変わらないモノはこの世に存在せず、その関係は突如崩れ落ちた。
「また銀髪盗賊団が現れたぞ!」
「くそ、あいつめ…追え!」
「よっアイリス、元気か〜?」
「お兄様······何回騒ぎを起こして周りを混乱させるんですか······あと窓から入らないでください」
「アイリスに会うためなら何だってするさ」
俺はココ最近、銀髪盗賊団として頻繁に城へ訪れていた。
クレアからの評価は回復したとはいえ、あまり城に居座るようではアイリスに悪影響を及ぼしかねないとのことで、偶にしか会うことを許してもらえなかった。
正面から会いに行くのには警備が厳しく早々に諦め、こうして騒ぎに乗じて会うという作戦をとっていた。
今では日課のように何度も行うことに慣れたものだ。
「はぁ、全く······来てくれるのは嬉しいですがそれにしたって······で、今日も話を聞かせてくれるのですか?」
「ああもちろん、城の連中に見つかる前には逃げるがな」
「そこで俺は言ってやったんだ。『平日のこんな時間に同じゲームをやってる以上、俺とお前は敵じゃない。なあ、俺達のギルドに来いよ。あんたの真の仲間はそこに居るから······』ってな。こうして、最強の廃人と名高かったその男は俺達のギルドに移籍し、俺達は名実共に最大手のギルドになった。その後は······まあ色々あってその時のギルドは崩壊しちゃったんだが、それはまた次の機会にな」
「待ってください、次の機会ってまたこんな騒ぎを起こすつもりですか!?あんまり迷惑になることはちょっと・・・・・・」
「しょうがないな、なら話せるだけ話すよ······冒頭だけな。ある日、俺達のギルドに新人が入ってきたんだ。そいつの名は『闇✝︎天使』。たった一人の女の子の加入が、ギルド崩壊の引き金になったのさ」
「待ってください、そんな面白そうな冒頭を話しといて、後はお預けだなんて酷いです!その女の方が何をしたのですか!?教えてくれないと気になって眠れないです!」
「何が起こったかはあんまり詳しく言いたくないんだが・・・・・・。とりあえず一つだけ。『姫』とだけ言っておこうか」
「姫、ですか?・・・・・・まさか、そのお姫様とギルドの方が恋仲になった、とか・・・・・・?」
「よく分かったな。そう、その姫のおかげで大変な事になったのさ」
「なるほど、身分の差というものがありますからね・・・・・・」
「さて。いつの間にかすっかり話し込んじゃったけど、もう大分遅いし誰か来そうだし帰るよ。それじゃまたなっ!」
「あっお兄様!」
照れくささを隠すように、アイリスの返事も聞かずその場を後にする。
出入りに使った窓からはスーッと風が吹き抜け、静寂が部屋を包み込んだ。
「行ってしまいました・・・・・・」
「アイリス様!こちらに銀髪盗賊団の輩が侵入などしておりませんか!?」
「クレア・・・・・・いえ、大丈夫ですよ。誰も来ませんでした」
「そ、それなら良いのですが・・・・・・。おや、また窓を開けてらしたのですか?」
「それはその、換気!そう部屋の換気のためにちょっと開けたのです!もう閉めて平気です」
「わかりました。ですが義賊がいつ現れるかわからないので、あまり頻繁に開けないでください。アイリス様の部屋に侵入を許した日には・・・・・・」
「ふふ、気にしすぎですよ。こちらこそ毎回心配させてしまいごめんなさい」
「そ、そんな、と、とんでもないです!私は当然の事をしてるまでです!では自分はこれで失礼します。おやすみなさい」
「次はいつ来てくれますか?お兄様・・・・・・」
「またあいつだ!逃がすな、捕まえろ!」
「毎度ものを盗みやがって!今日こそ生かして帰さんぞ!」
「元気か〜?アイリス」
「今日もですか······まぁいいです。今日も話をしに来てくれたのですか?」
「あー、いや今日はお別れを言いに来たんだ」
「······えっ······?」
俺の言葉に信じられないものを見るような目をして驚くアイリス。
まだ事態が飲み込めないのか、固まったまま動かないのを他所に俺は続ける。
「さすがにそろそろ捕まりそうでな。それにこう何日も夜を空けると仲間にも心配かけるし、王都にもあんま長居してられないからな」
「······嫌です」
「い、嫌ですって言われても。大丈夫だってまたいつか会えるさ」
「嫌です。いつも少ししか会えなくて、少ししか話せなくて。でもその時間は凄く充実していて楽しかったんです······」
そこまで捲し立てて、シュンと俯いて身を縮こませたアイリス。
王族として育てられてきた少女は、こんなふうに自分と対等に会話が出来る相手などいなかったのだろう。
身近な所ではクレアとレインだが、その二人もあくまで護衛などの立場や年齢的な面でも気を使ってしまうのだ。
「アイリス、お前はまだ12歳なんだからもっと甘えていいんだぞ。王族だからこうしなきゃとか、そう思う志は立派だけど、少しくらいワガママを言ったところで誰も文句は言わないさ」
「お兄様、そんなに私を甘やかさないでください。これ以上優しくされると、本当にワガママを言ってしまいそうです······私は一国の王女で、民を守る義務があるのに」
「俺で良ければ何だって聞いてやるぞ。しばらく会えなくなるんだし、こういう時こそ言いたいことがあるなら言わなきゃ、な?」
ここで男の甲斐性を見せなくてどうする。
せっかく今まさに、アイリスが自らの殻を破ろうとしてるんだ。なら最も近くにいる自分が手助けをしてやるってのが道理ってもんだ。
アイリスはしばらく俯いたまま考えると、子供みたいに感情を爆発させる。
その姿はまさしく、年相応の純粋な少女。
「······もっと私に色んな事を教えてください!もう離れたくない······私を置いていかないでください!」
じっとこちらを見つめ、俺の答えを待つ。
アイリスが言ったおそらく人生で初めてのワガママ。不安で一杯なはずなのに勇気を出して言ってくれたのだから、俺が迷うわけにはいかない。
「そっか。なら俺はもう何も言わない。今の俺は盗賊だ、だから言うなれば───
俺に攫われてもらえますか?王女様」
そうして手を差し伸べた俺に対し、アイリスは小さな体で遠慮がちにくっついてくる。
おそるおそるといった感じで少しずつ、しがみつく手に力が込もる。
ほんの少しだけ目の端に涙を溜めると、楽しそうに微笑み言った。
「お願いします。私の心を盗んだ責任、最後まで取ってくださいよ?」
「······有難く、頂戴致します。ってな。
前にも言ったが、こんな時はこう言うんだ。実はあれ、銀髪盗賊団のお頭の口癖でな」
意外とイタズラ好きなあの女神様の言葉になぞらえて。
陽気なお頭の顔を思い出しながら、天まで届けと声高に。
「いってみよう!」
「はいっ!お兄様······いえ───
お兄ちゃん、大好きです······!」