魔法少女リリカルなのはACE   作:コエンマ

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第十話であります。

遅れて申し訳ありません。

それではどうぞ!


第十話  激突する想い(前編) ~ 覚悟と信念

 『引けないね。ここだけは!!』

 

 ――――麦わら海賊団船長 “麦わら” モンキー・D・ルフィ

 

 

 

 -Side Nanoha Takamachi-

 

 

 

 魔力の波が、街を覆うようにして展開されていく。この感じ、たぶんユーノくんの結界魔法だ。街中であるからか、かなり大きく空間を切り取ったらしい。

 

(なのは、発動したジュエルシードが見える?)

 

(うん、すぐ近くだよ)

 

 灰色になった街並みとそれを覆い尽くすような黒色の空に一筋、上空へ真っ直ぐ伸びる青白い光が見えた。幾度となく目にしてきた、ジュエルシードの魔力光だ。それが、私から少し離れた場所で立ち昇っていた。

 

(あの子達が近くにいるんだ、あの子達より先に封印して!)

 

(わかった!)

 

 ユーノくんの切羽詰った声に、私は強く頷いて応える。同時にレイジングハートをシーリングフォームへと変形させる。そして対象を捕らえるべく、桃色の光が一直線に飛んだ。

 

 だが、それは相手も同じ。高いビルの上からお馴染みの金色の魔力光が放たれ、ほぼ同時に目標へと命中した。力場の中間点で衝突した光は、まるで綱引きをするがごとくジュエルシードを捕らえて離さない。それを見た私は、意識を切り替えて次の段階に移行した。

 

「リリカル、マジカル!」

 

「ジュエルシード、シリアルXX IX!」

 

 間髪いれず、フェイトちゃんの方も同じ呪文を唱えてくる。こちらの思い通りにはさせてやることは同じだが、目標は一つしかないためにお互いの力が鬩ぎ合う。そして両者とも力を込めながら、強い口調で同時に呪文を締めくくった。

 

「「封―――印ッ!!」」

 

 各々のデバイスから、遠距離封印魔法が放たれる。魔力光が混ぜこぜになってぶつかり、私はほとんど力任せに魔法が打ち込んでいた。二人分の封印魔法を受けたジュエルシードが力を治め、淡い光へと変わった。

 

「やった! なのは、早く確保を!」

 

 近寄ってきたユーノくんが急かすように促す。だが、同時に鋭い声が響き渡った。

 

「そうはさせるかい!」

 

 ユーノくんの言葉を遮るように聞こえたその声は、ジュエルシードが浮遊する真上からだった。ハッとして上空を見やると、フェイトちゃんの使い魔であるアルフさんが狼になり、此方に向かって一直線に飛び込んできていた。いきなりのことに動きがとれず、私は反射的に腕を翳して目を瞑る。

 

 だが、その牙が私に届くことはなかった。

 

「〝炎武(えんぶ)〟―――………〝焼底(しょうてい)〟!!」

 

「何っ……がぁっ!?」

 

 打撃音が木霊する。見ると、ばっと現れた影の一撃が狼形態のアルフさんの横っ腹に炸裂していた。ゆうに二メートルはあるその巨体を吹き飛ばしたことに、私は目を見張る。しかし彼女もかなりのもので、攻撃を受けながらも体勢を立て直し、コンクリートを爪を立てて止まった。

 

「何とか間に合ったな」

 

 同時に、影が目の前に音を立てて降り立った。特徴的な黒髪が街路灯の光を浴びて露になる。それを見とめた瞬間、私は反射的に叫んでいた。

 

「エースくん!」

 

「ぐ……またアンタかい!」 

 

 忌々しげに呻く声を聞いて、私はそちらに目をやる。街頭の光が逆光となり眩しく目を焼くなか、果たしてそこにエースくんはいた。私とアルフさんの間をちょうど阻むようにして佇んでいる。

 

「奇襲したほうが不意打ち受けるたァ、相変わらず詰めが甘いな嬢ちゃん。そう簡単にさせねェのはこっちも同じだ」

 

 ニヤリと笑い、エースくんが構えを取る。相変わらず頼もしいな、ホントに。彼やユーノくんがいるだけで、力が湧いて来る。前を向こうって思える。

 

 だから伝えなくちゃ。私が思ってることを、言葉にして。フェイトちゃんに届くように。目的がある同士だから、ぶつかり合うのは仕方ないのかもしれない。けど、

 

「こないだは自己紹介できなかったけど……私、なのは。高町なのは。私立聖祥大付属小学校三年生!」

 

 私の言葉に、フェイトちゃんは無言でデバイスを構えるだけ。慌てて此方も構えながら、私の胸はちくりと痛んだ。語らない彼女に聞きたいこと。今頭に浮かぶただ一つのことを、私は求める。

 どうして……どうして、そんなに寂しい目をしているのかという事を。

 

 

 

 -Side out-

 

 

 

「一撃目はサービスだ。急所外して力も抜いといてやったから立てるはずだぜ。けど次に向かってくるなら……容赦はしねェ」

 

