アクセル・ビルド   作:ナツ・ドラグニル

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兎美「仮面ライダービルドであり、天才物理学者の有田兎美は葛城のデータを確認し、ライダーシステムを作ったのが葛城巧未である事を知ったのでありました!!」


美空「葛城がしてきた実験に腹を立てたハルユキは、兎美と言い争いをしてマンションから出て行き、アッシュ・ローラと対戦した後に無制限中立フィールドで再会を約束されるのでありました」


チユリ「所でさ、何でこのご時世にUSBの端子がついたパソコンなんて持ってるのよ」


兎美「こんなご時世だからこそ、そういったパソコンが貴重なのよ!!」


チユリ「でもさ、インターネットだってニューロリンカー使えばいいし、使い所無いでしょ」


兎美「分かってないわね!!この貴重なパソコンで作業するからこそ!!アイデアが生まれたり作業効率が上がったりするのよ!!」


チユリ「へ、へー...」


美空「なんか変なスイッチ入っちゃったわね、さてどうなる第10話!!」


兎美「いいわ!!このパソコン達の素晴らしさをあなたに教えてあげる!!3時間かけて!!」

チユリ「結構です」


第10話

通常対戦フィールドの上位に構築された永続世界、無制限中立フィールドをハルユキが訪れるのはこれがまだ2度目であり、たった1人でダイブするのは初めての事だった。

 

 

薄黄色の空の下、赤茶けた巨岩ばかりが立ち並ぶ眺めはどうやら《荒野》属性だ。

 

 

しかしこの世界には《変遷》というシステムがあり、一定時間で属性が切り替わる。

 

 

足場のいい今のうちに待ち合わせ場所まで到着しようと、ハルユキは乾いた大地を懸命に駆けた。

 

 

どんな属性であろうとも、加速世界の地形そのものは現実の東京に準拠している。

 

 

環状7号線は、巨岩群に挟まれた幅広の枯れ谷として存在した。

 

 

その中央を避け、岩陰を選んで走りながら、油断なく左右に注意を払う。

 

 

無制限フィールドには《エネミー》という、システムによって生み出され、動かされるモンスター達が生息している。

 

 

ハルユキはまだ、大型のを一度目撃した事があるだけで、戦った経験はない。

 

 

個体によってはハイレベルのバーストリンカーより強力だという奴らに襲われでもしたら、飛べない今では容易く蹴散らされてしまうだろう。

 

 

クローズに変身すればもしかしたら戦えるかもしれないが、それを試す勇気はハルユキには無かった。

 

 

しかし幸い、離れた荒地をのそのそ移動する牛っぽいのと蛇っぽいのを何度か見つけたくらいで、ターゲットされることなくハルユキは杉並と渋谷の境界に間近い代田橋のあたりまで到着できた。

 

 

念のため、離れた岩陰に隠れて気配を探ったが、大人数が伏せている様子はない。

 

 

――と、言うよりも。

 

 

広い谷と谷がクロスする地点を覗き込んだ途端、ハルユキはがくりと脱力した。

 

 

そのど真ん中に停めたアメリカンバイクの上で腕組してふんぞり返る、ド派手な髑髏ヘルメットのライダーが眼に飛び込んだからだ。

 

 

「トゥ―――――――――・レイト!おっせぇよ!!」

 

 

近づくハルユキを見て、アッシュ・ローラーは右手を振り回して叫んだ。

 

 

「す、すいません。走ってきたもんで......」

 

「どうせエネミーにビビッてコソコソ移動したんだろうが。心配しねーでも、こういう幹線道路は、超大型のしか出ねぇよ」

 

「そ、それを先に言ってくださいよ!それに、じゃあ超大型が出たらどうするんですか」

 

「泣いて逃げるに決まってんだろうが」

 

ハルユキは銀面越しにため息をつき、ぷるぷると頭を振って話題を切り替えた。

 

 

「.........で、こんな所に呼び出してどうしようってんです?さっきの続きをするんですか?」

 

「アホか、てめーに勝って10ポイント稼いでも、ダイブに10ポイント使ってんだからネバー儲からねぇだろ」

 

それじゃ二重否定です、と突っ込むのをやめて、ハルユキは両手を広げるに留めた。

 

 

「じゃあ、なぜ?」

 

「ま、乗れや」

 

 

平然と言われ、かくんと顎を落とす。

 

 

「......は?」

 

「ケツに乗れっつってんだよ。メットは......てめぇは要らねぇな」

 

 

ひひひ、と笑いながら親指で背中の後ろを示すので、ハルユキはもう罠かどうとか警戒するのがバカらしくなり、慣れた動作でシートに跨った。

 

 

「おっしゃ、がっちり掴まっとけよ。俺様のマッシ―ンの加速はバイオレンスだかんなぁ!!」

 

 

ンスのあたりでもうスロットルを全開にされ、前輪が大きく持ち上がったのでハルユキは危うく後ろに転げ落ちそうになった。

 

 

慌てて両手で体を支えた直後、真っ黒いバイクはどるろぉぉんと野太い咆哮を轟かせながら、真東――井ノ頭通りを都心方向へと疾駆し始めた。

 

 

「う......わっ」

 

 

顔を叩く風圧と、全身を軋ませるような加速力に、堪らず声を上げる。

 

 

エンジンの唸り声が高まり、ここで最高速かと思うたびにブーツがカン!とペダルを蹴り、上のギアが更に速度を引っ張っていく。

 

 

赤茶けた路面は無数の流線へと溶け、前方から近づく岩が次々に後ろに吹っ飛ぶ。

 

 

