アクセル・ビルド   作:ナツ・ドラグニル

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兎美「仮面ライダークローズであり、バーストリンカー、シルバー・クロウでもある有田春雪は、有田兎美の記憶を取り戻すべく悪の組織ファウストから杉並の市民達を守るのであった」



美空「そんな中、クロム・ディザスターを討伐するために無制限中立フィールドに向かったハルユキ達は、黄の王の策略で危機に陥るがそこに現れたのは、意外な乱入者だった」



兎美「それでは、どうなる第7話!」


第7話

「だ...誰、が」

 

 

ハルユキは、声にならない声で喘いだ。

 

 

あの用心深そうな黄の王に気づかれずに背後に接近し、しかもその装甲を、必殺技も使わずに紙のように貫くとは。

 

 

いやそれ以前に、王と王の直接対決に割り込もうなどと、いったい誰が考えるだろうか。

 

 

と、まるでハルユキの声が聞こえたかのように、黄の王の背後からじわりと滲み出した影があった。

 

 

誰彼時の薄暮に殆ど同化する、濃い灰色のシルエット。

 

 

その表面をわずかな残照が撫でた途端、反射光が濡れたように輝いた。

 

 

謎の乱入者の全身は、黒ずんだ銀色の鏡面装甲に包まれている。

 

 

色合いはシルバー・クロウに似ていなくもないが、フォルムは大いに異なる。

 

 

肩や胸、肘にボリュームのある、中世の騎士のような重量感。

 

 

巨大な籠手に包まれた右手には、自身の身長ほどもありそうな両刃の剣を携え、極端に先細りになった切っ先が黄の王を後ろから貫いている。

 

 

その剣よりも強く目を引くのが、騎士の頭部だった。

 

 

両側から後方へと長い角が伸びる、フード状のヘルメットを被っている。

 

 

しかし、本来であれば面頬のあるべきその箇所に――何もないのだ。

 

 

太陽の向きからして内部が照らし出されていいはずなのに、まるで実体を持つ闇がわだかまっているかの如く、フードの内部は黒一色に塗りつぶされている。

 

 

いや、よくよく目を凝らせば、その表面で生物のように蠢く漆黒の何かが確かに見える。

 

 

闇のマスクを持つ、黒銀の騎士。

 

 

その名前が、近くのニコの口から漏れる直前、ハルユキも同時に連想していた。

 

 

恐らくはあれが...あれこそが――。

 

 

「《災禍の鎧》......。《クロム・ディザスター》」

 

 

掠れ声を漏らしてから、ニコはいっそう密やかに続けた。

 

 

「なんでだ、早過ぎる。丸1日は余裕あったはずなのに」

 

 

驚愕の理由を、ハルユキは直ぐに察した。

 

 

クロム・ディザスターの正体、赤のレギオンに属するレベル6のバーストリンカー《チェリー・ルーク》の乗った電車が、池袋に着く2分前にハルユキ達はこの無制限中立フィールドにダイブした。

 

 

ここでは現実比1千倍で時間が流れているので、その2分は33時間にも相当する。

 

 

答えは1つしかない。

 

 

「まさか...電車の中でバーストリンクを!」

 

 

あの鎧に宿るチェリー・ルークは、電車に乗ったまま加速し、この世界に現れたのだ。

 

 

最大でたった1.8秒の通常対戦ならそれも解る。

 

 

しかしここは、1度でもダイブすれば離脱ポイントに辿り着かない限り脱出できない上位世界だ。

 

 

電車のような他人の密集する、しかも交通機関に生身の体を残してくるとは、大胆を通り越して無謀としか言えない行為だ。

 

 

「チェリー...たった2分も我慢出来ねぇほど、おかしくなっちまったのかよ」

 

 

ニコが押し殺した声で呟いた。

 

 

クロム・ディザスターは、黄の王を貫く剣を握ったまま、それ以上何をするわけでもなく、ぼんやり、と形容できそうなほど静かに立ち尽くしている。

 

 

なぜ黄の王は脱出しないのか?

 

 

なぜ顔を限界まで振り向かせたまま、ただ黙ってクロム・ディザスターを眺めているのか?

 

 

その答えを――。

 

 

1秒後、ハルユキは知ることになる。

 

 

「ユルオオオオオオ...!」

 

 

突如、奇怪な絶叫が迸った。

 

 

人間の声ではなかった。

 

 

獣でもない。

 

 

機械音でもない。

 

 

スマッシュも獣のような唸り声を上げる事があるが、それとも違う。

 

 

これまで一度も聞いたことのない、異質な咆哮。

 

 

源は、騎士の顔にわだかまる暗闇だった。

 

 

仰け反ったフード型ヘルメットの下から、叫びとともに実体を持つ闇が噴出し、それはたちまちある形へと固定された。

 

 

フードの上下に並んで噛み合う、鋭利な三角の連なり。

 

 

牙だ。

 

 

漆黒の牙が、フードの縁から、まるでそこ全体が口であるかのように突き出している。

 

 

ぐぱっ。

 

 

と湿った音を立てて、《口》が開いた。

 

 

内部の濃密な闇に、小さくまん丸2つの眼が、朧な紅に輝いた。

 

 

それを見た途端、黄の王イエロー・レディオがようやく動いた。

 

 

弾かれたように、背後に回した両手で自分を貫く剣を掴み、引き抜こうとする。

 

 

彼が今まで動かなかったのは――竦んでいたのだ。

 

 

恐怖により、縛られていたのだ。

 

 

近距離に立つ黒雪姫も、構えを取ったまま沈黙を続けている。

 

 

こちらには怯えの色はないが、わずかな逡巡は感じられた。

 

 

攻撃のチャンスではあるもののどちらを狙えばいいのか、確かにこの状況では即断は出来ない。

 

 

剣から抜け出そうとする黄の王を、災禍の鎧クロム・ディザスターは、まるでフォークに突き刺した食べ物の如く巨大な《口》へと近づけた。

 

