兎美「梅里中1年の有田春雪は!3人の少女から告白され、仮面ライダーに変身するのでありました!」
美空「てゆうか私のはあんたが暴露したんでしょうが!」
兎美「いちいち茶々いれるんじゃないわよ、先に進まないでしょ!」
美空「てか原作の方はもう最終回迎えちゃったけど、この作品のラストはどうするのよ」
兎美「まだ決まってないわ!ある程度は考えてるけど、まだ先は長いし何とかなるでしょ」
美空「まあ作者も原作を所々しか見てなかったから、まさかあんな展開になるなんて思わなかったでしょうし」
兎美「そうゆう事!さてどうなる第6話!」
美空「てゆうかそろそろビルドのフォームチェンジとか出さないといけないんじゃないの?」
兎美「分かってるわよ...そんな事...」
ハルユキはシアンパイルの正体に驚愕していたが、脳裏にいくつかの思考が、同時に閃く。
僕は――何故奴が、≪シアン・パイル≫が、梅里中の生徒の誰かだと判断した?
もちろん、チユリのニューロリンカーにウイルスを仕掛けたからだ。
チユリを踏み台にして、学内ローカルネットのどこから、幽霊のように黒雪姫に襲っていたからだ。
でも。
もし、あのバックドアがグローバルネットからのアクセスのために造られたものだとしたら?
その場合、容疑者は梅里中内部ではなく、全国に広がってしまう。
しかし、同時に新たな絞込みフィルタも出現する。
なぜチユリなのか?
もちろん、接触しやすいからだ。
学外の人間で、チユリに最も親しい者。
チユリのニューロリンカーと直結できるほどにそばに居る、誰か。
その条件に当てはまる人間は、1人しかいない。
「ハル...信じられないかもしれないけど...」
兎美は自分の言葉を信じていないと思い、言葉をかけようとするが。
「いや、すぐ気づくべき事だったんだ...。ウイルスをどうやって仕掛けたのかなんて考えるまでも無かった...。直結して仕込めばいい話なんだから...。それを出来る人間は1人しかいない...」
「なるほど...チユリと簡単に直結できるのは、幼馴染の黛 拓武しかいないって事ね 」
ハルユキの言葉に、美空も納得する。
「それで...どうするんだ?ハルユキ君」
「この後、タクムに会ってきます。なんでこんな事をしたのか聞く為に...」
「なっ!危険すぎる!君はまだレベル1で、相手はレベル4なんだぞ!勝てるわけが無い!」
「そうよ!それに相手が何をしてくるか分からないのよ!」
ハルユキの提案に、黒雪姫と美空が反対する。
「でも...これは俺がやらないといけない事なんだ。それに、戦うって決まった訳じゃありませんし」
「...分かった」
ハルユキの言葉に、兎美は了承する。
「分かっちゃ駄目でしょ!」
「しょうがないでしょ!ハルがやるって言ってるんだから!私はハルのやりたいようにやらせたいの...」
「兎美...」
ハルユキは兎美の言葉に感動する。
「それに、いざと言う時は私がビルドになって、駆けつけるわ!」
「いや!それ過剰防衛だから!」
ハルユキは、兎美の突拍子のない発言に、突っ込みを入れる。
「大丈夫よ!何かあったら、私がぶっ飛ばすから!」
「何一つ安心できない!そんな事しなくても大丈夫だから!」
「そうよ、そんな事しなくても、私が社会的に抹殺してやるわよ」
「もっと物騒な発言が出てきたんですけど!」
ハルユキ達のやり取りは、兎美達が落ち着くまで続いた。
☆★☆★☆★
ハルユキはマンションの前で、部活から帰ってくるタクムを待っていた。
タクムに会いに家に向かうと、まだ帰っていなかった為、現在マンションの前で待機していた。
また余談だが、兎美達が直ぐに駆けつける様に待機していたが、ハルユキは兎美達の言葉を冗談だと思っており、存在に気づいていなかった。
しばらくすると、ハルユキはタクムの姿を見つける。
部活用のスポーツバックに加え、剣道の竹刀袋と防具袋を肩に背負っていた為、直ぐに見つけることが出来た。
ハルユキは意を決し、タクムに近づく。するとタクムもハルユキに気づいた。
「やあ、ハル。こんな時間に外にいるなんて、どうしたんだい?」
「ああ、タクに話があって、帰ってくるのを待ってたんだよ」
「っ!?そうなんだ...ここじゃあ通行の邪魔になるから、別の所に行こうかハル」
「そうだな」
ハルユキの言葉にタクムは少し動揺を見せた後、別の場所に移動するよう提案し、ハルユキは了承する。
「さてと、聞きたい事って何かな」
「タク...お前もう気づいてんだろ?自分の正体がばれている事に」
ハルユキの言葉の後、タクムは黙り顔を下に俯かせる。
「ふっ、ふはははは!」
突然、タクムは笑い出した。
タクムが顔を上げるとそこには、今までハルユキが見たことも無い、憎悪に満ちた幼馴染の顔があった。
「バースト・リンク!!」
「っ!?」
バシイイイイイイッ!
タクムがコマンドを発声した後、ハルユキの意識も加速して目の前に文字が表示された。
【HERE COMES A NEW CHALLENGER!】
☆★☆★☆★
バキバキバキバキッ!
