神様を殴る為に神を目指すのは間違っているだろうか   作:-恵-

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月明かりの下で

フィンの私室――

 

フィンの私室は執務室のすぐ右側に位置している。

執務室の入口から見て右奥の部分が隣の部屋へと繋がっており、そこの入り口には戸も仕切りも無い上に広く、そのまま難無く入れた。

 

入ってすぐにあったのは赤い絨毯、机を挟んで窓際を背にしたソファーとそれと向かい合うかのように設置されたソファー…入ってすぐ左側にある窓からもまた、月明かりが煌々と部屋を照らしている。

右側には本棚やらタンスやら…フィンの私物が置かれてあった。

 

そして正面の一番奥にベッドがあった。窓側に枕を向けており…それが…それが!!

 

 

「リヴェリアの部屋にあるような天蓋付きベッドじゃない!!」

「うん?」

 

リヴェリアの部屋で見たような豪華な作りのものではなく、衝撃を受けた私は叫んだ。

 

と同時に、フィンはその言葉を受けて目を丸くした。

それから程なくして、理解したのか口に出して呟いた。

 

 

「ああ、団長だから同じかそれ以上のものではないことに驚いたのか」

「うんうん」

こくこくと頷く中、フィンが言うには…「寝具に関しては寝れればそれで構わない」のだそうだ。

 

「そうだね。寝れる場所が提供されるだけ有り難いよね」

「君は一体どんな扱いを受けてきたんだい?

まあ知っているけれど…」

そう満面の笑みを浮かべた後、苦笑のように歪める中、曇り顔で呟いた。

 

それからフィンはベッドに腰かけ、左隣に位置する場所にある布団を左手でポンポンと叩いた。

そこに座れということなのだろう。

 

だが断る!!

 

 

「座ると見せかけてダーイブ!!!」

「!!」

どさっ!!!

目をキラつかせるや否や、前方に居るフィンへ向けてジャンプ一番飛び乗って押し倒した。

 

「ケイト…やりたいことをやっていいとは言ったけれど^^;」

「好き!//」

苦笑を浮かべながらも背に手を回して犬を宥めるかのようによしよしと撫でられる中、私は想いを告げながらふんすと鼻息を漏らした。

 

 

それにフィンは苦笑ではなく、嬉しそうに笑みを浮かべた後で抱き返したまま左へ向けて寝返り、私を左へと移動させて押し倒す。

そして背の後ろに左腕を回して持ち上げて支えたまま、両足の後ろに右腕を回しながら引っ張られ、ベッドへと腰掛けさせられた。

 

この間、僅か5秒!

 

 

「フィン…手馴れてるね!」

「君が初めてなんだけれどね?

そこだけ誤解しないで貰えると嬉しい」

そう感心しながら言うと、微笑と共にフィンからそう返され…彼は再び右隣へと座り直した。

 

未だに夜の冷たい空気が肌を刺す。

先程抱き締めていた温もりが離れたのだから、その冷たいという感覚が余計に強まるのを感じた。

 

 

どちらも何も言わず、彼は目線も合わさず…迷っているようにも見えたそれに、私は話し出すのを待った。

 

 

-------------------------

 

 

そして十数秒ほどの時間が過ぎた…

どちらも何も言い出さないまま、ただ時間だけが過ぎていった。

 

カチコチと時計の針の進む音が響く中、フィンは…恐れからか、震える口を開いてあることを伝えてきた。

それは、フィンの過去。

 

 

フィアナを通して私の過去を知っていたという事態を受け、このまま話さないでいるのは不誠実だと考えてのことだったらしい。

私の目を一度として見ず、まるで…懺悔するかのように、それは淡々と語られた。

 

私へ抱いていたフィンの想い、あわよくば利用しようとしていた当初の気持ち、私の過去を知った後に得た変化、今私へ向けて抱いている想い、モンスターから庇って死んだフィンの両親に重ねていること…

 

 

どう思われるのかわからない。だからこそ怖い。

好きだと言う人が、好きだと思う人が、どう取ってくるかもわからない。とても勇気が要る行為だと、私はよく知っていた。

 

いくら想像して、受け止めてくれる光景を思い浮かべながら受け取ってくれるだろうと楽観的に考えてもなお…現実は違う。

私自身、信じて話した結果、助けを求めた結果、いじめっ子に散々罵られた。拒絶され、否定され、散々な目に遭ってきた。

 

