アクセル・ビルド   作:ナツ・ドラグニル

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これまでのアクセ・ビルドは!


兎美「仮面ライダークローズであり、バーストリンカーのシルバー・クロウでもあるハルユキはバーストリンカーの疑いがある能美征二を調べる為に休日の学校に訪れていた」


美空「しかし、能美の策略に嵌り、女子シャワー室に誤って侵入してしまい裸のチユリと鉢合わせてしまった」


チユリ「あの時は本当に驚いたわよ、シャワーから出たら目の前にハルがいたんだから」


兎美「てゆうかチユ、私を差し置いて何ハルに裸見せてるのよ」


チユリ「食いつくとこそこ!!!見せたくて見せたんじゃないんですけど!!!」


兎美「事故だとしても、裸見せたのは事実でしょ!!私だってまだなのに!!」


美空「さて、2人は放っておくとして、この後ハルユキはどうなるのか!!どうなる第6話!!」


第6話

「ゲームオーバーです、有田先輩...いえ、シルバークロウ」

 

 

それが、初めて対面した能美征二の第一声だった。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

梅郷中学校は、北を上にすると工の字型にしており、正門は東に存在する。

 

 

北の専門教室棟と南の一般教室棟、それらを縦に繋ぐ運動棟に挟まれた2つの空隙(くうげき)のうち、東側の区画は≪前庭≫、西側の区画は≪中庭≫と呼ばれている。

 

 

その中庭は、やたらと樹齢を得た(くすのき)やら(なら)が八方に枝を伸ばし、昼でも薄暗い。

 

 

ベンチや芝生もないので生徒は殆ど近づかず、ソーシャルカメラも設置されていない。

 

 

ハルユキ達を呼びだす能美からのタイプメールが着信したのは、月曜日の最初の授業が終了した直後だった。

 

 

小さなフォントで綴られた短い文面の最後に、【お2人で】のひと言を見つけ、ハルユキはさっと右隣に座る兎美の顔を見る。

 

 

兎美と視線が合うと、ハルユキに対してコクリと頷いた。

 

 

恐らく、兎美の方にもハルユキと同じメッセージが送られたのだろう。

 

 

しかし、ハルユキは能美の意図が分からなかった。

 

 

昨日のシャワー室事件の事でハルユキ達を呼びだすなら、兎美ではなくチユリの筈。

 

 

幾ら考えた所で、能美の考えが解る訳じゃない。

 

 

その考えに至ったハルユキは、指定された2時間目と3時間目の間の20分休み時間が始まるや、兎美と共に席を立って廊下に飛び出した。

 

 

階段を駆け下り、下駄箱からスニーカーを回収して、体育館脇の砂利道を通って中庭に踏み込む。

 

 

あまりいい思い出のない場所だった。

 

 

ソーシャルカメラ圏外ということもあり、1年の時に何度かいじめっ子連中に呼びだされた。

 

 

小突かれ、湿った落ち葉の上に尻餅をつくのは、惨め以外の何ものでもなかった。

 

 

――でも、もう全部過去の話だ。

 

 

今の僕は、あの頃の僕とは違うんだ。

 

 

内心でそう呟きながら、兎美を連れて薄暗い林の真ん中にそびえる一際太い水楢(みずなら)の幹に歩み寄ろうとした。

 

 

がさ、と小さな足音と共に、その向こうから人影が現れ、ハルユキ達と対峙した。

 

 

絶対に自分達の方が早く来たと思っていたハルユキは、その瞬間からやや相手に呑まれ、半歩右足を引いた。

 

 

正面から向き合うと、やはり能美征二はずいぶんと小柄だった。

 

 

クラスの平均をやや下回るハルユキと比べても、更に10センチは低い。

 

 

手足も、胴も、ダークグレーのニューロリンカーが装着された首も子供のように細い。

 

 

体重では恐らく倍近い差があるだろう。

 

 

顔もまた、女の子と見紛うほどにあどけなかった。

 

 

廊下ですれ違って会話までしたはずなのに、ハルユキは一瞬、これが本当に自分を冷酷な罠に掛けた相手なのかと(いぶか)しんだ。

 

 

坊ちゃん刈りの柔らかそうな髪を揺らし、能美は軽く一礼した。

 

 

睫毛の長いばっちりとした眼と、小作りの口ににっこりと笑みを浮かべ――。

 

 

 

 

「ゲームオーバーです、有田先輩......いえ、シルバー・クロウ」

 

 

 

 

と、能美征二は言った。

 

 

「え......な、何が?」

 

 

と、虚を衝かれたハルユキは訪ねるしかなかった。

 

 

能美は笑みを絶やさぬまま、ひょいと華奢な肩をすくめ、もう一度言った。

 

 

「って、本当だったら言いたかったんですけどね、少し趣向を変えようと思いまして...」

 

 

「趣向だって...」

 

 

「ええ、その為に兎美先輩にもご足労願ったんですから」

 

 

「どういう意味よ」

 

 

意味が分からなかった兎美は、能美に質問する。

 

 

「最初は有田先輩を覗き魔にして陥れるつもりでしたが、それよりも面白い話をある人物から聞いたんですよ」

 

 

『!!?』

 

 

能美の言葉に、ハルユキ達は驚愕する。

 

 

兎美達の推測通り、ハルユキを覗き魔にして陥れると能美ははっきりと言ったのだ。

 

 

しかし、ハルユキ達はその後に話したそれよりも面白い話と言う言葉に喰いついた。

 

 

