神様を殴る為に神を目指すのは間違っているだろうか   作:-恵-

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フィンの想い

生まれ落ちてから42年という歳月、それらの中で得たものは今でもはっきりと覚えている。

 

 

0歳児からの記憶が、僕にはある。

 

母親の胸に抱かれていたことも、村の他種族の住民にいつも腰を低くしていた父親の姿も…全て、覚えている。

 

 

 

僕の生まれは…山間部の村里だった。

 

そこでは、小人族(パルゥム)だというだけで不遇な扱いを受けていた。

 

 

どの種族よりも体が小さく、どの種族よりも力がない。最も潜在能力が低いとされる亜人種。

 

多くの種族が混在し生活を営む中で、小人族(パルゥム)は弱者だった。

 

一族の同胞達は皆、他種族の村人から理不尽な要求ばかり押し付けられていた。

 

 

馬鹿にされ、何も言い返さず、時には奪われ、何もかも諦めたように笑い、自身を卑下する両親を幼かった僕は嫌い、唾棄していた。

 

何故知恵を絞らない?何故大きいだけで屈する?何故、フィアナのように立ち向かわない!?

 

両親だけでなく、いつも俯いている同胞達にも苛立っていた。

 

 

僕は…そんな同胞達とは違うのだと示したかった。

 

へりくだることは決してしなかった。

 

 

希少な本がある村長の家で何度も何度も本を盗み読み、知識を増やした。

世界の歴史、村の外の世界、さらにフィアナを始めとした英雄譚を知ったのもこの時だ。

 

書斎で何百冊、何千冊と読み耽り、知識を貪欲に付け続けた。

 

 

そしてある時には頓智を利かせて村人達に一泡吹かせ

一部の者達からは生意気だと言わんばかりに拳や蹴りを食らい、甘んじてみせた。

 

僕は、あんなみじめな両親とも同胞達とも違う。

 

種族の宿命に反発し続ける中、ある転機が訪れた。

 

 

 

それは10歳の時のこと…

 

山に潜む怪物(モンスター)達からの真夜中の襲撃だった。

 

村のあちこちから火の手が上がり、他種族の大人達が怪物(モンスター)と懸命に奮闘する中、僕は奔走した。

 

 

両親の制止を振り切り、いつも己を苛めようとする者達を逃がし、火の手を消して回った。

 

女神として擬人化された、太古の英雄(フィアナ)達のようになろうとした。

 

 

だが…その時の僕は、知る由も無かった。

 

身の程を弁えることも、百の知識が愚かな暴力にあっさりと蹴散らされることも……

 

最後の火の手を消そうとした矢先になって、愚かだった僕はそのことを身を持って知った。

 

 

 

怪物(モンスター)が目の前に現れ、見つかった。

 

消そうとしていた最後の火、その火の粉が飛んでくる。風が髪を揺らす。

 

 

「うおおおおおおおおっ!!」

 

怪物が咆哮と共に僕へ向けて喰らおうとばかりに襲い掛かってくる中…

 

今にも喰らわれそうになった僕を守ったのは…他種族の大人でもなく…それまで嫌って唾棄していた、父親と母親だった。

 

 

 

身を挺し、喰われそうになる僕を庇い、牙に貫かれた父親と母親は血に塗れながら笑っていた。

「無事で…よかった…」と…掠れた最期の声が、耳を刺した。

 

己より強大な怪物に立ち向かい、自分を庇い笑顔のまま命を散らせた両親に、僕は『勇気』という名の『小人族(パルゥム)の希望』を見た。

 

そして我先にと逃げ出す同胞達に、小人族(パルゥム)の絶望を見た。

 

 

その同胞達と同じだと、何故決め付けてしまったのだろう。

 

何故、嫌って唾棄してしまったのだろう。

 

どうして…もっと、ちゃんと話し合わなかったんだろう――?

 

 

 

最期まで愛し気な眼差しを送る両親は、僕の目の前で死んでいった。

 

今更、両親のそれに報いようにも遅い。遅過ぎた。

 

 

嫌って唾棄してしまった…何も、報いられなかった。応えられなかった!

 

自らの、両親を見抜けなかった愚かさを憎んだ。

 

自身を呪った。目に見えるものだけを見て、勇気無き者と決め付けてしまった愚かさを。

 

護れなかった自分の無力さを悔いた。

 

冷たくなっていく中、涙が溢れて零れ落ちていく。

 

 

 

やり直したい。やり直せない。

 

二度と、戻らない。一度過ぎた時間は、二度と戻りはしない。

 

 

何も返せない。返せていない。

 

両親までをも唾棄してしまった、今までの自分を呪った。

 

 

何故…何故……何故っ!!

