神様を殴る為に神を目指すのは間違っているだろうか   作:-恵-

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遠征まで(6月7日晩~6月10日)
閑話1


昨日(6月7日)、晩

 

ランクアップ時点でのやり取り

 

「どないすんねん!!!

遠征の前やねんで!!?

 

遠征の前でのランクアップやねんで!!!?

ケイトのことでもいっぱいいっぱいやのにどないせい言うねん!!!」

『ロキにお任せ♪きゃぴっ』

「お前はそればっかやないかあああ!!」

 

ロキの激昂に等しい叫び声が神室に響き渡った。

 

ロキの部屋である神室は、黄昏の館の一番上に位置する場所にある。

修業を終えた後、ケイトがロキへかけた加速魔法によって1時間もかからずに全員のステイタス更新を終えた所だ。

 

 

「…済まない、ロキ。後は頼むよ^^;」

「頼むよで済むんやったら済ませられる言い訳寄越せやああ!!」

 

激昂に近い叫び声に、僕は心底どうしたものかと頭を捻らせた。

 

 

「ええか!?ケイトのLv.1からLv.8への急進化が一番の異質やねんで!?

そんな時に…そんな時に!他の奴らまでランクアップしたら余計目ぇ付くに決まっとるやろおおお!!」

 

「そうだね…」

「そうだねで済ますなや!!」

神会で起こり得るだろうことを想起した僕は思わず遠い目をしながらそっぽを向き、ロキはそれに食い付いてくるかのように迫りながら叫んだ。

 

(ああ…どうすればこの事態はマシになるだろうか?)

そう頭の中で考えた矢先、ケイトが口を挟んだ。

 

 

「私をいない者とすればいい!」

「あほかあああ!!!ギルドに既に認知されとるんやで!?せやから呼び出されたんやで!!?

せやのに…何でや…何でっ…アイズたん所かフィンもリヴェリアもガレスもラウルも誰も彼もがランクアップしとるんやあああああ!!!」

 

「全員じゃないよ?」

「そんなツッコミ要らんわあああ!!」

ケイトのツッコミを受けてその場に伏せて床を叩きながら泣き崩れるロキに、僕達はどうしたものかと頭を悩ませた。

 

 

「あー…ロキ、済まないけれど半数で」

「有名所全部乗せやんかあああ!!!

レフィーヤも上がったやんかああ!!二つ名ついてへん奴全員、二つ名ついとる奴も半数以上やろ!!」

「私…まだ上げたい」

「アイズたんの希望は今聞いてへんねん!!一番の問題はこれからなんやあああ!!」

「うん!修業をしたい!」

「せやからアイズゥ!?これ以上上げんといてくれえええ!!!

説明に困る!問題に発展する!!こんな魔法在るなんて知られて堪るかあああ!!!」

キランと未だ修業をする気満々のアイズに対し、ロキは両手で頭を抱えながら身をよじって叫んだ。

 

「よかったね、ロキ。面白いよね!退屈で下界に降りてきたって言ってたし!^^」

悪気0で満面の笑みを浮かべながら言うケイトに、僕達は冷や汗が止められず誰からともなく視線を逸らした。

 

だが、ロキだけは違った。食いつくかの如く、必死に叫び続けた。

 

 

「面白さ今は求めてへんでえええ!!!」

「楽しそうでよかった」

「全然楽しくないわアホおおお!!!

厄介事が満面の笑みで手を振りながら近付いてこられとるイメージしかないわ!!!恐怖でしかないわああああああ!!」

ロキの絶叫に近い叫び声に対し、なおもよかったよかったと言うケイト。その様子を前に僕達はと言うと…

 

「まあな…」

「確かにそうだね」

「困ったのお」

「でも私、まだ上がってないよ?」

「俺もだ」

「私だって…」

リヴェリア、僕、ガレス、ティオナ、ベート、ティオネの順に思い思いの言葉を口に出す。

 

その後、ティオネはケイトへと詰め寄りながら叫んだ。

 

 

「ケイトォ!?あんた手加減したんじゃないでしょうね!!?」

「全力出したよ!!?私だって上がってない!;」

そのティオネの言葉に、すぐさま憮然とばかりにケイトは答え、言葉を続ける。

 

「分身魔法で皆に一人一人マンツーマン120時間耐久修業完璧だったでしょ!?