一瞬の間に続いて、世界に響き渡ったのは、無数の金属塊が軋むような異質な震動だった。
周囲の床や壁が、ハルユキの足元からどこか生物めいたぬめりや襞のある錆色の金属に覆われていく。
柱は昆虫の腹のように節を作ってよじれ、天井には奇怪な眼球に似た突起が幾つもボコボコと浮き上がる。
いつも見慣れているマンションが、古典サイバーパンク作家の悪夢のような有機金属的汚濁に包まれるまでに、数秒とかからなかった。
桃色ブタアバターから、デュエルアバター≪シルバー・クロウ≫へとハルユキが変身したのとほぼ同時に、ぎゅうっ!と音を立てながら、視界上部に2本の体力ゲージが伸びた。
ゲージの間に、1800の数字。
そして最後に、中央にごうっと、炎がごうっと燃え上がった。
その奥から出現した≪FIGHT!!≫の文字が、真っ赤に輝き、爆散した。
減少を始めるカウントをちらりと見て、ハルユキは改めてタクムが居た場所を見た。
タクムのアバターを見た瞬間、ハルユキは巨大だと思った。
何より圧倒的なのは、シアン・パイルの全身のとてつもない厚みだった。
太っている、というのとは違う。
まるでプロレスラーのようにごつごつと筋肉の盛り上がった四肢と体幹。
それをメタリックブルーのぴっちりとしたボディスーツ型装甲が包んでいる。
足にはダークブルーのごついブーツ。
左手にも同色の巨大なグローブ。
まるで自分が変身するクローズのようだ。
すらりとスリムなタクム本人とは、イメージが180度逆だ。
ゆっくりと体を左に回したシアン・パイルの視線が、正面から注がれた。
シアン・パイルの頭部は、そこだけはスマートな涙滴形のマスクに覆われている。
顔面には、横に細長いスリット状の隙間がいくつも開き、中央を縦に1本の支柱が貫いている。
見ようによっては、どこか剣道の面を連想しなくもない。
1本のスリットの奥で、突然ビカッ!!と青白い両眼が鋭い形に輝いた。
左脚がゆっくり持ち上がり、ずしりと床を踏みつける。
溜まっていた粘液が、ばしゃりと左右に飛び散る。
ハルユキの目は露わになったシアン・パイルの右腕に吸い寄せられた。
左手のようなグローブではない。
肘の所から、ぶっといパイプに接続されている。
パイプは、直径15センチ、長さ1メートルはあるだろう。
しかも開口部から、内蔵されているらしい尖った金属棒の先端が、ぎらぎらと剣呑な輝きを放っている。
シアン・パイルの属性は、その全身を包む装甲の色からしても、≪近接の青≫だ。
しかも、黒雪姫いわく限りなく純色のブルーに近い。
ならば、あの鋭い棒は飛び道具ではないはずだ。
スリットの並ぶマスクが、ぐるりと周囲を見回す。
その奥から流れ出たのは――陰々と歪んでいるが、たしかに長年聞きなれた、親友タクムの爽やかな声だった。
「ふうん、これは≪煉獄≫ステージかな。僕も久しぶりに見るよ。属性はなんだったかな?」
屈託の無いその喋りに、ハルユキは思わず口を開いていた。
「タク...」
ズギャアアアア!!
突然、振り回されたシアン・パイルの右腕の鉄棒が、廊下の金属壁に食い込み、醜く引き裂いた。
飛び散った鉄片と粘液、そして潰された名も知れぬ小虫がぼたぼたと床に落ちる。
シルバー・クロウはシアン・パイル突然の攻撃に、言葉を呑み込み、戦闘態勢に入る。
その様子をちらりと見て、シアン・パイルはさらに快活な声で続けた。
「さすがに硬いな。ステージの破壊はちょっと難しいかもね」
ずしん。
止まっていた歩行が再開され、青い巨躯がのしかかるようにハルユキの眼前に迫る。
「へー、今の攻撃を見て弱腰になると思ったんだけど、さすがは仮面ライダーの協力者と言った所かな?」
「タクム...お前なんで...」
シルバー・クロウはシアン・パイルを問い詰めようとするが、シアン・パイルがさらに言葉を発した。
「まさか、君がバーストリンカーになるなんて...驚いたよ。昨日はさすがに驚いたよ...まさか逆探知されるなんて思いもしなかったからね」
「兎美は自分で言っている通り、天才だからな」
「なるほど...。それにしても羨ましいよハル、僕からチーちゃんを奪っただけじゃ飽き足らず、あんな可愛い子達と同棲してるなんてね...」
「お前何言って...」
発言をしようとしたシルバー・クロウの言葉を、再び鉄棒が壁に叩きつけられた大音響が掻き消した。
「どうだった?ハル...。彼女達と直結した感想は...。僕がその光景を見た時、どんな思いだったか君には分かるか!!ハル!!」
シルバー・クロウはシアン・パイルの言葉に絶句した。
幼馴染の変わりようもそうだが、シアン・パイルのシルバー・クロウに向けた嫉妬に対し、驚きを隠せなかった。
「タク...、お前なんで」
ハルユキが銀面の下から発した言葉は、自分でも意外なほど鋭く、強く響いた。
「なんでチユのニューロリンカーにウイルスを仕掛けた!チユに隠れて接続して、メモリや視聴覚を好き勝手に覗いてたのか!」
「そんな覗きみたいな言い方して欲しくないな」
ハルユキの、ほんの5メートル先で足を止めた巨大なアバターは、それだけはタクムらしいスマートな仕草でひらりと左手を広げた。
「チーちゃんを正気に戻すのには、必要な事だったんだよ」
「正気に戻す?」
「ふふふ、君は昔からそうだよ、ハル」
穏やかな声でそう言いかけたシアン・パイルの右横の壁を、奇怪な形の大きな金属虫がガサガサと通り過ぎようとした。
シアン・パイルは何気ない仕草で右腕の巨大針を持ち上げ、軽く虫の背を貫いた。
壁に留められた虫はギイギイと啼きながら、逃げ出そうと無数の肢を激しく振り回す。
「ずっと、ずっと昔からチーちゃんに、僕ってかわいそうだろ?憐れだろ?だから優しくしてよ。もっと構ってよ。そういい続けてきたんだ。言葉じゃなくても、態度で、目つきで...いや、君という存在そのもので」
ぶじり、と湿った音を立てて針がさらに虫の殻に沈み込んだ。緑色の液体が飛び散り、仮想の虫はいっそうジタバタともがき始める。
「女の子って解らないよね。チーちゃんは、僕に手を引かれてる時よりも、ぶつぶつ文句言いながら君の手を引っ張ってる時の方がずっと楽しそうだった。君の面倒を見て、世話を焼くのがとっても幸せそうだったよ、昔から。...知ってたかい?チーちゃんは、どこに行く時も必ずでっかいタオル地のハンカチを持ってたんだよ。汗かきの君の為にね」
ばちゃっ!!
