千百合「現実では仮面ライダークローズとして戦い、仮想世界ではシルバー・クロウとして戦う有田春雪は、クローズとなってクロム・ディザスターと戦い無事撃破することに成功したのでありました」
美空「にしても、話には聞いていたけどクロム・ディザスターがここまで凶暴だとはね」
千百合「うん、私もあんなのとは戦いたくないわね。あれ?そういえば兎美はどうしたの?」
美空「ああ、兎美だったら...」
兎美「う...ぐはっ」
千百合「ああ...まだ毒で苦しんでたんだ」
美空「その辺も、今回でどうなるか分かるでしょ」
千百合「さて、どうなる第8話」
兎美「てか...早く...私を助けなさいよ...」
クローズの必殺技が繰り出され、爆発が起きた後。
先程までクロム・ディザスター居た場所に、横たわる小型のアバターが見えた。
チェリーピンクの装甲は完全に焼け焦げ、左手と右足が欠損している。
どこかユーモラスな印象のある楕円形のアイレンズに、ごくかすかな光が不規則に灯っては消える。
あまりにも無力で、痛々しい姿だった。
あのアバターが、凶悪な鎧をまとって無慈悲な殺戮を繰り返したとはとても信じられなかった。
その時、後ろから小さな足音が近づいてくるのに気付いた。
「...やったな、シルバー・クロウ。あとは...任せな」
小型のアバターに近づいていく赤の王の細い背中を、クローズは黙って見詰め続けた。
付いていこうかと考えたが、すぐに思い直す。
あの2人の最後の会話は、何ぴとも盗み聴いてはいけないものだという気がした。
同じ赤系で、サイズも殆ど変わらない2つのデュエルアバターは、片や横たわり、片や立ったまま、しばし言葉を交わしているようだった。
やがて真紅の少女型アバターが、薄桃色の少年型アバターの傍らに跪き、左腕でぼろぼろのボディを抱え起こしてぎゅっと強く抱いた。
右手の拳銃がそっと持ち上げられ、少年の胸に銃口が押し当てられた。
《断罪の一撃》は、その名前に比して音も、光もささやかだった。
しかし仮想の銃弾がアバターを貫いた瞬間、これまでクローズが見たことのない現象が発生した。
少年のアバターが、無数のリボンのようにばらりと分解したのだ。
それは全て、発光する微細なコードの連なりだった。
《チェリー・ルーク》という名で呼ばれたデュエルアバターを構成する全情報が、解け、分かたれて、加速世界の空に溶けていく。
およそ10秒後、ニコの腕の中には、もう何も存在しなかった。
真紅のアバターは、がしゃりとその場に座り込み、宵闇にほぼ完全に覆われた空を振り仰いだ。
その時ニコに向って、クローズは歩き始めた。
ニコの右後ろに辿り着き立ち止まったが、混ざり合う様々な感情が胸を塞いで、言葉が出てくるのを妨げた。
やがて、ぽつりとニコが呟いた。
「......あたしとチェリーは、親を知らねぇんだ」
「......?」
咄嗟には意味を理解出来なかった。
息遣いで問いかけると、言葉が静かに繋げられた。
「親っつっても、ブレイン・バーストのコピー元のことじゃねぇよ。現実世界の...本物の親さ。前に、あたしの学校が全寮制だっつったろ。正確には《遺棄児童総合保護育成学校》だ」
ぺたりと座り込んだままのニコが淡々と発する言葉を、クローズは無言で聞くことしか出来なかった。
新生児の無条件引取り制度が、病院などで開始されたのは今世紀の初頭あたりのことだ。
加速する少子高齢化への対策への一環として、その制度は2030年ごろには法制化され、各地に保護施設を兼ねた学校が作られた。
たしか、赤のレギオンが支配する練馬区にも1校存在したはずだ。
「あたしは...この性格だからよ。学校でも周りと馴染めねぇで...いつも独りでVRゲームばっかやってたんだ。でも、3年前...ふたつ上の男子がいきなり話しかけてきてさ、もっと楽しいゲームがあるからやらないか、って」
はは、と小さく笑いを漏らし、ニコは続けた。
「そんな誘い方で、あたしもよく直結なんかさせたよな。でもさ......、あいつ、顔真っ赤にして、笑っちゃうほど一生懸命でさ。そういうとこは、あたしがバーストリンカーになってからも変わらなかった。すげぇ真剣にあれこれ教えてくれて、ヤバイ時は盾になって守ってくれたりもした。でも...そのうち、あたしのレベルが追いついて...追い抜いて...気付けばレベル9なんかになっちまってよ。レギオンマスター押し付けられてからはあたしも必死で......あいつが何考えてるとか、悩んでるとか、まるで気にもしなかった。リアルで...学校で会う時、様子がおかしいのにすら、あたしは気付かなかった......」
ニコの右手が、じゃり、と地面を掻いた。
俯き、肩を震わせて、年若い王は細い声を絞り出した。
