神様を殴る為に神を目指すのは間違っているだろうか   作:-恵-

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閑話3

6月9日、夕暮れ

 

大浴場

 

 

ケイト視点――

 

朝と昼にフィンと皆の仕事を手伝った後、私は風呂に入ろうと大浴場へと移動していた。

 

勿論、風呂に行く前に異世界のゲームの解説紙は作り終えている!

 

 

そして大浴場に辿り着いた時…まだ誰の姿も無く、昨日は修業の後だったこともあって人が多かったが為に堪能できなかった。

元々、周囲に人がいるという状況に慣れられていないからか、心行くまでではなかった気がする。

 

そして…ありのままの自分を出していいのだと教えられたことも受け…

 

 

「誰も…いない!

 

誰も…邪魔する者はいない!!」

 

果てのない解放感に身を震わせながら、加速魔法をかけてから手早く体を洗い終え、やりたかったことをやり始めた。

 

 

「お風呂にダァーイブ!!!!」

 

こんなでっかい風呂に飛び込んでみたかった。

 

いつもなら「湯が勿体ない、皆の邪魔になる、迷惑になる、こんな想い消えろ」と抑え込んでいた。

飛び込み自体、周りの迷惑も考えていたこともあってしたことさえも無かった。

 

 

だが…在りたいように在っていいというそれに、後で時間回帰魔法で戻せばいいと考えた。

 

その結果が…このダイブである。

 

 

 

「きゃっほぉーっ!!!!」

どっぼぉん!!

 

生まれて初めての飛び込み、周囲への水飛沫など気にせず思うが儘に行動した。

 

魔石灯の明かりが湯の水面を反射する中、頭までがっつり浸かった。

お湯の中に潜るのもまた初めての行為であり、興奮ばかりが止まらずにただただはしゃいだ。

 

 

「初めて泳いだああ!初めてだああああ!!わああああい!!」

ばしゃばしゃ

 

心底、嬉しくて堪らなかった。

クロール、平泳ぎ、バタフライ、背泳ぎ、横泳ぎと次々に泳ぎを変える中、クロールに戻した所である人物が入ってきた。

 

 

「アイズー、一緒に泳ごう!初めてだよこんな感覚!!^^//」

 

子供のようにはしゃぐ心、それをそのままに前面に出す中…心も身も解放された心地に私は酔いしれていた。

 

気付けば私はアイズへ向け手を振って誘っていた。

 

 

「…私も?」

「うん!」

アイズの問いかけに頷く中、彼女は目をキラつかせながら言い放つ。

 

「…わかった…泳いで修業!」

「かかってこぉーい!!」

「やめんか!!」

ごん!かぁん!!

 

アイズが風呂へ向けて移動しようとした瞬間、扉が開け放たれて入ってきたリヴェリアがアイズの脳天に拳骨を繰り出し、私の額へタライを投げ付けた。

 

 

「何で…タライを投げ付けるの;」

「はしたない真似はよせ」

「在りたいように在っていいって言ったじゃん!」

「その言葉のままに受け取るな!!好き放題していいというわけではない!」

「それがアスペルガー症候群傾向だ!」

「知るか。それよりも普通に浸かれ!」

 

「むぅ~。はぁい」

「わかったならいい」

リヴェリアの叫びに対し、私は大人しく肩まで浸かった。

そう言いながらリヴェリアはシャワーを浴びる為に設置された場所へ行き、摘まみを捻ってお湯を出した。

 

そしてその時、私の脳裏にはあることが浮かんでいた。

 

 

「……リヴェリアー」

「なんだ?」

じゃああああ

水音が耳を打つ中、私は言い放つ。

 

「…下着はどうしたの?」

「脱衣所にあるに決まっているだろう?」

 

「洗濯置き場に置かれてる?」

「……何が言いたい?」

きゅっ

 

リヴェリアは摘まみを再び捻り、お湯を止めた後、私へと振り返った。

 

 

「さ…さぁ~てと!のぼせてきたしそろそろあがろうかなああ?」

ギクシャク

「ケイト…動きが変。それと棒読み。発音も表情も引き攣ってる」

「待て!何をしようとしている!!?」

 

風呂から上がり、パシャリと水音を立てる中で扉へと歩み寄った。

 

その最中でアイズは見たままの感想を呟き、リヴェリアは扉の前へと立ち塞がる。

 

