兎美「てーんさい物理学者、有田兎美は失われた記憶を取り戻すべく舞台となっている杉並でスマッシュを倒しながらハルユキの視界情報を覗いたりしてコウモリ男の手がかりを探すのでありました!」
美空「後半やってる事はストーカーと変わりないけどね」
兎美「茶々入れるんじゃないわよ、ばれなきゃ問題ないのよ」
美空「それよりなんで最後に倉嶋千百合に正体ばらしてんのよ」
兎美「しょうがないでしょうが!他に設定が思いつかなかったんだから、てか第1話を投稿してからなんでお気に入りがあまり増えてないのよ!おかしいでしょ!」
美空「第1話でいきなり1万5千文字もの内容を投稿したら誰も見ようと思わないでしょうが会話文があまり無いし、殆ど原作のパクリでしょこれ」
兎美「しょうがないでしょ気づいたらその規模になってたんだから」
美空「他にも文章力の問題じゃないの?もう1つの作品もあまり見られていないし」
兎美「うるさいわね!確かに会話文が成立してるようで成立していない馬鹿丸出しの文章になってるけど!投稿している時間帯もあるわ、殆ど投稿してるの夜中だし」
美空「0時が多くアカウントされやすいってのを鵜呑みにしたからでしょ」
兎美「うるさいわよ!さてどうなる第2話!」
美空「てゆうか初っ端からこんな話してたら余計見て貰えなくなるわよ」
兎美「それを言うんじゃないわよ...」
僕、有田春雪は昨日の事を思い出しながら朝食を食べている。
「どうしたの?ハル」
「あんたが朝食にボケッとするなんて珍しいじゃない」
その時、一緒に朝食を取っていた兎美と美空が話しかけてきた。
「いや、昨日の事を思い出してて」
「ああ、なるほど」
「そういえばあの後、チユリちゃん大丈夫だったの?」
「怪我自体は大した事は無さそうだったけど、あまり元気は無かったと思う」
「まあ、無理も無いでしょ。スマッシュに襲われれば」
その時、ハルユキが思い出したかのように話しかけた。
「そういえば、あのスマッシュは何のボトルになったんだ」
「これよ!」
兎美が取り出したのは『ゴリラフルボトル』だった。
「あのスマッシュがゴリラになったのよ!流石私の発明品よね!」
「いや私のお陰だし」
「ははは、それにしても美空は浄化した後はいつも寝てるのに、今日は起きてるなんて珍しいな」
「別に...たまには一緒に食べてもいいかと思っただけだし」
「そっか」
「それに最近あまり一緒にいる時間少ないし」ボソッ
「ん?なんか言った」
「何にも言ってないし」
「それよりハル、今日黒雪姫って人に呼ばれてんでしょ?」
「ああ、昨日スカッシュゲームしようとした時に...」
この時、ハルユキは黒雪姫の事を話した覚えが無い事に気づいた。
「俺、兎美に黒雪姫先輩から呼ばれた事言ったっけ?」
「へ?あっ!も、もうハル自分で言ってたの忘れたの?」
ハルユキは疑問に思ったが、他に知る術もないし自分が忘れてるだけだと思っていた。
その後、学校へ行く為、マンションのエレベーターに乗っていた。
「たくっ、スマッシュに襲われたんだから普通は休校だろ」
しばらく乗っているといるはずの無い、人物が乗ってきた。
「おはよう、ハル」
「チユ!?」
乗ってきたのはこの時間、陸上部の朝練があるはずのチユリだった。
「おまっ!何で!部活は!?」
「部活は今日は休みにしてもらったの」
「何で!?」
「昨日、あれから色々考えてたんだけど...私もハル達に協力する!」
「はあ!?お前自分が何言ってるのか分かってんのか!?凄く危険なんだぞ!」
「分かってる!でもハルが危険な目に合ってるのに私だけ見て見ぬ振りなんて出来ないよ!」
「チユ、気持ちは嬉しいけど無理して協力しようとしなくても俺は気にしないし」
「私が嫌なの!!」
突如、チユが叫んだ。
「もし、もしハルが死んじゃったらどうしようって考えると怖くなった!だから私も協力する!もう決めた事だから」
その時、ちょうど1階に到着しドアが開くとチユは走って行ってしまった。
「チユ...」
ハルユキはしばらくチユリが走って行った方を見つめていた。
☆★☆★☆★
昼休み、朝の事もあり、のろのろした歩調で向かっていたのは、荒谷に呼び出された屋上ではなく校舎一階の学生食堂に隣接したラウンジだった。
ハルユキはまず、悪戯の可能性を考え、ラウンジの入り口の観葉植物にどうにか巨体を隠し、内部を伺った。
「居た....」
思わずごくりと空気を呑む。
ラウンジの最奥、窓際のテーブルに、一際目立つ集団があった。
2年と3年が混在した6名、よくよく目を凝らすと全ての顔に見覚えがある。
全員が現生徒会のメンバーだろう。
男子も女子も方向性に差はあれ揃って眉目秀麗だ。
その中でも最大の存在感を放っているのが、物憂げにハードカバーのページをめくる青リボンの女子生徒だった。
腰近くまであるまっすぐな髪は、いまどき珍しいほどの漆黒。
間違いない―梅里中学校一二を争う有名人、『黒雪姫』。
ラウンジの入り口から奥のテーブルまではそこまで距離はないが上級生の間を通っていく勇気はハルユキには持ち合わせていなかった。
回り右して帰りたいと思っていたその時。
「あら?あなたそんな所で何してるの?」
ハルユキはビクッとなり心臓が止まりかけ変な声を出しかけたが何とか抑え、振り返る。
そこにいたのは黒雪姫と同じ青リボンをつけた女子生徒だった。
ハルユキはその女子生徒の事も知っていた。
黒雪姫と同じ梅里中学校一二を争う有名人、『氷室 幻(ひむろ まほろ)』。
梅里中学校の2年生でありながら風紀委員の会長を勤める生徒だ。
「会長どうかしました?」
氷室先輩の後ろから現れた女子生徒は風紀委員の副会長『内海 成海(うつみ なるみ)』だった。
「この子がラウンジに入りたそうにしてたから、話しかけてたの」
「なるほど、君は見たところ1年生のようだけど、誰か上級生と約束でもあるのかな?」
「えっと...あの...その...」
答えようとしたが有名人が話しかけてきた事により、緊張して話せなくなってしまった。
「来たな、少年」
その時、ラウンジの奥の方から声が聞こえた。
ぱたりと音を立ててハードカバーを閉じ、棒立ちのままハルユキに手招きをしながら、視線をちらりと氷室先輩達に向ける。
「用は私だ。済まない、そこ空けてもらえるかな」
後半は、隣に座る3年の男子に向けたものだった。
短髪長身の上級生は、面白がるような表情を浮かべて立ち上がると、掌で椅子をハルユキに示した。
もごもごと礼を口にして、ハルユキは丸い体を限界まで縮め腰を下ろした。
華奢な椅子が盛大に軋んだが、黒雪姫はまるで気にするふうもなく、ブレザーの左ポケットを探ると束ねた細長いものを取り出した。
