久しぶりの更新となりますが、前書きと後書きは真剣恋Zの方に書いていますので、割愛します。
それではどうぞ。
『………嫉妬?』
『違うわッ!!』
――――――〝鉄仮面〟デュバル ・ 〝狙撃の王様〟ウソップ
夕暮れ時。町は見事なオレンジ色に染まっていた。光が建物の影を黒く彩らせ、照らされたものより強く描き出す。
時刻は現在午後六時。人の波が自らの帰り巣を求めて、拡散するように移動を始める頃であろう。
すれ違う人間は多種多様だ。帰りを急ぐサラリーマンに学校帰りの学生の群れ、スーパーの前で井戸端会議をしている主婦、そして、その波に逆らうように歩いている二人組みの少年少女。
同い年ぐらいの彼らは、少女に続いて少年が歩く形となっていた。無論、なのはとエースの二人だ。今日も今日とてジュエルシードを探すために、日課になりつつあるフィールドワークをこなしている最中だった。
が、今回は少し様子がおかしい。いつもの二人ならば並んで喋りながら探しているのだが、今はなのはが前をずんずん歩き、その後ろをエースが追いかけているという構図である。逆ならまあ有り得るかもしれないが、これはちょっと予想できないだろう。
二人から発される異様な雰囲気を感じ取り、周りの人間は何事かと一度二人に怪訝な視線を向ける。が、それはすぐに微笑ましいものに変わっていた。ああなるほど、という心の声が聞こえてくるかのような表情だ。そんな光景を発生させている張本人達は周りなどガン無視、というか気付いていないようであるが。
と、そこで状況が動く。先を行っていたなのはに、エースが恐る恐る言葉を掛けた。
「あ~、そのだな……なのは………さん?」
「………なに?」
彼らしくない下手から出た言葉に、なのはの声が返ってきた。だがその声色はとても冷たい。いや、冷たいというよりも激情を無理矢理沈静化させているように聞こえる。
前者ならまだいい。後者だったりしようものなら、実に恐ろしい事態である。
「ハァ………」
エースは力なく肩を落とした。そして、目の前をドスドスと闊歩するその後姿に目をやる。少し疲れたような表情だった。
こうなったのはつい二時間ほど前である。
プレシアと邂逅したのち、エースはストライカーを走らせて海鳴に戻った。若干フェイト達のことが心配にはなったが、これ以上はもう当人達の問題だ。プレシアが何かすれば止めるつもりではあるが、状況が動くまで打てる手はほとんどない。
そこで少し整理したい案件があるというエールの意見の元、地球に戻って作戦を練ることにした。彼女によれば、上手くいけばすべてが丸く収まるかもしれないのだという。そのことをエースは大いに喜び、頑張らなければという決意を新たに意気揚々と高町家に帰宅した。
だが、エース待っていたのは、高町家の門前で腕を組んで仁王立ちしているなのはだったのだ。いつものように、彼女に対して思わず声をかけてしまったことが運の尽きである。次の瞬間にはハイライトが消えた目でニコニコと微笑まれる羽目になった。
そこに至り、彼女に言われていたことを漸く思い出したエースだったが、時すでに遅し。ダラダラと脂汗を流して硬直するエースに対し、なのははそれまでのニコニコ顔をゆっくりと消した。そして一転して般若のような顔つきになり、
「ちゃんと休んでてって言ったのに…………エースくん、一体どこほっつき歩いてたのぉ~ッ!!」
彼女にしては珍しく、特大級の雷が落ちた。普段大人しい人や優しい人を怒らせると、かなり恐いといういい例だろう。それが四時過ぎほどの出来事で、そこからずっとこんな調子である。
レイジングハートはこのことを知っていたのだが、話せば話したで主人が学校を放り出す可能性もあったため黙っていた。そのせいでエースが過剰なまでに怒られているのだが、レイジングハートもエールも沈黙を守っている。
フォローを入れると自分に飛び火しかねないからだ。デバイスとて我が身は惜しい。
話を戻そう。そんなわけで、目下不機嫌オーラをバーストさせている高町なのは三年生に、エースは情けなくも平謝りを繰り返しているのだった。見た目的には、怒った女の子に許してもらおうとあれこれしている男子の構図である。