 

「…王族の下着って気にならない!!?」

「やはり狙いはそれか!!」

 

「通して!見たい!!」

「黙れ!通さんぞ!!」

 

「見たい!」

「見るな!!」

「見たい!!」

「やめんか!!」

「見たい!!!」

「しつこい!!!」

 

「見たい以外何も思い浮かばない!!」

「黙れ!!はしたない!!!」

きっぱりと告げる中、リヴェリアは目くじらを立てながら扉と私の間に立ち続けていた。

 

そして魔法円を展開しながら詠唱式を唱え出した。

 

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に(うず)を巻け。

「え!?詠唱!?;」

「お前ならば大丈夫だろう?

少々過激だが」

「広範囲殲滅魔法一点放出が少々!!?;」

 

「貴様が悪い!!」かっ!!

「そりゃそうだけども!」

両目を見開きながら叫ぶリヴェリアに、叫ぶ中…私はそれならばと妨害に出た。

 

「おりゃりゃりゃりゃりゃああああ」

こしょこしょこしょこしょ

 

「ぷっ…【閉ざさrふふっ。

やめんか!!」

ごすぅっ!!

 

「ぐふぉっ!」

どっぼぉん!!

 

詠唱の邪魔をする為にリヴェリアに行ったのは擽り、肌がきめ細やかで柔らかかった。

って違う!!今考えるべきことはそれじゃない!

 

その擽りに対して、私は肘打ちを鳩尾に受けて風呂まで吹き飛ばされていた。

 

 

「こうなったら仕方ない!魔法円展開!」

かっ!!

 

魔力の光と共に魔法円が私を中心に展開、そして魔法を出す為に意識を集中している間にリヴェリアは詠唱を完了させた。

 

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に(うず)を巻け。閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬――我が名はアールヴ】!」

「プロミネンス、極小おおおお!!」「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

ごぉっ!!!

 

これまでの詠唱時間…魔法名も込みで、僅か6秒。

それぞれの魔法が渦を巻き、同時に解き放たれる。

 

『修業の成果でもあるんだけれども、どこで息継ぎやってるの?』という疑問が生じたが今は気にしない。ただ見たい!!

 

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」」

かっ!!!

 

未だ扉の前で仁王立ちするリヴェリアの右手から氷河の如き氷が、風呂場から駆け出した私の左手から爆炎の如き太陽が。

 

水蒸気爆発を巻き起こしつつ、それらは炸裂し合い、文字通り拮抗した。

 

 

広範囲殲滅魔法、それを一点のみ及び狙いを付けた部位及び範囲内のみで炸裂させる技法。

そして僅か6秒で先程の長文を読み上げながら、瞬間的に莫大な魔力と精神力を練り上げる技術。

それらがリヴェリアが修業で得た、大きな成果だった。

 

どんな魔法も6秒で、しかも時間をかけて撃った魔法と同じほどの最大威力で解き放てるのだ。

それに加え並行詠唱もある上、身に付けられた完璧な戦闘技術…よって、えげつない程に動きも魔法もその全てが洗練されていた。

 

 

その文字通り互角のぶつかり合いによって…氷河とサウナと化すという大騒ぎへと発展する。

 

 

「何これ冷た!!床凍ってる!?;」

「何この熱気!サウナ!!?;」

 

「!ロキ!」

「さ…寒い」

 

扉から足を踏み入れたティオナが叫んだ後、ティオネが叫ぶ。

 

その後にアイズがタライの山の中に潜んでいたロキを見つけ、タライごとガチガチに凍るそれに溶かそうと奮闘していた。

 

 

「「はあっ、はあっ、はあっ!」」

「互いの…譲れないものの為に!!」

互いに息が荒れる最中、数分間に続く激闘に決着を付ける為…私は叫び、リヴェリアは頷いて再び唱え出し、魔法の準備を互いに終える。

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」

「リヴェリア様!!?」

互いに魔法をぶつけ合うその光景に、ちょうど入ってきたレフィーヤは何事かと叫ぶ。

 

 

そしてぶつけ合った直後に再び爆発。

 

それを受け、一瞬離れてから即座に互いに詰め寄り、並行詠唱と共に拳同士が再び交錯し合う。

 

 

 

「見たいんだあああああああああ!!!!」

 