それは1本のケーブルだった。左手で長い髪を後に持ち上げ、びっくりするほど細い首に装着されたニューロリンカーの端子に右手でプラグの片方を挿入すると、黒雪姫は何気ない仕草でもう一方のプラグをハルユキに差し出した。
今度こそ、事の成り行きを見守っていたラウンジじゅうの生徒達から、大きなざわめきが巻き起こった。
中には、嘘だろとか、いやーそんなーとか悲鳴じみたものまで混じっている。
度肝を抜かれたのは、ハルユキも同様だった。額にはぶわっと汗が浮き上がる。
『有線直結通信』
略して直結は、通常その場のサーバー越しで無線通信するのとは違ってニューロリンカー同士がサーバーを介さず通信するほとんど唯一の手段 サーバーのセキュリティはもちろん働かないし、リンカー本体の防壁もほとんどが無効化される 。
ちょっと知識があれば相手のニューロリンカーに悪さをするのも難しくなく、それゆえ直結するのは絶対的に信頼できる相手に限られる=家族か恋人でなければしない。
まして公共の場でわざわざ見せつけるように直結するなんて、恋人でなければやらない。
ハルユキはどうにか声を絞り出し、尋ねた。
「.....あ、あの、どうすれば....」
「君の首に挿す以外に使い道はなかろう」
間髪いれずにそう断言されハルユキは卒倒しそうになりながらも、震える指先でプラグを受け取り、手探りで自分のニューロリンカーに突き刺した。
『わざわざご足労願ってすまなかったな、有田春雪君。思考発声はできるかな?』
唇を動かさずリンカーのみを通して会話する技術の事だ。
ハルユキは頷き、言葉を返した。
『はい。あの....これは、一体、どういうことなんですか?手の込んだ、その....悪戯とかなんですか?』
『そうだな...ある意味ではその通りかもしれない。なぜなら私は、これから君のニューロリンカーに、1つのアプリケーションを送信する。それを受け入れれば今の君の現実は完膚なきまでに破壊され、思いもよらぬ形に再構成されるからだ』
『....げ、現実を....破壊...?』
ハルユキは呆然と繰り返した。
漆黒をまとう上級生は、そんなハルユキの様子を再び笑みを形作り、右手を持ち上げると、しなやかな白い指先でさっと何かを滑らせる仕草をした。
ポーン、というビープ音。
【BB2039.exeを実行しますか? YES/NO】というホロ・ダイアログ。
『それを実行すれば君の知っている常識が破壊されるだろう。』
この時、ハルユキはスマッシュとの戦いを思い出す。ハルユキの現実は既に壊れているような物だった。
そしてコンマ5秒後、右手を持ち上げ、YESのボタンに指先を突き刺した。
『望むところです。今までも常識が破壊される事は何度もありましたから』
そう呟いたのと、ほとんど同時に。
視界いっぱいに、巨大な焔が噴き上がった。
思わず体を強張らせたハルユキを取り巻くように荒れ狂った火焔の流れは、やがて体の前に結集し、ひとつのタイトルロゴを作り出した。
デザインは決して新しいものではない、前世紀の末に流行した、ある種の対戦型ゲームを思い起こさせる荒々しさ。
現れた文字は―『BRAIN BURST』
インストールは30秒近くも続いた。
ニューロリンカー用アプリとしてはかなり巨大だ。
燃え盛るタイトルロゴの下に表示されたインジケータ・バーがようやく100%に到達するのを、ハルユキは息を呑んで見つめた。
現実を―破壊すると、黒雪姫は言ったのだ。
それは具体的に何を示しているのか。
インジケータが消え、ロゴも燃え尽きるように消滅した。
オレンジ色の残り火が、小さな英語フォントで『ウェルカム・トゥ・ジ・アクセラレーテッド・ワールド』という文字を作り、これもすぐに火花となって散った。どういう意味だ―加速、世界?
『あの....この、【ブレイン・バースト】ってプログラムは一体....』
『無事にインストールできたようだな。充分な適正があることは確信していたが』
『て、適性?このプログラムのですか?』
『そうさ【ブレイン・バースト】は、高レベルの脳神経反応速度を持つ者でなければそもそもインストールできない。例えば、バーチャルゲームで馬鹿げたスコアを出せるほどの、な。
君が幻の炎を見た時、プログラムは脳の応答をチェックしていたのだ。適性が足りなければ、そもそもタイトルロゴすら見る事は叶わん。
しかし...それにしても少しだけ驚かされたぞ。
かつての私は、この怪しげなプログラムを受け入れるかどうか2分近く迷ったというのに。
君を説得する為に考えていた台詞が無駄になってしまった。』
『は、はあ....すみません。でも、その、何も....起こらないみたいなんですが、常駐じゃなく選択起動型のアプリですか?』
『まあ、そう焦るな。これから君には、少々心の準備をしてもらわねばならん。具体的な機能の説明はその後でもよかろう。なに、時間はたっぷりあるからな』
ハルユキがちらりと、視界の右下端に継続表示されている時計を眺めた。
既に昼休みは半分が過ぎ去ろうとしている。
たっぷり、と言うほど時間があるとは思えない。
『心の準備ならもう出来てます。教えて下さい、このプログラムは.....』
そこまで言いかけた時。
ハルユキが背を向けているラウンジの入り口から、最も聞きたくない声が響き渡った。
「てめぇ、ブ...有田!バックレてんじゃねえぞ!!』
反射的にびくんと体を竦ませ、ハルユキは椅子から腰を浮かせた。
振り向いた先に、顔を赤くして立っているのは、昼休みは屋上から出てこないはずの荒谷だった。
ハルユキが表情を驚愕から恐怖へと変化させるのと同期して、荒谷の顔も激怒から不審へと変わった。
ハルユキが立ち上がったことによって、これまで巨体の陰に完全に隠れていた黒雪姫の華奢な姿と、そのリンカーから伸びてハルユキに繋がるケーブルが露わになったのだ。
荒谷はハルユキに近づきすぐ目の前で止まり伸し掛からんばかりに見下ろした。
「なめてんじゃねーぞ」
捻じ曲げられた唇から発せられた台詞に、ハルユキが、卑屈な謝罪を口にしようとした寸前、背後から、黒雪姫の、涼しげな肉声が抑揚(よくよう)ゆたかに響いた。
「君はたしか、荒谷君だったかな」
それを聞いた荒谷が、一瞬の驚き顔を経て、媚びるような笑みを浮かべた。
こんな奴でも、『あの黒雪姫』に名前を覚えられていたというのは嬉しいらしい。
しかし、続いた言葉は、荒谷だけではなくハルユキをも愕然とさせるものだった。
「有田君に話は聞いているよ。間違って動物園からこの中学に送られてきたんじゃないか。とな」
荒谷のアゴががくんと落ち、それがわなわなと震えるのを、ハルユキは愕然と見つめた。
「な.....な.....なん.....」
荒谷が口走るのとまったく同じ事を、ハルユキも叫びたかった。
な――何言ってるんだアンタ!
