美空「大人数での待ち伏せを警戒するハルユキだったが、アッシュはハルユキを自身の親に会す為に無制限中立フィールドに呼んだのだった」
兎美「ハルユキはアッシュの親と聞き、ごつい男性アバターが出てくるのを予想していたのだが、実際はおしとやかな女性アバターであったことに驚くのでありました」
美空「ていうか、今思えば失礼な話よね」
楓子「ふふ、まぁ私を知らない人からしたらしょうがないと思います」
兎美「まぁ、アッシュ・ローラーの親がスカイ・レイカーなんて想像がつかないでしょう」
楓子「そうですね......さて、長話もここまでにしてそろそろ始めましょう。どうなる第11話」
「心......意?」
加速世界でも現実世界でも、聞いた事のない言葉だった。
しかしその響きには、ある種の確たる力が感じられ、ハルユキは何度も口の中で繰り返した。
スカイ・レイカーの口にしたことを、すぐに理解できたわけではなかった。
いかにニューロリンカーが旧世代のVR機器とは根本から異なる存在で、ブレイン・バーストが未知の超アプリケーションだとしても、《ダイブ者のイメージをデータに変換する》などというプロセスを、いったいいかなる機序が可能とするのだろうか。
しかし、銀製の華奢な車椅子には一切の推進装置が存在せず、それでいて自在に芝生の上を踊って見せた。
それだけは確かな事実だ。
――受け入れよう。
ハルユキはぎゅっと眼をつぶり、そう胸の内で呟いた。
循環的だが、意思――信じることがこの世界で現実の力を持つというならば、スカイ・レイカーの言葉を信じれば、それは自分にとっての真実になるに違いないという気がしたのだ。
「つまり...その《心意システム》を使えるようになれば、僕は翼がなくてももう一度空を飛べる......そういうことですか」
食い入るようにスカイ・レイカーの顔を凝視し、ハルユキは焼き付くような渇望とともに答えを待った。
数秒後、静かに放たれた言葉は、しかし、肯定とも否定ともつかなかった。
「......わたしは先ほど、心意の力で車輪を回して見せましたね。ですが、何も苦労してイメージ力を振り絞らずとも、手を使えば簡単に同じことができます。いいですか...通常の制御系で可能な作業を心意により代行することと、通常では不可能な現象を心意により具現化する事の間には、とてつもなく広く深い溝......いえ大峡谷が存在するのです。喩えるならばそれは、現実世界で、銃弾に銃弾を命中させるようなもの。物理的には可能、しかしそれは難しい。...でも」
絶句するハルユキから視線を外し、スカイ・レイカーはふわりと空を見上げた。
そして、
「わたしにはできなかった。脚を捨て、友を捨て、思いつく限りのものを捨て去ってなお、この世界の仮想の重力を断ち切れなかった......。先ほど、わたしは言いましたね。飛びたくても飛べなかったバーストリンカー、それがわたしだ......と」
「え......ええ......」
吸い込まれるよう頷くと、空色のアバターはしなやかな右手をそっと真上にかざし、頷き返した。
「近づけど、届かず......。――わたしのこのアバターは最初から、とある強化外装を持っていました。地上から離れ、空に近づく力を。しかしそれは、とても飛行と呼べるようなものではなかった。ほんの一瞬の推力により、わずか高度百メートルほど跳躍すると、あとはただ降下するだけの代物だったのです」
「............」
言葉を返せず、ハルユキはただ息を殺した。
ずっと前に一度、シルバークロウの飛行能力でどこまで高く上昇できるのかを試したことがある。
通常対戦フィールドの四方は《
結果は、満タンの必殺技ゲージが全消費されるまで、ハルユキの指は壁に触れることはなかった。
その時の高度は、彼方に見える新宿都庁舎の三倍を超えていたと記憶している。
近年建て替えられた庁舎は、高さ五百メートルの威容を誇る。
つまり、ハルユキは軽々と高度千五百メートルまで上昇し、しかもそれはただ好奇心を満たすためだけにしたことだったのだ。
――僕は、与えられた力の意味を、考えすらしなかった。
アッシュ・ローラーのバイクの上で感じたのと同じ後悔に捉われたハルユキは、体をひたすら小さく縮こまらせ、スカイ・レイカーの声に耳を傾け続けた。
