魔法少女リリカルなのはACE   作:コエンマ

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ACEの方の更新です。

最近忙しくて、まともに執筆作業ができていません・・・・・




第八話  二度目の邂逅 ~ 真夜中の決闘

 

 

『言いたい事は何もない。お前の御託を聞き入れる気もないしな。排除するのみだ……!!』

 

 

 ――――シャンドラの戦士〝戦鬼〟ワイパー

 

 

 

「あっ!?」

 

「あら、あらあらあら………子供はいい子でって、言わなかったっけか?」

 

 橋の袂の上に座った女性が、口角を嫌味ったらしく吊り上げながら言った。笑みを向けるのは、昼間に出会ったオレンジ髪を持つ浴衣姿の女性。その目には、戦い事に疎いなのはですら感じ取れるほどギラギラとした敵意が浮かんでいた。

 

 さらに横に視線を流したなのははぎょっとする。その傍らには、以前すずかの家の森で出会った、金色の髪を持つ少女が佇んでいたからだ。無言で此方を見やる彼女に目が引きつけられる。

 

「やっぱり、彼女の関係者だったのか………!!」

 

 ユーノが目を鋭くしながら二人を睨む。予想はしていたようだが、悪い予感がこうも当たってしまったことに悔しさが滲んでいるのがありありと見て取れた。

 

 なのは達がここへ来たのはつい先ほどだ。昼間の一騒動の後は特段何も起こらず、なのはは家族や友達との時間を満喫し、仲良く同じ部屋で就寝していた。

 

 だが、アリサやすずかが寝入ってから数時間後、事件は起こった。近くに潜んでいたジュエルシードが発動したのだ。なのはとユーノは、ジュエルシードが放つ強大な魔力に気付き、慌てて旅館を飛び出してその魔力を辿ってきた。

 

 そしてその現場において、彼女らと遭遇したというわけである。

 

「それを………ジュエルシードをどうするつもりだ! それは、危険なものなんだ!」

 

 ユーノは怒りと戸惑いを交えた声色で叫ぶ。魔法に少しでも携わる者なら、いや魔導師ともなるような人物が、ジュエルシードをはじめとするロストロギアの危険度を知らないわけがない。にもかかわらず、それを求めるという行為を彼女らはしている。それも、明確な目的を持ってだ。

 

 ともすれば平和を揺るがすほどの力。人の手に余るものがもたらす予測不可能な危険性。その先に碌な結果が待っているはずがない。

 

 女性はユーノが言葉に含めた意図を汲み取ったようだが、肩を竦ませて大仰にすっとぼけるように言った。

 

「さあねぇ、答える理由が見当たらないないよ。それにさぁ、アタシ親切に言ったよね? いい子でないとガブッといくよって………!」

 

 女性の目が細まり、赤い舌がチロリと唇を舐めた。威圧感が増した彼女になのはが身構え、ユーノがギリッと歯を噛み締める。しかし一触即発の空気の中、二人の後ろからよく通る声が響いた。

 

「言わせとけよユーノ。相手の言い分を聞くのは、ぶっとばしてからで十分だろ?」

 

 スタスタと、迷いの無い足音が辺りに響く。そして、なのはの前にまで出てくると、彼は女性の視線からなのはを守るようにして立ち止まった。

 

 次元漂流者、ポートガス・ D ・エース。かつて最強の名を欲しいままにした伝説の海賊〝白ひげ〟の部下であり、その二番隊隊長を務めていた自身も生ける伝説の一つである男だ。

 

 現在はなのはとユーノの友達となり、身体能力も少年体に戻ってしまった彼だが、戦士としての格まで衰えるわけではない。その表情に子供とは思えない戦気と裏打ちされた自信に満ちた笑みを浮かべ、彼は静かに佇んでいた。

 

 エースはポケットに手を突っ込みながら、先の二人をまっすぐに見据える。そこには、なのは達のような怯えや不安、焦燥はない。この殺伐とした状況にもまったく動じていない様子だ。単に事態の重さをよく分かっていないことも多分に含まれてはいるが。

 

 エースの登場に魔導師の少女が軽く目を見開く。ユーノとなのはにガンを飛ばしていた年上らしき女性も、ヒュウと口笛を吹いた。

 

