アクセル・ビルド   作:ナツ・ドラグニル

2 / 32
どうもナツ・ドラグニルです。

今回からアクセル・ビルド 第1章 黒雪姫の帰還が始まります。

今作はビルドの世界観は殆どありません。

アクセル・ワールドは私の一番好きな作品なので
直ぐに書き上げられると思います。

エボルトは加速研究会側に出します。

原作が分からない方は相当先だと思っていただけたら幸いです。

では作品をどうぞ


第1章 黒雪姫の帰還
第1話


夜の防波堤に、一人の女性が歩いていた。

 

 

「まったく、編集長たら無茶振りすぎるでしょ」

 

 

女性は前もろくに確認せずに歩いていたら、人にぶつかった。

 

 

「すみませ...」

 

 

女性がぶつかったのは人ではなく、怪物だった。

 

 

「怪物...」

 

 

女性はすぐさまニューロリンカーの視界スクショで撮ろうとしたが、怪物……スマッシュに弾き飛ばされてしまう。

 

 

スマッシュが女性に止めを刺そうとした、その時。

 

 

「ちょっと待った!」

 

 

スマッシュの腕を、一人の人物が止めた。

 

 

「はあ!はっ!」

 

 

スマッシュは女性から距離を取るが、その人物が持っていた武器で攻撃される。

 

 

「オラァ!」

 

 

「ハア!」

 

 

スマッシュは攻撃を仕掛けるが、全て受け止められ反撃を受ける。

 

 

「Ready GO!」

 

 

相手は持っていた武器に、一本のボトルを差す。

 

 

「ボルテックブレイク!」

 

 

武器のトリガー部分を押すと、ドリルの部分が回転する。

 

 

「うああああ!」

 

 

スマッシュは雄叫びを上げ、相手に突っ込む

 

 

「はあああああ!はあ!」

 

 

突っ込んでくるスマッシュに、その人物は武器を横薙ぎに振る。

 

 

「ぐ、ぐああああああ!」

 

 

スマッシュは攻撃を受け、地面に倒れる。

 

 

「よっと!」

 

 

スマッシュにボトルを向けると、ボトルに粒子が吸い込まれ、スマッシュがいた所には一人の青年がいた。

 

 

「よし!」

 

 

女性がなんとか意識を保ちながら見たのは、赤と青の一人の戦士だった。

 

 

「仮面ライダー...」

 

 

その後、彼女はそのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

女性が意識を失うのを確認すると、戦士は腰のドライバーからボトルを抜き変身を解除すると、そこには一人の少女が現れた。

 

 

「大丈夫か?兎美」

 

 

そこにぽっちゃりとした少年が現れた。

 

 

「誰に向かって言ってるのよハル。このてーんさいな私がへまする訳ないでしょ」

 

 

「なっ!分からないだろ!そんなの!」

 

 

少年は馬鹿にされて興奮気味に言い返す。

 

 

「ふふふ、ごめんごめん。心配してくれてありがとう」

 

 

「たくっ、最初からそう言えよな」

 

 

少女は少年に謝罪とお礼を言い、それに対して少年は悪態をつく。

 

 

「さて手掛かりも無かったし帰りましょうか」

 

 

「そうだな。スマッシュにされていた人もいつもと同じで記憶が無かったからな」

 

 

「早く帰って、このボトルを美空に変えて貰おうっと」

 

 

「切り替え早いな、お前」

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

ここはハルユキの家の一室。

 

 

そこでは、1人の少女『有田 兎美』が椅子に座ったまま眠っていた。

 

 

兎美の近くでは、某教育番組で見た事あるような仕掛けが動いていた。

 

 

「はっ!」

 

 

仕掛けの最終地点に置いてあるベルに玉が当たり、その音で兎美は目を覚ます。

 

 

「はあ...ん?」

 

 

たまたま近くに置いていた鏡を見ると、そこには顔に落書きされた自分が映っていた。

 

 

「最悪ね...」

 

 

プシュー! チーン!

 

 

その時、部屋の大半を占めている装置から煙が排出されブザーが鳴り、装置についてる扉が開いた。

 

 

「お!おおー!」

 

 

兎美は直ぐに扉に近づき、中にある白いボトルを取り出す。

 

 

「最高ね!」

 

 

すると、さらに大きな扉がスライドし中から少女『有田 美空』が出てきた。

 

 

「お疲れ!」

 

 

兎美は美空とハイタッチしようとしたが、空振った。

 

 

「ねえ何これ?ハリネズミ?」

 

 

「知らないし、興味ないし、疲れたし、眠たいし」

 

 

美空はそう言って、機械の前にあるベッドにダイブした。

 

 

「今度はどんな技が使えるんだろう!早く試したい!」

 

 

兎美は興奮気味に装置に近づく。

 

 

「けどやっぱり最高!私の発明品!怪物の成分がビルドに使えるパワーアップアイテムになっちゃうんだから!まあ美空の能力がないと出来ないけど、それを最大限に活かした私の技術はもっと評価されてもいいと...」

 

 

そこで兎美は、美空が既に寝ている事に気づいた。

 

 

「にゃろう」

 

 

そこで兎美は近くにマジックペンがあることに気がつき、怪しい笑みを浮かべる。

 

 

「ふふふふふ」

 

 

兎美は部屋を出る際に、もう一度美空の顔を見て笑いながら出て行く。

 

 

残された美空の顔には、いくつもの数式が書かれていた。

 

 

 

 

その後、兎美はキッチンで朝食を作っていた。

 

 

「♪~」

 

 

兎美が朝食を作っていると、誰かがリビングに入ってきたのに気づいた。

 

 

「おはよう、兎美」

 

 

「おはよう、ハル」

 

 

