神様を殴る為に神を目指すのは間違っているだろうか   作:-恵-

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閑話2

6月8日、夕暮れ(続)

 

ティオネにケイトを執務室へと呼んでもらった。

勿論、ロキ達は居ない。3日前ということもあって、遠征の準備の手伝いに行ってくれた。

 

 

コンコンコン

「ケイトです。来ました」

「ああ、入ってくれ」

 

扉にかかるノック音、それと共に声が聞こえる。

その声からケイトが来たことが分かった僕は、まだ片付いていない書類に羽ペンを走らせたまま入るよう伝えた。

 

 

ガチャ

「失礼します。入っても宜しいでしょうか?」

 

扉を開けてからお辞儀をする彼女が視界に入る中…

『何故朝はあんな非常識な行動にばかり出たんだ!』と言いたくなった。

 

 

「あ、ああ。入ってくれ」

「失礼致します」

笑みが引き攣る中、そう言うと再び頭を下げてやっと部屋の中へと入ってきた。

 

が、勿論叫びたくなるそれを堪えながら机から程近い椅子に座るよう指示を出し、「少し待ってくれ。今一区切りつくから」と待つよう伝えた。

 

 

そして机のすぐ近くにあった椅子に「失礼します」とわざわざ丁寧に僕へ頭を下げた後、何故か動かず固まったままだった。

 

 

「ん?」

「……」

「座らないのかい?」

「……」

「ああ!どうぞ」

とすん

 

「どうぞ」という言葉がかけられるまで立ったままだった。

 

何でこんなに行儀がいいのに、変な所で羽目が爆発したみたいな行動を取るんだろう…

そう考えてしまうのは、僕だけなのだろうか?

 

そう思いながら羽ペンを走らせる中、奇妙な音が響いた。

 

 

ココンコッココンコン♪コン

ココンコッココンコン♪コン

「ん?」

『マ○オの音程出す努力を何で今するんですか!!?』

「いやだってやりたいからさ」

『やりたいからって今椅子ですべきことですか!!?』

 

「あー…故郷の音楽なのかな?^^;」

「イエース!」キラン

目を輝かせながら笑ってサムズアップする彼女を前に、僕は羽ペンを持ったまま苦笑するばかりだった。

 

そうして一区切りついた後、僕はケイトへ伝えることにした。

 

 

「君が言っていた迷宮を異空間にコピーすることだけれど、それは迷宮を個人で保有することに他ならない」

『「持ち歩き可能な迷宮→各国全てが狙う→ケイトVS世界となる」というわけですね』

 

「あ!だから殴ったんだ」

「ああ。そうでもないと止まらなそうだったからね^^;

それに…わざわざ保有しなくとも君には「瞬間移動」という魔法があるだろう?」

 

「うん。一度行った場所やイメージが付く場所じゃない限り行けないけれど」

「それを使えば事足りるだろう?面倒なのは最初だけだ。

それに…ここから迷宮への最短ルートを作るのも反対だ。他ファミリアの者達まで殺到しかねない」

 

「なるほど。だからか」

「ああ…これ以上胃を痛めないでくれという想いから、説明もせずに全力で殴ってしまって済まない」

 

「気にしてないよ。それにフィンは無意味なことはしないよね!

私の為にありがとう!^^

 

確かに、瞬間移動の方が総合的な手間を考えると最適だよね。すっごくお手軽♪」

「ああ、その方が僕の精神衛生上とっても助かるよ。わかってくれてありがとう」

 

心底ほっとして微笑した。

ケイトもまた、わからなかったことがはっきりしてよかったと笑みを浮かべた。

 

 

「所で遠征では使わないの?」

「非常時にしてくれ」

 

そう向かい合ったまま軽く言葉を交わし、僕が胸を撫で下ろす中…彼女は遠征の荷纏めの手伝いに行ってくると駆け出していった。「忙しそうだったし」と言葉を添えて。

 

それに僕は頷き、「行っておいで」と微笑みかけた。

一難去ったことが嬉しかった、というのもある。

 

 

その先に待ち受けているもの(未来)など…僕は知らなかった。

 

 

-------------------------

 

 

6月8日、晩6時半

 

大食堂

 

 

(両親を失った後…両親の愛に、温もりに…何より、本物の『勇気』を知った。

 

だが…今は、どうだ?

どうして…失いかけた時になってから、こうも胸を掻き狂わせる?)