「へぇ? 話を聞いてもしかしたらとは思ってたけど、アンタもやっぱり関係者だったのかい。魔法を知ってるなら、昼間の態度にも納得だよ。けど面白いこと言うんだね。その程度の魔力で、あたしらをぶっ飛ばすだって?」

 

 挑発ともとれる言葉に、ずん、と威圧感が増した。なのはがレイジングハートを強く握り締め、ユーノが低く唸り声を上げる。しかし、エースは今までと変わらない態度で彼女に応じた。

 

「ああ、そう言ったろ。ま、引いてくれるんなら大歓迎だ。おれは勝てると分かってる相手に勝負挑むほど、人でなしじゃねェつもりだからな」

 

 女性の嘲るような口調にもエースは平然と返す。そこに子供の強がりとしての色は欠片も見受けられない。強い意志と光を瞳に宿し、悠然と佇む一人の戦士がそこにいた。

 

 余裕げに構えていた女性から表情が消える。その目にギラリとした危険な光を宿して、彼女はエースを射殺すかの如く睨みつけた。

 

「………ガキの癖に言うじゃないか………その言葉、すぐに後悔させてやるよ!」

 

 女性の目が鋭く光り、猛禽類のようなものに変わる。そして次の瞬間、目を疑うような驚くべきことが起こった。女性の髪が伸び、腕が無骨に隆起し、鋭利な牙が口元から現れる。

 

 一瞬の後、女性の体は猛々しい獣へと変貌を遂げていた。

 

「やっぱり………アイツ、あの子の使い魔だ!」

 

「「使い魔?」」

 

 ユーノが確信を得たように叫んだ。僅かに目を見開いていたエースと、言葉をなくしていたなのはがそれに反応する。狼のような四足の獣となった女性は、今までと変わらぬ声色で誇らしげに語り出した。

 

「そうさ、あたしはこの子に作ってもらった魔法生命。製作者の魔力で生きる代わりに、命と力の全てを掛けて守ってあげるんだ」

 

「よくわかんねェが、あれも魔法なのか。面白ェな、まるで動物系(ゾオン)の能力者だ。イヌイヌの実、モデル(ウルフ)ってとこか?」

 

「エ、エースくんの世界って、ああいう人もいるんだ………というか、イヌイヌの実って………前に説明された時も思ったけど、悪魔の実の名前って結構安直なんだね………」

 

 なのはが若干引き攣った顔で言った。それにはユーノも同意見のようで、コクコクと頷いている。そんな二人分の驚愕とカルチャーショックを尻目に、狼となった女性が傍らに佇む少女に声を掛けた。

 

「先に帰ってて、すぐに追いつくから」

 

「………うん。無茶しないでね」

 

「オーケーッ!!」

 

 頼もしい叫びを上げながら、四足となった女性が地を蹴って疾駆する。さすが獣型だけあって身のこなしは軽く、そして驚くほど素早い。エースはそれを見とめると、二人を守るように数歩前に飛び出た。

 

「来るぞ!(ユーノ、お前確か場所を変える魔法が使えたよな? そいつの準備、頼むぜ!)」

 

(て、転移魔法を? わ、わかった! 起動まで七秒かかるから、それまで時間を稼いで!)

 

 ユーノがなのはの肩口から飛び降り、式の構築を開始する。エースはそれを横目で見て笑みを零しつつ、凄まじい速度で走ってきた彼女に対峙した。前面に出した右腕に力を溜めるように絞込み、腰を落として構える。

 

「こっからは通行止めだ。お嬢ちゃんには退場してもらうぜ」

 

「出来ると………思ってるのかい!」

 

 言葉より早く、赤い狼が飛び上がる。上段からこちらを攻撃するつもりらしい。エースはそれにニヤリとした笑みを零し、正面から来る彼女を見据える。

 

 力を込めた指がパキリと音を洩らし、篭った熱がその輪郭を揺らめかせた。

 

「ああ、おれ達が用があるのはその子だからな。悪ィが、ちっとの間下がっててくれよ………〝炎幕(えんまく)〟!!」

 

 声が走り、その手から炎が迸った。エースは宿った炎をそのままに、刀を引き抜くが如く腕を振るう。空を掻くようにして描かれた炎の軌跡はみるみるうちに巨大になっていき、一瞬のうちに大きな布のような形をとった。