「ちょっ......は......やすぎで......っ」

 

 

半ば悲鳴でそう訴えたが、返ってきた答えは至ってのんびりしたものだった。

 

 

「あー?アホか、てめぇがぶっ飛んでる時の半分も出てねぇだろうが」

 

「で...でも、バイクが、こんなっ」

 

 

ハルユキはそこまで言い掛け、この前の兎美の荒い運転を思い出し、口を噤んだ。

 

 

この前の洞窟の中を爆走し、一歩間違えたら死んでいただろう。

 

 

だからと言って、アッシュ・ローラーが運転するバイクが平気とは限らない。

 

 

それはそれ、これはこれである。

 

 

「こ...これ、何キロ出てるんです、か!」

 

 

ハルユキは位置からはメーターが見えないので叫び声で訊ねると、再び間延びした回答が聞こえた。

 

 

「レーサータイプじゃねぇしな、二百くれぇしか出ねぇよ」

 

「に......にひゃっ......」

 

 

事故ったらしんじゃううううううと脳内で喚きたててから、ハルユキは突然、はたと悟った。

 

 

そういう乗り物なのだ。

 

 

もう、時速二百キロのスピードは怖くなかった。

 

 

それどころか、すぐ下で懸命に吼え続けるエンジンが、とてつもなく健気で頼もしい存在と思った。

 

 

井ノ頭通りから、都心部を避けて南へと回り込み、バイクは再び東を目指した。

 

 

港区に入ったあたりで、ハルユキはようやく最初に訊ねるべきだった事を訊ねた。

 

 

「あの......いったい、どこに行くんです?」

 

「もう見えてんだろ。アレだよ」

 

 

くいっとヘルメットをしゃくった先を視線で追うと、武骨な巨岩がごろごろと立ち並ぶ先に、うっすらと細長いシルエットが見えた。

 

 

恐ろしく険峻な岩山、いや最早《塔》だ。

 

 

地面から、完全に垂直なラインを描いて、遥か空まで伸び上がっている。

 

 

現実世界で対応する場所にあんな建築物があっただろうかと、脳内に東京南部の地図を思い描いたハルユキは、数秒かかってようやく答えに辿り着いた。

 

 

「え.......、あ、あれ、もしかして《旧東京タワー》ですか......?」

 

「ベリー・イエス!!」

 

「ベリー・イエスって....」

 

 

即座に返ってきた英語の怪しさに呆れ、おぼろげな知識を引っ張り出す。

 

 

かつて、首都圏一円にテレビ電波を送信していた港区芝公園の東京タワーが、墨田区押上に建設された《東京スカイツリー》にその役目を譲ったのはもう三十年以上お前のことだ。

 

 

その後も長い間展望台として営業を続けていたが、三百三十三メートルという高さを軽く上回る高層ビルが東京各所に次々と建設されてしまい、二〇三〇年代初頭にはついに観光スポットとしての役割も終えた。

 

 

現在ではエレベーターも停止し、立ち入り禁止の歴史的遺物としてのみ保存されている。

 

 

みるみる近づいてくる尖塔を眺めるに、この無制限中立フィールドでは旧東京タワーはムクの岩として存在し、内部構造は生成されていないようだった。

 

 

つまり、荒れ野にぽつんと屹立する、高さ三百メートルの岩の柱以外の何ものでもない。

 

 

「そ、そんな所に、何があるんです?」

 

 

呆然と訊ねると、アッシュ・ローラーは珍しくあーうーと口籠った。

 

 

「んー、まぁ、その、何だ。てめぇに会わせてぇ人がいるんだよ」

 

「人......?」

 

 

――《奴》でも《野郎》でも《SOB》でもなく?

 

 

「えー、あー、ぶっちゃけて言やぁ、俺様の《親》だ」

 

「は、はい!?」

 

 

これには心のそこから驚愕し、ハルユキは叫んだ。

 

 

「あ、アッシュさんの《親》......!?ってことは......も、もっとスゴイんですか?ヒゲ面で、グラサンで、革ベストで、タトゥー入ってて、ビール腹で」

 

「てめーは俺様をどう思ってやがるんだ」

 

 

唸り声を上げてから、なぜかぶるっと背中を震わせる。

 

 

「......言っとくけどよ、あの人に面と向かってンなこと口走ったら後悔じゃすまねぇメに遭うかんな。もう《対戦》の第一戦からは退いて長ぇから、てめぇは知らねぇだろうけど......大昔は、《鉄腕》だの《ICBM》だの言われてビビられてたらしいぜよ」

 

 

恐怖のせいか語尾がいかしくなっているアッシュ・ローラの言葉を、ハルユキは鸚鵡返しに呟いた。

 

 

「あ、ICBM......?」

 

「そうぜよう。ああ、それと、もうひとつ......《イカロス》って渾名もあったな」

 

「......そ、それはあんま怖そうじゃないですけど」

 

「まぁな。そう呼ばれたのは引退後らしいや。あの人はな......てめぇが現れるまでは、加速世界で最も(・・・・・・・)空に近づいた(・・・・・・)バーストリンカー(・・・・・・・・)だったんだよ」

 

 

はっ、とハルユキが息を吞んだのとほぼ同時に、バイクが土煙を上げながら停止した。

 

 

目の前には、赤褐色の乾いた地面から、三角定規をあてられそうなほど垂直に岩の柱が切り立っている。

 

 

直径は二十メートル程度か。

 

 

ほぼ完全な円形で、やはり階段や入口のようなものはどこにもない。

 

 

現実世界では立ち入り禁止の旧東京タワーゆえ、このような形で再現されているのだろうか。

 

