アクセル・ビルド   作:ナツ・ドラグニル

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兎美「これまでのアクセル・ビルドは、仮面ライダーとして杉並を守る春雪は、記憶喪失の兎美の記憶を取り戻す為、そして自身が在籍する学校の先輩、黒雪姫をレベル10にするべくバースト・リンカーとしても戦っていた」


美空「そんな中、幼馴染の1人、倉嶋千百合が加速世界の中でも数の少ないヒーラーだという事にハルユキ達は気づいた」


千百合「ふふふ、これからはこの私『ライム・ベル』の時代が始まるわね」


兎美「何を言ってるのよ、やはりここからは『サファイア・ラビット』の時代でしょ」


千百合「何言ってんの?てか、サファイア・ラビットってラビットタンクのパクリでしょ?」


兎美「パクリって何よ!そっちだって、回復しか芸のない只のヒーラーでしょ!」


千百合「何よそれ!他にも出来る事あるから!例えば腕のベルで相手を殴ったり...」


兎美「ふん!要するに力任せって事でしょ?少しは頭を使いなさいよ」


千百合「上等じゃない!ハルみたいなヘッドバットで頭かち割ってやるわよ!」


兎美「その頭を使え、じゃないわよ!私みたいに考えろって言ってんのよ!」


美空「えー、2人が台本にない言い争いを始めた為、私が進行していきます。新一年生の中にも、もしかしたらバーストリンカーがいるかもしれないと考えるハルユキ達。その新たなバーストリンカーの魔の手がハルユキ達に襲い掛かる!さて、どうなる第3話!」


兎美「だいたいあなたはね...」


千百合「なんですって!」


美空「まだ言い争いしてるわね、あの2人...」


第3話

梅郷中学校の風紀委員室。

 

 

兎美は葛城 巧未を調べる為に、毎日訪れていた。

 

 

そこで兎美は、幻になぜ研究日誌がここにあるのか聞いた。

 

 

「それは、葛城さんがここにいた頃に書いた日誌よ」

 

 

「葛城さんって、いなくなる前って女子エテルナ女子学院だけでなく、この学校にも在籍していたんですか?」

 

 

思いもよらない情報に、兎美は自分の耳を疑った。

 

 

「えぇ、今から調度一年前、彼女はこの学校に入学したの」

 

 

「だが、ある事が切っ掛けでこの学校を自主退学させられ、君の知ってる女子エテルナ女子学院に転校したんだ」

 

 

幻に続いて、内海も説明に加わる。

 

 

「退学させられた理由は?」

 

 

幻は少し言いづらそうにしていたが、意を決して兎美に当時の事を告げる。

 

 

「タブーを犯したのよ...人体実験というね」

 

 

幻の口から出た言葉に、兎美は言葉を失った。

 

 

幻は、当時のやり取りを語りだす。

 

 

『氷室さん。ネビュラガスを注入すれば、間違いなく人間は更なる進化を遂げるんです』

 

 

『謎の怪物になる可能性や、人体にも危害が及ぶ実験を学校側が許可できると思うの?』

 

 

『お願いします、これは科学の未来の為なんです』

 

 

「当然、学校側..私の父である理事長から許可が下りる事は無かった。だけど、葛城さんは諦めなかった...独断で人体実験を強行したのよ」

 

 

同じ科学者である兎美でも、その気持ちは分からなかった。

 

 

「ガスを注入する前だったから大事に至らなかったけど、その日付で葛城さんは自主退学したの...」

 

 

話を聞いていた兎美は、葛城巧未の二つ名の意味を理解する。

 

 

「それが...『悪魔の科学者』と呼ばれる所以」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

黒雪姫と別れた後、ハルユキは家に帰る為に下駄箱を目指していた。

 

 

下駄箱を目指しながら、先程のご褒美の事を思い出していた。

 

 

「ご褒美...」

 

 

ハルユキはラウンジで、大量の料理に囲まれた自分を想像する。

 

 

『こんなものでいいのか?』

 