「......あいつは、ずっとあたしの《親》でいたかったんだ。あたしに《子》でいて欲しかったんだ。だから力を求めた。《災禍の鎧》の誘惑に負けた。あたしが...あたしが、たったひと言でも、ちゃんと言ってやりさえすれば......レベルなんか関係ない、あんたはあたしのたった1人の《親》で...それは、永遠に、変わらない......って......」
そのまま背中を丸め、小さくうずくまって、うっ、うっ、と嗚咽を漏らすニコに――。
クローズは、かけるべき言葉をしばし見つけられなかった。
バーストリンカーの《親子》関係。
その重さは、同じものによって黒雪姫と繋がるクローズも理解しているつもりだった。
しかし、ニコとチェリー・ルーク、本当の親を知らない2人にとっては、まさしく唯一手にできた確かな絆だったのだ。
それを今、ニコは自らの手で断ち切った。
そうせざる得なかった。
こみ上げてくるのを懸命に呑み下し、クローズは膝を突くと、ニコの肩にそっと手を置いた。
「ニコ、確かに...ブレイン・バーストは、ただのゲームじゃない。でも...僕らの現実の全てでもない」
考えに考え、そう語りかけると、悲痛な嗚咽がわずかに音を低めた。
「僕は、現実の黒雪姫先輩を知ってるんだ。顔を、名前を、声を知っているんだ。その絆は、何があろうと消えたりしない。だってデータじゃないんだ。僕の心の中に刻まれてるんだ。だから君も、現実世界で、もう一度彼と仲良くなればいい。できるはずだよ...加速世界では別のレギオンの君と僕らだって、現実世界では、ちゃんと友達になれたんだから」
低くむせび泣く声は尚もしばらく続いたが、やがて宵闇を吹き抜ける微風に溶けるように消えていった。
最後に一際激しく背中を震わせ、右腕でアバターの眼を拭ったニコは、そのまま肩に掛かるクローズの手をぱしっと振り払った。
「友達......だとぉ?」
その声は掠れ、震えていたが、あのふてぶてしい響きをほんの少しだけ取り戻していた。
ぐいっと立ち上がり、赤いレンズでクローズを見下ろして、幼い王は言い放った。
「百年はえーよ!てめーは精々あたしの手下になれたかどうかっつうとこだかんな!調子乗んなよ!!」
「え...ええ!」
そりゃないよ、と続けようとしたクローズの言葉を、背後で冷たく響いた声が遮った。
「おい、誰が誰の手下だと?」
ひぃっ!と振り向いたクローズの眼に、全身ぼろぼろではあるが、しっかりと立つ漆黒のアバター ――ブラック・ロータスの姿が飛び込んだ。
そして、その左腕を支える青藍のアバター、シアン・パイルも。
「せ...先輩!タク!!」
叫び、クローズは飛び上がるように2人に駆け寄った。
「大丈夫ですか先輩...それにタク、どうして...」
言いかけてから、やっと思い出す。
黄のレギオンとの戦闘に入る直前、タクム自身が言っていた。
この無制限フィールドで死んだバーストリンカーは、1時間の待機ペナルティののちに同じ場所で蘇生する――つまり、いつの間にかもうそれだけの時間が経っていたのだ。
「タク......ったく、あんな無茶しやがって...」
ぼやくと、タクムも片手を広げて言い返してきた。
「そういうハルこそ、クロム・ディザスター相手にその力を使ってサシで戦うなんて...無茶しすぎだよ」
「無茶は師匠譲りだよ」
その師匠はと言えば、シアン・パイルの手から離れると、片脚でぶいんとホバー移動してニコのすぐ目の前に立ちはだかった。
右手の剣先をひょいひょいと振り、黒雪姫はどこか
「さてと、スカーレット・レイン。何か私に言うべき言葉があるんじゃないか?」
「・・・・・・・・・」
しばしぷるぷる右拳を震わせていた赤の王は、やがてぷいっと顔を背け。
「ワリ」
「おい、それだけか!......まったく、これだから子供は......」
「て、てめーこそ、あたしらが苦労してバトってるあいだ、
「......なんだと?そもそも戦っていたのはハルユキ君であって、お前じゃないだろう!」
「なんだ、やっか?」
顔を突き合わせ、赤と青紫の火花を散らす2人の王を、クローズとタクムはまあまあまあと必死に押し分けた。
――と。
不意に一際強い風がサンシャインシティの巨塔を吹き降ろしてきて、クローズは思わず眼を瞑った。
「お」とニコが呟く声がした。
続けて黒雪姫が。
「ほら、ハルユキ君、見たまえ。《
「へ...へんせん?」
訊き返しながら顔を上げたクローズが見たのは――。
世界がその様相を急速に変えていく、とてつもない光景だった。
青黒い鋼と荒涼たる地面だけが広がっていた魔都が、東の方向から、オーロラのような光のヴェールに覆われていく。
その幕に撫でられた、寒々しい鋼材剥き出しの街並みが、太い幹を持つ大樹の連なりへと姿を変えた。
樹にはウロを利用した出入り口や、幹を取り巻く階段が設けられ、太い枝から枝へと吊り橋が渡されている。
まるで、ファンタジー映画に出てくる
