魔法少女リリカルなのはACE   作:コエンマ

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フェイトとエース及びなのはの邂逅編です。

初の予約投稿、それではどうぞー。


第五話  もう一人の魔法少女 ~ 出会いは突然に

『それもまた、巡り合わせ』

 

 ―――黒ひげ海賊団狙撃手〝音越〟ヴァン・オーガー

 

 

 

 魔法によって大惨事は避けられ、地面に横たえられたなのはから力が抜ける。ユーノは慌てて彼女の容態を探るが、身体に何の異常もないことや息もしっかりしていることを確認して安堵の溜息を吐いた。どうやら爆発のショックで気を失っただけのようだ。

 

「オイオイ。おれの恩人にいきなりなにしてくれてんだ」

 

 エースもなのはの様子に安心しつつ、視線を上に向ける。ギシギシとしなる木の枝の上、深緑の葉に隠れるようにして一人の少女が佇んでいた。

 

 黒マントに白いスカートという、なのはとは真逆となる出で立ち。金色の宝玉のようなものをつけた、レイジングハートと対になるような黒い杖。そして棚引くほど長い金色のツインテールに整った顔、そして少し行き過ぎなほど透き通った深紅の瞳。 

 

 魔導師を言葉にしたらまさしくこういう感じ、という姿の少女であった。子供にしてはデザインが少々派手ではあるが。

 

「エー、ス………?」

 

「おう、ユーノ。なのはにケガはねェか?」

 

 後ろから聞こえたユーノの声に、エースは僅かに顔を動かして答える。無論相手を意識から外すなんてことはなく、いつでも動けるようにしてある。問いかけるユーノの声からは、戸惑ったような響きが洩れてきていた。

 

「そ、それは大丈夫だけれど………エース、今のは君が………?」

 

「説明は後だ。今はそれよりも―――」

 

 背けていた顔を正面に戻す。

 

「―――優先すべきことがあんだろ?」

 

 いつもと同じ、飄々とした声色でエースが告げる。木の上に立っていた少女と、再び視線が交錯した。同時に彼女が杖をこちらに向けて構えてくる。

 

 表情は真剣そのものだ。先ほどのような感情を感じさせないそれではなく、厳しい色に満たされた戦士の表情。それに何か言い知れぬ苛立ちを感じたが、その理由は今のエースにはわからなかった。

 

「随分と血の気が多いみてェだな、お嬢ちゃん。お引取りは………ムリか」

 

 とりあえず、最初に思った感想を言ってみる。軽い口調だったが、その反応を見るには十分だった。肌で感じる堅固な空気は、彼女が退かないことをこれ以上なく示しているからだ。

 

 見た目は同い年ぐらいのエースに「嬢ちゃん」と呼ばれたことに多少不思議な顔をする少女。だが、すぐにそれを引き締め、感情を感じさせない表情で問いかけてきた。

 

「今の攻撃は貴方ですね………彼女の、仲間ですか?」

 

「そうだとしたら………どうすんだ?」

 

 エースは不敵な笑みを浮かべる。対して、少女は一度目を閉じて何かを考えるような仕草をした後、強い意志をその瞳に宿させて告げた。

 

「――――申し訳ないけれど、どいてもらいます」

 

「! ユーノ、なのはを頼むぜ!」

 

「エース!?」 

 

 言葉と同時にエースはスタートを切る。瞬間、それまでいた場所に金色の弾丸が撃ち込まれた。

 

「いきなり容赦ねェな! 危ねェだ……うおっ!?」

 

 言葉を待たずに次々放たれる光弾に、エースは慌てて回避行動をとった。走った後に爆風を伴った土煙が舞う。

 

「! 速い………!」

 

 少女は木の上から身を躍らせ、空中からエースを狙い撃ちにしようと魔力弾を連射する。だが、エースはその全てを紙一重でかわしていた。少女がその動きに目を見張る。

 

 弾にはそれほど威力は込められてないようだ。おそらく自由を奪うための攻撃なのだろう。尤もエースにとっては別に命中しようがどうということはないのであるが、不用意に情報を与えるほど今のエースは愚かではない。

 

 それにこの程度の速度なら、子供の身体でも何とかなる。伊達に悪ガキをやってきたわけではないのだ。さらに連なった四つほどをかわしたあと、エースは唐突に足を止めた。

 

「ふん!」

 

 そして目の前に迫った最後の一つを避けず、裏拳でもって地面に叩き落した。光弾によって大地が穿たれ、エースの姿が砂煙のなかに消える。だが少女がその中に威嚇射撃をしようとした瞬間、鋭い声が響き渡った。