 

「うわっ!?」

 

 いきなり出現した炎に、突撃している身体に急停止を掛けるが既に遅い。自ら速度を落としてしまったことも手伝い、自分の正面に展開された炎によって、彼女はその勢いを完全に殺されてしまった。同時に絡みつくような炎に四肢を拘束され、紅の揺らめきが彼女の視界を奪う。

 

「あ、あつ、(あつ)っ!! な、なんだいこの炎はっ、うあちち!?」

 

「―――! アルフっ!」

 

 炎の戒めに捕らわれた使い魔を見て、主の少女が声を上げる。狼となった女性は振り払おうと身体を捩るが、炎とは思えないほどの強靭さに遮られ、なかなか抜け出すことが出来ない。その時、盾のように張られていた炎から突如として腕が飛び出し、彼女の喉元を体毛ごと掴んだ。

 

「うっ!?」

 

 同時に炎が割れ、腕の主が露になる。その相手は言うまでもなく、強い光を持つ瞳と自信満々な笑みを浮かべるエースであった。そのまま彼は身体を弓のようにしならせ、全身に力込める。

 

 そして、

 

「七秒だ。ユーノ! あとは頼んだ、ぜっ!!」

 

「うわあっ!?」

 

 右手に掴んだ彼女を地上に向けて思い切り投擲した。呼応するように、その先にいたユーノが緑色の光を放つ魔法陣を展開する。

 

「任せて!!」

 

 獣型の女性が接触するのと、ユーノの転移魔法を発動したのはほぼ同時だった。淡い緑色の光に包まれ、大きさの違う二匹はその場から消える。おそらく離れた場所に移動したのだろう。

 

「うし、終わり」

 

 スタン、とエースの降り立つ音がやけに大きく響いた。これでしばらくは時間が稼げる。あの狼の相手をユーノ一人でやらせるのは少し厳しいかもしれないが、逃げることに徹すればその限りではないはずだ。

 

「待たせちまったか。ようやく嬢ちゃんの番だぜ」

 

 打ち鳴らすように数回手を払い、エースは少女へ視線を移す。水を向けられた少女は、整った眉を一度だけピクッとさせた後でエースを見やった。

 

「アルフをあんなに簡単にあしらうなんて………前に戦った時も感じていたけれど、やはり素人じゃないみたいだね」

 

「まァな。そこんとこが分かってるってことは、それなりであってもちゃんと訓練は受けてたってことか。ま、ついでに今の嬢ちゃんじゃ勝てねェってことを加えられれば、文句なしで満点回答だったが………さて、相棒はいなくなっちまったみてェだけど、どうすんだ?」

 

「……………」

 

 一度目を閉じ、少女が息を吐く。数秒かけてゆっくりと吐き出される息。それは、余分な感情や雑念を斬り捨てる儀式だ。戦う者としての。

 

 そして再び目を開けたとき、彼女の瞳から迷いは消えていた。鋭く細められた目は戦意に満ち、無言で得物を構えてくる。エースは彼女の覚悟を感じ取り、内心でほくそ笑んだ。

 

「へ……やっぱり引く気はねェ、か。上等だ、おれもここなら存分に戦える。勝った後で事情を聞かせてもらうからな」

 

 拳を握り締め、構えを取るエース。対する彼女もいつでも動けるように膝を落とし、圧迫させたバネのように身を屈めた。

 

 すっと、空気が澄んでいく。一触即発の状況に、森から音が消えかかる。だが、お互いに仕掛ける時を窺っているその最中、その前に出てくる影があった。

 

「………待ってエースくん」

 

「なのは?」

 

 相手に意識を割いたまま、エースは自分の前に出た彼女をちらりと見やる。なのはは相棒のレイジングハートを握り締めていた。

 

「私に、やらせて………」

 

 珍しくハッキリと告げた彼女に、エースは少しだけ驚く。彼女がこうも主張をするのは初めてだったからだ。しかし、自分の思うところは伝えねばなるまい、とエースは口を開いた

 

「なのは………けどお前は……」

 

「お願い、エースくん」

 

 再びの強い声が、彼女の口から発せられた。

 