休む間なかったでしょ!?皆、食事中も風呂も寝る間も攻撃無意識にかわせるようになったじゃん!

私なんて身に付けるだけで結構かかったんだよ?寝ている間にもその日の気分で蹴られたり殴られるから!」

「ああ、あれは地獄だ」

「そうだね」

「死んだ方がマシっすよ」

そのケイトの言葉を受け、リヴェリア、僕、ラウルの順に再び言葉を返す中…

 

「?ありのままでいいって言ってたじゃない」

「「「「「そっちじゃない!!!!」」」」」

そう首を傾げるケイトに、僕達は目を伏せながら揃って叫んだ。

 

精神をありのままに、うん、これは言った。

だが、これは言っていない。やりたい放題やっていいとは…

 

 

完璧を求め過ぎるあまり、完全に寝た状態でもなお無意識に避けれるようになってしまった。

それだけに飽き足らず、食事中でも風呂の最中でも相手の動きのみに合わせた最適な動きを取れるようになってしまった。

 

早い話が…ケイトの言う、父親からの全力蹴りや殴りに対する「殴ったと思わせながらノーダメージ」という手法まで全て身に付けさせられた。

足音も一切立たない、まるで水の上に浮かんだ葉の上を渡るかのような走り方。

武器を扱う際の技法、相手の力を受けた際における円運動の動きを取り入れた反射(カウンター)及び力の利用技術…

後はもう数え切れなくて覚えてない、だが体だけは全て覚えているだろう。

 

遠くへ目を向けながら思いを馳せる中、ケイトは徐に叫ぶ。

 

 

「私がランクアップしたかったあああああ!!!」

「お前がランクアップしたらそれこそ世界の終わりになるわあああああ!!!」

ロキが即座にツッコむ中、なおも叫びは止まらない。

 

「あー、二人共…絶叫するのはわかるんだが」

「私も上がりたかったあああああ!!」

「ランクアップしたかったあああああ!!」

「「「「ランクアーップ!!!」」」」

 

僕自身それを止めようと試みたが

 

ケイトを筆頭に、揃って窓の外へ向けて叫ぶランクアップできなかった者達を前に…

 

 

「…近所迷惑になるから是非やめて欲しいんだが」

 

「聞いとらんじゃろうな。

あれほどに血が湧き立つ戦いじゃ、ワシとしては居心地がよかったぞ」

 

冷や汗交じりに瞑目と共に笑みを引き攣らせながら呟く中、ガレスもまた冷や汗を額に滲ませながら呟いた後、修業について語っていた。

 

そう言えば『熱き戦い』を求めていたね、ガレスは…

 

 

 

「ってゆーか、何でティオナ魔力持ってんねん!

元々持ってへんかったはずやろ!?魔法発現しなきゃ普通は持たれへんやろ!?」

 

「あー。それがね?

身体能力の強化にも役立つからって、魔力の体内操作を教わりながら殴り合ってたんだ!

 

戦いながら一撃一撃の全部に魔力を流し込まれて、無理矢理魔力を感知させられて、それから体外の魔力を無意識に取り込まながら望んだ箇所に集中させて強化する。その技術を身に付けるまで戦い続けてたんだ。

 

凄いんだよ?

体外にある魔力を吸い込んで、それから体内の強化したい部位に集中させて、打つ!!」

ぼおっ!!!

