神様を殴る為に神を目指すのは間違っているだろうか   作:-恵-

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「「「………」」→「「「………」」」
訂正


互いが互いである為に

黄昏の館、大食堂――

 

 

机を挟んで座っている中、フィンは新たな金属についてリヴェリアへ伝えていた。

 

勿論、誰にも聞こえないように…

 

 

「だが…何故、一緒に瞬間移動できたんだ?」

「!…そう言えば…どんな魔法も無効とするんじゃ?」

 

『自分から魔法をかけていましたね?

その魔力がしたことに関連しています。

 

外から包み込んだ上での移動であれば、それに触れた上で斬り裂かない限りは影響を受けてしまいます。

剣や使い手に向けて使用された魔法であれば、性質上弾いて影響を受けないでしょう。

 

ですが、影響を受けないとされる範囲、つまりは間合いというものがあるんです。

魔法に触れれば間違いなく無効化できますが、触れないようにさえすれば空間ごと囲んで空気ごと移動させた場合、可能となります』

 

「結果、魔法の影響を受けている?」

『空間を繋げる魔法を無効化する場合、その魔法に触れて斬らなければいけません。

ですが…』

 

「まだ何かあるの?」

『ああ、首を傾げるあなたも素敵//』ぽっ

「惚気てないで教えてよ;」

 

『ええ…

 

この剣は、使い手の意思を汲み取るんです。

斬りたいと思った時にしか斬れず、斬りたくないと思えば何も斬れなくなります。

 

実際にやってみては?』

「んじゃ。ずばっと斬れろ!」

『自分にやってどうするんですか!!;』

 

右手に持った脇差の刃を自分の左腕に当てて全力で斬ろうと試みた所、全く斬れなかった。

 

あれ?なんか脇差から冷や汗みたいなのが出てる…

 

 

「?全然斬れないよ?」

『どこに使い手を斬る武器がいますか!!

いや、確かに一介の武器ならば判別なしに斬りますけれども!;

 

その金属はあなたの魔力を持って造られた!つまりあなたの意思が宿ってます!!「使い手の助けになりたい」という意思が宿っています!!!』

「一気に信憑性が増した!;」

 

『共に瞬間移動できたのは、使い手の意思に寄り添ったが故なんですよ!!

それ以外の魔法で、使い手に悪影響を与える魔法であればその効果を有無も言わさず全て無効にしますし!』

 

「…本当に?」

『ええ。このことはヘファイストスもゴブニュも知っています。

伝えなかったのは、これがあまりに凄まじ過ぎるからこそです。

 

そもそも何でも斬れる剣なら作った相手をいの一番に斬ってますよ。

そうならなかったのは、使い手の傷付けまいという意思に関連しています』

 

「そういうものだったのか」

『まあ…知らないのも仕方ありませんね。私自身も予期していませんでしたし』

 

「なるほど…日本語にしてるのは盗み読みされても読み取らせない為か」

『当然です。超小声でありがとうございます』

 

その時、向かい側に居たリヴェリアが眉間に皺を寄せながら尋ねてきた。

 

 

「…何故、斬り裂く対象を物にしなかった?」

 

「へ?だって勿体ないでしょ?」

「お前にとって、自分は勿体なくないのか?」

 

「え?」

 

「……これは、認識を改めなければいけないようだな」

 

「そうだね…自分のことを軽視し過ぎている」

 

「あのような環境にいたのならばやむを得ないとも思うが」

 

「そう簡単には変えられないだろうね。

時間もかかるだろうけれど、自分を大切にするよう促さないといけない」

 

「それ自体に何年かかるだろうな…」

「気が遠くなりそうだね…困ったな」

「困ったものだ」

 

揃って天を仰ぐ二人に、私はただただ眉を顰めるばかりだった。

 

 

「二人は何を言ってるの?自分を大切にしていいものなんて私は思えない」

『自己犠牲し過ぎて麻痺してるんですよ;

 

もし私が自分を大事にしなかったらどう思いますか?