 

「―――〝火銃(ヒガン)〟!!」

 

「!?」

 

 煙を切り裂くように、炎の弾丸が今度は少女に向けて迫ってくる。魔法発動の気配を探ることに集中していた少女は、いきなり飛んできた炎弾に空中から地上へと回避をとった。そこへ、砂煙の中から飛び出してきたエースが一息の半分で突貫していく。

 

「おうりゃ!!」

 

「っ!? くっ!」

 

 魔法を使う隙を与えない、見事な一撃。エースの右ストレートは少女を捉えたが、相当な加減に加えて急所も外したため、その身体を吹き飛ばすだけに留まった。しかし、殴った感触に違和感を感じてエースは追撃をやめる。

 

(薄い服の割には随分と頑丈だな………なるほど、なのはのも魔力で出来てるって言ってたから、あれ自体が身体を守る武装ってわけか。魔法ってのは便利なもんだな)

 

 地上戦はまずいと思ったのか、少女は飛んで距離をとりつつ此方を睨んできた。その眼差しには、先ほどあった油断も優位さを含んだ色も見当たらない。エースを警戒するように杖を構え、一箇所に留まって死角を作らないように、常に移動している。

 

 少なくとも素人ではない。まだまだ甘いが、その動きは訓練されたものだ。エースは少女の判断を評価しながら、込み上げてくる舌打ちをやりすごした。

 

(まずいな。いくらおれでも、あんだけ飛び回られたら生身じゃ対処のしようがねェ。くそ、前にジジイが言ってた〝(ソル)〟とか〝月歩(ゲッポウ)〟を覚えとくべきだったか?〝火拳〟なら軽く撃ち落せっけど、下手したらこの森ごとあの子を燃やしちまうし………)

 

 内心で葛藤を続けるエースと少女の対峙は続く。しかし、膠着状態というものが嫌いなエースである。しばらくするとたまらなくなって、上空に佇む少女に向かって声を上げた。

 

「おい、嬢ちゃん! またえらく物騒な仕事してるみてェだけど、一体何が目的なんだ!?」

 

「………その猫と融合しているロストロギアです。あなた方と同じく私はそれを集め、持ち帰らなくてはならない」

 

 エースの問いに、少し考えていた少女が端的に告げた。相変わらず感情というものを感じさせない、いや無理矢理に押し殺したような声だ。

 

 エースは表情を一瞬険しくするが、すぐに元に戻した。後ろで寝転がった猫に目をやると、身体の中央あたりに光るものが見える。エースはそれを確認すると、再び少女に視線を戻して言った。

 

「ロストロギア………ああ、なのはがジュエルシードだとかって言ってたやつだな………いいぜ、それが欲しいなら勝手に持ってけよ」

 

「え………?」

 

 紡がれたエースの言葉に、少女は不意を突かれたような顔を見せた。心底意外だったのだろう、少し戸惑うように視線を彷徨わせている。その表情は歳相応で、これが普通の彼女なのかもしれないなとエースは思った。

 

「なっ!? エース!何を………」

 

「なのはがこんな状態だっつーのに、これ以上戦えるか。今回はおとなしく退いてやれ、ユーノ」

 

 後ろから聞こえたユーノの声を、有無を言わせぬ声色で黙らせる。ユーノの方もそのことを改めて認識したせいか、後ろで横たわるなのはを見やるとすぐに頷いた。エースの顔に笑みが戻る。

 

 そこで、今まで黙っていた少女が口を開いた。

 

「………貴方は彼女の仲間と言った。彼女と同じなのであれば、ジュエルシードを目的として来たのではないの?」

 

「んな石っころに興味なんかねェよ。ユーノ………このフェレットがこいつを連れていきなり飛び出してったから、ちっと心配になって付いて来たんだしな。戦う気がねェってんなら、おれァこいつを連れて帰るだけだ」

 

「………そう」

 

 なのはを抱き上げたエースの後ろで、彼女は目を伏せながら短く呟いた。視線が見えないので、表情は分からない。だがそこに寂しさを感じ取ったのは気のせいだろうか。

 

 エースはそんな彼女を横目で見つめていたが、ふっと息を吐いて背を向けたまま口を開いた。

 

「ああ、一つ忠告しとくぜ。今回はお互いが初見だから大目に見てやるが、また同じことをするのは看過できねェな。こいつらに手を出すってんなら、ちったァ覚悟を決めてから来い。次は、おれもそれなりで行かせて貰う。だから―――」