 

解説と共に実行しながらの右正拳に、爆風とも言える衝撃波が周囲に巻き起こった。

 

 

「まあまあね」

「皆の基準上がり過ぎやろおお!!」

さらりと流すティオネと周囲に、ロキは今なお沸き上がる思いを叫ぶことを止められなかった。

 

それも仕方ないのかもしれない。

ティオナの今の動きは、修業を受ける前の5倍近くの精度と速さ、パワーを持っていたのだから。

 

 

しかも…以前までの彼女なら、その素振りの余波で物を壊していた。修業を経て、彼女もまた完全な制御をものにしたのだろう。

 

僕の勘を欺いたのもまた、その技術あってのものだと…身に付けた今だからこそ、よくわかる。

 

 

「そりゃ身に付けるまで頑張ってたし、魔力を制御するのに必要な精神力についても体内のならそれほど使わないし。

確か…精神力って体の力を引き出す体力と同じ位置付けなんだよね?魔法とする魔力を操作する体力みたいな」

「ああ。慣れれば慣れるほどにそれは増えていく」

ケイトの問いに、その隣にいたリヴェリアは小さく頷いて答えた。

 

「死ぬほど疲れてもなお続けられて、指一本動かせなくなるまで攻撃が続いて、その瞬間に回復かけられて、あったはずの疲労感も全部治されて、完全に全快にさせられて、また全力で戦わされてっ…

無限ループっ…地獄の無限ループっす!」

修業での日々を思い出しながらラウルは、わなわなと怯えるかのように声まで震わせながらも語り、頭を両手で抱えながら両目に涙を滲ませた。

 

それに対して僕達は同意を示す為に揃って二度「うんうん」と頷き、ロキは「そこまでひどかったんか…」と息を飲み、ケイトは自分にとってその地獄こそが日常だったが故か首を傾げていた。

 

 

確かに…狂気を感じるのも仕方ないのかもしれない。

実際の所、体の負担を皆無に無駄なく動けるよう努力することに慣れてしまった。それも身も心も…

 

 

ラウル自身はその慣れるまで地獄とも言える日々に対し、ついぞ涙腺が切れたようで止めどない滂沱の涙をさらけ出しながら、自分の寝室で泣き寝入りすることを選んだ。

 

「これは夢っす!これは夢っす!」

そう自らへ言い聞かせながら神室を飛び出す彼に、僕達は揃って苦笑するばかりだった。

 

(……気持ちはわかる…それも、痛いほどに…)

だが、それ以上に得れたものもあるとばかりに僕は溜息を零した。

 

(苦労は買ってでもしなければ成長しない)

不思議と、今回の修業地獄とも言える5日間に対して僕は思いを馳せた。

 

そうでなければLv.7へのランクアップ自体、まだまだ先となっていただろう……と。

 

 

 

「ひっく…私はもう石ですっ。

存在しません。だから攻撃しないでっ」

 

「…レフィーヤ」

 

ラウルの反応を見て触発されたのか、はたまた地獄を思い出したのか…

両膝を両腕で抱えながら、レフィーヤはその場にへたり込むかのように座り込んだ。

 

ぐすぐすと修業で身に付けた気配を消すという動作を無駄なく実行しながら、レフィーヤはしゃっくりをあげて震える声と共に思いを打ち明け、涙を両の目から零す。

それを前に、アイズはその目の前に跪いて「…泣かないで」と哀しそうに表情を歪めながら、その頭頂部を慰めるかのように撫でていた。

 

 

(真っ赤になるほどに嫌だったのか……)

 

その後、両腕に目を擦り付けながら耳まで真っ赤になり動かなくなるレフィーヤに、僕は思った。

 

 

(アイズさんの温もりが!//アイズさんの温もりが!///

アイズさんの手が!!////手があああああああ!!/////)

 

はわわわわわわわとばかりに真っ赤になりながら内心で叫び続けた後に幸せのあまり気絶した、という真相など…本人にしかわからなかった。

 

 

(一番の修業の被害者は…精神かな?)