要するに痴話げんかだ。大人なら修羅場だが、子供であればその限りではない。周りの視線の意味も頷けるというものだ。
「機嫌直せって。今回はおれが悪かったからよ………」
頭を掻きながら、エースは再度謝罪を入れた。それに振り向いたなのはは、むっすぅ~という表示が出そうな顔を向ける。じとっとした色の視線が何とも痛かった。
「今回『は』? 今回『も』の間違いだよね………ふん、だ。約束は守るとか言ってさ、すっかり忘れてるなんてエースくんは私との約束は守れないんだ、どうでもいいんだ。お母さんとかお姉ちゃんなら守るのに、ああ、あの二人って美人だもんね~、エースくんって年上好きなんだ、そーなんだー、ふーん?」
「あのな………」
軽くやさぐれも入りはじめたなのはに、エースは呆れたように息を吐いた。とはいえ今回は約束を違えた自分が悪いと自覚しているので、大きく出られないエースである。しかし、怒りの原因が約束を反故にされたこと自体ではないことには、二人とも気付いていなかった。
「あはは………大変だね、エース」
エースの肩に乗っていたユーノが苦笑しながら言った。同意する、というふうにエールも光を放つ。
『御両人、近くにジュエルシードの気配があるんですからふざけている場合じゃありません。夫婦漫才はあとでやって下さい。ほら、レイジングハートも呆れてるじゃないですか』
「M,Me? W,Well……(わ、私ですか? え、ええと………)」
「ふぇぇ!? ち、違うってば! レイジングハートも考え込まないで!」
「ふぁあああ、ハラ減ったなァ………」
デバイスの皮肉になのはが僅かに頬を染めて言い返す。エースは端から全スルー。そんなやりとりを続けながら、二人と二機と一匹は散策を続ける。
そして体感時間で三十分ほど。ふとエースが海の方を向いた。
「ん~、相変わらずはっきりしねェが………たぶん、あっちだな」
考え込んでいたエースが一方を指し示す。それは海鳴の海浜公園へと続く道だった。
「分かるの? 確かにこの辺りだとは感じるけれど………」
驚いたというふうに、ユーノが視線を上げる。エースは鼻を掻きながらまあなと相槌を打った。
「ぼんやりしてるが、確かに〝聞こえる〟。尤も、前みたいに出来りゃすぐだったんだが、今は方向だけで精一杯みてェだ。ったく、覇気がまさかここまで制限されちまってるとは………」
「………? と、とにかく、そっちにあるかもしれないんだね? なら行ってみようよ!」
なのはが手をブンブン振りながら一同を促した。聞こえてきた言葉の意味はよくわからなかったが、場所は絞られているのだから可能性のある方から探してみたほうが早いのは当然だ。
「だな。ここで喋ってても―――」
瞬間、天を貫くように光が迸った。あかね色を切り裂くような一筋の青白い光。間違いなくジュエルシードの魔力光である。
場所はエースが指示した方角にぴったり重なっていた。
「急いだ方がよさそうだな………走るぞ、なのは!」
「えっ…!? ちょ、ちょっと待ってエースくん! 置いていかないでよぉ!」
走り出したエースをなのはが慌てて追いかける。後ろから駆けて来る相方を気遣いながらしばし走ると、海浜公園の一角に巨大な木が姿を現していた。
おそらくジュエルシードが木を取り込んだのだろう。幹を鞭のように撓らせながら一丁前に威嚇してきていた。
なのはがレイジングハートをセットアップして隣に並んでくる。その表情には若干の緊張と怯えが宿っていた。まだまだ固さが抜けない彼女にエースは苦笑する。
と、不意にその口元をニヤリと吊り上げた。
(………見た目どおり優秀だな。もう見つけてくるか)
刹那、背後から黄色い魔力弾が群れを成して飛んできた。いくつもの光の筋が化け物となった木に迫る。だが、ターゲットはバリア状の壁を展開し、飛来した攻撃を弾き飛ばした。
「来たな」
「あっ!?」