自分の命を投げ出してでもあなたの幸せの為を願って死ねばどう思いますか?』

「自分の命を何だと思ってんだ!!!!」

『その台詞そのまま返しますよ!!!!』

 

「あー…そういうことか;」

『あなたから見れば、自分の命は取るに足らないものでしょう。

けれど、そうは思わない人もいるんです。

 

見失わないで下さい。自分の意思を…他でもない、あなたの望みを。

他を想うあまり…他が胸に抱く思いを決めつけないで下さい』

 

「でも…自分が死んで、哀しむ人なんているわけが

『いますよ。恩師も友達も母も姉も、皆哀しんでましたから。

 

あなたは…自分の命を軽視して価値ごと決め付けるのではなく…もっと、好いてくれている人のことを見つめなさい。

本人の望みに耳を傾けなさい。決め付けないで下さい。

 

自分などいない方がいい等と、自分が死んでも誰も哀しまない等と、勝手な理屈で動こうとしないで!』

 

「………ごめん…嫌な思い、させていたの?」

『ええ。例えば、フィンが自分などいない方がいいとなった場合

「死んでも止める!」

『それと同じです。あなたは…それに対してどう思いますか?』

 

「……嫌だ」

『ええ』

「嫌で嫌で、胸が張り裂けそうになる」

『そうでしょうとも』

 

「どうしても…嫌だ!」

 

じわりと涙が滲み、視界が白く濁っていった。

 

大食堂の隅で繰り広げられる会話…それに対し、何故か周囲は静かだった。

 

 

『…わかっています』

 

「私は…どうすればいい?

 

わかんないよ…そんなことっ!

されたこともなかったのに、されて当然なんてことも無かったのに…

 

自分のことなんて…大事にも、ペースにも、何も…何も!!」

『ペースに合わせてもらえなかった。大事にされなかった。自分の意思を無下にされ続けた。無いものとされ続けた。

常に傍に居る母ですら、何も…自分と向き合うよりも、ストレス発散に使用することを目的として一方的な喋りを続けた。

心も壊れ、感情も壊れ、麻痺し、欲求も無くし…それでいながらも動き続けた。

 

ですが…ここに居るのは、それとは全く関係も接点もない人達です。家族なんです。

 

 

わかりますか?

 

あなたのことを、大事に想う人がいることを…

 

今はもう、その時ではありません。

長年の環境故だと知っています。ですが…ここはもう、独りきりで戦い続けなければいけない場ではないんです。

 

頼っていいんです。周囲を、皆を…ちゃんとその目で見て下さい。その曇りなき眼で…』

 

「………怖いんだ」

『知っています』

 

「ただ…怖くて、堪らないんだ」

『何がです?』

 

「……また…同じような目に遭うのが。

信じて、話した。助けてと求めた。その結果が…傷付けられ続けるという行為だった。

 

無責任に言葉を投げかけて、都合が悪くなれば少しでも悪く取られまいと振る舞う。

長年に渡ってされ続けてきた被害者は…我慢して当然。潰れて、無くして、散々に貶されて…逆に貶さないことを当然のように振る舞ってくる。

 

人にする割にはされたくない。していないのにされる…いくら助けてもされる…

いつだって…損をするのは、そういう扱いを受けてきた被害者なんだ。得をするのは諫められるまで好きなようにし続けてきた加害者だけなんだ」

 

思い出される昔の出来事…苦いと感じる思い出に、眉間に皺を寄せながら自らの抱く想いを伝える。

 

 

「わかんないんだよ…生きていていいことがあるなんて。

 

いるかもしれない人を夢見て頑張って、でもそれはあくまで助言してくれる人で、私の話に耳を傾けてくれる人で。

ただ、それだけでも十分過ぎるぐらい恵まれていた。そう考えていた。

 

けれどさ…やっぱり…寂しかった。

欲しかったのは共感で、戦い続ける為に…心を、支えてくれる人だった。

 

でも利用してるみたいで嫌だったから…誰かに負担をかけるのも嫌だったから…結局、自分を殺すことを選んだ」

『だから死んだんでしょう』

 

そのフィアナの淡々とした言葉。

 

その一連のやり取りを見ていたリヴェリアが私へ向き直り、口を挟んできた。

 

 

「待て。

 

ケイト…お前に尋ねる。お前は、どう在りたい?」

真っ直ぐにリヴェリアは私の両目を見つめ、尋ねた。

 

「え?」

「お前は人に合わせ続けた。

 

しかしそれは、自分で想像できる範疇のものでしかない。人は全て違う。全く同じものなどありはしない。

だからこそ尋ねなければわからない。聞かなければどう思っていたかもわからない。

 

お前はそれに合わせながら力になろう、助けようとしていた。人生の全てをかけて。

その努力は認めるし、私自身も少なからず感銘を受けた。

 

だが…それは、他人の「奴隷」になることと何が違う?」

「!!」

 

「体よく言えば助けとなっている。事実上、負担も減っていることだろう。

 

だが…それは本人から想像できる範囲内に他ならない。

いくら助けたとして、不快に思う輩はいる。助けて欲しいのはその部分ではないと思う輩もいる。

人の欲望は尽きることなどない!あれが足りない、これも足りないと、足りないものばかりに目を向けて求め続ける!!」

がたっ!

