力量不足ゆえ、あまり良い出来ではありませんが、お暇つぶしにでもよろしくお願い致します。
第一話 邂逅 ~ 共鳴する願い
『この世は全て、強い望みの赴くままに――――・・・巡り合う、歯車なのである』
――――黒ひげ海賊団狙撃手 〝音越え〟 ヴァン・オーガー
-Side Nanoha&Yuno-
海鳴市と呼ばれる都市、普段は閑静な住宅街に立つビルの屋上。夕焼けに染まるその場所に一人の少女の姿があった。
出で立ちは白い制服姿に赤色のリボン。茶色がかった髪を白いリボンでツインテールに纏め上げ、手には大きな赤色の宝石を携えた杖を持ち、肩には子狐色のフェレットが乗っていた。
言葉を元に想像すると、それは小さい子供がごっこ遊びなどでよくやる格好、魔法少女とその使い魔である。小学校中学年ぐらいの容姿からしても、違和感はない。大人なら、きっと微笑ましく彼女を見守るだろう。
しかし本人『達』は至って真剣であった。何を隠そうこの少女、なんと本物の魔法少女なのである。そんな存在になったのは、つい先日のことであるが。
その少女の元に、一筋の光が飛んでくる。青い煌きを放ちながら飛翔し、それは彼女の目の前で止まった。親指大ほどのひし形で、その表面には『X』とシリアルナンバーが走っている。
彼女の目の前に浮き漂うのは、『ジュエルシード』と呼ばれる次元干渉型の魔法具だ。通称『ロストロギア』と名づけられた古代の遺産の一つであり、手にした者の願いを叶えるとされる魔法の石なのである。
ジュエルシードは通常21個存在し、本来は厳重に保管されるのだが、それを運搬していた次元航行船が何らかのトラブルに合い、この世界に散らばってしまったのである。
そしてそれを発掘してしまったが故の責任を取るため、ここにいるユーノ・スクライアなるフェレットがこの世界へと足を踏み入れたのだが、ジュエルシードを取り込んだ生物の反撃に遭い負傷。そこで偶然知り合ったこの少女、高町なのはへと協力を仰ぎ、晴れて魔法少女の誕生と相成ったわけである。
しかし、そんな衝撃的な人生を歩み始めたなのはの気持ちは、現在少し沈んでいた。
事の発端は数時間前に遡る。当時、彼女は父親の組んだサッカーチームの応援の折、ジュエルシードを持っていた少年を確認していた。見つければ封印すべきであったのは自明の理である。
だがしかし、感じた気配は確信的なものではなかったため、彼女は気のせいだとして放置。結果、ジュエルシードの暴走により、一般人を含んだ一帯に被害が出てしまった。
幸い死人はなかったが、倒壊した建築物は多く被害レベルは甚大といえるものであった。
「いろんな人に、迷惑かけちゃったね・・・」
「そんな!なのははよくやってくれてるよ!本当は、僕が全部やらなきゃならないんだから・・・」
夕日に向かって立ちながら後悔を口にするなのはに、ユーノは気にしないでと何度も呼びかける。だが、彼女の顔が晴れることはなかった。平和のなかで育ってきた九歳の女の子にとっては、重過ぎる出来事だったからだろう。
ユーノの言葉を己の中で咀嚼し、なのはは自分がした行動と照らし合わせる。それからしばらくして何かを決意したような顔になり、すっと眼下の街を見下ろしながら言った。
「私・・・自分なりの精一杯じゃなくて本当の全力で・・・自分の意志でジュエルシードを集めるよ・・・皆を守るために・・皆が笑顔でいられるように・・・」
「なのは・・・」
それは少女のはじめての覚悟。魔法少女として選ばれたからやるのではない。幼いながらも、自分自身の意志で事件を解決することを決めた瞬間だった。
「もう誰も・・・誰も泣いたり悲しんだりしないように・・・誰も不幸にならないように・・・誰も・・・死ぬなんてことがないように・・・」
かつて家族の中で起こった記憶をその胸の内に投影しながら、なのはは決意を新たに地を踏みしめる。そこに影はなく、また一つ成長した少女がいた。だが、宝石に戻ったレイジングハートをなのはが握り締めたその時、その内側から強烈な光が迸った。
「えっ!?」
「な、何だ!?」
突然の事態に、なのはとユーノは泡を食ったように落ち着きを無くす。そこへさらに追い討ちをかけるように、レイジングハートから切羽詰った声が飛んだ。
[Master!It is Emergency!]