幾重にも茂る葉は、夜闇の中で薄青い燐光に包まれ、森の底を照らし出す。
呆然と立ち尽くすクローズの目の前に虹色のオーロラが迫り、ごうっと音を立てて全てを包み、背後へと抜けていった。
「あ...さ、サンシャインが......」
一瞬前までは魔王の住まう巨塔があった場所に、天を衝くが如き巨大な樹が聳え立っているのを見て、クローズは息を呑んだ。
全緑色に苔むした幹が、ごつごつと節くれだちながら垂直に飛び上がり、遥か上空の雲へと梢を溶かしている。
幹のそこかしこには小型の森のようなテラスが張り出し、青い光の粒が地上へと零れる。
まさしく世界樹というべき威容だ。
しかし、いったいなぜフィールドにこんな変化が。
問いかけるように視線を向けると、黒雪姫は傷ついたアバターに微笑みの色を漂わせ、答えた。
「ほら、最初にこのフィールドにダイブした時、私が属性は《混沌》だと言ったろう」
「え...ええ、そう言えば...」
「あれはつまり、この世界の属性は一定時間で移り変わるという意味だ。しかし大抵は殺伐とした眺めばっかりだからな。キミは運がいいぞ、こんなに美しい姿を見せてくれることはそうそうない」
「ええ...、ええ」
クローズは、匂いまでも甘く変わった空気を胸いっぱい吸い込み、何度も頷いた。
辛く、苦しい戦闘の連続だったけれど、でもこの場所に来られて良かった、と初めて感じた。
――僕はまだ、ここで戦うには力不足だ。けれど、いつかはこの世界の空を自由に飛べるくらい強くなってみせる。
いつか、きっと。
「...もう一回抱えて飛んでくれよ、と言いたいとこだけどな。《変遷》が起きるとエネミーもごっそり再湧出(リポップ)すっからな、今うろつくと危ねぇ、ここは、大人しく帰ろうぜ」
ニコの声に、黒雪姫も頷いた。
「そうしよう。...おっと、その前に。大事な事を忘れる所だった」
ぐるりと一同を見渡し、厳しさを増した声で続ける。
「...全員、ステータス画面を開き、アイテムストレージを確認しろ。そしてそこに《災禍の鎧》があったならば...絶対に消し去れ。2度と、同じことが起きないように」
はっ、とハルユキは眼を見開いた。
そうだ、それだけは確認せねばならない。
2年半前、先代のクロム・ディザスターが純色の七王の手によって討伐された時、王達もまったく同じ事をしたはずだ。
そして全員が、鎧は移動していない、申告した。
しかしそれは虚偽だった。
証拠はないが、鎧は黄の王イエロー・レディオのストレージにドロップしていたのだ。
黄の王はそれを隠匿し、最近になって赤のレギオン所属のチェリー・ルークに接続して、鎧を与えた。
鎧の魔性によって不可侵条約を破らせ、その罪をニコの首で購わせるために。
黒雪姫の言う通り、同じ悲劇を二度と起こしてはならない。
クローズは右手を伸ばして自分のHPゲージをタッチし、聞いたステータス画面からアイテムストレージへと移動した。
窓には――現在使用している『ビルドドライバー』と『クローズドラゴン』の2つしか無かった。
どれほど食い入るように見ても、他に文字列はひとつも存在しない。
「......ありません」
顔を上げ、ハルユキがそう答えたのに続き、ニコが「あたしも」タクムが「僕もです」と首を振った。
最後に黒雪姫が「私もない」と呟き、4人は一瞬沈黙した。
五代目のクロム・ディザスターであるチェリー・ルークは、ニコの《断罪の一撃》により確かにブレイン・バーストを強制アンインストールされた。
強化外装は、持ち主がポイント全損すると、一定確立で倒した者のストレージへと移動するという。
ならば今回は、ついに移動せずに完全消滅した――のだろうか。
他人のステータス画面は不可視なので、この場の誰かが黄の王のように鎧を秘匿しているという可能性はある。
しかし。
「消えたんです、今度こそ」
クローズは、はっきりした声でそう告げた。
すぐにニコも肯定した。
「ああ、レディオの野郎じゃあるまいし、あいつと...ディザスターと戦って、なお自分のものにしようってバカがここにいると思えねぇ。《災禍の鎧》は消えたんだ、あたしらが完全に破壊したんだ」
「ええ...あの爆発は、南池袋からも見えました。消滅したっていう証、でしょうね」
タクムも頷き、最後に黒雪姫もしっかりと宣言した。
「よし、黄の王との決着は次回以降に持ち越したが、とりあえずはこれで――ミッション・コンプリートだ。さあ、帰って祝杯を上げようじゃないか」
「おっ、じゃあシャンパン開けようぜシャンパン」
「馬鹿者、子供はジュースを飲め」
またしても言い合いををしながら、2人の王が歩き出す。
タクムとハルユキも、苦笑しながら後を追う。
世界樹の根元には大きな洞が開き、その奥に、鋼の塔だった時にも見えた青い光が灯っていた。
渦を巻いて輝く《離脱ポイント》を目指して、一行の最後尾を歩くクローズの耳に――。
ドクン!