すたすた

 

激昂に等しい叫び声が、胸の奥にまで響いた。

 

真剣な表情で椅子から立ち上がり、歩み寄り、なおも言葉は紡がれる。

 

 

「抱かせるものが不快なものだとして、それは人と人の相性によるもの。

人が人である限り、決して避けられないものだ。

 

いくら合わせた所で、不快な印象が撤回されること等ありはしない!あるのならば、お前は何故それほどまでに苦労してきた!?苦しめられてきた!!?」

 

言いながら私の目の前にまで辿り着き、最後に叫びと共に肩を掴んで揺さぶってこられた。

 

 

そこに感じたのは…憤り、いや…

 

やるせなさ、「何故わからない!?」という叫びだった。

 

 

 

「人は、決して他者にはなり得ないものだ。

いくら努力をした所で、想像力を回した所で、必ず限界がある。

 

自らの人格を、心を売ってまで!犠牲にしてまで!お前は他人に何を求めた?

助けになること、喜ぶ顔を見ること、そこに幸せを…価値を見出してのことだろう。

 

 

そして――お前はどうなった?

理解できない他人にまで無理に合わせ、潰れてもなお奔走し、周囲にいいように翻弄され続けている!!

 

まるで…他人の都合を中心に、いいように振り回され続ける…他の思い通りに動く、「奴隷」だ。

 

 

そこに、お前のペースはどこにある?お前らしくいられる時間はどこにある?

 

受け入れられないからと、否定されるからと蔑ろにしてどうする?!

 

 

ケイト…お前自身の持つ、心からの望みはどこへ行った?

 

ありのままに在りたいと、一人の自分として生きていきたいと、そう望んだお前はどこへ行った?!

 

また…投げ出すのか?お前自身をまた、お前までもが蔑ろにして全てを捧げる気か!?

あちらではそれが普通であったとして、こちらでは赦さん!!私が断じて赦さんぞ!!!」

 

ぽとっ

 

両肩を掴んだまま叫ばれたその言葉に…リヴェリアから見た私の姿が見えた。気がした…

 

 

価値観も違う。捉え方も違う。

 

「自分に素直になれ」と言った理由、その言葉に込められた意味、今流しているリヴェリアの涙の意味…

 

 

「お前は…殺し過ぎなんだ。それも、人の為という理由で!」

ぎりっ!!

 

そう言いながら歯噛みしたそれに、そんな理由で合わせられても嬉しくはないという意図を感じた。

 

 

「私は…そんな思いをさせてまで合わせて欲しい等とは思わない!!

 

殺すな…受け入れてやれ。それが自分なのだと!

決して恐れるな…受け入れられないことを、他者から罵倒されることを。

 

 

私は…お前という人柄が好きだ。真っ直ぐに向かい合ってくれるお前が好きだ。

純粋に人の助けになろうと奮闘し続け、最期まで全うしたお前が…人を想うお前自身を、尊いとさえ思っている。

 

だから…今度は…今度こそは……お前の在りたいように、最期まで在り続けてくれ。

私に…お前を、守らせてくれ」

「っ…ぅっ」

 

そう言いながらリヴェリアは両肩から手を離し、私の背に両腕を回して抱き締めた。

 

その温もりが…「受け入れる人はここにいるぞ!」という訴えが、真剣さが身を包んで…ある想いが、私の頭をよぎった。

 

 

「私が欲しかったものはこれだったのだ」と…妙な確信と共に、涙が溢れ出た。

 

夢にまで見た、深く望んでいた…望んでやまなかった、そう言ってくれる人に。

 

 

「他者から否定されることを恐れるな。私はそんなことはしない。

 

自らの正義も、よしとする範囲も、在り方も、他の人とは違う。

違って当たり前なんだ。

 

性格も違う、育った環境も違う、両親だって違う、見方も考え方も違う。

お前自身…それは、痛いほどに身を持って知ってきただろう。

 

だから…人のそれを見て、学んで、自分がどうしたいかを見つめないといけない。

自分の在りたい形が何なのか、自分という在り方とは何かを理解しないと軸がはっきりしない」

 

「自分の…軸?」

 

「ああ…いずれ、一人で何でもできるようにならなければいけない。

 

しかし…何でも全てができる完璧な人など、この世にはいない。

その為に他の人達がいる。お前にとっては、周囲に一人としていなかったようだが。

 

補い合う為に、気付き合う為に、互いに抱くそれから学ぶ為に「自分と違った人」がいる。

 

 

違うから、自分とは合わないから…

 

ただ自分であるだけで、他者は「傷付けられた、合わない、異物だ」と感じ、お前は他者から傷付けられた。

それがお前の味わってきた傷だ。たとえお前自身がそれを意図していなくとも、無くなることは決して無かっただろう…

 