それを知ってだろうか、それ以上にひどい目に遭ってきてだろうか…彼の声はどことなく震えていて、組んでいた両手もまた小刻みに震えていた。

 

ようやく語り終えた後…彼はようやく、私の方へと向き直って真っ直ぐに目を見つめてきた。

 

 

-------------------------

 

 

フィン視点――

 

ようやく…語り終えた。

 

50分は過ぎただろうか…

時計の針を見つめ、そう僅かな達成感を感じながら背を伸ばした。

 

 

(だが…問題はこれからだ。受け入れられない可能性だってある。拒絶される可能性もある。

 

遠い昔、彼女が得たように…

理解などできないと拒絶され、知らぬ誰かにまでばらされ、一緒になって否定され続けられる可能性もまた…

 

いや、彼女のことを信じていないわけではない。これもまた、一つの可能性だ!

彼女は…ケイトは、そうしてこないだろう。そう信じて話すと決めたんだろう!!)

 

そう内心で頭を振り、いつものように外面では平静を装いながら彼女を見やり、問いかけた。

 

 

「嫌いになったかい?」

「へ?」

 

「…僕は、生意気な小人族だった。

そして…肝心な時に、大事なものも…守りたかったものさえにも気付けなかった。

 

嫌って唾棄し、後になってからしか気付けない…愚かにも程がある」

 

自嘲と共に口をついて出た言葉…それにケイトは、眉を顰めた。

 

 

「……私には…」

ようやく聞ける彼女の意見に、僕はごくりと喉を鳴らしながら唾を呑んだ。

 

やけに…目の前のことが、その細やかな変化が目だけでなく脳にまで焼き付いて離れなかった。それほどに緊張していたというのもある。

 

 

「私には、そんな経験がない。

だから…あくまで、想像の範疇でしかないけれど…

 

そんな風に行動に示し続けることの難しさだけは、よく知っている。

だから…私は、そんなフィンが大好きだよ。この想いは、絶対に変わらない^^」

 

頬を染めながら言う彼女に、両親のやり取りが想起した。

 

 

-------------------------

 

 

「はっはっはっ、情けないだろう?」

「ええ。

 

でも…そんなあなたが、私は好きよ?」

 

そう母から笑いかけられる中、父は頬を染めながら笑った。

 

当時の僕はその意味が分からず、理解できるものでもなかった。

 

 

だが…似た現状になって、その想いを痛いほどに分かった。

 

 

-------------------------

 

 

(なるほど。確かにこれは…心に来るものがある)

 

「それにさ、皆…同じだよ」

「?」

その言葉に対し、僕は眉を顰めた。言わんとすることもわからなかった。

 

「だって…皆、なりたい自分になってるでしょ?」

「…ああ、そうだね」

「フィンは…『フィン』って形になりたくって頑張ったんでしょ?」

「ああ」

 

「ただ呼び名が違うだけで、どちらも同じじゃない。

そのお陰で私は救われた。温もりを知れた。触れる温度が、温かさが心地よかった」

高揚するかのように頬を染め、意気揚々といった雰囲気を纏った彼女は真っ直ぐに僕の目を見つめながら伝えた。

 

「それを知れたのは…フィンのお陰なんだよ^^//」

 

そう満面の笑みを浮かべて笑いかけるケイトに…僕は、震えが止まらなかった。

 

 

「小人族にとってどうかは解らないけれど…私にとって、フィンは既に『光』だよ。

 

だってさ…私のことを、救ってくれたでしょ?」

「っ」

 

救いたかった。護りたかった。

 

あの日、あの時…僕は両親を守りたかった。それを感じたのは、庇われた後になってから。

『希望』だと、身を持って知った後だった。

 

 

(今度こそは…救えていたのだろうか?

 

両親に似た彼女を、狂おしいほどに愛しく感じる彼女を…救えたのだろうか?)