ふと、鼓動のようなものを聞いた。
「......え?」
思わず胸に手を当てた。
だが今のは、自分の鼓動では無かった。
「どうかしたの、ハル?」
タクムの声に、慌てて向き直り、首を振る。
「いや、なんでも!...あー、なんか普通の《対戦》の10倍疲れたよ。ハラへって...もうだめ...」
「おいおい、言っとくけど、現実世界じゃほんの何秒か前にケーキ食べたばっかだよ僕たち」
「げー、忘れてた...」
親友と軽口を叩きながら、太い根に囲まれたエントランスをくぐる。
世界樹の根元は広大な半球状のドームとなっていた。
その中央に、蜃気楼のように現実世界の池袋の光景を封じ込めた青いポータルが浮かんでいる。
3人の仲間達に続いて数歩進んでから、クローズは後ろを振り返った。
......気のせい、だよな。
胸のうちで呟き、すぐにまた前を向く。
しかし、ハルユキは知る由も無かった。
まさに先ほど、クロム・ディザスターのワイヤーが触れていた場所、胸の位置で赤い光が鈍く光っている事に。
シルバー・クロウの中で、何かが生成されようとしてる事に。
ゆっくり回転するポータルに飛び込む瞬間、奇妙な声がもう一度頭の後ろ側で響いた。
それは、こんなふうに聞こえた。
―――喰イタイ。
☆★☆★☆★
ハルユキが眼を開けると、そこは自分の家のリビングだった。
「さて...色々あったが、ようやく終わったな」
眼を開け、黒雪姫は開口一番にそう呟いた。
「えぇ、最初はどうなるか解らなかったですけど」
黒雪姫の呟きに、タクムが返答する。
「先程も言ったが、まずは祝杯を上げるか」
「じゃあ、冷蔵庫に何か無いか探して...「ちょっと待て」」
黒雪姫の言葉を聞き、さっそく冷蔵庫に探しに行こうとしたハルユキだったが、ニコに止められた。
「どうした?シャンパンなら飲めないぞ」
「違ぇよ、そんなことじゃねぇ。そいつに関して聞きたい事があんだよ」
そう言ってニコは、ハルユキを指差す。
「聞きたいこと?僕に?」
「とぼけてんじゃねぇ!仮面ライダーの事だ!」
それで、ハルユキ達はニコの意図を理解した。
「説明してもらおうか、仮面ライダーの事を」
その後、ハルユキによって仮面ライダーについて説明をした。
兎美が記憶喪失な事、人体実験された事、スマッシュの事、ファウストの事。
今まであった事を全て話し終えると、ニコは腕を組んで沈黙していた。
しばらく黙っていたニコだったが、ようやく口を開いた。
「なるほどな、杉並で噂になっている怪物騒動が本当の事だったのか」
一気に教えたせいかニコ自身も、少し混乱しつつあった。
「それにしても...兎美の奴が記憶喪失ねぇ...その記憶を取り戻すためにお前らは戦っているという訳か」
「信じられない話ですけど、全て本当の話なんです」
「あれを見た後で、信じないわけねぇだろ」
信じていないと思ったタクムだったが、実際にハルユキの変身を見たニコにとって、それは杞憂だった。
「それで葛城巧未を調べるのに、兎美が調べに行っているという事か」
「ああ、そうだよ」
「何か情報を手に入れればいいのだが...」
そんな話をしている時だった。
ピピピッ!
