◎本作品を読まれる上での注意事項
・ボーイズラブ要素がありますが深刻なアレではないのでコメディとしての一要素とお考え下さい。
・たまに何言ってんだかちっとも分からん事態が生じますが巧みな想像力及び妄想力でナイスフォローしてください。
・主人公の外見における可愛さ指数は振り切れておりますがうまく言葉にできない。
僕の名前は、青柴優希。
どこにでもいるフツーの男の子です。
突然ですが、困ったことが起きてしまいました。
あ、そうだ。
その内容を話す前に、僕の身の上について話を少々。
前述の通り、僕は普通の子供だ。
他人と違うところを強いて挙げるならば、手足の隅々までこんがり焼けた褐色の肌と、肩まで伸びたやや長めの髪だろう。
この外見になったきっかけ、というほどのものはない。日々野を駆け日が暮れるまで遊び呆けていたら、肌は程よい褐色に染まり髪は肩まで伸びていた。
まぁ、床屋で切りに行くのも面倒くさいし、気が向いたら切ればいいかと思って放置していた。かけっこするには髪が若干邪魔だったけれど、適当に輪ゴムでしばれば問題なかったし、そんなに気にならなかった。
親が男らしくないから切れと言ったり周りのクラスメートが女みたいとはやし立ててきたら、僕もちょっとは気が変わったのかもしれない。あいにくと親はその辺自由な人なので、似合ってる似合ってると褒めそやし、友人たちも可愛い可愛いと手放しで評価してくれたのも、原因のひとつだろうか。
子供はなんだかんだで褒められると調子に乗っちゃう生き物なのである。
一番の理由は、周りの男の子と自分は違うという、トクベツな感じが良かったっていうのも、あったのかもしれない。
中学に入っても適度な長さを維持し、どうせだったら大人になるまでどんくらい伸びるカナーなんて呑気に構えていて、残り一年もない中学校生活を満喫しようと日がな遊びほうけることだけが脳を占めていた。毎日特に不自由もなく、もうすぐ高校生かーと胸を躍らせていた。
そんなある日。
さぁ今日は何して遊ぼう? と意気揚々と下駄箱に向かうと、見慣れない白い便せんが靴の上に乗っかっているのに気づいた。
その時、僕に電流はしる。
これがいわゆるラヴ・レターというやつか! そうなのか!
やっと青い春つまり青春が訪れるというのか!
いらんほどテンションアゲアゲになった僕は走り出しそうな足を落ち着かせ、乱れそうになる息を整えながら指定された校庭の隅に向かうと、そこにはすわ美少女が照れた表情で待っていた---
なんてことはなく、なんか見慣れた学ランが一人立っていただけだった。
はぁードッキリかよ、超ガックシ。
まあここまで来たんだ、せめて文句のひとつくらいぶつけても構わんのだろう? 僕は鼻を鳴らして前へ進んだ。
木の下にいた少年がこっちに気が付いた。きっとうまくいったみたいな顔で待ってんだろうなぁ。ムカついたら一発殴るのも辞さないぞ。なんて思っていたけれど、見知らぬ少年はどこか緊張した面持ちで待っていた。
あれ。なんか予想と違うような、様子がおかしいような・・・。
首を傾げてから、どういうことか問いただそうと口を開いた。
その直前、機先を制した少年が、開口一番、
「青柴。好きだ。付き合ってくれ」
大胆かつストレートに、告白されました。
……?
…………???
・・・・・・・・・・・・・・・うん、ちょっと待って。
今の、何?
好きだって聞こえたんだけど。
もしかして、僕、告白された?
え、ちょ、マ? 魔材? そしてマジ?
どういうことだ。冗談か? 悪ふざけか? 手の込んだ罰ゲームか?