覗き魔に陥られるだけでも、ハルユキにとって最悪な状況だ。

 

 

能美はそれよりも、更に最悪な状況を作ると言ったのだ。

 

 

「ある人物って...」

 

 

「面白い話って何よ...」

 

 

「そんなに慌てないでくださいよ、ちゃんと聞かせてあげますから」

 

 

ハルユキ達を馬鹿にする態度で、能美は話始める。

 

 

「まずある人物については、最後に僕の方から紹介しますよ」

 

 

そう言うと、能美は先程言った面白い話について語りだす。

 

 

「僕も最初に聞いた時は驚きましたよ、まさか有田先輩...兎美先輩が葛城巧未を殺した殺人犯だったなんてね」

 

 

『なっ!!?』

 

 

能美の口から語られた衝撃の言葉に、ハルユキ達は驚愕する。

 

 

「何言ってんだよお前、そんな筈は...」

 

 

「無いと言い切れますか?」

 

 

能美の言葉に、ハルユキは口を噤む。

 

 

「聞いた話だと、あなたは行方不明になる前に一度、葛城巧未に接触してますよね?」

 

 

「!?」

 

 

能美の質問に、兎美は息を飲んだ。

 

 

能美の言う通り...後輩の立弥の話が本当なら、ハルユキが兎美を拾った9月5日に葛城の研究所に訪れているという話だ。

 

 

兎美が葛城を殺したという証拠はないが、それと同時に殺していないという証拠も存在しない。

 

 

「この事が明らかになれば、覗きなんかより大変な事になりますよ」

 

 

能美の言う通り、この事が公になれば大変な事になる。

 

 

覗きなら良くて停学、悪くて退学...のちに刑務所暮らしが待っている。

 

 

しかし、殺人は違う。

 

 

良くて5年以上の懲役、悪くて死刑だからだ。

 

 

どちらが大ごとになるかなんて、考えるまでもない。

 

 

「......きみは......、きみは何処でその話を聞いたんだ...きみが言っているあの人っていったい...」

 

 

何とか絞り出したハルユキの言葉に、能美はさらに口角があがり怪しい笑みを浮かべる。

 

 

「それは...」

 

 

 

 

「私だよ」

 

 

 

 

――という声が、中庭の重苦しい空気を揺らした。

 

 

ハルユキ達はぴくっと背中を竦ませ、能美は笑みを絶やさぬまま、声の聞こえた方に向き直った。

 

 

「よぉ、久しぶりだなハル」

 

 

木立の奥から現れたのはブラッド・スタークだった。

 

 

『スターク!!』

 

 

スタークの登場に、ハルユキ達は更に身体を強張せる。

 

 

「なんでお前が能美と一緒に...」

 

 

「なんでってそりゃ、能美と私が手を組んでいるからに決まってるだろ」

 

 

『!!?』

 

 

ハルユキの質問に答えたスタークの言葉に、ハルユキ達は驚愕する。

 

 

ハルユキ達はビルドドライバーを腰に装着し、いつでも変身できるようにする。

 

 

「おっと...下手に動くなよ、サンプルを殺したくないからな」

 

 

「サンプル?」

 

 

スタークの発したサンプルと言う言葉に、ハルユキは喰いつく。

 

 

「お前らの体にも、スマッシュと同じ多量のネビュラガスが注入されている」

 

 

その言葉に、兎美は息を飲む。

 

 

しかしハルユキは、以前ナイトローグから同じ話を聞いていたので驚く事は無かった。

 

 

あの時、ハルユキが覚えている限りの事は教えたつもりだったが、この反応を見る限り自分達にネビュラガスが注入されているという事を、ハルユキは伝え忘れていたようだった。

 

 

「何もせずに、仮面ライダーのような力が使える訳ないだろ。お前達はガスを注入してもスマッシュにならなかったひじょ―――うにレアな存在なんだよ」

 

 

「私がスマッシュと同じですって...」

 

 

兎美は、今まで倒してきたスマッシュの事を思い出す。

 

 

「んなわけないでしょ!!!」

 

 

兎美はラビットボトルとタンクボトルを振り、ビルドドライバーに装填する。

 

 

『ラビット!』

 

 

『タンク!』

 

 

『ベストマッチ!』

 

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

ビルドに変身した兎美は、ドリルクラッシャーを召喚してスタークに切り付ける。

 

 

「ふざけるな!」

 

 

逃げたスタークにもう一度切り付けるが、今度は避けられドリルクラッシャーは水楢の木を大きく抉った。

 

 

幸い、木が大きかった事で倒木は免れた。

 

 

「あ~あ~あ...」

 

 

暴走に近いビルドの攻撃に、スタークは呆れる。

 

 

「この野郎!!!」

 

 

あの兎美の口から発せられたとは思えない暴言を吐きながら、スタークに掴みかかる。

 

 

掴みかかったビルドは、そのままスタークを地面に転がし馬乗りになる。

 

 

「誰だぁ!!私の体にガスをいれたのは!!記憶を奪ったのは誰なんだぁ!!」

 

 

スタークを殴りながら、ビルドは質問する。

 

 

「お前かぁ!!ローグかぁ!!答えろぉ!!」

 

 

「ふっふっふ、ふっはっはっはっは!!」

 

 

殴られているにもかかわらず、スタークは笑い声を上げ続ける。

 

 

「何が可笑しい!!?私の体を返せぇ!!記憶を返せぇ!!」

 

 

「記憶の核心に触れると、見境を無くすのが欠点か!」

 