入ってきたのは『有田 春雪』。1年前兎美達を拾ってくれた恩人である。

 

 

「おっ!旨そうな匂い!」

 

 

ハルユキはキッチンに入るなり、作っていた料理に意識が行く。

 

 

「まったく、朝から食い意地張ってるわね」

 

 

「しょうがないだろ。兎美の料理が美味しいんだから」

 

 

「はいはい、ありがとう」

 

 

私は適当に返事をして朝食を完成させる。

 

 

「ほら!早く食べたいなら持って行くの手伝って」

 

 

「あいよ」

 

 

盛り付けた朝食をテーブルに持って行き、2人で食べる。

 

 

「あへ?そういへはみほらふぁ?(あれ?そういえば美空は?)」

 

 

 

ハルユキは朝食を口に入れながら、質問する。

 

 

「ハムスターじゃないんだから口に含みながら喋るんじゃないわよ。美空だったら浄化に疲れてまだ寝てるわ」

 

 

「うくっああ昨日のスマッシュから取り出した奴か。今回は何のボトルだったんだ?」

 

 

「ふふん!これよ!」

 

 

私は机に『ハリネズミフルボトル』を置く。

 

 

「おー!今回はハリネズミなんだな!」

 

 

「そうよ!これでどんな力が使えるのか楽しみだわ!」

 

 

「お前は朝からテンションが高いな」

 

 

ハルユキは、兎美がテンションを上げている事に引き気味だった。

 

 

「所でハル、ゆっくりしてるけど学校大丈夫なの?」

 

 

時計を確認すると、いつも出ている時間を過ぎていた。

 

 

「やば!なんでもっと早く言ってくれなかったんだよ!」

 

 

ハルユキは急いで、学校に向かおうとする。

 

 

「そんな急いでるあなたにこれ!」

 

 

兎美はスマホと『ライオンフルボトル』を取り出す。

 

 

「スマホ?この時代に?遅刻の連絡でもするのか?」

 

 

「そうそうそう!もしもし?ってそんな訳ないでしょ!これは私の発!明!品!」

 

 

兎美はスマホにフルボトルを装填し、上に放り投げる。

 

 

『ビルドチェンジ!』

 

 

音声の後、スマホは大きくなり1台のバイクとなった。

 

 

「うおー!かっこいい!」

 

 

ハルユキは目を輝かせながら、バイクに駆け寄る。

 

 

「でしょ!すごいでしょ!最高でしょ!天才でしょ!」

 

 

兎美はバイクのスマホだった場所の、ヘルメットのマークを押す。

 

 

「すげー!ヘルメットが出てきた!」

 

 

私はヘルメットを2つ出し、1つは自分に、もう1つはハルに被せる。

 

 

「さあ!いざ学校へ!レッツ「ゴーするなよ!ここ家の中だから!」あっ...」

 

 

ハルユキが、私の腕を掴み押し止める。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

場所は変わり、現在兎美が運転するバイクで学校に送って貰っている。

 

 

『そういえばハル。気をつけた方がいいわよ』

 

 

兎美は運転中な為、現在直結しながら会話をしている。

 

 

『気をつけるって何を?』

 

 

『この前あんたの学校から無断欠席の生徒が出たみたいで、原因がいじめだったらしいわよ』

 

 

『え?』

 

 

『あんたも標的にされないように気をつけなさいよ』

 

 

『うん...分かった』

 

 

―この時ハルユキは兎美に本当の事を言うことが出来なかった。自分が既に標的になっていることを―

 

 

 

 

 

しばらくして、ハルユキは学校の近くで降ろしてもらった。

 

 

「本当にここでいいの?校門の前でもいいのよ」

 

 

「バイクの二傑で登校なんて俺には出来ないよ」

 

 

「まあハルがいいなら、別にいいけど」

 

 

「じゃあ行ってくる」

 

 

「あっ!待ってハル!」

 

 

学校に向かおうとする俺を、兎美が止める。

 

 

「はいこれ!」

 

 

兎美が取り出したのは、お弁当だった。

 

 

「あ、ありがとう」

 

 

「うん!じゃあ、いってらっしゃい!」

 

 

「いってきます!」

 

 

俺は嬉しくなり、駆け足で学校に向かう。

 

 

―この時、ハルユキは気づく事が出来なかった。兎美が悲しそうな顔で、ハルユキの後ろ姿を見ている事に―

 

 

______________________

 

 

場所は変わり、現在ハルユキは教室で授業を受けていた。

 

 

授業を受けていると仮想黒板の右上に、黄色い手紙マークが点滅した。

 

 

授業中ぼんやりしていたハルユキは、思わず首を縮めながら、両眼の焦点を移動させた。

 

 

どうやら受信したメールは、教師が宿題の詰まった圧縮ファイルを配布したものではなさそうだ。

 

 

となれば、グローバルネットから隔離されている現在、送り主は同じ学校の生徒ということになる。

 

 

女子の誰かが、校則を破って好意的メッセージを送ってきたのかも、などという期待は、中学校に入学してからのこの半年間でとうに捨てた。

 

 

メールをそのまま、視界左下すみのゴミ箱にドロップしてしまいたいとハルユキは心底思ったが、そんなことすれば後でどんな目に遭うか知れない。

 

 

嫌々ながら、教師が背中を向けたスキを覗い、右手を宙に(この動作は仮想ではなく現実のものだ)メールアイコンを指先でクリックする。

 

 

瞬間、ぶびばぼるぶびる!という品性の欠片もないサウンドと、原色の洪水のようなグラフィックがハルユキの聴覚と視覚にぶちまけられ驚いてバランスを崩し、危うく椅子から転がり落ち掛けた。

 

 

続いて、文字ではなく音声でメッセージ本文が再生される。

 

 

【ブタくんに今日のコマンドを命令する!(バックにぎゃははははという複数の笑い声)焼きそばパン2個と、クリームメロンパン1個と、いちごヨーグルト3個を昼休み開始から5分以内に屋上まで持って来い!遅刻したら肉まんの刑!チクッたらチャーシューの刑だかんな!(再び爆笑)】

 

 

左頬に感じる粘つくような視線の方向を見るまい、とハルユキは意志力を振り絞って首を固定した。

 

 

見れば間違いなく荒谷とその手下A、Bの嘲笑にさらなる屈辱を与えられるからだ。

 

 

授業中にこんなメールを録音したり視聴覚エフェクトを掛けたりすることは勿論できないので、これは事前に作成しておいたものだろう。

 

 

何という暇な連中か、おまけに何だよ『コマンドを命令』って、意味ダブってんだよバーカバーカ!!