しかし、どれほど合わなくともなお、極稀に相手の痛みを考えて踏み止まる人だっている。それがお前だ。

そう感じた者達は好きに動く。自分の感じたものが全てなのだから、それは避けようもない。仕返しもされないとわかればそれもまた増長の助けとなる。

 

 

生きていれば…傷付けてくる者は、必ずいる。いくらでも現れる。

お前にとっては…出会ったほとんど全てがそういう人で、心に安らぎも無かったのだろう。

 

だが…自分にとって合っている人、合っていない人、やってはいけないこと、やっていいこと、それらの線引きはしておいた方がいい。

お前がお前である為に、戦っていいんだ。今度は…自分の為に、戦っていいんだ」

 

抱き締められたまま、なでなでと頭を撫でられる最中

私は…初めて言ってもらえた言葉を、噛み締めるように飲み込んでいた。

 

その中、私もまた自分の抱く想いを伝える為に言葉を紡ぐ。

 

 

「私と、皆とでは…在ろうとする形が違うから。

私にできるのは、違う人達の中でどう学んで、どう生かして、どう糧にするかだけだった」

「ああ」

 

「本当は…憎かった。何でこんなに傷付けられ続けないといけないか、わかんなかった。

自分が自分であるだけで、主張しただけで叩かれるのが何でか…わからなかった。

 

でも憎んだ所で相手は変わらない。

相手を変える方が自分を変えるよりも遥かに難しいし、変わらない可能性の方が極めて高い。

 

気力も考えるそれも無駄。合わせようといくら何かした所で無駄だった。

傷付けて当然って顔で、やりたいようにされ続けるのが日常だった。

 

 

それを人にするのが…堪らなく嫌だった。同じになんて、なりたくなかった。

わざわざ本質も見極めようともしないで、気付かない振りを続けるんだからさ。

 

私だったら、いくら何でも気付くよ。ああ、傷付けたくないからなんだなって…

 

 

でも、あいつらは気付こうともしないまま周囲に悪人だって訴えかけ続けた。そして鵜呑みにした。

関わり合いになるまいと距離を取って自分を守ろうとする人達ばかりだった。

 

結局は…正義という名の免罪符を振りかざして傷付けることを正当化したいだけなんだよ。

いくら弁論を語った所で、聞き入れない人達だった。

 

 

自分とは相容れない。全く別の存在だと考えて、ようやく収まりが付いた。

というよりは…ストンって、腑に落ちたんだ。

 

どうあっても、私はその在り方が受け入れられない。同じになりたくはない。

それと同じなのかってさ。

 

そういう人達なんだって、そう思うことで無理やり飲み込んで、流し込んだんだ」

 

「ああ…知っている。フィアナから聞いた」

ぽんぽん

 

未だ抱き締められたまま、慰めるかのように背を優しく宥めるかのように叩かれる。

 

 

「私がしてきたことって…何だったんだろうなっ

今はもう…わかんないよっ!

 

自分なんて消えていいのに、消えた方がいいって何度も言われてきたのに!!」

「そっちに行ったら、駄目!!」

 

「へ?(アイズ?)」

「また、死んじゃう!!」

 

涙ながらに叫ぶ中、アイズは見兼ねてなのか左腕を握って引っ張られた。

 

それにリヴェリアとフィンが口を挟んだ。

 

 

「ああ…私も、そう思う。

また、同じことの繰り返しとなるのは目に見えているからな」

 

「そうだね。

 

君が一番持たないといけないのは、「自分を持つこと」。

人に指摘を受けた所で、それは結局他の在り方に他ならない。

 

自分に合わないから変われ、こう動け…

その言葉の中に「自分が嫌だと感じる行動」が含まれていれば、今までのように無理をしてまで飲み込まなくていい。

その時は突っぱねればいい。

 

 

自分がどう在りたいか、どのような人と行動を共にしたいか、よく考えるんだ。

合わない人と無理に行動する必要はない。辛いのならば離れればいい。

 

今度は…自分の意思も感情も殺すこともなく、全てとちゃんと向き合った上で。

 

自分と向き合って、在りたい形を模索すること。

それらが君の今後の課題だ」

 

リヴェリアの両腕の中から解放される中

今度はフィンがリヴェリアの隣で語り出し、私はそれに戸惑いを隠せず…口ごもった。

 

 

「でも…」

「なに。自分が潰れてまで、合わせろなんて誰も言わない。

 

強要もしないよ。ここにいる人達はね。

人の在りたい形なんて、誰もが違って当たり前なんだ。

 

そういう人だと流せるし、それにどうしようもない不快感を抱いた場合は遠慮なくぶつかり合う。

君がフィアナとしたようにね^^」

「!」

 

「…気付いたかな?