 

スタークは腰に下げていたトランスチームガンを手に取ると、ビルドの胸元に銃口を向ける。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

ゼロ距離で銃弾を喰らったビルドは、火花を散らしながら後ろに吹っ飛んだ。

 

 

ビルドはそこそこ太い楠にぶつかると、変身が解除されてしまう。

 

 

「兎美!!」

 

 

変身解除した兎美に駆け寄るハルユキだったが、打ち所が悪かったのか兎美は気絶していた。

 

 

「お前にはがっかりしたよ...」

 

 

スタークは起き上がりながらそう言うと、今度はハルユキに向き直る。

 

 

「さて、今度はお前の番だな。少しは楽しませろよ?」

 

 

ハルユキは、兎美を近くの木に寄りかかせる。

 

 

「ギャォォォ」

 

 

ハルユキの懐に待機状態で忍ばせていたクローズドラゴンが、ハルユキの意志に反応したかのように鳴き声を上げ起動する。

 

 

懐から飛び出したクローズドラゴンは、そのままハルユキの掌に納まる。

 

 

シャカ、シャカ、シャカ。

 

 

『ウェイクアップ!』

 

 

クローズドラゴンにドラゴンボトルを差し、ドライバーに装填する。

 

 

『クローズドラゴン!』

 

 

レバーを回すと、ハルユキの周りにドラゴンハーフボディと追加ボディアーマーが生成される。

 

 

『Are you ready?』

 

 

「変身!」

 

 

『Wake up Burning!! Get CROSS-Z DRAGON!! Yeah!!』

 

 

ハーフボディが結合され、ハルユキはクローズへと変身する。

 

 

「今の俺は、負ける気がしない!」

 

 

ハルユキは兎美を守る為、敵わないと分かっていてもスターク相手に戦いを挑む。

 

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

 

クローズは湿った地面を蹴り、蒼い炎を灯した拳を握り締め、猛然とスターク目掛けて突進する。

 

 

ドゴォン!!!

 

 

――という凄まじい音が、中庭に響いた。

 

 

「ほぅ...少しは強くなったみたいだな」

 

 

やはりと言うべきか、先程の凄まじい一撃をスタークは片手で受け止めていた。

 

 

「なっ!?」

 

 

渾身の一撃を受け止められた事に、クローズは動揺する。

 

 

「確かに強くなったようだが、この程度で...私を倒せると思うなよ!」

 

 

受け止めている手とは反対の手で握っているトランスチームガンを、クローズの胸元に当てる。

 

 

ゼロ距離で喰らったクローズは、先程のビルドと同じように後ろに吹き飛んだ。

 

 

「くぅ...」

 

 

しかし、クローズは変身解除する事なく、何とか立ち上がった。

 

 

「ほぉ!これを耐えるとはな。だが...これならどうかな?」

 

 

『ライフルモード!』

 

 

スタークはスチームブレードを取り出し、トランスチームガンに連結してトランスチームライフルへと合体させる。

 

 

『フルボトル』

 

 

トランスチームライフルに、『ロケットフルボトル』を装填する。

 

 

『スチームアタック!!』

 

 

「ふっ!」

 

 

一発の弾丸が、煙を噴きながらクローズに向かって放たれた。

 

 

「くぅ!」

 

 

ダメージが残っているものの、何とかクローズは横に跳ぶことで直撃は免れる。

 

 

しかし...

 

 

「なっ!!?」

 

 

クローズは驚愕する。

 

 

なぜなら本来ならそのまま一直線に向かう銃弾が、いきなりクローズに向けて方向転換したからだ。

 

 

「ぐぁぁぁぁっ!!!」

 

 

方向転換した弾丸はクローズに命中し、大爆発を起こす。

 

 

流石のハルユキも、変身解除してしまい地面に転がる。

 

 

変身解除するや激しく喘ぎ、最初に攻撃を受けた腹を抱えて丸くなる。

 

 

「少しは頑張ったが、今回はここまでのようだな」

 

 

スタークはそう言うと、能美に顔を向ける。

 

 

「じゃあ、後は頼んだぞ」

 

 

「えぇ、分かりました」

 

 

するとスタークは、ハルユキに近づいて肩に手を置いた。

 

 

「じゃあな、CHAO♪」

 

 

そう言って、今度こそスタークは姿を消した。

 

 

ハルユキは空えずきを繰り返していると、ざくざくと草を踏み分けて近づいてくる能美のスニーカーが見えた。

 

 

「次の授業まであと3分か。...まぁ、間に合うでしょう。それじゃあ、有田先輩から相手してあげますよ」

 

 

「あ......いて...?」

 

 

鈍痛に耐え、ハルユキは唸った。

 

 

その疑問に対する答えは、言葉ではなく、近づいてきたXSBプラグの煌めきだった。

 

 

ハルユキの背中を左足で踏みつけ、上体を屈めた能美は、躊躇なくハルユキのニューロリンカーにプラグを突き刺しざま叫んだ。

 

 

「バースト・リンク!!」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

【HERE COMES A NEW CHALLENGER!!】

 

 

聞き慣れた加速音に続いて、視界に表示されたその文字列を、ハルユキは呆然と凝視した。

 

 

《対戦》!?

 

 

なぜ今!?