と怖気をふるう音を立てて虫が粉砕され、濃緑色の殻と肢が粘液とともに飛び散った。
「ハル...君は知らないだろうけど、僕は2年前にチーちゃんに告白したんだよ」
はははは、とシアン・パイルは愉快そうに、しかしぞっとするようなディストーション・エコーのかかった笑い声を上げた。
「だけどチーちゃんは断った!チーちゃんは僕より君を選んだんだよ!ハル!だから思ったのさ!彼女は現実的判断が出来ていないってね!」
「現実...的?」
シアン・パイルは緑色に染まる金属針の先端を、同意を求めるように空中に持ち上げた。
「チーちゃんだって女の子...いや、女だよ。友達に自慢できる彼氏、幸せな結婚、満ち足りた生活、そっちのほうがずっと≪幸せ≫だっていつかは気付くさ。だから僕も頑張ったよ。死ぬほど勉強して今の学校に入ったし、毎日走り込んで体も鍛えた。ハル、君が下らないゲームをしたり、ぐうぐう寝たり、何も出来ないくせに怪物相手に戦ってる間にね!」
「お前...本気で言ってるのか」
ハルユキは、思考が纏まらぬまま、殆ど反射的にそう叫んだ。
「本気で言ってるさ。チーちゃんには幸せになる権利がある。成績は学年1位で、剣道では都大会優勝の僕と付き合って幸せになる権利が」
ハルユキは鋭く息を吸い込み、ぐっと溜めた。
「...違うだろ、タク」
ハルユキは銀のマスクをもたげ、まっすぐシアン・パイルの鋭い眼を見た。
「学年1位も、優勝も、お前の力じゃない。ブレイン・バーストの...≪加速≫の力だ。いつからだよ。いつからお前はバーストリンカーだったんだ」
しばし、沈黙が煉獄ステージを覆った。
小虫の群れがキチキチと足元を通り過ぎ、時折壁に開いたヒダの間から生き物のように蒸気が吐き出される。
1800から開始されたカウントは、既に200秒が経過しようとしている。
100の桁が5になるのと同時に、シアン・パイルが言葉を発した。
「僕の力だよ」
す、と右手の針をまっすぐハルユキに向けてくる。
「≪加速≫は僕の力だ。ほんの赤ん坊の頃から、ニューロリンカーで嫌って言うほど知育ソフト漬けになって適性を培った僕の力なんだ!僕がバーストリンカーになったのは、まだたったの1年前さ。剣道部の主将が僕の≪親≫だ...かの≪青の王≫の側近なんだよ。期待されてるんだ僕は。親衛隊の候補生なんだ。なのに...」
ガギャアアアアン!!
大きく振り回された右手が、壁に幾つめかの巨大な傷跡を刻み付けた。
「今更!!今更バーストリンカーになっただって!?それで僕と対等になったつもりかい、ハル!?君は僕には勝てない。勉強でも、スポーツでも。そして勿論、この加速世界でもね。解らせてあげるよ。僕の力を...君のその、ひ弱なデュエルアバターに」
びかぁっ!!と、シアン・パイルの両眼が凄まじ光を迸らせた。
本気だ。
タクムは本気で戦う気なんだ。
言葉を尽くせば解ってくれる、という気持ちはまだハルユキの中にあった。
チユリの、そして自分の本心を説明したい。
こんな争い方はしたくない。
「...タク。確かにお前は凄いよ。勉強もスポーツも出来るし、かっこいい。俺の持ってないものを、全部持ってる」
顔を俯け、声を押し殺してハルユキは呟いた。
しかし直後、正面からシアン・パイルを見据え、鋭く叫んだ。
「でも馬鹿だ。大馬鹿野郎だ、お前は!」
「...なんだって?僕が、馬鹿?」
「そうさ、だから俺には勝てない!忘れたのか?昔から、どんなゲームでもお前が俺に勝てたことがあったかよ?」
「...ハル。ハル」
笑いの混じった。しかし凄絶な響きのある声。
「なら、たった今...君は最後のプライドまでなくすんだ!!」
どっ!!とシアン・パイルのブーツが床を蹴った。
2メートル近い巨体が、それにそぐわぬ凄まじいスピードで距離を詰めてくる。
しかし、さすがにアッシュ・ローラーのバイクの突進に比べれば遅い。
ハルユキは今までの経験を活かし、何とか勝とうと思考する。
まず攻撃を仕掛けようとしたハルユキだったが、嫌な予感を感じ、咄嗟に右に跳んだ。
ガシュン!!
思いがけない音が響き渡ったのは、その時だった。
受身を取った後、ハルユキの視界の映ったのは、シアン・パイルの右腕を作る太いパイプの先端から、ぎらりと輝く鉄針が、先程までハルユキが居た場所まで伸びていた光景だった。
「へぇー、これを初見で避けた人は、今まで居なかったから驚いたよ」
「その右腕にそんな仕掛けがあるなんて、思わなかったけどな」
ハルユキは収納される鉄杭を見て、攻略方法を思考する。
(見たところ、あの鉄杭は1方向にしか攻撃できない...だったらもう一度攻撃を仕掛けてきた後、一気に距離を詰めたら攻撃が出来る!)
「攻撃してこないのは作戦を考え中なのかな?だったらこっちから行くぞ!」
(来た!)
ハルユキはシアン・パイルの攻撃を避ける為、全神経を集中させていた。
シアン・パイルの鉄杭がシルバー・クロウに迫るが、シルバー・クロウは極僅かな動きで鉄杭を避ける。
ダッ!!と足が床を蹴り、シアン・パイルに接近する。
「なっ!?」
「はあっ!」
シルバー・クロウは跳躍の勢いを利用し、顔面に拳を叩き付けた。
「ぐはっ!」
シアン・パイルはいきなりの事で対応が出来ず、まともに食らってしまい、後ろに仰け反る。
「ふっ!」
シルバー・クロウは追撃として、左ふくらはぎに右回し蹴りを撃ち込んだ。
「うぐっ!」
ぐらり、体勢を崩す所に、追い討ちの左膝蹴りを背筋の中央へ撃ち込む。
ドボォッ!!という重い震動。巨体がくの字に折れ曲がる。
よろよろと距離を取ったシアン・パイルが憎憎しげに唸った。
「ぐっ!...さすがにゲームは得意ってわけかい。ハル。まさかここまでやるとは思わなかった...よ!」
ぶん、と振り回された左拳をギリギリで回避し、勢いのまま体を反転させ、右の踵を無防備に突き出された首筋に埋め込む。
「ッグウウウウッ!!」
タクムの声で発せられる潰れた悲鳴に耳を塞ぎ、ハルユキはさらにラッシュを続けた。
両脚と両腕を使って途切れることなくコンボを繰り出す。
いつしか、自分の口からも悲鳴染みた叫びが漏れていた。
「この...馬鹿野郎!!大馬鹿野朗!!チユはなあ!!チユは俺達に、学年1位とか、そんなことこれぽっちも求めちゃいないんだ!!」
シアン・パイルが苦し紛れに放つ前蹴りを踏み台にして高くジャンプし、シアン・パイルのマスクを掴んで自分の銀甲ヘルメットを思い切り叩きつける。
ぴきっ、と破壊音が響き、青いマスクの1部が砕け散る。
バランスを崩し、背中から床に倒れたシアン・パイルの胸に馬乗りになり、ハルユキはさらに両拳を乱打し続けた。
「チユはただ、俺達が俺達のままでいることだけ望んでたんだよ!!なんでそれが解らないんだ!!」
何も考えず、激情のまま叫んだ言葉だった。
しかし、ハルユキの声が響いた途端、ひび割れたスリットの下でシアン・パイルの両眼がぞっとする程強い冷光を放った。
「ちょ...うしに...」
突然、ぐいっとシアン・パイルの太い両腕が自分を守るように交差された。
その時、それが防御動作ではない事に、ハルユキは直ぐに気付き回避する為に動いた。
「調子に乗るなアアアアァァァァァァ!!」
両腕が左右にいっぱいに広げられると同時に、シアン・パイルの胸から腹にかけてのボディスーツの表面に、ぼごごごごっ!と音を立てて鋭い杭の先端が10本以上も浮き上がった。
「――≪スプラッシュ・スティンガー≫ァァァァァァ!!」
ズドドドドドゥッ!!