それに呼応するようにして、空気が揺れる。瞬間、漏れ出していた光が一際強く煌き、レイジングハートの中から何かが飛び出した。
現れたのは、先ほど封印したはずのジュエルシードだった。シリアルナンバーに『X』と書かれた青い宝石が二人の前で浮遊する。神秘的な光を放ち、膨大な魔力の風が外殻を貫いた。
そこから放出される魔力は凄まじかった。その強大さを感じ取ったユーノが、焦ったように叫ぶ。
「なっ・・・ど、どうしてなんだ!?ちゃんと封印状態になっていたはずだ!それが、何もしてないのに解けるなんて!」
[Resealing,Master!Hurry!]
再封印を促すレイジングハートの声が辺りに響く。だが、それより早く、ジュエルシードはなのはと己を繋ぐように魔力の線を描き、激しい明滅を開始した。その様子に、ユーノがはっとしたようになのはを見る。
「ま、まさか・・・なのはの魔力と今の意志に反応して・・・!?いけない!そこからすぐに・・・早く離れるんだなのは!」
「え・・・き、きゃああああっ!?」
声が響くとほぼ同時、彼女たちを強烈な光が包み込んだ。目を開けることなどできない、燐光のような青さを含んだ輝きが放たれる。なのはは目蓋の上から目を覆い、瞳を焼かれないように抑え続けた。
そして十秒か、十分か。天を覆いつくさんばかりに煌いたジュエルシードの反応が薄れ始めた。そのまま徐徐に光を治めていき、ついには完全に消えてしまう。そしてゆっくり目を開けると、再び舞い戻った夕焼けが一人と一匹を包み込んでいた。
なのはは目蓋を擦り、白く濁った視界を正常なそれに戻す。
「う・・・一体何が・・・え?」
ジュエルシードを探すために視線を巡らせる。だが程なくして、彼女は出掛けていた言葉を呑み込むこととなった。
目標たるジュエルシードについては、すぐに見つけることができた。先ほどまで浮いていた場所、そのちょうど真下に落ちている。あの強烈な光はとうに消えているが、蒼色の魔力光は夕闇の中でも神秘的な輝きを放っていたので、見つけるのは容易だった。
だが、注目すべきはそこではない。見るべきは、ジュエルシードの下にある『何か』であった。
魔法石が転がっていたのは床ではなく、ついさっきまでなかった屋上に突如として現れた物体の上。夕日を受けながら盛り上がった物言わぬシルエットがただ存在していた。落ちたジュエルシードと寄り添うように横たわる姿に、二人はごくりと唾を呑み込む。
「な、なんだろう・・・?」
「わからない・・・でも気をつけてなのは」
流石にそのままというわけにもいかず、なのはとユーノは恐る恐るそれに近寄っていく。そおっとそおっと、虫も殺さないような足取りでゆっくりと。だが、傍まで来て『それ』を真上からそっと覗き込んだ二人は、驚きに声を上げることとなった。
「ひ、人・・・?」
なのはは呆然として言葉を零す。自分の目に見えているのは、紛れもなく人の姿をしていた。逆光がきつくてわかりにくいが、そうとしか思えない影が夕日の中に浮かび上がっている。
「男の・・子、だよね?」
「う、うん・・・僕にもそう見える・・・」
倒れていたのは、男子であった。それも、なのはと同い年ぐらいの姿をしたまま眠っている少年。その胸の上には、先ほどのジュエルシードが鈍い光を放ち転がっている。
なのはは寝ている彼の上から、その全身を見渡していった。顔立ちや髪の色から、日本人にも見えないことはない。だが彼の姿は、おおよそ普通の少年とは懸け離れたものであった。