 

未だに実感が湧かないまま、彼女の言葉に耳を傾けて頷きながら…涙が滲んだ。

 

 

「だからさ…私の初めての人になってくれて、本当にありがとう」

白んだ視界の中、微笑みかける彼女がぼやけて見えた。

 

「だが、フィアナがいてこそだろう?」

「わかってないなあ。人じゃなくって神だよ?同じにしないでよ!」

「…けれど」

「だがもけれども関係ない!」

「!」

その叫びに、僕は目を見張った。

 

「私は……フィンも…ディムナも…どっちもひっくるめて、両方があるから…今目の前にいる、あなただっていう人物だと思う」

「!!」

 

「だから…一目惚れした時点で、とうに決まっている。

 

私は…フィンも、ディムナも、どっちも大好きだよ//」

「っ!」

 

満面の笑みを浮かべ、頬を染めながら語るそれに…不思議と涙が溢れて止まらなくなった。

 

 

息が詰まる。声が出ない。震えもまた止まらない。

 

この胸の内に湧き上がる温かなものは――一体、何だ?

 

 

 

「私の一番になってくれて、私の初めての光になってくれて、本当にありがとう^^//」

 

ぎゅっと右手で僕の両手を取って嬉しさからか、涙と共に赤らんだまま満面の笑みを浮かべながら語られた。

 

 

『暗闇』…彼女にとって歩んできたそれは、人生は…まさにそれだった。

希望も無く、助けて幸せそうな笑みを浮かべる人を見ることだけが生き甲斐だった。

 

そして…自身には助ける為に動いてくれる者も無く、光など一切なかった。

それが今…僕と出会い、言葉を交わし、気遣われ、助けられ、温もりを与えられ、受け入れられ、想いを受け取り……それらそのものが、初めての『光』で…だからこそ、今生きたいと思えているのだと。

 

そう語られ、満面の笑みを向けられた直後…僕は胸の内から熱く込み上げる想いを止められず、耐え切れず、行動に移した。

 

 

(もう…限界だっ!)

 

その手ごと引き寄せながら、背に腕を回して抱き締めた。

 

心が、悲鳴を上げていた。それを強く感じると共に、その力を強めた。

 

 

 

月明かりの下…初めて掛けられる言葉に、不思議と涙が止まらなかった。

 

どちらも自分で、両方があるからこそ自分なのだと…そのままに受け入れてくれたことが、純粋に嬉しかった。

そして…彼女にとって救いになれていたこと、一番となれたこと、生きたいという希望を齎す『光』になれたことが…嬉しくて、仕方が無かった。

 

堪らなく、胸の奥で熱い何かが込み上げては止まらなかった。

 

 

そして気付いた。

 

両親との続きを…彼女との続きに重ね、夢見ていたことに。

 

拒絶されることを心から恐れ、恐怖し、それでもなお共に居たいと願っていることに。

 

 

 

(僕は、彼女が好きだ。これまでにないほど、恋い焦がれている――)

 

胸の内で今もなお猛り狂うかの如く、それは存在を示し続ける。

 

今までの自分では知らなかった想い、強烈なほどの恋慕に…僕は酔いしれ、涙を零しながら強く強く抱き締めていた。

 

 

何の悪戯か…あの日と全く同じ形をした月を前に、始まりの日と同じように…ただただ、咽び泣くばかりだった。

 

 

 

-------------------------

 

 

それから…20分もの時が流れ、彼女はそれをずっと抱き締め続けてくれていた。

 

そして僕が落ち着きを取り戻して涙が止まった頃…彼女は書き記したい、示したいと言葉を漏らした。

 

 

「くぅーっ!この感動を伝えたい!!」

瞑目と共に歯噛みし、拳を握り締めながら興奮するように叫ぶ中…僕は抱き締めたまま呟いた。

 

冷たい空気の中、彼女の温もりと満面の笑みに…忠告することに決めた。

 

 

「君の考えに共感できる人は…極めて少ないと思った方がいい。

 

君自身の為にもね」

 

「…え?」

どういうことかわからず、疑問符を浮かべながら首を傾げた。

 

「君がどのような思いをしてきたか…

それをいくら伝えやすいようにと念頭に置いて訴えかけた所で、その時点から君の思考を下らないと思う人間もいるということさ」

「それは…価値観が違うから、だよね?」

 

「ああ。そしてそれは誰しもが持っているものだ。

何を受けて感動するか、何に対して楽しいと思うか…人は誰しもが違う。

人の思考に興味のない人間もいる。人の気持ちを知ったとして何を伝えたいかという受け取り方も違う。

 

