魔法少女リリカルなのはACE   作:コエンマ

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約二ヵ月半ぶりの更新となります。

忙しい、忙しすぎるよ・・・誰か代わってくださぃぃいいい!

ってなわけで、第十五話です。どうぞ・・・・・くすん。


第十五話  潜入Ⅱ ~ 母の定義

『口先だけでも親になりたい。あいつら………私の子でしょ?』

 

 ―――元海軍兵士 ベルメール

 

 

 

 けたたましい轟音を響かせて、頑丈な扉が跡形もなく吹き飛んだ。鉄屑同然となったそれらが、鈍い音を立てながら地面に落下していく。壁もあわせて崩壊し、大量の土煙を撒き散らした。

 

「な、何事!?」

 

 今まさに鞭を振り下ろそうとしていたプレシアが、いきなりの事態に叫びを上げた。その顔からは、久しく余裕がなくなっている。鞭を握った手は、高く掲げた状態で停止していた。

 

「一体な―――くぅっ!?」

 

 と、煙の中から炎弾が放たれ、彼女の鞭を直撃する。腕に走った衝撃と熱に、プレシアは慌てて手を離した。彼女が体勢を立て直す間に、炎弾はさらに数を連ねる。いくつかがフェイトを縛っていた戒めを撃ち抜き、その身体を横たえさせた。

 

 硬い音と鈍い音が半々に響く。それを待っていたかのように、アルフが倒れたフェイトに駆け寄った。

 

「フェイト! フェイトッ! しっかりしておくれ!」

 

「アル……フ?」

 

 抱き上げられた感触に開かれたフェイトの目が、驚愕の一色に染まった。しかしほどなくして、それは疑問へと変わる。浅く呼吸を繰り返し、息を整えながら自らが使い魔に目を向けた。

 

「どう……して………」

 

「それは………」

 

 答えにくいと言うようにアルフの眉が寄せられる。その彼女の後ろからエースがゆっくりと進み出てきた。

 

「大丈夫か? っと、大丈夫じゃねェから倒れてるんだったな」

 

「あ、あなたは………白い子、の……」

 

「おう、ポートガス・ D ・エースだ。今は翠屋のアルバイターだが、しがない海賊をやってる。好きな数は1番だ。以後よろしく」

 

 再び笑顔で自己紹介をするエース。その表情は爽やかそのものだった。というか、言わなくてもいい肩書きもつけているあたり律儀な男である。

 

「あ、あなたがどうしてここにいるの……? ……ふぁ、え、あれ……? 昨日はあんなに怪我してたのに………あ、あれ!?」

 

「おーおー、混乱してんな。ともかく、立て込んでるトコ失礼するぜ。昨日ぶりってとこか、フェイトの嬢ちゃん。とりあえず今は動くなよ? 傷に障るからな」

 

 寝てろよ、と起きようとしたフェイトを制し、怪我の具合を確認していく。傍にいたアルフも一緒になり、心配げな表情で自らの主を見つめている。

 

 対して、いきなりの事態に動揺していたプレシアは徐徐に落ち着きを取り戻していた。突如乱入してきたエース、そしてフェイト達を見比べる。

 

「………フェイト、これはどういうことかしら………ここには誰も近づけないでと、母さんはあれほど言ったはずよ……? それだけは絶対、破ることは許さないとも………その私の言いつけを、貴女は破ったの……?」

 

 表情は邪悪にして無機質。眉はつり上がり、その瞳には攻撃的な光が浮かんでいる。フェイトは彼女の詰問に弱弱しく首を振った。

 

「え……ち、違い、ます……わ、私、そんなこと、して、ません………」

 

「していない? それはありえないわ。それが本当なのならば、こんなことになるはずがないもの」

 

 娘の言葉を端から信用していないかのように、プレシアは冷徹に断定した。フェイトを看ていたエースの瞳に鋭い光がよぎる。

 

「フェイト、嘘はいけないわ。それにさっき言ったばかりでしょう、母さんを失望させないようにと………いったいどれだけ私の期待を裏切れば「うるせェ取り込み中だ! 外野は黙って待っていやがれ!」なっ………!?」

 

 焦れたエースが一喝を飛ばした。絶句するプレシアに再び背を向け、フェイトの様子を注意深く見続ける。そして、深刻なものがないことを確認すると、エースは立ち上がって二人を守るように背を向けた。

 

 フェイトがその後姿へ問いかける。

 

「どうして、私を………?」

 