重機関銃じみた連射音とともに、至近距離からあまたの杭がハルユキめがけ射出された。
しかし、シアン・パイルが技名を発生すると同時に、シルバー・クロウは回避行動に移っていた。
シルバー・クロウは後ろに全力で跳ぶ事によって飛んで来た杭をどうにか回避することが出来た。
「く...ふ、ふふふふふ」
シアン・パイルは立ち上がりながら、どこかのネジが外れてしまったような、小刻みな笑いが青いマスクの下から漏れた。
「くふふふ。随分と...元気良く小突きまわしてくれたじゃないか。ちょっとだけ驚いたよ。でも...所詮は煩わしい小虫だったね。わざわざ僕の必殺技ゲージを溜めたようなものさ」
「必殺...技...」
呟きながら、ハルユキは改めて視界上部のゲージを確認した。
左右に伸びる太い体力ゲージは、シアン・パイルが6割。
ハルユキのラッシュで、言葉以上のダメージは受けている。それに対しシルバー・クロウの方は、攻撃を受けていないのでノーダメージだった。
そして2人の体力ゲージの下にもう1本、細い緑色のゲージが伸びている。
これは、シアン・パイルのほうは8割近くが明るい色に発光している。対してハルユキの物は殆ど満タンに近い。
「おいおい、初めて聞いたようなことを言うなよシルバー・クロウ」
くくくと笑いながら、シアン・パイルがゆっくりと前進を開始した。
「必殺技の応酬こそ≪対戦≫の華さ。さっきの≪スプラッシュ・スティンガー≫は僕のレベル2必殺技だ。煩い小虫を撃ち落すのにうってつけだろ?まあ当たらなかったけどね。おや、そういえば君のゲージもいっぱいに溜まってるみたいじゃないか。どうぞどうぞ、君も好きなだけ使ってくれよ」
ハルユキはぎりりと奥歯を噛み締めた。
シルバー・クロウに与えられた使える必殺技は、リーチが無いに等しい≪ヘッドバット≫だけで、射程の長いシアン・パイルの技にはとても対抗できない。
しかもモーションが長い上に見え見えで、発動準備中を言わんがばかりだ。
(...くそっ、必殺技なんて必要ない。僕には拳と足、そしてスピードがある)
そんな考えをしていた時、タクムが話しかけてきた。
「それにしても、さっきは随分言いたい放題言ってくれたじゃないか?まるで、チーちゃんの事を、自分1人が理解しているみたいに?」
「...してるさ、少なくともお前よりは」
「なら、僕の事はどうだい?少しは考えてくれた事があるかな?振られた後も情けを駆けられている僕の気持ちを考えてくれた事があるかい、ハル?まあ、君は僕が告白した事すら知らないとおも...「知ってるよ」え?」
「お前がチユに告白した事も、振られたことも知ってるよ」
「な...なんで君が知ってるんだよ。でまかせな嘘をつくな!」
ハルユキの言葉にシアン・パイルは声を荒げる。
「チユに相談されたんだよ...お前に告白されたけどどうしようって...」
「な...なんだよそれ...」
「だから俺がお前の好きにしろって...振られたからと言って俺達の関係は変わらないからって。だけど俺の判断がお前をそこまで傷つけてるなんて知らなかった...」
「今さら気付いたってもう遅いよ...君は僕には勝てないからね」
シアン・パイルは不利な状況にも関わらず、シルバー・クロウを挑発する。
「それでも俺は負けるわけには行かない!チユリと黒雪姫先輩の為に!そしてタク!お前の為にも!」
チユリと黒雪姫の為に、タクムを正気に戻す為にも、ハルユキは負けるわけには行かなかった。
「今の俺は、負ける気がしねぇ!」
シルバー・クロウが決意を語った。
突如―。
装甲から、強烈な白光が幾筋も迸った。
「な、なんだ!?」
シアン・パイルが驚くのと同時に、背面の装甲が大きく砕け、吹き飛ぶ感覚が訪れた。
ハルユキは目を見開き、体を仰け反らせた。
目の前の少し離れた所に、鏡がある。
現実世界ではマンションの窓ガラスだったのだろう。
その鏡には自分とシアン・パイルが映っていた。
鏡を見ると背中の装甲にヒビが入っており、破壊音はそこから響いているようだ。
細い花火が走るたびに、小さく砕けた装甲が飛び散る...。
「...!?」
ハルユキは、何か白く輝くものが、背中に左右からゆっくり、ゆっくりと伸び始めるのを、呆然と見つめた。
鋭い三角形の、細い金属片のようだ。
(剣...?)
そう思った瞬間、伸びきった2つの金属片が、しゃらっと涼やかな音を立てて半円状に広がった。
折りたたまれていた薄い金属のフィンが、最初の剣状突起の先端を支点にそれぞれ10枚近くも展開している。
これは...武器ではなく...。
―――翼。
ハルユキが呆然としていたのは、僅か1秒足らずのことだった。
熱い!!
背中全体に凄まじい熱気を感じ、ハルユキは弾かれるように体を起こした。
身悶えながらよろよろと膝立ちで数歩後ずさり、腕で肩を抱いて小さく体を縮める。
温度、というよりも、純粋なエネルギーの塊が背中に密閉され、行き場を求めて渦巻いているように思えた。
「―――!!」
だめだ。もう抑えていられない。
弓なりに全身反らせ、ハルユキは真上を凝視した。
「―――行っ、けぇぇぇっ!!」
絶叫と共に、右腕をまっすぐ突き出す。
どおうっ!!