君自身という個を、誰もが理解できるものじゃない。

個を殺せ、自分に合う形にしろ、そうして自らとは違う合わない他人に無理をして合わせ、自らを潰して、君は…死んだ」

「別の世界では生きている自分もいるんだけれどね」

「パラレルワールド、というやつだね?」

「うん」

『全く違った世界で生きているケイトもまたいますけどね』

 

「そもそも…私は、他者のことは自分が想像できる範囲までしかわからない。

尋ねてみたらそうじゃないって言われることもあるし、ちゃんと一つ一つ聞いてみなければわかんないよ」

「そうだね。

あの時、君はこうした。君個人の得てきた環境、経験からこそ得た考えがあったから。

そう伝えたとして、結局は読者の受け取り方に投げる他ない。

 

いくら君がそう受け取ったと伝えた所で、共感できない人もいる。それごとつまらないと抱く人もいる。

それは強いられるものでもないし、感性が違うからこそ起こり得ることだ。

 

人は、決して他者にはなり得ない。どうしても付き合っていきたいのなら、どう折り合いを付けるか、個として流すか、できる範囲もまた誰もが違って、自分に合わないから合わせろ、自分にとってつまらないから面白い形に変えろと言葉を投げかける人もまたいる。

そのぶつかり合いの時でさえ、言葉としなければ伝わらない。だが受け取り方の違いから、解釈もまた異なる。

 

本人が傷付けるつもりなく話したとして、それに対して「傷付いた」「傷付ける言葉を吐き掛けられた」と捉える人もまたいるようにね…」

「なるほど…」

 

その言葉の後、僕は頬を撫でるのをやめて手を足元へ下ろして、目と目を合わせながら言い聞かせた。

 

 

「例えば…君の場合、合わないそれをあげてみようか?

人を殺して興奮した、やってはいけないことを成し遂げた達成感に酔いしれた」

「ふざけんな!!!!」

 

「そう…」

「え?」

「極端な例だったけれど、そう感じる人も中にはいるということさ」

「えっと…ああ、価値観の相違?」

 

「ああ…それを受け入れるかは人にもよる」

そう言いながら僕は頷いた。

 

「刺激が足りない?」

「それはあくまで君の想像の範囲内でしかない。性格にもよるし、それを見て得る感情もまた異なる」

「んーーー」

彼女に問いに自分の考えを伝えるも、彼女は腕組みをしながらただただ頭を捻るばかりだった。

 

互いにベッドの上で、布団の上に座ったまま互いの方を向き合っていた。

 

 

「人の考えを知るには、言葉もまた必要になる。

たとえ文字通り示したとして、その文字をどう受け取るか、どう想像するかも人によって違う。

 

いくら君が環境を伝え、だからこう考えた、こう感じた、とても嬉しかった。

そう伝えたとして、その読者の環境も考えも価値観も違う。重きを置く部分も違う。大切だと思うもの自体も違う。

違って当たり前なんだ。好き嫌いもね…

 

逆に言うと、君の好き嫌いも許容範囲も違う。

分かりやすく伝えようとしたとして、それは個人個人で表現が違う。その表現にも相性がある。

 

君が今までに得た理不尽な環境に何を思ったか…その思考もまた、君という個であるが故のものだ。

大切にしなければいけないものだ」

 

「……私は…自分が大切だとは思わない」

「そう思うのもまた、個の自由というものだよ。

 

君を愛しい…そう感じる僕もまた、個であるが故だ。

僕の好み、傾向、環境、性格、等々…様々な要因が重なり合って起きたものだと考えていい」

 

 

「思考と思考を伝え合う…」

「ああ、その為に会話という手段がある。今もこうして言葉にして話している。

 

だから僕達は昼、あれほど必死に訴えかけた。

自分の中の考えを言葉にして、声を大にして思いの丈を伝えた。伝わって欲しいと思うあまり、長くなってしまったけれどね。

 

君の心に響いたかどうか…それは聞かなければわからない。躊躇もあっただろう。

 

けれど君は立ち上がった。信じることを選んでくれた。

「今を楽しめ」、「今後の人生を今度こそは「自分の人生」として生きろ」

その言葉に君が感動したのは…「そのこと自体が今までになかったことだから」と言ってもいい」

 

「……私には、無かったんだ…」

「ああ、フィアナを通してちゃんと知っている」

「受け入れてくれる環境も、そのままの個であっていいと言ってくれるそれも…今ある、何も、かもが」

言葉を詰まらせる彼女に、僕は静かに頷き

 

僅かばかり膝を寄せて近付き、彼女の目を覗き込みながら思った言葉を漏らす。

 

 

「その上で僕達は選んだ。

そんな君だから…君に、君の想い描く人生を、君の意思で、自由に歩んで欲しいと……心から想い、訴えかけたんだ」

 

「…私は、とても嬉しかった!