 

さてそのICBM改めイカロス氏はどこにいるのかと周囲を見回すが、遠くをのそのそ移動する岩亀のようなシルエットが目に留まるだけだった。

 

 

まさか、と思いながら訊ねる。

 

 

「ええと......、あの人ですか?」

 

「アホか、ありゃエネミーだ。俺様は風が止むのを待ってんだよ」

 

「か、風?」

 

 

言われると、バイクが疾駆している間は気付かなかったが、確かに《荒野》ステージの地形効果であるそこそこ強い風が吹き付けている。

 

 

しかし対戦中というわけでもないし、いったい何のために――。

 

 

と、思った瞬間、間断なく唸り続けていた風鳴りが、ぴたりと止まった。

 

 

「来た来た来た来た!!!おっしゃ、行くぜ!ホールド・ミー・タイト!!」

 

 

いきなり叫んだアッシュ・ローラーに、何言ってんのこの人、と呆気に取られてから、ハルユキは指示の意味を悟った。

 

 

スロットルを全開にされたバイクがぐうっと前輪を持ち上げ、ハルユキは反射的にアッシュ・ローラーの胴に両腕を巻き付けた。

 

 

エンジンが甲高く吼え、後輪が砂利を跳ね飛ばす。

 

 

「バーチカル・クライミング・セットアップ!!」

 

 

どすんと前輪が垂直の岩壁にぶつかり、ええっまさか、切り立つ絶壁を、一直線に登り始めた。

 

 

「うわ......うわわわわ!?」

 

 

そんな無茶なあああああと胸中で絶叫しつつ、ハルユキはバイクが仰け反りながら真っ逆さまに落下していく様を鮮やかに予想した。

 

 

しかし、まるでタイヤと壁面のあいだに謎の引力が働いているかの如く、バイクは垂直の柱をふらつきもせずに駆け登っていく。

 

 

「嘘!!?」

 

「驚いたか?これは俺様の《壁面走行》アビリティだ!!」

 

 

驚くハルユキだったが、言い換えればアッシュ・ローラーは今、敵対レギオンに属するハルユキに、己の能力を無為に晒していることになる。

 

 

だが、彼の真意までは汲み取れず、ハルユキはただ息を詰めて尖塔の天辺を凝視した。

 

 

さすがに地上と同じスピードは出せないようだが、バイクは低いギアでぐいぐい力強く登っていく。

 

 

ちらりと下を見ると、もう地面は色が変わるほど遠くに霞んでいる。

 

 

自分の羽根で飛んでいる時なら何ほどのこともない高さだろうが、いまはきゅうっと下腹あたりが縮んで、ハルユキは慌てて視線を戻した。

 

 

ようやく見えてきた塔の上部は、水平にすっぱりと切られた形になっているらしく、エッジが黄色い空にきれいな弧を描いている。

 

 

あと十秒ほどでそこまで辿り着く、という時になって、左からごおっと空気の壁が押し寄せる気配があった。

 

 

「シット!風シィィ――ット!」

 

 

罵声とともにハンドルを傾け、アッシュ・ローラーはバイクの軌道を左にずらした。

 

 

直後吹き付けてきた突風が、容赦なくバイクの側面を叩いた。

 

 

「フライ・ハ――――イ!!」

 

「ぎゃああああああ!!」

 

 

風に乗るように、すぽーんと垂直に飛び上がったバイクの上で、ハルユキとアッシュ・ローラーは平泳ぎで泳ぐように全力で空気を掻いた。

 

 

その甲斐あってか、じりじりと前方にズレながら放物線の頂点に達し、次いで落下したバイクのリアタイアが、搭上端の縁から五センチあたりにどしんと着地した。

 

 

「死ぬかと思った......」

 

 

シートから転げ落ち、硬い岩に両手両脚をしっかり押し付けて、ぜいぜいと肩で息しながらハルユキは安堵する。

 

 

「もっと喚くかと思ったが、随分と落ち着いてるな」

 

「まぁ...リアルでも同じような体験しましたからね...」

 

 

仮面ライダーとして戦っている以上、どうせ似たような事になるんだろうなと諦める。

 

 

その内、紐なしバンジーでもやらされるんじゃないかと考えるが、フラグを回収してしまいかねないのでぶるぶると頭を振った。

 

 

ハルユキはようやく、周囲を見回した。

 

 

現実世界の旧東京タワーに相当する岩の柱の天辺は、下部と全く同じ直径二十メートルほどの円形の空間となっていた。

 

 

しかし、様子は下界とはまったく違った。

 

 

天空の庭園、そんな言葉がふと脳裏に浮かんだ。

 

 

面積いっぱいに、柔らかそうな芝生が緑色に輝いている。

 

 

中央には小さな泉があり、きらきらと揺れる水はこれ以上ないほど透明だ。

 

 

泉の、更に真ん中には小さな浮島が漂い――そしてその上に、予想外のものをハルユキは見た。

 

 

蜃気楼のように揺らめきながら、ゆっくりと回転する楕円形の青い光。

 

 

脱出口(ポータル)》だ。

 

 

この無制限中立フィールドから、己の意志で現実世界へと復帰する唯一の手段。

 

 

なぜこんな所に、と驚いたが、ポータルは大きな駅や観光地などのランドマーク的な建物にはほとんど配置されている。

 

 

ならば旧東京タワーにも存在しておかしくないのかもしれないが、このポータルを利用できるのは、アッシュ・ローラーのように垂直面を登攀(とうはん)できるか、かつてのシルバー・クロウのように飛べる者だけ、ということにはならないだろうか。

