神様を殴る為に神を目指すのは間違っているだろうか   作:-恵-

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在り方

デメテル・ファミリア…

それは野菜や果物を栽培して売り出す商業系のファミリアであり、大農業を営んでいる。

 

これから向かう本拠である『麦の館』はオラリオ近郊にあり、そこを拠点として野菜や果実を作っている。

良質の食材として評判が高く、ロキ・ファミリアの食事に使われている野菜や果実のほとんどはそれにあたる。

 

ということを道中で解説しながら、オラリオから少し外れた場所へと向かって歩いて行った。

 

 

そうして辿り着いた時に目に入った広大な光景に、ケイトは息を呑んだ。

 

澄み渡る青空の下、風が吹く。

視界の果てまで広がる畑、その近くにある木々、それらの青々とした葉もまた揺れていた…

 

何かを思い出したのだろうか?

隣にいるケイトはとても興奮したように頬を染め、それらの光景に目を輝かせた。

 

 

「おおー!」

目を輝かせながら叫んだ彼女に、僕は思い出した。

 

彼女のいる世界では、これほどの自然に満ちた光景は中々に見れないだろう、と。

 

 

「…初めて見る人にとっては衝撃を受けるだろうね」

そう呟いた矢先、彼女は走り出す。

 

「前世を思い出す!私も手伝わせてー!」

「待て!」「待ち!!」

突如として叫びながら手を振って駆け寄ろうとする彼女を、僕はロキと揃って呼び止めた。

 

リヴェリアの部屋での時のように近かったら、ちゃんと左右で挟んで腕を同時に持ち上げて動きを封じ、椅子に縛り付けることもできたのかもしれないんだが…

生憎ここには僕しかいないし、ロキ自身一般人程度の身体能力しかない。

 

ちゃんと大人しく立ち止まってくれた彼女に、心底安堵した。僕一人では止めるのに骨が折れるからという思いからでもある。

 

 

「え?何で?」

「はあ。目的を忘れてどうするんだい?」

振り返って尋ねてくる彼女に、僕は溜息を零しながら来た目的を思い出すよう促すことにした。

 

「…あ;ごめん」

「意外と衝動的な所あるんやな」

僕の言葉に対してケイトは謝罪し、ロキはそれらの様子を見た感想を零した。

 

「無邪気なのはいいことなんだけれどね」

その感想に僕が苦笑を浮かべる中、その騒ぎもあってか神デメテルがこちらに気付き、歩み寄ってきた。

 

 

「あらぁロキ、お久しぶり。元気にしていた?」

「お、おう。デメテル」たじたじっ

神デメテルが近付く度に揺れるその上下の胸に、いつも通りロキの目は釘付けになりながら後ろへ後退った。

 

「あら、見ない顔ね?」

「ああ!ウチのケイトや!明日の神会で公表されるLv.8の冒険者やで?」

「Lv.8!?」

「うんうん!」

神デメテルの問いにロキが答え、驚きを隠せずに叫ぶそれに二度頷いた。

 

そして当のケイトは固まっていて…ああ、動き出したね。

 

 

「豊饒の神、デメテル…!!」たじっ

「うんうん、せやでー?」

揺れる胸を前に見入っているケイトは後ろへ下がり、ロキは二度頷いた。

 

「色んな意味で…豊饒してる!!!」

「「「?????」」」

そのケイトの言葉の言わんとする意味が分からず、僕達三人は揃って疑問符を浮かべ、ケイトの視線を探って追ってみた。

 

すると…その視線の先は、今なお上下に揺れている神デメテルの胸だった。

 

 

と同時に、彼女の言わんとすることが分かった。

 

胸が豊饒している、と…

 

 

「ああ!」

「ぶふぉおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

それがわかって納得したこともあって僕がそう言葉を発しながら手を打った瞬間、ロキの吹き出した音がその場に響き渡った。

 

「あーっはっはっはっはっはっ!!ケイたん最高!マジで最強!!!」

腹を押さえたロキは地面を背に倒れ込み、その場で笑い転げ出したのだ。

 

 

「そないに真正面から言った奴初めて見たで!!

あーっはっはっはっはっ!あーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!」

「っ!!!!!!

すみませんすみませんすみませんんん!!!!!」

ゲラゲラと腹を抱えて何度も叫びながら笑い転げるロキの言葉に、ケイトはようやく我に返る。

 

と同時に、真っ青になりながら土下座して何度も何度も神デメテルへ向けて頭を下げ、謝り続けていた。

 

 

「腹が捻じれる攀じれる死んでまうううううう!!!」

しかし、なおもロキは笑い転げるのをやめはしない。

 

ああ…これは完全にツボに入ったね。

僕はその様子を前に、沈黙したまま見つめるばかりだった。

 

 

「別にいいわよ。楽しい人ね^^」

「そう思ってもらえたのなら光栄です!!!