 

見ず知らずだった!

でも…その環境を、境遇を知って動いてくれる人がいることが嬉しかった!!」

 

「そう…それが君の想いであり、感動でもある。

 

だけれど、それに共感できる人もまた少ない。

今までに得てきた経験から、それが当たり前の人だっている。それをこう感じろとはとても言えないし、言われて出来るものでもない。

君がさっきの例に嫌悪感を示したようにね。逆にそれを抱かれると覚悟した上で話した方がいい。

 

それを受けていくら衝撃を受けた所で、ショックに感じた所で…そういう人達は好きに言う。人の口に戸は立てられない。

人の思想もまた自由だ、どう考えるかも自由だ、そしてそれは君にも言える。

 

もしどうしてもその違いや言葉を受けて耐えられないのなら…『他と自分の違いを知るいい経験となった』と、捉え方や考え方を変えればいい。

君が君であることを、僕は責めない。合わない部分まで合わせろとは言わない。できる範囲だけでいい。また潰れて、死なないように…

 

…僕の言わんとすることは…わかるね?」

 

「…………その愛しそうな視線を見れば…わかるよ」

…ぽとっ

 

そう言いながら彼女はぎゅっと拳を握り締め、拳を震わせながら…その双眸から零れ落ちてゆく涙が頬を伝い、膝の上へと落ちて濡らした。

 

 

「私は…私だ……とても嬉しいし、その気持ちは変わらない!」

天を仰ぎながら、ぽとぽとと涙が頬を伝って落ちていく。

 

「ああ、それが君という人物だ」

微笑しながら、僕は頷く。

 

「何度でも言うよ…

私は!この気持ちを捨てられない!皆が好きだ!フィンが…大好きなんだ!心から、愛してるっ」

しゃっくりを上げながら、彼女はなおも言葉を続けた。

 

「ああ…僕も、同じ気持ちだ」

ぎゅうっ

抱き寄せながら語る中、なおも彼女は呟いた。

 

「私は…死ぬまで!死にかけるまで!そんな風に思われることなんて!!」

「ああ、なかった。だから嬉しくて堪らなかったんだろう?」

「うん!」

僕の疑問にこくこくと必死に頷く彼女、その双眸から涙が零れ落ちていった。

 

「僕もまた、その想いがとても嬉しいし、正直この年にもなって感動している」

「この年?何歳?」

「42歳」

「うん、好き」

ぎゅうっ!

 

そう想いのあまり衝動的に抱き締めてくる彼女に、僕は抱き返しながら笑った。

 

 

「はっはっはっ!^^」

「?」

「せめて…」

「ん?」

「年上だとか、差別されるかも知れないとも思ったよ。君にとってはおじさんだしね?」

「そんなことない」

きっぱり

 

「それは恩恵の影響だ」

苦笑を浮かべる僕に、彼女は首を傾げた。

 

神の恩恵(ファルナ)は老化を防ぎ全盛期の期間を伸ばし、その効果はLv.が上がる度に強まる。

その情報を簡単にケイトへ伝えた後、僕は言葉を続けた。

 

 

「個を奪われてきた。君という感性を持って得てきた。

伝える努力はしている。これ以上ないほどに頑張っている。

 

それでもなお…好き嫌いが分かれるだろう。

誰もが得てきた経験は違うし、それによって抱く想いも違う。

 

それでも……書きたいかい?」

「書いてみたい!で、あとは投げる」

がくっ

 

その無責任とも言える投げるという言葉に、僕はがくりと項垂れた。

 

 

「いや…それはちょっと^^;」

「いや、だから!それは読者の受け取り方にだよ!」

「つまらないと思われてもいいのかい?」

「……それでも、伝わる人には伝えたい」

 

「…そうか…それもまた、君という在り方の1つだ。

僕は、君の意思を尊重するよ^^」

 

「……ありがとう」

かああっ!と上気と共に頬を赤らめる彼女は恥ずかしさのあまりか、僕から目を逸らした。

 

「これ以上はダメだ!恥ずかしさで爆発する!!心臓が爆発する!