 

 

と、脳内では罵れるものの、それを声に出す事は勿論、メールで返信することすらハルユキにはできない。

 

 

荒谷が、いかに時代が進もうと絶滅しないゴキブリ級の馬鹿だとすれば、そいつにいじめられるままになっている自分は輪をかけた愚か者だからだ。

 

 

実際、このメールを含めて保存しておいた数10件の『証拠品』を学校に提出して、連中を処罰させることは容易いだろう。

 

 

しかし、ハルユキはどうしてもその先を想像してしまう。

 

 

いかにニューロリンカーが国民1人に1台と言われるまでに普及し、生活の半分が仮想ネットワークで行われるようになったと言っても、所詮人間は『生身の肉体』という枷によってローレベルに規定され続ける存在でしかない。

 

 

三度三度お腹も空くしトイレにも行く、そして―殴られれば痛いし、痛くて泣くのは死ぬほど惨めだ。

 

 

人間の価値を決めるのは結局、外見や腕力といった原始的なパラメータだけだ。

 

 

それが、小学5年生のときに体重60kgを超え、50メートル走で10秒を切ったことのないハルユキが13歳にして行き着いた結論だった。

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

「ハル...相変わらずいじめられてるんだね」

 

 

「そうだね...」

 

 

兎美達は、自分達の部屋でひとつの映像を見ていた。

 

 

兎美はハルユキのニューロリンカーに細工しており、ハルユキの視界情報等を見ることができる為、先程のやり取りは確認している。

 

 

「てかハルもスマッシュと戦えるんだから、あんな奴らやっつけちゃえばいいのに」

 

 

「ハルは人の為ならスマッシュにも立ち向かえるけど、自分の事になると消極的になっちゃうから...」

 

 

「まあ、ハルらしいけど」

 

 

「朝私がそれとなく聞いてみたけど、やっぱり教えてくれなかったし」

 

 

「あんな奴らの所為でハルが辛い目に合うなんて...」

 

 

美空は悔しそうに手を握り締める。

 

 

「一応私がお弁当渡したから、昼を抜くなんて事はないと思うけど」

 

 

「余計な事をしてハルに嫌われたくないしね...」

 

 

私は何も出来ない事に、苛立ちを感じる。

 

 

「いつまでこんな事が続くんだろう...」

 

 

「いざとなったら"あれ"を使ってあいつらを社会的に消してやる!」

 

 

美空は立ち上がり、意気込んでいる。

 

 

「それは最終手段よ、今は取りあえずハルの居場所を私達で作らないと」

 

 

「そうね」

 

 

兎美達は再びハルユキの視界情報を見る。

 

 

_____________________

 

朝、母親にニューロリンカーへチャージしてもらった昼食代の500円は、荒谷達にパンとジュースを奢らされて完全に足が出てしまった。

 

 

小遣いを貯めた全財産の7千円ちょっとが残っているが、これを使ってしまうと今月出るリンカー用ゲームソフトが買えない。

 

 

ハルユキの巨体は燃費が異常に悪く、一食でも抜こうものなら空腹で眩暈がして来るほどだが、今日は兎美から貰ったお弁当がある為その心配はいらない。

 

 

人気の無いところで、貰ったお弁当を早速頂く。

 

 

「うわぁ!」

 

 

ミニハンバーグやミートボールと肉系は勿論、ほうれん草のおひたしや野菜も入っており全て自分の好物ばかりだった。

 

 

あまりにも豪華なお弁当に、思わず嬉しくなり声を出してしまった。

 

 

「いただきます!」

 

 

ハルユキは美味しすぎて、すぐ食べ切ってしまった。

 

 

―余談だが、視覚情報で見ていた兎美は嬉しそうにし、美空は悔しがっていた。

 

 

お弁当を食べた後、丸い体を限界まで縮め、ハルユキが向かったのは専門教室ばかり並ぶ第2校舎だった。

 

 

現在では、理科の実験から家庭科の調理実習までが仮想授業で行われている為、この棟は用無しになりつつあり、近寄る者は少ない。

 

 

特に、昼休みには生徒の姿はまったくない。

 

 

埃っぽい廊下の隅にある男子トイレが、ハルユキの専用隠れ家だ。

 

 

とぼとぼと逃げ込んだ先で、ため息と共に足を止め、ハルユキは洗面台の上の鏡を見やった。

 

 

曇ったガラスの向こうから見逃すのは、もしこれがテレビドラマなら、あまりにもベタすぎるだろうと突っ込みたくなるような『太ったいじめられっ子』。

 

 

癖の強い髪はあちこちに跳ね上がり、両頬の曲線にシャープさは欠片もない。

 

 

だぶついた首周りに、制服のネクタイと銀色のニューロリンカーが食い込む様はまるで絞首刑だ。

 

 

この外見を何とかしようと、ほぼ絶食及び無茶な走り込みにまい進した時期もある。

 

 