 

フィアナに接するように、遠慮なくぶつかってきて欲しいんだ。

それが僕達の言う所の、家族(ファミリア)だ。

 

君のことはフィアナを通じて、その過去も含め全て知っている。

君が「されれば嫌な思いをするとわかっている行為を人へするような人物」じゃないことぐらい、ここにいる誰もが知っている。

もししたのならば、それは気付かずにしたことだともね。

 

今度は、君の在りたい方へ進む為、勇気を見せてくれ。

皆、一人一人が自分の人生を歩んでいる。それと同じように…君も歩んでいいんだ。

 

 

自分の想いをぶつけて、愛して、心から楽しんで…なりたい自分に、なっていいんだ」

 

そう微笑みかけながらフィンから頭を撫でられる中、その言葉に私は不思議と涙が止まらず…

 

止め切れない涙が、双眸から零れ落ちていくばかりだった。

 

 

「だから…今度こそは、他人の為の人生じゃない。自分の人生を歩んで欲しい。

 

初めてのことばかりだろうけれど…精一杯サポートする。

頼っていいんだ」

 

「………

でも…それでも……

 

過去は変えられない。それまでの想いも、無下にはできない。なかったことになんて…」

 

そうフィンの言葉に対して呟いた瞬間、殺気が大食堂の入り口から渦を巻いて突っ込んできた。

 

 

「あんたって奴は…!!

あんたって奴はああ!!!」

 

ずかずかと大きく足音を立てながら歩み寄り、有無も言わさず殴り掛かった。

 

 

「こんのっ!!馬鹿がああああああああああああああ!!!!!」

ばきぃっ!!!!!

どごぉっ!!!!!!!

 

ティオネのその全力の右拳による一撃は、私の左頬へと叩き込まれ

 

凄まじい音と共に、すぐ後ろにあった壁へと身体を減り込ませ、クリーンヒットしたことから得た激痛に私は悶えた。

 

 

「~~~~っ!!」

「ケイト!」

「ティオネ!」

 

心配してか私に歩み寄るアイズ、ティオネを止めようと叫ぶフィン、しかし…

 

 

「邪魔しないで下さい、団長!

 

ケイト!あんたねえ、一々グダグダうっとおしいのよ!!

人なんて気にしてたってね、どうせ勝手に行動すんのよ!!

 

あんた私の動き今読めた?読めなかったでしょ!!?

今壁に減り込んでるでしょ!!?あの時みたいに避けられなかったでしょう!!?

 

それと同じなのよ!!

人の動きなんていくら恐れてたって意味ないのよ、そんなものは!!!

 

そもそも今あんたがしてるのは意見交換というよりもただ吐き出したいだけじゃないの!!

自分を理解して欲しいから語って、自分の中でも整理つける為に吐き出してるだけでしょ!!!?

 

んなもの気にしてたって気にしてなくたってねえ。人は勝手に言うし勝手に叫ぶのよ!!

わかる!?

 

あんたがどれだけ悩んでようがどれだけ苦しんでようが!!

人はそんなの毛ほども気にしないのよ!!

 

勝手に人は自分のやりたいように、自分の見える勝手な都合で!解釈で評価するのよ!!!

 

 

だから…いつまでもいつまでも解決しないもんと向き合ってんじゃないわよ!!!」

 

「……なるほど。そういう考え方もあるんだ」

「「「(納得した!?;)!!?;」」」

 

フィンが近付けまいと押さえ続けてくれている中、それでもなおティオネは目を合わせて叫んできた。

それに一つの考えとして受け止め、そう呟くと周囲は目を丸くしていた。

 

その間に私の身体はアイズの手によって減り込んでいた壁から脱出、リヴェリアに傷は治された。

 

 

「教えてくれてありがとう、皆。

リヴェリア、アイズ、手間掛けさせてごめん。ありがとう」

 

気にしなくていいという言葉をリヴェリアから返される中、なおもティオネは言葉を続けた。

 

 

「あんな過去引きずって気にして悩むよりもね、自分の今やりたいこと見なさいよ!!!

あんた見てると歯がゆいのよ!!いつまでも変えられないこと考えて繰り返さないよう怯えて!

 

私達はそんな人間じゃないって頭じゃわかってるのは見てたら態度でわかるわよ?!!

でも長年の習慣から取り払えないのもわかる!!!ちゃんとわかってるのよ!!!

 

 

でも…それでもねえ!!

 

あんたが!自分で!自分を苦しませて!

団長も、リヴェリアも、力になろうとしているのに!なろうとしてくれてるのに!!

