神様を殴る為に神を目指すのは間違っているだろうか 作:-恵-
黄昏の館、リヴェリアの部屋――
「(何故だ…何故、こうなった!?)」
冷や汗交じりに、私は思った。
何故かと言うと、勉強をすると聞いた時はフィンとリヴェリアから授業を受けると思っていたから。
それがこんな勝負事に発展するなど、私は思いもしなかった。
リヴェリアの部屋の前、その扉の前で私は佇んでいた。
壁際には本棚が数多く並び、本棚以外ではタンス、カチコチと音を鳴らす時計が掛けられていた。
中央に机と複数の椅子があり、奥には寝台が見える。とても広い部屋だった。
「…
「勿論よ!!」
リヴェリアはティオネに尋ねながら私へ教える為に最適な本を探す為に本棚に目を向けており、それにティオネは既に椅子に座った状態で叫ぶ。
「ケイトにとっては未知の領域にあたるんだが…どうすべきか」
その中で、フィンはどうしたものかと両腕を組んだまま部屋のやや中央で立ったまま考え込んでいた。
「……ごめん…一つ、いい?」
挙手と共に私が声を上げて尋ねる中、その場にいる皆から視線が集中するのを感じる。
私の背後には、勝負の行方が気になってか「楽しそう!見学してもいい?」と部屋まで来ているティオナもまたいる。
「邪魔はするなよ?」とリヴェリアから釘を刺された後、ティオナはそれに「わかってる」と相槌を打って許可を得たのだ。
ちなみにアイズは…「(短剣の)試し斬りしてくる!」と目をキラつかせながら、意気揚々と迷宮へと潜りに行っている。
ちょっとついて行きたかったけど、それは仕方ない。まだ迷宮について知らないことだらけだし。
「私…正直に、自分出していいんだよね?」
「?ああ。遠慮なく出してくれ」
「思ってること、まんま出してもいいんだよね?」
「無論だ」
フィンとリヴェリアが交互に答える中、私はなおも質問を繰り出した。
「それで…見限ったりしないよね!?」
「何で涙目になるのか解らないんだが…;」
不安のあまり部屋の中へ入ってフィンへと詰め寄る中、冷や汗交じりにフィンは答える。
「安心しろ。人を罵倒するような言葉を吐き掛けないことぐらいはわかっている」
「でも見苦しいかもよ!?絶対みっともないよ!?」
「いいから話せ。そしていい加減、自分の心を解放してやれ。
私達の負担を考えて踏み止まれるのは、確かに素晴らしいと思う。
だが、あちらでのように過労で潰れるまで合わせろとは言わないし、それで壊れて死ねば私は赦さん。
どうした?」
それらのリヴェリアの言葉に…私は自分を出すことに決めた。
心に抱いたことを、そのままに……
「……素直に、言います」
「「?」」「だから何なのよ」「どうしたの?」
「私、外国語全般苦手!!!」
「「「「…え?」」」」
「英語が最も苦手!!国語はさらに最も苦手!!」
「最もって一番って意味だったよね!?」
「そうだよ!さらに苦手意識高いの!それぐらいテンパってるの!!
得意なのは数学と化学と体育と歴史と地理と音楽と技術って相場が決まってるの!」
「意外と多いね!!そしてよく噛まないね!」
「他に得意なのは専門知識だし偏ってるし好き好みで差があるし!!」
「とりあえず落ち着こうよ!;」
「何が何でもやりたくない!どうあってもやりたくない!!だから私は逃げる!!
机も椅子も要らない!」
「なら食堂では立って食べないといけないね」
「ちょっとフィン!ツッコミ所違うくない!?;」
ティオナが即座にツッコミ続ける中、私はなおも叫び続けた。
そのティオナの叫びを皮切りに、私はその場から逃げ出そうと最後に叫びながら背を向けて走り出し、脱走を試みた。
「何も要らない!したくない!私を逃がしてええええ!!」
だっ!!
「させると思うかい?」
ぐいっ!!
フィンがその言葉と共に私の首に腕を回して強引に椅子へと引き寄せられる中、私はなおも暴れた。
「お前の為だ。頑張れ」
「できるようになるまでみっちり付き合うから安心してくれ^^」
「大丈夫じゃない大丈夫じゃない大丈夫じゃなあああい!!」
「……大丈夫かな?;」
リヴェリア、フィンの言葉に、私は半泣きになりながら必死に頭を振り、感情のままにじたばたと暴れて訴え…
それにティオナは内心不安になりながらも呟くばかりだった。
そしてティオネはと言うと…
「勝った!!」にやり
笑みを浮かべながら、拳を握り締めていた。
しかしそれが狸の皮算用となるなど…ティオネ自身は思っていなかった。勿論私もだ。
数分後…私は椅子に縛り付けられ、ようやく動きが止まった。
どれだけしたくないんだと言うのならば言えばいい。私は勉強が嫌いだ!