 

目の前の惨状に、僕は息を呑んだ。

 

 

いつもの大食堂、長椅子がいくつも並ぶ中…

 

厨房から程近い位置で、彼女は口と胸元を赤く染めたまま力無く横たわっていた。

 

 

 

「ケイト!!」

 

彼女へ群がる人混みを押し分け、必死に近寄り…息を呑んだ。

 

生気を感じず、冷たく…微動だにしないそれに、『死』が脳裏をよぎり、意識させた。

 

 

(どうしてっ…(ぎりっ!!)

 

どうして、こんなにも…遅い!?

 

狂おしいほどの愛しさも、胸を何度も焦がす温もりも…

 

何故…奪われた時になってから、激しく求め出す!?

 

 

何故……いつも…後になってから、気付く?)

 

床に横たわったまま、未だ微動だにしないケイトを前に…

 

僕は歯噛みし、背に腕を回し、抱き締める中…僅かに感じる温もりに身を埋める。

 

 

脳裏に生々しい感覚がよぎった。両親を失った時のことが文字通りフラッシュバックした。

 

 

 

その内、胸の奥からある想いが湧き上がる。

 

 

失ってからでは遅い――黙れ!

 

 

もう遅過ぎる、あの日のように――まだ失ってなどいない!!

 

 

何故…失いたくない者ばかりが、目の前で死んでいく?――

「黙れ!!!!!」

 

激情と共に湧き出た声が、喉を痛いほどに震わし、大気を震わせる。

 

 

「団…長?」

 

「っ…くっ……ひっく…」

 

ティオネに声をかけられるも、頭になど入ってこず…抱き締める力を強め、ただ泣いた。

 

 

 

(同じだ…)

 

感じる既視感のままに…嗚咽と共にしゃっくりが上がる中、涙を落とした。

 

 

(また…僕は…何も、できないっ)

 

その無力感と共に、涸れ果てたはずの涙が頬を伝っては落ちていく。

 

 

 

その時に…僕の頭の中では、走馬灯のようにケイトとの想い出がよぎっていた。

 

 

最初に得た叫び、両親に似た笑顔、互いに一目惚れしていたこと、過去を伝えたあの日と同じ月明かりの下での時のこと…

 

どれもこれもが…彼女を失いたくないと胸を打ち、感情を…心を揺るがす。

 

 

 

「ぅっ…っ…

 

ぅああああああああああああああああ。ああああああああああ」

 

咽び泣く声が、僕の慟哭がその場に空しく響き渡った。

 

あの頃のただ嘆くような慟哭と言える叫び声では無く…震え泣く声が静かに、染み入るように響いていった。

 

 

咽び泣く中、僕は慈しむかのように彼女の唇を奪う。

 

その行為の最中…赤面しながらも、仕返しとばかりに自分から返し、満面の笑みを浮かべるケイトの姿が脳裏によぎる。

 

 

だがしかし…目の前のケイトは動かない。そんな反応など、返してなど来ない。

 

何も返事がない。何も反応がない。双眸を固く閉じたまま、何も返ってこない。

 

それがひどく…心を哀しみへと、寂しさへと掻き立てた。

 

 

 

「そっとしておいてやれ。

 

遠征での荷物を整理しなければならん。行くぞ」

 

「ケイト…」

「アイズ」がしっ

肩を掴んでアイズを止め、リヴェリアは語る。

 

「……」

「空気を読めとまでは言わん。

 

だが…フィンの想いを、汲んでやってくれ。

滅多に出さない、感情の発露だ……

 

頼む…そっとしてやってくれ。

フィンとケイトを…二人きりにしてやって欲しい」

 

「………うん…」

 

涙ばかりが溢れ、止まらぬ中…そんなリヴェリアとアイズのやり取りなど、耳にも入らなかった。

 

誰も居なくなった大食堂の中、僕はケイトを強く抱き締めたまま泣いていた。

 

 

 

それほどに…彼女に焦がれていた。

 

こんなにも激しく、恋をしていたことに…この時になって『から』気付いた。

 

 

 

(僕はいつも…遅過ぎるっ!)

 

ふと…そんな思いが、胸をよぎった。

 

 

きっと、これ以上傷付くこと等ありはしない…

 

両親を失った後、そう思っていた自分がいた。

 

 

 

だが…違った……

 

それ以上の苦しみと痛みが、そこにはあった。

 

 

彼女が死ぬ…いなくなる…

 

そう考えただけで、胸が張り裂けるほどに痛みを示し、この世の終わりに等しい感情を抱かせていた。

 

 

 

しかし…その状況に、変化が起こる。

 

 

「?どうしたの?フィン」

 

ぱちくりと疑問符を浮かべながら、当のケイトが瞼を開けた。

 

そして…赤い液体に違和感を感じ、彼女の口についているそれを舐めてみた。

 