しかしその思考を発声にする暇も無く、荒谷が凄まじい怒りを放った。
「ンだとテメェコラァ殺っぞブタァァァァ!!」
びくーん、と縮み上がったハルユキの眼前で、荒谷が右拳を固め、高く振りかぶった。
そして同時に―脳内で、鋭い声がハルユキに命じた。
『今だ、叫べ!『バースト・リンク!』
「バースト・リンク!!」
バシイィィィィッ!!という衝撃音が、世界を揺るがした。
あらゆる色彩が一瞬で消滅し、透き通るブルーのみが広がった。
周りのラウンジも、成り行きを凝視する生徒も、目の前の荒谷までもが、モノトーンの青に染まった。
そして、全てが、静止した。
1秒後に自分を殴り飛ばすはずの荒谷の拳が、数十センチ先に凍りついているのをハルユキは唖然と見つめた。
「う......うわっ!」
思わず叫び、一歩後退る。
その動作の結果、ハルユキはさらに信じがたいものを見た。
自分の背中だ。
荒谷と同じように青一色に変じた自分の、丸っこい背中 が、滑稽に縮み上がった姿勢のまま不自然に静止している。
まるで肉体から魂だけが離脱してしまったかのようだ。
なら、今の自分はどうなってんだ!?と驚愕しつつ見下ろすとそこにあったのは見慣れたピンクブタだった。
間違いなく、ローカルネットでハルユキが使用しているアバターだ。
「な......何なんですかこれ!?」
ハルユキは堪らず喚き立てた。
「フルダイブ!?それとも...幽体離脱ですか!?」
「ふふ、そのどちらでもないよ」
愉快そうな口調で、黒雪姫のアバターが告げた。
「我々は今『ブレイン・バースト』プログラムの機能下にある。『加速』しているのだ」
「か...かそく...?」
「そう。周囲が静止したように見えるが実は違う。我々の意識が超高速で動いているんだよ」
黒雪姫は、ドレスの裾を縁取る銀の珠を煌めかせながら数歩移動し、青く凍る現実のハルユキと荒谷の傍らで止まった。傘の先で、右ストレートパンチの軌道上にある荒谷の拳を指す。
「この拳も、視認はできないが今もゆっくりと移動している...時計の短針のようにな。このままずっと待っていれば、やがてこの80センチほどを通過し、こっちにいる、君の頬にじわじわメリ込むのが見られるだろう」
「じょ、冗談じゃないですよ。いやそうじゃなくて...ちょ、ちょっと待ってください」
ハルユキは、ブタの両手で頭を抱え、必死に情報を整理した。
「え、ええとですね...じゃあ、別に僕や先輩の魂が自分の体から抜け出てしまったってわけじゃあないんですね?あくまで思考は本来の頭の中で行われてるってことですか?」
「呑み込みが早いな。その通りだ」
「でも、そんなの変じゃないですか!思考と感覚が加速しただけだっていうなら、こんな...幽体離脱みたいに移動したり、自分の背中を見たり、そもそも先輩と会話だってできるわけないですよ」
「うむ、もっともな疑問だ、ハルユキ君」
教師のように頷くと、黒雪姫は縦にロールした黒髪を揺らしてテーブルの横まで移動した。
「我々が今視ているこの青い世界はリアルタイムの現実だが、しかし眼球で光学的に視認しているのではない。ちょっとこのテーブルの裏側を見てみたまえ」
「は、はあ.....」
ハルユキは現実よりもさらに小さなブタボディを屈めて、青いテーブルの下を覗いた。
「あ、あれっ?」
妙だ。
テーブルは木製で、表面には縦に細かい板目が走っている。
しかし裏面は、まるでプラスチックのようにのっぺりと一切のテクスチャがないのだ。
「なんだこれ....まるで、ポリゴン.....?」
顔を上げたハルユキに、黒雪姫は軽く頷いた。
「その通りだ。この青い世界は、ラウンジに複数存在するソーシャルカメラが捉えた画像から再構成された3D映像を、ニューロリンカー経由で脳が視ているものだよ。カメラの死角になっている部分は推測補完されている。だから、そこの女子のスカートを覗こうとしても無駄だ」
ハルユキは反射的にテーブルの下に伸びる生徒会役員の女子の脚を追い、その優美なラインがスカートの縁で消滅しているのを確かめてしまった。
慌てて立ち上がったハルユキを、黒雪姫はじろりと一瞥した。
「私の脚は見るなよ。カメラの視界に入ってるからな」
「み......見ませんよ」
苦労して視線を固定しながら、ハルユキは首を振った。
「ま、まあ、今見てるものの理屈はなんとなく解りました。ここはリアルタイムの現実を3D映像化した世界で.....僕らはアバターを代行体として、周りを見たり直結回線経由で喋ったりしてるってことですね?」
「そうだ。今は便宜的に君の学内ローカルネット用アバターが流用されているが」
「できるなら、他のがいいですけど」
呟き、ハルユキは大きく息を吐いた。
「でも....これでやっと半分ですよね、知りたいのはここからです。.....『加速』って一体何なんです?こんな時間停止みたいな機能がニューロリンカーにあるなんて、聞いたことないですよ!」
「当然だ、ニューロリンカーに秘められた加速機能を引き出せるのは、『ブレイン・バースト』というプログラムを持っている者だけだ」
黒雪姫は呟くように言い、左手を上げると、凍結する現実のハルユキの首に巻きつくXLサイズのニューロリンカーをつついた。
「ハルユキ君、君はニューロリンカーの作動原理を知っているか?」
「はい....一通りの知識だけですけど、脳細胞と量子レベルで無線接続して、映像や音や感触を送り込んだり、逆に現実の五感をキャンセルする...」