 

『はい、やっぱりこれが一番...』

 

 

「違―――う!!そうじゃない...」

 

 

ハルユキは頭を振り、想像してた事をかき消した。

 

 

次に想像したのは、1mあるかないかの短いケーブルで黒雪姫と直結する所を想像する。

 

 

『直結すればいいのか?』

 

 

『は...はい、ありがとうございます』

 

 

「鼻息が!鼻息がかかる!」

 

 

興奮し鼻息が荒くなってしまう自分を想像し、ハルユキは壁に手を付ける。

 

 

「帰って冷静に考えよう」

 

 

煩悩を消し去ろうと、ハルユキは早足で目的地に向かう。

 

 

「うわぁ!うぅ!」

 

 

早足になったのがいけなかったのか、ハルユキは足がもつれ転倒してしまう。

 

 

仮面ライダーになったとはいえ、ハルユキの鈍臭さは健在だった。

 

 

「痛ぇ...」

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

ハルユキが痛さに悶えていると、1人の男子生徒が近づいてきた。

 

 

体は細く、身長はいい所155cmくらい。

 

 

さらさらした髪を坊ちゃん刈りにしており、遠目でみたら女子と見間違えるのではないかと思う程、整った顔付きをしている。

 

 

その男子生徒は、ハルユキに手を差し伸べる。

 

 

「ありがとう」

 

 

お礼を言いながら、ハルユキは差し出された手を取って男子生徒の力を借りて起き上がる。

 

 

起き上がったハルユキが男子生徒に視線を向けると、ハンカチでハルユキが触れた手を入念に拭いていた。

 

 

「ケガがなくて良かったです、じゃあ先輩」

 

 

その男子生徒は踵を返し、ハルユキに背を向けてその場から離れた。

 

 

「新入生?」

 

 

自分の事を先輩と呼んだことから、ハルユキは男子生徒が新入生だと推理する。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

その日の夜。

 

 

ハルユキはタクムとボイスチャットで、今日黒雪姫から告げられた事を報告した。

 

 

『死守しろか、マスターらしいな』

 

 

「らしいって、随分冷静だな。3人で領土戦やらないといけないんだぞ」

 

 

ハルユキはキッチンで、コップに飲み物を注ぎながら、愚痴をこぼす。

 

 

『他の方法はないからね、そういう事態がいずれくるだろうと覚悟はしていたよ。ネガ・ネビュラスに入った時からね』

 

 

コップに注いだ飲み物を、一息で飲み切った。

 

 

「ふぅ。それで?チユの方は?ほら、あいつ回復アビリティだろ?戦えなくても、もし味方にいれば...」

 

 

そこでハルユキは、タクムからの反応がない事に気づいた。

 

 

「タク?どうした?」

 

 

『ハル...』

 

 

「ん?」

 

 

『いや、何でもない』

 

 

☆★☆★☆★

 

 

明くる木曜日の放課後、午後2時50分。

 

 

ハルユキは、丸1年の中学生活を通して殆ど足を踏み入れた記憶のない区画を目指して、早足に歩いていた。

 

 

梅郷中学校の、かなり年代ものの校舎は、平行して建つ一般教室棟と専門教室棟を運動棟が繋ぐH型をしている。

 

 

そのHの横線部分、入学式のあった体育館に隣接する武道館が、ハルユキの目的地だった。

 

 

とはいえもちろん、オーバーウェイトな体を活かして柔道部に入ろうというわけではない。

 

 

もし射撃とマーシャルアーツを教えてくれる《特殊部隊部》みたいのがあれば入るのも吝かではないが、残念ながらそれもない。

 

 

そもそも、いかなるクラブにも参加する気なぞさらさらないハルユキではなく、タクムが今日の主役だった。

 

 

武道館の入口に近づくと、中ではすでに控えめな声援と、それを圧する乾いた打撃音が盛んに響いていた。

 

 

上履きを脱いで持参の袋に入れ、磨き込まれた板張りに上がる。

 

 