 

そんなあんたが、逆にまた苦しませてどうすんのよ!!!!」

「!!」

 

それは盲点だった。

 

涙を両の目に浮かべながら、ティオネはなおも叫んだ。

 

 

「団長はね!あんたのことが大事で仕方ないのよ!!!

大切で仕方ないのよ!!そりゃその過去は呪いみたいなもんよ!!!

 

雁字搦めに縛られて、身動きとれなくて、でも力になりたくて頑張ってて…

そんなあんたを見過ごせなくて…そんな風に苦しむあんたを見て、団長は苦しんでんのよ!!」

 

ついにティオネの双眸から涙が零れ落ちる中、言葉はなおも続いていく。

 

その涙を見て、意味が分からないまま、何が言いたいのかもわからず?を浮かべた。

 

 

「え?(一体どういう?)」

「あんたの過去を見て、生き様を見て団長は笑ってたわ!!あんたの勇気に打ち震わせられたって!

 

その団長の言葉に、確かに私自身も納得もした!!

それだけ他人の為に人生を投げ打つ馬鹿なんて会ったこともなかったし、見たこともなかったから!!

 

でもね…それ以上に団長自身どうしたら救えるか考えてて、頭悩ませてて…

昨日だって散々、夜中までリヴェリアと一緒になってあんたのこと考えてたのよ!!!」

「ティオネ!それは言わないで貰えると

「そういうの、あんたは見たことある!!?団長の想い、考えたことがある!!!??」

 

歯噛みしながらもなお、彼女の咆哮は続く。

 

 

「だから…いい加減、目に見えてるものや、聞こえるものだけ見るのはやめなさいよ。

過去の痛みや重みなんかに、いつまでも負けてんじゃないわよ!」

ざっざっざっ

 

歩み寄るティオネ…涙を流しながらのそれに、フィンは今度こそ止めなかった。

 

 

「そうでなきゃ……

団長が…心配してる人達が…報われないでしょう!?」

ぎゅうっ!!

 

抱き締められた最中…私は、ティオネの想いに気付いた。

 

団長が好きだということ、苦しんでいること、頭を悩ませながらどう自分の人生を歩ませるかについて議論を続けていたこと…

それを見ていたからこその想いだと、抱き締められた今…ようやくわかった。

 

 

壁から解放されてからも聞かされたティオネの想いは、自分がまだ見えてなかったもので…

 

ティオネに歩み寄られて抱き締められる中、涙が零れ落ちていた。

 

 

「くる…しんでたの?」

 

苦しんでくれてたの?――

 

一つの想いが私の中に去来する。

 

 

「そんな人は、それまでに…現れたことなんて……」

 

そんな想いが自分を掻き立てた。家族もまたそうだった。

 

でも…それ以外の全ては、そういうものでしかなかったから。

 

 

「当たり前でしょ!!

 

あんたの過去は皆知ってるわよ。だから余計気になってんのよ!

それで塞ぎ込んでるし抱え込んでるしろくに言おうともしないし言うかと思ったら長いし」

「うぐっ!;」ぐさっ!

 

くどくどと紡がれる言葉が、私の胸に深々と刺さった。

 

 

「整理しようとしながら言ってるのはわかってるけどね!

あんた見てたら…逆に苦しくなるのよ。

 

それで嫌うわけないでしょ。そもそもアイズが連れてくるほどの奴だからって…逆に興味しかなかったわ。

 

 

だから…下らないって思うのよ。

そうやって悩んで自分を苦しませて、逆に周囲まで苦しませてるその行動自身が!

 

あんたにとって、大切なものは何なのよ」

 

「それは……今の、家族」

「だったら胸張って堂々といなさい!

 

過去なんてものより…

今そういう奴等はいないんだから!苦しむのは損でしかないのよ。

 

家族を苦しませる行動取って、あんたはそれでいいの?」

 

「いいわけない…全然…よくないっ!」

 

「だったら…団長を悩ませてんじゃないわよ。

 

団長はね、あんたのことが好きなのよ!失いたくないのよ!!

その肝心の失いたくない人にまで悩ませてんじゃないわよ!!!」

パカァン!!