 

いっそう大きく開いたあぎとが、ピエロ型アバターの丸く膨らんだ肩に近づき――牙から透明な粘液が垂れ――

 

 

「......《詐欺師の癇癪玉(デシート・ファイアクラッカー)》!!」

 

 

肩を食われる寸前、イエロー・レディオが高い声で叫んだ。

 

 

毒々しい黄色の煙とともに、串刺しにされたアバターが爆発し、消滅した。

 

 

自爆!?とハルユキは目を剥いたが、しかし直後、5メートルほど離れた場所に同色の煙が湧き上がり、その中からピエロが飛び出すのが見えた。

 

 

おそらく眩惑・脱出用の必殺技なのだろう。

 

 

胸部装甲に開いた鋭利な孔から細かい火花を散らしながら、黄の王は更に数メートルバックダッシュした。

 

 

配下のアバターに集結の指示を出したのち、ようやく声を発する。

 

 

「飢えた犬めが、飼い主の恩も忘れて、演目(プログラム)を邪魔する気ですか。......いいでしょう、それほど腹が減っているなら――目の前の《黒》を喰らうがいい!食欲はそそらない色ですがね!!」

 

 

ははははは、と笑ったが、その声には拭いようもなく張り詰めた響きがあった。

 

 

がちん、がちん、と黒いあぎとを閉開させながら、クロム・ディザスターは等距離に立つ黒の王と黄の王を順番に見やった。

 

 

その所作には、どちらと《対戦》するのかを迷う、といった人(プレイヤー)の意志はまったく感じられなかった。

 

 

襲うべき獲物を見定める、獣の仕草だった。

 

 

その顔ならぬ顔が、何気なくクレーターの底へと向けられた。

 

 

沈黙する赤の王に一瞬視線を留めるが、己のレギオンマスターを見ても何らかの感情を示すことなく、その隣に立つハルユキへと顔の向きを移した。

 

 

不意に。

 

 

奇妙な声が、頭の芯に届いた気がした。

 

 

抑揚(よくよう)の一切無い、動物――または機械のような響き。

 

 

――喰ワレロ。

 

 

――喰ワレテ、肉ニナレ。

 

 

何より恐ろしいことに、その声色自体はどう聞いても、声変わり前の同年代の少年のものだった。

 

 

背筋に、これまで加速世界では感じた事のない種類の怖気が走るのを感じた。

 

 

その感じは、現実世界で始めてスマッシュを目撃した時と同じ感じだった。

 

 

ブレイン・バーストは、《加速》というテクノロジーの異質さはさておき、あくまで対戦格闘ゲームである。

 

 

この南池袋クレーターにおけるこれまでの戦いは凄惨極まるものだった。

 

 

だからこそ、ハルユキはドラゴンフルボトルを使うことにしたのだ。

 

 

それでもぎりぎりでゲームの範疇を抜け出てはいなかった。

 

 

確かに、黄の王の罠が奏功(そうこう)してニコあるいは黒雪姫が彼に狩られれば、2人はブレイン・バーストを強制アンインストールされ、永久に加速世界訪れることは叶わなくなるが――しかし、それは《ゲームの終わり》であって、現実での生活はその後も続いていくのだ。

 

 

なのに。

 

 

今の声が、クロム・ディザスターと呼ばれるバーストリンカーのものだとするならば。

 

 

あの黒銀の鎧の中にはもう、チェリー・ルークという名の、かつてはこのゲームを楽しんでいたはずの少年は存在しない。

 

 

スマッシュであれば成分を抜き取れば戻す事が出来るが、災禍の鎧の元凶の元は強化外装である。

 

 

強化外装は使用者の精神を侵食する、と黒雪姫は言った。

 

 

ハルユキは半信半疑だったが、鎧をまとう者の人間性がすでに大きく損なわれている事を、今の短い声が明らかに告げていた。

 

 

そしてその現象は、おそらく加速中に限られたことではあるまい。

 

 

あの鎧の中の誰かが、現実世界では平穏に暮らしているなどとは絶対に思えない。

 

 

「ニコ...、彼はもう」

 

 

ハルユキの言葉に込められた意味を、ニコは敏感に察したようだった。

 

 

「言うな。まだ...まだ、間に合うかもしれねぇんだ。今ここで鎧を破壊できれば、もしかしたら」

 

 

そのささやきは、最後まで続かなかった。

 

 

ニコの願いを断ち切るかのように、クロム・ディザスターが再び獰猛に咆えた。

 

 

「ルゥオオ......オオオオオオ!!」

 

 

じゃりっ、と向き直ったのは、黄の王の方向だった。

 

 

右手の大剣を肩に担ぎ、巨大な鉤爪状の五指をまっすぐ伸ばす。

 

 

直後、驚くべき現象が発生した。

 

 

鎧からは何の技名も発声されていないのに、黄の王のすぐ近くに集結しかけていた赤系アバターの1人が、猛烈な速度でクロム・ディザスターの左手に吸い寄せられたのだ。

 

 

がちぃんという金属音を放って、不運なデュエルアバターの胴に鎧の指が食い込んだ。

 

 

「ひっ...」

 

 

高い叫び声を漏らしながらも、その赤系は右手に持ったライフルを鎧の頭部に向けようとした。

 

 

しかしその寸前、銃を握る右腕が付根から切断されていた。

 

 

ビームはクロム・ディザスターの兜を掠め、空しく背後へと流れた。

 

 

腕を落とした大剣の斬撃を、ハルユキは殆ど視認すらも出来なかった。

 

 

直後。

 

 

「ルゥゥッ!!」

 

 

一声叫ぶと同時に、クロム・ディザスターがフードに並ぶ牙をいっぱいに開いた。

 

 

ぞぶり、と赤系アバターの左肩に闇のあぎとが食い込んだ。

 

 