 此方を見つめてくる目は本当に真剣だった。遊びとか好奇心では決してない、彼女なりの覚悟の光。折れるまで諦めない頑固さも半分ほど混じっているが。

 

 体に漲っていた力が霧散していく。これ以上続けても、きっと不毛な言い合いになってしまうだろう。それを感じ取ったエースは、やれやれ肩を竦めながらと構えを解いた。 

 

「………ハァ、わあったわあった。肩透かし食らったみてェでスッキリしねェが、それがお前の〝意志〟みてェだし………ユーノによると、あの嬢ちゃんのも非殺傷とかいう便利なヤツらしいから、危険も少ないしな。まァ、気が済むまで好きなようにやって来いよ。お前らの〝戦い〟、おれがちゃんと見届けてやる」

 

「………ありがとう、エースくん。わたし、頑張るから」

 

 なのはは微かに笑うと、お礼をいいながら歩き出した。苦笑するエースの横を通り過ぎ、その前に進み出てレイジングハートを両手で構える。黒の少女は向かい合うなのはと下がったエースを交互に見据えていた。

 

 見かねたエースが肩を竦め、彼女に向かってはっきりと宣言する。

 

「心配すんな。おれは手を出さねェ。女同士っつっても、もし戦うことになりゃ一対一の〝決闘〟だからな、端から手を出すのは許されねェだろ。それに〝男〟が一度口にしたことだ、後からそれを撤回するなんて真似を誰がするかよ。もし手を出したら、その場でそっ首叩き落してくれて構わねェぞ。必要なら、今ここで腕の一本でも賭けようか?」

 

「い、いえ、そこまで言うのなら信用します………」

 

 無造作に左腕を掲げたエースに、少女が少ししどろもどろになりながらも納得した。本気を示すのは良いが、スプラッタ映画さながらの状況になっても困る。なのはは相変わらずの彼の態度に苦笑いを零していたが、キリッとした顔で目の前の少女を見つめた。

 

「現時点でもB以上の戦技能力を持つ協力者、結界と強制転移魔法を扱える使い魔………いい環境に恵まれている」

 

 金髪の少女が静かにかつ淡々と言った。まるで分析した結果を提示するだけのような、感情のない声。そんな彼女の台詞、正確には含まれていた言葉に、なのはは眉間にしわを寄せて反論した。

 

「それは違うよ。エースくんやユーノくんは協力者とか使い魔とかとは違う………そんなことのために私は一緒にいるんじゃない。二人とも、私の大切な友達だから!!」

 

 なのはの言葉に少女の目が僅かに動く。それを感じ取ったなのはは、己の内にある意見を彼女にぶつけた。

 

 自分は戦いたくない、できれば話し合いでなんとかしたい。なのはの存在を敵と断じる少女に対して、それを簡単に決めたいためにも考えを交わす場が必要なのだと。一生懸命に言葉を選びながら少女に問いかけるなのはを、エースは離れた場所から見守っている。

 

 だが、相手の少女は静かに首を振った。

 

「話し合うだけじゃ………言葉だけじゃきっと何も変わらない………伝わらない!!」

 

 鋭く光った目に呼応するように、彼女の姿が消えた。ハッとするなのはの後ろへ一瞬で回り込み、デバイスを横薙ぎにして振るう。 

 

『―――Flier Fin』

 

 主人のアシストをするように、レイジングハートが飛行魔法を展開した。桃色の翼の生えた靴で空中へと跳躍する。なのはは表情を歪ませながら、追いすがる彼女へ言葉を紡いだ。

 

「でも、だからって………!」

 

 認められない。〝戦う〟という事は、相手を〝傷つける〟という事だ。それを同い年ぐらいの相手にするなんて選択肢を、まだ九歳の少女がそんなに簡単に選べるわけがない。

 

 だが、魔導師の少女は止まらない。黒いデバイスをまるで体の一部の如く振るいながら、まだ戸惑いを宿すなのはへと迫った。

 

「賭けて。それぞれのジュエルシードを一つずつ………」

 

『Photon Lancer Get set』

 

 少女の黒いデバイスが魔法発動の構築フェイズに移行する。戦いは避けられない。そう感じ取ったなのはは口を真一文字に引き結ぶと、相棒を正面に構えた。

 