「そうだ。つまり2020年代のヘッドギア型VR機器、あるいは30年代のインプラント型とは原理が根本的に異なる。量子接続は、生理学的メカニズムではないのだ。ゆえに、脳細胞に負荷をかけることなく、とんでもないムチャができる......ことに気づいた者がいた」
「ムチャ...とは?」
ハルユキの疑問に、黒雪姫はやや見当はずれとも思える問いを返した。
「君は20年代頃のPCに触れたことがあるかな?」
「え、ええ、一応。自宅にあります」
「ならば、PCの基準動作周波数を何と呼んでいたか知っているだろう」
「ベースクロック......ですか」
黒雪姫は満足そうに頷いた。
「そう......マザーボード上の振動子が時計のように刻む信号を、設定倍率にしたがって増幅しCRUを駆動していた。そしてまた人間の脳、我々の意識も同じ仕組みで動いているのだ」
「え...!?ま、まさか。僕らの何処に振動子があるっていうんです」
「ここだ」
黒雪姫は即答し、現実の青いハルユキに正面から抱きつくと、いたずらっぽい上目遣いになりながら左手で背中の中心をつついた。
「な......な、何するんですか」
「今、君のクロックが少し上がったぞ。もう分かったろう.....心臓だ!心臓は、ただ血液を送り出すだけのポンプではない。その鼓動によって、思考の駆動速度を決定する基準クロック発生装置なのだ」
息を呑み、ハルユキはブタボディの胸を押さえた。
黒雪姫はまるでからかうように、尚も心臓のあたりに触れながら続けた。
「たとえ体が静止していようと、状況次第では心臓の鼓動はいくらでも速くなる.....レーシングドライバーのようにな。何故か。それは、思考を....状況認識力、そして判断力を『加速』する必要があるからだ。あるいは、互いに触れ合う恋人達のように、1分1秒を、より濃密に体験するために『加速』する」
黒雪姫は、現実のハルユキの胸にあてた指先を、ゆっくり上に動かし首で止めた。
「心臓が1度どくんと脈打つと、発生した量子パルス信号は中枢神経をさかのぼり、脳を、つまり思考を駆動する。ならば――その信号を首のニューロリンカーで乗っ取り、増幅してやればどうなると思う」
ぞくっ、と背筋に戦慄がはしるのを、ハルユキは感じた。
「思考が.....加速する?」
「そう、ニューロリンカーならそれができる。肉体や脳細胞に一切の悪影響を与えることなく、な。今この瞬間、我々のニューロリンカーは、心臓がたった1度の鼓動で発振したクロックを増幅し、無線量子信号に乗せて脳に送り込んでいるのだ。そのレートは、実に一千倍に達成する!」
「いっせん...ば...い」
告げられた言葉を呆然と繰り返すことしか、もうハルユキには出来なかった。
麻痺しかけた意識に、黒雪姫の淀みない声がいっそうの衝撃を与えた。
「思考を一千倍に加速する。それはつまり、現実の一秒を、一千秒....割り算をすれば16分40秒として体感するということだ」
F1レーサーどころの話ではない。もはやテクノロジーというよりも、『時間停止の魔術』に等しい。
しかし、その驚異的な現象がはたして具体的に何を可能にするのか、についてハルユキが思い巡らす前に、黒雪姫が何かに気付いたように「おっと」と呟いた。
「.....?」
「いや、すまん。説明に夢中になって、少し時間を使いすぎてしまったな。すっかり忘れていたが、現実の君は今まさにぶっとばされつつあるんだった」
「げっ....」
ハルユキは慌てて足を動かし、青く凍る自分の向こう側へと回り込んだ。
確かに、会長に費やした約5分(またはコンマ3秒ほど)の間に、荒谷のパンチは随分と移動していた。
リアルハルユキの丸いほっぺたまでは、もう50センチ弱しかない。
荒谷の顔は、これが天井に隠されたソーシャルカメラの映像から生成されたものだとは信じられない再現で、凶暴な興奮もあらわに唇を歪めている。
一体何が楽しいんだ。――いや、そりゃ楽しいだろうな。拳の向かう先に、虚ろな表情で漫然と立つ僕は、まさに雑魚キャラと呼ぶにふさわしい。
陰鬱な思考を脳裏に過ぎらせながら、ハルユキは黒雪姫に向き直った。
「......あの、この『加速』って、いつまで続くんですか?」
「理論上は無限だ。だが、『ブレイン・バースト』プログラム上の制限によって、君が加速していられるのは最大で体感30分、現実において1.8秒だ」
涼しげに返された黒雪姫の言葉に、ハルユキはピンクブタのくりくりした眼を剥き出した。
このまま現実の自分が2秒近くも凍りついていたら、荒谷のパンチは確実に残る距離を移動し、鼻筋にじわじわとめり込み――。
「....な、殴られちゃうじゃないですか!」
コマ送りでぶっ飛ぶ自分の姿を想像し、ハルユキは叫んだ。
が、黒雪姫は軽く笑い、説明を付け加えた。
「はは、心配するな。もちろん、加速状態を任意に停止することは可能だよ」
「あ、ああ.....そうですか。それなら、現実に戻ってからこのパンチを避けることも....」
「容易いな。ふふ、それが『加速』の最も解りやすい使い方だ。生身では不可能な反射速度で状況を見極め、熟慮してから、加速を解除して悠々と対処できる」
言うとおり、これまで散々殴られた際には避けることはおろか、恐怖のあまり見ることすら出来なかった荒谷のパンチの軌道とその狙いが、『加速』中の今なら手にとるように判る。
加速を解除すると同時に、左にほんの15センチほど動けば動けばいいのだ。