しかしその結果、昼休み中に貧血で倒れ、女子生徒数人の弁当を巻き添えにするという最悪な伝説を作ってしまった。

 

 

以来、ハルユキは現実の自分を捨てる―少なくとも学生の間は―ことに決めたのだ。

 

 

鏡からはコンマ1秒で目を離し、トイレのさらに奥に進むと、端っこの個室に入る。

 

 

しっかり鍵をかけ、蓋を下ろしたままの便器に腰を下ろす。

 

 

背中を水洗タンクに預け、力を抜くと、目をつぶる。

 

 

唱えるのは、重苦しい体から魂のみを解き放つ魔法の呪文―。

 

 

「ダイレクト・リンク」

 

 

音声コマンドを受け取ったニューロリンカーが、量子接続レベルを視聴覚モードから全感覚モードへと引き上げ、ハルユキの体から重さが消えた。

 

 

完全(フル)ダイブ』。

 

重力感覚すらも切断され、ハルユキは暗闇の中を落下した。

 

 

しかしすぐに、柔らかな浮遊感と虹色の光が全身を包んだ。

 

 

両手と両足の先端から、フルダイブ時に用いられる『仮想体(アバター)』が生成されていく。

 

 

黒い蹄状の手足。

 

 

ぷっくりした四肢と、ボールのような胴体は鮮やかな銀色。

 

 

見る事はできないが、顔の中央には平らな鼻が突き出し、大きな耳が垂れ下がっているはずだ。

 

 

つまり、一言で形容すれば、ピンクのブタである。

 

 

コミカルなアバター姿で、すとん、と降り立った先は、いかにも文部科学者推薦といったデザインのメルヘンチックな森の中だった。

 

 

巨大なきのこがそこかしこに生え、ひときわ眩しく陽がさす円形の草地の中央には、水晶のような泉が湧き出ている。

 

 

この仮想空間が、東京都杉並区に存在する私立梅里中学校の学内ローカルネットワークだ。

 

 

森を行き交ったり三々五々固まって笑い声を上げているのは、これもほとんどが人間ではなかった。

 

 

二足歩行するコミカルな動物が半数、あとは羽を生やした(と言っても飛べはしないが)妖精あり、ブリキのロボットあり、ローブの魔法使いあり。

 

 

全て、ローカルネットにダイブしている梅里中の生徒・教師のアバターである。

 

 

現実サイドと同様、丸っこい体を懸命に縮めたハルユキは、小走りで一本の樹を目指した。

 

 

と、中央の泉のほとりに、一際大きな人だかりが出来ているのに気づいた。

 

 

走りながら視線を送ったハルユキは、思わず足の進みを緩みた。

 

 

生徒の輪の中央に、中々目撃する事のできないレアアバターが見えたのだ。

 

 

デフォルトセットにあるものではない。

 

 

透明な宝石が散りばめられた、漆黒のドレス。

 

 

手には畳んだ黒い日傘。

 

 

背中には、虹色のラインが走る黒揚羽蝶の翅。

 

 

長いストレートの髪に縁取られた、雪のように白い顔は、これが自作とは信じられない完璧な美しさだ。

 

 

ハルユキも到底敵わない、プロとして通用しそうなデザインスキルである。

 

 

華奢な体をしどけなく巨大キノコにもたれさせ、物憂げな表情で周囲のアバターたちの言葉を聴いている彼女が、生徒会で副会長を務める2年生の女子生徒であることをハルユキは知っていた。

 

 

驚くべき事にその美貌は、現実の容姿をほぼ完璧に再現したものであり、ゆえに献ぜられた通り名が―。

 

 

『スノーブラック』。

 

 

『黒雪姫』。

 

 

 

 

あのような存在と自分が、梅里中の生徒であるという共通項をひとつにせよ持っている事すらハルユキには嘘っぽく思える。

 

 

と、昔の自分だったら考えていただろうが、今は兎美達のお陰でそこまで気にしなくなった。

 

 

ずっと見てるのも失礼だなと考え先を急ぐ、その後辿り着いた先はレクリエーションルームが設置されている大樹の1本だった。

 

 

簡単に言えばゲームコーナーだが、もちろん市販ソフトのようなRPGや戦争ゲーム等は一切無い。

 

 

クイズやパズル等の知育系、または健全なスポーツゲームばかりだが、それでも多くの生徒達が各コーナーに群がり、歓声を上げている。

 

 

彼らは皆、教室の自分の机や学食から完全(フル)ダイブしている。

 

 

その間、生身の体は無防備に放置されているわけだが、ダイブ中の人間に悪戯するのはマナー違反なので、気にする者はハルユキ以外いない。

 

 

樹の幹に刻まれた階段を駆け上がる。

 

 

上に行けば行くほど、設置されたゲームは人気のないものになっていく。

 

 

野球、バスケ、ゴルフ、テニスと通り過ぎ、卓球のフロアも無視して辿り着いたのは、

 

 

『バーチャル・スカッシュ・ゲーム』のコーナーだった。

 

 

生徒は1人も居ない。

 

 

人気がない理由は明らかだ。スカッシュというのは、テニスに似てはいるが、ラケットでボールを打ち込む先は上下左右正面が硬い壁に囲まれた空間であり、跳ね返ってきた球を黙々と1人でリターンし続ける、とことん孤独なスポーツだからだ。

 

 

がらんとしたコートの右端に歩み寄り、操作パネルに片手をかざす。

 

 

ハルユキの生徒IDが入力され、セーブされているレベルとハイスコアが読み出される。

 

 

ハルユキは、1学期の中ほどから昼休みはひたすらこのゲームで時間を潰してきた。

 

 

結果、スコアは呆れるような数字に達しつつある。

 

 