「さァな………ま、色々言いてェことはあるだろうが、ともかくこれじゃ話もできねェ。後で説明してやっから、今は黙ってそこにいろよ。コイツはおれが適当にぶっ飛ばしてといてやるから」

 

 エースが安心させるように横目でにっと笑う。しかしその意図とは裏腹に、フェイトの顔はさっと青くなった。

 

「だ、だめ………あなた、殺され、ちゃう……! 逃げ、て………」

 

「フ、フェイト!? 動いちゃダメだって!」

 

 アルフの制止を無視して、エースのズボンの裾を掴んだ。必死に首を振るその目には、ハッキリとした恐怖が浮かんでいるのが見える。自分に降りかかるものではない、エースが死ぬということを、フェイトは無意識下で恐れているようだった。

 

 エースの口元から鈍い音が響く。

 

「私の事、は、いい、から………早く……お願いだから、逃げ「あーッ、うるせェ!」っ!?」

 

 なおも言い縋ろうとしたフェイトをエースは思い切り怒鳴りつけた。その大声量に身を竦めた本人は、怒られた理由が分かっていないようにその表情を震わせる。若干イライラした様子で、エースはその深紅の瞳を覗き込んだ。

 

「ったく、人の言うことに母娘(おやこ)揃っていちいちケチつけやがって! そっちの都合なんざ誰も聞いてねェよ! 俺がそうしたいんだ、それを逃げるもクソもあるか! 後の事は好きにすりゃいいが、今は黙っておれに助けられろ! いいな!」

 

「……は……は、い……」

 

「よし!」

 

 詰め寄られての半ば勢いまがいの口上に、戸惑いつつも同意するフェイト。それを確認すると、エースは力いっぱい頷いた。屈んでいた腰を立ち上げ、再びプレシアに向き直る。

 

「―――っつうわけだ。コイツらに手ェ出すな」

 

「………どうやら本当に母さんを裏切っていたようね。母さんを困らせてばかり……どうしようもない子………」

 

 プレシアの目が冷たく細められ、フェイトがビクッと震える。そして睨みつけるエースに目をやると、リカバリーした杖を取り出して口を開いた。

 

「―――【バインド】」

 

「うぐッ!?」

 

「あぅっ!?」

 

「なっ、お前ら!」

 

 じゃらんという金属音がくぐもった呻き声と悲鳴に重奏する。エースが後ろを振り向くと、同じく光を放つ鎖によって拘束されたフェイトが宙吊りになっていた。その隣には、同じく雁字搦めにされたアルフの姿もある。

 

「どういうつもりだ! お前の相手はおれのはずだろ!」

 

「うるさい、貴方の意見なんて聞いてないのよ。これは罰なの。私の望むことを実現できなかったこの子にとってのね」

 

 プレシアが蔑むように言うと、フェイト達の周囲に魔法陣が展開された。そのすべてから、バチバチと紫の火花を散っている。凄惨な笑みを浮かべるプレシアに二人は身を震わせた。

 

「何でこんなことすんだ! てめェは母ちゃんだろうが!」

 

「だからこそ、よ。出来損ないには、よりたくさんの〝教育〟をしなければならないでしょう? これはその一環、前から必要だとは思っていたし、丁度いい機会だわ。ああ、失敗をカバーできない出来損ないの使い魔も一緒に躾けることにしましょうか。貴方はそのあとで消してあげる」

 

 再びその手に鞭が握られた。しかし、今度は無数の棘が張り出ている。あんなもので打ち据えられれば、みみず腫れどころでは済まないだろう。

 

 それが振り上げられる。口元に笑みすら浮かべた女によって、震える少女へと風を切って迫る。

 

 その瞬間、エースの中で何かがキレた。

 

 

【――――やめろっつってんだろうがァ!!】

 

 

 

 ゴォオオオオオオオオオオッ!!!!

 

 

 

 瞬間、三人の間を何かが駆け抜けた。風のように軽やかに、岩のような重圧を持った、強く心を揺さぶる強烈な何かが。

 

「「「っ!?」」」

 

 プレシアが身体へ叩きつけられた『それ』に、思わず鞭の手を止めた。同時にフェイトとアルフを縛っていた光も消失する。対する二人は身体に走った衝撃に目を見開き、

 

「あ――――……」

 

「え――――……?」

 

 一瞬後、糸が切れたように崩れ落ちた。どさりという鈍い音のあと、一瞬の静寂が大広間を支配する。それを破るように、虚を突かれたような声がエースの左手首から響いた。

 

『こ、これは、【覇王色の覇気】!? マスター……!?』

 

「い、いや、おれは出そうとしてねェぞ!?」

 