爆発じみた衝撃音とともに、銀の光が暗闇を切り裂いた。
「うわっ!」
いきなりの展開に呆然と見つめていたシアン・パイルに飛び上がった時の衝撃が襲う。
一瞬ののち、ハルユキの全身は、放たれた矢のように一直線に飛び上がった。
わずか数秒で空高く舞い上がり、さらに高く高く飛翔した。
きいいいいん、と背中の金属フィンが高速震動する。
そのエネルギーは小さな体を圧倒的な勢いで加速し、仮想の重力など楽々断ち切って、どこまでも、どこまでもハルユキを押し上げる。
たちまち、目の前に渦巻く黒雲が迫った。
突き上げた右拳が分厚い塊に接した瞬間、ぼっ、と音がして円状に雲が押しのけられる。
黒いトンネルを貫き、さらに上昇するハルユキの視界に、薄黄色の眩い光が溢れた。
雲海を抜けた直後、ハルユキは両手足を広げ、加速を緩めた。
甲高い震動音がピッチを落とし、飛行機が離陸を終えた時のようなふわりとした浮遊感が訪れる。
ゆるやかにホバリングしながら、ハルユキはぐるりと体を回した。
「...ああ...」
思わず、ため息まじりの声が漏れる。
想像を絶する光景が、眼下に広がっていた。
うねりながら流れる雲海の切れ間から、どこまでも続く鈍い色の巨大都市が一望できる。
捩れた尖塔群に変化した新宿副都心、その向こうの深い森と、そそり立つ魔城めいた建築物は皇居だろうか。
反対側を見ると、杉並から三鷹、八王子へと続く市街がどこまでも連なり、彼方には奥多摩の山々、さらにその奥で雲海を貫いてそびえる険峻な高峰は、おそらく富士山。
最後に南を眺めたハルユキは、きらきらと輝く灰色の平面を視界に捉えた。
海。東京湾だ。そして――果てなく広がる、太平洋。
(無限だ)
「この世界は...無限だ...」
呟きながら、ハルユキはゆっくり、ゆっくりと降下を開始した。
背中からばふっと雲海に沈み込み、その底を抜けて、地上へと近づく。
街並みのディティールが詳細に見渡せる高度まで落下した所で、フィンを一度強く震動させ、再度ホバリング。
姿勢を戻したハルユキの真下、ほんの30メートルほどの所に、マンションの屋上があった。
屋上には、シルバー・クロウとシアン・パイルを対戦登録をしていたであろう、ギャラリーがいた。
あれほど広大と思えた対戦フィールドが、今は両手で挟めそうな程に小さく見える。
そして、広場で立ち尽くし、こちらを見上げる青い巨人の姿も、また。
シアン・パイルは、たっぷり3秒近くも、魂を抜かれたようにハルユキを眺めていた。
その左手がかすかに持ち上げられ、しわがれた声が漏れかけた。
「は...ハル...」
しかし言葉は、不意に巻き起こった、どおおおっ!という響きに掻き消された。
声だ。
マンションの屋上に陣取り、シルバー・クロウとシアン・パイルの対戦を見守っていたギャラリー達が、一斉に喚き声を上げた。
「落ちて...落ちてこないぞ!?完全に静止している!!」
「ジャンプじゃない...飛んでるのか!?嘘だろ!?」
「≪飛行アビリティ≫だ...ついに現れたんだ、あの羽を見ろって!!あれは≪飛行型アバター≫だ!!」
ハルユキは、なぜギャラリー達がこれほど大騒ぎするのか分からなかった。
唖然として見下ろす先で、数十に及ぶデュエルアバターが、ある者はより高い地点を目指して移動し、ある者はコンソールに指を走らせている。
「データはないのか!あいつは何処の誰なんだよ!?所属レギオンは...≪親≫は誰だ!?」
「と、とりあえず本部に連絡だ!お前、落ちて知らせにいけ!!」
「冗談じゃない!この先を見逃せるかよ!!」
蜂の巣をつついたような騒ぎを鎮めたのは――不意に放たれた、凄まじい絶叫だった。
「オッ...オオオオオオオ!!」
両手足を広げて、シアン・パイルが吼えた。大気をびりびりと揺らす震動が、遥か上空のハルユキにまで届く。
「駄目だ!駄目だ駄目だダメだダメだダメだああああああっ!!」
がしゅっ!!と機械のような音を立てて、右腕の発射筒がまっすぐハルユキに向けられた。
「お前が!!お前が僕をッ!!見下ろすなあああアアアアァァァァァッ!!」
血を吐くような叫び。
同時に、ぎいいいいんっ!!と金属音が響き、装填された鉄杭が幾筋もの光を撒き散らした。
両脚を広げて腰を落とし、左手を発射筒添えた姿勢を取ったシアン・パイルの必殺技ゲージが残り4割が、一気にがくっと消滅する。
恐らくはシアン・パイルの最終攻撃であろう技に照準されたハルユキは、一点にホバリングしたまま、そっと右手を持ち上げ、拳を固く握り締めた。
自分に与えられた真の≪必殺技≫を、ハルユキは今ようやく悟っていた。
≪パンチ≫。
そして≪キック≫。
それらは通常技であると同時に、必殺の超攻撃でもあったのだ。
握った拳を大きく後方に引き絞り、ハルユキは全てのフィンをいっぱいに拡げて体の向きを変えた。
一直線に、眼下のシアン・パイルへと。
「お...ちぃぃぃ、ろおおおッ!!≪ライトニング・シアン・スパイク≫!!」
技名の絶叫と同時に、シアン・パイルの右腕から、一条の光線と化した鋼針が発射された。
対するハルユキは、ただ拳を構えながら、両の羽の全推進力を解放させた。
「うっ...おおおおおおお!!」
どごおおっ!!
ロケットエンジンに点火したかのように、シルバー・クロウの体はひとつの光弾となって突進した。
視界の左隅で、緑の必殺技ゲージが一気に減少をはじめる。同時に、右拳を包む白い光が、際限なくその輝きを増す。
「ハルウウウウウゥゥゥゥゥゥ!!」
タクムが叫んだ。
「タク――――――ッ!!」
ハルユキも叫んだ。
キィィィィィン!!
ブレイン・バーストの加速を超える≪超加速≫感が背後から押し寄せ、ハルユキを包む。
世界の色が変わる。
地上から殺到するシアン・パイルの青い槍、その先端1点の煌きを、ハルユキは確かに見た。
予測される弾道が、視界に幻のように浮き上がった。
技の名の通り、まさしく雷閃のごとき一撃を、ハルユキの魂の速度が凌駕したのだ。
槍の速度が落ちていく。
対するシルバー・クロウは、存在そのものが光になってしまったかのように、際限なくそのスピードを増す。
両者が接近し、交錯する――その瞬間、ハルユキはわずかに突進軌道を右にスライドさせた。
ざしゅううっ!!