 

様々な思いが一度にいっぺんによぎり、頭の中がパンクする。

 

 

 

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

滂沱の涙で滲む視界の中、他種族の大人達の手でモンスターが討たれた後、僕は叫んだ。

 

この世に生を受けてから今まで溜め込んできた、初めての「感情の発露」だった。

 

 

大人達から差し伸べられる手を振り払い、涙に濡れた両親の遺骸の前から駆け出し、夜の森を衝動のまま走った。

 

火による影響からか雨が降り始め、時の流れと共に激しさを増していく。

 

 

それでもなお、構わず走り続けた。

 

ただただ走った。走って走って…走り続けた。

 

 

 

走り続ける最中、両親の生前の光景が何度も何度もよぎっては離れなかった。

 

 

「はあっはあっはあっ」

 

「「ディムナ^^」」

愛し気な目を向け、どんな態度を受けようとも…その態度も、優しく接してくれる温かさも決して変わらなかった。

 

 

「はあっはあっはあっ」

 

「また村長の家に行くの?気を付けてね!」

たとえ何も言わなくとも、母はいつも僕のことを気遣ってくれていた。

 

 

「はあっはあっはあっ」

 

「ディムナ!もう少し態度を柔らかくだな?」

「俺はあなたとは違う!」ふいっ

 

「困ったなあ。反抗期か?」汗

「ふふっ^^誰でも通る道よ」微笑

後ろ頭をかいて困った表情を浮かべる父に、母は僕と父に笑いかけた。

 

 

 

「うわあああああああああああああああああああああっっ!!!!!!」

 

泣いて泣いて、走りながらもなお泣き叫び続けた。

 

 

涙が涸れるその瞬間まで、抑えようのない感情のままに…

 

何度転んで傷を負おうとも無視してすぐ立ち上がり、ひたすらに走り、川べりへと飛び出した。

 

 

 

「ぅっ…っ……

 

うああああああああああああああああ!!!

あああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」

 

ただ一人…空に向かって泣き続けた。

 

 

しゃっくりが止まらぬ中、その慟哭は涸れるその時まで…終わることを知らなかった。

 

 

 

一夜が明け、雨も止み…涙が涸れた頃…山頂から光が差し、せせらぎが煌めき、一匹の鮭が飛び跳ねた。

 

 

その時に僕は誓った、一族の再興を…僕を生かした両親に報いる為に……

 

 

 

そして僕は…己の姓名を捨てた。

 

自分の手で両親を埋めた後、彼等に由来するもの全てを返した。

 

両親から授かった、『ディムナ』という名だけを除いて。

 

 

代わりに、自らを『フィン』と名乗った。小人族の言語で『光』を意味する言葉を。

 

生まれてくる新たな命に希望を与える、小人族(パルゥム)の光となること。その覚悟を秘めて。

 

己の全てを、それ(一族の再興)に捧げようと誓った。

 

 

そうして僕は村を飛び出し、4年という修行僧との修行期間を経て

 

プレブリカという街でロキと出会い、野望の邪魔をしないことを条件に眷属となり…今に至る。

 

 

 

彼女(ケイト)との出会いは…女神フィアナが起こしたものだった。

 

 

それに…どこか、似ていた。

 

笑いかけるその様子が、その雰囲気までもが…母に、生き写しだった。

 

滅多に怒らなかったけれど…嫌って唾棄していた僕を、それでもなお愛してくれた。

 

 

散々な目に遭わせ続けていたそれに対して、散々苦しめられてきただろうに…

 

それでもなお「大好きです!^^」と語り「そのお陰で、今までにない希望を知れたから」と言う彼女に、ますます僕は惹かれていった。

 

知れば知るほど…怒る場所も、助けようとする所も…何もかもが…とてもよく、似ていた。

 

 

申し訳なさそうに何度も何度も謝る所も、父を想起させた。

 

家族を守ろうとする姿勢もまた…両親を想起させた。

 

フィアナという生き方に誇りを持ち、熱いほどの勇気をその胸に抱き、最期の瞬間まで…転移及び転生された後もなお、今も貫き続けている。

 