「......わたしはいつしか、もっと高く、遠くまで飛びたいという欲望にとりつかれてしまいました。あらゆるレベルアップボーナスを跳躍能力の強化に遣い、更なるポイントを得るために戦闘に明け暮れました。数少ない友人や、《親》でさえ、そんなわたしにそんなわたしに愛想を尽かし離れていった。たった一人、当時所属したレギオンのマスターだけがわたしを理解し、協力してくれたのです。わたしも彼女の力になろうと、長い、長い間肩を並べて戦った......。――ですが、レベル8に到達し、そのボーナスをつぎ込んでなお《跳躍》は《飛行》足り得ぬと悟った時......わたしの欲望は妄執に......いえ、狂気となってしまった」
「きょう......き」
掠れ声で呟くハルユキを一瞬見て、ごくかすかな笑みを刻むと、スカイ・レイカーは深く頷いた。
「わたしは......アバターそのものを軽量化し、また心意による飛翔力を強化する為、わたしの最大の攻撃力であった脚を捨てると決断しました。友でありマスターでもあった人に、剣で斬り落としてくれるよう頼んだのです。彼女はわたしを止めました。ですが、わたしはもう、彼女の心さえ解らなくなっていた......。わたしは彼女に酷い言葉をぶつけ、しかし彼女は悲しい顔をしただけで、最後にはわたしの望みを叶えてくれた」
スカイ・レイカーは右手でそっと膝を撫で、穏やかにしめくくった。
「全てのボーナスを消費し、心意を鍛え、自らを歩行不能に追い込むべく脚すらも捨てて......その果てに到達できた限界高度は、三百五十メートルでした。初期の三・五倍。しかし、空には届かなかった。ぎりぎり辿り着いたこの旧東京タワーの天辺で、わたしはようやく悟ったのです。わたしのアバターの源となった心の傷、そして希望に、そこまでの力はなかったのだ、と。《レイカー》とは《見晴らす者》の意です。放物線の頂点で空を一瞬見晴らす......それがわたしに与えられた力の絶対的な限界だった。そうと気付いた時には、わたしは大切なもの全てを失っていた」
陰影だけの口をにこりと微笑ませ、スカイ・レイカーはハルユキに問うた。
「どうです、シルバークロウ。この愚か者の話を聞いてもなお、《心意システム》による飛行を修練したいと思いますか?恐らく、九分九厘までは不可能と解った上でなお?」
「............」
ハルユキは俯き、ぎゅっと眼を閉じた。
ハルユキは考えていた、なぜ力を求めるのか...
そんなものは、聞かれるまでもなかった。
ハルユキは自分自身の為に...そして自分を信じてくれる人達を守る為に...。
ハルユキは、力を求める。
ラブアンドピースを胸に、愛と平和を守る為に戦う。
それが......仮面ライダーだ。
震える胸いっぱいに冷たい空気を吸い込み、ぐっと溜め。
ハルユキは深く頭を下げながら言った。
「僕には、まだやらなきゃならないことがあるんです。......お願いします。教えてください......《心意システム》の使い方を」
スカイ・レイカーは再びほのかに微笑み、小さく首をかしげた。
「長い、とても長い時間がかかりますよ」
「構いません」
「あなたが今想像しているよりも、多分ずっと長くかかります。ことによれば、バーストリンカーとしての《
その言葉の意味を、ハルユキはなぜか即座に理解した。
ハルユキの知る二人の王――黒の王ブラック・ロータス。そして赤の王スカーレット・レイン。
彼女たちはその言動に於いて、現実世界の姿とはかけ離れた部分がある。
理由は、この無制限中立フィールドで長い、長い時間を過ごしてきたからだ。
実年齢と精神年齢のあいだにギャップが発生してしまうほどに。
自分にも、ついにその選択をする時が来たのだろうか。
ハルユキは慄然としつつも、大きく息を吸い、頷いた。
「解っています。......お願いします、スカイ・レイカーさん」
「いいでしょう」
きこ、と車椅子を回転させ、加速世界の隠者は空を見やった。
「......今、現実世界では夜九時過ぎですね。向こうの時間であとどれくれいダイブしていられます?」
「ええと......明日学校ですけど、まだ三、四時間は大丈夫です。何なら、朝までだって......」
以前黒雪姫が、あまりにこの世界で長い時間を過ごしてしまうと、ダイブする前の現実世界での記憶が薄れてしまうと警告してくれた。
しかし、今だけはその心配はないと思えた。
たとえどれほどの時間が過ぎようとも、能美征二に翼を奪われたことを忘れたりはできない。
絶対に、それだけはない。
「よろしい」
両手の指先を組み合わせ、スカイ・レイカーはハルユキに向き直った。
「それでは......、今日はこれで休みましょう」
「は、はい!?」