槍がヘルメットの左側面を掠め、通り過ぎ、凄まじい火花を散らした。
直後。
ハルユキの≪パンチ≫が、シアン・パイルの胸板の中央を、深く、深く貫いた。
ずがああっ!!という轟音とともに、広場の床に深い轍を刻みながら、両者は1体となって吹っ飛んだ。
鉄槍の柵に激突し、それをバラバラに粉砕し、空中に躍り出る。
「っ...おおおっ!!」
ハルユキは一声吼えて、金属フィンを羽ばたかせた。
ぐうっと力強い揚力が全身を包む。
右腕の根本までをシアン・パイルの体に埋め込んだまま、ハルユキは軌道を上向け、高く、高く上昇した。
数秒で雲海を貫き、黄色い空へと飛び出す。
加速を緩めホバリングへ移行したその時、衝撃で一瞬気を失ったらしいシアン・パイルが、ハルユキの肩口に乗せたマスクの下で咳き込むような音を立てた。
「ご...ふっ...」
びく、びくんと巨体を震わせてから、のろりと顔を上げる。
直後に漏れたのは、これまでの怨嗟の怒声が嘘のような細い悲鳴だった。
「う...わ...!?と...飛ん...で...!?」
マスクを左右に振りながら、さらに叫ぶ。
「やめろハル...っ、お...落とすなッ!!今落ちたら...ま、負けッ...」
シアン・パイルの体力ゲージは半分を切っていた。
シアン・パイルはもがくことで落下するのを恐れてか全身を硬直させ、声の調子を懇願する物に変えた。
「ま...負けたら...レベル1のお前に負けたら、ポイントがゼロになっちゃうんだッ...お前はいいだろ、どうせ4,5ポイントしか減らないんだから!頼む、ここは譲ってくれハル!いまブレイン・バーストを失くす訳にはいかないんだよ!!」
「だったら認めるか、タク」
「......な、何を...」
「この戦いの敗北を...それを認めるかタク!!」
一瞬の沈黙。
密着した体を通して返ってきた言葉は、何かが抜け落ちたかのように静かだった。
「.....ああ。そうだね...やっぱり、僕は君に勝てなかった。昔一緒に遊んだ、いろんなゲームと同じように...」
「だったらお前は、俺の味方に...仲間になれ、タク。俺と同じように、これからはあの人の配下として戦うんだ」
タクムが絶句し、鋭く喘いだ。
しばらくして、掠れた呻き声が細いスリットの下から漏れた。
「...バカな、ハルも知らない訳じゃないだろう。君の親...僕が所属レギオンにも隠して狩ろうとした≪ブラック・ロータス≫は、加速世界最大の反逆者なんだぞ!つまり...あの人と一緒に戦う、ってことは...」
「そうさ。≪純色の六王≫を全員倒すんだ。ビビる必要なんかあるもんか。良い事を教えてやるよ...あのな、本来ゲームっていうのは、そういうモンなんだぜ」
言い放ったハルユキに、タクムは長い沈黙で応じた。
数秒後に発せられた言葉は、どこか自虐的な笑いを帯びていた。
「...ハル、君は信じられるのかい?たとえここでうんと言った所で、今更僕の言葉をどんな根拠で信じる気なんだ?所属レギオンの規則を破り、ブレイン・バーストのルールを破り、そしてたった2人の友達を両方裏切った僕の言葉を?」
「これから、2人でチユに全部話す」
即座に切り返したハルユキの台詞に、タクムは何度目かの驚愕の息を漏らした。
「え...!?」
「バックドアの事、俺達が戦った事、そして...お前が隠し続けてきた気持ちも、全部あいつに打ち明けるんだ」
ハルユキは視線を遥か無限に続く空に向け、ゆっくりと言った。
「俺達は、多分そこから始めなきゃいけないんだよ。今まで3人とも、隠しちゃいけない事を隠し続けてきた。疑わなくて良い事を疑ってきた。どこかで...やり直さなきゃいけなかったんだ」
「...やり直せる...と、本当に思うの、ハル?僕は...僕は、チーちゃんのニューロリンカーに...」
震える声でそう言うタクムの背中を、左腕で軽く叩く。
「もし、謝り辛いなら俺もお前と一緒に頭を下げてやる」
ハルユキの言葉に、タクムはさらに声を震えさせる。
「な...なんでそこまでしてくれるんだ...ハル?さっきも言った通り...、僕は君を裏切って...」
「ダチだからに決まってんだろうが!!」
ハルユキの叫びにタクムの体が震える。
「お前が道踏み外したら、俺が今回みたいに殴って正気に戻してやる!お前が道に迷ったら、俺が道標になってやる!それがダチってもんだろうが!」
「...ハル...」
「チユも最初は怒るだろうな。怒鳴って、暴れて...でも、最後には許すさ、あいつなら」
ゆっくりと下降を始めながら、ハルユキは笑いを含んだ声でそう言った。
マンションの広場に戻り、シルバー・クロウの右腕から解放されたシアン・パイルは、よろめくように数歩下がったあとどさりと床に座り込んだ。
ハルユキはちらりと残り時間を確認した。あと二分と少しで、長かったこの対戦も終わる。
念の為、ゲージをクリックして確認すると、残り体力は双方まったく同じ数値だった。
ハルユキの体力ゲージは満タンに近い状態だったが、先程の必殺技がかすった事により、さすがにレベル差があった為か、同じ体力までダメージを受けていた。
このままタイムアウトすればリザルトはドローで、ポイントの移動は発生しないはずだ。
その時、後から誰かが近づいてくるのを、気配で感じた。
ばっ!と後ろに振り返るとそこには、梅里中アバターの黒雪姫が立っていた。
「先輩、見ていたんですね」
「ああ、いきなり加速した時は肝を冷やしたぞ」
そう言って黒雪姫はハルユキに近づく。
「よく頑張ったな、ハルユキ君」
黒雪姫は伸ばした手で、ハルユキの頬撫でた。
「レベル差など顧みず、戦う姿は見事だったぞ」
黒雪姫は、手をハルユキの頬から、背中から伸びる薄い羽の縁をなぞった。
「綺麗だな...。これが君の力、シルバー・クロウの秘められたポテンシャルだったんだな。未だかつて...純粋な飛行アビリティを実現し得たデュエルアバターはひとつもない。やはり、私の予感は間違っていなかったよ。君こそが、この世界を変えていく者なのだ」
ひとしきり撫でた後、黒雪姫はハルユキから少し離れる。
「時が来たようだ...。私も、安穏とした繭から出て、再び空を目指すときが」
ちらり、と視線を後ろに向ける。
離れた場所に座り込むシアン・パイルは、座り込んだまま僅かに目線だけを上げて2人を見ていた。
「貴様にも...済まない事をしたな、シアン・パイル」
黒雪姫が発した言葉は意外な物だった。
「私は貴様との名誉あるべき≪対戦≫を幾度も汚した。今こそ見せよう、私の真の姿を。そして貴様が望むならば、全力で相手をしよう」
さっ、と右手を上げ、仮想コンソールを素早く操作する。
ばちっ。ばちばちっ!!