 

 そこでエースは言葉を切る。そして、顔を上げた彼女に向けてすっと振り返り、

 

「―――『また会おうぜ』、嬢ちゃん」

 

 ニヤリと口角を吊り上げた笑みを見せ、再び歩き出した。声の含みを感じ取ったのか背中に視線を感じるが、エースは振り返らない。

 

 また必ず相見(あいまみ)えるときが来る。おそらくはなのはと一緒に、それも一度では終わらない数で。

 

 そう遠くない未来を予想して僅かに含み笑いを零し、エースは森を後にするのだった。

 

 

 

 -Side change in the Nanoha’s room-

 

 

 

「そ、それじゃ、あの炎は〝悪魔の実〟という果物を食べて得た力だというのかい? エースの世界にはそのような実がいくつもあって、自分と同じような能力者が数え切れないほどいると………」

 

 ベッドに座ったなのはの膝にいたユーノが、絨毯の上に座るエースに向かって尋ねた。その声は若干震えているように感じ、表情も少し引き攣っている。

 

 あの後、なのはを連れてすずか達の元へと戻ったエースはすずかやアリサ、忍などを含めた全員に問い詰められた。何せ、なのはの帰りを待っていたらエースが彼女をお姫様抱っこして連れてきたのだ。恭也などは今にも掴みかからんばかりの勢いでエースに詰め寄って、忍に窘められていたが。

 

 だが、事情を説明しろと言われても困る。そこでエースは、なのはが森の中で倒れていたことを話し、なのははユーノを探している途中で転んでしまい、その拍子に頭を打って気絶してしまったということにした。実際にあった重要な部分はごっそり省いているが、ウソを付いているわけではない。

 

 心配してくれるすずか達や兄に対して、事の真相を話すことができないのは忍びなかったが、だからといって正直に言うわけにもいかない。とりあえず、そのことは割り切ることにして、なのはの部屋に戻ってきた三人は、ユーノから昼間の少女が自分と同じ世界の魔導師であることを告げられた。そして、彼女の魔法にやられそうになっていたなのはを、エースが不思議な力で助けたことも。

 

 そして現在、なのはとユーノはその不思議な力、〝悪魔の実〟の能力についての説明をエースから受けているのだった。魔法を知る彼女たちだが、話されるのが未知の力なだけに、真剣な表情で話に聞き入っている。二人とも興味津々といった様子であった。

 

 ちなみに、悪魔の実の能力者が海に弱いという弱点も既に話してある。弱点ならば話すべきではないかもしれないが、二人は信用できるとエースが判断したためだ。それに、もしそのような事態に陥ったとき、知識がある者がいた方がエースにとっても都合がよかったからである。

 

「ああ。おれが食ったのは〝メラメラの実〟っつう自然系の実で………って言っても分からねェか。まァ、ややこしさを省いて簡単に言やあ、なのはの魔法みてェに炎を操れる能力を持ってるって思えばいい」 

 

「ふぇぇ、そんな不思議な果物があるんだ………名前はちょっと怖いけど、それなら魔法に驚かなかったのも納得できる、かな?」

 

 なのはが話を聞きながら溜息を吐いた。そして、エースをまじまじと見て、目が合うと少し顔を赤くする。いみじくも、その自分が怖いと言ったものの名で将来呼ばれることになろうなどとは、毛ほどにも思わないなのはであった。

 

 と、そのとき階段を上がってくる音が部屋に鈍く響いた。この音からするとおそらく桃子だろう。

 

(と、とりあえずお話は一旦中断ね。続きはお母さんをやりすごしてからにしよ)

 

 なのはから二人に念話が飛ぶ。エースはコクンと頷き、ユーノは寝床のカゴの中へと飛び込んだ。

 

 それと同時にノックの音が二回して、部屋の外から桃子の声が聞こえてくる。なのはが立ち上がってドアノブを捻ると、果たしてそこには桃子がいた。

 

「どうしたのお母さん。買い物?」

 

「いいえ、ちょっとね。なのはの部屋に………あ、やっぱりいたのね、エースくん」

 

 桃子の視線がなのはから、正面にいるエースへと移る。どうやら、はじめからエースに用があったようだ。不思議そうにするエースに笑いかけると、桃子は右手をエプロンのポケットに入れ、よどみない手際でそこに入れていたものを取り出した。

 

「なのはとかお店のことで、すっかり渡しそびれていたの。これ、エースくんの持ち物かしら?」

 