 

それらの様子を前に僕は両腕を組み、そう考えながら眉を顰め、溜息を零した。

 

 

しかし、得られたものが大きいことなのには変わりない。結果として半数以上がランクアップしたこともあって、全体的に戦闘力が跳ね上がった。

遠征前ではあるが、これはとても喜ばしいことでもあり、それと同時に一人一人のできる範囲が揃って広がったとも言える。

 

修業を経て、僅かな機微で各々の動きが読める、これもまた連携の際には生命線となるだろう。

それと同時に、ケイトにとって僕達の動きは全て手に取るように読まれていた理由をより強く、身を持って実感した。

 

 

僕自身…ヘル・フィネガスを使ってもなお、指揮能力が落ちないでいられるようになった。

拷問とも言える修業の環境は、精神面が異常なまでに鍛え込まれたようにも感じる。

一部ではトラウマとして残ってしまったわけだが…

 

 

(さて…今度の遠征ではどうなるかな?)

そんな思いと共に、童心に帰ったかのようにワクワクと弾む心を押さえ切れず、僕は笑みを浮かべた。

 

51階層は優に越えられるだろう。

そんな確証を、強く感じさせられた。

 

 

その時…僕は急激な速度で強くなったことへの興奮のあまり、気付かなかった。

 

52階層で浴びる58階層からの貫通攻撃の存在が、頭から抜け落ちていたことに…

 

 

 

-------------------------

 

 

6月8日、朝

 

起きた時、僕の視界に入ったのはケイトの気持ちよさそうな寝顔だった。

それを見ただけで、どことなく…幸福感が湧いては止まらなかった。

 

それから程なくして起こし、大食堂で既に用意されていた朝食を食べ、今日の予定を話し合った。

 

 

その朝食の時、リヴェリアから体の外で渦巻く魔力をどうにか中に入れられないかを尋ねられ、ケイトは体外に出ていく魔力を空間魔法に押し込むようにしていた。

彼女が言うには、漏電を非常用電源として溜め込んでおく「バッテリー」みたいなもの…らしい。

 

そうして食べ終えた後、武器と防具を装備した僕達は揃って外へ向けて歩いて行った。

 

 

初めての迷宮へ向けて、今までいた黄昏の館から外へ一歩だけ出た後、彼女は語る。

 

ちなみに、まだ門の外には立っていない。建物の外へ出たタイミングでの出来事だ。

 

 

「よしっ!!穴を開けよう!」

「ん?」

 

「だってバベルまでわざわざ行くのめんどくさいじゃん!

どうせなら一気に地下まで潜ってった方が早いよ!」

「ま…まさか」

嫌な予感がした。

 

「ここからの直通トンネルを造るぞおおお!!」

「全員止めろおお!!」

ケイトの今にも放たれんとする魔法に対し、即座に僕は周囲にいた者達へ向けて指示を出した。

 

勿論、僕もまた必死に押さえ込んでいる。

 

 

「関節押さえ込め!」

「捻じ伏せろ!!」

「修業の時はよくもおおお!!」

止める者達の中には、血の涙を流すほど私怨を抱えている者がいた。

 

その場にいた全員での押さえ込みは完璧に決まり、動けなくなっていた。

 

 

すぐフィアナへケイトの放とうとしている魔法を封じるよう叫びつつ、渋るそれに対して僕は

 

「今後僕とケイトの行為を全て見ていい!!僕が許す!」

『はい喜んでえ!!//』

条件を付けた結果、即座に実行してもらった。

 

余談だが、その条件に「黙ったまま」というものを付けた。

 

 

(この際仕方ない。波乱を齎されるよりはマシだ)

そう僕が溜息を零す中

 

『ケイトとフィンの○○○が////』

((うん。殴りたい))

ドキドキと鼻血を出すパネルに対し、僕とケイトは揃って想いを重ねた。

 

 

在りたいように在れ、それがまさか苦労を呼び込むことになるなど…誰が思っただろうか。

 

壁を壊した時には大食堂の壁がと魔法で直し、謝り倒し、感謝し倒し…そんな人が…まさか、常識を外れた行為へ突っ走るなど。

 

いや、確かに合理的ではある。あるんだが…;