結構な言葉言っちゃったよね?人によっては嬉しいだろうけれども迷惑だよね?!!

一体どうすれば」

「声に出てるよ?」くすり

「のおおおおおおおおお!!!」

 

ぶつぶつと考えを丸々口から出す彼女に、僕は笑いかけながら指摘した。

 

どうやら無意識での行動だったようで、頭を両手で抱えながら叫ぶ彼女に…

その様子があまりにも可愛く、愛おしさが込み上げ、真っ直ぐに彼女を見つめながら打ち明けた。

 

 

「そんな君ごと…僕は惚れた。それでいいんじゃないのかな?

 

君が…僕を好きだと言ってくれたようにね」

 

そう語りながら…僕の目には、自然と涙が潤んでいた。

 

僕自身、とても嬉しかったんだろうと…今更になって、それをより強く感じた。

 

 

「……うん。

 

これは…私が私だから思うことなのかもしれない。

それでも……私は、フィンが好きなんだ…そう言ってくれる人が、フィンが…初めてだったから!

 

だから……本当に…ここに来て、よかったよっ」

ぽろぽろ

 

「ああ…僕も…君に会えて、本当に嬉しいよ」

ぎゅっ

 

ぼろぼろと涙を零す彼女に対して腰に腕を回し、「ありがとう」と強く抱き締めた。

 

 

空気は未だ夜だからか冷たい、温かかった涙もまた冷えていく。

 

だが…それ以上に、すぐ目の前にある温もりが…とても愛しく、嬉しくて仕方なかった。

 

彼女は後に、そう思っていたことを伝えてきた。同じだったことを心より嬉しく感じたのは、言うまでもない。

 

 

「他の意見は、それは確かに大事なものかもしれない。

個の在り方、違いを知るいい経験にもなるだろう。

 

でも…それを取れば、表現できないものもある。

書いている自分が理解できなければ、伝えたいことさえも書けているかどうかの判別さえままならない。

いくら大衆に受けるよう形を変えたとして…やはり、限界がある。

 

嫌わない人が、いなくなる訳じゃない。つまらないと抱けば、その人にとってはつまらない。

それでいいんだ。

 

自分という感性があってのものを、誰もが理解できるなんてことはあり得ない。

伝えられるのは、自分がどう考えて、どう思ったか…何を受けて何を思い、何を感じたか…それに尽きる。

その捉え方は人によって違う。どう思うかもまた違う。ありのまま、君という形となる」

 

「あのまま死ねていれば…とても嬉しかったんだけれどな^^」

くすりと笑みを浮かべながら言う彼女に、僕は眉間に皺を寄せながら苦言を漏らした。

 

僕はそうは思わないということを伝える為に。

 

 

「そうしたら僕は君と会えなかった。今得ている幸せも、得られなかった」

「それだけはやだ!」

「矛盾だね」

「うん」

「君は、死んで楽になりたかった。その想いがあってのものなんだろうなとはわかるけれど……」

 

「うん…今という幸せを噛み締めて、歩いていくよ」

「引き離されて、嫌じゃないのかい?」

「そうでなきゃ、皆には出会えなかったよ。

 

皆のような人達に…私は出会いたかった。

夢だったんだ…そう言ってもらえることが」

 

微笑し、抱き締める力を強める彼女に…僕は微笑みながら抱き返す力を強めた。

 

その目には涙が滲んでおり、優し気な眼差しから…願いが叶ったことを嬉しく思っているのだろうと、容易に想像できた。

 

 

「それが…君という個であるが故に起こり得たことだ……

僕は理解できる。しかし…苦しい目に遭うかもしれない」

「隣に…居てくれるんでしょう?」

「……ああ」

その問いかけに、僕は頷く。強く、はっきりと…言葉に示しながら。

 

「なら…恐れないよ。一番理解して欲しい人に、理解してもらえている。それで十分だ!」

 

「で…誰に書いてもらうんだい?」

「何言ってるんだか!霊感を使わない手はないだろう?