『―――Thunder Smasher』

 

『―――Divine Buster』

 

 お互いのデバイスが主の命に従って、それぞれの砲撃仕様へと変更を完了する。そして自動詠唱の後、収束した魔力が両者から迸った。魔力による砲撃系魔法の打ち合いによって、空気が脈動する。だがぶつかり合った力は均衡し、双方とも勢いが止まった。破壊力はほぼ互角であるようだ。

 

「レイジングハート、お願い!」

 

『All right』

 

 だが、なのはがそれを半ば無理矢理突き崩しに出る。レイジングハートを通して自分の魔力を上乗せし、魔力砲撃の出力を上昇させたのだ。それによりパワーバランスが一気に傾き、金色の魔力は巨大化した桃色の光に呑み込まれ、相手の少女もその中に消える。

 

 エースは、地上から二人の戦いを感心したように眺めていた。

 

「すげェな。この前まで素人だったって話が信じられねェぐらい、思い切りのいい戦いっぷりをしやがる………魔法の火力も申し分ねェ、むしろ過剰すぎるぐらいだ。だが―――」

 

 独り言を途中で切り、さらに上空を見つめる。終息していくなのはの砲撃をその目に宿しながら、エースの眉間に皺が寄った。

 

「(だが―――それじゃダメだ、なのは………自分の中が揺らいだままじゃ………まだ、その子にゃ届かねェ………!)」

 

 エースの瞳が険しく歪む。その表情が変化したのと、なのはが『彼女』の接近に気付いたのはほぼ同時だった。

 

『Scythe Slash』

 

 なのはの頭上から、金色の髪を棚引かせながら彼女が飛び込んでくる。驚いた反動だとはいえ、動くことが出来なかったことは致命的である。恐怖から目を瞑ったなのはの首には、光で構成された刃が押し当てられ、あと数センチといったところで止まっていた。バチバチと背筋を震わせるような音が耳朶を焼く。

 

 するとそれに呼応するように、レイジングハートからジュエルシードが一つ解放された。

 

「っ!? レイジングハート、何を………!?」

 

 なのはが相棒の行為に驚くが、フェイトは静かに「きっと主人思いのいい子なんだ」と告げる。そしてそれは正しい選択だった。現状、ああするしかなのはを助ける方法がなかったのだから。

 

 戦気が霧散する。解放されたジュエルシードが光を放ちながらフェイトの手の中に収まった。

 

「勝負あり、だな。予想通りっちゃその通りだったが」

 

 成り行きを見守っていたエースが、独り言を零す。実際彼にはこの展開が予想出来ていた。少しばかり魔法が扱えても、元は素人同然、戦いの「た」の字も知らなかったなのはでは、並程度に実戦慣れした相手には敵わない。しかしそれでも彼女を行かせたのは、彼にこれから先のことに対しての考えがあったゆえであった。

 

 と、ユーノが引きつけていた女性―――今は獣姿だが―――が、エースの傍へ優越感に浸るような仕草でやってきた。そして光に包まれると、彼女は元の姿へと戻る。

 

「さっすがアタシのご主人様! 選択を完全にミスったね。二人がかりでいけばいいのに、あんなちょっと魔法が使えるだけのガキんちょなんかに任せるなんて。目を瞑ったって負けるわけないのにさ」

 

 腕を組んでいたエースに、人間姿の女性がいやらしい笑顔で言葉を放ってくる。エースは彼女の方を一瞬だけ見やり、そして少し前方に佇むなのはを一瞥した。

 

「ああ。確かに、なのはじゃ勝てねェだろうよ」

 

 迷いの無い同意。台詞だけ聞けばかなり辛辣であろう。女性も、少し驚いたような顔になる。だがそれに反して、彼の口元には自信に満ちた笑みが浮かんでいた。

 

(『今』は………な)

 

 背を向けた黒の少女を見ながら、エースが言葉と心の両方で静かに告げた。しかし言葉になどせずとも、端に覗かせたその真意はありありと浮き出ている。それを感じ取った女性は、むっとなりながら顔を背けて歩いていった。

 

「待って!!」

 

 なのはは去っていく少女の背中に声を掛ける。少女は僅かだけ顔を向けると、感情を排した声色で告げた。

 