と言うか本当に失礼なことを言ってすみません!!」

その神デメテルの言葉を聞いた瞬間、ケイトは弾かれるように直立して頭を下げた。

 

「(大丈夫かな?;)」

そのやり取りを僕は冷や汗交じりに見守る中もなお…

ロキはツボに入ったのか跪いて腹を抱えたまま背後で笑い続け、ひたすらに地面を掌で叩き続けていた。

 

まあ…気持ちはわからなくもないが……

 

 

「はああっ。

ロキ…ケイトの心境を考えてくれ」

「最高!最強!だぁっはっはっはっはっ!!」

溜息交じりに僕は言うも、ロキ自身は笑いがどうしても止められないのか叫び続けるばかり。

 

「ぐぬぬぬぬぬ」

そんなロキに対してぷるぷると怒りと共に震えるケイトに、僕はよしよしと頭を撫でて怒りを抑える手伝いに努めた。

 

 

そうして…予め注文していた食材を全てフィアナの中へと入れた後、ケイトは畑仕事を十数分だけ手伝わせてもらい、僕とロキは畑のすぐ傍にある木の下で座って見学していた。

外の空気はどこか心地よく、土の香りを懐かしんでいるかのようにも見える彼女の笑顔に…僕は笑みを浮かべた。

 

神デメテルが言うには初心者とは思えないと称賛するほど巧く…引き抜こうとまでされるほどだった。

 

 

『農業Lv.8!』

「前世の経験からかい?」

『Yes!』

「はい、か」

フィアナの言うイエスというの言葉の意味を思い浮かべながら、僕は目の前で起こっている現状へと目を移した。

 

ロキが必死に神デメテルとケイトの間に立ち、引き抜かせまいと異議を叫び続け、ケイトはケイトでたまに手伝いに来たいと要望を訴え、それに神デメテルは快く了承していた。

それから遠征のことを思い出してか、ケイトは「でも遠征があるから先になるかもしれない」と言い、神デメテルは「できる時だけで構わない」と言って笑みを浮かべながら頷いた。

 

 

「話は済んだかい?」

「あ、うん!」

 

「帰るよ」

すっ

 

僕は神デメテルとのやり取りが終えるのを待った後、歩み寄りながらケイトへ尋ね、すぐ頷いた彼女の目を見つめながら言った。

 

一緒に帰ろうと、手を差し伸ばした。

君の帰る場所はここ(ロキ・ファミリア)だと、態度で示したかったというのもある。

 

 

昼の食事前、僕達は自らの想いを伝える為に言葉を発した。

言われなければその想いは察せないし解らないという彼女の性格を考えてのことだった。

 

ただ伝えただけ、想いをぶつけただけ…「それだけでは、想いの強さに対する理解を得られない」と、僕は考えた。

 

 

僕はただ、伝えたかった。

 

君がいくら迷惑をかけるのを嫌ったとして、僕達はそうは思わない。少なくとも僕だけは違う。

ここに居ていいのだと、迷惑や負担をかけてでも共に生きていいのだと――ただ、伝えたかった。

 

 

 

「……いい、の?」

 

「ああ^^」

 

震える声、嗚咽が込み上げているかのような息遣い。

そこには恐れを抱き、まるで怯えているかのように身を震わし、涙を浮かばせる彼女がいた。

 

それに僕は頷き、想いを告げる。

 

 

「君の恐れも恐怖も織り込み済みだ。昼に言ったように頼っていい、互いに自分をさらけ出せる相手となって欲しい。

それが…僕が望む、君との関係だ」

 

どう取られるかもわからない。受け取り方も価値観も違う。重きを置く所も違う。

 

ただ、これだけは知って欲しかった。

同じ思いをさせる気はないということ、君の理解者になりたいということを。

 

 

「…態度で…示してくれるって、事?」

「ああ。君の場合は、その方がいいだろう?

尤も、ティオネのあれは過激だったけれどね」

ケイトからの問いかけに対して苦笑を浮かべる中、僕はなおも言葉を続ける。

 

「君は…どうしたい?」

 

西日を背後にしたまま、木々のざわめきが耳を刺す。

風が僕達の間を抜け、彼女の瞬きと共に涙の粒が僕の頬へとかかる。

 

 

その問いかけを受け…

 

「私は…フィンに…抱き着きたい。触れたい、温かな想いに…」

僕へ向けて歩み寄りながら、彼女は呟いた。

 

それに僕は両の腕に閉じ込めるように抱き締めた。

 

 

「んじゃ帰るわ」

「ええ。またね」

ロキと神デメテルのそんなやり取りを背に聞きながら

 