ごくりと唾を飲みながらもそう頭に刻み込み、ハルユキは解除のためのコマンドを尋ねようと黒雪姫を見た。
しかし、黒衣の麗人は、ハルユキよりも先に軽い口調でとんでもないことを言った。
「だが、避けるな。ここはあえてぶっ飛ばされようじゃないか、ハルユキ君」
「ぶ....」
ブタ鼻をしばしわななかせてから、ハルユキは叫んだ。
「い、嫌ですよ!痛いじゃないですか」
「どっちがだ」
「え....?ど、どっちって....」
「痛いのは、体なのか心なのかと訊いている」
黒雪姫のアバターから、微笑が消えた。ハルユキの答えを待たず、黒いハイヒールがかつっと前に踏み出された。
ハルユキのブタボディよりも、50センチ近く高い瘦身を屈め、黒雪姫はごく至近距離から目を覗き込んできた。
ハルユキは息を呑んで棒立ちになった。
「君が、この荒谷という生徒に殴られるのは初めてではあるまい」
「は....はい」
いじめの件は絶対に知られたくないと思っていたのに、なぜかハルユキは頷いていた。
「なのに、この生徒がこれまで処分されなかったのには、二つの理由があるはずだ。一つはもちろん、君が泣き寝入りしてきたこと。そしてもう一つは、荒谷が暴力や恐喝の現場を、巧妙にソーシャルカメラの視界から外していたこと」
確かに、ハルユキが直接的なイジメ行為を受けたのは、常に屋上の排気施設の陰や校舎裏といった生徒の近寄らぬ場所だった。
しかあれは、人の目を避けていたのではなく、カメラを避けていたということか。
黒雪姫は難しい表情になり、すっと体を伸ばした。
「...残念ながら、当校の二年や三年生にも、こいつと同種の生徒が少ないながらも存在する。彼らにもそれなりのネットワークがあり、ソーシャルカメラ視界警告アプリなどという違法なものを流通しているようだ。連中は、カメラの視界内では決して尻尾は出さない...新入りのこいつも、それは厳しく命じられているはずだ」
氷のような視線で、青く染まる荒谷の顔を一瞥した黒雪姫は、凄みのある静かな声で続けた。
「だが、所詮はまだ子供だ。先程の私の挑発で我を忘れ、こんなカメラが山ほどある場所で暴力行為に出た。いいか、これは君にとってチャンスなのだ、ハルユキ君。このパンチを回避するのは容易だが、そうすれば荒谷は我にかえり、この場から消えてしまうだろう。こいつに受けるべき罰を受けさせる機会は、再び限りなく遠ざかる」
――そして、荒谷は改めてハルユキを痛めつけるはずだ。
その報復が、これまての遊び半分のものではなくなるであろうことは、たやすく想像できた。
ぶるり、と背中を震わせながら、ハルユキは現実の自分と、その顔に近づきつつある荒谷の拳を見た。
骨ばったその右手は岩のようにごつごつと尖り、殴られれば泣くほど痛い。
この半年で、嫌というほど味わった痛みだ。
しかし――。
本当に血を流していたのは肉体ではなく心だ。
ズタズタに引きちぎられたプライドのほうだ。
「...あの」
ハルユキは躊躇いながら、黒雪姫に問いかけた。
「『ブレイン・バースト』を上手く使えば、ケンカでこいつに勝てますか」
一切の表情を消した美貌が、まっすぐにハルユキを凝視した。
「――勝てるだろうよ。君はもう、非加速者達を遥か越える力を持つ『バーストリンカー』だ。一発も殴られることなく、好き放題叩きのめせるさ、君がそう望むなら」
望むとも。
望まないわけがあるか。
荒谷の空手を技を華麗に避けまくり、人相をブタより醜く変えてやる。
鼻を潰し、前歯を全部叩き折り、土下座して泣き喚くさの頭から自慢の金髪を一本残らず引き抜いてやる。
ぎり、と奥歯を食い縛り、大きく息を吐いて、ハルユキは震える声で黒雪姫に告げた。
「...いえ、やめときます。大人しく殴られますよ...せっかくのチャンスですから」
「......ふ」
黒雪姫は、どこか満足そうに笑うと、ゆっくりと頷いた。
「賢明な選択だ。ま、どうせなら被害を最小に、効果を最大にしようじゃないか。『加速』が切れたら、自分から右後方に思い切り跳ぶのだ。顔を右に回して拳を受け流すのを忘れるな」
「は.....はあ」
ハルユキは、現実の自分のすぐ後ろに移動すると、荒谷のパンチの軌道を確認した。
確かに、顔の向きを変えながら跳べば、いかな空手技といえど威力の大半は殺せそうだ。
頷いてから視線を動かし、跳ぶ先の状況も確かめる。
左にはテーブルがあるが、右後ろには大きくスペースが空き、中庭を望む大窓まで障害物はない。
たった1人の人間を除いては。
「あ、いや...だめですよ。ここからそっちに跳んだら、先輩の体に衝突しちゃいます」
立ち上がっているハルユキと、椅子に座るリアル黒雪姫との距離はたった1メートルだ。
ハルユキの巨体に轢かれたら、華奢な体がどうなってしまうか知れたものではない。
しかし、黒ドレスのアバターは軽く肩をすくめただけだった。
「かなわん、その方が効果的だろう。心配するな、ちゃんと避けるから怪我はしないよ」
「...は、はい...」
確かに、事前に解っていればそれも可能かもしれない。
やむなく頷く。
「そろそろ本格的に時間が無いぞ。さ、早く現実の自分に重なれ」
ぽん、と背中を押され、ハルユキは一歩前に出ると、青い自分にブタのアバターを重ね合わせた。
背後では黒雪姫も椅子に座ったようで、声の位置が低くなった。
「よし、それでは加速解除のコマンドを教える。上手くやれよ――『バースト・アウト』!」
バースト・アウト!