私は…別の世界の私に書いてもらう!それでいい!」

 

「……不整脈を起こした世界に、かい?」

「うん!でないとその苦しみなんてわかんないでしょ?

あ、でも全員死んでるか…

 

なら、この臨死体験もこれらの体験も生々しく見せよう。

霊感を通して感じさせる!強く念じれば届くから。と言ってもね!?他の霊感を持つ人ができるかどうかはわかんないよ?

たまたま私がそれに特化していた、感情や念を感じて、それを伝えるのに特化していたってだけの話だから!」

「あとはそれを感じ取れる、また別の世界の自分に投げるということか」

「うん!そうなるね…」

「だから思考を言葉に起こす。何を感じ、どう思ったかを描く。それは君なりの表現だろう?」

 

「だから…」

「ん?」

「書きたいものを、好きに書いちゃって…不快な思いをさせたら、申し訳ないなあって」

「その場合は苦言を齎されることを覚悟しておいた方がいいよ?」

『(既にもらってますけどね)』

 

 

「自伝みたいになっちゃうけれど…アスペルガー症候群傾向があるだろうし、見え方も霊感もあってか違うみたいだし…多分、どうしても伝わり切らない。受け取り方はやっぱり違うと思う。読者の想像に任せる形になると思う。だからさっき言った投げるって形と同じになるんだろうね。

それでも…書いて欲しい。だから異世界のまた別の世界の自分に、私が感じたありのままを伝える。で、書いてもらう。

 

『身の回りにあるもの、その中にある大切なものに気付いてもらって、それを失う前に…後悔しないよう生きて欲しい』なんて…馬鹿げたことかもしれない。

他の人にとっては当たり前で、大切だって想ってるのは私だけかもしれない。下らないって思われるかもしれない。この願いも全部つまらないものとして処理されるかもしれない。

でも…元々なかった私からすれば、とても…眩しくて、温かで…心地いいものだったんだ。

 

そして…皆が感じていたことも、霊感を使って読み取ったそれを使う!

霊感がなければ感じ取れないことなんだけれどね^^;」

「他の人には妄想と映るだろうね」

 

「うん。

 

私はさ…アスペルガー症候群傾向があるから、霊感があるから、見え方や感じ方が根本的に普通とは違うから…今まで…理解を受けるのとは無縁だったし。

だから…諦め切ってたんだ。

 

感じ方が違うから。伝え方もまた違うから…感じたままを言葉に起こすしか、できないから……だから…フィン達から理解を得られたことが…すっごく、嬉しかった!!

それでいいんだ…

 

なんか、読者にもフィン達にも付き合わせる形になっちゃうけど…ごめんね?^^;」

 

「いや…問題ない。君が伝えたいと願うのなら、僕はそれに付き合うまでさ。

ただその時に感じたことを伝えるだけという…簡単なことしかできないけれどね」

 

そう肩をすくめる中、彼女は「それは私も同じだ」と答えた。

 

 

「読者の判断や受け取り方に投げちゃうけどさ…

私はそう感じて、感動して…だからこそ「今」という時間がとても嬉しいし楽しい。

 

それが…全てなんだよ。私にとっては」

 

そう、彼女は窓の外に映る月を見やり、遠くを見つめるかのように目を細めながら微笑んだ。

 

その姿を見て、僕は愛しさのあまり未だ抱き締め合ったまま…その左頬に右手を伸ばしながら添えて微笑みかけ、頷いた。

 

 

近付く僕の顔に、ケイトは気付いてか…気遣ってか、目を閉じる。

 

赤面したままの彼女を前に、僕は笑い…程なくして、唇を重ねた。

 

 

 

「………僕の気持ちは…心は繋がったかい?」

「…うん//」

その問いかけに、彼女は頬を染めながら頷いて言葉を続ける。

 

「ともかく…メモ書きみたいに記していく。

神になるまでに起こったこと、何を感じ、何を思って、生きたいと思ったか…神になるまでの道筋を」

「君と同じ人なんて早々いないだろうとも思うけれどね」

「私もそれは思う」

 

そう顔を見合わせながら被さった言葉に、同時に僕達は笑った。

 

 

「それはそうと、フィンの武勇伝聞いたよ!?