 慌てているのはエールの主人も同じだ。何が起こったのか分からない、いや分かっているが理解できないとでも言うような、予想外の事態に戸惑っているように見える。

 

「どうなってんだ……〝覇気〟が勝手に出るなんて……まさか、コントロールできてねェのか………?」

 

 柄にもなく呆然とした様子で、エースは自分の両掌、そして倒れたフェイト達をを見つめる。エースの心中と同じ意見が、エールからも飛んだ。

 

『もしかすると、精神と肉体に差異が出てしまったことによる弊害ではないでしょうか。ピストルに砲弾が詰め込めないように、心に潜在している力がいくら巨大でも、身体が未熟になってしまったばかりでは引き出せる量にも限界がある、と……現に今の覇気は子供の頃のレベルでしたし、発動した理由も怒りに呼応したからのようです。この分だと、覇王色以外も似たり寄ったりかもしれませんね………』

 

 参りました、と少々困り声のエール。一方のエースは、自分の中で大体予想がつきながらも、一縷の願いを託してエールに向かって問いかけた。

 

「………つまりアレか? ちっこくなった身体じゃ、前みたいな覇気は引き出せねェ、と……ってことは……」

 

『以前のように地道な訓練を重ねて、徐徐に引き出せる量を増やしていく他ないでしょう。しかし、マスターならその身体でも数年ほどで元に戻せますよ。一度は自由に使いこなしていたんですからね』

 

「な、何てこった………」

 

 予想通りだったとはいえ、エースは脱力感から内心頭を抱えた。覇気が満足に使えないというのはかなりショックだった。実力的に見ても、相当のパワーダウンだと言えるだろう。

 

 いくら強大だろうと、制御できない力など何の役にも立たない。上手くいけばそれでいいだろうが、今のように暴発してしまうなんてことになれば何も力を持たないことよりよほど厄介である。

 

(ったく、本当に次から次へとややこしくなりがって………まァ、ここに悪魔の実の能力者なんていなさそうだからな。その分は気楽に構えられる。今は考えても仕方ねェや)

 

 自分の中でなんとか結論づけをし、気持ちを落ち着ける。元々が軽い性格のため、プレシアへと再び目をやる頃には既にいつもの彼に戻っていた。気絶したフェイトを背にして、プレシアの前に進み出る。

 

「へっ、フェイトの母ちゃんだからって容赦はしねェぞ。無抵抗のガキにあそこまでやった罪は重い。一度痛ェ目見せてやっから、きっちり反省するんだぜ?」

 

 色々と思うところはあったが、とりあえず本題に取り掛かることにしたようだ。対する彼女もエースの視線に気を取り戻し、杖を構えた。

 

「くっ、妙な力を………子供が調子に乗るんじゃないわ!!」

 

 素早く杖が振られる。その先から、紫色の稲妻がエースに向かって襲い掛かった。

 

「っとぉ!」

 

 身体を捻って真横へと飛ぶ。言葉に嘘はないようだ、紛れもなく相手を倒す目的できている。なのは達のような敵の〝無力化〟ではなく、相手を消し去る〝排除〟。久々となる命の取り合い、この世界に来てから初めてといえるだろう。

 

 普通なら認められず、戸惑う。だが、エースにはそんな気持ちもその理由も、とうに存在していなかった。

 

(悪ィが、こっちはそれが普通なんだよ!)

 

 生きることに常に命を張る。そうやってずっと生きてきた。だから、エースは戦うことを躊躇わない。生きることとは、即ち戦うことだと知っているからだ。

 

「〝火銃(ヒガン)〟、連装!!」

 

 鞭のようにしなった稲妻を、機関銃のごとき連射で撃ち払う。その隙を突くように、背後から二本迫る雷。視界に捉え、振り向きながら腕で円を描いた。

 

「〝炎鏡(えんきょう)〟!!」

 

 追いすがるそれらを炎の盾で弾く。目標から逸れ、後ろの壁にぶち当たった雷が分厚い石壁を抉り取った。ガラガラと砕けた欠片が床に転がる。半分は溶け落ちてしまったようだ。

 

 思ったより力が込められていることにエースは驚いた。どうやら、フェイトの母というのは伊達ではないらしい。実力的にも彼女より上と見ていいだろう。

 

 思わずニヤリと笑みが零れる。

 

「この、ちょこまかと………いい加減に落ちなさい!!」

 

 プレシアは憤りを乗せて、杖で床を叩き突いた。同時に魔法陣が出現し、いくつもの雷が刃の形を取ってエースに迫る。

 