「あなたは、今日一日にあった出来事で心を乱しています。それでは心意の修行などできはしない。どうせもうこちらも夜になります、一晩ぐっすり寝て、明日朝から始めましょう。時間はたっぷりあるのですから」
「ぐ、ぐっすり......って」
ハルユキは唖然としながら訊ねた。
「だ、だって、フルダイブ中に寝たら、ニューロリンカーが脳波を見て自動リンクアウトしちゃうじゃないですか」
「加速中はその心配はありません。このあいだ作品がアニメ化された、現役高校生の人気マンガ家がいるでしょう?」
唐突な台詞にきょとんとしながらも、小さく頷く。
「は......はい。大ファンです......」
「彼はハイレベルのバーストリンカーです。睡眠を全てこちら側で取っているから、学校に行きながら週刊連載などという無茶ができるのです」
えー、あの天才ヒットメーカーがバーストリンカーだって。
ていうか前にもなんかこんなことが。
軽い既視感に頭をくらくらさせながら、ハルユキは軽やかに動き始めた車椅子の後を追った。
招き入れられた、白壁に緑屋根の家の中は、予想より広かった。
とは言え、部屋はたった一つ。
そこに、小さなキッチンとテーブル、ベッドが設えられているだけだ。
スカイ・レイカーは車椅子をキッチンに置かれた料理用ストーブに寄せると、その上でことことと音を立てている鍋の蓋を取った。
途端、ふわっといい匂いが部屋中に広がる。
呆然と眺めるハルユキの視線の先で、手早くシチューらしきものを木製の深皿によそい、両手に皿を持ったまま車椅子を今度はテーブルにつけた。
同じく木の匙と一緒に並べながら、ハルユキに言う。
「立ってないで、座ったらどうですか」
「あ......、は、はい」
ふらふらと背の高い椅子に腰かけ、目の前で湯気を立てるホワイトシチューを見下ろして、ハルユキは内心で呟いた。
いや、でも、何ていうか、ここ......
「対戦格闘ゲームの中、ですよね......」
うっかり声に出すと、スカイ・レイカーはすまし顔で頷く。
「そうですよ。何か問題が?」
「だって、その、カクゲーの中でゴハンて......」
「あら、黎明期のとある2D格闘ゲームの背景では、ギャラリーがラーメンを食べていましたよ」
「そ、そうかもしれませんけども」
頭をかきむしりたい気分に襲われると同時に、ハルユキは、自分が猛烈にお腹が空いていることにも気づいた。
現実世界ではついさっきピザを齧ったばかりなのに、この空腹感はいったいどこから来ているのか。
という形而上の疑問も、スカイ・レイカーに「どうぞ、おあがりなさい」と言われれば即座に
そして再び途惑った。
「あ、で、でも、僕、口が」
シルバークロウの顔は鏡のようなヘルメットに覆われており、眼も鼻も口もないのだ。
しかし、スカイ・レイカーが手振りで食べるよう促すので、恐る恐るシチューを掬い、それを口元に運んだ。
すると――。
ういん、と軽い音とともに、ヘルメットの下側が少しだけ上にスライドした。
仰天して左手で触ってみれば、その中にはしっかりと口の感触がある。
もう何がなにやら解らず、ハルユキは「いただきます」と呟いて匙をぱくりと咥えてみた。
――美味しかった。
どのメーカーのVR味覚再生エンジンよりも自然で、精細な味が口中に広がり、ハルユキはじゃがいもや小玉ねぎ、鶏肉などを次々と掬っては頬張った。
がつがつ貪っていると、向き合って上品に木匙を動かしていたスカイ・レイカーが、にこやかに言った。
「気に入ってくれたようで嬉しいわ、鴉さん。よく味わって食べてくださいね。その記憶を、当分もたせられるように」
「.........はい?」
息もつかずに皿を空にしてから、ハルユキはようやく今の言葉の意味について考えた。
しかし、問い返す暇もなくスカイ・レイカーは皿をキッチンの棚にひょひょいと投げ入れてしまったので、もうごちそうさまと頭を下げるしかなかった。
気付けば、南向きの窓の外は、いつの間にかとっぷりと暮れている。
恐らくはお台場あたりのものであろう明かりが、黒い海面に反射してゆらゆらと揺れているのが遠く見える。
スカイ・レイカーが指をぱちんと鳴らすと、家の機能なのか《心意》による念動なのか、全てのカーテンがしゃっと閉まった。
車椅子は小さなベッドの傍らまできこきこと移動し、脚を失ったアバターは、右手一本を支点としてふわりと体をシーツの上へと移動させた。
「それでは、少々早いですが、そろそろ寝ましょうか」
えっ。
寝るって。
ベッドは一つ。
アバターは二つ。
ということは――どういうことなのか。
というハルユキの一瞬の超高速思考を、ぽーいと放られてきたマクラが両断した。