そして貴様は誰だ。
「・・・・・・」
金髪少年は立ち尽くす、無言のままに敢然と。って言うとカッコいいよね。
ハイすいません真面目にやります。
いや真面目も何もないんだけど。
僕の期待していた美少女からの告白は無かった。悪い意味で期待とは違う結果が待ち受けていた。
現実って、厳しいね(涙ホロリ
で。
この爆弾発言投下してソワソワしているパツキン男は一体僕をどうしたいっていうんだろう。
つーか、告白の対象を間違っているんじゃないか? 名前は一緒だけど別の人でした的な。
とはいえ、青柴なんて珍妙な名前の人物はこの学園には二人といないし、僕と容姿がうり二つな人間なんてどれだけいることやら。
しかし僕男だぞ。見たら分かるだろうが。
あと。
当たり前の話だが、僕は女装しているわけでもないし、女口調というわけでもない。
平凡な学ランと、至って普通の標準語を使っている。
体躯は細身で、顔立ちは幼いし、女顔ではあるものの、れっきとした男だ。
胸は膨らんだりしてないし、男の勲章が股間にしっかりついている。
言動もナヨっとしていたら勘違いを加速させていたこと請け合いだろうが、こちとら少し前まで元気いっぱいのワンパク小僧だったのである。言葉遣いも当然ヤンチャな子供のそれに等しい。本も読んでたから無駄に語彙力はあるけれど。
冷静になろう。慌てると事態は悪化の一途、相手の思う壺。
まず状況を整理してみよう。
目の前にいる少年は、確か同い年の軽部くんだ。
派手な金髪に、日差しを受けてギラつくピアス。
同年代よりも大人びた角のある顔立ちと低めの声。
体格も適度に整っていて、男性特有の筋肉質をわずかに体現している。
パッと見、よく道を歩いてそうなチャラい感じの少年である。
軽部くんは、彼は有名人だった。いわゆるイケメンというやつで、女子の会話の中でよく軽部くんの名前が挙がっているのを耳にした記憶がある。
成績はそこそこ良く、運動神経は抜群。部活に精を出すよりも遊ぶことが楽しいのか、特定の部活に身を置かず、たまに色々なところへ顔を出ししては助っ人として活躍している。
また交友関係は広いようで、時折廊下ですれ違うといつも誰かと一緒。たいていは女の子で、複数人を連れて下校している姿が目撃されるのもしばしば。
嫉妬故のものか、それとも普段の言動のせいなのか、女の子をとっかえひっかえしているだの、二股三股は平然としていると信憑性の高い噂は絶えない。
さすがにそこまでは、と思う。思いたい。思うのだが、どことなく浮ついた、軽いイメージはぬぐえない。
世間でいうところの今風のチャラ男、僕からすれば人生謳歌しているタイプの人ってカンジ。
教室の真ん中で誰かと談笑している人間と、暇さえあれば外で遊び回っている人間。言うまでもなく軽部くんは前者で僕が後者。
同じ学舎にいるけれど、生きている世界がだいぶ違う。
面識なんて当然ない、まさに別次元の人だったのだ。
そんな人が何をトチ狂ったのか僕に告白するなんて想像できるだろうか。
「えっと、確か同じクラスの軽部くん、で間違いないよね?」
「そうそう! 覚えててくれたん?」
ぱぁーっと顔を輝かせる軽部くん。
アルェーなんかいらん好感度が上がってね? ひょっとして好きな子から名前呼ばれるだけで嬉しくなっちゃう系男子で候?
いかん落ち着け。
これ、ひょっとしてこれは僕の知る軽部くんではなく別人なんじゃ、という僕の淡い期待は会話開始5秒で粉砕玉砕大喝采。
できれば君は僕のイメージ通りの、女の子を囲っているダメなチャラ男でいて欲しかった。
まずいまずいまずい。黙っていても事態は進展しないどころか悪化の一図をたどるのは目に見えている。今もキラッキラの瞳で僕を見つめる軽部くんはもうオッケーもらったも同然みたいな顔である。お前頭冷やして常識ってもんを学びなおしてこいそして二度と戻ってくんなくんなくんなと言いたかったが、それは流石に人間の対応としてどうかとはばかられた。
「ごめん。ちょっと、頭の中で整理させてもらっていいかな? 混乱しちゃってて・・・」
「おー。ぜんぜんオッケー」
ニッと力強い笑みを浮かべる軽部くん。
うーん、なんという爽やかイケメン。同じ男から見ても素直にカッコイイと思う。
容姿的な問題ではなく、雰囲気的な話。一緒にいる女の子はさぞ楽しげな日常を送れているに違いない。
そんな人が僕に、告白? 何故? 意味が分からない。退屈な日常生活に刺激を求めるようになったか。女に飽きたから今度は男か。もしそうだとしたら全男子生徒のために僕は「皆さん! 軽部くんは危険なホモです! 知被かないよーに」と大声で叫ぶも辞さない。逆恨みで地獄を見そうだけど。