 

抱き締めていた状態から一転、腕を離し、脳天を軽くティオネから小突かれた。

 

「っ…」

その言葉に、私は涙ながらに頷いた。

 

 

「ティオネ…本当にその通りなんだけれど、できれば僕の口で伝えたかったよ^^;」

「あ…すみません、団長!;見ていられなくなって、つい…」

 

「…ありがとう…

ごめんね。もう…囚われなくていいんだよね?」

「当然よ!」

 

その最中でかけられたフィンの言葉にティオネは謝り、私はそれを前に尋ねた。

 

すると憮然といった態度で叫ぶそれに…再び、自らの思いを打ち明けた。

 

 

「もし悪夢を見たら…

当時の感情のままに振り回されて、手当たり次第に傷付けそうになったらって…怖くって。

 

自分で自分をコントロールするには、過去を思い出しながら整理するしか、克服して乗り越えなきゃって……

もう既に乗り越えたはずなのに、また…フラッシュバックで、当初に感じていた怒りや恨みやそういうので暴れそうになるかもしれないって…色々、危惧してて」

「あんたの暴走ぐらいわけないわよ。

あんた、なんだかんだ言いながら人の話をちゃんと聞くじゃない。

 

是が非でも絶対止めるから、頼ればいいの。

いっそのこと一度思いのまま暴れればいいわ」ぽんぽん

 

そう右手で今度は優しく肩を叩いてくれるティオネに、私は気にしていたことを口に出す。

 

 

「でも…めいわk

「ほらまた気にする!!」

 

怒ってる?;

 

そんな空気を纏いながらティオネは叫んできた。

 

 

「とりあえず…溜め込まれてきた感情を一度吐き出さないといけないね」

 

「そうだな…一度泣き叫んだぐらいでは解消などされないだろう」

 

「やっぱり…全力のぶつかり合い、修業?」キラン

「それはお前がやりたいだけだろう?」「それは君がやりたいだけだろう?」

 

フィンの言葉にリヴェリアが答えた後に目をキラつかせながらアイズが尋ね

二人は同時にツッコみ、それを受けたアイズはさも残念そうに肩を落とした。

 

そして私は…未だ叫ぶティオネに謝罪していた。

 

 

「人のことばかり気にし過ぎなのよあんたは!!空回りにも程があるわ!」

「ごめんなさい!!;」

 

「とりあえずは、よ…

団長が婚姻届を出しただの結婚だのなんだのと外じゃ騒がしかったけれど…

 

あんたは…団長が!自ら認めて妻に選んだ人なのよね?」

「は、はい;そうなり、ます」

 

あまりの怒気と殺気を前に、がくがくぶるぶると震えが止まらず後ろへ下がりながらも答える中…ティオネは叫んだ。

 

 

「なら…あんたと私、どっちが団長の妻に相応しいか勝負よ!!!

そうでもしないと踏ん切りが付かないわ!!」

「え?でも私が負けたら

「踏ん切りが付いたら子育ての手伝いぐらいするわよ!!あんたと団長のね!」

「ええ!?

ってことは…フィンと瓜二つの子がティオネ姉ちゃんって呼ぶ可能性も」

「(ズキューン!!)はうっ!!///」

 

「え?;どしたの?」

 

「いい…いいわっ!//どっちに転んでもいい!//」

「?どゆこと?」

 

『アマゾネスの子供は皆アマゾネス、つまり女性です。男性が生まれることはありません。

小人族の場合、子を持てるのはヒューマンか小人族、男性ならそれにアマゾネスが加わります』

「なるほど」

 

いきなり赤くなって悶えだすティオネに眉を顰めていると、フィアナが丁寧に解説してくれた。

 

そして話を纏めたのか、周囲と話していたリヴェリアが私へと向き直って話しかけてくる。

 

 

「ケイト」

「!はい」

 

「…お前の恐れる気持ちはわかる。境遇も考えて、それを抱くなという方が難しいだろう。

だが…これだけは言わせてくれ。

 

私達に対して、不安や恐れを抱く必要はない。

私達を信じてくれ」

「!!」

 

初めて向けられた言葉…それに対して私は驚きを隠せず、瞠目するばかりだった。

 

信じてくれという言葉が、再び頭の中で再生された。

 

 

「それが…私達からの願いだ。

 

どうか、聞き入れてはもらえないだろうか?」

 

「…はい!信じます!」

 

不安げに苦笑混じりに紡がれるリヴェリアの言葉に、私は力強く頷いた。

 

そしてティオネへ向き直って叫んだ。

 

 

「ティオネ!殴ってくれてありがとう!!

お前の想い、確かに受け取った!!」

「団長を困らせたらどうなるか…わかってるわよね!?」ギンッ!!

「はい!困らせないよう尽力します!!」

「よし!!」

 

睨んでこられる最中、私は敬礼と共に叫び、それにティオネは満足げに頷いた。

 

 

その時、私の心は既に決まっていた。

 

不安になって怯えた所で、周囲は何も変わらない。

自分という人生、それを貫く為に前に進むしかないのだと…

 

 

不思議と恐れはなかった。

 

もし間違えば殴ってでも止めてくれる人がいるのだと、身を持って知れたから――

 

 

「そして皆も…大丈夫だって教えてくれて、本当にありがとう!!