それを抱え、うんそりゃそうだ何を考えてるんだ僕はばかばかこのうつけ者。
と自分を罵りながら、ハルユキは銀のアバターを転がした。
どうせ全身カチコチの金属装甲に覆われているのだ。
下がベッドだろうと床だろうが大差あるまい。
帽子を壁のフックにかけ、すぽっとワンピースを脱ぎ捨ててベッドに横たわったスカイ・レイカーは、もう一度指を鳴らした。
天井のランプと薪ストーブの火が消え、家の中は薄青い闇に包まれた。
「おやすみなさい、鴉さん」
――さすがあのアッシュ・ローラーの親というだけあって、この人もただ者じゃないな。
と感心しながら、ハルユキも答えた。
「お、おやすみなさい......」
同時に内心では、この状況で寝られるものか!と叫んでいた――のだが。
意外にも、テーブルの横にごろりと床寝し目を閉じた途端、頭の芯が即座にふわふわと白い霞に包まれ始めた。
やはりスカイ・レイカーの言う通り、色々な出来事のせいで精神的に激しく消耗していたらしい。
もちろん、能美とスタークに与えられた屈辱と、葛城に抱いた怒りは忘れたわけではない。
しかし今、この世界のこの家の中でだけは、黒いものを遠ざけておけるような気がした。
もしかしたらそれは、お腹の中に美味しいシチュー一杯分の幸福感が詰まっているから、という至って即物的かつ食いしん坊的な理由によるものかもしれないが。
暴力的なまでの重さで瞼を閉じようとしてくる眠気にしばし抗い、ハルユキはごく小さく呟いた。
「あの、スカイ・レイカーさん。少し、聞いていいですか」
「どうぞ」
すぐにそう声が聞こえたので、ベッドの方をチラリと見て、たおやかな曲線を描くシルエットに向けて訊ねた。
「ええと......アッシュ・ローラーさんは、もう《心意システム》を習得しているんですか?」
「本格的には、まだです。でもヒントだけはあげたので、あの子なりに色々工夫しているようですね」
その答えで、腑に落ちるものがあった。
バイクの上に直立したまま操縦する彼の新技は幾ら何でも無茶すぎる気がしたが、あれは恐らくイメージ制御を取り入れているのだ。
床の上で小さく頷いてから、次の問いを口にする。
「彼の《親》なのなら、あなたも今は緑の王のレギオンに......?」
今度の回答は、やや間が開いた。
「......いいえ。わたしが所属したレギオンは、後にも先にもたった一つだけ」
「なら......それは」
思わず顔を持ち上げながら、ハルユキは思い切って本当に訊きたかった質問を放った。
「そのレギオンというのは............もしかしたら、《ネガ・ネビュラス》ではありませんか。そしてあなたが脚を斬ってくれるように頼んだ人というのは......」
「《ブラック・ロータス》、誰よりも強く、気高く、そして優しかった、わたしのたった1人の友達」
ごく密やかに、しかし歌うように美しく響いたその答えに、ハルユキは小さく頷いた。
「そうだと......思いました。あなたは......どこか、あの人に......」
「昔の話です」
ハルユキの言葉を遮るように、ベッドから短い言葉が降り注いだ。
「ずっと、ずっと昔の話。さ......もう寝なさい、鴉さん。明日は早いですよ」
それ以上の会話を拒絶するように、ぱさりと寝返りを打つ音がした。
――もっと聞きたい。昔の、あの人のことを。
そういう気持ちはあったが、しかしそこでハルユキの瞼にも強烈な荷重がのしかかってきた。
訪れた温かい暗闇に身を任せ、ハルユキは深い眠りの淵をどこまでも沈みこんでいった。
次の瞬間、ごちんと頭が床にぶつかり、嫌々瞼を開けた。
何だよまだ寝入ったところじゃないか、僕のマクラを引っ張ったのは誰だ、と思いながら上体を起こす。
すると、いっぱいに引き開けられたカーテンの向こうの空が、綺麗なオレンジとパープルに染まっていてぎょっと眼を剥いた。
「えっ......もう、朝......!?」
「そうですよ。おはよう、シルバー・クロウ」
声に顔を動かすと、ハルユキの頭の下から引き抜いたと思しきマクラをベッドに戻すスカイ・レイカーの姿が見えた。
すでに白い帽子とワンピースを身に着けている。
「お、おはようございます......。あの、今、何時です?」
挨拶がてら訊ねると、空色のアバターは無言でキッチンの方を指差した。
壁に据えられた飾り棚に小さな真鍮色の置時計が乗っており、針は午前五時を示している。
昨夜横になったのが日没のすぐ後だったことを考えればたっぷり十時間は寝ていた計算だが、夢を見るスキすらなかった気がする。