いきなり全員の画面に、大音量のメッセージ音とメッセージアイコンが現れる。
「うおっ!」
「な、なんだいきなり!」
いきなりの出来事で、王2人は思考発声ではなく思わず声に出してしまった。
「ああ、すみません僕にメッセージが届いたみたいです」
直結したままだったせいか、ハルユキに届いたメッセージが全員の画面に現れたのだ。
「お前、なんつー音量で設定してんだよ」
あまりの音量に、ニコが突っ込みを入れる。
「いや、スマッシュの目撃情報もメッセージで来るから、わかりやすくしようと思って」
ハルユキはそう言いながら、ハルユキは届いたメッセージを開いた。
「ブラッド・スターク?」
宛名がブラッド・スタークとなっており、ハルユキは見覚えが無かった。
メッセージには、港区にある工場地帯に今すぐ来るように書いてあった。
他にも、工場の住所が記載されていた。
「何だよこれ、明らかに罠じゃねぇか」
「こんな明らかさまの物に、誰が掛かるんだ」
直結したままなので、黒雪姫達にもメッセージは見えていた。
「これは...」
ハルユキはその時、メッセージが全部表示されていない事に気付いた。
ハルユキが上にスクロールするが、中々一番下までいかなかった。
「どんだけ下まであるんだ、このメッセージは」
あまりの長さに、黒雪姫が突っ込みを入れる。
「あっ!ようやく終わるみたいですよ」
ハルユキが一番下までスクロール仕切ることに気付いたタクムは、そう呟いた。
メッセージの一番下には、1枚の画像が添付されていた。
「!」
その画像をみた瞬間、ハルユキの内側から怒りがこみ上げられるのと同時に、ケーブルの取り外しリビングから出て玄関へと向かった。
「待てハルユキ君!これは罠だ!」
「まずはこの写真が本物かどうか調べるんだ!」
黒雪姫とタクムがハルユキを止めようとするが、ハルユキは静止の言葉を聞くことなく、外へと飛び出した。
添付されていた写真には、顔のあちこちに紫色の痣が広がっている兎美が写っており、『この娘がどうなってもいいのか?』という文字が書かれていた。
☆★☆★☆★
兎美とは違い移動手段のないハルユキは、タクシーを使って指定された場所に向かった。
指定された工場地帯に着くと、所々破損している箇所がある戦闘跡があった。
ハルユキは辺りを見渡し、一番酷い破損箇所を探す。
スマッシュとの戦闘だとすれば、止めを刺した際に爆発が発生している可能性があるからだ。
その予想は当たっており、一箇所だけ被害が酷い場所があった。
ハルユキはその場所に駆け出すと、地面に倒れている兎美を発見した。
「兎美!」
ハルユキは急いで駆け寄ると、兎美を抱き起こし揺さぶり起こそうとする。
「兎美!しっかりしろ!」
起こそうとするも、兎美は全然目を覚まさなかった。
画像に写っていた紫色の痣は顔だけでなく、体中にも広がっていた。
息遣いも荒く、早く助けなきゃ危険な状態だった。
だが、ハルユキには解毒等出来る筈もなかった。
病院に連れて行こうにも、移動手段として使ったタクシーは既にいなくなっており、今からタクシーを呼んでも間に合うか分からない。
どうしようか途方に暮れていたハルユキだったが、その時聞きなれた鳴き声がハルユキの耳に入った。
「ギャオ―――!!」
上空からハルユキを追ってきたのか、クローズドラゴンが飛んできているのをハルユキは視認した。
「ドラゴン!?お前なんで!?」
驚いているハルユキを他所に、クローズドラゴンは兎美に近づくと露出している首に噛み付いた。
「おい!お前何して...!?」
いきなり噛み付いたドラゴンに驚くハルユキだったが、驚きの光景を目にする。
チュー、チュー。
という音がドラゴンから聞こえており、ドラゴンは何かを吸い上げていた。
よく見ると、兎美の体中に広がっていた紫色の痣がドラゴンが噛み付いている首元に集まっていた。
痣が集まり、やがて体から消える。
ハルユキが兎美の顔を見ると、先程の荒かった息遣いも安定したものに変わっていた。
ぺっ。
ピシャ。
ドラゴンは、口から吸い出した血を吐き出す。
「お前凄いな」
吸い出すことで毒を消し去ったドラゴンに、ハルユキは驚愕する。
これであとは家に連れて帰って休ませるだけ、そう考えていたハルユキだったが。
「白馬の王子様のお出ましか」
その場に、ハルユキが知っている誰のものでもない声が響いた。
ハルユキは声のした方へ視線を向けると、そこには血のように赤いワインレッドの装甲を纏った仮面ライダーのような存在が佇んでいた。
「誰だお前は」
ハルユキは油断することなく、その謎の人物に向って叫んだ。
「私か?私はブラッド・スターク」
「ブラッド・スターク?」
自己紹介した相手の名前に疑問を持つ。
しばらく思考したハルユキだったが、先程届いたメールを思い出した。
「ッ!さっき俺にメールを送ってきた、メールの差出人!」
「正解だ!ご褒美に遊んでやるよ」
そう言うと、ブラッド・スタークは銃を取り出しハルユキ達目掛けて発砲する。
「うわっ!」
ワザとなのか、ただ外しただけなのか、銃弾はハルユキ達に当たることなく地面に着弾した。
ハルユキは咄嗟にまだ眠っている兎美を抱きかかえ、端に移動する。