 

 

首をかしげながら視線を戻すと、もう一つ、意外なものが庭の反対側に存在した。

 

 

家だ。

 

 

おもちゃのように小さく、可愛らしい家が、無数の草花に囲まれてひっそりと建っている。

 

 

壁は真っ白に塗られ、尖った屋根は深緑色。

 

 

壁を這うツタの緑と合わせて、絵本の1ページと見紛うほどに美しい光景だ。

 

 

言葉もなく見守っていると、不意にその家のドアが、きい、と軽やかな音と共に開いた。

 

 

途端に、傍らのアッシュ・ローラーがしゅばっとバイクから飛び降り、直立不動の体勢を取った。

 

 

それでは、あそこから出てくる何者かこそが、アッシュ・ローラーの《親》なのだろう。

 

 

恐らくはマッチョで革パンでヘルズ・エンジェルズな感じの。

 

 

住処は多少ミスマッチだが、あのドアから巨大なハーレーがどるんどるんと出てきても驚くない、とハルユキは覚悟を決めた。

 

 

しかし、結局心の底から仰天する破目となった。

 

 

きこ、きこ、と音をさせながら転がり出たのは、確かに2つの車輪だった。

 

 

だが縦ではなく横に並んでいる。

 

 

スポークは極細の銀線で、タイヤもゴムではなく幅一センチほどの銀輪。

 

 

その車輪に乗るのは、これも銀の針金で編み上げた、華奢な椅子だ。

 

 

車椅子なのだ。

 

 

エンジンもマフラーもついてない、ごついアメリカンバイクとは対極にある乗り物。

 

 

そしてそこに腰掛ける人物も、ハルユキの予想とは一万光年ほどもかけ離れた外見をしていた。

 

 

デュエルアバターであるのは間違いない。

 

 

膝の上で重ねられた両腕はつるりと硬そうな青みがかった光沢を帯び、伏せられた顔のおとがいあたりも、鋭利なマスク状だ。

 

 

顔がそれ以上見えないのは、アバターが鍔広の帽子を被っているからだった。

 

 

チユリのアバター《ライム・ベル》の、魔女のようなとんがり帽子ではなく、純白のボンネットタイプ。

 

 

体にも、同じく白いワンピース・ドレスをまとっている。

 

 

............え、女のヒト?

 

 

というハルユキの驚きを肯定するように、そよいだ風が帽子の下の長い髪を揺らした。

 

 

まっすぐに腰まで伸びる髪は、吸い込まれそうにクリアー水色――いや、よく晴れた秋の空の色だった。

 

 

再び、きこっと車輪が鳴り、車椅子がゆっくり前進を始めた。

 

 

なのに、アバターの両手は相変わらず膝の上に伏せられたままだ。

 

 

どうやら車椅子には、何らかの自走機構が備えられているらしい。

 

 

芝生の中に泉を取り巻くように敷かれたレンガ道の上を、車椅子は滑らかな走行で近づいてくると、ハルユキ達から二メートルほどの場所で停まった。

 

 

ふわりと帽子が持ち上がり、アバターの素顔が露わになった。

 

 

世紀末ライダーのアッシュ・ローラーと《親子》だとはとても思えないその容姿を、ハルユキは棒立ちのまま凝視した。

 

 

女性型デュエルアバターによくある、レンズタイプの眼だけが嵌るマスク状の顔だった。

 

 

しかし、鼻も口も存在しないその顔は、ハルユキがこれまで見たどんな同系アバターのそれよりも美しいと思えた。

 

 

ペールブルーの肌によく映える、ほのかな茜色に輝く(なつめ)型の眼で、アバターはまっすぐにハルユキを、次いでアッシュ・ローラーを見つめた。

 

 

「久しぶりね、アッシュ。まだわたしの事を忘れてないと解って、うれしいわ」

 

「おっお久しぶりです、師匠。忘れるなんて、そんな、とととんでもない」

 

 

ぐいっと最敬礼するアッシュ・ローラーに、『メガ・ヒサッシー』じゃないのかよ、と突っ込む余裕は残念ながらハルユキにもなかった。

 

 

空色のアバターが、再びハルユキにじっと視線を注いだからだ。

 

 

「......あなたがシルバー・クロウね」

 

 

そよ風のようにたおやかな声でそう呼びかけられ、ハルユキもぴゅんっと頭を下げた。

 

 

なぜか、そうしなければならないという気がひしひしとしたのだ。

 

 

「はっ、はい、はじめまして。シルバー・クロウです」

 

「はじめまして。私の名前は《スカイ・レイカー》。会えて嬉しいわ、鴉さん」

 

 

視線がちらりと肩のあたりに向けられるのを感じて、ハルユキはさっと身を縮めた。

 

 

口ぶりからしてこの人物はシルバー・クロウの事をすでに知っているようだが、しかしその名前を加速世界に知らしめた銀翼――飛行アビリティはもう消えてしまったのだ。

 

 

スカイ・レイカーの、穏やかだが頭の中まで見通すような視線を避け、ハルユキは深く俯いた。

 

 

しかし、わずかな沈黙を経てアッシュ・ローラーが発した言葉を聞いて、羞恥を忘れて仰け反った。

 

 

「えーと......ほんじゃ師匠、俺さ......俺、これで失礼しますっす」

 

「は......はぁ!?」

 

 

バイクの戻ろうとする髑髏ヘルメットのライダーに、びゅんと詰め寄る。

 

 

「か、帰るって......ぼぼ、僕はどうすりゃいいんですか!」

 

