魔法少女リリカルなのはACE   作:コエンマ

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お久しぶりです。

今回は予約投稿をさせていただきました。

時間もないのであとがきはカットします。すみません(汗)・・・

それではどうぞ~!


第十八話  時空管理局 ~ 信念と願い

 

 

『こっから先は、通す訳にはいかねェことになってんだが』

 

 ――――麦わら海賊団戦闘員〝海賊狩り〟ロロノア・ゾロ

 

 

 

 

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせてもらおうか。まずは、二人とも武器を引くんだ」

 

 若干睨むようにしながら彼、クロノは言い聞かせるように言う。なのは達は呆然としたまま固まっていた。混乱しているのだろう、言葉に逆らう様子もなく導かれるまま地面へと降り立つ。

 

「いきなり何だアイツは………?」

 

 一連の場面を眺めていたエースが訝し気に眉を寄せた。すぐさま頼りになる声が返ってくる。

 

『時空管理局………以前ユーノが言っていた組織ですよ。彼からの話でその存在は知っていましたが………あまり歓迎はできませんね。話の通りなら、あれはこの世界での海軍です。マスターも先ほどまでの気配で気付いていると思いましたが?』

 

「――――いきなりあんなのが現れるなんて思っちゃいなかったがな。それにしても海軍か。ま、どこの世界にもそういうのはある。いつかは会うだろうと思ってたが…………嫌なものを思い出させてくれるぜ………」

 

 エースが苦々しげに唇を噛んだ。その目に浮かぶのは悔しさと怒り、そして………憎悪。なのは達に見せることのない、暗く寒気をもよおす表情だった。

 

 知らず、瞳に剣呑な光が宿る。エースは意味もなく湧き上がってくる苛立ちを、短い息と共に吐き出した。

 

 あれが元の世界の海軍とは無関係だということなど、十二分に理解している。だが、割り切れというほうが無理だ。何せ彼はそれが原因で一度死んでいる―――いや、死に掛けたのだから。

 

「このまま戦闘行為を続けるのなら………っ!?」

 

 出掛けていた言葉を区切り、彼は素早い動きで上方に手を掲げた。同時にいくつもの光が飛来し、展開されたシールドに弾かれる。驚いた一同が目をやると、いくつもの光を滞空させたアルフがフェイトに向けて怒鳴った。

 

「フェイト、撤退するよ! 離れて!」

 

「っ!」

 

 再び矢のような光弾が放たれる。フェイトが上に逃れると、光は地面に命中して派手に土煙を上げた。逃げるにはいいチャンスだ。

 

 そのなかでフェイトは、上空にある青い光に向かって飛んだ。この混乱に乗じてジュエルシードを奪うつもりらしく、宝石に向かって手を伸ばす。だが、それを阻むかのように鋭い煌きが空を切って彼女に迫った。

 

「っ!?」

 

 フェイトがそれに気付き、大きく目を剥く。考えるまでも無く、確実に直撃コースだった。しかし、かわす余裕などあろうはずもない。

 

 せめて来る痛みにだけは耐えられるよう、フェイトは強く目を瞑った。だが、それより先に腕が強い力で掴まれ、強引に引っ張られる。ぐいと引き寄せられた衝撃に思わず目を開いたフェイトは、

 

「――――え…………?」

 

 その先で見た。放たれた光弾に、上半身を貫かれるエースの姿を。

 

「あ、あんた………!」

 

 アルフが何か言っているが、私の耳には届いていない。

 

 思考は完全に停止していた。彼の白いTシャツにはいくつもの穴が空いている。袖口も切れてボロボロの状態だった。庇われたばっかりに、彼は再び自分の代わりに受けてしまったのだ。

 

 貫かれた身体からは赤い火が迸っていて、僅かな熱が伝わってくる。破れたシャツには炎が灯り、黒い灰になりながら空に流れていく。そして、ようやく見えた肌には傷は一つとして見えず………

 

「…………え?」

 

 またもやフェイトの口から声が洩れた。だが、悲嘆に暮れるようなそれではない。目の前のことに呆気に取られているような、そんな空気の抜ける声色。

 

 アルフが口元をひくつかせて固まっている。その背中に見えた大きな刺青にフェイトが顔を上げると同時、当の本人が振り向いてきた。

 

「ふぅ。ギリギリだったが、なんとか間に合ったな」

 

「あ………え………?」

 

 目に映るのは自分の手首を掴む少年の姿。いつもと同じ、陽気で能天気な声。本当に眩しくて優しい、太陽のような笑顔。

 