ティオネとは会話しながら修業しててね?色んなこと教えてもらっちゃった!^^//」

にっこりと笑みを浮かべ、さも楽しそうに頬を赤く染めるケイトに…僕は思う。

 

「ティオネ…;」

何故そうした?という言葉を飲み込みながらも、修業でのことが脳裏によぎった。

 

 

今でこそ、完全に寝た状態だけに飽き足らず食事中でも風呂の最中でも修業は続き

どんな状況下でもなお無意識の内にどんな攻撃をされても対処及び避けれるように、相手の動きのみに合わせた最適な動きを取れるようになってしまった。

 

5日間という時間の中、皆に完璧に身に付けてもらいたいという感情のまま分身魔法を生み出し、ケイトは全員にマンツーマンで付いて付き合い続けていた。

その疲労は…それこそ5日間徹夜かつ動き続け、なおかつ人数分により2人なら2倍、人数分ほど倍に跳ね上がり、終了後に倒れ伏して一切動けなくなるほどのものだった。

 

まあ…それもまたフィアナがケイトに持つ魔力を操作して治し、全快状態へとなって風呂に入って今に至るわけだが。

 

 

ランクアップした者達は二つ名を貰っていないLv.1を筆頭に、Lv.2、Lv.3の者達が揃って全員一つ上がっていた。

第2軍の半数、幹部の半数もまた上がっており…ケイトは上がらなかったことに腹を立てていた。

 

アイズはLv.6へ上がったこともあってかまだ修業をしたいと意気込んでおり、同じくLv.が上がってLv.5となったラウルは二度とあんな地獄に落ちたくないと泣き寝入りしている。

 

 

-------------------------

 

 

そう言葉を交え終えた後、僕が修行のことを思い出す中でケイトは眠いのか目を擦り…「ごめん、眠い」とベッドに横たわった。

 

 

「…」

 

その中で…僕の脳裏に再び、ケイトの言葉がよぎる。

 

『私の一番になってくれて、私の初めての光になってくれて、本当にありがとう^^//』という言葉が…

 

それを思い出すだけで涙し、互いの抱く想いと想いが交差し、温かさで満ちていくのを感じた。

 

 

「僕にとっては…君が『光』だよ」

 

ポツリと零した言葉…零れ落ちて行く涙…

 

しかし僕が俯いていたからこそか、布団の中に入ろうと移動していたからか、布団を濡らすそれに気付かれない。

 

 

 

僕がしてきたことは、その意味は?

 

その答えを明確に返してくれる者など、いなかった。目の前には現れなかった。

ただ感謝して「憧れている」と言う者、または「余計なことをしやがって」と忌々し気に語る者…千差万別だった。

 

その中で、人生で初めて…一番評価して欲しいと願う者が現われた。

差別、批評を受けることを覚悟の上だった。だが…その覚悟に反して、止めどない感謝を次々に与えられた。

 

 

彼女は、寄り添うことを選んだ。

彼女にとって、僕という存在が生きたいと願う『光』になり得た。

 

そのことが堪らなく嬉しく、震えが止まらず、涙もまた…止められなかった。

 

 

 

「フィンー」

「?」

「抱き締めたまま寝たいー。講習会での約束、忘れてないよね?」

「ああ…忘れてないよ」

むにゃむにゃと壁際に身を寄せながら両腕を広げて尋ねる彼女に、僕は声を震わせながらそう答えて布団の中へと潜り込んだ。

 

程なくして、抱き締めて頬を寄せて眠りにつくケイトに…僕は後ろ頭に手を回して撫で、頬を寄せながら決意した。

 

 

たとえ何があろうと、起ころうと…絶対に彼女だけは護り抜いてみせると――

 

僕の中にあった野望は、一族の復興と嫁捜し…

その内の一つが叶い、それと共に「どうあっても護りたいもの」へと形を変える。

 

 

腕の中にある温もりを感じながら、再び誓った。

 

一族の復興という誓いを立てたあの日と同じ月に、一族の復興と同じく…彼女の為に、この生涯を捧げると。




自重→自嘲
始めて→初めて
訂正

もしどうしてもその違いや言葉を受けて耐えられないのなら…『他と自分の違いを知るいい経験となった』と、捉え方や考え方を変えればいい。
君が君であることを、僕は責めない。合わない部分まで合わせろとは言わない。できる範囲だけでいい。また潰れて、死なないように…
フィンの台詞、追記
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