ハルユキは一杯に息を吸い、思い切り叫んだ。
きぃぃぃん、というジェット機のような音が、遠くから近づいてきて周囲の静寂を破る。
青い世界が、徐々に本来の色を取り戻していく。
視界の左側で、停止していた荒谷の拳が少しずつ動き出す。
カタツムリのようにのろのろした動きから、じわじわと増速し、ハルユキの頬に迫る。
ハルユキは、言われたとおり両脚で右後ろ方向へと飛ぼうとしながら、懸命に首を右に回した。
ぐうううっと接近してきたパンチが、皮膚に触れ、わずかにめり込み――。
そして、世界が、戻った。
わっ、と周囲の騒音が押し寄せてくる中、ハルユキは左頬をがつぶよんと拳が抉るのを感じた。
頬の内側に歯が食い込み、唇が引き攣れる感覚。多少は血が出そうだが、しかしこれまで何度も食らった空手パンチに比べれば確かに半分くらいの痛みだ。
だが、同時にハルユキの巨体は映画のように派手に宙に飛んでいた。
上手く避けてくれ!と念じながら、背中から後ろの椅子に激突する。
ガターンと椅子が倒れる音、そして直後に、がつん!!という不吉な音がした。
背中から床に落ちたハルユキは一瞬息が詰まり、空気を求めて喘ぎながらも、必死に首を廻らして、衝突を回避したはずの黒雪姫の様子を確認した。
見開いた両眼が捉えたのは、頭をラウンジの採光ガラスに凭れさせ、壊れた人形のように手足を投げ出して瞼を閉じる華奢な姿だった。
乱れた前髪の下、透き通るほどの白い額に、つう、と一筋の血が流れた。
「あ....あっ」
悲鳴を呑み込みながら、ハルユキは立ち上がろうとした。だが、その寸前―。
『動くな!!』
直結されたままのリンカーを通して、黒雪姫の思考発声がハルユキの意識を打った。
反射的に、仰向けに倒れた格好のまま体を凍りつかせてハルユキは言葉を返した。
『で、でも...血が!!』
『心配ない、少し切っただけだ。言ったろう、最大の効果を狙うと。これでもう、荒谷は君の前には現れない。二度とな』
言われるまま、ハルユキは視線だけを左から右へと動かした。
右拳をまっすぐ振りぬいたままの荒谷が、ぽかんとした表情でハルユキ達を見下ろしていた。
その顔から、徐々に血の気が引いていき、薄い唇が2度、3度と痙攣するように震えた。
しん、とした静寂に包まれたラウンジに―。
「...きゃああああ!!」
周りのテーブルの女子生徒達の凄まじい悲鳴が響き渡った。
荒谷と手下ABは、生徒会役員の男子によって取り押さえられる間もまるで抵抗しなかった。
真っ青な顔でがくがく脚を震わせる三人を、血相を変えて駆けつけてきた教師達が引き擦りながら連行していき、黒雪姫もまた生徒会の女子に抱えられるようにして病院に直行した。
ハルユキ自身は保健室で軽い手当てを受けただけだが、校医の手で消毒されパッチを貼られる間も、直結ケーブルが抜かれる直前に黒雪姫が発した言葉が、残響となって耳奥に漂っていた。
『―おっと、言い忘れた。明日登校するまで、絶対にニューロリンカーを外すな。しかし、グローバル接続は1秒たりともしてはいけない。いいか、絶対だ。約束だぞ』
指示の真意を推測することなどまったくできなかった。
保健室で午後の2時間を過ごす間もずっと、奇妙な乖離感覚が全身を包んでいた。
昨日と今日のたった二日間で自分に起きた多くの出来事を、どう整理して呑み込んでいいのか解らない。
しかし少なくとも、もう下駄箱から靴がなくなったり、靴に異物が入っていたりということを心配する必要はなさそうだった。機械的に上履きかをスニーカーに履き替え、校舎から出たところで、ハルユキは言われた通りニューロリンカーをネットから切断した。
これにどんな意味があるんだろう、と再び考えながら校門を目指して歩き出したとき。
「ハル」
小さな声が耳に届き、声の方へ振り向くとそこにはチユリが立っていた。
「チユ...お前なんでここに?」
難しい顔をしたチユリがざしざしと校庭の舗装を踏みながら近づいてきた。
「ハル、昼休みの事聞いたよ」
「え?昼...あ、ああ」
「あいつらに殴られて、物凄い吹っ飛んだって...それ、その怪我?大丈夫?」
眉をしかめてチユリは顔を近づけたので、ハルユキは思わず左手で口元のパッチを覆った。
まさか、派手に飛んだのは自分でしたことだ、とも言えない。
「う...うん、大丈夫。ちょっと切っただけだって。他に怪我もないし」
「...そう、良かった」
まだやけに強張った顔に、かすかに笑みを浮かべてから、チユリはちらちらと周りを見た。
昼休みの一件で、ハルユキはたちまち校内の話題のタネになってしまったらしく、下校する生徒達は皆じろじろと遠慮ない視線を浴びせていく。
「じゃあ、たまには一緒に帰ろ」
硬い声でチユリはそう言い、答えを持たずに歩きはじめた。
背丈に似合わぬ大きな歩調ですたすた歩くチユリに小走りで追いつくとチユリが話しかけてきた。
「2年の黒雪姫さんと、直結したって、ホント?」
「えっ!?な、なん―」
なんで知ってるのか、と言いかけて、そりゃそうだと思い直す。
荒谷のパンチよりも、その1件の方が、生徒達に与えたインパクトは大きいのだろう。
「...うん、まあ...」
頷いたハルユキを見ようとせず、チユリは小さく唇を突き出すとさらに歩調を速めた。
その様子が、最大級の不機嫌を示していることを長い付き合いのハルユキは良く知っていて、なんでだと思ったがハルユキには解らなかった。
「でも、別に変な意味じゃないって。その、ちょっとアプリをコピーしてもらっただけで」
十月なのに、背中に嫌な汗がどーっと掻きながらハルユキは弁解した。
しかしチユリの表情は和らぐ事はなかった。
「そ、それより、朝言ってた事って...」
チユリに朝の事を問い詰めようとした時、良く通る声が前方から響いてハルユキは続きを呑み込んだ。
「おーい、ハル、チーちゃん!偶然だな、今帰り?」
