けてきたのだろう。

 

 

でも。

 

 

たとえ、そうなのだとしても。

 

 

「あなたにとって《加速》は!《ブレイン・バースト》は!!」

 

 

レベル差など関係なく、ハルユキは次々と近接アバターを倒していく。

 

 

「前人未到のレベル10に到達し、この世界の先を見たいというあなたの野望はその程度のものだったんですか!

 

力を得るという事は、それ相応の覚悟が必要なんです!あなたにはその覚悟はないんですか!」

 

 

 

 

りん。

 

 

 

と、投げ出された右腕の、漆黒の切っ先が揺れたように見えたのは錯覚だろうか。

 

 

いや、違う。

 

 

鋭利なフォルムのゴーグルの奥に、遥か遠い恒星のようにかすかに瞬くヴァイオレットの光が見える。

 

 

魂の熾火を思わせる弱々しさで、とくん、とくん、と脈打っている。

 

 

「先輩...」

 

 

ハルユキのささやき声に。

 

 

ぶん!という強い振動音が重なった。

 

 

それは、ゴーグルの下で、2つ眼が強く輝いた音だった。

 

 

黒曜石を削りだしたかのような半透過装甲のパーティングラインに、頭部から四肢を目指して、同色の光が満ちていく。

 

 

それにつれて全身を覆う土埃が吹き飛び、冴えざえとした反射光が蘇る。

 

最後に、両手足4本の剣が、りいぃんと強く鳴った。

 

 

ふわり、と見えない糸に引かれるかのように起き上がる漆黒のアバターを、ハルユキは喉を詰まらせながら、ただひたすらに凝視した。

 

 

他の近接アバター達も、戦う手を止めてブラック・ロータスを凝視する。

 

 

まっすぐ直立したブラック・ロータスは、地面からわずかに浮き上がる脚の尖端を振動させ、ゆるゆるとホバー移動を開始した。

 

 

そしてそのままハルユキのすぐ近くで、ぴたりと停止する。

 

 

「すまなかったハルユキ君、無様な姿を見せてしまった。情けない親で本当にすまない...」

 

 

「気にしないでください」

 

 

ハルユキに対して、ブラック・ロータスは平謝りする。

 

 

「今だ!」

 

 

「やっちまえ!」

 

 

そんなやり取りをするハルユキ達に、近接アバターが襲い掛かる。

 

 

「ふっ!」

 

 

「ふぐっ!」

 

 

後ろから襲い掛かってきた近接アバターを、ハルユキがボトルを振りながら顔面に肘鉄を入れる。

 

 

「おらっ!」

 

 

「ぐおっ!」

 

 

ハルユキはそのまま、青い炎を纏った回し蹴りを放った。

 

 

『うわああああぁぁぁ!』

 

 

ドッガ――――ン!!

 

 

回し蹴りを喰らった近接アバターは、そのままクレーターの端まで他のアバターを巻き込み吹っ飛ばされた。

 

 

また、ブラック・ロータスを攻撃しようとした敵近接型リーダーは、五指が異様に逞しい両手を広げて黒雪姫に襲い掛かった。

 

 

それに対し、何か考えてのことか、黒雪姫はまるで掴んでくださいと言わんがばかりに右腕をまっすぐ差し出した。

 

 

敵の両眼が強く光り、蛇のように伸びた両手がブラック・ロータスの腕を2箇所でホールドする。

 

 

「貰ったッ、《ワンウェイ・スロ...》」

 

 

技名を叫びながら体を反転させ、掴んだ腕を右肩に担ぎ、一本背負いの体制に入った――その瞬間、ばらばらっと零れ落ちたのものがあった。

 

 

湾曲した、太い10本の円筒。

 

 

指だ。

 

 

黒雪姫の腕を成す剣を掴んでいた敵の指が、投げを打つための自らの握力ゆえに、鋭利なエッジに断ち切られたのだ。

 

 

「済まんが、私に掴み系の技はたいてい効かん」

 

 

屈みかけた姿勢で凍りつく敵にそう声を掛け、黒雪姫は、担がれたままの腕を一気に斜め下へと斬り下ろした。

 

 

右肩から左脇腹へと、薄い光の筋が抜けた。

 

 

そこから敵アバターの屈強な上体がずるりと滑り、体の7割を残して地面へと落下した。

 

 

「あっ...が...があああああ!!」

 

 

まだHPは残っているらしく消滅はしなかったが、しかしあれではむしろ消えたほうがマシというものだろう。

 

 

ハルユキの攻撃は強化されているとはいえ、キックやパンチのみで痛みは一瞬。

 