 

 

これまで能美は、未知の手段によってマッチングリスト登録をブロックし、ひたすら対戦から逃げ回っていたではないか。

 

 

それを、どうして今になって、しかも向こうから挑戦してくるのだ。

 

 

一連の出来事で混乱しきったハルユキの思考では、能美の意図をすぐには看破出来なかった。

 

 

眼を見開き、世界が乾いた震動音と共に《対戦ステージ》へと変貌していくのをただ見つめた。

 

 

学校の中庭に密生していた木立ちが、一斉に新緑の若葉を落とし、真っ黒い枯れ木へと変貌した。

 

 

空がたちまち暗くなり、夕暮れの藍色に沈んだ。

 

 

三方向に(そび)えていた校舎が、みるみる骨組だけの廃墟へと朽ち果てる。

 

 

灰色の地面から、ずぼ、ずぼっと無数の棒や板が生えてくる。

 

 

いや、棒ではなく――墓碑(ぼひ)だ。

 

 

苔むした十字架や碑石が、視界の果てまで際限なく連なっていく。

 

 

ステージの生成が終わると同時に、視界の上部左右に、2本にHPゲージが伸長した。

 

 

左側のバーの下にはハルユキのデュエルアバター、《シルバー・クロウ》の名前が浮き上がる。

 

 

そして右側に――。

 

 

《ダスク・テイカー》。

 

 

レベルは5。

 

 

名前にまったく見覚え、聞き覚えは無い。

 

 

しかしその割にはレベルが高い。

 

 

恐らくは、能美という人間は、ずっと同じことを繰り返してきたのだろう。

 

 

他のバーストリンカーを罠に掛け、弱みを握り、脅してバーストポイントを《上納》させる。

 

 

そうやって、戦わずしてレベルを上げてきたのだ。

 

 

ぎりっと歯を噛み合わせたハルユキの目の前で、最後に大きく【FIGHT!!】の文字が燃え上がり、飛び散った。

 

 

そこまでを見届けてから、ハルユキはようやく、自分が加速前と同様地面にうつ伏せになっている事に気付いた。

 

 

そして同じく、背中に何者かの足が載っていた。

 

 

「.........っ!!」

 

 

慌てて跳ね起き、大きくジャンプして距離を取る。

 

 

両手を構えながら睨んだ先には――。

 

 

異様な姿のアバターのひっそりと立っていた。

 

 

シルエットはノーマルな人型だ。

 

 

サイズは小さめで、シルバー・クロウと大差あるまい。

 

 

顔もよく似ていた。

 

 

全面がのっぺりとしたバイザー状で、その奥に赤紫色の眼だけが鋭く浮かぶ。

 

 

体も脚も棒の様に細い。

 

 

だが、両腕だけが、奇怪としか言えない有様を呈していた。

 

 

右は明らかに機械系で、ギアやシャフトが組み合わさった太い腕の甲側に、ボルトクリッパーのような凶悪な刃物が装着されている。

 

 

しかし、左はどう見ても生物系なのだ。

 

 

細い環節の浮き出た、いかにもクリーチャーといった造形の腕の肘から先は、3本に分かれた長い触手だ。

 

 

いかにも統一感のない形状だが、全体の色は《宵闇(ダスク)》というその名の通り、黒ずんだ紫だった。

 

 

カラーサークル上の属性は近接及び遠隔だろうが、彩度はかなり低い。

 

 

瞬時にそこまで観察し終えてから、ハルユキは油断なく構えたまま、先手必勝と動こうとしたその時。

 

 

ズキッ!!

 

 

「ぐあっ!!」

 

 

何もダメージを受けてないにも関わらず、胸辺りに鋭い痛みが走ったと同時に体がだるくなり動けなくなった。

 

 

ハルユキはそのまま、ドサッと地面に倒れた。

 

 

「な...なん...で...」

 

 

いつの間にか攻撃されていたのか、そう考えたハルユキは自分のHPバーを見やるが、HPは満タンのまま輝いていた。

 

 

「ん?どうかしたんですか?先輩」

 

 

先程の小馬鹿にした風ではなく、本当に分からないという感じで能美は質問する。

 

 

「こ...れは...」

 

 

そこで...ハルユキはようやく気付く、先程痛みが走った場所は、先程スタークに強制変身解除するに至るまでの攻撃を受けた場所だった。

 

 

「嘘だ...ろ...、ま...さか...」

 

 

現実世界のダメージが、加速世界のデュエルアバターにまで反映してるとでも言うのだろうか。

 

 

確かに現実のハルユキは、動く事も出来ない程の重症だ。

 

 

「まさか...リアルのダメージがこの世界にまで影響してるって事ですかね?」

 

 

今のハルユキの状況を見て、能美も同じ結論に至った。

 

 

「加速している脳事態が、スタークのダメージのせいでこれ以上動いてはいけないと、緊急信号を出しているのかもしれませんね。これは興味深い...」

 

 

能美は現在ハルユキの身に起こっている現象を推測し、興味深そうにハルユキを眺めた。

 

 

「ポイントを頂くには、こうして《対戦》する必要があるんですが、1つ手間が省けましたね。それでは...ついでに先輩から1つある物を預かろうと思うんですよ」

 

 

金属質なエフェクトのかかった能美の言葉の意味を、ハルユキは咄嗟に理解できなかった。

 

 

「あ...預かる、だと?」

 

 

「そうです。先輩の、大切なものをね。さあ...せっかくのステージですよ、戦おうじゃありませんか。その状態で戦えるならの話ですが」

 

 

そう言うと、黒紫色のアバターは、右腕のカッターを持ち上げてガチンと一度打ち合わせた。

 

 

もう、能美が何を意図しているのかはまったく不明だ。

 