「ぎゃ...あああああ!!」

 

 

迸った悲鳴は、耳を覆いたくなるほど惨たらしいものだった。

 

 

先程言っていた黒雪姫の言葉通りだと、この無制限中立フィールドでは、ダメージの痛みは下位フィールドの2倍に拡張されている。

 

 

おそらく今、あの赤系は、現実世界では猛獣に生身の体を噛まれるのと同レベルの苦痛を感じているはずだ。

 

 

アバターの装甲を、十数本の巨大な牙が呆気なく貫通した。

 

 

肩から胸にかけてが半円形に喰いちぎられ、切断された左腕がぼとりと地面に落ちた。

 

 

「あああ...あああああ―――!!」

 

 

腹を抉られ、両腕を失った激痛にばたばたと暴れるアバターの頭部を。

 

 

咀嚼(そしゃく)を終え、再び大きく開かれたクロム・ディザスターの《口》が丸ごと咥え込んだ。

 

 

ぶしゅ、と湿った音とともに撒き散らされた飛沫は、スパークエフェクトなのか、装甲の破片か――あるいは、アバターの血肉か。

 

 

悲鳴がぶつんと途切れた。

 

 

頭部を丸ごと喪失し、ぐたりと脱力したアバターの残骸が、数秒後にようやく光柱に溶けて分解した。

 

 

あれはもう、《対戦》ではない。

 

 

暴力でも、殺戮でもない。

 

 

《捕食》だ。

 

 

捕らえたデュエルアバターの血と肉、そしてバーストポイントをただ摂取するだけの本能的活動。

 

 

上下していた黒い牙の動きが止まると同時に、黒ずんだ銀の鎧の継ぎ目に、深い紅の光が走るのをハルユキは見た。

 

 

まるでポイントだけでなく、何らかのエネルギーをも奪ったかのような現象――恐らくは、昨日黒雪姫が言っていた体力ゲージ吸収能力、《ドレイン》だ。

 

 

「ルウゥゥゥゥ...」

 

 

ぐりん、と頭をもたげ、クロム・ディザスターが低く喉を鳴らした。

 

 

「狂犬めが...仕方ない、惜しいですが演目中断ですね。皆さん、池袋駅のリーブポイントまで撤退しなさい!!」

 

 

叫んだのは黄の王だった。

 

 

指示と同時に何らかの必殺技を使ったらしく、残存する黄のレギオン約10名の姿がすうっと半透明に薄れた。

 

 

朧な影となったアバター達が、物凄い勢いでクレーターから離れ、北西へと離脱していく。

 

 

最早策が破れたのは明らかなのに、遠ざかる黄の王の声が、最後の嘲笑をフィールドに振り撒いた。

 

 

「くくく...赤、そして黒、我がサーカスの楽しいカーニバルに、またいずれご招待しますよ!その犬に喰われてもなお、あなた達に戦意が残っていれば...ですがね!くくく...くふふふふ...」

 

 

遠くまで離れた事で安心しきっていた黄のレギオン達だったが、現実はそこまで甘くなかった。

 

 

遠く離れていく黄のレギオン達に向って、クロム・ディザスターはまた手を翳した。

 

 

すると半透明になって見えにくくなっている筈の黄系のアバターが、またしても謎の力で物凄い勢いでクロム・ディザスターの手元に吸い寄せられた。

 

 

「うわあああああ!!」

 

 

先程の赤系のアバターと同じ目に遭うと解り、悲鳴を上げながら黄系のアバターは暴れる。

 

 

それを見て、ハルユキの身体は勝手に動いていた。

 

 

ハルユキは翼を広げ、クロム・ディザスターへと飛んだ。

 

 

シャカ、シャカ、シャカ!

 

 

「はああああああ!!」

 

 

手に持っていたドラゴンフルボトルを数回振り、飛んできた勢いをそのままに、ハルユキはクロム・ディザスターに蹴りを放つ。

 

 

「グアッ!?グルゥゥゥゥア!!」

 

 

攻撃されるとは思わなかったのか、クロム・ディザスターは前に大きく仰け反ってそのまま吹き飛ばされた。

 

 

「うわっ!」

 

 

吹き飛んだ反動で、手に持っていた黄系アバターを地面に落としてしまう。

 

 

殺されかけた事で腰が抜けてしまったのか、黄系アバターは呆然として動かなかった。

 

 

「何やってるんだ!早く逃げろ!」

 

 

ハルユキの言葉を聞いて、ようやく正気に戻ったのか黄系アバターは一目散に逃げ出した。

 

 

ハルユキがクロム・ディザスターに視線を戻すと、いつの間に起き上がったのか、大剣を振り下ろそうとしている所だった。

 

 

「ガルゥア!」

 

 

「うわっ!」

 

 

ハルユキは咄嗟に、横へ飛ぶことで攻撃を避ける。

 

 

仮面ライダーとしてスマッシュと戦っているハルユキだが、現在戦っているクロム・ディザスターはそれ以上の脅威に思えた。

 

 

先程の捕食もそうだが、今も尚ハルユキを喰らおうと襲いかかろうとしていた。

 

 

シャカ、シャカ、シャカ。

 

 

「はあ!」

 

 

ハルユキは隙を突いて蹴りを放つ。

 

 

スマッシュの時同様、クロム・ディザスターにも攻撃は効いていた。

 

 

その時、牽制する2人に近づく影があった。

 

 

「...《デス・バイ・ピアーシング》!!」

 

 

 

敢然(かんぜん)と響いたのは、黒雪姫の声だった。

 

 

左腕につがえられた右腕の剣が、ジェットエンジンじみた大音響と共にまっすぐ突き出された。

 

 

その刃を包んでいたヴァイオレットの輝きが膨れ上がり、眩く世界を染め上げながら、一直線に5メートル近くも伸長した。

 

 

放出された巨大な攻撃力が仮想の空気を圧縮し、その向こうの風景を陽炎のように歪ませた。

 