そう多くもない見学者の輪の中に、見慣れたショートヘアの後ろ頭を見つけ、ハルユキは小走りに近づいた。

 

 

振り向いたチユリは、一瞬きゅっと唇を尖らせて小声で文句を言った。

 

 

「ハル、遅ーい!もうタッくん1試合やっちゃたよ!」

 

 

「わり。でもどうせ瞬殺だろ、1回戦なんて」

 

 

「まぁ、そうだけどさー」

 

 

チユリの膨れっ面から眼を離し、背伸びをして見回すと、試合場の向こうに並んで座る防具姿の剣道部員達の中に、ひときわ涼やかな佇まいの幼馴染をすぐに見つける事が出来た。

 

 

あちらも同時にハルユキを発見したらしく、小さく右手を動かして合図してくる。

 

 

それに軽く頷きを返し、ハルユキは改めて試合場に注意を向けた。

 

 

「エァアアアッ!」

 

 

「シェアアアッ!」

 

 

小柄な部員が2人、盛んに竹刀を打ち合わせている。

 

 

甲高い気勢や、垂ひもの緑色からして双方とも新一年生だろう。

 

 

今日は、梅郷中学校の全員参加トーナメント戦なのだ。

 

 

レギュラー、準レギュラー部員を決めるという名目ではあるが、新入生に上級生の権威を叩き込むという目的もあるらしい。

 

 

梅郷中は、専用の道場があるためか伝統的に剣道部がそこそこ強く、今年も10人ほどが入部したようだ。

 

 

その中で、たった1人の2年生新入部員がタクムだった。

 

 

本人は、今年の頭に転校してきてからあらゆる時間をネガ・ネビュラスのために捧げるつもりだったようだがそれを黒雪姫が強く諫めた。

 

 

「現実生活の全てをブレイン・バーストと同化させるな」と私淑(ししゅく)する《マスター》に言われれば、タクムの中にもずっと続けてきた剣道をここでもやりたいという気持ちはあったらしく、この春になってようやく入部届けを出したのだ。

 

 

このトーナメント戦にハルユキとチユリを誘ったのは、たとえ負けようとももう2度と剣道に《加速》は使わない、という意思表示だろうとハルユキは解釈した。

 

 

それゆえ、正直気後れさせられる運動部のテリトリーに、こうして足を運んだのだった。

 

 

本当はタクムの活躍を見せようと兎美と美空も誘ったのだが、2人には断られてしまった。

 

 

今思えば、ファウストに見つかるわけにはいかない美空を誘ったのは間違いだったとハルユキは思った。

 

 

しかし、兎美の自分にとってどうでもいい事に関しては、一切興味を示さないあの性格はどうかと思う。

 

 

「ドウあり、勝負あり!」

 

 

という顧問の声が響き、ハルユキの想念を中断させた。

 

 

開始戦まで下がり、竹刀を納めた1年生の片方が、隠しきれない口惜しさにどすどすと足音が荒く部員の列に戻っていく。

 

 

それと対照的に、勝った方の生徒は、ひときわ小柄な体をふわりと翻して無音の歩行で場外へと下がる。

 

 

ふうん、とハルユキは眼を細めてその背中を追ったが続いた教師の声に視線を切った。

 

 

「2回戦、第1試合!赤、高木。白、黛!」

 

 

す、と2人の生徒が立ち上がった。

 

 

高木は3年生、黛――タクムはもちろん2年だ。

 

 

背丈は同じくらいだが、体つきは高木のほうがずっと分厚い。

 

 

礼から3歩進んで開始戦で蹲踞(そんきょ)

 

 

竹刀をぴたりと中段に据えるタクムの姿を、ハルユキはじっと凝視した。

 

 

考えてみれば、剣道着のタクムを肉眼で見るのはこれが初めてのことだった。

 

 

もちろんネットにアップされている試合の動画を観たことはあるが、やはり生は情報量が違う。

 

 

使い込まれて黒光りする竹刀の重さ、道着の硬さ、防具の匂いまでも伝わってくるような気がして思わずごくりと唾を飲む。

 