 それが目の前にある。夢でも見ているのだろうかと、フェイトは呆然としたままエースを見つめていた。呆けた顔からは険が抜けていて、歳相応に可愛らしい少女の出来上がりだ。

 

 足元に展開した力場に立ちながら、エースが視線を逸らす。そのまま、下から見上げてくるクロノを軽く睨み付けた。

 

「オイオイ、野郎が嬢ちゃん相手に随分と荒っぽいじゃねェか。仕事熱心なのは結構だが………嫌われんぜ? そーいうのはよ」

 

 声の調子は相変わらず軽い。だが言葉の端々には、隠しきれない苛立ちがありありと浮かんでいる。そこに至り、フェイトがようやく気を取り戻した。

 

「え………ど、どうして………い、今、攻撃が身体を貫通したはずじゃ………な、何ともないんですか………!?」

 

「おう、別に何ともねェぞ。ピンピンしてる。っていうか、お前の方が大丈夫か? あん時のがまだ痛むんだろ?」

 

 エースがフェイトの腕を持ち上げると、その顔が僅かに歪んだ。腕を初めとして、真新しい傷がバリアジャケットから見え隠れしている。この戦闘でついたものではない鞭の跡だ。

 

 一つ一つの傷は浅くても、これだけ多くては流石に痛むのだろう。休みなしでここまで来たことを鑑みても、彼女のコンディションは最低レベルと言っていい。

 

(ったく、頭はいいはずだろ………焦りすぎだ)

 

 エースは一つ息を吐くと、フェイトを諭すようにして口を開いた。 

 

「病み上がりの身体で無理すんな。欲が過ぎると火傷じゃ済まねェことになるぞ? 状況を読め。嬢ちゃんのしたい事はなんだ?」

 

「わ、私、は………」 

 

 視線を彷徨わせるフェイト。迷っているのか、その目に映る光は弱弱しい。だが、以前には無い希望が見える。それを見止めたエースは微笑み、その背中を押してやることにした。

 

「決まってなきゃこのままでもいいが、決まってんのなら自分の思うとおりにやれ。〝くい〟を残したまま終わりたくはねェだろ?」

 

「………っ………ッ!」

 

 表情から迷いが消える。そこから間髪いれず跳躍すると、フェイトは空の彼方へ飛んでいった。

 

「あっ、待っておくれよフェイト!」

 

 アルフが慌ててそれを追いかけていく。それを見たクロノが追跡しようとするが、その前にエースが立ちふさがった。通せんぼをするように行く手を塞ぐ。

 

「悪ィな、こっからは先は通行止めだ。相手ならおれがしてやるから、少しのあいだ待ってろよ」

 

「き、貴様………!」

 

 クロノが凄まじい形相で睨んでくる。エースはそれを柳の如く流しながら、フェイトが去った方向を一瞬だけ見やった。

 

 自分のしたことが良いか悪いかなど分からない。もしかすると、彼女に辛い思いを抱かせてしまうかもしれない。だがそれでも、それがフェイトの意志であるならば最大限尊重してやりたかったのだ。

 

 生きる道は自分で選び、行く先は自分で決める。人が何かを得るためにはこれなくしては何も為し得ない。〝生きる〟ことと〝歩む〟ことはまったく違うからだ。

 

 簡単なようであるが、その実とても難しいことである。そして、それだけは誰にも頼れない。何者にも左右されない心で、何よりも自分の意志のみで為さなければならない。

 

 それがどんなに親しい間柄であっても、所詮は他人。助言することは出来ても、代わりに歩んでやることなどできはしない。

 

 だが、それがこの世を生きるということ。自分が他でもない自分である証。この世にその証を立て、己の居場所を見つける。

 

 だからエースはフェイトに思うがまま行動させることを望んだ。プレシアの事は正直複雑だ。だが、どれほどもがくことになろうとも、あの子の思うとおりにさせてやりたい。例えその先にどんな残酷な未来が待ち受けているとしても、彼女にはなのはのように前を向いてほしかった。

 

 諦めなければ道はどこまでも続いていく。そして、その生きた軌跡こそが〝自分〟なのだから。

 

「―――っと、待たせたな」

 

 フェイトの姿が見えなくなったのを確認して、エースは視線を戻す。だが朗らかなエースとは対照的に、目の前のクロノは怒りを押し殺したような表情で歯軋りしていた。

 

「ターゲット逃亡の助力、執務官に対しての公務執行妨害………君はなんてことをしてくれたんだ! まだ少女とはいえ、被疑者に手を貸すような真似をして………覚悟はできているんだろうな!?」

 