 

すると、口の中に感じたのは…トマトの風味で……

 

 

「説明しろ!!!!!」

「???」

 

激昂の如く叫び声が響いた後…どこからか笑い声が聞こえた気がした。

 

 

 

ケイトが言うには、遠征へ向けて必要な物資を外へ出して準備をしていたらしい。

 

その時に荷が崩れた為か、勢いよく冷凍されていた固いものが鳩尾に飛んできた。

そしてそれをまともに受けて咳き込み、それと同時に口に入り込んだ何かによって窒息。

そのまま後ろへふらふらと倒れ込み、後頭部を机の角に打ち付けて気絶。

その後の出来事は一切覚えていないそうだ。

 

厨房の中でも冷蔵庫から程近い場所にいたのはそれでか。

 

 

リヴェリア達が言うには、その上に野菜までもがさらに降りかかり、必死に皆でどけていく内にトマトが潰れて彼女の胸を濡らした。

口に入ったのもまたトマトらしく、必死に抜き取ったのだがそれもまた潰れてしまった。

 

そして僕が駆けつけた時に冷たかったのは、彼女へとかかっていた冷やされていたものをどけて息を吹き返したタイミングだったからだという。

 

僅かに上下に動く胸を見れば呼吸していることに気付くはず。

その上で、心情に整理が付くまで泣かせておけばと考えてのことだったそうだ。

 

 

「いや…済まない。

珍しく動揺するお前を、もう少し目に焼き付けておきたかったものでな」

ふふっと笑みを浮かべながら語るリヴェリアに、僕は憤怒とも言える激情に身を晒された。

 

(この怒りはどこへぶつけたらいい?!!)

沸々と熱く揺るがす激情に、僕はあまりにも無力だった。

 

心底安心した。だがそれ以上に怒りが込み上げ、止められなかった。

 

 

沸き上がる激情を前に止められず、僕は「何故すぐに教えなかった!?」と激昂のままに説教し、それは数十分に渡って続いた。

 

それは後に、「トマトの惨劇」と呼ばれることになる。

 

 

 

「…何で私まで?;」

ぐすん

 

当時動けなかったケイトにまで、皆と揃って正座をさせたまま説教してしまったことについては後に詫びた。

 

 

「何の騒ぎじゃ?」

「知るか」

 

その場に居なかった人達からすれば、一体何事かと思わせるほどのものだったそうだ。

 

後に僕自身もまた確認を怠ったことについて怒られたが、ここでは割愛しておく。

 

 

 

-------------------------

 

 

6月8日、晩9時

 

ロキの神室

 

 

階位が上がった【ステイタス】には老化を食い止める作用がある。

ロキが言うには、それは副次効果らしい。

 

厳密に言うと、『昇華した器』は衰えにくくなり全盛期の期間が長くなる。

そしてその度合いはLv.が上がるにつれて顕著になるそうだ。

 

【ランクアップ】とは、いわば神に近付くということ。

階段を上って近付いた分だけ、沢山の能力を得る。

 

それらのことについてケイトが知ったのは、僕の過去を語った時のことだ。

 

 

何故今そんな話をしているのか…?さぞ疑問に感じていることだろう。

 

だが…その恩恵を与えたことを利用して、あることを行わそうとしている者がいる。

 

 

 

「ケイト…ウチの胸、大きくできんか?」

「!胸でっかくしたいんだね!?」

「おお!やりたいで!!?」

「恩恵を与えてくれた感謝を込めてやってみるよ!!」

 

ロキの頼みに対し、ケイトはそう叫びながら拳を握り、微笑みながら魔法を放とうと魔力を練り上げ魔法円と展開し始めていた。

 

 

『神は不変なのですよ?変わるわけがないでしょう!

胸が抉れたままなら抉れたままです!』

「酷いでフィアナ!!!」

「流石に言い方がどうかと思うよ!!」

 

フィアナの言葉を受け、ロキとケイトはぷりぷりと怒りながら語っていた。

 

『なんです!事実でしょう!?』とそれに対して叫ぶフィアナに、僕は苦笑するばかりだった。

 

 

今、僕達はロキの神室にいる。

ステイタスについてLv.10への上げ方を尋ねに行くケイトへ僕は付いて行き、ちょうどティオネとティオナが更新を終えた所だった。

 

そして聞こうとした矢先の言葉が、先程のロキの発言である。

 

時間軸については、神会(6月8日昼)を終えた後の夜だと思っていい。

 

 

-------------------------

 

 

神会での情報(おまけ)

 

所要時間0日で人類史上初のLv.8に辿り着いた世界最速(レコードホルダー)