突然迸った黒い稲妻が、幾重にも妖精姫のアバターを包み込んだ。
慌てて数歩下がったハルユキの目の前で、青紫の光に包まれたシルエットが、少しずつ、少しずつそのフォルムを変えていく。
床近くまであったスカートが一気に短くなり、鋭いぎざぎざに分割される。
両手足がぴしっと完全な直線を作り、先端が針のように収斂する。
長い髪は光に溶けて消え、かわりに翼を後ろに伸ばした猛禽のような形のマスクが出現し――最後に一際激しい雷閃が屹立して、全てのエフェクトが消滅した。
その場に立っていたのは、黒水晶を削りだしたかのような、美しい、途方もなく美しいひとつのデュエルアバターだった。
全体のフォルムはシルバー・クロウにどこか似ている。
しかし身長は遥かに高く、170センチ以上あるだろう。直線を主体にしていながら流麗な、透明感のある黒い装甲に包まれたボディは人形のように細く、腰周りを取り囲む黒蓮の花に似たアーマースカートに繋がっている。
そして何よりも特徴的なのはその四肢だった。
両腕も、両脚も、ぞくっとするほど長く、鋭い剣なのだ。
触れるものは即座に両断されそうな、冴え冴えとした輝きを湛えたエッジがステージの微風にかすかに凛、凛と鳴っている。
Vの字を後ろに傾けた形の頭部の、前面は漆黒の鏡のようなゴーグルになっていた。
その内部に、ヴイイン、という震動音とともに2つの青紫色の眼が輝いた。
ハルユキはしばし、魂を抜かれたように立ち尽くした。
離れた場所で、シアン・パイルも同じように絶句する気配が伝わった。
両名ともに、凄絶なまでに美しいその姿と――それ以上に、華奢な漆黒の全身から発せられる底なしのポテンシャルに圧倒されたのだ。
仮に≪対戦≫すれば、自分は数秒と持たずに切り刻まれ、ばらばらの細片となって消滅するだろうとハルユキは確信した。
やがて、ハルユキはどうにかため息にも似た声を胸から押し出した。
「綺麗...です。すごく...綺麗だ...。先輩は前に、醜悪だなんて言ってたけど...とんでもないです...」
「ん...、そうかな...」
発せられた声だけは、元の黒雪姫のままだった。
「誰かと繋ぐための手すらないのに...」
その言葉は、最後まで続くことはなかった。
どおおおおっ!
突然周囲の建物から、凄まじい音量の驚声が一度に湧き起こったのだ。
「う、うおおー!おおおおおーっ!?」
「あれは...あのデュエルアバターは...!!」
「≪ブラック・ロータス≫!!≪黒の王≫だ!!健在だったんだ――ッ!!」
ギャラリー達の叫び声は、飛翔するシルバー・クロウを見たときのそれよりも明らかに倍以上のボリュームだった。
黒雪姫はちらりと周囲を見渡し、軽く肩をすくめると言った。
「さてと...シルバー・クロウ。私を連れて飛べるかな?」
いかにポテンシャルが高かろうとも、実際の重量がシアン・パイル以上ということはあるまい。
しかし、連れて、と言ってもどうすれば...。
途惑うハルユキの目の前で、かすかな震動音とともにホバー移動してきた黒雪姫は、何気ない仕草で体の右側面を向けると両腕を持ち上げ、腰を落とした。
まるで、所謂≪お姫様抱っこ≫を促すかのように。
えーっ、と思うが、幾らなんでも走って逃げる事は出来ない。
銀ヘルメットの表面にだらだらと汗が――伝う錯覚に見舞われながら、ハルユキはぎこちなく両腕を差し出し、黒雪姫の背中と腰にあてがった。
「宜しく頼む」
どこか楽しそうな口調で言うと、黒雪姫はすとんとハルユキの両腕に体を預けてきた。
気のせいか座り込むタクムの、かすかに矢啜するような視線を浴びながら、意を決して黒水晶のアバターを抱え上げる。
幸い、やはり重量はさほどでもなく、ハルユキは背中のフィンを強く震動させると片足で床を蹴った。
ぎゅうっ!と、少し控えめに加速し空を目指す。
腕の中の黒雪姫は、背と首を伸ばすように眼下の街並みを見渡しながら、囁き声で叫んだ。
「これは...凄いな!病み付きになりそうだ...今度直結対戦して、30分たっぷり飛んで欲しいな...おっと、このへんでいい」
「はい」
頷き、ハルユキはホバリングに移行した。
高度はさほどでもない。
下方には、建物の屋上で尚もざわめきながらこちらを見上げている無数のデュエルアバター達がはっきり見て取れる。
黒雪姫は大きく1度息を吸うと――。
地平線の彼方まで届きそうな、凛と張った声で叫んだ。
「聞け!!」
途端、しんっ、とステージ中が沈黙する。
「聞け、六王のレギオンに連なるバーストリンカー達よ!!我が名はブラック・ロータス!!僭王の支配に抗う者だ!!」
うねる黒雲は身を縮め、吹き過ぎる風さえも息を潜めた。
視界内で動くものは、残り10秒となったタイムカウントだけだった。
静寂の中、高らかな宣言がどこまでも鳴り響いた。
「我と、我がレギオン≪ネガ・ネビュラス≫、今こそ雌伏の網より出でて偽りの平穏を破らん!!剣を取れ!!炎を掲げよ!!戦いの時――来たれり!!」
☆★☆★☆★
黒雪姫が大勢のバーストリンカー達に宣言した後、ハルユキ達は現実世界に帰ってきた。
タクムは近くにあったベンチに腰を下ろし、ハルユキもその隣に腰を下ろす。
「......最初から...、僕も君に相談すれば良かったのかな...」
「今頃気付いたのかよ...、本当にお前は大馬鹿野朗だな...」
「そうだね...」
「そうだ!この後、お前にも兎美達を紹介してやるよ」
「ああ...、仮面ライダービルドの...」
「まあ、会うとしたらあいつに殴られる覚悟しといた方が良いぞ」
「ははは、確かにね...」
「あいつ、お前に会いに行こうとした時に、俺に何かしたらビルドになってぶっ飛ばすとか言ってたからな。多分冗談だと思うけど」
ははは、と笑いながら兎美達とのやり取りを、タクムに教える。
「ハル...、その冗談全然笑えないんだけど...」
タクムはハルユキの言葉に、頬を引き付かせていた。
しばらく他愛のない話をしていると、前方から兎美達が歩いてくるのが見えた。
「無事終わったみたいね」
「ああ、なんとかな」
兎美は俺達の様子を見て、状況を把握していたようだった。
「それで?これからどうするのよ」
「取りあえず、タクと2人でチユリに会いに行くよ。そして何もかも話す」
「そう...分かった」
美空が今後の事を聞いてきて、ハルユキが対戦中にタクムに言った事を、そのまま話す。
「さてと、いつまでもこんな所にいるのもなんだから、家に移動し...」
兎美が移動しようと提案するが、その言葉は突然の乱入者によって阻まれた。
バババン!!