「俺様が知るかよ」

 

「知るか、ってアンタが連れてきたんでしょうが!!」

 

 

アッシュ・ローラーはしばらく唸っていたが、不意に声の調子を変えて言った。

 

 

「......あのな、クロウよ。どんな事情で羽根がなくなったのかは知らねぇが、てめぇは1人で何とかしようとしてんじゃねぇのか?」

 

「確かにそうですが...それと、この状況と、どういう関係があるんです」

 

「えー、あーっと......それはだなぁ......つまり......」

 

 

その時、背後から、いままでずっと沈黙していたアッシュ・ローラーの《親》、スカイ・レイカーの静かな声が響いた。

 

 

「鴉さん。アッシュはね、こう考えたのよ。わたしならば、あなたの翼を取り戻す手助けができるんじゃないか、って」

 

「えっ」

 

 

ハルユキはぽかんと眼を見開き、ついでに口も丸く開けた。

 

 

「ぼ......僕の翼を......?手助け......って......でも、アッシュさんは、緑のレギオンの......」

 

「あーそーだよ!ワリィかよ!!」

 

 

どすんとバイクのシートに尻を放りながら、アッシュ・ローラーは喚いた。

 

 

「いいか、勘違いすんなよ!こりゃ貸しだかんな!いや作戦だかんな!てめぇの好感度パラメーターブチ上げて、黒のレギオンを裏切らせようっつぅシークレット・オペレーションだぞこの野郎!うひっ、俺様、メガ・ク―――――――ル!!」

 

 

中指を立てた右手を振り回す髑髏ライダーに、スカイ・レイカーの静かな声が飛んだ。

 

 

「下品ですよ、アッシュ」

 

「はいっ、すんません師匠!ででではこれで失礼つかまつりやすっす」

 

 

ぶろん!とエンジンを大きく吹かし、草地の真ん中の泉に向かって突進したアメリカンバイクは、岸辺で高くジャンプすると青く輝くポータルにすぼっと飛び込み――

 

 

消えた。

 

 

かつてないほど呆然と立ち尽くしながら、ハルユキは、どうにかぽつりと呟いた。

 

 

「......シークレット・オペレーションて......ゆったらダメじゃん......」

 

 

すると、スカイ・レイカーがくすっと笑って言った。

 

 

「頭と口と見かけは悪いけど、それ以外はまぁまぁマシな子なのよ」

 

 

――それ以外、って何だろう。

 

 

と思わず数秒考えてから、ハルユキはとりあえずアッシュ・ローラーのことを意識の埒外に押しやり、泉のほとりに佇む銀の車椅子に数歩近づいた。

 

 

訊ねたいことが胸の奥に山ほど渦巻いていて、いったいどれから口に出したものかと迷いつつも、おずおずと口を開く。

 

 

「あ......あの......。アッシュさんが、言ってたんですけど。あなたは、《加速世界で最も空に近づいた》人だった、って......」

 

 

すると、スカイ・レイカーは微笑みをどこか透明なものに変え、頷いた。

 

 

「この世界には、飛びたくても飛べないバーストリンカーが大勢います。その代表格がこのわたし、ということになるでしょうね。いえ...飛べなかった、と言うべきでしょうか。結局、この手は空に届くことはなかったのですから」

 

 

ある程度予想していたその答えに、ハルユキは反射的に強く目をつぶっていた。

 

 

――ならば、この人には、僕を助けるどころか、逆にいかようにも詰る権利があるんだ。

 

 

そう胸の奥で呟くが、しかしハルユキは、目の前にかすかに見える1本の糸に飛びつこうとする自分を止められなかった。

 

 

瞬きしながら視線を持ち上げ、掠れ切った声で次の問いを発する。

 

 

「なら......、本当なんですか......?あなたなら、僕の翼を元に戻せるって......」

 

 

今度の返事は、すぐには届かなかった。

 

 

金属光沢のある空色の髪をそっとかき上げ、玲瓏(れいろう)なるアバターはしばしハルユキを見つめて――しかる後あっさりと言った。

 

 

「無理でしょうね」

 

「え.........」

 

「デュエルアバターから何かが失われたならば、そこには失われねばならない理由があったのです。この場所、そしてわたしには、その理由を解消する手立てはありません」

 

「.........」

 

 

かすかな希望を一瞬で断ち切られ、ハルユキは悄然(しょうぜん)と俯きかけた。

 

 

しかし視線が離れる寸前、スカイ・レイカーが身に纏った白いドレスの裾を無造作に持ち上がったので、ぎょっと眼を剥いた。

 

 

「御覧なさい」

 

 

そこに在った――、いや無かったのは、アバターの膝から下だった。

 

 

なよやかなラインを描く細い大腿部(だいたいぶ)に、悪い膝関節パーツが接続している。

 

 

しかし、そこから伸びているべき脛部分が両脚とも存在しない。

 

 

アバターが車椅子に乗っている時点で、脚になんらかの異常があるのかと考えるべきだったのかもしれない。

 

 

だが、いったいどのような理由で、デュエルアバターの脚が消滅するというのか。

 

 

確かに、戦闘中には、ありとあらゆる理由で部位欠損ダメージが発生する可能性がある。

 

 

ハルユキとて、激戦のさなかに腕や脚を失った経験は数限りない。

 

 

だが、欠損ダメージは対戦が終了すれば即座にキャンセルされ、次の戦場では再び新品同様に戻るはずだ。

 

 

ハルユキは息を詰め、眼を逸らす事もできずに、否応なく考えた。

 

 

もしかして、スカイ・レイカーも......?