 

「まったく...先程まで自分達を襲っていた敵を助けるとはな、君は随分お人好しだな」

 

 

クロム・ディザスターに一撃入れると、黒雪姫は小言を言いながらハルユキの隣に並んだ。

 

 

「ははは、すみません、思わず身体が動いてしまいまして...」

 

 

苦笑しながら弁解するハルユキだったが、黒雪姫は気にせず話し続ける。

 

 

「まあ...格好良かったぞ、誰よりも早く助けにいく所は」

 

 

まさか黒雪姫に褒められるとは思わなかったのか、ハルユキは頬を掻いた。

 

 

「さて、ハルユキ君。―― 一丁、格好良く負けるとするか」

 

 

その言葉に苦笑するハルユキだったが、直ぐに否定した。

 

 

「この場合の言葉としては違いますよ、先輩」

 

 

「ん?...ああ、そうだったな」

 

 

黒雪姫は、ハルユキの言っている意図を理解すると、2人はクロム・ディザスターに向って高々と叫んだ。

 

 

『今の俺達(私達)は、負ける気がしない!』

 

 

叫んだ後、ハルユキは腰を落とし、脚を開いて、構えを取る。

 

 

隣の黒雪姫も、こちらは両腕の剣をぴたりとさまに動作で掲げる。

 

 

1秒後、幾つかのことが連続的に起きた。

 

 

クロム・ディザスターが激しい怒りの咆哮と共に剣を振り上げた。

 

 

その斬撃を見切ろうと集中したハルユキの視界の左側で、何かがぴかっと光った。

 

 

黒雪姫の右腕が猛烈な速度で閃き――剣の峰でハルユキの胸を思い切り叩いた。

 

 

ひとたまりもなく後方に跳ね飛ばされ、驚愕に包まれながら地面に転がったハルユキの目の前を、真紅の光の壁が覆った。

 

 

 

 

 

それが、左側――クレータの中から発射されたビーム攻撃だと悟ったのは、発生した恐るべき規模の爆発に再び、今度は10メートル以上も吹き飛ばされた後だった。

 

 

押し寄せてきた熱と衝撃波を反射的に両腕で防いだが、それでも視界左上のHPゲージががりがりと減少し、体のあちこちから嫌な金属音が響いた。

 

 

全神経がスパークするような激痛と熱感の波が押し寄せてきて、大の字に倒れたままハルユキは息を詰まらせた。

 

 

何気に初ダメージを受けたハルユキだったが、スマッシュとの戦いでも受けた事のない激痛に、悲鳴を上げることすら出来ず、がくがくと体を痙攣させながら痛みが引くのを待つ間にも、頭の中には疑問符の大嵐が渦巻いていた。

 

 

いったいなぜ――もう黄のレギオンの遠隔型は残らず撤退したはずだ。

 

 

それとも連中が戻ってきて戦闘に介入したのか?

 

 

だとしてもこの威力はなんだ。

 

 

銃なんてものじゃない。

 

 

戦車の――いや、戦艦の主砲とでも言うべき圧倒的なパワーだ。

 

 

ようやく感覚の戻った右腕を突っ張り、よろよろと状態を起こしたハルユキの目の前に。

 

 

がしゃっ、と硬質の音を立てて何かが落下してきた。

 

 

深くひび割れ、欠損した黒い装甲。

 

 

透き通る艶は失せ、無残に焼け焦げている。

 

 

四本の剣のうち左腕と左脚の2本は半ばから砕け、鏡面ゴーグルにも蜘蛛の巣状にクラックが走っている。

 

 

「く......」

 

 

ハルユキは掠れ声で喘ぎ、激痛も忘れて飛びついた。

 

 

「黒雪姫先輩!!」

 

 

夢中で抱え上げると、全身の各所から黒い破片が零れ落ちた。

 

 

ぐたりと力の抜けたアバターはぎょっとするほど軽く、破損箇所を這い回る青紫の火花がまるで飛び散る血液のように見えた。

 

 

正面で、もう一度重い金属音がした。

 

 

反射的に顔を上げると、少し離れた場所に片膝を突いてうずくまるクロム・ディザスターの姿があった。

 

 

損壊はこちらも激しい。

 

 

黒銀の鎧は煤に塗れ、数箇所で大きく陥没している。

 

 

フード状のヘルメット内部は再び不定形の闇に沈み、どこに飛んでいったのか大剣は見当たらない。

 

 

破壊はフィールドの地形までも変えていた。

 

 

これまで戦場となっていた南池袋クレーターの北縁には、小型のクレーターが新しく刻み込まれ、各所でちらちらと燃える炎から濃い煙が上がっている。

 

 

砲撃の威力の何割かはそのまま北へと抜けたらしく、建築物が根こそぎ薙ぎ倒され、グリーン大通りへと抜ける新たな道が出来てしまったかのようだ。

 

 

そして最後にハルユキは、恐る恐る首を南に回した。

 

 

己の眼が捉えた光景を、ハルユキはすでに半ば予期したいた。

 

 

しかし信じたくは無かった。

 

 

「なんでだ...なんでなんだよ......、ニコ」

 

 

かつてハルユキとの対戦で見せた要塞型アバター、赤の王スカーレット・レインの右腕の主砲が持ち上げられ、まっすぐ新クレーターの中央をポイントしていた。

 

 

大口径の砲身から立ち上る余熱が、陽炎となってその周囲を照らした。

 

 

あの砲身から発射された攻撃――おそらくは最大級の必殺技が、黒雪姫とクロム・ディザスターを丸ごと呑み込み、巨大な破壊をもたらしたのはもう疑いようがなかった。

 

 

ハルユキは歯を食い縛り、装甲版の隙間から覗くニコの両腕を見詰めた。

 

 

しかしその赤いレンズは、ハルユキも、腕の中のブラック・ロータスも一顧だにしようとしなかった。

 