「覚悟、ね………そりゃてめェの話だと思うが、まあいいか。とにかくおれを捕まえてェんだよな?」

 

 怒号を飄々とした態度で流しつつ、エースはクロノを見つめる。彼は先ほどと変わらず、何とも掴みどころの無い態度で目の前に立っている。しかし、クロノはその目を見て息を呑んでいた。

 

 別に殺気を向けられているとかそういうわけではない。だが探るようなその視線に、自分の内面の深くを覗かれている様な気がしたのだ。心を掻き毟られるような感覚に気が落ち着かない。

 

 汗ばんだ手で杖を握りなおす。それを見たエースが再びニヤリと笑った。

 

「だったら答えは一つだな。男なんだ、四の五の言ってねェで腕っ節でなんとかしてみろ。その覚悟があるなら………来いよ、未熟者(ルーキー)

 

「ッ………言われなくとも!」

 

 ギリッという音がクロノの口から洩れ、空中の足場に佇むエースに向かって突っ込む。エースがそれを背後に飛んでかわすと、エールによって着地地点に足場が展開された。それを再び蹴ったエースが、今度はクロノに向けて突貫した。

 

 お返しにと渾身の力を込めたとび蹴りを見舞う。クロノはそれを手に持った杖で力を流しながら受け止めた。そのまま付かず離れずで両者の攻防が続いていく。

 

 エースの拳とクロノの杖が何度も二人の間を縫い、相手から寸でのところで空を切る。夕暮れのなかで、両者の攻防を示す渇いた音が断続的に木霊した。

 

「ぐっ、重い……! だが、思ったとおり空は飛べないようだな!」

 

「うーん、別に飛べねェってことはねェんだが……ま、どっちにしたってお前を相手にするだけなら大した違いはねェよ。むしろチビッ子のハンデにゃ足りねェかもな」

 

「チ、チビ言うな! 絶対に捕まえてやる!」

 

 身体的特徴を上げられ、クロノが顔を真っ赤にして杖を横に振り抜いてきた。それを予定調和のように避けながら、軽やかな身のこなしで地面へと着地する。

 

 クロノがそれを狙うように杖先を鋭く振った。

 

「そこっ!」

 

「おっ?」

 

 魔力で編まれた無数の刃が着地で硬直するエースに殺到する。エースはそれらを見上げ、だが大きな動きを見せず自分に当たるものだけをかわし、叩き落していく。乱射された刃によって周りの地面は次々と穿たれ、エースは灰色の土煙の中へと消えた。 

 

 クロノは姿が見えなくなったところで撃つのを止めた。無論のこと油断はせず、注意深く変化が無いか観察する。

 

 と、その煙の中から小さな光の玉が舞い上がった。大きさはピンポン玉ほどだろうか。タンポポの綿毛のようにも見える。

 

 ふわふわしたそれらはどんどん増え、いつの間にかクロノの周りを取り囲むように滞空していた。

 

「な、なんだ………?」

 

 魔力を感じない事にクロノは辺りを見渡しながら眉を寄せる。そこでようやく土煙が晴れていった。その中心には両手で何かを包み込むような形にし、滞空するクロノに向けるエース。

 

「――――〝蛍火(ほたるび)〟」

 

 その口元をニヤリと歪ませてエースが呟く。瞬間、言い様にない寒気を感じたクロノは慌てて呪を紡いだ。

 

「っ!? プロテクショ――」

 

「〝火達磨(ヒダルマ)〟!!」

 

 刹那、滞空していた光が集束し一気に弾けた。無数にあった光が連鎖反応し、その大きさにそぐわぬ大爆発を起こす。その中心点にいたクロノは、巻き起こった煙から逃れるため上空へと飛び出した。

 

 空中で急停止して状況を確認する。完全には防ぎきれなかったのか、その顔は若干煤で汚れていた。

 

「くッ、攻撃に魔力反応がない………!? なんなんだ今の炎は! 彼は魔導師じゃないのか!?」

 

 理解不能な事態にクロノは火の粉を払いながら、眼下を見下ろした。首を何度もめぐらせて立ち上る煙とその周りへと視線を向ける。

 

 その間数秒、そこで彼は重大なことに気付いた。

 

「っ、いない!? どこへ………!?」

 

 覚えず身体が強張る。〝至近〟から声が聞こえてきたのは、それとほぼ同時だった。

 

「――――相手を前に考え事か? 随分と余裕だな」

 

「ッ――!? がっ!?」

 

 軽い調子の声が背後から聞こえ、クロノの身体に衝撃が駆け抜けた。痺れた身体から来る痛みに歯を食いしばって耐える。吹き飛ばされるまま、クロノは木が茂る地面に叩きつけられた。