流石に飽きてきた気もするが、ここ以外に行く場所があるわけでもない。パネルから湧き上がったラケットを、黒い蹄のついた桃色の右手でしっかりと握る。

 

 

ゲームスタート、の文字に続いて、どこからともなくボールが降ってくる。

 

 

それを、今日一日の鬱屈を込めたラケットで思い切り叩く。

 

 

ちかっ、と一瞬の閃きを残して、レーザーのようにボールがすっ飛び、床と正面の壁にぶつかって戻ってきた。

 

 

ほとんど視覚以上の反射で補足し、脳が自動的に導く最適解に従って、1歩左に動きながらバックハンドで打ち返す。

 

 

ある程度プレイしていると突然の声が、ハルユキの神聖な隠れ家を震わせたのは、その時だった。

 

 

「あーーーっ!!こんなとこに籠ってたのね!!」

 

 

耳が、というより脳がキーンと痺れる程の甲高い叫び声。叫び声の所為でボールを取りこぼしたがハルユキはそれ所ではなかった。

 

 

ぎくり、と背中を強張らせながら振り向いたハルユキが見たのは、同じく動物型の生徒アバターだった。

 

 

と言っても、ハルユキのブタのような滑稽さは微塵も無い。しなやかな細身を、紫がかった銀の毛皮に包んだ猫だ。

 

 

片方の耳と尻尾の先に、濃いブルーのリボンを結んでいる。

 

 

ポリゴンを1から組んだものではないが、相当に各所のパラメータをいじり込んである。

 

 

金色の虹彩を持つ瞳に怒りの色を浮かべ、猫は小さな牙の生えた口を大きく開けてもう一度叫んだ。

 

 

「ハルが最近、昼休みの間ずーっと居ないから探し回ってたのよ!ゲームはいいけど、何もこんなマイナーなのやらなくても、下でみんなとやればいいじゃない!」

 

 

「......俺の勝手だろ、ほっとけよ」

 

 

どうにかそれだけ言い返して、ハルユキはコートに向き直ろうとした。

 

 

しかし銀の猫はひょいっと首を伸ばし、ゲームオーバー表示を一瞥すると、さらに高い声で喚いた。

 

 

「えーっ、何よこれ......レベル152、スコア263万!?あんた......」

 

 

―すごいじゃない!

 

 

などという台詞を浅ましくも一瞬期待したハルユキを、、猫はあっさりと裏切った。

 

 

「バカじゃないの!?昼休みずっと何やってんのよ!今すぐ落ちなさい!!」

 

 

「......やだよ、まだ昼休み30分もあるじゃないか。お前こそどっかいけよ」

 

 

「あーそう、そういう態度とるんだったら、あたしも実力を行使するからね」

 

 

「やれるもんならやってみろ」

 

 

ぼそぼそと言い返し、ハルユキはラケットを握り直した。学内ネットのアバターに、『当たり判定』はない。

 

 

不適切な行為を防止するという名目で、生徒は他の生徒のアバターを触れないのだ。

 

 

もちろん、他人を無理やりログアウトさせるなど論外だ。

 

 

猫型アバターは、細い舌を限界まで突き出しべーっとやってから、一声叫んだ。

 

 

「リンク・アウト!」

 

 

即座に、光の渦と鈴に似た音を残して姿がかき消える。

 

 

ようやく煩いのが消えたと、僅かな寂しさを短い鼻息で吹き散らした、その瞬間。

 

 

がつん!と、少々洒落にならない衝撃が頭を襲い、周囲の光景何もかもが消え去った。

 

 

暗闇の向こうから、点状の光が引き伸ばされるように、現実の風景が戻ってくる。

 

 

すしりと圧し掛かる自重を感じながら、ハルユキは懸命に瞬きし、目の焦点を合わせた。

 

 

元の、男子トイレの個室だ。

 

 

しかし、眼前にあるべきブルーグレーのドアの代わりに、ハルユキは思わぬものを見た。

 

 

「おま......なん......!?」

 

 

お前なんでここに!と言おうとしたが驚きすぎて言葉が詰まってしまった。

 

 

直ぐ目の前で仁王立ちになっているのは、ひとりの女子生徒だった。

 

 

ブレザーのリボンの色は、同じ1年生であることを示す緑。

 

 

ハルユキとは、重量比が3:1を切ると思われる程に小柄だ。

 

 

ショートカットの前髪を右横に持ち上げ、青のピンで留めている。

 

 

猫科めいた小さな輪郭に、不釣合いに大きな瞳が、怒りに燃えてハルユキを睨んでいる。

 

 

そして右手はまっすぐハルユキの頭上まで伸ばされ、小さな拳を固く握っていた。

 

 

それを見て、ハルユキはようやく自分がなぜフルダイブから突如切断されたのか理解した。

 

 

女子生徒があのゲンコツでハルユキの頭をどつき、その衝撃でニューロリンカーの安全装置が働いて自動リンクアウトしたのだ。

 

 

「秘技!強制リンクアウト!」

 

 

「お....お前なあ!!」

 

 

驚き呆れつつ、ハルユキはこの学校で唯一パ二クらずに会話できる女子に向かって叫んだ。

 

 

「何やってんだよ!ここ男子トイレだぞ!鍵がかかってんのに.....バカじゃねぇの!!」

 

 

「バカはお前じゃ」

 

 

ハルユキの幼馴染にしてスカートのまま男子トイレの仕切り壁を乗り越える剛の者、倉嶋千百合は、ぶすっとした声で言い返すと右手を戻し、後ろ手にドアの鍵を開けた。

 

 

身軽な動作でぴょん、と個室から飛び出る。栗色の髪にすべる日光に思わず目を細めるハルユキを、チユリはようやく僅かに見せた笑顔と共に促した。

 

 