 

しかし、この状態で戦うというのは無謀すぎる。

 

 

今のハルユキは、体を動かすのが鈍く...真面に戦えない状態だ。

 

 

それでも...ハルユキは諦める訳にはいかなかった。

 

 

ハルユキも能美の《リアル》というカードを握ったのは間違いなく、これを加速世界に公開されれば、ポイントに飢えたバーストリンカー達に着け狙われておちおち出歩けなくなる。

 

 

スタークと手を組んでいるとはいえ、能美もそれは避けたいだろう。

 

 

ならばあとは、尋常な対戦で勝敗を決するしかない。

 

 

能美は先程、ハルユキの大切なものを預かるといった。

 

 

預かるという事は、それはハルユキから何かを奪うってことだ。

 

 

少なくとも、プライドを奪い服従させる事とは思えない。

 

 

警戒するハルユキだったが、体がだるくて動けなかった。

 

 

――だが。

 

 

スタークと手を組むような相手に、ハルユキは負ける訳にはいかなかった。

 

 

「今の俺は...負ける...気が...しねぇ!!!」

 

 

叫び、ハルユキは拳を握ると、気合で起き上がる。

 

 

「凄いですね、まさか起き上がるとは...」

 

 

あの状況から立ち上るとは思わなかった能美は、本気で驚いていた。

 

 

「うぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

雄叫びを上げながら、一気に地面を蹴った。

 

 

戦場は《墓地》ステージ。

 

 

主だった特徴は暗い事と、時々地面から死人の腕が生えてきて対戦者の足を搦め捕ること。

 

 

レベルは向こうのほうが1つ上だが、対戦格闘ゲームである《ブレイン・バースト》では、オンラインRPG等と違ってレベル差というものが決定的な勝敗要因とはならない。

 

 

さすがに、レベル1と9を比べれば基本性能の差は覆しがたいが、4と5ならばステージ属性との相性の方がよほど重要と言える。

 

 

そしてこの墓地ステージならば、絶対に自分のほうが有利だという確信がハルユキにはあった。

 

 

「う...おお!!」

 

 

一直線に疾走しながら、金属製の拳と足を用いて、軌道上の墓石を発砲スチロールのように粉砕していく。

 

 

オブジェクト破壊ボーナスにより、青い必殺技ゲージがじわ、じわとチャージされ始める。

 

 

能美――ダスク・テイカーは、突っ込んでくるシルバー・クロウを視認しながら、まるで動こうとしなかった。

 

 

余裕ある動作で腰を落とし、右手のボルトクリッパーを前に、左手の触手を後ろに構える。

 

 

「チェエエエエッ!!」

 

 

剣道の試合の時と同じ、甲高い気勢と共にダスク・テイカーが左腕を振った時、まだ双方の距離は5メートル以上あった。

 

 

鞭のように3本の触手が、びゅるっ!と音を立てて一直線に伸びた。

 

 

しかしハルユキは、そのアクションを予想していた。

 

 

おおよそどんなゲームでも、触手というのは伸びると相場が決まっている。

 

 

鋭い尖端を煌めかせて襲い掛かるスピードは相当なものだったが、それでも銃弾よりは遅い。

 

 

頭を狙う1本を首を振って躱し、残り2本をまとめて手刀で払って、ハルユキはダスク・テイカーに肉迫した。

 

 

「シェッ!」

 

 

鋭い声と共に突き出されてくるボルトクリッパーを、身を沈めてやりすごす。

 

 

「......らぁっ!」

 

 

思い切り左脚を踏み切り、垂直に繰り出した肘打ちが、狙い違わず敵の顎下を直撃した。

 

 

激しい衝撃音ともにライトエフェクトが炸裂し、地面を青白く照らす。

 

 

右側のHPゲージが、がりっと減少する。

 

 

まずはファーストヒット。

 

 

大きく仰け反り、踏みとどまろうとする能美のがら空きの懐に、ハルユキは追撃の右ミドルキックを叩き込んだ。

 

 

「ぐっ......」

 

 

呻きながらよろけるところをさらに追い、左フックで浮かせてからの右ハイキック。

 

 

現実世界の生身とは比較にならないほど細く、軽いシルバークロウのボディは電光の如きスピードで閃き、ハルユキの意識から矢継ぎ早に発せられる命令信号を忠実にトーレスする。

 

 

レーザーのような軌跡を引きながら撃ち出された右ストレートが、黒紫色のヘルメットを打ち抜き、放射状のヒビを刻んだ。

 

 

吹き飛び、墓石の1つに激突してぐたりと脱力したダスク。テイカーの体力ゲージは、もう3割近くにまで減少していた。

 

 

「...今の俺は!!負ける気がしねぇ!!!」

 

 

身体に走る激痛に耐えながら強く言い放ち、ハルユキはここでようやく肩甲骨に力を込めた。

 

 

両腕を脇に引き絞ると同時に、じゃきっ!と鋭利な金属音を立てて巨大な翼が展開する。

 

 

ここまでの戦闘で、必殺技ゲージは完全に充填されている。

 

 

高高度からのダイブキックを命中させれば、能美の残りHPは容易く四散するだろう。

 

 

周囲はどこまでも続く墓石の群ればかりで、身を隠せるような遮蔽物は1つもない。

 

 

す、と身を沈め、一息に離陸しようとした――その寸前。

 

 

ぐたりと墓標にもたれかかるダスク・テイカーの左腕が、事前のモーションなしに動き、3本の触手が別の生き物のように飛び掛かってきた。

 