移動する間も、ブラッド・スタークは攻撃する手を止める事無く狙撃を続ける。
ハルユキはブラッド・スタークの死角になっている場所まで移動すると、そこに兎美を寝かせもう一度前へ飛び出す。
「おっ?お姫様は隠し終わったのか?」
何処かふざけた口調で、ブラッド・スタークは話しかけてくる。
「うるさい!よくも兎美を......絶対に許さない!」
ブラッド・スタークに向って叫ぶと同時に、ビルドドライバーを取り出して腰に装着する。
「ギャオー!」
クローズドラゴンがハルユキの手の中に納まり、ドラゴンフルボトルを装填する。
『ウェイクアップ!!』
ドラゴンをドライバーに装填する。
『クローズドラゴン!!』
ドライバーのレバーを回すと、ドラゴンハーフボディが前後に生成される。
『Are you Ready?』
「変身!」
掛け声の後、ハーフボディが結合される。
『Wake up Burning!Get CROSS-Z DRAGON! Yeah!』
ハルユキは仮面ライダークローズへと変身する。
「今の俺は...負ける気がしねぇ!」
いつもなら負ける気がしないと言う所を、怒りからかいつもより口調が荒々しくなっている。
するとクローズの変身を確認したブラッド・スタークは、両腕から蛇の尻尾状の針《スティングヴァイパー》をクローズ目掛けて伸ばす。
その攻撃を、クローズは横に転がることで避ける。
クローズは立ち上がると、拳を握りブラッド・スターク目掛けて飛び掛る。
「はあ!」
クローズの一撃を、ブラッド・スタークは片手でガードする。
驚きながらも、クローズはさらに攻撃を仕掛ける。
右、左と立て続けに攻撃を仕掛けるも、全てがガードされてしまう。
そのまま、クローズは裏拳を繰り出すが、ブラッド・スタークは後ろに仰け反ることで回避する。
仰け反った事によって、少し隙が出来たのをクローズは見逃さなかった。
相手の胸元に向って、蹴りを入れる。
蹴りを食らったブラッド・スタークは、少し後ずさった。
追撃しようと大振りに拳を振るうが、簡単に受け止められてしまう。
「はあ!」
「ぐおっ!」
今度はお返しにブラッド・スタークが後ろ回し蹴りを、クローズの胸元に繰り出した。
クローズは大きく吹っ飛ばされ、地面を転がった。
「くそ!」
クローズはレバーを再度回し、必殺技の体制に入った。
『Ready Go!』
クローズの後ろに、クローズドラゴン・ブレイズが出現する。
『ドラゴニック・フィニッシュ!』
ドラゴンが放った炎を纏い、ブラッド・スターク目掛けて必殺技を繰り出す。
必殺技はブラッド・スタークに直撃し、大きく吹っ飛ばす。
はずだった。
「なっ!?」
クローズの必殺技は、ブラッド・スタークの左手のみで防がれていた。
「良いキックだ」
ブラッド・スタークは、そのままクローズを横に投げ飛ばした。
「ぐぅっ」
クローズは必殺技を受け止められるという、信じられない出来事に混乱し、受身を取ることを忘れ背中から落ちてしまう。
「ハザードレベル3.4て所だな、まだまだ伸びそうだ。じゃあな」
まるで友人に別れを告げるように、ブラッド・スタークは手を挙げてそのままその場を立ち去った。
「ふふふ、はっはっはっは!」
その場にブラッド・スタークの笑い声が響いた。
「何なんだ...あいつ」
☆★☆★☆★
土曜日。
ブラッド・スタークとの戦いを終えた後、兎美を連れて帰ったハルユキ。
皆の静止を聞く事もなく飛び出したことで、心配されてしまった。
黒雪姫からは小言を言われてしまったが、ハルユキは後悔していない。
現在ハルユキは、学校からの帰路についていた。
自宅のマンションのドアを開けると、まだほんの少しだけ甘い匂いの残る空気がハルユキを包んだ。
しんと静まり返った薄暗い廊下は、兎美達がいるはずなのに静まりかえった廊下にハルユキは疑問府を浮かべる。
あんなことがあった為、兎美には家にいるように言いつけたので家にいないはずはない。
いつもならリビングからテレビの音や、兎美と美空の話し声が聞こえている。
だが、今日はその音も聞こえない。
「ただいま」
呟き、靴を脱ぐと、ハルユキは無人のリビングに続くドアを開けた。
母親は今日の午前中に海外出張から帰ったはずなのだが、どうやらスーツケースだけを置いてすぐに出社したらしい。
まったく信じられないバイタリティだ。
制服の上着を脱ぎ、ネクタイと一緒に椅子の背にかけたところで、ハルユキは視界の隅に点滅するアイコンに気付いた。
例によって、ホームサーバーに母親がメッセージを残していったのだ。
冷蔵庫から烏龍茶のボトルを出しながら、音声コマンドでメッセージを再生する。
かすかなノイズが聴覚に触れ、母親の肉声が続く。
【――ハルユキ、今日も遅くなるか、もしかしたら帰れないから。今兎美ちゃん具合悪いみたいだから、代わりにスーツケースの中の服、クリーニングに出しておいて頂戴。あ、それと、悪いんだけどまた子供預かることになっちゃったのよ。今度は同僚の子なんだけどね、1晩だけだから面倒見てやって、お願いね。ハルユキが帰ってくる頃にはもう家に着いてるはずだから。じゃ、よろしく】
――――なんだって?