あ。
ひょっとして、やはりこれは罰ゲームか何かかな? 女子との遊びの一環で僕に告白するとか。
遺憾ながら、こんなナリなので女の子と勘違いされることはよくある。
今回のは性質の悪いイタズラで、白羽の矢が突き刺さったのが僕ということではなかろうか。とんだ迷惑である。
となると、物陰に誰かが隠れて様子をうかがっている可能性が高い。高いのだけれど、都合の良いことにここは校庭の端っこにある伝説の木の下。すぐ近くで隠れられそうなところは最低高さ5メートルの木の枝の上しかないので、そうなると必然的にニンジャしか登れないため僕の学校にニンジャがいるということになる。訳が分からん。
「その顔は、なんで告白されたのか分からないって顔だな?」
「分かるわけねーだろこのスットコドッコイ」
罰ゲームにしても趣味が悪い。
同性からの告白を受ける者の反応として考えられるのは、相手の正気を疑う、もしくは最初から冗談だと決めつけるかのいずれかだろう。僕だってそうだ。こんな性質の悪いイタズラを仕掛けるなんてちょっとどうかと思うよ。
・・・イタズラで、あって欲しいなぁ(切実
「まぁ、青柴は俺のこと知らねーもんな。俺がお前のこと知っててお前が俺のこと知らないのは、たしかに知っとかないと不平等ってやつだよな」
「いや結構です」
「なら、俺のことを教えてやるよ」
「いや結構です」
「お前を好きになった理由をな」
「結構だっつってんだろ」
軽部くんはまるで聞いちゃいねぇ。
「まぁ自慢じゃないんだが、俺はモテる」
「うん知ってる」
「今まで付き合ってきた女は数知れず、気に入った女は口説き落とす。何もしないでも女の子たちが寄ってくるからその手の付き合いがなくなることはなかった。思いのままにわがままに、今までいろんな女の子と遊んできたが、残念なことに、この子はイイ! ってピンとくる子がいなかった」
「あ、そッスか」
「最後の手段っつーことで生徒名簿に載ってる女子の中から適当に指さしで選んで付き合ってみても、やっぱり長続きしなかった」
「ルーレット感覚で決めてんじゃねーよ!」
女の子に不自由してません自慢が始まって僕は帰りたくなった。
うん。なんか、やっぱり噂通りの遊び人だねー。
この時、僕は内心のんきにあははーと愛想笑いを浮かべていた。
「ところがある日、俺は運命的な出会いを果たした」
あ、真面目な顔になった。
「ある日の放課後。俺が机の中にしまいっぱだった携帯を取りに戻ろうと教室への階段を登ろうとしていたとき、上から誰かが駆け下りてきた」
一瞬で思い出して僕の顔から血の気が引いた。
「よっぽど慌ててたんだろうな。階段をおりるというよりロックマンが崖ジャンプするような思い切りのよい飛び方で、踊り場に着地した次の瞬間には三角飛びの要領で壁をキックしてから階下へとダイブしてきた」
「その解説は必要なくない?」
何故挟んだんだ。
「踊り場から飛んだせいで、下から上がってくる俺との衝突は避けようがなかった。ドロップキックみたいな軌道で俺に激突した直後、一緒になって下へと転げ落ちそうになったが、幸いにも飛び込んできたのは小柄なヤツで、俺の厚い胸板と見事な筋肉によってしっかりとナイスホールドしていた」
「最後のいらん説明やめろ気持ち悪い!」
「そして、大丈夫かと声をかけようとして・・・目と目が合った瞬間、好きだと気付いた」
「歌うなよ」
「まさに天にも昇る思いだった」
「目を開けたまま死んでないかなそれ」
「あの時、俺は人生で一番ドキドキしていた」
「ドキドキはそれつまり動悸だよな」
誰だって階段から落ちそうになったら心臓バックバクになるわ。
「これが俺の初恋だった。これが俺の、初恋だった」
「なんで二回も言ったし」
「---と、いうわけで、告白しようと思い至ったわけよ」
「まるで意味が分からんぞ!」
軽部くんは満足げに、ふぅと息をついた。すべて語り終えましたみたいな顔してんじゃねーよ。おい、ちげぇーからな? 叫んだのは間違っても照れ隠しとかじゃねーからな? だからその分かってる分かってるみたいなしたり顔で頷くなよ。殴りたいこの笑顔。
ブッ飛んだ内容だっただけに突っ込みどころ大爆発だったけれど、要約するとつまりこういうことらしい。
ホモから始まる学生生活 ~ドロップキックで始まる、恋のヒストリー~
このタイトルコールだけでどれだけの視聴者が頭痛と吐き気を催すのだろうか。僕は知りたくなかった。
えー、いや。えぇええええええ・・・。
ちょっと、これどうしたらいいのー・・・?