 

 

能美ことダスク・テイカー、または同種の能力を持つバーストリンカーに、恒久的に脚を奪われたのだろうか......?

 

 

しかし、続けて発せられた言葉が、その予想をも否定した。

 

 

「私が自ら切り落とすことを選んだのです」

 

「えっ......!?」

 

「もはや脚など要らぬと心に決め、とある人に斬ってもらったのです。大いなる傲慢、我執、、いや狂気の行いと解っていながら。以来、わたしの両脚は、幾たび加速世界にダイブしようとも、二度と戻りませんでした。それはすなわち......わたしの中に、今でも狂気の熾火が燻っていることを意味しています。それが消えぬ限り、脚も永遠にこのままでしょう」

 

 

立ち尽くすハルユキを、曙光の色の瞳でじっと見つめ、スカイ・レイカーは静かに断じた。

 

 

「あなたの翼も同じこと。失われるに至った理由ともう一度向き合い、超克せねば、決して戻らない」

 

 

理由。

 

 

つまり、能美/ダスク・テイカーの必殺技、《デモニック・コマンディア》。

 

 

いやそうではない。

 

 

敗北そのものだ。

 

 

スカイ・レイカーは、予想だにしなかったひと言を投げかけてきた。

 

 

「この庭で何をしようとも翼は戻らないでしょうが、しかし、飛べないとは言ってませんよ、鴉さん」

 

 

続きは座って話しましょう。

 

 

という言葉とともに自走車椅子がきこきこ動き始めたので、ハルユキは巨大な混乱を抱え込んだまま後を追った。

 

 

円形の空中庭園の、東西南北の端にはそれぞれ白いベンチが一つずつ設えられていた。

 

 

背もたれのないタイプで、どちら向きにも腰掛けられるようになっている。

 

 

スカイ・レイカーが、北側のベンチの隣に車椅子を外周に向けて停めたので、ハルユキもおずおずとその隣に並んで座った。

 

 

顔を上げた途端、絶景に息を呑む。

 

 

三百メートル下に、《荒野》属性の東京都心が一望できた。

 

 

永田町の官庁街あたりは、赤い砂岩を切り出した巨大遺跡へと変じている。

 

 

その谷間に、石積みのアーチに支えられた首都高がぐるりと弧を描く。

 

 

更に彼方には、一際鮮やかに紅い宮殿が威容を見せ付けていた。

 

 

現実世界における皇居だ。

 

 

どのような属性のステージでも、時には端麗な、時には妖気あふるる巨城として常に存在する。

 

 

あそこには誰か住んでいるのだろうか、とぼんやり考えていると、不意にスカイ・レイカーが沈黙を破った。

 

 

「あなたには、一度会ってみたいと思っていました、シルバー・クロウ」

 

「え......あ、ど、どうも......」

 

 

もごもご口籠りながら肩を縮める。

 

 

その様子を見て、ほのかな笑みの気配を漂わせてから、空色のアバターは静かに続けた。

 

 

「加速世界の開闢以来七年もの時を経て、ついに現れた《飛行型アバター》。アッシュからあなたの話を聞いた時、わたしは大いに驚き、また興味を抱きました。いったいどのような魂が......どのような傷を抱えた精神が、この世界の巨大な重力を断ち切るほどの力を具現化せしめたのか、と」

 

「いや、その......す、すみません。ぼ、僕の傷なんて、ほんとに全然大したもんじゃないんです」

 

 

いっそう体を小さくして、ハルユキは小刻みに首を振った。

 

 

「リアルで太ってたり、苛められたりして、長い間うじうじしてただけで......そんなの、傷なんて言うのもおこがましいって、最近は思いますし」

 

 

なんで初対面の、しかもどちらかと言えば敵性勢力に近しいバーストリンカーにこんなことを言っているのかと戸惑いつつも、言葉は不思議にするする口から零れた。

 

 

それを聞いたスカイ・レイカーは、再び微笑むとそっと首を横に振った。

 

 

「インストールされたブレイン・バースト・プログラムが所有者の意識から読み取り、デュエルアバターのリソースとする《心の傷》とは、決して怒りや恨みの強さのみを指しているのではありません」

 

「え......?だ、だって、傷ってのはつまり、負の感情でしょう?」

 

「そうですが、それだけではないのです。巨大な負の思念、たとえば煮えたぎるような怒りを源として生まれたデュエルアバターは、例外なくその力を純粋な破壊力として顕します。加速世界の巨大な災禍を振りまいた、かの《クロム・ディザスター》のように」

 

 

その名を聞いて、ハルユキは鋭く息を吸い込んだ。

 

 

災禍の鎧クロム・ディザスターの恐るべき攻撃力を目の当たりにし、骨の髄から震え上がったのはほんの数ヶ月前のことだ。

 

 

たしかにあの強化外装には、とてつもない怒りの念が付いているように思えた。

 

 

「......そしてまた、怨念を源とするアバターは呪いの如き間接攻撃力を得、絶望から作られたアバターは己を傷つけ敵を倒す自爆系になることが多い。ですが、全てのアバターが、そのような破壊的な力を宿すわけではないことはあなたもお解りでしょう?」

 

「............ええ」

 

 

言われてみればその通りだ。

 

 

ハルユキの翼は直接攻撃力ではないし、アッシュ・ローラーのバイクもそうだ。

 

 

しかし、ならば、《心の傷》とはいったい――

 

 

「傷とは、つまり欠落です。大切なものが欠け落ちてしまった心の穴です」

 

 

ハルユキの胸中を読んだかのように、スカイ・レイカーがぽつりと答えた。

 