それらの情報から、無限の可能性と期待を込めて【限界突破(イグニス・ブレイク)】という二つ名をケイトは貰った。

 

イグニスとは「火」を意味する言語であり、現代では「当たり前」の存在。

つまりを言うと、「当たり前」という名の常識を破壊する者という意味で付けられたそうだ。

これ以上ないほどピッタリな二つ名だと、僕は思う。

 

 

それを聞いた時、ケイトは…

「イグニスどっから来たああああ!!炎壊してどうすんやああああ!!!」

そうゲラゲラと笑い転げると共に、「イグニス・ブレイクかっけー!でもイタイ!!」と騒いでいた。

 

「ケイトは神の感性もっとるんやなあ」

『人の身でありながら神に至りましたからね、一度』

その反応を見つめながら、腕組みをしながらロキは言い、それにしみじみとフィアナが語った。

後に二つ名で呼ばれる度、ケイトがその度に吹き出すことについてはここでは割愛しておく。

 

 

その後、二柱の神(ロキとフィアナ)はその時のことを語り合っていたが…

 

そもそもケイト自身、他の人とは感性も見方も思考の方向性までもが違っており、最短だと思えるそれを行こうとする。

すなわち合理的に進めようとする所があるからこそ迷宮への直通ルートを作ろうとしたのだろうと、僕はケイトへの認識を纏めていた。

 

 

-------------------------

 

 

話を戻そう…

 

ケイトの恩返しという名の魔法、その結果に関しては……

 

 

「燃え上がれ我が感謝よ!!!

脂肪となりてその胸に宿れ!!ファイヤああああ!!!!」

「何で炎なんやああああああ!!!;」

「火傷するやろおおお!!」と冷や汗交じりに後ろにあるベッドへのけ反りながら叫ぶロキ。

 

と同時に、ケイトの叫びと共に現れた炎はごぉぉっという轟音を上げながらロキの胸へと直撃する。

 

 

そして……

 

 

「おっしゃ膨らんだあああ!!!」

「ええ!!?」「!!?」

ロキの叫びと僅かに膨らんだ胸に、僕とティオネは驚きを隠せなかった。

 

「ケイト!私にも掛けて!!!」

「おっしゃ任せとけええ!!」

ぷしゅううう

 

「「「ん?」」」

 

ティオナがそう叫んだ直後、何かが抜ける音がし、音がした方へ視線を向けると…元通りになったロキの胸があった。

 

 

『絶壁は絶壁…流石は神ですね!

神に影響を齎せるほどの魔法は、神になってからしか使えません!!』

 

「よぉし、わかった…」

「ロ…ロキ?;」

 

ずいずいとパネルを押し付けてくるフィアナの言葉を受け、ゆらりとベッドからロキは立ち上がり、そう声を発しながら黒い笑みを浮かべて天を仰ぐ。

 

そのただならぬ雰囲気に…僕は思わず息を呑み、表情を引き攣らせて後ろへたじろぎながら問うた。

 

 

『絶壁崖女神、ロキ!』

「ケイトォ!

何が何でもランクアップしぃや!!?死に物狂いでや!!!」

「わかったぁ!!」

フィアナは一度は大きくなった胸が元に戻った光景を前に感想を零し

それを受けてロキはビシィッ!!とケイトへ人差し指を向けながら叫び、ケイトはすぐさま頷いた。

 

後に、ロキ自身その発言に死ぬほど後悔することになるなど…当人はまだ知らない。

 

 

「そんなランクアップを目指す理由、聞いた試しがないんだが」

「今ここに誕生やああ!!」

そう苦言を漏らしながら眉を顰めた僕に対し、ロキは高らかに叫ぶばかりだった。

 

「あ。でも私には効くんじゃ?神じゃないし」

「そうね」

そう会話し合うティオナとティオネにケイトは魔法をかけ…

 

「「お先に~」」

「ぐぬぎいいいいいいいい!!!!」

胸が大きくなった2人に対してロキはただただ歯噛みし、歯ぎしりが止まらなかったという。

 

 

「ティオネ!お前は既にでっかいやろ!!」

「個人の自由じゃない」

「くっそぉおおおおっ!!!」

髪をさらりと手ですきながら笑みを浮かべるティオネに、ロキは地団駄を踏み続けた。

 

それからティオネはこちらをちらちらと見やり続けていたのだが…

 

 

(僕は一体どうすればよかったんだろう?)