全力で戦ってもなお圧倒的不利な条件で、素手で大立ち回りを演じ、防御と回避と利用に努めて凌ぎ切り、一発として当たることはなかった。

勘にも悟らせないほどに極めたその戦術に、それまでに見たことのない想像も追い付かないほどの努力と研鑽を感じた。

 

 

 

そのことに心惹かれ、運命を感じ、僥倖だとも思った。

 

僕の思い描いていた…理想の人だった。

 

 

嫌われればと思うだけで血が引き、好きだと言われれば心が見るからに弾み…

 

ただ……傍にいるだけで…心地よくて、仕方が無かった。

 

 

 

「私は…ベートみたいな人、結構好きだぞ?」

 

その言葉を聞いた矢先…死ぬほど苛立った。

 

今までの人生の中でも、最高潮にあたるほどに…

 

 

有無も言わさずに肩に担ぎ、走りながら…ある想いが、胸をよぎっては離れなかった。

 

「この人を逃せば、一生後悔するぞ」と…何度も何度も訴えかけた。

 

 

 

そうして僕は…決心した。

 

彼女を誰かに取られる前に、僕のものにしようと……

 

 

熱病のようなものかもしれない。

 

それでも…僕にとっては、既に何よりも失いたくない人物として捉えてしまっていた。

 

 

だからこそ告白した。それも相手の想いを聞く前に…

 

それほどに、誰にも渡したくはなかった。

他の異性に「好きだ」という好意を振りまく姿など…見たくはなかった。

 

それがたとえ…恋愛感情ではなかったとしても……誰かに好意を寄せる姿を見ることに、耐えられなかった。

 

底知れない怒りに身を駆られた。

 

 

知っている…本で既に、知っている。

 

だが…それを抑えるなど、土台無理な話だった。

 

ギルドまでの道を教える為という名目で向かって走り…辿り着いた後になって気付いた。

 

何か悪いことをしたのだろうかと申し訳なさそうにおろおろと困った表情を浮かべ、「悪い所があったら出来れば教えて欲しい」と頭を下げるケイトに……

「私情で動いただけだ、本当に済まないと思っている」と頭を下げた。

 

そして…ある話を切り出した。君の、僕への想いを知りたかった。

 

 

結果として…嫌われただろうかという疑念は、杞憂に終わった。

 

それ所か、彼女はある可能性の話を挙げて不安げに話す始末で…それが、殊更に可愛いと思わせられた。

 

 

今度こそ…護りたい。

 

そう想える女性に、恋愛感情を初めて抱いた女性に…僕は、人生で初めての告白をした。

 

 

 

結婚など、告白など…野望を果たす為、後継者を得る為のものでしかなかった。

 

同じく勇気を持ち、人格に問題も無く、お淑やかであればよかった…

 

 

ガラガラと何かが崩れ行く音がする。

 

それまでの自分とは、隔絶されてゆく音を感じた。

 

 

 

だが…フィアナのようになりたい。一族の希望となり、再興させること…

 

それだけは、決して揺るがなかった。

 

 

告白の後…太陽が煌々と僕達を照らし、互いに頬を赤らめながら笑みを向け合う最中…

 

僕は彼女を両の腕の中に閉じ込め、抱き締めた。「今度こそ…護り抜いてみせる」という揺るがぬ想いと共に。

それにケイトは嬉しそうに満面の笑みを浮かべながら頬を摺り寄せ、温もりに身を埋めるかのように抱き返し、両の腕を僕の背へと回した。

 

 

 

そうして…それまでに得た疑念を一つ一つ解決していく。

 

 

何故、傍にいるだけで安心するのか…

 

どんな仕打ちを受けようとも、笑みを向けるその姿が、姿勢がとてもよく似ているからだ。

 

 

誰に?

 

心から愛したかった存在に…

失った者は蘇らない。その描くはずだった未来もまた、共に…

 

だが…あの始まりの日が無ければ、きっと気付くこともなかっただろう。

両親の中にあった一族の誇り、勇気に…

 

 

 

何故、彼女といるだけで心が弾み、赤くなるのか

 

彼女に恋愛感情を抱き、心から恋をしているからだ。

 

 

どれもこれもが…僕の中に芽生えた、彼女が愛しいという想いが呼び起こしたものだった。

 

 

 

そうして…ケイトのお腹の虫の音が耳に入り、朝食が未だ食べれていないことに気付き

 

その音が立ったことへの恥ずかしさからか赤面するケイトへ、食べるように促した。

 

 