 

「空疎な穴を抱えて、怒るか、恨むか、絶望するか――あるいは再び高みに手を伸ばすか。その選択が、アバターの有様を決める」

 

「手を......伸ばす?」

 

「そう。つまり《希望》です。心の傷とは、望みの裏返しでもあるのです」

 

 

きっぱりと言い切ると、スカイ・レイカーは顔を上げ、白い帽子の下からまっすぐにハルユキの眼を覗き込んだ。

 

 

「シルバー・クロウ。あなたは、かつて現れたバーストリンカーの誰よりも、心の中で空を望んでいたはずです。空を目指すという意志の強さが、飛行アビリティを、翼を生んだ。いいですか......羽根があったから飛べたのではない。その逆です。飛べるゆえに(・・・・・・)あなたは羽根(・・・・・・)を具現化した(・・・・・・)のです(・・・)

 

「飛べる......ゆえに......」

 

 

掠れた声で呟き、その意味を理解しようと胸中で何度も繰り返してから――ハルユキは銀面の下で顔を歪め、激しくかぶりを振った。

 

 

「そんな......そんな馬鹿な。意志の力だけで飛べるなら......あの羽根は、ただ見かけだけのものだとでも......」

 

「究極的にはその通りです。何らかの現象により、あなたはオブジェクトとしての羽根と、システム上の《飛行アビリティ》を奪われた。ですが、飛行能力の根源たる意志の力まで奪われたわけではない。なぜならそれを奪う事は、どんなアバターのどんな必殺技でも不可能だからです」

 

「うそだ......あり得ません、そんな話!」

 

 

がっ、と自分の両膝を掴み、ハルユキは深く俯いた。

 

 

「たとえ僕の心に、空を飛びたいっていう意思があったんだとしても、それはただの......きっかけでしょう。ブレイン・バーストがそれを読み取って、あの羽根と飛行アビリティを作ってくれた。なら、この世界では、やっぱりそのアビリティこそが本質のはずだ!あれを......あれを取り返さない限り、僕は二度と.......」

 

 

指が軋むほどの力を両手に込め、ハルユキは呻くように言った。

 

 

しばし、地上三百メートルを吹き過ぎる風鳴りだけが周囲に響いた。

 

 

すぐ目の前の、庭園の縁から空に向かって伸びる名も知らぬ花が揺れ、音もなく花びらを散らした。

 

 

「......つまり、あなたは、こう言いたいわけですね?」

 

 

風に乗って届いたスカイ・レイカーの声は、ハルユキの八つ当たりのような叫びのあとでも変わらず静かで、それどころかかすかに面白がるような響きを帯びていた。

 

 

「この加速世界では、意志の力など無意味だと。システムによって規定され、演算される数値的データのみがあらゆる現象を決定するのだと」

 

「.........だって、そうでしょう。ここはVRゲームの中なんだ。デジタルデータ以外の、何があるって言うんです」

 

「この車椅子」

 

 

突然の、脈絡のない言葉に、ハルユキはつられて顔を上げた。

 

 

「よく御覧なさい。これはべつに強化外装ではありません。ただ、見かけ通りの椅子と車輪が組み合わさったオブジェクトです。しかっしあなたは先程、この車椅子が単独で自走するところを見たでしょう?」

 

 

問いの真意が掴めずに戸惑いながらも、ハルユキは答えた。

 

 

「え......ええ。何かの推進装置を内蔵してるんですよね?モーターとかが、どこかに」

 

 

――あるに決まってる。だって、さっき勝手に自走してたじゃないか。おそらく手の中に小さなコントローラーが......

 

 

と思いながら首を伸ばし、華奢な銀の車輪に視線を凝らした。

 

 

そして、巨大な驚きに打たれて眼を剥いた。

 

 

ない。

 

 

細いアクスルにも、ハブにも、リムにも一切のモーター的パーツが見当たらない。

 

 

ならば噴射式装置か、と背面を見るが、どこにもノズルなど存在しない。

 

 

「で、でも、だって。さっき、勝手に、動いて」

 

 

呆然と呟くハルユキの目の前で、スカイ・レイカーは、重ねていた細い両手をふわりと広げて見せた。

 

 

コントローラーなど、影も形もなかった。

 

 

その姿勢で完全に静止したままのアバターを乗せた車椅子が――。

 

 

きこ、と車輪を鳴らしてゆっくり後退した。

 

 

「............う、うそ」

 

 

きこ、きこ。

 

 

椅子はさらに下がると、芝生の上で、突然くるくるっと回転した。

 

 

更に、まるで氷盤上のフィギュアスケーターのように、優美な動きで前後左右に滑る。

 

 

数秒間のダンスを終えると、椅子は先程と寸分違わぬ位置でぴたりと停止した。

 

 

「いかが?」

 

「いかが.........って」

 

 

ハルユキはわなわなと肩を震わせ、限界まで両眼を見開いた。

 

 

――動くはずがない。

 

 

《ブレイン・バースト》プログラムが作り出すこの世界は、もう一つの現実とすら言えるほどのリアリティが追及されている。

 

 

あらゆる機械は動力装置を必要とし、動力装置はエネルギー源を必要とする。

 

 

例えばアッシュ・ローラーのバイクなら、タンクの中にはガソリンが入っているし、駆動輪はエンジンと繋がるチェーンによって回されているのだ。

 

 

だからこそ、かつてハルユキが対戦中に後輪を持ち上げた時、あのバイクは動くことができなくなった。

 

 

他のゲームなら、駆動方式などお構いなしに前輪だけでダッシュしたに違いないのに。

 