 

「ぐ、ぅっ………!」

 

 杖を支えにして何とか起き上がる。決して油断していたわけではなかった。が、認識が甘かったのだろう。背中の上部に一撃、かなりいいのを貰ってしまった。

 

 叩きつけられた衝撃で脳が揺さぶられ、視界がぐわんぐわんと脈動する。頭痛と共に吐き気と寒気のオマケつきだ。正直、今すぐ大の字で倒れたい。

 

 しかし、寸前で気が付いたからこの程度で済んだのだ。まだ十分ではないとはいえ、経験によって培った勘に感謝である。咄嗟に身体を捻っていなかったら、確実に意識を持っていかれていた。

 

「くっ………」

 

 震える身体に鞭打ってクロノは空中へと再び躍り出る。死角が多すぎる森の中、しかも地上という相手の土俵で戦うなど冗談ではない。なんとか空中で態勢を立て直しながら、クロノは目と感覚でエースを探す。

 

 そして、背中に先ほどと同じような感覚が生じたとき、クロノは背後に向けて振り向きざまに杖を抜いていた。その先には、掲げたエースの左手。

 

「はぁッ!」

 

 この距離なら逃げることも避けることもできない。防げば魔法で追撃、打ち合いならバインドを掛けて仕留める。戦術をマルチタスクで構築しつつ、クロノはその一撃に気力と魔力を最大に込めた。

 

 狙いをつけるのもそこそこに杖を振りぬく。なんとしても勝機を掴まなければ。そう思い、左腕を力任せに打ち据えようとして、

 

 

 

 

 

「効かねェよ」

 

 

 

 

 

 できなかった。いや、確かに腕があった場所に命中させることは出来たが、ダメージを与えられなかった。振りぬかれた杖は、いつの間にか赤熱していたその腕をものの見事に貫通してしまっていたのだ。

 

「なっ、腕が―――………!?」

 

 驚愕を浮かべるクロノ。その視線の先には炎に包まれた彼の左手が轟々と猛りを上げて燃え盛っていた。

 

 どうなっている? 何故腕が燃えているんだ? 何故攻撃が当たっていないんだ!?

 

 確実に杖は彼に届いていたはずだ。ならば、なぜ何の感触もない。いや、それ以前に命中したということを感じさせない、この空気を殴ったような手ごたえは一体なんだ。

 

 クロノは混乱する。杖は確かに当たっていた、それは間違いない。ただ、当たったはずの腕を素通りしてしまっただけ。まるで〝火〟でも殴ったかのように。

 

 しかしそんなバカなことが起こるはずが、

 

「余所見禁物、油断大敵だ。言ったはずだぜ?」

 

「っ!? しまっ………!?」

 

 再び声が近くで聞こえた。思わぬ事態により意識を考えることに割きすぎたのか、クロノは接近を許していることを完全に失念してしまっていたのだ。絶対にしてはいけない類のミスである。

 

 だが、事態が常軌を逸しすぎていたのは事実。そして、それが原因で停止した思考を復旧させることで精一杯だった彼をいったい誰が責められよう。

 

 どちらにしろすべてが遅すぎた。気付いたときには赤熱した彼の拳が穿たれた後だったのだから。

 

 

 

 ――――――〝火拳〟

 

 

 

「うぁぁああああああっ!?」

 

 巨大化した炎に呑まれ、クロノはそのまま海中へ叩き込まれた。ジュウという音と共に真っ赤だった景色が一瞬で青に染まり、焼かれて火照った身体を急速に冷やしていく。だが、同時に水を飲んでしまい、大きな(あぶく)を何度も吐き出した。

 

 今度は熱に代わり息苦しさが襲ってくる。酸素への渇望に、クロノはたまらず海面に浮上した。

 

「ぷはぁっ! エホッ、ゲホッ………、ゴホッ、ゴホッ!」

 

 肺に入ってくる新鮮な空気。地上に生きていることを感謝した。

 

 縋るように消波ブロックに掴まって、海水を吐き出しながら息を整えるように何度も深呼吸する。だが、そこでクロノは自分の目の前に誰かが立っていることに気付いた。

 

 思わず視線を上げる。そこには、殴り飛ばしたくなるようなほど得意げな顔をしたエースが真っ直ぐにこちらを見据えていた。ご丁寧にも火を灯らせた指先を銃の如く突きつけながら。

 

「―――続けるか?」

 

「くっ………!」

 

 クロノが下半身を水に浸したまま悔しそうに唇を噛む。どこからどう見ても負け確定であるが、執務官とやらの矜持ゆえか、捕まえようと思っていた相手に敗北をしたことを認めることができないのだろう。