「とりあえず、互いに未知の言語を学ぶ。
その方が勝負としてもきちんと釣り合うだろう?」
「くっ」
「ティオネ、公平性を期す為だ。その方が互いの条件に合うんだ。
わかってくれるね?」
「はい!勿論です!」
「そうだな。私としても英語という文字も気になる」
「そうだね。フィアナ、頼むよ」
『はいはい、お任せあれ♪』
「ああ…憂鬱だ。
この世で最も憂鬱な時間が来た」
「そこまで嫌悪感を示せるのは逆に凄いとも思うよ^^;」
「まるで世界の終わりを目前に迎えたかのような表情だな…」
ずうううんという沈んだオーラと共に机に突っ伏す私に対し、フィンは苦笑を浮かべ、リヴェリアは冷や汗交じりに見つめていた。
「が、頑張れー;」
「ティオナ、せっかくの言葉なのにごめん。
それでもそれで頑張れるのなら最初から誰もが勉強頑張るよ。やるだけ結果が反映されるのなら誰もが望んで勉強するよ。
私は要領が悪いんだ。頑張る方向性を間違えて、丁寧にやり過ぎて知識が偏って、試験じゃ違う所を突かれて破れた。
どれだけ努力した所で、その努力した範囲が試験で出なければ終わりなんだ。それまでの頑張りも水泡に帰す。
もうあっちじゃやり尽くしたんだ、もう考えたくも思い出したくもない。
仕事探しながら働きながら母親に付き合いながら勉強しながら全部完璧に、自分なんて持ってたら自殺してたって話だ」
じめじめと沈み込むオーラが次第に涙へと変わっていくのを感じた。
素直に思いの丈をぶつけるように呟きながら、勉強に対しての意気込みを示した。
「と言うか先生の大事だと思う部分と私の大事だと思う部分が違うんだよおおお!!;」
ああ…大の大人が情けない。みっともない。
そう思えるほどのものだとわかっていた。それに嫌な思いを抱かせたくなかったのに…そのまま正直に言葉にしてしまった。
幻滅されてないだろうか?嫌われたりしてないだろうか?
内心びくびく怯える中、顎に手を当てて考え込んでいたフィンは徐に口を開いて言った。
「幻滅しないで。ごめんなさい;」
「謝ることじゃないよ。君個人の考えを知れてよかったとも思う」
しくしくと机を涙で濡らす中、フィンは私の肩に手を置いてそう言い、その後で尋ねてきた。
「ンー…
じゃあ、頑張ればケイトに一つご褒美をあげようか?」
「?何のご褒美?何を出されたとして釣られない自信があるぞ!
未知のものを1日以内で身に付けるなんて、出来ない自信しかないぞ!」
「いや!それもう自信じゃないよね!?;」
そのフィンの問いかけに対し、私はむすっとしながら潔く叫んだ。
と同時に、ティオナが最後の言葉にツッコんだ。
…何気にティオナってツッコミうまいよね。
「うん^^
頑張れば君の言うことを何でも聞くよ、一つだけ」
「よっしゃ頑張るぞおおお!!!」がばっ!!
「さっきの態度はどこへ行ったの!!?;」
「……ずるいっ!!」ぎりぃっ!!
真っ正直過ぎるその言葉にフィンは笑みを浮かべ、衝撃的な言葉を私へぶつけた。
その次の瞬間、私は一瞬で起き上がってペンを右手に取って掲げながら叫び、それにティオナがツッコみ、ティオネが恨みを込めながら歯噛みと共に睨んできた。
?リヴェリア、何で目を丸くしてるの?
「単純…だな」
「ああ。でも扱いやすいよ」
呆気に取られたような表情で固まるリヴェリアに対し、フィンは楽しそうにくすりと笑みを浮かべた。
「何やってんのさリヴェリア!早く教えてよ!!
共通語だけでなく冒険者の知識まで全部含めて3時間以内に把握してやる!!」メラメラ
「負けるもんですか!!」メラメラ
ティオネと共に互いに燃え上がる中、戦いのゴングは鳴り響く!
「燃え上がれ我が心よ!!
集中しろ!全て焼き付けろ!!覚えるんだああああああ!!!」
ごぉっ!!!