しかし、確かに頭の中は、冷水でじゃぶじゃぶ洗ったかのようにすっきりしていた。
むしろちょっと覚えがないほどに爽快な目覚めだとすら言えた。
これで、現実世界では30秒そこそこしか経ってないのだ。
「......なるほど、こっちで寝るのって、けっこういいポイントの使い方かもしれないですね......」
思わず唸ると、スカイ・レイカーがくすりと微笑んだ。
「寝首を掻かれるリスクはありますけどね」
「............えっ」
「今更首を押えても遅いでしょう。わたしが5回呼んでも起きなかったのですから」
――それでマクラを引っこ抜きという荒業が炸裂したわけか。
と納得しつつハルユキは肩を縮めた。
「す、すみません。次からはちゃんと起きます」
しかしこれにはスカイ・レイカーは意味深い笑みを返すので、そのまま車椅子をドアへと転がした。
早朝の無制限中立フィールドは、夕暮れとは異なる美しさに輝いていた。
属性はまだ《荒野》のままだが、赤茶色の岩山が朝焼けに照らされて、まるで巨大なルビーの原石のようだ。
朝露に濡れる芝生の上を車椅子はきこきこと移動し、昨日話したのと同じ北側のベンチの近くで停まった。
ハルユキもその隣まで進み、今度は立ったままスカイ・レイカーの言葉を持った。
元《ネガ・ネビュラス》メンバーであり今は加速世界の隠者であるレベル8バーストリンカーは、すう、と大きく息を吸うと、やや厳しさを増した声で言った。
「シルバー・クロウ。それでは、これより《心意》の修練を開始します」
「は......はい、よろしくお願いします!」
ハルユキはぐいっと深く頭を下げた。
イメージのみによりアバターを操作するという《心意システム》、その習得だけが残された唯一の希望だ。
何日、何週間かかろうとも、絶対に身につけてみせる。
その決意に燃え、脳内に香港製カンフー映画の修行シーンっぽいBGMを流しながら、ハルユキは最初の指示を待った。
――しかし。
「......とは言え、心意の要諦はたった一つの言葉で言い表せます。それを理解すれば、誰にでも使えるのです」
「......は、はい?」
スカイ・レイカーがすらすらと続けた台詞に、かくんと膝を折る。
「......た、たった一つだけ......?それで、奥義習得免許皆伝なんですか?」
「そうです」
「教えてください、それ」
当然、そう言うと。
「いいですよ。ただし、次にわたしと会えた時に、ですけれど」
そんな答えが返ってきたので、慌てて一歩詰め寄った。
「い......いえ、教えてもらえるまで、僕は現実世界には戻りません!」
「会った、ではなく、会えた時、と言いませんでしたか?つまり......」
そこで言葉を切って手招きするので、ハルユキは更にもう一歩近づいた。
空色の髪を揺らし、流麗なるアバターはそっと右手をハルユキの背中に触れさせ――。
「こういうことです」
とーん、と横方向に押した。
「えっ......おっ......とと......」
ハルユキは、とん、とん、と二歩芝生の上でよろけ。
三歩目が、すかっと空気を踏んだ。
「.........え」
「健闘を祈っています。鴉さん」
にこっと微笑んだスカイ・レイカーの姿が、すーっと上に遠ざかった。
正確には、ハルユキの体が、高さ三百メートルの塔の天辺からころりと空に転がり出た。
「え...ちょっ......わっ......」
慌ててばたばた両手を羽ばたかせるが、もちろん何の効果もなく、そのまま仮想の重力に引かれて一直線の自由落下へと突入し――。
「わ.....あ......あ―――――――――」
ハルユキは死んだ。
はい、如何だったでしょうか?
最近熱くなってきましたので、皆様熱中症には気を付けてください。
マメな水分補給を忘れずに!!
さて、今回ようやくハルユキの師匠スカイ・レイカーが登場しました。
仮面ライダーの話が絡んでくる以上、どうなるかまだ分かりません。
それでは次回、第12話もしくはLOVE TAIL第6話でお会いしましょう!!
文字数の調度いい長さを教えてください!
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7000~10000 第3章第3話参考
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10000~15000 第2章第8話参考
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15000~20000 第3章第2話参考