 

 

冷や汗交じりにそこまで考え込んだ後、血の涙を流していた男性に尋ねてみると…

かの修業の時に、彼は防御をミスして大事な部分が千切れ飛んだという経験あってのものだそうだ。今もなお痛みが生々しく思い出せるらしい。

 

勿論、ケイトがちゃんと元通り治した、と言う…

 

 

「見てないだろうね?」

「ただ時間を戻しただけ」

「そうか…なら、よかった」ほっ

その問いかけに対する彼女の答えに、安堵の息を漏らした。

 

『初めてのそれを見るのは、僕のものじゃなければ嫌だ』という想いがあってのことだ。

 

 

それから僕とケイトは、迷宮へ向けて正規のルートで移動してから潜った。

 

ちなみにフィアナは女神の為、置いてきた。

遠征でも連れて行くつもりはない。神は迷宮に潜ってはいけないから。

 

 

 

「加速ならいいでしょ?」

「あ、ああ。

(またおかしなことを言い出さないだろうか?)」

 

尋ねてくるケイトに対して内心ドキドキと不安になる中、僕は頷いた。

 

動きが加速するという魔法をかけてもらって、誰よりも速く地を音も無く駆け、気配も無く進んでいく。

 

 

普通に潜ってもらい

「階段?なら飛び降りた方が早いね!」

ごぉん!

「先に居る人を巻き込む気か!?」

 

普通に倒してもらい

「魔石だけを結界で囲うよう魔法を撃てばいいんだ!」

ごんごぉん!!

「何の為にモンスターの勉強をした!?普通に倒せ!」

 

普通に…

「37階層まで行くの?

わかった!縦穴作るぞおおおお!!!!」

ごんごんごぉん!!!

「周りに迷惑をかける真似をするな!!」

 

「えー;ちゃんと感知魔法で誰も居ない場所に」

「それでも駄目だ!!」

 

彼女から何度も何度も何度でも出てくる奇行に対し、その度に回数を増しながら殴って止めた。

 

 

37階層は白濁色に染まった壁面、巨大な迷宮構造をしている。

上部の階層とはスケールが違い、通路や広間、壁に至るまでの全てが広く大きい。

それだけでなく、円形の階層全体が城塞の如く5層もの大円壁で構成されており、階層中心に次層への階段が存在する。

 

その中にある『闘技場(コロシアム)』という大型空間では、一定数を上限にモンスターが無限の如く今なお湧き出続けている。

 

それを見た瞬間…

 

 

「そうだ!異空間のそれにコピーすればいいんだ!」

「!?」

想像だにしない発想を話すケイトへ心底動揺し、ぎょっと表情が引き攣った。

 

「湧いてくるモンスター倒して資源いつでもゲット!!迷宮に潜らなくてもいつでも手に入る!!」

どかばきずごばぎゃっ!!!!!!

 

きりきりと胃が痛む中、彼女へぐっと握り締める力を強めながら拳で殴って止めた。

 

 

「頼むから!!!これ以上僕の胃に穴を開けるような真似は慎んでくれ!!!!!」

 

瞑目しながら歯噛みし、切実なまでの叫びが喉を震わせる。だが…

 

 

「あ、そうだよね」

「(やっとわかってくれたか)ほっ」

 

「この階層だけじゃなく、迷宮を全部丸ごとコピーした方がいい!」

ごぉおおおん!!!!!!!

 

彼女の言葉と同時に振り抜かれた僕の拳は、ケイトの頭全体を地面へと減り込ませた。

 

 

「いい加減にしてくれ!!!!」

「わかった。何も言わずにすぐやればいいんだね?」

「するな!!!」

 

「え?何?;何がいけないの?;そっちの方が手間だって軽いし

「これ以上厄介事の種を撒かないでくれ!!!!

総合的に見て手間が爆発的に跳ね上がるんだ!!

 

(切実に叫ぶ僕の声は、果たして彼女の心に響いただろうか?