 

だが、黒雪姫の攻撃は腕の剣による攻撃に、切断面から永続的にダメージが継続される。

 

 

体を分断された苦痛に盛大な悲鳴を撒き散らし、残された腕1本で地面をばたばたと跳ね回る敵にもう目もくれず、黒雪姫は周囲に残る敵近接型7、8名をぐるりと睥睨(へいげい)した。

 

 

「君たち個々人に含む所はないが、しかし私と戦う者は必然的に部位欠損ダメージを味わってもらわねばならん」

 

 

口調は穏やかだったが、その声に含まれた凄絶(せいぜつ)な響きに、戦場の誰もが息を詰めた。

 

 

「よもや...今更嫌とは言うまいッ!」

 

 

高らかに叫び、不運な1人目掛けて黒い猛禽のごとく襲い掛かっていく。

 

 

甲高い金属音と断続的な悲鳴、そして周囲のバーストリンカーたちの捨て鉢な怒声がたちまち宙を満たす。

 

 

それはもう、《対戦》ではなく《殺戮》と呼ぶべきものかもしれなかった。

 

 

青系の近接型アバターは大抵、己の拳脚、あるいは剣やハンマーといった近距離武器によって戦う。

 

 

つまり青系同士だと、基本的にはアタックとガードを交互に繰り返し、相手の隙を狙うことになる。

 

 

だが黒雪姫――ブラック・ロータスは、四肢が剣という見た目は超近接型なのだが、あらゆるアクションがあまねく攻撃なのだ。

 

 

斬る、突くといった動作は勿論の事、相手の拳を胸で受ければその拳が断ち切られるし、相手を追ってダッシュするだけでその脚の軌道上が切り裂かれる。

 

 

一切の接触を許さず、触れるもの全てを切断する。

 

 

まさしく《黒き死の睡蓮》――。

 

 

舞うように戦い続けるその姿は途方もなく美しく、そして切ないほどに根絶的だった。

 

 

ほんの1、2分のうちに、敵の近接チームはその殆どが消滅か、あるいは部位欠損ダメージの激痛によって無効化され地面に転がった。

 

 

「き...さまああああ!!」

 

 

最後に残った大柄なバーストリンカーが、突然太く咆え猛った。

 

 

肉厚の刃を持つ長大な刀を大上段に振りかぶり、黒雪姫に真っ向から打ちかかる。

 

 

見事なスピードと、そしてタイミングだった。

 

 

鋼色の雷閃となって降り注ぐ分厚い刃を、黒雪姫は回避せずに交差した両腕の剣で受けた。

 

 

きいぃぃぃん!

 

 

という、耳をつんざくような高周波が響き渡った。

 

 

接触点から眩い火花が飛び散り、双方の動きがぴたりと止まった。

 

 

きし、きしと甲高い金属音が連続して響く。

 

 

銀と黒の刃が、1秒毎に噛み合う部分の深さを増していく。

 

 

どちらがどちらに食い込んでいるのか、ハルユキにも咄嗟に判断は出来なかった。

 

 

しかし、刀を持つほうの武者型アバターが、般若面に似たマスクをにやりと歪ませた。

 

 

「ざんっ!」

 

 

武者の声が低く発せられると同時に、刀は真下に、黒雪姫の両腕は左右に、一瞬で振り切られた。

 

 

音もなく落ちたのは、武者アバターの首と、巨大な刀の上半分だった。

 

 

ごろりと転がり、信じられぬというように眼を見開く生首を、黒雪姫は左脚の切っ先で容赦なく貫いた。

 

 

光の柱が屹立し、敵アバターは硝子細工のように飛び散り、消えた。

 

 

再び、数秒の沈黙。

 

 

それを破ったのは、遥かクレーターの縁から放たれた、短い声だった。

 

 

「...なぜ」

 

 

ついにここまで保ち続けた余裕を失ったかと思われる平板な声で、黄の王イエロー・レディオが呻くように言った。

 

 

「なぜ今更現れて、長年かけて準備した我がサーカスのカーニバルを邪魔するのです?2年間もどこぞの穴倉にこそこそと隠れ続けておきながら、なぜ?」

 

 

ピエロの笑い面に刻まれた吊り眼に、白い燐光が満ちる。

 

 

枯れ枝のような両腕を左右に広げ、ひょいと片膝立ちになり、首をゆらゆらと左右に振る。

 

 

不意にマスクの下から、くくくくくと小刻みな笑いが漏れた。

 

 

右手でまっすぐに黒雪姫を指し、黄の王は嘲りの色を取り戻した声でささやいた。

 

 