 

だから、この車椅子が、一切の駆動音も噴射光も発せずに自走するなどということは――

 

 

「あり得ない......。あるはずがない。何が、いったい、何の力でその椅子は動いているんですか」

 

 

喘ぎながら発したハルユキの問いに。

 

 

空色の髪を持つデュエルアバターは、小さなマスクを優美に微笑ませ、答えた。

 

 

意思です(・・・・)

 

「え......!?」

 

「意思の力だけで動かしたのです」

 

 

今度こそ魂を抜かれるほどの驚愕に打たれ、ハルユキは壊れた音声ファイルのように何度もつっかえながら叫んだ。

 

 

「で、でも。でも、でも......そ、そんなの、まるで。まるで......念動力じゃないですか!!つ、つまり、それは......《サイコキネシス》のアビリティとか......そういう......?」

 

 

これには微笑を苦笑に変え、スカイ・レイカーは、大きくかぶりを振った。

 

 

「ふふふ、そうではありません。この世界......通常対戦フィールドだろうと、無制限中立フィールドだろうと、加速世界で戦うバーストリンカーならば、誰でも同じ力を持っているのです」

 

「え......ええ!?」

 

「考えてみてください。あなたは、翼がある頃は自在に空を飛べた。そうですね?」

 

「は、はい......」

 

「しかし、いったいどのようにして翼を制御していたのです?現実のあなたには、羽根など生えていないのに」

 

 

これまで考えてもみなかった問いにぱちくりと瞬きし、ハルユキは思わず両肩を動かしながらおずおずと答えた。

 

 

「そ、それは......肩甲骨あたりの動きで......」

 

「そんなことをしていたら、飛行中に拳など満足に振れないでしょう。思い出してください......あなたはそうと意識はせずとも、意思の力で飛行軌道をコントロールしていた。違いますか?」

 

「.........」

 

 

絶句しつつも、そう言われれば、と考える。

 

 

確かにシルバー・クロウは、両手をぱたぱた動かしたり、助走して踏み切ったりせずに、その場からまっすぐ離陸することができる。

 

 

あるいは空中で飛行を停止し、ホバリングすることも。

 

 

その時、自分が何らかの肉体的動作を行っているかと言えば――答えは否だ。

 

 

だが、スカイ・レイカーの説明をするりと呑み込むこともできず、小刻みに首を振りながら言い掛けた。

 

 

「意思の......力。でも、だって、そんなの、どうやって読み取るんですか。ニューロリンカーにそんな機能がある......はずが......」

 

 

そこまで口にしてから、ハルユキは、耳の奥にかつて黒雪姫が語った言葉がこだまするのを聞いた。

 

 

――ニューロリンカーには、脳の感覚野や運動野以外にもアクセスする力がある。

 

 

でもそれは、先ほど話題に上がった《心の傷》に関する話だったはずだ。

 

 

それならまだ解る。

 

 

傷イコール記憶と解釈できるからだ。

 

 

しかし、《意思力》などというあやふやなものをどうデータ化するというのか。

 

 

「意思、ではなく《イメージ力》と言えば解りますか?」

 

 

スカイ・レイカーの声に、ハルユキははっと顔を上げた。

 

 

「イメージ......?」

 

「そうです。想像力と言ってもいい。自分がこれからどのように加速し、ターンし、減速するか、飛行中のあなたは強くイメージしていたはず。ニューロリンカーはそれを読み取り、あなたのアバターを動かしていた。いいですか......イメージ力!それこそが、わたしたちバーストリンカーの秘めたる真の力なのです。わたしのこの車椅子を、ふたつの車輪が回転するイメージを強固に具現化(インカ―ネイション)することによって制御しています。ここまで動かせるようになるのに、ずいぶんと長い時間を必要としましたが......しかし、不可能ではない。決して」

 

 

再び、きこっと右の車輪をわずかに回り、スカイ・レイカーは車椅子ごとハルユキに向き直った。

 

 

続けて発せられた言葉は、どこか(おごそ)かで、神秘的な、託宣めいた響きを帯びていた。

 

 

「通常アバターを制御する《運動命令系》の裏に隠された、《イメージ力による制御系》の存在に辿り着いたバーストリンカーは、この力をこう呼びます。心よりいづる意思――すなわち心意(シンイ)

 

 

一泊置き。

 

 

 

 

 

「《心意(インカ―ネイト)システム》、と」




どうも!!ナツ・ドラグニルです!!


作品は如何だったでしょうか?


ようやく、スカイ・レイカーことレイカー師匠が登場しました!!


原作ご存知の方はこの後、何が待ってるのかはご存知だと思いますが...


さて、しばらくは仮面ライダーの要素がなく、原作をなぞる形になりますが、ご了承ください!


最後に、フェアリーテイルの作品を見てる人はご存知かもしれませんが、今までは書き終わったら投稿していましたが、これからは投稿日を固定して投稿していきます。


アクセル・ビルドとハピネスチャージは、1日に交互に投稿。


フェアリーテイルは、毎月15日に投稿致します。


投稿日が決まっていたほうが、モチベも上がりますし、皆様も分かりやすいと思いますので。


ぶっちゃけ、この第10話は5月1日に投稿していますが、出来上がったのは4月の頭です。


これなら、投稿日をずらす事なく投稿出来ると思います。


これからも、応援の程、宜しくお願い致します。


それじゃあ、またな!

文字数の調度いい長さを教えてください!

  • 7000~10000 第3章第3話参考
  • 10000~15000 第2章第8話参考
  • 15000~20000 第3章第2話参考
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