人生初の事態に僕は混迷を極めた。当たり前である。とりあえずこいつをぶん殴って記憶リセットさせた後この忌むべき記憶が染みついた魂もろとも浄化されたうえで異世界転生してホモがいない理想郷を作りたい。
僕が困惑している様をどう勘違いしたのか、軽部くんは、おっ? と口を丸くした。
「返事が無いということは、答えはイエスってことでいいんか?」
「今、お前の脳内偉人は何を根拠に『これはオッケーもろたで!』と言ったんだ」
やばい。これガチじゃないか。ガチガチのガチだ。今ここで『ん? 今何がガチガチなんだって? 局所? 怒らないからおじさんに言ってご覧フフフ』とか考えた人は帰ってくれ。
む。待てよ待てよ・・・?
まさかと思うけど、ひょっとしてこの人、僕が男ということを知らないんじゃなかろうか?
漫画でよくある男装女子みたいなヤツだと勘違いしてない? 女顔だし実は、みたいな。
いや、現実でそんなのあり得ないし、そんな愉快な勘違いしているとは思い難いけど、そういう理由がないと僕に告白するなど常軌を逸した行いであるし正気を疑う。もし勘違いしているだけだとしたら、誤解は早いうちに説いておかねばならない。
「いいですか、聞いてください」
「おう」
「僕は、男です」
「ああ。知ってるよ」
「そっか。なら良かったってそんなわけないよね!? おかしいだろ!」
「どうして?」
「君、今まで女の子と付き合ってたんでしょ!? そういう趣味はなかったんでしょ!? フツーの人なんでしょ!?」
「そーだよ」
「じゃあ最後まで貫き通せよ! 普通でいてくれよ頼むから!」
「その辺の連中は普通なのかもしれないが、俺はスペシャルなのさ」
「何ドヤ顔してんじゃこらーっ!」
2000回か? 摸擬戦か? 続編での彼の活躍に期待。
この人、彼女いただろうに。何股かけてるかで賭けが行われるくらいいたじゃないか。
僕だって耳にしたことがある。軽部くんがリアルハーレムを形成しているという噂。実際彼は常に女の子を侍らせて、片手では数えきれないくらい何股もかけていたそうな。
そのせいで同級生だけでなく先輩後輩、挙句の果てには他校の生徒からも陰口を叩かれていた。うざい奴だ死ね、とか、ああいうのがいるから俺たちの評判が下がる、とか。所詮持たざる者の妬みでしかなかったけれど。
一億五千万歩譲って、彼女はいないにしても、あんだけ多くの女の子に慕われてたんだから、恋人を作る選択肢がより取り見取り黄緑白みどりだろうに。安全地帯を歩いていたのに何故核地雷の中へホップステップ飛ばして大ジャンプしようというのか。
僕の言いたいことは彼にも伝わったらしい、軽部くんはフッと腹立つくらいニヒルな笑みを浮かべて言った。
「ああ。それなら全員フっといた」
「嘘だろ!?」
ハーレム王国崩壊のお知らせ。
「安心しろ。ラインとかじゃなくて、昨日までにちゃんと一人ひとりに会って、しっかり謝っといた」
「あの、僕には何も安心できる要素ないんだけど。ちなみに興味本位で聞くと、なんて言って別れたの?」
「『本当に好きな人を見つけた。この気持ちを大事にしたい。だからほかの人と真剣な付き合いはもうできない、ごめん』って」
これでもかってくらい誠意溢れる別れ文句だった。
「あー、えっと。相手は誰かとか聞かれなかった?」
「聞かれたぞ? 同じクラスの青柴だって言っといた」
「終わった・・・」
何故馬鹿正直に名前を提示したのか、これが分からない。僕はホモの考えが分からない。分かりたくもないが。
どうしよう。明日からホモと元カノから色々なモノを狙われる毎日になりそうで、結論を言うと今すぐ死にたい。
「あ、へーきへーき。お前の名前出したら皆『青柴君なら・・・』って納得してくれた」
「なんでだよ!」
おかしいだろ! どうして皆許容できるんだ!? 彼氏が男に鞍替えしようとしてんだぞ! 止めろよ!
BL的な需要がありそうって? 貴様らそれでいいのか?! いいのか!?