 

その、百年以上も変わらぬ剣道選手の出で立ちに、唯一異質な輝きを加えているのが面ぶとんの下にちらりと覗くニューロリンカーだった。

 

 

あらゆるスポーツの試合が、ニューロリンカー装着状態で行われるようになったのはそう昔のことではない。

 

 

その目的は、各得点数や試合時間の視界オーバーレイ表示が主であるが、特に剣道やフェンシングに於いては有効打の判定にも用いられる。

 

 

数百分の一秒差であることも珍しくない打突の後先を、ニューロリンカーの感覚フィールドバック機能ならば容易に判定できるのだ。

 

 

無論、試合中の外部アプリケーション実行やグローバルネット接続は厳しくチェックされる。

 

 

だが、その監視をたやすく潜り抜ける超プログラムがたった一つ存在する。

 

 

言うまでもなく《ブレイン・バースト》だ。

 

 

タクムは、去年の夏に行われた東京都中学校剣道大会で、《加速》能力を使用して1年生ながらに優勝した。

 

 

しかしそのためにバーストポイントを消費しすぎ、ブレイン・バーストを喪失の危機に立たされ、追い詰められた挙句にチユリのニューロリンカーにウイルスを仕掛けて黒雪姫――ブラック・ロータスのポイントを奪いつくそうとした。

 

 

その行為への悔いは、チユリや黒雪姫がタクムを許した今でもなお、彼の中に色濃く残っている。

 

 

しかし、こうして再び剣道場に戻って来たことで、タクムはようやく新たな一歩を踏み出そうとしているのだろう、とハルユキは感じた。

 

 

「タッく―――――ん!ぶっとばせ――――!!」

 

 

隣のチユリの遠慮ない声援に、思わず首を縮めながらも、ハルユキも精一杯の声を出した。

 

 

「た、タク!頑張れ!!」

 

 

 

 

 

三年生の高木 某 相手に、タクムは1本を落としたものの見事に勝利した。

 

 

続く準々決勝も快勝。

 

 

準決勝も判定ながら勝ちを収め、ついに決勝に駒を進めた。

 

 

しかし、トーナメントの話題をさらったのはタクムではなく、全試合2本先取という驚くべき強さで勝ち進んだ新1年生だった。

 

 

「こ......コテあり!勝負あり!!」

 

 

顧問のやや上ずった声に、大きなどよめきが重なった。

 

 

「すごい1年がいる」という噂がローカルネット経由でたちまち広がり、放課後にも関わらずほんの十分ほどで試合場の周囲が満員になるほど生徒が詰め掛けたのだ。

 

 

それをまったく意に介する様子もなく、滑らかな歩行で開始線に戻った1年生は、ハルユキが以前転んだ時に助けてくれた生徒だった。

 

 

垂ゼッケンに刺繍された名前は能美(のうみ)と読める。

 

 

小柄で細い体型では、大柄な上級生と相対するとまさしく大人と子供で、とてもまともな試合になる気がしない。

 

 

しかし、当たらないのだ。

 

 

ハルユキの肉眼では視認も難しいほど難しいほど速い三年生の打ち込みを、まるで事前に予測しているが如き反応でふわりと躱す。

 

 

あるいは出がかりに自分の技を合わせる。

 

 

ハルユキのあやふやな理解によれば、剣道というのは、相手の技の出始め、あるいは出終わりでなければなかなか1本を取れるほどの打撃は入れられない競技だ。

 

 

前者を先の先、後者を後の先と呼び、つまりはどれだけ速く敵の攻撃に反応できるか、がキモだという話になる。

 

 

その点に於いて、能美という1年生はズバ抜けた能力を持っているようだった。

 

 

そう――、能力(、、)

 

 

「決勝戦!!赤、能美!白、黛!」

 

 

顧問教師の声に、能美とタクムが試合場に進み出た。

 

 

ギャラリーの歓声がわっと盛り上がる。

 