ぴた、とチユリが脚を止め、ハルユキも顔を上げた。
環状7号線にかかるエスカレーターの袂に、にこやかな笑顔で手を上げる同年代の少年が見えた。
制服は、梅里中のものとは異なるブルーグレーの詰襟。
右手には古式ゆかしい黒革の学生カバンを提げ、肩には剣道用の竹刀ケースを掛けている。
少し長めの髪は清潔感のある真ん中分けで、その下の顔がまた、爽やかという形容がこれ以上似合う奴もいるまいというスッキリした美男子だ。
「タク!」
ハルユキとチユリの幼馴染である黛 拓武は、竹刀ケースを揺らして小走りに近づいてくると、ハルユキに明朗快活な笑顔を向けた。
「おっす、ハル!久しぶり」
「ッス、タク。久しぶり...だっけ?」
自分より10センチ高い所にあるタクムの顔を見上げながら、ハルユキは言った。
「そうだよ、リアルじゃもう2週間会ってないぞ。お前、マンションの行事出てこないから」
「出るかよ、運動会なんて」
顔をしかめてそう言い返すと、タクムは相変わらずだなあと笑う。
3人は、北高円寺に建つ複合高層マンションで同じ年に生まれた。
しかし、それだけの理由では、ハルユキにはない全てを持っているこの少年とはとても仲良くはなれなかったろう。
皮肉にも、タクムはあまりにも勉強が出来すぎて新宿区にある小中高一貫の名門校に入った為、逆にハルユキは彼と屈託無く付き合えるようになった。
タクムに、地元の公立小学校でたちまちイジメの標的となった自分の惨めな姿を見られずに済んだからだ。
同じ小学校に進んだチユリには、イジメの件は絶対にタクムには言うなと口止め(あるいは懇願)した。
もし知れば、タクムはハルユキを救おうと、悪餓鬼連中を呼び出して竹刀でしばき倒すくらいの事はしただろう。
しかしそれでイジメがなくなっても、やはりハルユキはもうタクムとは友達でいられなくなる気がしたのだ。
「そう言えば...」
三人で並んで歩きながら、ハルユキは自分から口を開いた。
学校では殆どしないことだ。
「こないだの都大会の動画。ネットで見たぞ。悪かったな誘ってくれたのに見に行けなくて」
「本当だよ、せっかく誘ったのに」
タクムは半眼でハルユキを見てきた。
「悪い悪い、でもすげーなタク、1年でもう優勝かよ」
「まぐれ、どまぐれだよ」
頭を掻きながら、タクムはくすぐったそうに笑う。
「苦手なやつが準決勝で消えてくれたからさ。それよりハルのそのパッチどうしたの?」
タクムが頬のパッチを指摘してきた。
「え?あ、これは今日ちょっとあって」
「そうなんだ、近頃物騒だから2人とも気をつけなよ」
「あ、ああ、そうだな」
ハルユキはこの時、自分が関わってるなんて言えないと考えていた。
他の話題に変えようとしたその時。
「悪いけど、少しいいかしら?」
後ろから女性の声が聞こえ、振り返るとそこには風紀委員の氷室先輩がいた。
「あなた、有田春雪君よね」
「え?あ!はい!」
ハルユキは思わず声を荒げてしまった。
「風紀委員の人がハルに何の用ですか?」
なぜかチユリが氷室先輩に対して、冷たく対応する。
「急にごめんなさいね、昼の件で有田君に確認したい事があるから私と一緒に来て欲しいの」
「それは今聞くことですか?別に明日でもいいですよね?」
「ごめんなさいね、できれば今日中に話を聞きたいの」
「だったら、事前に放課後なりに時間取るのが普通じゃないんですか?今は下校中ですよ」
「お、おいチユ何そんなに突っかかってんだよ。相手は風紀委員の会長だぞ!」
「だって...」
「すみません先輩!僕は全然構わないので何処か別の場所に移動しましょう!」
「ええ、分かったわ」
「そう言う訳だから俺はここで分かれるよ。またなタク、チユ」
ハルユキはタクムとチユに向き直り挨拶をする。
「う、うん。じゃあねハル」
タクムは少し動揺していたがすぐに挨拶を返してくれた。だが、チユリは氷室先輩を睨んだままだった。
「お待たせしてすみません」
「いいえ、別に構わないわ。では行きましょうか」
氷室先輩が歩き出したので、ハルユキはその後を追った。
この時、ハルユキは思いもしなかった。
この後、自分にとんでもない事が起こる事を。
☆★☆★☆★
場所は変わり、兎美達の部屋で2人は話していた。
「いつもはハルの事を迎えに行くのに今日は行かないの?」
「ええ、ちょっと開発したものがあるから」
「また新しい発明品?」
「ええ、ハルの護身用にね」
「それにしても今日は帰りが遅いのね...ハル」
「グローバルネットを切ってるからハルの視覚情報見ることが出来ないしね」
その時、兎美のニューロリンカーに通信が入った。
送り主は非通知になっていて兎美は訝しげながら通信に出た。
『もしもし?』
『フフフ、始めましてだな有田兎美。いや仮面ライダービルドと言った方が良かったかな』
『!? あなたなんで私の正体を知ってるの?』
通話を掛けてきた男にいきなり正体を言われた事に、兎美は動揺する。
『そんな事はどうでもいい。今から言う場所に1人で来てもらうぞ』
『私がこんな明らかに怪しい電話で行くわけないでしょ』
『ほう?良いのか?来なかったらお前の大切な人がどうなるか分からないぞ?』
『大切な人?』
『フフフ、可笑しいと思わないのか?既に学校が終わってるのに、まだ帰ってきていない事に』
『!?あんたハルに何したの!?』
男が伝えてきた情報に、兎美は思わず立ち上がる。
『まだなにもしていないさ。まあ、早くしないと何するか分からないけどな』
『くぅ!』
『分かったら今から送る座標に一人で来るんだな、仮面ライダービルド』
その後、男からの通信は切れてしまい1通のメールが送られてきた。
「え?ちょ!兎美何処に行くのよ!」
兎美は美空の静止も聞かず、家を飛び出した。
☆★☆★☆★
兎美はビルドに変身し、男に呼び出された場所にバイクで到着する。
「ハル...」
ババババン!