「これ、魔法だよね!?」
「ズルじゃない!!?」
魔力が感情と共に荒々しさを増しながら外へと出ていく。
白く発光する魔力が身を包む中で、周囲に対しては何事も無く…何の影響も出ていなかった。
その時、ティオネとティオナが即座に冷や汗交じりに反応を示し、フィンはフィアナにお願いし始めた。
「…フィアナ、できれば魔力を封印してもらえると…」
『私にこの面白おかしい光景を見るなと言うんですか!?』
「何で泣くんだい?」
『気分です』
「…じゃあ、切ってくれ。僕と戦う前にしたように。
後で記憶を読み取ってもいいから」
『嫌です。ティオネに教えられないでしょう?』
「そうだな。異世界の正しい知識はフィアナしか教えられないだろう」
「仕方ない、か…はあ;」
フィアナの言葉を受けてのリヴェリアのそれに対し、フィンは溜息交じりに力なく肩を落とした。
『でも魔法の発動を押さえることは可能なのでお気になさらず』
「先にそれを言ってくれ!」
淡々としたフィアナの言葉に、フィンは一言だけ懇願の如く叫んだ。
勿論、フィアナの手(?)、いや、魔力が額に当てられて流し込まれたことによって、「脳に焼き付けるという魔法は無効」と条件を付けて封印された。
こうして…3時間という時間制限の中で勉強が始まり、その後に試験が執り行われた。
結果…ケイト、89点
「100点じゃない!?
教えて!残り11点分教えて!次こそ100点取れなきゃ気が済まない!!」
「あ、ああ」
ずいずいと迫る私に対し、リヴェリアは冷や汗交じりに引きながらも丁寧に教えてくれた。
そしてその間違った箇所は、うっかりミスだったり純粋に忘れていた所だった。
ティオネの場合…
「こんなわけもわからないもの…覚えられるわけないでしょうがああああ!!!」
うがああああっ!!とばかりに態度で激昂を示すそれに、ティオナはフィアナに尋ねた。
「何点だったの?」
『56点です。一気に詰め込むにしても誰でも限界があります。
ケイトと同じぐらい範囲を広大にしたのですが…何分異世界の知識なので』
「それはケイトも同じじゃない?未知だったろうし」
『そうなんです。
でも集中力だけは凄いんです。
周囲の声も聞こえなくなるし視野も狭まるし肩叩かないと気付かれないし』
「なんか欠点ばかりあげてない?;」
『とりあえずかけた封印を解きます』
そうやり取りが繰り広げられる最中、私ははっきりとやりたいことを伝えた。
「フィン!!私、フィンと抱き締め合いたい!一緒に寝たい!温もりを感じていたい!」
「へえ、閨のお誘いかい?」
「へえ!!??」
『声が裏返ってますよ?』によによ
ただ一緒に寝たいだけ、その気持ちからのものだった。
ちなみに椅子からは解放されているし、フィンと立ったまま向かい合っている状態だ。
願いを伝えただけのはずが、違った取られ方をしたことに私は驚きのあまり叫んだ。
「いいいいいいや!////そう言う、意味じゃ、なくって//
その、ここ、ここここ、心準備がっ///」おろおろ
「わかってる^^
君の反応が面白くて…つい、ね?」
全身の血が沸騰するかのような錯覚に陥る中、私は鏡を見なくとも顔が真っ赤になったことを集まった熱から悟った。
と同時に、その反応を見てさも楽しそうに語るフィンに…遊ばれてのことだとやっと気付いた。
「ついじゃないよ!!//私の心と気持ちを考えてよ!!//」
「ああ。済まなかった。
それにしても…君の望みは、随分と小さいね」
「そう?」
「ああ」
私の正面を切っての主張に対し、フィンは頷いた。
あ、ティオネに間違えた箇所の解説をしておきたい。
そう考えて伝える為に話しかけると
「余計なお世話よ!!!」
「すみません!!;」
激昂と共に叫ばれ、私はそれに怯えながらも叫び返した。
その背後でこんなやり取りがあったことなど、私は知らない。
フィン視点――
純粋無垢に笑みを浮かべて、そう今から楽しそうにルンルン気分で語る。
そして文字通りからかってみると、その言葉を真に受けてか態度は一転する。
おろおろとしたり真っ赤になったり…その反応が、とても面白おかしく感じていた。
そんな彼女を見た僕は、感じたことを、抱いた印象をそのままに呟いた。
「多分…本当にやりたかったことを封じたのは、5歳頃だったんだろう。
だから…まあ…表現方法がストレート過ぎるというか、純粋過ぎると言うか…」
「ああ…どこか、幼子を想起させるな」
「そうだね。だからかな?…何故か、放っておけないのは」
「憎めないからな」
「彼女が僕達に出会うまで、そう思う人達は限りなく少なかったようだけれどね。
純粋過ぎて…何でも真に受けるから…」
「ん?」
「からかい過ぎることになりそうだ」
にやりと笑みを浮かべる中、リヴェリアは…
「さも楽しそうなのは見逃すとして、程々にしてやってくれ」
そう瞑目しながらも溜息を零した。
「気分にも寄るかな?可愛い反応が返ってくると、つい…ね?^^」
「ね?ではない;はああ。
この分だと苦労しそうだな…」遠い目
「大丈夫だ。死んでも逃がさない」
「ああ。わかっている」
そうリヴェリアとの会話を終えた後、激しい足音が戸へと近付いてくるのを感じた。
どどどどど
「おるか!ケイトおおおお!!」
ばぁん!!