 

それらの光景を前に、僕は未だ腕組みをしたまま動けないままで…瞑目して見て見ぬ振りをすることに決めた。

 

 

 

「色目使ってるのが見え見え」

「黙りなさい!!」

 

「ケイトォ!お前だけが頼りやあああ。よよよ」

「わかった!頑張る!!」

 

ティオナの声にティオネが叫び、泣きつきながら縋るかのようなロキの声にケイトはふんすと鼻息を立てながら拳を握っていた。

 

 

『……私は一体、どうすればよかったんでしょうねえ?

神会でも参加できませんでしたし』

「君が参加したら大変なことになるだろう?やめてくれ」

 

フィアナの言葉に、僕は溜息と共に「これ以上頭痛の種を増やさないでくれ」とばかりに訴えかけた。

 

 

-------------------------

 

 

6月9日、0時(寝る前)

 

フィンの寝室

 

 

フィアナ視点――

 

フィンは既に寝ており、ケイトもまた同じベッドで横になって抱き締め合ったまま。

 

そして私は近くの机の上に乗ったまま、その様子を見ていました。

 

それに溜息を内心零しながら、つい先程していたやり取りを思い出していた。

 

 

-------------------------

 

十数分前

 

『所で○○○はいつやるんです?』

「「まだやらない!!///」」

 

『早く見たいんですが』

「「私/僕達のペースでやらせてくれ!!////」」

 

-------------------------

 

と真っ赤になりながら叫んでたのに…まるで気にしてないみたいですね。

子ができるのはいつになることやら…はあ。

 

再び内心で溜息を零しつつ、ケイトを見やると…

 

フィンの温もりに身を埋めて気持ちよさそうにしているケイトが、ちょうど私の方へと目が向いた所で…ふいに尋ねてきました。

 

 

「ねえ、どうしたらLv.って上がるの?

皆に付き合って5日/人×80人=400日休まず徹夜で頑張ったのに、私だけ…

 

力と敏捷もSSSSを超えて共にUSの2250になった。Lv.10になってもおかしくない数値なのに…」

 

『ヒントを教えますね…精神ですよ』

 

「え?」

 

『抑圧されていた精神を解き放つんです』

「どゆこと?既にやりたいようにさせてもらって」

『違います。

 

あなたが心から強く望み、願い、人の為と自ら雁字搦めに縛り付けていた精神が解放されたその時こそ…真の力が解放される。

数値は既に、Lv.10まで満たされている…後は、あなたの心構え次第です』

 

「よくわかんない」

 

『いずれわかります…

あなたは、愛に飢えている。止めどなく与えられるそれに、心底幸せを感じている』

 

「そうだね!」

『しかし…必ず、終わりは来る。

 

(それを失うと理解した時にこそ、あなたは…)』

 

「知ってるよ…」

『あなたにお願いがあります。

 

それを失いかけた時…精神を自由に解放してあげてください。

泣きたければ泣き、怒り、哀しみ…そのままに!

 

そして……私は、いつまでも待っています』

 

「うん!待っててくれ!」

 

未だ横になったまま、フィンを抱き締めたまま顔を覗かせて微笑しながら頷くケイトに…私は複雑な心境になって俯いた。

 

 

『(世界と世界の間にできた穴…もう、長くは…

 

……本当は…もう話す時間もほとんど残されてないんですけどね…)』

 

俯きながら、ケイトは言葉を続ける。

 

 

「それはそうとさ!」

『?何です?』

 

「明日、異世界のゲームの解説紙作るの手伝ってね!

皆と一緒に遊ぶんだ!遠征から帰った時に!^^」

 

『ええ…』

 

それに頷いたのを確認後…

 

ケイトは「約束…だよ…」と答えながらもうとうととし始めた、まるで今にも眠りに付きそうなほどに。

 

 

 

もう、その時には私はいないかもしれない…

 

それでも…あなたの幸せそうに笑う顔が見たい……心から!

 

 

そして伝えたい…

 

あなたも含めて、誰もが自らの幸せを求めていいのだと……

 

気持ちよさそうな寝顔を前に、私はそう思うばかりだった。

 

 

それらの想いを込めながら、一言零す。

 

 

 

『わかっていますか…ケイト?』

 

「ん?」

ピクリと私の声に、ケイトは反応を示す。

 

 

「…そんなに心配しなくっても、私は幸せだぞ^^」

 

ふにゃりと笑みを浮かべながら、私へ向けて笑いかけるケイトに…私は涙を浮かべた。

 

 

『……ええ。

私の幸せは…あなたの幸せを見ること。

 

でも…』

 

私が幸せでないと…怒られるのでしょうね……

 

その言葉を飲み込んだまま見守ると…

 

その時には既にケイトは寝息を立てていて、明日の朝になるまで起きることはなかった。

 

 

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