「つまり、もう忘れたということですか?あなたが裏切り、首を刎ねた我らが友のことを?...彼は今、どこで何をしてるんですかねぇ。

 

2度と戻れない加速世界の事を...その原因を作ってくれたどこかの誰かのことを思い出したりしないんですかねぇ?私なら、とうてい忘れられませんよ。尋常な対戦ならともかく、あんな不意打ちじゃあ...ねぇ?」

 

 

くっ、くっくっくっく。

 

 

喉に籠もる嘲笑を聞きながら、ハルユキは内心で叫んでいた。

 

 

――耳を貸しちゃだめです。

 

 

あいつは、もう一度あなたから戦う力を奪おうとしているんだ。

 

 

しかしそれを実際に声に出すことは、ハルユキには出来なかった。

 

 

黒の王と黄の王、加速世界の初期から共に修練を続け、2年前のある時点までは友人同士だったという2人の間には、何者も割り込めない歴史があると思えたのだ。

 

 

ハルユキはスカーレットレインと、その傍らに立つブラック・ロータスの後ろに歩み寄った。

 

 

ひたすらに胸の奥で、負けないでと強く念じながら。

 

 

不意に――。

 

 

音もなく黒雪姫の右腕が持ち上がった。

 

 

激戦を経てなお傷1つ見えない黒曜石のエッジをまっすぐ黄の王に向け。

 

 

黒の王は、滑らかなシルキー・ボイスを発した。

 

 

「...お前はひとつだけ勘違いをしている、イエロー・レディオ」

 

 

「ほう?何をです?まさかあれが、卑怯な不意打ちではなかったとでも?」

 

 

「違う。私にとって、お前の首が、レッド・ライダーのそれと同じ重さを持つと考えていることだ。もう1つ教えておいてやろう......私はな...」

 

 

りいん、と右腕を真横に振り払い、黒雪姫は言い放った。

 

 

「初めて会った時から、お前の事が大嫌いだったよ!」

 

 

ぐ、と黄の王が上体を仰け反らせた。

 

 

黒雪姫はちらりと視線を横から後ろに投げ、素早く叫んだ。

 

 

「クロウ、もう一頑張り頼むぞ!彼女を守れ!!」

 

 

その後、黒雪姫の烈火の如き咆哮が貫いた。

 

 

「レディオ!!」

 

 

ずばっ、と右腕の刃が漆黒の軌跡を描いた。

 

 

音もなく分断され、宙も舞ったのは、イエロー・レディオの巨大な帽子の右側の角だった。

 

 

「ロータス!!」

 

 

これまでの揶揄の響きが微塵もない怒声で叫び返し、黄の王はどこから取り出したのか、長大なバトン状の武器で反撃を見舞った。

 

 

黄金のラインを引きながら打ち込まれた突きを、黒雪姫は左腕の剣で受け流し、飛び散った火花が両者を眩く照らした。

 

 

ハルユキは半ば呆然とクレーターの西端で開始された激突を見つめた。

 

 

王、つまりレベル9バーストリンカー同士の戦いを見るのは、もちろん初めてだった。

 

 

それは、この場の誰にも――当事者たる2人も含めて――言える事だったろう。

 

 

周りを良く見てみると、ハルユキの他にもニコや遠隔アバター達も王2人の戦いを見つめていた。

 

 

現在の《純色の七王》達は、ニコを除いて、2年と少し前にほぼ同時にレベル9に達した。

 

 

そしてレベル10に上がるための過酷なサドンデスルールを知り、死闘を回避するための円卓会議を開いた。

 

 

その卓上で、黒の王ブラック・ロータスは、初代赤の王レッド・ライダーを不意打ちのクリティカルヒットによって一撃死せしめた。

 

 

王が王を倒したのは、後にも先にもその時だけだ。

 

 

それ以降、裏切り者として追われた黒の王は2年に亘って梅里中ローカルネットに潜伏し、他の王達は相互不可侵条約を結んでそれぞれの領土から出ることはなくなった。

 

 

だから、レベル9同士が尋常にその剣を交えるのは、加速世界の開闢(かいびゃく)以来これが初めてのことなのだ。

 

 

ハルユキも、ニコも。

 

 

残存する黄のレギオンメンバー10数名も、いつしか攻撃の手を止め、息を殺して戦いの行方を見守っていた。

 

 

――速い!