 

「......なんでだ!!」

 

 

ハルユキの絶叫にも、赤の王はただ無言を続けた。

 

 

代わりに背中と底面のスラスターが輝き、《不 動 要 塞(イモービル・フォートレス)》はその巨体をゆっくりと前進させはじめた。

 

 

いざ動き出すと意外に速く、クレーターの半径をたちまち詰めてくる。

 

 

「ルゥ...ゥ...」

 

 

低く唸ったのは、傷ついた獣のように丸くなっていたクロム・ディザスターだった。

 

 

赤の王の接近を感知するや、四つん這いでよろよろと北へ退避していく。

 

 

鎧の各所の傷を、赤黒い《自動修復》の光が包んでいるのが見えた。

 

 

しかし損傷はあまりに深く、簡単には治癒できないようだ。

 

 

逃げ出した手負いの騎士を追う様に、真紅の要塞がクレーターの縁から姿を現した。

 

 

その威容を、ハルユキはただ見上げた。

 

 

「なんで...」

 

 

もう一度だけ、喉から声が漏れた。

 

 

途端、ぴたりと要塞の前進が止まった。

 

 

すぐ目の前に屹立するアバターを振り仰ぎ、ハルユキは大きく息を吸い込み、叫んだ。

 

 

「ニコ!...いや、スカーレット・レイン!!忘れたわけじゃないだろう...、君に倒されたら、先輩は...ブラック・ロータスは、ポイントを全損してしまうんだぞ!!」

 

 

腕の中の黒雪姫は、いまだ失神したままだ。

 

 

損傷の度合いから見ても、そのHPゲージが残り少ないことは明らかだ。

 

 

ハルユキの糾弾に、赤の王、短く無感動なひと言で答えた。

 

 

それがどうした(・・・・・・・・・)

 

 

絶句するハルユキに、幼く、しかし冷ややかな声が続けて浴びせられた。

 

 

「バーストリンカーにとって、自分以外のあらゆるバーストリンカーは敵だ。敵に倒されりゃポイントは減る。ゼロになりゃ永久退場させられる。そんだけの話だろ」

 

 

「でも...君と、僕達は...」

 

 

「仲間だ、か?」

 

 

がすっ、と重い音を立てて、スカーレット・レインの主砲が焼け焦げた地面に叩きつけられた。

 

 

刃のような鋭さをまとった声が、最後の残照に染まる空気を切り裂いた。

 

 

「お前らの甘ったるさには反吐が出んだよ!いいか、最後に1つだけ教えてやる。加速世界にはな...信じるべき何ものも存在しやしねぇ!!仲間、友達、軍団...そして《親子》の絆すら、幻想でしかねぇんだよ!!」

 

 

灼熱の火焔にも似た叫びが放たれたと同時に、赤の王の武装コンテナ全てが、ばらっと解けた。

 

 

空気に溶けるように消えていく強化外装群の中央から、小柄なアバターが出現し、地面に飛び降りた。

 

 

真紅のアバターは背筋を伸ばすと、わずかに顔をハルユキに向けた。

 

 

つぶらな両眼のレンズの奥で、高熱の炎が渦巻いているように見えた。

 

 

「......あいつを処分した後、てめぇらもまとめて片付けてやる。それが嫌なら今すぐ逃げな。次に会う時は...敵同士だ」

 

 

寒々しい声音でそう告げると、赤の王は視線を戻した。

 

 

右手で腰の大型拳銃を抜き、じゃかっと銃身をスライドさせながら歩き出す。

 

 

向かう先では、クロム・ディザスターが、全身の損傷から血の色の光を零しながら尚も北に向けて這いずっている。

 

 

黒雪姫よりも爆発の中心近くにいたはずなのに、あれだけ動けるとはやはり驚異的な耐久力だ。

 

 

しかし、今はニコの歩みの半分程度の速度しか出せず、もう離脱は不可能だろう。

 

 

傷ついた黒雪姫を両腕に抱えたまま、ハルユキは徐々に距離を狭めていく2つのアバターの影を、滲む視界に捉えつづけた。

 

 

理性的に判断すれば、ニコが先の宣言を実行する可能性を考えて、今すぐに池袋駅かサンシャインシティの離脱ポイントを目指して逃走するべきなのかもしれなかった。

 

 

しかしハルユキは動けなかった。

 

 

いや、動きたくなかった。

 

 

ここで逃げたら、間違ったものが事実として確定してしまう。

 

 

そんな気がした。

 

 

1ブロックぶんの建物を巨大なビームが薙ぎ倒してできた道の出口付近で、ついにニコがクロム・ディザスターに追いつき、無造作に右足を振り上げた。

 

 

がしゃっという粗雑な金属音とともに騎士アバターが蹴り倒され、その首筋をニコの左足が踏みつけた。

 

 

それは、言いようのないほど悲しい光景だと、ハルユキには感じられた。

 

 

確かに、あの魔性の鎧は消去されるべきだ。

 

 

そして、超絶的反応速度を持つあれに必殺技を命中させるには、黒雪姫と組み打つ寸前の隙を狙うしかなかったのも事実かもしれない。

 

 

しかし――ならば、あの夜はなんだったのだ。

 

 

ハルユキの家のリビングで、互いに求め合うかのようにしっかりと抱き合って眠っていたニコと黒雪姫。

 

 

《王》としていつかは戦わねばならないという宿命をも超える、より大きな《絆》を感じさせた2人の少女たち。

 

 

ハルユキには泣きたいほど貴く思えたあの光景は、ただの1夜の幻だったのか。

 

 

無意味な偶然でしかなかったというのか。

 

 

スカーレット・レインが、右手の拳銃をクロム・ディザスターの後頭部に押し付けた。

 

 

なぜかその先を見るに忍びず、ハルユキは顔を伏せた。

 

 

――銃声は、しかし、いつまで待っても聞こえなかった。

 