「本当は、黙ってようって思ったんだ。話しかけようにも今まで話したことなんてなかったし、迷惑かもって思ったら声かけらんなくて、どうしたらいいか分かんなくなっちまった・・・」
おい、なんでここにきて謙虚になってんだ。最初からそのスタイルを持てよ。
「でも話しかけなきゃなーんも変わらねぇし、それに他のヤツに先越されたくないし、どうせなら思い切ってイっちゃおうかなって」
「逝ってしまえば良かったのに」
「やっぱ男は度胸だろ! 思い切っていった方がいい時もあるって!」
「永遠に秘めてくれそしてそのまま土に還れ」
「それは一緒の墓に入ってくれという意味でFA?」
「行間で飛躍させすぎーっ!」
「俺はもう、己の素直な気持ちを偽りたくねぇんだ。これからは自分に正直に生きるんだ・・・!」
「おいおいおいちょっと待ってくださいよ貴様。伝説の木の下でホモ告白からのノンケ卒業宣言とかダイナミックすぎるだろ」
「大胆な告白は男の子の特権だって大多のヤツが言ってた」
とりあえず、大多くんなる人物は後で一発〆よう。
成程。そろそろ考えがまとまってきたぞ。
現実を直視しなければならないとようやっと認識し始めただけともいう。
突っ込み疲れて息切れしかかったせいで逆に冷静になったのは誠に遺憾であるが。
ここでひとつ、結論を出してしまおうと思う。
つまりその、なんだ。
何が言いたいかっていうと。アレだ。
彼は本当に、僕のことが好きらしい。
ネタとかギャグじゃなく、本気で。
……………。
いやいや。
いやいやいやいや。
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!
ねぇ待って。待ってよ。お願いだから落ち着こうよ、お互いに。
僕はこんなナリだ。見た目はまぁ女の子に見えないこともない。線は細くて髪は眺めで童顔だから勘違いされてしまうのもむべなるかなといったところ。
けど、女の子ではない。男なんだ。
そして、僕は女の子が好きなのだ。当たり前である。
・・・どうする。どうしたらいいんだ。答えておくれ僕の脳内偉人・・・!
---いや、考えるまでもないじゃん。断れよ。おホモだちになりたくないなら。
結論は秒で出た。
そうだ、何を悩む必要があるんだ。彼には悪いが、僕はノンケなのでお付き合いはできませんでいいじゃないか。大人しくとっとと彼女とよりを戻すよう頑張ってもらおう。僕も今度から階段をロックマンダッシュするのやめますので勘弁してください。
「あ、返事はまた明日にでも聞かせてくれればいいから。それじゃまたなー」
「あ、ん、んん? じゃあそうしてくれると助か・・・って、おい! 待て待て何話すべきことは話したから任務達成みたいな顔して帰ろうとしてんだこの浮かれポンチ! 話聞けよ! 受ける気は無いんだってー! 聞いてんのかおーい!? あ、ちょっ待っ、戻れこらー!」
軽部くんは言いたいことだけ言うと、校門の方へスタスタ行ってしまった。
見事な去り際であった。持てる限りの爆弾を投下してすぐ立ち退くこの手際の良さ、さすがは一級モテ師。多分付き合ってた子たちもフラれた直後ポカーンとしたまま置き去りにされたに違いない。
今の僕のように。
「・・・・・・・・・・えぇー」
伝説の木の下に取り残された僕。その手はむなしく虚空をなでるばかり。
どうしよう。嵐のように過ぎ去っていったから、ちゃんと断れなかった。
これがヤツの計画だとすれば、見事目論見通りうまくいったということに。
冗談ではない。
僕は男と付き合う気など毛頭無い。女の子が好きで女の子と付き合って、女性と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんなフツーの願望がある。
そこに男が介入する余地など無い。
無いったら無い、無いのだ。
ああ。
どうして、僕がこんな目に遭うんだろう・・・。
そんな切ない思いが胸中を駆け巡る。
当然答えなんて、誰も教えてはくれないし、教えられそうな人物はさっき帰りやがった。ガッデム。
「とりあえず、明日ちゃんと断ろう・・・」
いらん疲労を抱いてしまった。今日は遊ばずまっすぐ帰ろう。
やたら重く感じる鞄を背負い込み、夕焼け道を一人歩いて帰るのだった。
『それに他のヤツに先越されたくないし』
この言葉に引っ掛かりを覚えなかったことを、後々僕はすこぶる後悔するのであった。