男湯にまで響き渡った私の大声に、何事かと思われていたなど…私は知らない。

 

後に騒ぎの一部始終を聞いたフィンは吹き出し、例の本の件で笑われた仕返しを大いにしたという。

 

 

 

結果…身体が冷えたこともあって、5分間の激闘は終わりを告げる。

 

元通り大浴場を時間回帰魔法で元あった状態へと戻した後、共にシャワーで汗を流し、あったかい風呂に浸かり、共に出た。

 

 

脱衣所で身体を拭いて着替え終えた後、ドライヤーのように温風を出す道具がある場に移動。

そこには壁に鏡があって、その前にある椅子に座ってから道具を使って温風を出し、髪を乾かしていた。

 

その時、私とリヴェリアは隣に座って語り合った。

互角に渡り合った健闘を称賛し合い、その戦いでの動きを互いに検討し合いながら私とリヴェリアは談笑した。

 

 

髪を乾かし終えた後…共に立ち上がり、備え付けられている冷蔵庫のような道具の中にある飲み物を物色した。

 

そして私は冷えた牛乳を、リヴェリアは冷えた果実水を呷った。

温まってほてった体に冷たさが染み入るのを感じ、身を震わせる中…私は昔から言ってみたかった言葉を叫ぶ。

 

 

 

「~~~っ!!

この一杯の為に生きてんなあああ!!」

「親父臭いぞ」

 

リヴェリアからじと目で見つめられたが仕方ない。

 

今までにやれなかったことを取り戻しているのだと説明し、生き生きと語る私に「それは何よりだ」と瞑目した。

 

 

「だが周りに迷惑をかけるな」

「リヴェリアだってかけたじゃない」

「それはお前が退かないからだろう」

「退けない、嫌だ。やる絶対!」

 

「……はあ…お前という人柄が時々わからなくなる」

 

そう溜息交じりに苦言を漏らすリヴェリアに、私は謝った。

 

 

「でも嘘は付けないし裏表はないよ?全部出ちゃう」

「ああ、知っている。だから困っている。はああっ」

「???(何でまた嘆息を漏らすの?)」

 

(嘘を付けないということは、他との立ち回りがうまくいかないということだ。

ちゃんと話さなければ相手の意図を感じることが出来ないのもまた問題へと発展しかねない。

後でフィンにも相談してみるか…)

 

そうリヴェリアが一人で考え込むのを見やる中、私は疑問符を浮かべながらも切り替える。

 

楽しかったとばかりに天井にある魔石灯を見つめながら思いを馳せていた。

 

 

(見たいものは見れたし、全力のぶつかり合いも楽しかった!

 

あれ?でも何か一つ忘れているような…)

 

「ウチの足どないかしてくれえええ!!」

「あ…溶かすの忘れてた」

 

ロキの叫び声に、私はようやく忘れていたことを思い出した。

 

ロキを解凍した後、そのまま放置していたことに。

 

 

時間回帰魔法で全て戻したのだが、未だ氷のように冷たいタライがロキの足に引っ付いていたまま残っていたことを指摘されてから気付いた。

ロキをそのまま放置していた為に生じた、うっかりミスである。

 

その後、リヴェリアがフィンとアスペルガー症候群について話し合っていたことなど…私は知らない。

 

 

-------------------------

 

 

6月9日、晩

 

執務室

 

 

リヴェリア視点――

 

私はフィンのいる執務室で、ケイトの行動について話していた。

 

 

「ということがあってな」

「ぶっ…ふふっ」

「笑い事ではないぞ、フィン」

顔を顰めながら苦言を漏らす中、フィンはなおも笑い続けていた。

 

恐らく、私が散々に笑った仕返しも兼ねているのだろう。

 

 

「それが、ちょうど僕もケイトの行動が気になってね?