 

代わりに、耳元で、弱々しい声が発せられた。

 

 

「...まっ、たく......これだから、子供は......嫌いなんだ......」

 

 

傷つき、苦痛に揺れる黒雪姫の声。

 

 

しかしそこに、怒りの響きは一切なかった。

 

 

ハルユキははっと顔を上げ、間近にある漆黒のゴーグルを見詰めた。

 

 

その奥で、ごく仄かにヴァイオレットの光が瞬いていた。

 

 

こみ上げてくるものを押し殺し、ハルユキは黒雪姫にささやきかけた。

 

 

「せ...先輩......」

 

 

ぎゃりいいん、という金属音が聞こえたのはその時だった。

 

 

視界を動かしたハルユキの視線に映ったのは、上体を反転させ、いっぱいに左手を振りぬいたクロム・ディザスターと。

 

 

右腕から装甲の破片を散らす、スカーレット・レインと。

 

 

高く宙を舞う、真紅の拳銃だった。

 

 

「な......、なんで、撃たなかったんだ!!」

 

 

ハルユキは思わず叫んだ。

 

 

レギオンマスターによるメンバーの即時処刑、《断罪の一撃》をクロム・ディザスターに叩き込む余裕は充分にあったはずだ。

 

 

それを実行するためだけにニコは黒雪姫を必殺技の巻き添えにし、あのような冷酷な捨て台詞すら吐いたのではないか。

 

 

いったい何を今更躊躇う必要があるのか。

 

 

渦巻く疑問に答えたのは、腕の中の黒雪姫だった。

 

 

「...あの、小娘はな......拗ねてるだけ、だよ。辛くて...寂しくて、駄々をこねてるのさ......」

 

 

「え......、え!?」

 

 

驚愕し、腕の中と瓦礫の向こうを往復するハルユキの視線の先で、稲妻のように閃いたクロム・ディザスターの右手が、ニコの喉首を捕らえた。

 

 

もうかなりパワーを回復したらしい腕が、小さなアバターをゆっくり吊るし上げていく。

 

 

ニコは右手で鎧の腕を掴んだが、それ以上抗うでもなく、ただぐったりとぶら下がっている。

 

 

まるで、何もかもを諦め、投げ出してしまったかのように。

 

 

「あの小娘こそ......誰よりも、信じ、求めているんだ。バーストリンカーの、最後の絆を、な......」

 

 

黒雪姫が、静かな声で呟いた。

 

 

ハルユキは、呆然と眼を見開きながら訊き返した。

 

 

「絆...?」

 

 

「そう...さ。私には解る。あの2人は...《親子》だ。赤の王は...ディザスターの...いや、チェリー・ルークの、《子》なんだよ」

 

 

親と子――!?

 

 

あの2人が!?

 

 

これまで、まるで考えもしなかったことだ。

 

 

しかし、そう言われれば1つだけ納得出来ることがある。

 

 

ニコは、現実世界におけるチェリー・ルークの位置を詳細に追跡していた。

 

 

ハルユキはそれをレギオンマスターの特権なのかと推測していたのだが、そうではなかったのだ。

 

 

ニコは単純に、チェリー・ルークの《リアル》を知っていた。

 

 

己にブレイン・バーストを分け与えた、ただ1人の《親》として。

 

 

更なる驚きに打たれ、絶句するハルユキの眼を、黒雪姫の穏やかな色の瞳が見詰め返した。

 

 

ぼろぼろの右手が持ち上がり、ハルユキの肩をぽん、と叩いた。

 

 

「ほら、何をしている。私は...大丈夫だ。助けに、行ってやれ......ニコを......我々の、仲間を」

 

 

瞬間。

 

 

ハルユキの両眼から、抑えようもなく涙が溢れた。

 

 

理由は解らなかった。

 

 

しかし、何か巨大で熱いものが胸の奥に生まれ、こみ上げてくるのを感じた。

 

 

「......はい!」

 

 

大きく頷き。

 

 

その場に黒雪姫の体をそっと横たえ、ハルユキは立ち上がった。

 

 

じゃっ、と鋭い音を立て、背中の翼がいっぱいに展開する。

 

 

彼方では、右手で吊るし上げたニコの肩口めがけて、クロム・ディザスターのあぎとが近づきつつあった。

 

 

「......おおお!」

 

 

一声咆えて、猛然と地面を蹴った。

 

 

数歩の助走に続き、両翼の金属フィンを思い切り振動させる。

 

 

足が地面から離れ、ハルユキは地表すれすれの高さを白銀の光線となって突進した。

 

 

瓦礫の道の彼方で、今まさにニコを――自分の《子》リンカーの体を食らおうとしている狂気の鎧が、みるみる近づく。

 

 

右拳を強く握り締め、体の脇で構え――

 

 

「やめろぉぉぉぉ!」

 

 

叫びながら、ハルユキは眩い光に包まれた拳を、漆黒のおぎとの中央に叩き込んだ。

 

 

ずばっという音とともに、銀色の輝きがわだかまる闇を切り裂いた。

 

 

一瞬の溜めのあと、爆発的に発生した斥力に弾かれるように、クロム・ディザスターは仰け反りながら吹き飛んだ。

 

 

瓦礫の上にバウンドし、更に10メートル以上もごろごろと転がってから、大の字に倒れる。

 

 

羽を畳んで着地し、今の《パンチ》で必殺技ゲージの半分を消費したことをちらりと確認してから、ハルユキは傍らに膝をつく真紅のアバターを見下ろした。

 

 

ディザスターに掴まれていた喉を押さえて小さく咳き込んだニコは、顔を上げると炎を宿した両眼でハルユキを睨んだ。

 

 

「て......てめぇ......なんで......」

 

 

「助けに来たに決まってるだろ」

 

 

体の底から湧き上る熱が、常ならぬ乱暴な口調を導いた。

 

 