「!?」
ハルユキの元に向かおうとした時、銃声がなり、銃弾はビルドの前方に着弾する。
「こんな時に!」
銃声の方を向くと、そこには大量のガーディアンが現れた。
「貴方達に用はないのよ!」
ビルドはラビットとタンクのフルボトルを抜き取り、『ゴリラフルボトル』と『ダイヤモンドフルボトル』を装填する。
『ゴリラ!ダイヤモンド!ベストマッチ!』
「ベストマッチ!これがあれば!」
ビルドはドライバーについているレバーを回すとフレームがビルドの周りに構成され、ゴリラとダイヤモンドのハーフボディが前後に生成される。
『Are You Ready?』
「ビルドアップ!」
ゴリラとダイヤモンドのハーフボディがビルドを挟み込むように結合する。
『輝きのデストロイヤー!ゴリラモンド!イエーイ!』
「勝利の法則は決まった!」
ビルドは再度レバーを回す。
『Ready Go!』
ビルドの前にダイヤモンドが発生する。
『ボルティックフィニッシュ!』
発生させた無数のダイヤモンドを右腕で弾き飛ばしガーディアンにぶつける。
ゴリラモンドの必殺技で、全てのガーディアンが破壊された。
「急がないと...」
ビルドはハルユキを助けるべく奥に向かった。
しばらく走っていると、ビルドは床に横たわった状態のハルユキを見つめる。
「ハル!」
ビルドはすぐさまハルユキに近づき抱きかかえる。
「ハル!ハル!」
揺さぶって起こそうとするが反応はなかった。
「ふふふ、遅かったな仮面ライダービルド」
後から先程に通信の男の声が聞こえ、振り返るとそこには霧が発生していた。
「霧?」
「ふふふ」
声が聞こえた次の瞬間、霧が集結しコウモリをモチーフにした何かがいた。
「コウモリ男...」
「ナイトローグだ。以後お見知りおきを」
「どっちでもいい!」
ビルドはナイトローグに向かって攻撃を仕掛ける。
「私に何をしたの!?人体実験したんでしょ!!」
「さあな、一々モルモットの事を覚えてないから忘れてしまったよ」
「なんですって!!」
ビルドはナイトローグに攻撃を仕掛けるが全ていなされてしまう。
ナイトローグの手元に新たな霧が発生し、集結すると1つの剣に変わった。
「はあ!」
ナイトローグは下から斬り上げて攻撃し、ビルドはダイヤモンドを発生させ攻撃を防ぐ。
「ぐう!」
「はあ!」
ナイトローグは腕を引き、そのまま剣を前に突き出す。
「きゃあ!」
攻撃を防ぐが、今度はダイヤモンドが砕けてしまい攻撃を受けてしまう。
「フッ!こんなものか」
「黙れ!」
「まあいい、当初の目的は達成した。俺はこれで引かせて貰おう」
「ま、待て!」
ビルドは引き留めようとしたが、そのかいなくスタークは体を霧に変え消えてしまう。
「くそー!」
ビルドは悔しさのあまり、地面を殴り付ける。
「! ハル!」
ビルドは目的を思い出し、ハルユキの元に向かう。
ハルユキは先程と変わらず、未だに気絶したままだった。
「ハル!しっかりしてハル!」
兎美は変身を解除しわハルユキを抱きかかえる。
「ハル...ねえ起きてよ...」
兎美は目に涙を浮かべながらも、ハルユキを起こそうとする。
「う、ううん」
「!?」
「あれ?兎美?」
「ハル!!」
ハルユキが目を覚ました事にホッとし、兎美は思わずハルユキを抱きしめる。
「え?ちょっ!何してんだよ!?」
いきなり抱き締められた事にハルユキは動揺する。
「良かった...ハル...」
ハルユキは状況が分からなかったが、兎美の様子を見てただごとじゃないと思い、しばらく兎美の好きにさせるようにした。
☆★☆★☆★
あれからしばらくし、あそこにいればまた襲われると思い、急いで自宅へ帰宅した。
帰宅した兎美達を待ち構えていたのは、玄関に仁王立ちして立っていた美空だった。
「兎美!いきなり飛び出して何処行ってたのよ!」
「ちょっと美空、落ち着きなさいよ」
「ハルも今まで何してたの!」
「いや...俺にも何が何だか...」
兎美達はご立腹の美空を落ち着かせて、今まで何があったか説明する。
「コウモリ男に拐われたって、ハルあんた何かされたの?」
「それがよく分からないんだよな、体も特に以上はないし」
「なによそれ、何か覚えてないの?」
「放課後、チユ達と一緒に帰った所までは覚えてるんだけど、その後の事が思い出せないんだ」
「取り敢えず、ハルの事は様子を見るしかないわね」
「そうだな」
「あんた、何か異変を感じたらちゃんと報告しなさいよ」
「分かった」
その夜、ハルユキは今までの人生の中で最大の悪夢を見た。
小学校の頃の悪餓鬼連中や、荒谷と手下AB、それに名も知らぬアウトローな学生達が、入れ替わり立ち替わり現れてはハルユキを痛みつけた。
少し離れた所から、チユリとタクムが眺めていた。
全身の痛みより、二人の顔に浮かぶ憐れみの表情のほうがハルユキには耐え難かった。
夢が進行するにつれ、見物人は増えていった。2人の隣に母親が現れ、ずいぶん昔に家を出ていった父親も登場し、さらに兎美と美空までも現れた。
マンションの住民達やクラスメイトまでも、ぐるりと人垣を作って地を這うハルユキを見下ろした。
もう、彼らの顔にあるのは憐れみではなく嘲笑だった。
憐れみの視線を向けていた兎美と美空も興味がなくなったかのようにハルユキから離れていく。
嫌だ。お前達までいなくならないでくれ。
醜く惨めなハルユキを、無数の人間達が指を指して嘲笑った。
もうここは嫌だ。
そう思って、遥かに暗い空を見上げると、そこに何者かの影があった。
夜より黒い翼を広げ、軽やかに飛翔する一羽の鳥。
僕もそこに行きたい。
もっと高く。
遠く。
飛びたい。
彼方まで。
『ーそれが、君の望みか?』
☆★☆★☆★
『そう、分かったわ。ありがとう』
兎美はチユリに連絡し、今日あったことを聞いた。
「まさか私が寝てる間にそんなことがあったなんて」
「私も発明に集中してたから確認してなかったし」
「そもそもその黒雪姫って女の目的はなんなの?そいつの所為でハルは殴られたそうだし。それに風紀委員の会長も気になるわ。話からしてその女に連れていかれる前からの記憶が無くなってるし、その女が怪しいんじゃないの?」
「分からないけど、取り敢えずその女に会う為に明日の放課後にハルの学校に乗り込むわよ」
「分かったわ」
そう言って、兎美は発明を再開した。
「早くこれを完成させないと」
兎美の前にあったのは、開発途中のビルドと同じドライバーと、青い小さなドラゴンが置かれていた。
「キシャー!」
はい!如何だったでしょうか
今回は思ったより長くなってしまいました
前書きは今回のような形で書いていきます
また、今回はオリキャラも出てきました。
名前からして誰なのか分かる人は多いと思います。
次回は修羅場の所まで持っていこうと思います。
では第3話もしくは激獣拳を極めし者でお会いしましょう
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7000~10000 第3章第3話参考
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10000~15000 第2章第8話参考
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15000~20000 第3章第2話参考