フィアナと話し込んでいた所だ」

 

「!…そうなのか」

「ああ。

どうにもアスペルガー症候群というのは言葉にされなければ相手の想いがわからないし、その言葉通りに受け取る傾向があるようだ」

 

そう言ってから、フィンは説明を続けた。

 

 

纏めてみると、アスペルガー症候群というのは以下の特徴があるらしい。

 

 

・曖昧なコミュニケーションが苦手。

言われたことをそのままの意味として受け取ってしまう。アイコンタクトや顔の表情を読み取ることが苦手。

 

・不適切な表現。

遠回しに発言することが困難であり、ストレート過ぎる発言になりがち。

 

・名前を呼ばれないと自分だと気付かない。

1対1でも、自分の名前を呼ばれないと相手が誰に対して発言をしているのかわからない。

 

・想像して動くことが苦手。

想像力が弱い傾向にある為、指示されたこと以外に考えが向かなかったり、相手や環境の変化に気付かないことがある。

 

 

・相手の気持ちを理解するのが苦手。

相手が何をどう考えているのかを想像することに困難さがある。はっきり言葉にして伝えられなければわからない。

 

・相手を傷付けてしまう。

何も考えずに見たまま、思ったままの発言をしてしまう為、気付かぬまま相手を傷付けてしまうことがある。

 

・対人関係の障害。

場の空気を読むことが困難。相手の気持ちを理解したりそれに寄り添った言動が苦手な傾向にある。

その為、他から見れば社会的なルールやその場の雰囲気を平気で無視をしたような言動になりがちで、対人関係を上手に築くことが難しい。

 

 

・大勢の中で浮いてしまう。

場にそぐわない発言や回答をしてしまう。

 

・自己中心的に思われる言動をしてしまう。

自分の言動がその後どうなるか、他の人にどう影響するか、想像するのが苦手で、臨機応変に動くことが困難。

 

・限定された物事へのこだわり・興味。

一度興味を持つと過剰と言えるほど熱中してしまう。

法則性や規則性のあるものを好み、異常なほどのこだわりを見せることがあり、その法則や規則が崩れることを極端に嫌う傾向がある。

その一方で、この特性は逆に強みとして活かすこともできる。

 

 

・マイルールがある。

自分の決めた予定や手順などを変えることを嫌い、頑なになる。無理に変更すると混乱してしまうこともある。

 

・記憶力が高い。

興味のある物事に関しては、大量の情報を記憶したり、引き出すことができる。

 

・集中力がある。

興味のある物事に関しては、一度手を付けると熱中しすぎて周りが目に入らないこともある。

 

・話し続ける。

興味のある物事に関しては、一度話し出すと夢中になり過ぎて止まらなくなる。

 

 

以上が周りにとって目に付く特徴だそうだ。

 

 

 

「なるほど…勉強で問題が無かったのはそれでか」

 

「ああ。凄い集中力だっただろう?

だが…これは彼女が持つ個性のようなものだ。

 

譲れないものは誰しもある。彼女にとってはそれが他より顕著だと考えればいい」

 

「だが…」

「ああ。わかっている。

彼女の強みを生かせればいいんだが…理解を得られない可能性もある。

 

これは生まれついてのもので、一方では障害とも言われていたそうだ」

 

「アスペルガー症候群であるが故、か…」

「ああ。

僕としても、初対面の時点から普通の人とは違う印象を抱いていた。

 

だが…優し過ぎる。どれほど差別を受けようとも、結局は傷付けようとはしない」

 

「そこを突かれて増長され、精神がひどく傷付いてきたのだろうな」

「それに加え、彼女はあまりに繊細で傷付きやすい。どうしても言葉通りに受け取ってしまうからね。

暴言や暴力を吐き掛けられた時…必ずと言っていいほど、父と重ねていた。

 

言葉通りに受け取る性質からか、死ねなどの暴言を全て真に受け取っていた。

家でも学校でも同じ。理解者などいない。いるわけもない。誰も受け入れはしない。誰も自分など望みはしない。

そう思い込むに至った要因でもある」

 

「…ふう…弱ったな」

「ああ。いくらその認識を撤回しようとも、過去の記憶がそれを許さない。

 

僕達にとっては過去のことだと割り切れるとして、彼女の中での当たり前が置き換わってしまっている。

結果として…今という環境を極めて異常なもの、わからない異物として捉えているだろう」

 

「ああ。だから困る。

普通という日常を、ケイトはまだ知らない」

「そうだね。だからこそ、それを身を持って教え込む必要があるんだ。

フィアナが言うには…いつの日か心を取り戻し、過去で得てきた経験に伴う感情を取り戻し、当時の生々しいほどに蘇ったそれに飲み込まれる。

 

悪夢で見ればフラッシュバックを起こし、当時の感情のままに泣き崩れ、精神は崩壊するだろう…

それに打ち勝ち、乗り越える手助けをする為に僕達は動かなければいけない」

 