『22歳と8か月、11月を迎えた頃から別居。4回生への進学が激しくなったDVで潰れた頃ですね』

「だから…言わなくていいってば;」

 

『2歳半から20年間毎日必ず殺されかけていたので…

20かける365=ケイトの殺されかけてきた日数。

 

それに20年にDVを受けた回数を総合した上で一日平均として3回…

つまりを言うと、総合して21900回ということになりますね』

 

「21900か…」

 

考えるだけで、暴力の凄惨さが思い浮かんだ。

 

 

『10歳の頃までの一日平均は4回、

素手で左掌で受け止めたのがその時でしたね。

 

3歳からで7年だから10220回、殴られた数と蹴られた数も含めればそのさらに何百倍にも跳ね上がりますね…』

 

「何万倍も…」

 

「でももう日常だったし、気にしてないから気にしないでね?(もぐもぐ)

 

(ごっくん)

そもそもこの世界にはいないし、二度と会うことはないだろうから」

 

「…そうだね」

 

僕が彼女にできることは何だろう?

 

そう考えた矢先、出てきたのは…彼女の心の支えとなることだった。

 

 

そうして…アイズが「ジャガ丸くん」という言葉を口にしながら近付き、それを見たケイトは弾かれるようにして5個のそれをパネルから出して渡した。

 

 

「……」

 

「ごめん。昨日の朝に預かってたの、未だ返せてなくって」

「大丈夫。欲しかったから…追い掛けてきただけ」

 

「重ね重ねすみません;」

「ううん。買ったばかりのホカホカのままで、とても嬉しい//」きっぱり

 

そう微笑むアイズは外で待っていると、ケイトが食事を取っていた木の下へと腰を付けた。

 

 

 

そうして僕はケイトを連れ、ギルドの中へと入る。

 

 

「おはようございます!今回はどういったご用件で?」

 

「やあ。彼女の冒険者登録をしたくてね」

 

「えっと…ケイトです。よろしくお願いします」ぺこり

 

「ミィシャ・フロットです。よろしくお願いします。

 

ではこちらの紙に必要事項をご記入下さい」

 

そう紙を手渡されて彼女が必要事項を埋めていく中、僕は横からペンを走らせた。

 

 

「!!!」

「頼むよ」

 

「はい。ケイト・ディムナさんですね?妹さんですか?」

「いいや。僕の配偶者だ」

「「!!!!??」」

 

「まままままま待って!///

そそそその、ここ、ここここ、ここここ!心の準備があああ!!///」

 

「早い方がいいだろう?(ウィンク)

何より、逃がしたくないしね…(ぼそり)

 

婚姻届も頼むよ」

「ひゃ、ひゃい!!//」「はい!!//」

 

「…(君が叫ぶ必要はあったかな?^^;)」

 

そう考えながら苦笑を浮かべた後…結婚式はまた、折を見て開こうということになった。

 

 

『名字なしだといつまでも困る…ナイスです、フィンたん!』

 

「ロキの真似はしないでくれ」

 

擬人化された神…それが実在していたことを知れたのは、彼女(ケイト)のお陰だ。

 

 

 

「急な申し出ばかりで済まない…怨むなら、怨んでくれていい」

「いやいや嬉し過ぎてどうにかなりそうで、と言うかそもそも好きだという確証も無かったし、怖かったし、でもそれ以上に嬉しくなって、でも好きでどうしようもない気持ちばっかりで、でもでも私は!したいと!想ったことで!!////」ぐるぐる

 

「大丈夫かな?」

 

その混乱状態にも見える様子に、僕は冷や汗交じりに苦笑を浮かべるばかりだった。

 

そうして手続きも終えた後、落ち着きを取り戻した彼女の手を引き、僕はオラリオを巡って案内し始めた。

 

 

だが…ミイシャがその後の忙しさにより誤ってインク瓶を倒し、ケイトの名字の記載が潰れてしまい、訂正が間に合わなくなるという手違いが起こったことで

 

ケイトという名だけと共にLv.8へのランクアップを記載された紙が神会(デナトゥス)に流れたのは、今からすればさらに先の日の話だった。




訂正
両親の以外→両親の遺骸
魚→鮭
プレブリカという村→プレブリカという街
名字の記載が遅れて→名字の記載が潰れて
間に合わなくる→間に合わなくなる
2018年6月11日1:00改稿

何よりも失いたく人物→何よりも失いたくない人物
2018年6月15日10:21改稿
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