「ほら、とっとと出てきなさいよ」

 

 

「......わーったよ」

 

 

ため息を呑み込み、ハルユキは便座の蓋を軋ませながら体を起こした。

 

 

出入口に向かうチユリを追いながら、もう1つの疑問について尋ねる。

 

 

「なんでここが判ったんだ」

 

 

答えはすぐには返ってこなかった。男子トイレから首だけを出して外の様子を確認したチユリは、するりと廊下に出てから、短く言った。

 

 

「あたしも屋上にいたの。だから後つけた」

 

 

ということは―。

 

 

「......見てたのか」

 

 

廊下に1歩踏み出しかけた足を止め、ハルユキは低く呟いた。

 

 

チユリは言葉を探すように俯き、背中を奥の壁に預けてから、ようやくこくりと頷いた。

 

 

「......あたし、あいつらの事にはもう口出ししない。ハルがそれでいいって決めたんなら......しょうがないから」

 

 

その時、チユリはどこか無理したような笑みを浮かべていた。

 

 

「ねえ、私も1つハルに質問があるんだけど」

 

 

さっきまでの悲しそうな顔とは一点、目が据わり心なしか声が先程よりも低くなったような気がする。

 

 

「ハル、あんた朝バイクで送って貰った人って誰なの?」

 

 

チユリの質問を理解した瞬間、俺は背筋が凍った。

 

 

「な、なんでお前がその事を!だってお前あの時間部活の朝練中じゃん!」

 

 

「今日は朝練が無い日で何時もより遅く出たのよ。そしたら見た事ある後姿が見えて、女の人からお弁当貰ってる誰かさんを見つけた訳」

 

 

俺はこの時すぐにここから逃げ出したかったが、怖すぎて足が動かなかった。

 

 

「ねえ、あの人誰なの?」

 

 

「あれは...家で居候してる人です。」

 

 

「居候?いつから?」

 

 

「1年前からです!」

 

 

俺は恐る恐る、チユリの質問に対して回答する。

 

 

「へー1年前ねぇ、なんで黙ってたの?」

 

 

「理由が理由だったので話せませんでした!」

 

 

(まさかそいつが仮面ライダーで、その協力してるなんて言えないよな)

 

 

「まあいいわ。今度その人に会わせなさいよ」

 

 

「え?何で?」

 

 

俺はいきなりの事で、つい聞き返してしまった。

 

 

「何よ?何か問題でもある訳?」

 

 

「いえ滅相もございません!」

 

 

「取りあえず、この後その女に話しつけといてよ」

 

 

そう言ってチユリは教室に戻っていった。

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

兎美の事がばれたのを気にしてしまい、午後の授業とホームルームを聞き流し、早く帰って兎美に話さないといけないがその前に気分転換にスカッシュゲームをやる為、もう1つの隠れ家である図書室へと赴く。

 

 

本来、図書室などという空間はとうにその役目を終えている。

 

 

しかし、大人の中には学校そのものと同じようにペーパーメディアの本も子供の教育に必要だと考える連中がいて、資源と空間の無駄としか思えない真新しい背表紙が書架に並べられているのだ。

 

 

もっとも、そのおかげで学校内に貴重なパーソナルスペースが確保できるのだから文句は言えない。

 

 

カモフラージュにハードカバーを2,3冊抱えて壁際の閲覧ブースに閉じ籠ったハルユキは、狭い椅子に体を押し込むと、リンカーが認識できるギリギリの音量でフルダイブを命じた。

 

 

授業が終わってから数分しか経っていないだけあって、学内ネットは閑散としていた。今のうちにいつもの場所に引き籠るべく、高速で草地を横切り樹の幹を登る。

 

 

バーチャル・スカッシュコーナーも当然無人だった。

 

 

そのまま操作パネルに右手をかざし、ログインする。

 

 

ラケットを掴み、体の向きを変え、コートに正対した。

 

 

落下してくるボールを打ち返そうとして―。

 

 

ハルユキは、全身を凍りつかせた。

 

 

コートの中央に表示されている原色の立体フォントが、記憶と異なる数字を表示されていた。

 

 

「レベル......166!?」

 

 

ハルユキがつい数時間前に更新したレベルを、10以上も上回っている。

 

 

一体何故、スコアは生徒IDごとに管理されているはず、と一瞬思ってから、すぐに悟った。あの時、チユリのゲンコツによってハルユキは強制ログアウトさせられた為、ゲームがそのまま保持されたのだ。

 

 

だから、誰かがその続きでプレイを再開し、スコアを塗り替えることは可能だ。

 

 

しかし。

 

 

自分以外の誰がこんなとんでもない点を!?

 

 

ハルユキはフルダイブのVRゲームでは誰にも負けない自信があった。

 

 

あの自称天才の兎美にも、勝った程だ。

 

 

勿論、頭の良さが勝敗を左右するクイズやボードゲームでは勝った事はないが、反射速度がものを言うガンシューティングやアクション、レースゲームなら、この学校で自分に勝てる奴はいないという自負がハルユキにあった。

 

 

それをひらけかした事はない。自分が目立ってもろくな事がないのは、小学校の頃から厭と言うほど学習している。

 

 

あえて確認するまでもないとこれまでは思っていたのだが――この、スカッシュゲームの恐るべき得点は......。

 

 

その時。

 

 

背後で、声がした。チユリではない。勿論、兎美や美空でもない。

 

 

女性だが、もっと低く、絹のような滑らかな響き。

 

 

「あの馬鹿げたスコアを出したのは君か」

 

 

おそるおそる振り向いたハルユキの目の前に立っていたのは。

 

 

闇に銀をちりばめたドレス。

 

 

杖、あるいは剣のように床に突かれた傘。

 

 