烏龍茶のグラスを傾けたまま、ハルユキは凍りついた。
まさか。
嘘だろ。
いくらなんでも。
ごくん、と一口だけ飲み、グラスを置く。
息を殺し、そっとあたりを見回す。
リビングも、キッチンも、完全に無人だ。
照明も消えていたし、空気もひんやりしている。
ハルユキが昨夜必死に片付けたので、一昨日のレトロゲー大会の惨状はもう跡形もない。
息を殺し、尚もきょろきょろ視線を走らせるハルユキの耳に――。
どこかから、かすかに、しかし確かにけたけた笑う声が聞こえた。
「......嘘、だろ......」
呻くと同時に、脱兎の如くリビングから飛び出し、廊下をダッシュし、突き当たりにある自室のドアを押し開ける。
そしてハルユキは、大きく息を吸い込み、悲鳴を上げた。
「ギャ――――ッ!!」
自分のベッドの上に。
ごろりと横になり、脚を組み、秘匿場所から引っ張り出した前世紀のペーパー・コミックの山の中でその1冊を捲っている、真っ赤な出で立ちの女の子が。
「に......に、にに......」
わなわな震えるハルユキをちらりと見て、女の子は頭の両脇で結わえた髪を揺らして顔を上げ、にこっと笑って言った。
「お帰りなさい、おにーいちゃん!」
「だ、誰がだ!!」
絶叫し、ハルユキはその場に崩れ落ちる。
そんなハルユキに、横から話しかける存在がいた。
「あっ、おかえりハル」
「おかえりー」
声のした方に視線を向けると、なんと兎美と美空までもが漫画を読んでいた。
「お前らまで何してんの...」
ハルユキの力ない台詞に、兎美が答えた。
「何って...やること無いから漫画読んでるだけよ」
「あ...そう」
兎美から発せられた何気ない一言にハルユキは聞くのを諦め、今度はニコに向かってひと言だけ口にした。
「......ニコ。なんでここに」
「2度同じ説明させんなよ。ちょちょっと、偽造メールをな」
いきなり地の口調に戻し、ニコは上体を起こした。
マンガ本――到底教育的とは言えない、死人爆出のやつ――を振ると、にやっと笑う。
「あんた、こっちもいい趣味してんな」
「そ......そりゃどうも。......じゃなくて!!」
はあはあ荒い呼吸を繰り返してから、ハルユキはぐったり脱力して首を左右に振った。
「......幾らなんでも、無茶じゃない?まったく同じ手口のソーシャル・エンジニアリングを中1日で、なんて...」
「なんだよ。いちおう礼言っとかねーとと思って来てやったんじゃねーか」
ぷうっと唇を尖らせるニコに、慌ててこくこく頷いてみせる。
「そ、それはご丁寧に、どうも」
また機嫌を損ねて《対戦》を吹っかけられた日には、今度こそあの超火力で丸焼きにされてしまう。
ひきつった笑みを浮かべ、ハルユキは早口で言った。
「どういたしまして。......これで用件、済んだんだよね?お帰りは、あちらのドアから...」
「あ、そういう態度なんだ。ふーん。一応事後報告もしてやろうと思ったのに、そーなんだ」
「き、聞くよ、聞くよ!」
ぱっ、とその場に正座するハルユキをベッドの上から見下ろし、カットジーンズから伸びる細い脚であぐらをかくと、ニコはじろっと一瞥浴びせてきたが幸い素直に言葉を続けた。
「......クロム・ディザスターの件だけどな」
ハルユキは小さく息を呑み、意識を切り替えた。
これはあとで黒雪姫にも報告しなければならない内容だ。
「...ゆうべ、レディオの野郎を含む5人の王連中に、ディザスターを処刑したことを通達した。これで一応、1件は手打ちだ。あたしとしちゃ、黄色が《鎧》をガメてたことも問題にしてーけどな。残念ながら証拠がねえからな......」
「...そうか...」
ハルユキはゆっくり頷いた。
続けて、おそるおそる訊ねる。
「それで...、その、《チェリー・ルーク》は...?」
「.........」
ニコはしばし沈黙し、南の窓から覗く冬の夕空を見上げた。
深緑色の瞳を細め、長い睫毛を1度しばたかせて、静かに答えた。
「あいつ、来月引っ越すんだってさ」
「え...?」
ニコから発せられた思いもよらない言葉に、ハルユキは思わず零してしまう。
マンガを読んでいた兎美達も、黙ってニコに視線を向ける。