 

 エースはそれが分かっているようで、クロノを急かさずにただ答えを待つ。そんな彼らをユーノとなのはが呆然と見つめていた。

 

「じ、時空管理局の執務官をたったの数十秒で………」

 

「すごい……すごいよエースくん………」

 

 二人して感嘆の息を吐く。なのははエースの凄さをまた一つ知ったためか、その瞳がキラキラ輝いている。また、ユーノに至っては驚きなどというレベルではなかった。

 

 時空管理局の執務官といえば、管理局中でも最高クラスの強さと頭脳を持った超エリートだ。その頭の冴えもさることながら、戦闘力もすこぶる高い。単身でこなさなければならない任務も舞い込んでくるので戦闘技能は確実にAA以上、それ相応の才能も必要になるという狭き門を潜ってきた者達である。

 

 だが、エースはそれを打ち破った。見たところまだ若いとはいえおそらく年上、そして仮にもAAランク以上の実力者である。そんな人物を相手にして一歩も引かず、何の造作もないかのように勝利を収めたのだ。これを驚きと言わずして何と言うのか。 

 

 

 

『そこまでにしていただけないかしら?』

 

 

 

「あ?」

 

「「えっ?」」

 

 そのとき、その場にいる誰のものでもない声が響いた。その声に反応し、ほとんど反射的に全員が上を向く。そこには何も無い空間にワイドスクリーンのような映像が投影されていた。

 

「なっ、か、母さ……艦長!?」

 

 水に半分浸かったままのクロノが驚愕に目を見開く。艦長という台詞から、目の前に移っている女性は彼の上司に当たる人物のだろう。それなりの威厳を感じさせることから見ても妥当だ。さらに言えば、どうやら彼女の介入はクロノにとっても予想外のことだったらしい。

 

 なのは達もクロノと同様、少し離れた位置からスクリーンを見上げて固まっていた。が、エースはさしたる驚きを見せることもなく、短く息を吐いた。

 

「ここに来た時から何か妙な気配を感じるとは思ってたが、ようやく出てきやがったか。アンタがコイツの保護者だな?」

 

『ええ、そう思っていただいて間違いありません。彼は私の部下ですので』

 

 確信を得たかのようなエースの言葉。どうやら、薄々ではあるものの前から彼女らの存在に気付いていたようである。確認をするような視線をスクリーンに向けて放った。

 

「で? ここから一体どうするってんだ? わざわざ姿まで見せてきたんだ、コイツを見逃すだけでよしってワケじゃねェんだろ?」

 

『………お察しの通りです。私は数多の次元世界を管理する組織、時空管理局所属のリンディ・ハラオウン提督です。一連の事情を聞かせていただきたいので、私どもの艦に来ていただけないでしょうか。もちろん話を聞くだけですので、あなたにも彼女達にも拒否権はあります。手荒な真似も一切しないと約束しましょう』

 

 エースの言葉にわずかに眉を揺らすも、誠心誠意という言葉がこれ以上無いほどにマッチする対応をするリンディ。裏を見抜いたエースの言葉から受けた動揺も、彼でなくては気付かなかっただろう。

 

 なるほど。この世界の海軍に当たるにしては予想よりもずっとまともだ。クロノは歳相応に視野狭窄なためダメだが、これなら少しはまともな話ができるかもしれない。

 

 少なくとも抱えている疑問点は解消できるだろう。なので、エースは話に乗ることにした。

 

「おういいぜ。こっちも同じく説明が欲しかったトコだし、時空管理局ってのにも興味があったからな。ここはお互い手を引くってことでいい。けど、下手な真似はするんじゃねェぞ。もしコイツらに手ェ出したら、その時はおれにも考えがある。約束は守れよ」

 

『………管理局の名に誓って』

 

 言葉のなかに滲んだ威圧に、リンディが真っ直ぐに此方を見たまま頷く。その表情に嘘はないと判断したエースはようやくその身の緊張を解いた。

 

「ま、そういうわけだ。一時休戦といこうぜ?」

 

 ウィンドウから目を離し、目の前で水に浸かったまま憮然としているクロノに手を差し伸べた。が、彼はその手を取らずに水から上がる。悔しいのか、杖を抱えなおしてそっぽを向いていた。

 

「………こっちだ。付いて来てくれ」

 

 クロノが一人歩き出す。それに苦笑すると、エースは後ろで様子を窺っていたなのはへと手を振った。

 

 

 ―――TO BE CONTINUED...

 

 

 

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