「へェ、やるな。それじゃ、こっちも……乱火(らんか)、〝火鼠(ひねずみ)〟!!」

 

 轟音が響き渡った。地を這ってきた稲妻を同じく地を駆ける炎で相殺する。電子と熱、相容れない二つの要素がぶつかり、その場に煙と爆風が散乱した。

 

 視界が一瞬ホワイトアウトした。不意打ちを受けてはたまらないと、エースは急いでその圏外へ飛び退る。だが、その先に杖を高らかに掲げたまま笑うプレシアの姿があった。

 

「終わりよ」

 

 上方から降り注いだ稲妻が、エースを直撃した。今までで最大級の雷が多量の光と音を伴い、周りのものを吹き飛ばしていく。煙を立ち上らせた広間の中心には、直径数メートルはあろうかという巨大な穴を空いていた。

 

「あなたが悪いのよ? こんなところまで来てしまうから」

 

 プレシアが穴を見下ろす。その顔には何の感情も浮かんでいない。氷のような、いや、機械じみた表情だった。

 風が落ち着き、煙が徐徐に晴れていく。今度はフェイト達の番だと、彼女は無言で背を向け歩き出そうとした。

 

 ガラ…………

 

 無くなったはずの音が響いた。瓦礫が転がされるような、心を鷲掴みされたような鈍い音。耳朶に響いたそれにプレシアは足を止め、ゆっくりと振り向いた。

 

 驚きを、隠す事はできなかった。

 

「なっ………どうして!?」

 

 深さ三十センチほどの穴の中心には、エースが立っていた。それだけなら、何も驚く事はない。別に彼の身体にも態度にも変化は見られない。 

 

 おかしいところはどこにもなかった。あれほどの雷をまともに受けた彼の身体に、傷が一つとしてないという異常な事象を除いて。

 

「――――そんな(もの)が、(おれ)に効くか」

 

 子供だとは思えない、威圧感漂う声を放ち、エースは視線を此方に向けた。彼の目の中には、うろたえた様子のプレシア(じぶん)が映っている。映りこんだ自分の顔は、自身でも見たことのない表情をしていた。

 

 不意に、その口元に笑みが浮かぶ。瞬間、風を切って接近したエースに、完全に懐へと入られていた。

 

「っ! しまっ……!?」

 

 慌てて迎撃体勢を取るプレシア。だが、その時はすでに遅い。強く握り締められたエースの右拳は唸りを上げ、

 

「――――〝火拳〟ッ!!」

 

 裂帛の気合とともに振り抜かれた後であった。

 

「あ、ぐッ、あぁぁあああッ!!?」

 

 轟音に掻き消され悲鳴を聞く者はいない。プレシアは炎化したエースの拳を受け、火炎の奔流もろとも大きく吹き飛ばされた。

 

 壁をぶち抜き、暗闇の中へと消える。その後を追い、部屋へと飛び込んだエースは、奇妙な光景に足を止めた。

 

「なんだ? この部屋は……」

 

 暗く閉じられ、窓一つない部屋。閉じ込められていた湿った空気が、外へ向かって流れ出している。部屋というよりも廊下のようなその両側には、蔦が巻きついた柱が所狭しと立ち並んでいる。

 

「こりゃ、研究室か……?」 

 

 独り言を呟き、周りに目をやりながら歩いていく。その先僅かな光が見えた。暗さだけを放出するこの空間でただ一箇所、光で満たされた場所をエースは見つけた。見つけて、しまったのだ。

 

 この場所に、時の庭園に存在する唯一の光を。光の中、静かに眠る〝彼女〟の姿を。

 

「っ………こいつは……!?」

 

 目に映ったものにエースは言葉を失う。呆然、という言葉を体現するが如く、目の前の光景に意識を完全に取られた。それ以外何も考えられないほどに。

 

 どうなってるとか、どうしてとか、そういった曖昧な問いかけや疑問が駆け巡り、頭の中をゴチャゴチャに掻き回していく。

 

 考えても分からない、実際に見ているのに分からない。浮かぶのは疑念、そして困惑だけ。

 

 なんでこんなことになっている? なんで、おれはこんなところにいる? なんで、こんな光景を見てる?

 

 なんで、

 

「なんでだ……なんで、フェイトがもう一人いるんだよ………!?」

 

 カチリ、と。世界(はぐるま)が回った気がした。

 

 

 -―――TO BE CONTINUED...

 

 

 




更新は安定しませんが、精一杯がんばっていくつもりなのでよろしくです。
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