 挑発するように言いながら、エースはニヤリと笑う。その顔は、少しだけ以前の表情に戻っていた。即ち、〝海賊〟が〝敵〟と戦う時のそれだ。少年の笑みの中に、鋭い刃のような光が垣間見える。

 

 アルフはそれに一瞬気圧されたが、グルルと唸り声を上げて気を張る。そして、動物形態のままエースに向かって吠え掛かった。

 

「……上等じゃないか、相手になってやるよ!」

 

 歯軋りしながら睨みつけた彼女、いや、狼が一直線に飛び込んでくる。その突進力はなかなかのものだった。

 

 だが、エースはそれを身体を傾けて回避する。受け止めても問題はないが、それでは勝負が一瞬で決まってしまうので面白くなかった。今の自分の役目はこの相手を倒すことではなく、引き付けておくことだからだ。

 

(なのは、この嬢ちゃんはおれが何とかする。今のうちにお前はお前のやりたいことをやれ!)

 

 エースは、離れた場所にいるなのはに向かって念話を飛ばした。狼の牙と爪をかわしながら、ついでに視線を一瞬流す。

 

 目が合った。なのはからの声は返ってこない。だが、彼女は一瞬だけ口元を緩め、こちらに向けて笑う。それが答えだった。

 

(十分だ)

 

 エースの口元に笑みが浮かんだ。素人だと、まだまだ子供だと思っていたが、なかなかどうして骨がある。少し抜けている辺りルフィとそっくりで、エースは笑ってしまった。おっと、ルフィの方は少しじゃなかったっけな。

 

 まぁ、ともかく今は自分の役目を果たさなければならない。とりあえずは……、

 

「嬢ちゃんにはもうしばらく、おれの相手でいてもらうぜ」

 

「嬢ちゃんって呼ぶな! その減らず口ごと噛み切ってやる!」

 

 ブォンという音と共に、身体を反らしたエースの脇を巨体が通り過ぎていった。ギラリと光る牙をやり過ごし、空気を裂くように迫る鍵爪をいなす。

 

 しかしまだまだ年齢相応の、力任せの動きだった。動物系(ゾオン)の能力者が初期に陥りやすい、能力による恩恵にかまけた典型的なパワータイプの戦い方だ。しかも獣人型、人型、獣型と三段階の変身を使いこなす能力者に比べて対処がし易く、たまに放ってくる魔力弾以外は特殊な能力もなにもないため、軌道や戦法も格段に読みやすい。

 

 詰まるところ、エースの敵ではなかった。

 

 

 

【フェイトちゃん!】

 

 

 

「ん?」

 

 唐突に上空から声が響いた。エースとアルフが、それに反応して距離を取る。上を見上げると、お互いにデバイスを構えたまま、なのはとフェイトが相対していた。

 

【話し合うだけじゃ……言葉だけじゃ何も変わらないって言ってたけど……だけど話さないと、言葉にしないと伝わらないものもきっとあるよ!】

 

 フェイトに向かってなのはが叫ぶ。強い意志を宿す瞳が、まっすぐにフェイトを捉えていた。言葉を選ぶように時に間を挟みながら、自分の本心を彼女へとぶつけていく。

 

【ぶつかり合ったり、競い合うことになるのは、それは仕方ないのかもしれないけど……だけど、何もわからないままぶつかり合うのは、私、嫌だ!】

 

 叩きつけられるような言葉に、フェイトの肩が震えた。なのはは自分の目的や動機、そして現在自分を支える気持ちをただまっすぐに紡いでいった。

 

【最初はユーノくんのお手伝いだった。けど、今は違う。ユーノくんといろいろしてきて、エースくんに出会って、私はジュエルシードを集めるって自分で決めたんだ! この街や住んでる人達を、危ない目に遭わせたくないから! これが、私の理由!】

 

 言葉を切り、なのははフェイトを強い視線で見つめた。それと呼応するように彼女の瞳が揺れる。凝り固まっていた心に迷いが生まれているのだろう。

 

 だがそれを遮るように、エースの横合いから怒声が響いた。

 

「あの子、また性懲りもなく……! フェイト、答えなくていい! 優しくしてくれる人たちのトコで、ぬくぬく甘ったれて暮らしてるようなガキンちょになんか、何も教えなくていい! あたしたちの優先事項はジュエルシードの捕獲だよ!」

 

 驚いて、エースは視線を戻す。声の主はアルフだった。おそらく今の問答に不都合を感じ取ったのだろう、あからさまな敵意がなのはへと向けられる。

 

 なのはが目を見開いてショックを受ける中、彼女は構わず否定の声を上げ続けていた。

 

「弱い癖に……何も考えてないようなガキが、口先だけでえらそうに言うな! アンタなんかにフェイト何がわか……があっ!?」

 

 だが、言葉は唐突に途切れた。鈍い衝撃が空気中を走り、ほぼ同時に耳に轟音が響き渡る。驚いたフェイト達が視線を向けると、つい一瞬前まで口を開いていたアルフの体が、壁をズルズルと滑って地面に横たわったところだった。