上半身は服等の覆うものは一切なく、胸元から腹までが完全に肌蹴られていた。その胸の中央、鳩尾の辺りは少し黒い染みが見え、体のいたるところに傷が見える。かなり鍛えられてもいるようで、全身にわたってすらりとした筋肉がついていた。
首にはオレンジ色をした真珠のようなものを連ねたネックレス、左腕には黒いバンドのようなものが通され、同じ色のハーフズボンを穿いている。だが、そのどれもが丈の合わない服を着たようにぶかぶかな上、すべて傷だらけのボロボロだった。
左腕には『ASE』のSの字にバッテンが重なり、そのあとに同じ大きさでCが書いてあるという、なんとも奇抜な刺青が走っている。普通考えられないが、彫る文字を間違えたのだろうか。
髪はストレートと癖っ毛の中間ほどで、色は漆黒。長さは首の中ぐらいまで伸び、前髪は掻き揚げられておでこが覗いていた。手入れをしていないのか、随分と荒れ放題でボサボサであるが、それほどだらしない印象は受けないのが不思議だ。
頬にはそばかすが浮かび、その雰囲気に愛嬌を添えている。同時に、整った彼の顔立ちに優しい印象を混ぜ込ませていた。
そんな彼が自分達の目の前で眠っている。等刻みに静かな息の音が聞こえてきていた。とりあえず、命に別状はないようである。
「え、えっと、ユーノくん・・・これって・・・」
おずおずと目を向けるなのはは戸惑いを隠せずにいる。そんな彼女に向け、ユーノは表情を少し硬くしながら頷いた。
「ジュエルシードから人が出てくるなんて・・・・同じような次元干渉型のロストロギアでもそんな前例は聞いた事がないけど、でも夢じゃないみたいだ・・・ジュエルシードをはじめ、ロストロギアにはまだまだ不確かな部分が多いから、何が起こっても・・・まったく不思議じゃない」
ユーノはそう言うと、倒れた少年の胸の上に落ちているジュエルシードを掴んだ。そこに先ほどまでの輝きや不安定さはない。今ので相当の力を放出したためか、安定領域に達して沈黙していた。数日ほどすれば、力を自己回復させて輝きを取り戻すだろうが。
「と、とにかく、このままじゃいけないよね。救急車・・・はまずいかな・・・たぶん連れて帰ったほうがいいんだろうし、私もそうしたいんだけど・・・どうしよう、ユーノくん・・・?」
「う~ん・・・僕もなのはの家に保護したほうがいいと思う。ご両親に説明するのは少し大変だけど、今回はジュエルシードが関わっているからね・・・十中八九、ただの一般人じゃない」
ユーノの言葉にそうだよね、となのはも同意する。元よりそのつもりであったが、これで方針は決まった。
とはいえ眠った相手、それも男の子を担ぎ上げるのは彼女一人では難しい。なのははユーノの魔法を補助としつつ、彼を家へと運んで行くのだった。
道すがら、なのはは眠ったままの少年を見る。その無垢な寝顔に、彼女はくすっと笑った。視線を戻し、少女は再び歩き出す。
出会いは突然。途切れたはずの物語が、また紡がれ始める。
強い願いが為した必然と共に。消えたはずの命を以って。
歯車を挿げ替えられた世界はそれでも進み続ける。それが彼女達だけでなく、これから先に数多の世界を大きく変える出会いであるということには、まだ気づかぬまま。
-Side out-
―――TO BE CONTINUED...
第一話でした。
こんなかんじで少しずつ投稿していきますのでよろしくです。
それでは再見(ツァイツェン)!!