「帰ろうか」

「うん」

僕の言葉にケイトが頷いたのを皮切りに、僕達は手を繋ぎ合って帰途につき、歩み出した。

 

目の前のこと、身の回りに起きたこと、それを乗り越えるだけでいっぱいいっぱいだっただろう。

過労死するまで、誰も頼りになろうとする者もいなかったろう。

 

 

それでも…僕は、君に伝えたい。

 

今は違うのだと、君を想う人間はここに居るのだと、何度でも…

 

夕日を背に歩く僕達の影の繋がりを見つめながら、この繋がりが心まで深くなればと…切に願うばかりだった。

 

 

 

-------------------------

 

 

 

黄昏の館に帰った僕達は、フィアナのそれから出し続けて食材を置いておく倉庫、及び魔石で動く冷蔵庫へと収納していった。

 

そうして夕飯となったわけだが…以前にも言ったように、告白の光景をフィアナが映し出し、そのままどんちゃん騒ぎとなった。

それによる苛立ちもあってか、その後に行われたケイトの教えは厳しく、ケイトの持つ技術を身を持って完璧に付けるまで一切解放されず、それは2時間続いた。

 

 

と言ってもケイトが生み出した空間魔法というもので異空間を生み出し、その中では外での実時間1分を1時間にさせるというもの。

つまりと言うと…120時間ぶっ続けで全員へ向けてさせられ、そのお陰かランクアップする者まで中には現れる始末だった。

 

中でも食事、風呂、睡眠は取らせてもらったが…やはり5日という時間を格上からの修業のみに費やせば、やはり変化は訪れて当然なのだろうか…?

そう、疑問を呈するばかりだった。いや、素直に喜ぼう。他でもない僕自身もまた、ランクアップできたのだから。

 

 

 

-------------------------

 

 

ケイト視点――

 

風呂も終えた後、私はフィンに手を取られたままフィンの私室へと案内されていた。

 

 

長い廊下を共に歩む中、月明かりが窓から差し込む。

 

フィンが先導に立って案内される中、執務室という部屋を通り抜けようとされた。

その通り抜けようとした部屋は豪華な作りで格式高いものを感じさせるもので、部屋の入り口から動けなくなった。

 

 

入ってすぐに絨毯、入った扉から見て左には壁際に本棚が設置されており、斜め前の突き当たりには暖炉、その上に時計、扉から正面には手前から高そうな椅子が二つ並べて置かれており、

そして最奥、窓に近い位置に部屋の中でも一際目立つ机があり、その上にはインクと羽ペンが見えた。そこで執務が行われるのだと、言われずとも気付くほどのものだった。

 

少しばかり目を上に向けると、天井にある魔石灯が目に入った。

魔石灯とは、魔石の魔力を下に明かりをつけるものだ。

今は月明かりが強く、必要もないと考えてかつけられてはいない。

 

そしてまだ向けていない右へと目を向けた時、私はその姿勢のまま固まった。

壁際に扉に近い順にタペストリー、その隣に小さな棚があり、その上にあったものへと視線が集中していた。

 

 

「…見た顔だろう?」

その理由を察してか、前方にいたフィンが左隣へと歩み寄りながら声がかけられ、私はそれにただ頷いた。

 

小さな棚の上にあったのはフィアナの像…

それも、まるで目の前で対面した時を想起させるような精巧なもので…歩み寄って触れてみると、陶器のような感触がした。

そしてそのすぐ横にはタペストリーがかけられており、それを見つめながらフィンは教えてくれた。

 

 

「遥か古代…フィアナ騎士団に勇気を奮い立たせ、自ら先導し導いた者、それこそがフィアナだと伝承が残っている。

そしてそれが擬神化されたものだと、神がこの世に降りてきた時を境に知らしめられた。

その時を境に…小人族は衰退していった。それも加速度的にね。心の拠り所でもあった、英雄だった。

小人族の英雄譚は、数が少ない…その中でも…神に辿り着けたのはその者のみだと…そう、言い伝えられていたんだ」

タペストリーに言い聞かせるかのように、私に目を向けないままフィンは語った。

 

私が像へ歩み寄ったことからか位置が変わり、右後ろから聞こえる声にただ黙ったまま静かに耳を傾けていた。

 

 

「尤も…実在していたと知ったのは、つい昨日なのだけれどね」

そう苦笑を浮かべる彼に…私は何を思えばいいのだろう?