「俺達は...仲間だからな」

 

 

一瞬息を呑み、体を強張らせたニコが、掠れ声を絞り出した。

 

 

「この、野郎...ザコのくせに、格好...つけやがって......」

 

 

「おまえこそ、王のくせにいつまでもヘタってんなよ」

 

 

ハルユキは、右足の近くに落ちていた真紅の拳銃をつま先で跳ね上げ、空中でバレルを掴んだ。

 

 

グリップをニコに差し出しながら、続けて言う。

 

 

「......彼を、チェリー・ルークを助けられるのはお前だけだ。ニコ、彼にとって、ブレイン・バーストはもう呪いでしかない。解放してやるんだ」

 

 

つぶらなレンズの奥で、赤い光が躊躇うように揺れた。

 

 

だが1秒後、伸ばされた右手が、力強く銃把(じゅうは)を持った。

 

 

「ああ...解ってる。解ってるさ」

 

 

呟き、すくっと立ち上がった赤の王は、何かを振り切るように左足で音高く地面を踏みしめ、視線を正面に向けた。

 

 

吹き飛んだクロム・ディザスターが、ちょうど上体を起こしかけていた。

 

 

ハルユキの拳を喰らった顔面を右手で覆い、せわしなく喉を鳴らしている。

 

 

もう、立ち上がる力は残っていないようだった。

 

 

全身のダメージを修復しようとしていた赤黒い光もほとんど消え失せ、代わりに傷からぽたぽた零れる闇色の粒がまるで血液のようだ。

 

 

「チェリー」

 

 

ニコが、足を踏み出しながら静かな声で呼びかけた。

 

 

「もう、終わりにしよう。辛くて、苦しいだけのゲームなんて、続ける意味ないよ」

 

 

ニコの言葉を聞き、ハルユキも覚悟を決めて隣に並び立つ。

 

 

「ニコ、今度は撃てるよな。《断罪の一撃》を」

 

 

「......くどい。撃つさ。あいつのために」

 

 

「なら...」

 

 

ハルユキはそう言って、アイテムストレージから《クローズドライバー》を選択する。

 

 

アイテムストレージから選択された《ビルドドライバー》は、ハルユキの目の前に実体化する。

 

 

ハルユキは、ビルドドライバーを腰に装着する。

 

 

「ニコがちゃんと撃てるように、クロム・ディザスターを弱らせる」

 

 

一瞬絶句してから、ニコは小刻みに首を振った。

 

 

「ひ...1人じゃ無理だ!傷ついていると言ってもまだあれだけ動けるんだ。掴まれたら逆に喰われるぞ」

 

 

「......」

 

 

ハルユキはちらりと、ずっと南のクレーター外縁に横たわったままの漆黒の姿を見やった。

 

 

すぐに視線を戻し、力強く言う。

 

 

「俺は、喰われるつもりはない!」

 

 

ハルユキはさらに、アイテムストレージからクローズドラゴンを選択する。

 

 

クローズドラゴンは実体化するなり、ハルユキの周りを旋回する。

 

 

「ギャオー!!」

 

 

旋回していたクローズドラゴンがハルユキの手に収まり、クローズドラゴンにずっと握っていたドラゴンフルボトルを装填し尻尾側のボタンを押す。

 

 

『ウェイクアップ!!』

 

 

ハルユキはクローズドラゴンを、ドライバーに装填する。

 

 

『クローズドラゴン!!』

 

 

「はあああああ!!」

 

 

ハルユキばドライバーのレバーを回すと、スナップライドビルダーが展開された後、ドラゴンハーフボディが前後に生成される。

 

 

「な...なんだよこれ」

 

 

突然の出来事に、ニコは驚愕する。

 

 

『Are you ready?』

 

 

「変身!!」

 

 

ハルユキの掛け声の後、前後に生成されたドラゴンハーフボディが結合される。

 

 

『Wake up Burning!Get CROSS-Z DRAGON! Yeah!』

 

 

その後、追加ボディアーマー《ドラゴライブレイザー・フレイムエヴォリューガー》が上半身と頭部を覆うことで、ハルユキはシルバー・クロウから仮面ライダークローズへと変身する。

 

 

「な...、な...」

 

 

あまりの驚愕に、ニコは言葉を失った。

 

 

「今の俺は!負ける気がしない!」

 

 

ハルユキはそう叫ぶと同時に、クロム・ディザスターに立ち向かう。

 

 

「グルゥアアアアアア!!」

 

 

クローズに変身したハルユキに脅威を感じたのか、クロム・ディザスターもハルユキに襲い掛かる。

 

 

剣がなくなったことで、鋭い五指を使いハルユキを捕まえようとする。

 

 

もの凄いでクローズに接近し、五指を揃えてクローズの胸を貫こうとする。

 

 

「危ない!逃げろ!」

 

 

貫かれると思ったニコは、思わず叫ぶ。

 

 

だが、ハルユキは微動だにしなかった。

 

 

クロム・ディザスターの五指がハルユキを貫くと思った瞬間、クローズは動いた。

 

 

左に少し飛ぶ事で攻撃を避け、着地すると同時に左足を思い切り踏みしめ、がら空きになった腹部にミドルキックを放つ。

 

 

「グルゥアアアア!」

 

 

蹴りを喰らい、クロム・ディザスターは先程よりも吹き飛んだ。

 

 

吹き飛んだクロム・ディザスターを、クローズは追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

その様子をずっと見ていたニコは、信じられない様子で2人を見ていた。

 

 

「驚いているみたいだな」

 

 

その時、負傷して気絶していた黒雪姫が、目を覚ましニコに近づいた。

 

 

「何なんだよ、あれ...」

 

 

「あれこそが、ハルユキ君の強さの秘密だ」

 

 

黒雪姫はハルユキの戦いを見ながら、尚も話し続ける。

 

 

「彼こそが杉並を守る戦士の1人、《仮面ライダー》だ」

 