 

 

ハルユキは、胸の奥で嘆声を漏らしていた。

 

 

意識を集中しなければ、相対する両者の周囲で、謎の閃光が立て続けに弾けているようにしか見えない。

 

 

黒の王が4連、5連で繰り出す斬撃を、黄の王は高速回転するバトンで見事に受け、わずかな隙を逃さずに長い脚での蹴りを放つ。

 

 

それを黒雪姫が脚でブロックするたび、波紋のように衝撃波が広がり、背景を歪める。

 

 

あまりにも高威力の攻撃が連続する所為か、いつしか両者の足元からは放射状にひび割れが走り、瓦礫の破片が飛び散りはじめた。

 

 

空間に無色の圧力が満ちるにつれ、両者の装甲が放つ輝きも、その強さを増していくように見える。

 

「...そろそろだぜ」

 

 

ニコが呟き、ハルユキは反射的に訊き返した。

 

 

「な、何が?」

 

 

「2人の必殺技ゲージがそろそろ満タンだ。本番はここからだ」

 

 

その語尾が消えないうちに、バァン!

 

 

という一際激しい衝撃音が炸裂し、それに押されるように両者が距離を取った。

 

 

すぐには組み合わず、黒雪姫はゆるりと腰を落すと、左腕を体の前で横に構え、右腕の剣をその峰に垂直につがえた。

 

 

長大な刃を脈打つヴァイオレットの光が包みはじめ、同期する低周波の振動が空気を揺らす。

 

 

対するイエロー・レディオは、両腕を体の前で交差し、その指先に黄金のバトンを挟んでいる。

 

 

バトンの両端についた球体が、こちらも周期的な光を放つ。

 

 

みるみる高まっていく圧力に、ハルユキは頬の辺りにちりちりと弾けるような感触を覚えた。

 

 

王の必殺技、そのパワーの片鱗をハルユキはニコとの対戦時に目にしている。

 

 

片方の主砲から発射された巨大なビームが、対戦フィールドの彼方にそびえていた新宿都庁舎の上部を呆気なく吹き飛ばしたのだ。

 

 

あれと同レベルのポテンシャルを持つ攻撃が、あの距離感で激突したらどうなってしまうのか。

 

呼吸すらも忘れて眼を見開くハルユキの耳に、再びニコのささやきが届いた。

 

 

「パワーじゃねぇ、スピードで決まるぜ」

 

 

「え...ど、どういう?」

 

 

「ロータスの必殺技はどう見ても直接攻撃系だ。対してレディオのは幻覚系だろう。つまりレディオの技が効力を発揮する前に、ロータスの一撃が奴に届くかどうか――そこが分かれ目だ」

 

 

ごくり、とハルユキは喉を鳴らした。

 

 

大きく傾いた太陽が、わずかな黒雲の切り目から、赤い光をひと筋落とした。

 

 

それが黒曜石の刃にちかっと反射した、その瞬間。

 

 

ブラック・ロータスが凜と声を響かせた。

 

 

「《デス・バイ・ピアー......》」

 

 

同時にイエロー・レディオも。

 

 

「《無意味な運命の車(フユータル・フォーチュン・ウィ)......》」

 

 

しかし。

 

 

双方同時の技名発声は、双方ともに最後の1音まで辿り着くことはなかった。

 

 

 

とん。

 

 

 

という、ごく小さな、しかし圧倒的な存在感に満ちた乾いた響きが、2人の王の声を押しとどめたのだ。

 

 

それは、イエロー・レディオの鮮やかな黄色の胸部装甲を、背後から何かが貫いた音だった。

 

 

途中で技を止めた黒雪姫も、ハルユキやニコ。

 

 

他のバーストリンカーも、そして黄の王自身も。

 

 

装甲から突き出したヌルリと15センチほども伸びた銀灰色の金属をただ見詰めた。

 




はい!如何だったでしょうか?

いや~最近別のゲームを始めたので、小説が書く時間がなく投稿が遅くなってしまいました。

ハピネスチャージを一気に書いたせいか、しばらく何もやる気がおきませんでした。

今見たら前回の投稿から1ヶ月経っているんですね

次からは気をつけます。

さて次回!やっとハルユキを変身させることが出来ます!

本当はドラゴンフルボトルではなく、クローズに変身させようと思ったのですが、クロム・ディザスター戦までとって置くことにしました。

あと、しばらくはハピネスチャージの1話を大きく修正するので、修正が終わり次第に22話を書いて行きます。

なのでいつもより、投稿が遅くなるかもしれません。

それでは次回!第7話!もしくは激獣拳を極めし者第22話でお会いしましょう!

それじゃあ、またな!

文字数の調度いい長さを教えてください!

  • 7000~10000 第3章第3話参考
  • 10000~15000 第2章第8話参考
  • 15000~20000 第3章第2話参考
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