「ほわぁい!!
(しまった!驚いてつい変な言葉がっ)」
そして足音が止んだと同時に、ノックも無しに開けられてのロキの叫び声に、ケイトは身を竦ませながら叫んだ。
ケイトにとっては背後にある扉。
どうやら急激な変化についてこれず、驚きのあまり動揺しているようだ。
なおもケイトへ真正面から向かい合おうと歩を進めるロキに、目を向ける余裕さえ無くなっている。
「お前、フィアナので収納できるやろ?」
「え?うん」
「ならついてきてくれへんか?
デメテルんとこ行って、食材を買う気なんや」
その言葉を受けて、僕はケイトにあることを伝えることにした。
遠征だ。
「ああ、遠征まであと一週間もないからね」
「え?そうだったの?」
「ああ。だからその為の準備もまた必要なんだ」
「わかった!私も手伝う!!」
「そう言ってくれると思ったで!
で、リヴェリア、講習会終わったか?」
「ああ。いい出来だった」
「よっしゃ!何事も無く身に付いたんならええわ。
ギルドのいざこざも済んだわけやし!
んじゃあ、いざ!デメテルのホームへ向けて出発や!!」
「……ロキって来る必要あるの?」
素朴な疑問なんだろうね。
ケイトからの言葉に、そう思った。
確かに買い出しぐらいなら二人いれば事足りる。そう考えてなんだろうけれど…
「あるわ!!お前一人で自己紹介できるか!!?」
「…………」
「せめてなんか言えや!!!」
「初めてのそれって…緊張、が
「はい!ともかく行くでええ!!」
ガタガタと震えるケイトの肩にロキは手を置き、そのまま右腕を首にかけて有無も言わさずにずるずると文字通り引きずっていった。
そして戸を閉めようとした頃
「それで…ティオネ?踏ん切りは付いた?」
「付くわけないでしょう!!?何度でも仕掛けるわ!!」
やれやれ…長い戦いになりそうだ。
その会話を背に、僕はそう思いを馳せながら戸を閉めた。
長い廊下を渡り、石造りの螺旋階段を降りていく中、ロキに一つだけ問いかけた。
「ロキ、人通りの少ない道を使ってもいいかい?」
「ああ。ええで、それくらい。
ちょうどええ抜け道知ってるんや。行こ行こ♪」
「楽しそうだね…」
「グフフ。ケイたんデメテルみたらどう反応するやろうなあ?見逃せんわ」
内心にまにまと笑みを浮かべていること等、ケイトは知る由も無いだろう。
後ろを向いたまま降ろされているから足を滑らさないことでいっぱいいっぱいのようだ。
「ちょっとロキ!お願いだから後ろを向いて!!;」
「ああ。あかんあかん!後ろよりも前向いて歩いていかんとな!!」
「私を見て!!首閉まってる!」
「うん!わかってるわかってる!過去のについて踏ん切り少しは付けれたんやろ?」
「今見て!」
「見とる見とる!
ちゃんと見てるでー?お前って人柄をな!愛してるでー」
「滑る!落ちる!」
「せやなあ。落ちんようにせんとあかんな?苦しかったやろうけど、今楽しもうなー?」
「助けて!!」
「うん!ちゃんと助けるで?その為にも信じてや?過去の奴等と同じやと思うんやないで!?」
「ヘルプミーーーー!!!」
「ぷっ…ふふっ」
「ん?何笑っとるんやフィン、震えとるで?」
ロキの前を歩く中、僕はただただ笑みを隠せずに笑うばかりだった。
ヘルプミーとは助けてという意味だったかな?
「わあああああああああああっ!!!;」
遂に足を滑らせたケイトに対し、僕はその背を受け止めながら謝罪した。
勿論、ロキは首が閉まっていたことなど知らなかったという。
訂正
カチコチと時計が→カチコチと音を鳴らす時計が