 

どのような思いをして生きてきたか、私は知らない。

ただ…風当たりが強かったのだろうということは、初対面の時にかけられた言葉から容易に想像ができた。

 

 

「……」

何と言っていいかわからない…何て言葉をかけたらいいのかわからない…

そんな想いに駆られた私は口を噤んだまま、何も言えなかった。

 

「そこの右奥から入るんだ。ついておいで」

「待って!」

「?」

何も言わなかった私に案内を続けようとした矢先、思わず私は呼び止めていた。

 

どこか…何故か…痛く、感じてしまった。

呼び止めずにはいられなかった。

 

「どうした?」

眉を顰めるフィンを前にした私が感じていたものは緊張。

それでもなお、言わずにはいられなかった。

 

 

月明かりが静かに窓から差し込み、辺りは静寂で包まれている。

 

その最中で、視線と視線が交錯し合う。

互いに黙り合ったまま、夜が更けたこともあってか空気がより冷たく肌を刺すように感じる。

 

どちらも目を逸らさないまま、二人きりということも相まってか緊張が増してゆく。

手汗を握り、高鳴る鼓動と共に体が熱くなり、喉の乾燥がいやに強く感じる。

 

 

「ごくっ、すぅ」

 

その中で、私はゴクリと口の中にある唾液を飲み込み、息を吸った。

自らを落ち着かせる目的でした呼吸により、冷たい空気が体内に染み渡っていくのを感じる…

 

そこで、私の精神はようやく落ち着きを取り戻した。

 

 

 

「私は…いるぞ!」

月明かりを背に私へ振り替えるフィンへ向けて、私は自身の胸に左手を当てて叫んだ。

 

「?何を」

「フィアナは居たぞ!!」

「!!」

「私を送った!私が連れ戻す!!

 

だから…だから!捨てるな!!」

金切り声に近い声が喉を震わせた。

 

まるで…フィンが、いない人を思っているかのように見えた。

 

信じ、信仰し、いるかもわからないものへ向けて祈りを捧げる。

古代ならば誰もがそうだっただろう。実在するなど目にするまで思いもしなかったろう。

 

 

しかし…それでもなお、私は叫んだ。

 

いないものだと言うかのように扱うな!

私の恩神を、いないもののように思うな!

 

もう、昔とは違うのだ。それだけは、訴えたかった。

 

 

「…………」

 

長い静寂の後、聞いた時の姿勢のまま固まっていた彼は反応を示す。

 

「…ぷっ」

最初に聞こえたのは何かに耐えきれなかったのか吹き出すかのような音。

 

「あっはっはっはっはっはっはっはっ!!」

程なくして耳を刺したのは、さも愉快そうな笑い声だった。

耳朶を打つそれの意図がわからず、私は?を浮かべるばかりで、思考もまたついてこれずに固まった。

 

 

「えっと……え?…どうしたの?」

 

「いや…済まない。ふふっ」

 

未だ耐えきれないかのように笑みを受かべるそれに、私は首を傾げるばかりだった。

 

 

 

数分後――

 

「はっはっはっはっ!」

「……説明してくんなきゃわかんないよ」

 

未だ笑い声をあげるばかりのフィンを前に、私は眉を顰めたまま説明するよう促した。

 

何で今までに見たことのないぐらい笑うんだ!!

その想いばかりが胸の内を占め、傍にいるというのに説明もなく置いてけぼりなことに腹立った。

 

 

「あ、ああ…説明するよ」

「泣くほどおかしいこと言いましたか!?;」

涙を滲ませるほど笑ったフィンに、叫び尋ねる。

 

「いや…ただ、驚いたんだ」

「へ?」

「言うに事欠いてそれか、とね?」

「はい?」

 

「そうだね…嬉しかったのもあるんだよ?

そしてそれを教えてくれたのが君で…そこまではいいんだ。おかしいことも何一つとしてない」

「なら笑うこともないじゃん」

 

「いや…問題はここからなんだよ」

くすくす

「?

だから…何で笑うの?」

 

疑問符を浮かべ、首を傾げる私にフィンは笑うばかりだった。

 

そうしてやっと、胸の内を占めていたという想いを伝えられた。

 

 

「それ以上に…「そうか、それが君のありのままか」と…そう思ったら笑いが止まらなくてね?

 

結局、君は…人の為に怒るんだなと」

 

ぷくくっと吹き出しながら言うそれに、見ていた人からの印象を受けて…

ああ、確かにそうだ…と納得した。

 

あの時は、不思議と怒りが止められなかった。

フィアナの存在意義を聞いて、恩神への想いと扱いを聞いて、居ても立っても居られなくなったんだと…今になって気付いた。

 

 

「言われてみれば本当にそうだね」

「今気付いたのかい?」

未だ声を震わせながら、彼は言葉を続けた。

 

「君は…その生き方は、確かに君の在りたい形なんだろうね」

 

そう笑いかける彼に、私は頷いた。

 

 

確かにこれは…私自身が、心から思っての行動だった。

 

それが…今回のことを経て、やけに強く実感させられた。




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