「前途多難だな」

ポツリと、先行きの難しさを強く感じながら零した。

 

それにフィンは両手を組んで頷き、「それでも…前に進む大切さを知ってもらわなければいけない」と語った。

 

 

「幸い、彼女は言葉にして伝えればちゃんと聞いてくれる。

その意味も噛み砕けば理解してくれる。ただ、具体的に聞かなければ何がいいか悪いかわからないという点もある。

 

純粋で素直な性格であったことを、素直に喜ぼう。

冗談が通じないから余計…その反応を見るのが楽しいんだけれどね」

 

くすくすと笑みを浮かべるフィンに…私は頷いた。

 

その時、フィアナのパネルが向かい合う私達から見える方(私から見て左側)に浮かび上がり、語り出した。

 

 

『努力しても努力しても限界がある…

助けになろうと奮闘し、頑張り、それでもなお…認識は変わりなどしない。

 

トラウマから声が出ない中での唯一の表現方法…それが態度で、行動だった。

しかし、それが他にとって全てが無駄だったと悟った時…彼女の絶望は、そこから始まったのです。

 

目の前の結果に、彼女は悟った。

理解者など、ありのままに心をさらけ出せる場所など、未来永劫訪れはしないのだと』

 

「1人1人にどうして欲しいか尋ね、努力し、それでもなお言われなければわからないのかと…そして考えた上で取ったのが、助けを求める者へ手を伸ばすこと。

逆に助けてくれる人が現れて欲しかったという気持ちの表れなのだろうな。

 

…果たして…私達は、ケイトにとって助けとなれているだろうか?」

 

フィアナの言葉を受け、私は顎に手を添えながら考え込み、疑問を呈する。

 

 

「なれているさ。心から感謝していたよ。

こんな経験は初めてだと、嬉しそうに満面の笑みを浮かべながら示していた。

 

随分と生き生きとした表情を見せるようになったよ。

人のそればかり気にして怯えていた、当初とは違ってね…」

 

「反応から察するに…理解を得られるまで、随分と苦労してきたのだろうな」

 

「得られないに決まっていると、そう決め付けていたそうだ。

ただ…目の前の結果に振り回されている。

 

だが、それは目の前のこととしっかり…真っ直ぐに向き合えるという強みでもある」

 

「…ちゃんと、育てていかなければな。ケイトという個を」

 

「極めて長い道のりになりそうだけれどね…

だが、根が単純な分…意外と早くにケリが付くかもしれない。

 

フィアナ」

『はいはい』

 

「ケイトは…彼女は、どんな手を使ってでも君を連れ帰そうとするだろう。

だから…今の内に感情を制御しておくべきだ。

 

それさえできれば、恐らく…ランクアップへと繋がると思う」

『!!どういうことですか?』

 

「……彼女に必要だったのは、精神をありのままに解放できる場だ。

常に抑圧され、気を抜ける時間も安心できるそれも無かった。だからこそ…ああなってしまったんだろう。

 

『自分を侮辱されても怒らないくせ、人を侮辱されると怒る』という性格も相まって、感情に振り回されがちなんだろうけれどね」

 

『……』

「あの修業もあって、力と敏捷もSSSSを超えて共にUSの2250へと至った。

恐らく…一気にLv.10へとランクアップするだろう。勘だけれどね」うずっ

「お前の勘はよく当たる。ロキには迷惑をかけるだろうな」

 

親指が震えるをそれを見て、私は比較的机に近い位置へ置かれてある椅子に座りながら呟いた。

 

 

「こうなってくると問題は…」

「ああ。だからこそ、か」

 

こく

「彼女はまだ…知らない。世間の厳しさしか知らない。

温もりも、愛の囁きも、心が交差し合う喜びも、生の喜びも…生きる原動力となる幸せ、その何もかもが足りていない」

頷きながら、フィンは言った。

 

「たとえ知っていったとして…何が要因で上がる?」

「さあ?こればかりは神のみぞ知る、かな?」

肩をすくめながら両掌を上へ向けるフィンに…未来に対して不安を感じた。

 

 

(もし仮に感情のまま暴走してしまえば――)

 

その懸念はいい意味で裏切られることになるのだが、その当時の私はまだ知らない。

 

 

「だが、お前もまた生き生きとした表情を見せるようになったな?」

「?そうかい?」

『そうですとも。ケイトの反応を見てからかう時なんて特に』

 

「ああ、ついね?^^//

 

反応が可愛いんだよ。

心臓が爆発するなんて言ったら飛び上がって魔力を必死で送り付けてくるものだから//」

そう堪え切れないとでも言うかのように、フィンはくすくすと笑い声を零しながら言った。

 

「程々にな。何事も」

「ああ」

 

(私の忠告は、ちゃんと聞いてくれるのだろうか?)