 

体捌きで2本は躱したが、1本が右手首に絡みついた。

 

 

しかしハルユキは慌てず、それを掴んでびんっと引っ張ると、予定通り地面を蹴った。

 

 

50センチほど浮き、両翼の推力を垂直から水平方向に切り替えて、ダスク・テイカーを引き摺ろうとする。

 

 

相手は両脚を踏ん張って堪えるが、がり、がりっと地面に(わだち)が刻まれていく。

 

 

このように、鞭やワイヤーでシルバー・クロウを捕獲しようとした敵は数多くいた。

 

 

しかしそのほとんど全員が、繋がったまま空高く吊り上げられるか、あるいは地面に擦られる破目となった。

 

 

シルバー・クロウの翼が発生させる推進力は、必殺技ゲージが続く限りほぼ無尽蔵と言っていい。

 

 

「う...おお!」

 

 

ハルユキの気合と同時に、両翼から白銀のオーロラが迸った。

 

 

このまま墓石の中を引き摺って残り体力をアバターごと削り切ってやる、容赦なくそう考えた――

 

 

瞬間。

 

 

ダスク・テイカーが、右手の巨大なカッターで、自分の左腕の肘を挟んだ。

 

 

ハルユキに驚愕する暇も与えず、バチン!と嫌な音を立てて、一切の躊躇なく腕が切断された。

 

 

触手の張力が一瞬で消滅し、ハルユキは勢い余って後方に回転しながら吹き飛んだ。

 

 

2度3度バウンドし、幾つかの墓石を粉砕してからようやく停まる。

 

 

しばし呆然と赤黒い夕焼けを見つめてから、慌てて跳ね起きようとした。

 

 

しかし突然、周囲の地面から青白い骸骨の腕が突き出し、ハルユキの手足を掴んだ。

 

 

移動阻害(エンスネア)》、墓地ステージの地形効果だ。

 

 

「くそっ」

 

 

毒づき、振り払いにかかるが、腕はあとから湧いてきて執拗に纏わりつく。

 

 

やむなく仰向けに転がったまま翼を広げ、真上に離陸しようとした――のだが。

 

 

体が浮く寸前、ある種の昆虫のような動きで飛び掛かってきた影が、蹴りつけるようにハルユキの右肩を踏んだ。

 

 

再び地面に押さえ込まれる。

 

 

立っているのは、当然ダスク・テイカーだった。

 

 

HPゲージは、左腕の自己切断によりもう残り2割を下回っている。

 

 

対してハルユキはまだ9割を温存し、逆転は不可能と思えるが、宵闇のアバターの全身は奇妙に弛緩していた。

 

 

のろりと上体をかがめ、ハルユキにのっぺらぼうのヘルメットを近づけてくる。

 

 

エンスネアが解け次第離陸して、決着をつけてやる。

 

 

そう考えながら、ハルユキは低く言った。

 

 

「......誰かを踏むのがそんなに好きなのかよ」

 

 

「ふふ......そういう先輩は、踏まれるのが好きなんですね」

 

 

柳揚薄く呟くと、能美は半ばから欠損した左腕を持ち上げ、その切断面を眺めた。

 

 

つられてそこを見たハルユキは、断面から新たな触手の先端が3つ、にょろりと顔を出しているのに気づき、わずかな生理的嫌悪を感じた。

 

 

「......再生するのか。まるでトカゲの尻尾だな」

 

 

「それを言うなら、タコとかイソギンチャクとかでしょう。いや、前の持ち主は(・・・・・・)ヒトデって言ってたかな」

 

 

「な......なに?」

 

 

意味を掴めず、問い返したハルユキに向けて――。

 

 

「言ったでしょう?先輩の、大切なものを預かる、って。あれはね......」

 

 

がちっ、とボルトクリッパーの刃先がハルユキの左腕を挟んだ。

 

 

「こういう、」

 

 

ほとんど接するほどの距離まで近づけられたダスク・テイカーのヘルメットの中央で、赤紫色の両眼から光が溢れ、渦巻いた。

 

 

「意味です。 ――《デモテック・コマンディア》」

 

 

......必殺技!

 

 

しかしその技名発声は、何の気負いも高揚もなく、吐き捨てる様に行われた。

 

 

まるで、必殺技の発動には、技の名をコールしなければならないというルールそのものを疎んじているかのように。

 

 

ダスク・テイカーの顔全体から発射されたどす黒い光の柱は、ハルユキの鏡面ヘルメットに真正面から命中し、八方に細かく跳ね返った。

 

 

「く.........!」

 

 

ハルユキは歯を食いしばり、ショックに耐えようとした。

 

 

たとえ至近距離から喰らおうとも、一撃でこのHP差を跳ね返される事は有り得ない。

 

 

技の出終わりに即座の反撃を撃ち込んでやろうと、そのタイミングを計った――のだが。

 

 

ゲージが、減らない。

 

 

シルバー・クロウの体力ゲージは、緑色に煌々と輝いたまま、微動だにしない。

 

 

痛みもない。

 

 

熱も感じない。

 

 

なのに、ダスク・テイカーの必殺技ゲージは、フルチャージ状態から恐ろしい勢いで減少していく。

 

 

放たれる黒紫の渦はいっそう勢いを増し、ハルユキの顔面に冷たい圧力を加えてくるが、それ以上の変化は何も起きない。

 

 

――いや。

 

 

ハルユキは突然、自分の全身から、何かが吸い出されていくのを感じた。

 