 

 エースが正眼に拳を戻す。どうやら、今彼女を吹き飛ばしたのは彼のようだ。構えを解きつつ、エースは静かに口を開いた。

 

「それはこっちの台詞だ。せっかくアイツらの舞台が出来てんだ、外野から野次を飛ばすのはいただけねェな。次に横槍入れたら本気で潰すぞ」

 

 強い怒気を孕んだ声が静かに響いた。台詞は紛れもなく、倒れ伏す彼女に向けられている。近くにいたユーノは、エースから放たれる殺気に毛並みを震わせて一歩後ずさった。

 

 見ると、アルフがぶち当たったと思われるコンクリートの壁に、クレーターばりの窪みが出現している。中心部は見事に砕けており、粉々というに相応しいほどの破壊具合だった。いったいどれほどの速度で穿たれたというのだろうか。

 

「狼の嬢ちゃん。アンタはなのはをただの甘ったれっつったけどな、アンタがそれを言うのはちっと違うんじゃねェか? そもそも、おれもなのはも神や仏じゃねェんだ、何も話さねェで分かってくれなんて無理に決まってんだろうが」

 

「何、を………!」

 

 その声に、アルフが体を無理矢理起こして、目の前のエースのを見た。何か言い返したいのだろうが、殴られたダメージが予想外に大きかったためか、聞こえるのは口から洩れる呻き声だけ。膝も明確に見て取れるぐらいに笑っていた。

 

 しかしそれでも立ち上がろうとするのは、彼女のなかの何かがそうさせるのだろう。そんな相手を見下ろしながら、エースはしっかりとした声で言葉を紡ぎ始める。

 

「まだなのははこの世界に足を踏み入れて日が浅い。今まで平和の中で暮らしてきたんだ、確かに甘ったれな部分もあるだろうよ。けど、〝今〟この場にすべてを懸けて、気持ちも力も自分の精一杯でお前らに挑んでる。何度も正面きってぶつかって負け続けて、それでも砕けねェのは紛れもない〝強さ〟だと俺は思うぜ?」

 

 なのはがはっとしたようにこちらを見た。それに僅かな微笑を返しつつ、エースは続きを口にしていく。

 

「お前らの目的は知らねェ、何考えてるのかもわからねェ。けど人間なら、大なり小なり何かしら背負ってるだろ。その重さは本人にしかわからねェから、赤の他人が簡単に断じていいことじゃねェ。人一人の〝覚悟〟も受け止めようとしねェ奴が、したり顔で言い腐っていい事じゃねェ!」

 

 聞こえる声は紛れもなく幼い子供のもの。口にしているのも齢(よわい)十ほどの姿をした少年。だが、その中に内包された思いの強さは、ずっと戦い続けてきた者だけが持つ老練さを含み、彼の姿を何倍にも大きく見せていた。

 

「戦う者に必要なのは〝覚悟〟と〝信念〟だ。相手を退けて我を押し通したいのなら、自分の〝信念〟ぐらい堂々と掲げて見せろ。おれはなのはが諦めない限り支える。恩人として、友達として…………何があってもなのはだけは守るって、アイツらと約束したんだ」

 

 鋭く飛んだ視線に射抜かれる。アルフはエースから目を逸らせなかった。彼の瞳が見たこともないほど澄んだ、途方もなく強い思いを感じさせるものだったから。

 

「一度掲げた〝信念〟は絶対に曲げねェ! 退けたいのなら、それごと打ち砕いてみせろ!

 おれの名はポートガス・ D ・エース――――海賊だ!」

 

 上空にたゆたう二人に目をやり、エースは叫んだ。遠く離れているはずだが、まるで近くから声が聞こえているようにその声は二人の耳に届いていた。

 

「海……賊……?」

 

 なのはが呆然として、エースを見下ろしている。ユーノも目を見開いていたが、どこか合点がいったような表情でもあった。

 

 フェイトはなのはと同じようなものだったが、はっと気を取り戻すと、ジュエルシードへと急速接近していった。なのはが呆けていたのをチャンスと取ったらしい。

 

「あっ!? くっ!」

 

 僅かに遅れて、なのはも慌てて急降下する。風が頬を強く打つが、かまわず最高速度で突っ走る。そして、二人は宙に漂うジュエルシードに向かって同時にデバイスをぶつけた。その瞬間、

 

 

 

 

 

 ―――――ドクン。

 

 

 

 

 

 音が消え、光が弾けた。

 

 

 

 ――――TO BE CONTINUED...

 

 

 




第十話でした。

さて、オリジナルの技の説明をば。



炎武(えんぶ) - 焼底(しょうてい)
 炎を纏った掌底。物理ダメージと炎のダメージを相手に与える。通常でもかなりの威力だが、インパクトの瞬間に炎を爆発させることで、破壊力を飛躍的に高めることも可能。その際は、分厚いコンクリートの壁すらも易々と粉砕する。





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