純白の肌と漆黒の瞳 ――『黒雪姫』。

 

 

アバターでありながらデジタル臭さの欠片もない、一種凄絶な美貌を僅かに傾け、学校一の有名人は音も無く前に進み出た。

 

 

全身でそこにだけ色彩のある紅い唇にかすかな微笑を浮かべ、黒雪姫は続けて言った。

 

 

「もっと先へ.....『加速』したくはないか、少年」

 

 

その気があるなら、明日の昼休みにラウンジに来い。

 

 

たったそれだけを言い残して、黒雪姫はあっけなくログアウトした。

 

 

ハルユキはその後ぼんやりとしていたが、すぐに正気に戻り自分もログアウトし図書室から出る。

 

 

校門から外に出ようとした時、バイクに寄りかかりながらニューロリンカーを操作する兎美を見つけた。

 

 

「兎美!」

 

 

驚いた声で俺が来たことに気がついた兎美は、バイクをそのままに駆け寄ってきた。

 

 

 

「お疲れハル、今日は遅かったのね」

 

 

「いや、何でお前がここにいるんだよ!?」

 

 

「なんでって、ハルを待ってたからに決まってんでしょ」

 

 

 

そう言って兎美は俺にヘルメットを投げ渡してきた。

 

 

「ほら帰るよ」

 

 

「おう...」

 

 

俺はヘルメットを被りバイクの後に乗る。

 

 

「始動!」

 

 

兎美のボイスコマンドに反応し、バイクが起動し発進する。

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

『ハル、今日なにかあったの?』

 

 

しばらく走っていると、兎美が質問してきた。

 

 

『え?何で?』

 

 

『なんか元気ないようだったから』

 

 

『実は、朝送って貰ったところをチユに見られてたみたいで、お前を紹介しろって言われた』

 

 

『チユって、ハルの幼馴染の倉嶋千百合ちゃん?』

 

 

『ああ、内緒にしてたのが気に食わなかったみたいで凄く怒ってた』

 

 

『はあ...』

 

 

『なんでため息つくんだよ』

 

 

『別に...取り敢えずチユリちゃんのことだけど』

 

 

その時、兎美にボイスチャットが飛んできた。

 

 

『兎美!ハル!スマッシュの反応よ!』

 

 

「場所は?」

 

 

『梅里中学校よ!』

 

 

「!?嘘だろ!」

 

 

「急いで引き返すわよ!」

 

 

そう言って、兎美は来た道を引き返した。

 

 

梅里中学に着くと所々で煙が上がっていた。

 

 

「美空状況は?」

 

 

『ほとんどの生徒は避難したみたいだけど、一人だけ逃げ遅れた生徒がいるみたい』

 

 

「その逃げ遅れた生徒の名前は?」

 

 

『少し待って、今出すわ』

 

 

しばらくすると俺達のニューロリンカーに情報が送られてくる。

 

 

「!?」

 

 

「嘘だろ!?」

 

 

俺達は驚愕した。

 

 

なぜなら残された生徒の名前が。

 

 

『倉嶋 千百合』だったのだから。

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

時間は少し遡り、陸上部の更衣室。

 

 

「じゃあねーチユリー!」

 

 

「うんまた明日ー!」

 

 

私、倉嶋千百合は悩んでいた。

 

 

幼馴染の1人、有田春雪について。

 

 

ついこの間、たまたまいじめられているのを目撃し助けたかったが、もしそれがハルからしたら余計な事だったら嫌われるかもしれないと思い、行動することが出来なかった。

 

 

今日はいじめられている所為でお昼を食べる事が出来てないと思いお弁当を作ってきたが、今日の朝たまたま見かけてしまった。

 

 

ハルと女の人が仲良く話しており、お弁当を渡している所を。

 

 

それを見てしまい、チユリはお弁当を渡すことが出来なかった。

 

 

今は部活を終え着替えて帰るだけだが、帰る気が起きず更衣室のベンチで座り込んでいた。

 

 

「うううううう」

 

 

その時、変なうなり声が聞こえた。

 

 

「誰!?」

 

 

チユリは立ち上がり、声がする方に向かって叫んだ。

 

 

そして次の瞬間。

 

 

ドッガーン!

 

 

更衣室の壁が破壊され、そこから一体の怪物がいた。

 

 

「ううううううう」

 

 

「ひぃ!」

 

 

私はいきなりの事で腰を抜かした。

 

 

「ううううう!うおおおおお!!」

 

 

「きゃああああああ!」

 

 

怪物は雄叫びを上げ、私に襲い掛かってくる。

 

 

ドッガーン

 

 

怪物の攻撃を何とか避け、怪物が壊した所から逃げ出す。

 

 

「何よ!あいつ!」

 

 

私は悪態をつきながらも怪物から逃げる為、何処か隠れられる場所を探す。

 

 

「うううううう」

 

 

後ろを見ると、怪物が私を追いかけてきたのが分かった。

 

 

「ふん!」

 

 

ドカーン!