 

気付けば、敵の必殺技ゲージが半減した瞬間から、光の流れる向きが逆になっている。

 

 

ハルユキのヘルメットからずるずると液体のように飛沫を散らしながら噴き出し、能美の顔面に呑み込まれていく。

 

 

数秒後、あっけなく全ての現象が停止した。

 

 

相手の必殺技ゲージはゼロまで消費し尽くされている。

 

 

対して、ハルユキのものは再び全開状態だ。

 

 

体力ゲージにも一切のダメージなく、能美のそれも変わらず残り2割弱。

 

 

「......おおっ!」

 

 

ハルユキは吼え、一気に飛び上がろうとした。

 

 

今の技は恐らく遅効性、ならば発動を待つ意味は無い。

 

 

このままダスク・テイカーごと高高度まで飛翔し、そこから地面に叩き落せば決着がつく―――

 

 

――――..........。

 

 

静寂。

 

 

しん、と冷たい空気が、フィールドの底を覆った。

 

 

全身を絡めていた死人の腕はもう消滅している。

 

 

ダスク・テイカーの左足と右手に、軽く両肩をホールドされているだけだ。

 

 

なのに。

 

 

飛べない。

 

 

どれほど背中に力を込めようと、意識を集中しようと、シルバー・クロウの体を浮かせ、空に解き放つはずの金属翼が応えない。

 

 

ハルユキは呆然と首を回し、自分の肩の向こうを覗き込んだ。

 

 

無かった(・・・・)

 

 

常に頼もしく、美しく輝いていた筈の左右10枚ずつの白銀のフィンが、一切の痕跡も残さずに消滅していた。

 

 

状況を理解できず、のろりと顔を戻したハルユキの目の前で、黒紫のアバターが音もなく立ち上った。

 

 

無造作にハルユキの拘束を解き、数歩後ろに下がる。

 

 

「......ふ、ふふ」

 

 

幼い子供の無邪気さと、年経た者の執着を等しく含んだ笑みが、細く漏れた。

 

 

「ふふふ。そのマスクお下では、さぞかし吃驚してるんでしょうね、先輩。それとも、自慢のゲーム頭でもうあれこれ考えてるかな。さっきの技は何だったのか......自分に何が起きたのか。もったいぶるのは趣味じゃないんで、さくさくっと教えてあげますよ。つまり......」

 

 

能美は、数分前にハルユキがしたように、両腕を胸の前でクロスさせると、ぐっ!と両脇に引き絞った。

 

 

「こういう事です」

 

 

ずるり。

 

 

と湿った音を立て、2本の湾曲した突起物がダスク・テイカーの背中から伸び上がっていくのを、ハルユキは声も出せずにただ眺めた。

 

 

1メートルほども突き出して止まったそれは、震え、唸り――

 

 

どす黒い粘液を飛び散らせて、左右に大きく展開した。

 

 

翼。

 

 

骨と飛膜で形成されたそれは、コウモリのような、あるいは悪魔のような不吉なシルエットを、血の色の夕空に黒く刻んだ。

 

 

ばさっ、と翼が打ち鳴らされ、完全に思考停止したハルユキの眼前で、小型のアバターのわずかに跳躍した。

 

 

しかしすぐにまた地面に戻り、紫のヘルメットがひょいっと傾く。

 

 

「おや、これは中々難しいな...。運動命令系だけじゃなくて、別系統の入力でも制御してるのかな」

 

 

ばさ、ばさ。

 

 

何度も激しい羽ばたきが繰り返され、その度にアバターの上昇幅が増していく。

 

 

「お、こうか。これは、自由にコントロール出来るまでは練習が要るかなぁ」

 

 

よろよろと左右にふらつきながらも、アバター着実に地面から離れ、浮き上がっていく。

 

 

「嘘だろ...」

 

 

ハルユキは直ぐに自身の名前をタップし、インストを開いた。

 

 

必殺技、通常技、アビリティ、アイテム等を確認できる。

 

 

すぐさまアビリティをタップしたハルユキは、自身の眼を疑った。

 

 

 

 

 

空白。

 

 

 

 

 

つまり、何も表示されていなかった。

 

 

本来なら、シルバー・クロウしか持っていないアビリティ《飛行アビリティ》が表示されている筈だった。

 

 

空白になったアビリティリスト、そして目の前のダスク・テイカーに現れた翼。

 

 

これはもう、誰がどうみても一目瞭然だった。

 

 

「いいえ、ほんとなんですよ、これ」

 

 

3メートル程の高さでホバリングし、ダスク・テイカーはゆっくりと両手を広げた。

 

 

「僕の唯一の必殺技、《魔王の微発令≪デモニック・コマンディア≫》は、対象となったデュエルアバターの必殺技、あるいは強化外装、あるいはアビリティのどれか1つを奪います。さっきの触手も、ずっと前に誰かから頂いたんですよ。あんま使えませんでしたけどね。その意味、解ります?つまり......効果時間は、無制限だってことです。もちろん、ストック数に上限はありますけどね」

 

 

――アビリティを奪う。

 

 

永続効果。

 

 

それは即ち、こういうことなのか?

 

 

シルバー・クロウの存在証明であった銀翼は、あの黒紫色のアバターに奪われ、もう2度と戻ってこない......?