いや、届いてくれ――)」

 

そう思わずには、願わずにはいられなかった。

 

 

結局…その日は37階層から38階層への階段を教えた後に戻り

 

神ヘファイストスと神ゴブニュと椿に対して昼まで異世界で得ていた金属の知識をひたすら話し

昨日と同様に瞬間移動で帰り、大食堂で食事を取った。

 

 

 

-------------------------

 

 

6月8日、夕暮れ

 

執務室にある大机の前に僕は座り、ある本を読んでいた。

 

 

「フィン、遠征での配置について話があるんだが…何を見ている?」

「ああ。その件か」

顔を上げる中、リヴェリアは僕へ向けて歩み寄る。

 

「読書中に済まない。所で、何の本…」

ピシリ

 

そして本の背表紙を見た瞬間、今までにないくらい固まっていた。

 

 

「?どうしたんだい?リヴェリア」

 

「………………」

 

その表紙のタイトルは…『良き夫の心得』。

 

十数秒ほど凝視し、見間違いではないかと疑い何度も目を擦り、何度見てもなお同じタイトルだったそれに対し…不意に変化が訪れる。

 

 

「ん?;」

苦笑を浮かべ、見たことのない反応に冷や汗が額に滲んだ。

 

そしてリヴェリアの脳が再起動した瞬間、今までにない反応が返ってくる。

 

 

「ぶふっ!!!」

いきなりの吹き出しと共に肩を震わせ、前へ蹲った。

 

「どうした!?」

今までに見たことのない反応に、何事かと慌てながら椅子を蹴って立ち上がった所…

 

 

「人を…」

「ん?」

「人を、隙あらば…利用、していっ!そんな、お前がっ!?」

途切れ途切れに聞こえる声に耳を傾ける中、突如として変化は起こる。

 

「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!」

まるで耐え切れないとでも言うかのように、リヴェリアは満面の笑みを浮かべながら笑い出した。

 

人を隙あらば利用していた。

ああ、確かに…言えているね。そうしてでもなろうとしていた節は認める。

 

 

「お前が、そんなっ!ぶふっ!

変化をっ!はっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」

未だ押さえ切れない笑いは止まらず、ついにその場で跪き腹を抱えて叫び声に近い笑いが響いて行った。

 

「そんなお前がっ、人の為。あっはっはっはっはっはっはっ!!!」

 

(さて…僕は一体いつ怒ればいいのだろうか?)

 

リヴェリアの笑いと訴えに、僕は今なお沸々と湧き上がる怒りを抑え込むばかりだった。

 

 

ケイトがもしこの場にいたのなら、きっとこう答えただろう。「心配したのになんやねん!!」と…

うん、僕自身その一言に尽きると思う。

 

そう考えている中もなお、リヴェリアの笑い声は数分間に渡って続いて行った。

 

 

しかし、笑いが収まってもなおその本を見ていたことはおかしいようで…

 

理由が判明した後となってもなお、背表紙を見せるだけでそっぽを向いて吹き出すレベルだったそうだ。

 

リヴェリアが言うには…僕の変化に対して内心喜ばしいとは思いつつも、あまりにも大き過ぎるそれに笑いが止められなかった…らしい。

 

 

 

とりあえず、夫として気を付けなければいけないことを整理しておこう。

 

 

・妻とちゃんと向き合うこと。共感、労い、聞くことに徹するべき。

・出された料理を褒める。

・感謝と胸の内にある想いはきちんと伝える。

・家事を手伝う。

・不満がないか、必ず聞く。

・合わない意見が生じた場合は喧嘩せず、折り合いを付けるまで話し合うこと。

・自分がいつでも正しいとは思わないこと。

 

上記の3つは既にしている。後は話し合って今後に生かそう。

 

 

その後…ガレスとロキにまでリヴェリアと同様に笑われたこともあって、怒りは頂点を通り越した。

 

本人達が言うには、喜ばしい変化であることに違いはないのだが、あまりにもギャップが…ということらしい。

 

 

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