まだ、わからないことだらけだけれど、その都度…教えて欲しい、です//」

 

「ちっ。グダグダ悩んでんじゃねえよ」

 

「そう言ってやるな。あの環境ではやむを得んじゃろうて」

「わかってる。何も食事時にする話でもねえだろ」

 

頭を下げる中、周囲の空気はどこか優しく、笑って頷く人が多くいた。

 

肘をつきながら舌打ちするベートは、隣にいるガレスの言葉に悪態をつき、その言葉によって私は気付いた。

 

 

「(はっ!)確かに!

本当にその通りだよね。ごめんなさい!気を付けます!!」

「てめえは素直過ぎんだよ!!」

 

「まあまあ。真面目なのはいいことだよ」

 

深々と頭を下げる中、ベートから叫びが返り、フィンが苦笑交じりに言った。

 

それに向けてベートは「とっくに知ってる」と言いながらそっぽを向いた。

 

 

 

理解をしてくれている。

 

そしてその上で、「在りたいように在れ」と態度で言ってくれる人がいる。

 

 

それが堪らなく嬉しくて…初めてで…私は、笑みを浮かべた。

 

今までと同じだと、受け入れてくれる人など、拒絶しない人などいるわけがないのだと…

その昔からの深層意識、決め付けていた自分が奥深くに根を張っていたことに、やっと気が付いた。

 

 

だから…認識を改めよう。

 

 

 

ここはもう、あそことは違う。

 

それまで出会ってきた人達でもない。信じられる人だ。

 

なら…信じて、自分を出すべきだ。その皆の抱く意思を無下にするな。

 

 

私にとっては、人生で初めてとなる主張…相手の意思を察してでもなお、貫かなければいけない。

 

自分は自分なのだと示し、戦わなければ…自分という人格も、保てなくなる。

 

 

 

そこまで俯いたまま考えを纏めようと試みていた。

 

そして纏め終え、ようやく整理が付いて顔を上げた時、正面に立っていたリヴェリアから穏やかな声がかけられた。

 

 

「胸を張って生きろ。

 

お前は…優しい人間だ。だからこそ死んで欲しくはないんだ。

お前のありのままに生きる姿が見たい。そして…ありのままのお前と、共に生きたい。

 

だから…人の為と、自らの心に嘘を付き、殺すのはやめろ。

 

お前のままで、ぶつかっていいんだ」

 

そう微笑みかけながら紡がれたリヴェリアの声を皮切りに、周囲からも口々に声をかけられた。

 

 

「気楽にっすよ!」

「気負わず軽く!」

「私達はそういうことしないからね!」

「同じだと決め付けないで下さいね!」

「今まで通りと同じになると思うなよ!?」

 

「っ…

 

うん…//

ありがとう^^//」

 

人生で初めての経験…それが、こんなに心地よいものだとは思いもしなかった。

 

涙で視界が滲む中、私は満面の笑みを浮かべて礼を言った。

 

 

そうして…ようやく食事を取り出した。騒がせてしまったことを詫びた後で…

 

そう言えば…ロキがいないけどどこにいるんだろう?

 

Lv.のことについてギルドに呼び出されていたことを知ったのは、昼の勉強を終えた後だった。




勝負方法は?(おまけ)

「所で…何で勝負するの?」
食事中、ティオナのある一言を皮切りに、それは始まった。


「早食いで」
「お嫁に何の関係があるの?;」

「料理で」
「既にぼろ負けじゃない。
フィン自身、いいお嫁さんになるって言ってたし、毎日食べたいとも言ってたし」

「ぐぬぬぬぬぬ!!」

ギリギリと凄まじい歯ぎしりがティオネから聞こえる中
私は怯えるあまりにフィンの背後に隠れて震えており、フィンはそれにただただ苦笑するばかりだった。

でもティオナ、ナイスツッコミ!
心から称賛している中、フィンの言葉によって勝負方法が決まるなど、私は想いもしていなかった。


「済まないがティオネ、これからケイトと勉強があるから^^;」
「それよ!勉強で勝負よおおおおお!!」
「「「………」」」

「何故に!!!?」
「叩きのめしてやるわ!!」

フィンの言葉に対し…私も周囲も驚きを隠せず、瞠目したまま硬直した。

硬直から解けた私の言葉に、ティオネは炎の如くメラメラと瞳まで燃え上がりながら叫んでいた。


「騒がしくなったの」ぐびっ

「…そうだな」ふっ

そう呟いてから水を飲むガレスに、リヴェリアはどこか楽しそうに瞑目しながら笑みを浮かべていた。
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