 

 

「う...嘘だっ!返せ......返せぇぇぇぇぇっ!!」

 

 

ハルユキは突如襲ってきた底知れない虚無感に抗うように絶叫した。

 

 

跳ね起き、数歩走って、思い切り飛び上がる。

 

 

右手を伸ばし、能美の足を掴もうとする。

 

 

「おっと」

 

 

ひょいっと宙で足が持ち上げられ、ハルユキの手は空を切った。

 

 

金属音を立てて地面に落下し、無様に這いつくばる。

 

 

四肢が冷たくなり、感覚が遠ざかる。

 

 

再び立とうとするが、等々限界が来たのか激痛でアバターが言う事を聞かない。

 

 

「先輩、先輩!そんなに凹まないでくださいよ」

 

 

遥か高みから、揶揄するような、あるいは慰めるような台詞が降り注いだ。

 

 

「言ったでしょ、大切なものを預かる、って。安心してください、返してあげますよ。先輩が、梅郷中を卒業する日にね。もちろん、それまで毎週、僕にノルマ分のポイントを納めてもらいますけど、言わば2年間の分割払いですよ、一度でも滞納したら......わかってますよね?」

 

 

見せ付ける様に、異形へと変貌してしまった翼を大きく打ち鳴らした。

 

 

翼の事もあるが、シルバー・クロウは兎美の事でも脅されている。

 

 

何をされるか分からない。

 

 

「――大丈夫ですよ、あの近接格闘能力があれば。通常技だけで、この僕に危うく奥の手を使わせるところだったんですからね......羽根なんかなくたって、充分やっていけますって。僕が保証しますよ!ふふふ......ははははは......!」

 

 

ばさ、と不吉な羽音が響き、すぐ近くに着地する気配があった。

 

 

しかしもう、ハルユキには動く力も残っていなかった。

 

 

まるで工作仕事のような何気なさで、大型カッターが左腕を挟んだ。

 

 

金属質の切断音と火花、神経を駆け巡る疼痛(とうつう)を、ハルユキはどこか別世界の出来事のように遠く感じた。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

《対戦》が終了し、現実世界に復帰するとともに、ハルユキの背中から能美の足が離れた。

 

 

双方のニューロリンカーから引き抜いたケーブルをくるくると丸めながら、小柄な1年生は朗らかに言った。

 

 

「お疲れ様でした、有田先輩。これで、現実世界と加速世界の格付けが完了したってことですね。まぁ、どちらもスタークのお陰ですが...。そんなわけですから、すみませんけど2年間、よろしくお願いしますね」

 

 

ちらりと振り向き、スタークに倒されて木に寄りかかったままの兎美を見て続ける。

 

 

「真面目に対戦なんかして疲れたんで、兎美先輩や倉嶋先輩のアバターを見せてもらうのはまた今度にしましょうか。ちゃんと覚えといてくださいね、ボクのペットになってくれる約束。それと......言うまでもないですけど、この一件は、黛先輩と、あなたたちのボスには秘密にしといてくださいよ、そしたらちゃんと羽根も返してあげますし、兎美先輩が葛城巧未を殺した事も黙っていてあげますよ。彼らと対決するにはもう少し準備が要りますからね。じゃあ、失礼します」

 

 

ぺこりと一礼し。

 

 

能美征二は、現れた時と同じように平然とした足取りで、中庭から出て行った。

 

 

四つん這いのままのハルユキは、そのまま動けなかった。

 

 

スタークに仮面ライダーとして敗れ、能美には羽根を奪われシルバー・クロウとして敗北した。

 

 

悔しさの余り、体の痛みは殆ど自覚できなかった。

 

 

何が仮面ライダーだ。

 

 

何が加速世界唯一の飛行型アバターだ。

 

 

全身脂汗でぐっしょりだが、体の中身が空っぽになってしまったかのような、虚ろな寒さだけを感じた。

 

 

完膚なきまでに敗北したハルユキに、虚しさだけが残った。

 

 

歯の根が合わず、深呼吸すらままならない。

 

 

「どういうこと...ハル...」

 

 

そんなハルユキに止めを刺すかのように、新たな第3者が現れる。

 

 

ハルユキはびくっと背中を竦ませ、声の聞こえたほうに四つん這いのまま向き直った。

 

 

木立の奥から現れたのは、猫を思わせる両眼を驚きで見開いたチユリだった。

 

 

傍にタクムの姿はない。

 

 

「兎美が葛城巧未を殺したってどういう事?」

 

 

どうやら、一人でハルユキ達の後を追いかけ、最後の会話を耳にしたらしい。

 

 

「ねぇっ!!ハルっ!!!」




どうも、ナツ・ドラグニルです。


作品は如何だったでしょうか?


この章の話は、オリジナル展開にするか、原作のままにするかこの話を書くまで迷っていたのですが原作のままにしました。


その場合、仮面ライダーとして戦っているハルユキが能美に負けるのは可笑しいかなと思い、現実世界ではスタークにやられ加速世界ではスタークにやられたダメージで上手く動けないようにしました。


いや、それはおかしいだろうと思う方がいるかもしれませんが、そこは大目に見ていただけると幸いです。


まだ少し迷っている所もありますが、母親に会いに行ってから楓子に会うか、楓子に会ってから母親に会いに行くか、決めようと思います。


もしくは、ハルは楓子に会いに行き、兎美とチユリが母親に会いに行かせようかなと考えています。


それでは次回、第7話もしくは激獣拳を極めし者第32話でお会いしましょう!


それじゃあ、またな!

文字数の調度いい長さを教えてください!

  • 7000~10000 第3章第3話参考
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  • 15000~20000 第3章第2話参考
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