なのはが声を上げて背後を振り向く。果たして、そこには昨晩ぶりとなる二人組、フェイトとアルフの姿があった。もっともエースからすればほんの数時間ぶりぐらいなのだが。
向こうも此方を捉えているようで、宙に浮いた二人がエースとなのはに交互に視線をよこしてくる。
エースは僅かに笑みを零したあと、無言でジュエルシードが宿った木へと視線を戻した。先ほどから見る限り、確実に前より強い個体だ。フェイトの魔法を弾いたバリアも、どうやら全面を覆っているようである。
ならばできることは一つだ。
「こりゃ力押しになるな。作戦も何もあったもんじゃねェが………なのは、行けるか?」
「もちろんだよ!」
実に頼もしい返答だ。エースは口元に信頼の笑みを浮かべる。それを待っていたかのように、ターゲットが動き出した。
埋もれていた根を鞭のように撓らせ、二人を叩き伏せようと迫ってくる。それをエースは横に、なのはは上空に飛んで逃れた。穿たれたコンクリートがポップコーンのように弾け、破片が礫となって散乱する。
「アークセイバー!!」
「ディバインバスター!!」
後ろから叫びと共に刃と砲撃が飛来した。フェイトとなのはの魔法ダブルコンボである。しかも地上と上空の二箇所からだ。
金色と桃色の力は、唸りを上げながら化け物樹木のバリアと激突している。突き破るには至らないが、それは相手のバリア領域を徐徐に押し沈めていく。鬩ぎあいが苦しいのか、一際強く根の鞭が撓り、周りを分別なく破壊していく。
「下がれユーノ! ペッシャンコになっちまうぞ!」
「わ、わかった!」
エースは後ろにいたユーノを庇い、射程圏外へと離脱させた。暴風のような鞭の乱舞をかわし、大きく大地を蹴りつつ腕に力を込める。ターゲットを睨み据えるその表情には余裕すら浮かべて。
「〝砲火炎〟!!」
構えた右腕から火炎流を迸らせた。なのはの砲撃とよく似た見た目で以って、バリアにさらなる圧力をかける。そして刹那の均衡を打ち破り、ついに本体へと攻撃が到達した。
二つの力が交差し、一帯に光が満ちる。その奔流をモロに受けた怪物は断末魔の叫びを上げながら浄化され、あるべき姿へと戻っていった。
「ジュエルシード、シリアル7!」
「封印!」
後に残った光の一欠片を、二人で同時に封印する。暴走が止まり沈静化した宝石の間で、なのはとフェイトは正面から向き合った。
「ジュエルシードには、衝撃を与えたらいけないみたいだ」
「うん。昨日みたいなことになったら、私のレイジングハートもフェイトちゃんのバルディッシュも可哀相だもん。それに………」
なのはが少し離れた場所から見上げているエースに目をやる。それに気付いて暢気にグーサインを出しているエースへ、二人分の視線が向けられた。
昨晩の事を思い出しているのか、なのはは辛そうな色を浮かべている。フェイトは若干気まずそうに見つめていたが、意を決したようになのはの方に視線を戻した。相対している彼女に向かって静かに頷く。
「――――けど、譲る気はないから」
「私は………フェイトちゃんと話がしたいだけなんだけど………」
話は平行線。結局どちらかが折れない限り、この戦いに終わりは無い。胸に燻っていた憂いを払拭して、なのはは声を張る。
「私が勝ったら……ただの甘ったれた子じゃないって分かってもらえたら………お話、聞いてくれる?」
フェイトがなのはの言葉を受け止める。そして、少しばかりの葛藤の後、ほんの僅かだが確かに頷いた。同時に、二人は相手に向かって飛ぶ。
なのはは事情を聞くため。フェイトは大切な人を助けるため。譲れない強い思いを抱いて、二人の少女は杖を振りかぶる。
夕暮れが迫った公園で、引き寄せられるように両者は激突した………かに見えた時、突如として二人の間に光が走った。
『ストップだ!!』
「「!?」」
なのはのでもフェイトのでもない声が響き渡る。突然のことに二人とも動きを止めていた。
「ここでの戦闘は危険すぎる」
魔法陣が一瞬だけ煌き、そして消失する。光が消えた中から現れたのは黒い甲冑に身を包み、なのは達と同じく杖のようなデバイスを携えた少年だった。
――――TO BE CONTINUED...