 

中学生としてはかなり長身のタクムと、小学校にしか見えない能美とでは、20センチ近い身長差がある。

 

 

考えるまでもなく有利なのはタクムだ。

 

 

リーチがまったく違う。

 

 

だが、これまでも能美は自分より大きな相手に、1本も取られることなく全勝してきたのだ。

 

 

2人が頭を下げ、開始線で蹲踞して竹刀を構えると、何かを感じたのか大勢のギャラリーがすっと黙り込んだ。

 

 

ハルユキには、対峙する2人の剣先のあいだに青白く弾けるスパークが見えるようだった。

 

 

「始め!!」

 

 

――の掛け声が響いた直後、2つの叫びと1つの打撃音が広い剣道場に交錯した。

 

 

最初に動き出したのはタクムだった、ようにハルユキには見えた。

 

 

立ち上がりながら前に出るや、「メェェェン!」の気勢とともに打ち込んだのだ。

 

 

ぎりぎりの間合いから相手の面を狙った容赦のない一撃。

 

 

リーチの短い能美には反撃できない、はずだった。

 

 

しかし、タクムの竹刀が握り切られるよりも早く。

 

 

「テエェッ!」

 

 

という一瞬の気合とともに、能美の竹刀がタクムの左小手を叩いていた。

 

 

パァン!

 

 

と見事なまでの打撃音が空気を強く震わせた。

 

 

鍔迫り合いに持ち込むべくタクムが追おうとしたが、その時にはもう能美は充分な間合いを作り、高く竹刀を上げていた。

 

 

「コテあり!」

 

 

の声と共に赤旗が上がり、ようやくギャラリーと、そして30人以上の部員達が大きくざわめいた。

 

 

ハルユキの隣のチユリも、「うそぉーっ!」と眼を丸くしている。

 

 

ハルユキも、嘘だろ、としか言えない気分だった。

 

 

最初に動いたのはタクムだ。

 

 

それは間違いない。

 

 

そして、自分のリーチぎりぎりの間合いから相手の面を狙った。

 

 

その技の途中で小手を打たれるとはどういうことだ。

 

 

つまり能美は、タクムの技の軌道とタイミングを完璧に把握していて、その予測に従って自分の竹刀を《先置き》していた――という理屈になりはしないか。

 

 

先の先でも、後の先でもない。

 

 

言うならば《中の先》。

 

 

ハルユキは瞬きも忘れたまま、一瞬ここが現実世界なのか、それとも仮想世界なのかと疑った。

 

 

仮想世界でなら――脳の応答速度が全てを決める電子の世界ならば、そのような反応も有り得るのかもしれない。

 

 

しかし現実世界では、あらゆる動作は幾つもの物理法則に制約されるのだ。

 

 

思い肉体を留め置こうとする慣性や、神経の伝達速度、筋肉の収縮速度などを考えれば、相手の技の発生を見てからそれより早く剣を振るなど不可能だ、絶対に。

 

 

たった一つ、ある限られた者達だけが持つ《能力》を除けば。

 

 

握り締めた両手にじっとりと汗が滲むのを感じながら、ハルユキは再び開始線で対峙する両者を凝視した。

 

 

「2本目!」

 

 

今度は、1本目とはまったく逆の展開となった。

 

 

タクムはぴたりと竹刀を構えたまま、相手との間合いを保つ。

 

 

面金の奥の両眼は刃のように鋭く、口元はきつく引き結ばれている。

 

 

対して、ふわふわと剣先を上下させる能美のほうは、一切張り詰めたものを感じさせなかった。

 

 

逆光ゆえ顔は見えないが、唇に薄い笑みが刻まれているようにハルユキには見えた。

 

 

10秒。

 

 

20秒。

 

 

双方技を出さないまま、時間だけが経過していく。

 

 

ハルユキはいっぱいに両眼を見開き、ただ能美の顔だけに全神経を集中させ続けた。

 

 

もしハルユキの推測、あるいは悪い予感が正しければ、どこかの時点で能美はわずかに口を動かすはずだ。

 