 

 

怪物は足元を攻撃し地響きを起こす。

 

 

「きゃあ!」

 

 

怪物が起こした地響きに足を取られ転倒してしまう。

 

 

「うううううう!」

 

 

「ひぃ!」

 

 

転倒した時に足を痛めてしまい動けなくなってしまった。

 

 

「ううううう」

 

 

「いや!」

 

 

動けなくなった私に怪物が襲い掛かる。

 

 

「うううううう!うおおおおおお!」

 

 

目をつぶり私は殺されると思ったその時。

 

 

「チユ!」

 

 

聞き覚えのある声と共に、体が横に持っていかれるのを感じた。

 

 

恐る恐る目を開けると、そこにはハルユキの姿があった。

 

 

「はあ、はあ、間一髪だったな」

 

 

「ハル...」

 

 

「まったく、生身なのに無茶するんじゃないわよ」

 

 

その時、後ろから女性の声が聞こえた。

 

 

「あなたは...」

 

 

「初めましてチユリちゃん、私は有田兎美よ。宜しく」

 

 

「うおおおお!」

 

 

その時、怪物がまた私達に襲い掛かろうとしていた。

 

 

「挨拶は後にするとして、まずはあいつを片付けるわよ。ハルはチユリちゃんの事宜しくね」

 

 

「片付けるって危ないわよ!ハルも早く逃げて!」

 

 

「そんな状態のお前を放って行ける訳無いだろ。それに大丈夫だ」

 

 

兎美さんは怪物の前に出た。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

兎美はスマッシュと戦う為、『ビルドドライバー』を取り出し腰に装着する。

 

 

「さあ、実験を始めるわよ」

 

 

兎美は『ラビットフルボトル』と『タンクフルボトル』を取り出し、ドライバーにセットする。

 

 

『ラビット!』『タンク!』『ベストマッチ!』

 

 

兎美はドライバーについているレバーを回すと、ビルドドライバーから伸びたパイプによって高速ファクトリー『スナップライドビルダー』と呼ばれるフレームが兎美の周りに構成された後、フルボトル内の物質がそのパイプ内を移動し変身者の前後にハーフボディとして生成される。

 

 

『Are You Ready?』

 

 

「変身!」

 

 

ハーフボディが兎美を挟み込むように結合されて、変身が完了する。

 

 

『鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエーイ!』

 

 

そこにいるのは杉並を守る戦士『仮面ライダービルド ラビットタンクフォーム』だった。

 

 

「変身した...」

 

 

チユリは目の前で、兎美が変身した事に驚いていた。

 

 

「勝利の法則は決まった!」

 

 

ビルドはスマッシュに向かって、攻撃を仕掛ける。

 

 

「はあ!」

 

 

ビルドは右パンチを繰り出し、スマッシュを怯ませる。

 

 

すると、ビルドは専用武器『ドリルクラッシャー』を召喚する。

 

 

「はっ!はあ!」

 

 

「うううう」

 

 

すると、ビルドは白いフルボトル『ハリネズミフルボトル』を取り出し、ラビットを抜きハリネズミを刺す。

 

 

ドライバーのレバーを回すと、ビルドの前にハリネズミのハーフボディが生成される。

 

 

「ビルドアップ!」

 

 

ハリネズミのハーフボディがラビットのハーフボディに重なり、ハリネズミが結合する。

 

 

「うあああああ!」

 

 

スマッシュはビルドに向かい襲い掛かる。

 

 

「ほい!」

 

 

ビルドは手に無数の針を出現させ、スマッシュの攻撃を防ぐ。

 

 

「はあ!」

 

 

ビルドはそのまま攻撃しスマッシュを怯ませる。

 

 

「ほい!ほい!」

 

 

ビルドはさらに追撃し、スマッシュは反撃するが全て針によって防がれている。

 

 

「さて止めといきますか」

 

 

ビルドはラビットタンクフォームに戻る

 

 

ドライバーのレバーを再度回す。

 

 

『Ready Go!』

 

 

音声の後、グラフを模したエネルギーの滑走路が出て来てグラフのX軸で相手を拘束する。

 

 

『ボルテックフィニッシュ!』

 

 

助走を付けて左脚で跳躍し、滑走路に沿って、右脚でキックを叩き込む。

 

 

「はあ!」

 

 

ドカーン!

 

 

ビルドの必殺技が命中しスマッシュが倒される。

 

 

ビルドは空のボトルを取り出し、スマッシュに向けると怪物の成分が吸収され、1人の青年が現れる。

 

 

「凄い...」

 

 

チユはビルドの戦いを見て驚いていた。

 

 

兎美は変身を解除して俺達に駆け寄ってくる。

 

 

「2人とも無事?」

 

 

「俺は大丈夫だが、チユは足を怪我したみたいだ」

 

 

「そう、チユリちゃん大丈夫?」

 

 

「う、うん、それよりあなたは一体...」

 

 

「私は仮面ライダービルド、創る、形成するのBuildよ」

 

 

「仮面ライダービルド...」

 

 

「それより、めんどくさい事になる前にここから離れましょう」

 

 

「そうだな」

 

 

俺は動けなくなったチユをおんぶし、兎美と一緒に移動する。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

3人いる為、チユは俺が送っていくと言って兎美には先に帰ってもらった。

 

 

俺達は徒歩で、自宅であるマンションに帰宅していた。

 

 

「ねえ、ハル」

 

 

しばらく歩いていると、チユが話しかけてきた。

 

 

「どうした?」

 

 

「2人はいつもあんな事してるの?」

 

 

「...ああ」

 

 

「兎美さんを紹介できなかった理由って、仮面ライダーのことがあるから?」

 

 

「...ああ」

 

「なんでそんな事してるの?」

 

 

「兎美は1年前、俺が保護したんだ」

 

 

「保護?」

 

 

「兎美は記憶喪失なんだ」

 

 

「え?」

 

 

ハルユキの言葉に、チユリは驚く。

 

 

「スマッシュと戦ってるのも、記憶を取り戻す手掛かりを探す為なんだ」

 

 

「そうなんだ」

 

 

そう言うと、マンションに着くまでチユは一言も喋らなかった。




はい、如何だったでしょうか

思ったより長くなってしまいました

なんとかビルドに変身させる事が出来ました

次回もこんな感じで投稿していきます

では次回でお会いしましょう

文字数の調度いい長さを教えてください!

  • 7000~10000 第3章第3話参考
  • 10000~15000 第2章第8話参考
  • 15000~20000 第3章第2話参考

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。