 桃子が取り出したものを三人が一斉に覗き込む。だが、なのはとユーノは目の前の「それ」に、一様に怪訝そうな顔を見せた。

 

 彼女の掌に乗っていたのは、腕輪とも時計ともつかない奇妙な代物であった。青い帯状の線が入ったベルトのようなものがあるので、時計やリストバンドのように手首に巻きつけるだろうことは推測できる。だが、時計で言う盤面にあたる部分には長針も短針もなく、そこには丸い透明な球の中にコンパスが入っているだけ。しかもS極やN極などの文字盤は一切刻まれていない。

 

 方位を調べるものとしては手抜きか欠陥品さえと思える拵えに、二人は首を傾げる。だが、エースだけは今までにないほど驚きに満ちた表情を浮かべていた。思わず声を上げてしまうほどに。

 

「こ、こりゃ『記録指針(ログポース)』じゃねェか! 何で………」

 

「貴方がここに来た時のズボンのポケットに入っていたものなのよ。随分と変わったコンパスだとは思ったけれど、やっぱりエースくんのものだったのね。洗濯しちゃわないでよかったわ。じゃ、私は一階にいるから」

 

 エースのリアクションに微笑みながら、桃子は階下へと降りていった。残された三人は、エースの手の上に置かれた異質な形の羅針盤(コンパス)へと目をやる。なのはが興味深げにそれをじっと見つめ、エースに向かって尋ねた。

 

「これ、エースくんの世界のものなの?」

 

「ああ。これは記録指針(ログポース)っつうヤツでな、磁気を記録できる特殊な羅針盤(コンパス)なんだ。目的の島の磁気をこいつに記録させて、進む方向を決めんだよ。こいつは前半用のだが、これなしじゃ、偉大なる航路(グランドライン)の航海はできねェ。何でここにあるのかはわからねェが………懐かしいもんだな」

 

 エースが目を細めながらふっと笑った。なのははエースのその微笑に僅かな違和感を感じたが、一瞬で消えたその違和感を捉えきることは出来ず口を噤む。そこで、記録指針(ログポース)の説明を聞いて考え込んでいたユーノが顔を上げた。

 

「磁気を記録………なるほど、偉大なる航路(グランドライン)というのは磁気による影響が異常に強い海ということになる。磁気というのは、ある一定の法則で流れる磁力作用のことだから、それが飛び交っている場所では普通のコンパスなんてまるで使い物にならないからね。思うに、その磁気を記録させることで、島から島への航海を可能にするといったところかな」

 

 ユーノがエースの世界の画期的な技術に感心していた。技術の程度はロストロギアに比べれば大したことはないかもしれないが、この世界で言う大航海時代にあたる世界において、そこまで高い技術力が確立されていたことはかなりの驚きであった。

 

 そしてそれほどの技術がなければ、偉大なる航路(グランドライン)という海が航行できぬほど困難なことも。一体どんな世界から来たのか、その世界で彼は一体何をしていたのかいう疑問が浮かび、ユーノは正面に座るエースを見つめた。

 

 エースの話には驚かされるばかりだが、それだけで記録指針(ログポース)の機能を見抜いたユーノもかなりの洞察力だ。流石、齢九歳にして発掘チームのメンバーをしているだけはある。

 

 だが、そのことに対する賞賛は意外なところから齎された。

 

『ご名答です。年齢に似合わず聡明ですね、ユーノ・スクライア』

 

「「「え?」」」

 

 自分たちのすぐ傍から声が聞こえた。エース達はぎょっとして辺りを見渡すが、人の影は何処にも見えない。だがなのはやエース、それに名前を呼ばれたユーノが冷静にその声の方向を探ると、視線は一点で交差した。

 

「まさか………」

 

 エースが恐る恐る目を下方へと向ける。三人の目が掌の記録指針(ログポース)へと集中した正にその時、強い光と共に確信をもたらす声が響いた。

 

 

 

『おはようございます。マイマスター、エース』

 

 

 

 顔があったらニコッと笑いそうな声色で、記録指針(ログポース)が喋っていた。

 

 

 驚愕の一日は、まだ終わりそうにない。

 

 

 

 

 

 ―――TO BE CONTINUED...

 

 

 




第五話でした。

いや~、社会人って、時間がないですねぇ。

テキトーに食っちゃ寝できていた学生の頃が懐かしいですよ。

まあ、よーするに時間に余裕がないんです、トホホ・・・。

それではまた次回でお会いしましょう!

再見(ツァイツェン)
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