 

誰にも聴こえない音量で、短いボイスコマンドを唱えるために。

 

 

じり、じりと時計回りに動くだけの両者に、ついに顧問教師が大きく息を吸い込んだ。

 

 

しかし、「待て」の声が掛かる、その寸前――。

 

 

すうっと能美が、さして速いとも思えないスピードで竹刀を振り上げた。

 

 

そしてハルユキはついに見た。

 

 

能美の口が、小さく、素早く開閉するのを。

 

 

――間違いない。

 

 

加速コマンドだ(・・・・・・・)

 

 

能美という新1年生は、首のニューロリンカーに謎の超アプリケーション《ブレイン・バースト》を持つ、加速能力者(バーストリンカー)なのだ。

 

 

「ドオォォォォッ!」

 

 

能美が竹刀を上げた瞬間、がら空きになった懐にタクムが斬り込んだ。

 

 

同時にハルユキも口の中で叫んでいた。

 

 

「バースト・リンク!」

 

 

バシイイィィィッ!という音とともに、世界が青く凍った。

 

 

一千倍に加速された知覚を通してなお、タクムの竹刀はじわじわと能美の胴めざして動いていた。

 

 

どう見ても、この打撃を回避あるいは防御するすべはもう能美にはないはずだ。

 

 

そう、たとえ彼もこの瞬間《加速》しているのだとしても。

 

 

桃色ブタアバターの姿で試合場に侵入し、ハルユキは青く透き通った能美の面金を覗き込んだ。

 

 

残念ながらソーシャルカメラの視界外らしく、素顔までは見通せない。

 

 

だが、微笑みをたたえた口元だけはポリゴンで再構成されている。

 

 

その顔をじろりと睨みつけながら、ハルユキは左手でブレイン・バーストのコンソールを起動した。

 

 

この能美という新一年生が、一体どうやって入学式直後のハルユキと黒雪姫のチェックを掻い潜ったのかは不明だ。

 

 

しかし今は、試合をしている以上絶対にニューロリンカーを梅郷中ローカルネットに接続しているはずであり、ならばこの能美の名前も必ずマッチングリストに出現しなくてはならない。

 

 

――今この瞬間、《対戦》を吹っかけてやる。

 

 

ハルユキはそう決意しながらリストの更新を待った。

 

 

能美は、剣道部の試合で明らかに加速能力を使用している。

 

 

ならば恐らく、来週すぐに実施される実力テストでもそうするつもりだろう。

 

 

しかし梅郷中学のバーストリンカーには、『テストや試合に《加速》を使うべからず』というネガ・ネビュラスの鉄の掟があるのだということを教えてやらなければならない。

 

 

必要なら、仮想の拳を用いてでも。

 

 

サーチング表示が終了し、リストにシルバー・クロウ、ブラック・ロータス、シアン・パイル、そしてライム・ベルとサファイア・ラビットの名前がぱぱぱっと表示された。

 

 

「え......っ!?」

 

 

ハルユキは、右手をリストに伸ばしたまま、激しく喘いだ。

 

 

ない。

 

 

名前が出ない。

 

 

リストには、先日と同じく、既知のバーストリンカー五名の名前しか存在しない!

 

 

「なん...で」

 

 

呆然と呟く。

 

 

勘違いとは思えなかった。

 

 

恐らくタクムも、この能美がバーストリンカーだと踏んだからこそ、1本目はまったく様子見することなく打ち込んだのだ。

 

 

加速コマンドを唱える暇を与えないために。

 

 

まさか、半年前にタクムが使ったバックドア・プログラムが再び出回ったのか、と一瞬考えたがそれもすぐに打ち消す。

 

 

あのプログラムは、クローズド・ネットワークの外部から、誰かを踏み台にして接続するためのものだ。

 

 

しかし、今この瞬間、能美は確かに梅郷中学校の剣道場に存在するのだ。

 

 