 

「仮面ライダー...あの都市伝説の...」

 

 

衝撃の真実に、ニコは我が目を疑った。

 

 

「彼は加速世界で戦うのと同時に、現実世界でも戦っていたのだ」

 

 

ボロボロになって動けないニコは、黙って黒雪姫の言葉を聞いていた。

 

 

「彼の力の源は、誰かを思う気持ち。今、彼は君を思って戦っているんだ。見せて貰おうじゃないか...誰かを思いながら戦う彼の戦いを...」

 

 

 

 

 

クローズは吹き飛んだクロム・ディザスターに追い付くと、ちょうど起き上がろうとしていた所だった。

 

 

すると、またしてもクロム・ディザスターはクローズに対して手をかざした。

 

 

警戒するクローズだったが、謎の引き寄せられる力が襲った。

 

 

「うわっ!」

 

 

謎の吸引力に襲われるが、クローズは足を踏ん張ることで何とか耐えていた。

 

 

チチッ、チチッ。

 

 

その時、何かが擦れるような音が聞こえた。

 

 

「なっ!」

 

 

クローズは見開いた両眼で、それを視認した。

 

 

クロム・ディザスターの手から、クローズの胸にかけてごくごく細い黄色のラインが、一瞬きらめくのを。

 

 

それは、ビームではない。

 

 

《混沌》ステージの雷雲による閃光により、反射したワイヤーだった。

 

 

ハルユキの脳裏に、先の激戦でクロム・ディザスターが見せた奇妙なグリップ技がフラッシュバックした。

 

 

黄のレギオンの遠距離アバターや、黄系アバターが、鎧の広げられた掌に有無を言わさず吸い寄せられたあの技。

 

 

両の掌から発射される、アンカーつきの極細のワイヤーを対象物に打ち込み吸い寄せる。

 

 

あるいは固定物に打ち込み自分をそれに引き付ける。

 

 

ニコが言っていた長距離ジャンプと空中での軌道制御も、同じ原理だろう。

 

 

だったら、それを利用するまでだ!

 

 

「はあああああ!!」

 

 

クローズは踏ん張りながらも、ビルドドライバーのレバーを再度回す。

 

 

『Ready go!』

 

 

背後に、クローズドラゴン・ブレイズが出現する。

 

 

『ドラゴニック・フィニッシュ!』

 

 

ドラゴンが放つ炎を纏い、大きく飛び上がる。

 

 

飛び上がるのと同時に、ワイヤーの吸引力によってクロム・ディザスターに引き寄せられる。

 

 

クローズはワイヤーの引き寄せる力を利用し、クローズの必殺技に勢いを付けた。

 

 

「うおおおおお!!」

 

 

叫ぶと同時に、鎧の喉首にドラゴンの炎を纏ったボレーキックを叩き込んだ。

 

 

鈍い金属音と共にヘルメットの下半分が吹き飛び、闇色の牙も形を崩す。

 

 

その体制のまま、クローズはボレーキックを蹴り切れないでいた。

 

 

なぜなら。

 

 

ディザスターのヘルメット内部の闇が完全に飛び散り、その奥から何かが現れたからだ。

 

 

それは、明るいピンクの色彩を持つ、シンプルなデザインのマスクだった。

 

 

横長の楕円形の眼がおぼろに瞬き、口元から小さな声が漏れた。

 

 

あどけなさの残る、男の子の声だった。

 

 

「......ぼくは...強く...なりたいんだ。それだけなんだ...」

 

 

ハルユキは眼を見開いた。

 

 

まるで覗き込むように視線を合わせ、桃色のアバターは更に呟いた。

 

 

「君なら...解ってくれるよね?君も、力が......欲しいんだろう......?」

 

 

その言葉を利いた途端――。

 

 

自分の体の奥深くから、猛烈な熱量を持った感情が噴き上げて来るのをハルユキは感じた。

 

 

それは怒りだった。

 

 

圧倒的な憤激だった。

 

 

「強くなりたい......だって?」

 

 

鎧の首元に突き刺さる右足に全神経を集中させたまま、ハルユキは言った。

 

 

声はたちまち、迸るような叫びへと変わった。

 

 

「だから全部許されるって言うのか!?その鎧を着て、大勢のアバターを襲って、自分の子であるニコまで喰おうとしたことが正当化されるって言うのか!!」

 

 

強さとは断じて相対的なものではない。

 

 

対戦に勝つとか負けるとか、誰より上だとか下だとか、そんな皮相な基準など無価値だ。

 

 

自分だ。

 

 

唯一絶対の基準は自分の中だけにある。

 

 

「そんなものは強さじゃない!」

 

 

ハルユキはありったけの声を振り絞り、叫んだ。

 

 

「強さというのは、生半可な気持ちで手に入れるものじゃない!大いなる力には、大いなる責任が伴うんだ!お前になかっただけだろ!?責任を背負う心の強さが!」

 

 

ヘルメットに収まるアバターは、もう何も言わなかった。

 

 

クローズは必殺技のボレーキックをそのまま蹴り抜き、クロム・ディザスターは巨大な爆発を引き起こした。




はい!如何だったでしょうか!



そして!言い忘れておりましたが、前回で投稿してから1年が経ちました!



思った感想は、1年で2章なら今出てる最新刊まで何年かかるのでしょうか?



まぁ...深く考えないように、しようと思います。



最近、暑くなっていますので、暑さ対策は気をつけてください。



私はハピネスチャージを投稿した後、しばらく体調不良になり地獄を見ました。



皆さんも気をつけてください。



それでは次回、アクセル・ビルド 2章第8話、又は激獣拳を極めし者第23話でお会いしましょう。



それじゃあ、またな!

文字数の調度いい長さを教えてください!

  • 7000~10000 第3章第3話参考
  • 10000~15000 第2章第8話参考
  • 15000~20000 第3章第2話参考
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