ハルユキ達の近くに弾が当たり、音の出所を目を向けると、そこには大量のガーディアンがいた。
「ガーディアン!なんでこんな所に!?」
ハルユキは突然襲われた事に、声を荒げて驚く。
ベルトをつけて戦おうとするハルユキだったが、後ろからも銃声が聞こえた。
後ろを向いて確認すると、ホークガトリンガーを持った兎美がいた。
「どうよ!私の発・明・品!」
「ホークガトリンガー!?完成してたのか!」
「ええ、そうよ!そしてチユが見つけてくれたこれで戦うわ!」
兎美はベルトを装着した後、タカフルボトルとガトリングフルボトルを取り出す。
「行くわよ!ハル!」
「ああ!」
ハルユキも、ベルトを腰に装着する。
「ギャオー!!」
ベルトを装着すると何処からクローズドラゴンが飛んできた。
「さあ!実験を始めるわよ」
そう言いながら兎美は2本のフルボトルを振り、ベルトに装填する。
『タカ!ガトリング!ベストマッチ!』
ハルユキはドラゴンフルボトルを振ってクローズドラゴンに装填し、ガジェット形態に変形させてスイッチを押す。
『ウェイクアップ!』
音声が鳴った後、ベルトへセットする。
『クローズドラゴン!』
兎美とハルユキはドライバーのレバーを回し、兎美の方にはタカとガトリングのハーフボディが展開され、ハルユキにはドラゴンハーフボディーが前後に展開される。
『Are you Ready?』
『変身!』
2人が叫んだ後、兎美はタカとガトリングのハーフボディが結合して変身が完了し、ハルユキもドラゴンハーフボディが結合し、追加ボディアーマー、ドラゴライブレイザー・フレイムエヴォリューガーが上半身と頭部を覆うことで変身が完了する。
『天空の暴れん坊!ホークガトリング!イエーイ!』
『Wake up burning! Get CROSS-Z DRAGON! Yeah!』
「勝利の法則は決まった!」
「今の俺は負ける気がしない!」
ハルユキ達はガーディアンに向かっていった。
「は...ハルが...、仮面ライダー!?」
タクムは目の前でハルユキが変身した事に、動揺していた。
「そういえばあなたは知らなかったわね。ハルは昨日仮面ライダーに変身できるようになったのよ」
美空がタクムに説明する。
「うむ、やはり何度見てもカッコいいな」
タクムはガーディアンと戦う、クローズを見て呆然としていた。
ハルユキはゲームの中だから強いと思っていたタクムは、現実世界でも同じぐらい強い姿を見て絶句していた。
「あんた、なんでハルがあそこまで強いのか分かる?」
「え?」
タクムはいきなり美空に質問された事に、驚いた。
「ハルがあそこまで強いのは、誰かを思う気持ちがあるからよ」
「誰かを思う...」
「ハルの誰かを思う気持ちが、あそこまで強さを引き出すことが出来るの」
美空の言葉を聞き、もう一度クローズを見ると、殆どのガーディアンを倒し、止めを刺そうとしている2人の姿が映った。
「勝利の法則は決まった!」
ビルドは空高く飛び、リボルバー部分を回転させる。
『ワンハンドレッド!』
技の発動と同時に球状の特殊フィールドが展開される。
『フルバレット!』
「はあ!」
ドッカーン!!
フィールド内に10発の弾丸を撃ち込み、ガーディアンを破壊する。
「はあー!」
クローズはレバーを回して必殺技の体勢に入る。
『Ready go!』
「はあ!」
クローズの背後にクローズドラゴン・ブレイズが出現し、ドラゴンが放つ炎を腕に纏わせ強烈なパンチを叩き込む。
ドッカーン!!
「ふう...」
全てのガーディアンを倒し、ハルユキ達は変身を解除する。
「大丈夫か?タク」
ハルユキはすぐさまタクムに駆け寄り、安否を問う。
「ああ、大丈夫。ありがとう、ハル」
戸惑いつつも、タクムはハルユキの問いに答える。
「さて、いつまでもここにいるのは不味いから移動するわよ」
「ああ」
「そうね」
兎美の提案に、全員が了承する。
だがこの時、近くで自分達の戦いを見ていた者がいることに誰も気がついていなかった。
☆★☆★☆★
ここはハルユキ達がいた場所を、見下ろせる建物の屋上。
「どうだった?あいつらは」
「そうですね、仮面ライダーは少し厄介ですがやり様はありますよ」
そこに居たのは赤いコブラのような装甲を持った仮面ライダーと、ハルユキ達に年が近い少年だった。
「まあ、僕の出番は新学期が始まってからですので、それまでに作戦を練っておけば大丈夫でしょう」
「ほう、随分と自信があるじゃないか」
コブラの仮面ライダーは少年の言葉に笑みを浮かべながら言う。
「ええ、僕に掛かればあんな連中、大したことないですね...。今から楽しみですよ、あいつらの地を這う姿を見るのが」
そう言って少年は怪しい笑みを浮かべながら、その場を離れる。
「ふふふ、そこまで旨く行くのかな?」
仮面ライダーは少年が去っていった方を見ながら笑っていた。
「さあて、私を楽しませてくれよ...。仮面ライダービルド、仮面ライダークローズ」
どうも!ナツ・ドラグニルです!
なんとお気に入りが30件突破しました!
前回の投稿で10件増えました!
お気に入り登録して頂いた方々、ありがとうございます。
作品は如何だったでしょうか?
第1章の間にホークガトリングを入れたかったので最後に入れましたが
無理やり過ぎましたでしょうか
そして最後の2人は早めの登場です。
アクセル・ワールドの原作見てる人は多分分かると思います。
次回はアクア・カレントこと氷見あきらさんの会です。
その話が終わってから第2章に移ります。
どこかでビルドの原作にあった。竜我と美空のデート会をハルユキでやりたいです。
また、2章でみーたんを出せると思います。
では次回、第7話もしくは激獣拳を極めし者15話でお会いしましょう。
またな!
文字数の調度いい長さを教えてください!
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7000~10000 第3章第3話参考
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10000~15000 第2章第8話参考
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15000~20000 第3章第2話参考