ならば間違いなく学内ローカルネットにも接続しているはずであり、それゆえにマッチングりすとにも登場しなくてはならないのだ、絶対に。

 

 

ブタアバターの短い両腕を組み、俯いて、ハルユキは懸命に思考を回転させた。

 

 

この状況を説明づけられる可能性を3つにまで整理するのに、たっぷり1分を要した。

 

 

一、能美はバーストリンカーではなく、剣道の天才である。

 

 

二、能美はバーストリンカーだが、学内ローカルネットに接続していない。

 

 

三、能美はバーストリンカーであり、ローカルネットにも接続しているが、マッチングリスト登録を拒否できる。

 

 

真相は必ずこのどれかであるはずだ。

 

 

だが、どれであろうと説明できない部分が残る。

 

 

曰く言い難い気持ち悪さともどかしさを感じながら、ハルユキは長く息を吐いた。

 

 

今はこれ以上考えても無駄だ。

 

 

あとでタクム達と相談してみるしかない。

 

 

青く停止する自分の生身の体まで戻り、ハルユキはもう一度能美の姿を睨んだ。

 

 

無謀にもタクムのメンを狙ったのか、竹刀を大きめに浮かせながら飛び込もうとしている。

 

 

それに合わせて抜きドウを打ちにいっているタクムのタイミングは、ハルユキの素人目にも完璧だ。

 

 

仮に能美がバーストリンカーだろうと、剣道の天才だろうと、あるいはその両方であろうとも、もうどうすることもできまい。

 

 

せめてタクムが1本取る所を肉眼でしっかり見ようと、ハルユキは大きく目を見開いたまま、加速停止コマンドを叫んだ。

 

 

「バースト・アウト!」

 

 

遠くから、現実の音が近づいている。

 

 

同時に青い世界が色を取り戻していく。

 

 

タクムと能美の動きが、徐々に、徐々に本来のスピードへと――

 

 

「.........!?」

 

 

そしてハルユキは、この数分間で何度目かの驚愕に見舞われた。

 

 

能美の体が、右にずれた。

 

 

足捌き、などというレベルではない。

 

 

能美の足は、左のつま先しか試合場に接していないのだ。

 

 

なのに、その一点を軸として、小さな体がフィギュアスケーターのように左に回転しつつ右にスライドしていく。

 

 

タクムの竹刀が迫るが、胴皮が逃げる、逃げる――

 

 

そこでハルユキの知覚加速が完全に解除された。

 

 

ぴしっ、とタクムの竹刀の先革が能美の胴を弾いた。

 

 

だが、浅い。

 

 

直後、伸びやかに打ち出された能美の竹刀が、タクムの面金を見事に捉えた。

 

 

どん、と右足が床を蹴り、そのまま切り抜けていく。

 

 

「ンメエァアアアッ!!」

 

 

の気勢に続いて、文句のつけようのない残心。

 

 

しん、と静まり返った剣道場に、やがて、「メンあり!」の声が響いた。

 

 

「...勝負あり!!」

 

 

どさ、とハルユキの手から、上履きを入れた袋が落ちた。




はい!如何だったでしょうか!


戦闘描写がないだけで、早く書き上げる事が出来ました。


今回はほぼ、タクムの剣道の話になってしまいましたがご了承ください。


また、作中に出てきた蹲踞とは膝を折り立てて腰を落とす剣道の座法です。


中学時代、剣道部だった為に懐かしいと思いながら書いていました。


それはともかく、ようやく第3話まで来ました。


ちなみに、仮面ライダービルドの原作は7話まで来てます。


速くグリスやパワーアップアイテム等も出したいですね。


家の問題で色々とありましたが、この作品も途中で辞める事無く最後まで投稿していくつもりなので応援の程、宜しくお願いいたします。


それでは次回、第4話もしくは激獣拳を極めし者、第29話でお会いしましょう!


それじゃあ、またな!

文字数の調度いい長さを教えてください!

  • 7000~10000 第3章第3話参考
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  • 15000~20000 第3章第2話参考
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