「出来るなら、私たちの前にもう現れないで。もし次があったら、今度は止められないかもしれない………」

 

 エースの眉がピクリと動く。突き放すような言い方だが、どうやら好きで戦っているわけではなさそうだ。なのはは一度息落ち着けると、少女に向かって再び声を上げた。

 

「名前! 貴女の名前は………!?」

 

「―――フェイト。フェイト・テスタロッサ」

 

 視線を一度も向けずに静かに告げた少女、フェイトが歩いていく。その後ろをスキップするような軽い足取りで、先ほどの女性が続いた。なのはは何かを言おうとしているが、うまく言葉に出来ずにいる。だが、そんな彼女の後ろから歩み寄ってくる者がいた。

 

「ああ、行っちまう前に一ついいか?」

 

 この戦いの傍観者、エースである。去っていくフェイトへと、エースは戦いが終わって初めてとなる声を掛けた。その声に遮られるように、彼女は進めていた歩みを止める。

 

 先ほどと同じく振り返ることは無く、ただ抑揚のない声を発した。

 

「―――何?」

 

「最後の一撃………なのはを傷つけないでくれてありがとよ。今日はこれで終わりだが、きっとこの先でも何かある。まだ終わらねェ………そんな気がする。だから……〝またな〟フェイトの嬢ちゃん」

 

 エースはそう言って、背中越しの彼女に笑いかけた。その言葉にフェイトの肩が僅かに揺れる。だが少し動きを止めたあと、彼女は長いマントを翻して飛び去っていった。

 

 その姿が瞬く間に夜の闇の中へ紛れ、見えなくなる。エースは彼女が去っていった方向を見ながら、ふぅと息を吐いた。

 

「負けちゃった………ごめんね、エースくん」

 

 彼女が去ったあと、なのはが申し訳なさそうな顔をしながら近づいてくる。普段のおちゃらけ具合を排したエースが、目を細めながら聞き返した。

 

「何で謝るんだよ」

 

「だって………私が出しゃばらないで、あのままエースくんに任せておけば、勝てたかもしれないから………」

 

「じゃあ、お前は後悔してるのか?」

 

「………………ううん」

 

 少し考えた後、なのはがはっきりとした意志を表して告げる。その表情に悔しさはあれど、僅かたりとも翳りはない。エースはそれを表情から見て取ると、人懐っこくニカッと笑った。

 

「だったら別に問題はねェじゃねェか。話し合いたいってのがお前の〝信念〟だったんだろ? それに、あの嬢ちゃんと正面きって向かい合うために一人で戦ってたのは結構カッコよかったぜ。心意気もちゃんと伝わってきたしな。次は勝つ。今はそれでいい」

 

 エースがなのはの言葉に肯定の意を告げる。同意するように、それまで黙っていた彼女らの相棒がピカピカと光を放った。

 

『No problem , my master』

 

『マスターとレイジングハートの仰るとおりです。落ち込むことはありません。勝敗は戦う者にとって常に付きまとうもの、結果は必ず出ます。それに勝った試合より、負けた試合の方が得るものも多いというではありませんか。自信を持ってください、なのは』

 

「エースくん、レイジングハート、エール………にゃはは、ありがとね………」

 

 なのはは少し吹っ切れたように笑いながら、視線をエースと同じくした。森の入り口の方からは今まで女性を引きつけていてくれたユーノが駆けてくる。敗北が残したものは僅かな悔しさと痛み、そして〝次〟をより強く願うようになった自分の心であった。

 

 

 

―――TO BE CONTINUED...

 

 

 




第八話でした。

補足的に今回初出となるオリジナル技の説明をば。



炎幕(えんまく)
 炎を薄く延ばして放出する技。炎で出来た巨大な布のような覆いで相手の視界を奪う性質と、炎にはないネットのような拘束能力を併せ持ち、相手を捉えたり視界を封じて不意打ちをしたりと、この技単体よりもそこから派生する戦術効果を高める補助的な技である。実質的な攻撃力は低いものの、あらゆる局面において応用を利かすことができる。また込められた力は少ないが仮にも炎であるため、何の防御能力も持たない人間では大火傷をするほどの威力を持つ。



それでは、また次回でお会いできることを願って。

再見(ツァイツェン)
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