「遠い親戚っつうのが、今更引き取りたいっつって名乗り出てよ。うちの学校、経費ぜんぶ税金で賄われてっから、そういうの生徒は断れねぇんだよな。引越し先...福岡だって」
「...そうか。遠いね」
「まあ、な。だから、あいつ焦ったんだ。引越したら、あたしとの繋がりが、それこそブレイン・バーストだけになっちまう。その上、東京以外には殆どバーストリンカーは居ねぇ。対戦できなきゃレベルも上がらねぇ...その焦りを、《鎧》に喰われて......」
ごくり、と何かを飲み込む仕草を見せてから、ニコは小さく微笑んだ。
「でも、ブレイン・バーストがなくなったせいかな......今日のあいつは、元の...あたしに声を掛けてきた頃のあいつの顔してた。ここしばらくは授業にも出てこねぇし、誰とも口きかなったのに、今日はあたしとちゃんと喋ったしさ。そんでさ...あたし、考えたんだ。バーストリンカーじゃなくなっても...福岡に引っ越しちまってもさ。VRワールドは、加速世界だけじゃないだろ?」
視線が向けられ、ハルユキは大きく頷いた。
「う...うん、もちろんそうだよ」
「だからさ、あたし、今まで考えもしなかったけど...なんか他のVRゲーもやってみようと思ってさ。あいつと一緒に、長く遊べるようなやつ。あんた、何かいいの知ってたら教えてくれよ」
「...そっか。そっか......」
再び、今度は繰り返し頷いて、ハルユキは答えた。
「じゃあ、家にあるの、どれでも持ってっていいよ。...ちょっと、ジャンル偏ってるけどさ」
「ハハハ」
ニコは笑い、不意にそっぽを向くと、傍らに放り出された小さなリュックを探った。
引っ張り出されたのは、茶色の紙袋だった。
ひょいっと投げられたそれを、ハルユキは慌てて両手で受け止めた。
「な、何?」
「まあ...、何だ、その...礼だよ」
首を捻りながら紙袋を開けると、ふわりと甘いバターの匂いが漂った。
白いキッチンペーパーの包みから、黄金色の円盤が幾つか顔を覗かせていた。
呆然としながら、まだほんのり温かいクッキーを1枚引っ張り出したハルユキは、おそるおそるニコに訊ねた。
「え...、こ、これ、僕が貰っていいの...?」
「ンだよ。いらねーなら返せよ!」
ぎろっと睨まれ、慌ててぶんぶんと首を振る。
「貰う、貰うよ!あ......ありがとう。ちょっとびっくりして...」
俯き、手に持ったクッキーをさくりと齧った。
甘くて、香ばしく、ちょっとしょっぱい味がした。
現実の味だ、と思った。
これは現実における何かを象徴する味だ。
その何かとはつまり――僕とニコが、今こそ間違いなく現実世界で友達になれたんだ。
ということだ。
「...うぐ」
ハルユキの喉から奇妙な音が漏れた。
丸い体を一生懸命縮め、必死に顔を隠して、ハルユキもう一口クッキーを齧った。
途端、ベッドの上から高い喚き声が聞こえた。
「あ...あ、あんた、何泣いてんだよ!ばっ、馬鹿かよ、死ねばいいじゃん!!」
ぼふんとべっどにうつ伏せになり、ばーかばーかと叫び続けるニコの声を聞きながら、ハルユキはしょっぱさの増したクッキーをもぐもぐと食べ続けた。
見ていた兎美達も、呆れてはいるが顔は笑っていた。
どうも、ナツ・ドラグニルです。
今回で第2章が終結しました。
次回は番外編という名のビルド側の話を入れてから、第3章に移ります。
今回、ブラッド・スタークの正式な登場致しました。
登場の仕方はビルド原作、第5話「危ういアイデンティティー」を参考にしました。
とりあえず、本編の3話までは書いているので先のことを考えると、4話、5話、6話を書いてから3章に入ります。
5話の弟分もちゃんと出すので安心してください。
それでは次回、第9話もしくは激獣拳を極めし者第24話でお会いしましょう!
それじゃあ、またな。
文字数の調度いい長さを教えてください!
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7000~10000 第3章第3話参考
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10000~15000 第2章第8話参考
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15000~20000 第3章第2話参考