 

頷くフィンを前に、私はそう疑問を呈するばかりだった。

 

 

-------------------------

 

 

6月10日、昼

 

ケイト視点――

 

遠征前日ということもあって朝から慌ただしかった。

その中でフィンから暇を言い渡され、「骨休みをしておいで」との言葉に…ぶらぶらと歩くことにした。

 

ジャガ丸くんや服で使用してもらったお金も迷宮に潜って手に入れたものを売って返した。

 

 

それを終えた後で外を歩いていた頃…とてつもなく綺麗な人が現れた。いや、神?

 

北のメインストリートをバベルの塔へ向けて歩いていた時のことで、その距離は5M離れており段々と私へ向けて近付いてきていた。

 

 

 

「随分と…綺麗な魂ね」

ふっと笑みを浮かべ、全身を覆う黒いフード…その中でも頭の上に掛けられていたそれを後ろ肩へ下ろしながら…彼女は言い放った。

 

(いや、初対面ですけど!?)

そう思いながら後ろに数歩ほど下がりつつ、彼女を見た瞬間…魂まで震える感覚に襲われた。

 

ざわざわと騒がしい喧騒が耳を刺す中、私は頭を振って追い払った。

 

 

(あれ?今のは一体?)

 

嵐のように荒らすだけ荒らして通り過ぎ去ったその感覚に、私は眉を顰めた。

 

『(そりゃ魅了対策してますもん)』

フィアナがその光景を見ながら思っていたなど、私は知らず…私は前を向いた。

 

 

その時には既に彼女との間隔は20Cもなく、バベルの塔を背に彼女は私の顔を覗き込む。

 

銀の長い髪がするりと肩を滑り前へと流れ落ちる。

 

 

それらの光景を前に、私は動けなくなった。

 

 

「ふふっ…可愛いわね//」

 

そう頬を染めながら目を細め、愛し気なものに対して向けるかのような眼差しを私へ向けて右手を差し出し、左頬を撫でられる。

 

微笑むその表情はまさに芸術品そのもので…それに私は、ただただ見惚れるばかりだった。

 

 

「ケイト、だったかしら?」

「あ、はい!

(しまった、咄嗟に頷いてしまった)」

 

「私の名は、知っているかしら?」

 

「…いえ、まだ」

 

何で頭を振って答えてしまったのかわからない。何故か、嘘も誤魔化しも付けなかった。

 

 

神の前では、嘘を付けない。

 

それに気付くのは、この後だった。

 

 

「そう…私の名はフレイヤ。よかったら、私のファミリアに入らない?」

「!!?(女神…フレイヤ!?)」

 

「どう?」

 

そう尋ねかけられる中、その背後にいる屈強な猪人が目に入った。

 

脅しか…はたまた、ただの勧誘か…

はっきりしないまま、私はその質問に対して拒絶を示した。

 

 

「お誘いありがとうございます。ですがすみません。

 

私は…ロキ・ファミリアが好きです。

既にフィンとも婚姻していますので、不用意に抜けるわけにも行きません。

 

そして私の居たい場所はあそこなので…」

 

「そう…残念ね」

 

「でも、そのっ!フレイヤ様に会えたことは、とても光栄です!//」

「あら?それはどうしてかしら?」

 

「だって!ファンです!憧れていたので!//」

不思議と興奮が冷めやらず、拳を握り締めたまま…まるで子供のように語っていた。

 

育った環境故に、愛に対して幻想を抱いていた…というものが要因でもある。

 

 

「そう。嬉しいわ^^」

「ありがとうございます!偶然でも嬉しいです!//」

 

そう満面の笑みを浮かべて語られる中、私は頬を染めたまま両手で右手を取って頭を下げ…彼女は微笑む。

 

だが…その目は笑ってはおらず、ぞくりと背の毛が逆立つほどに嫌な何かを感じた。

 

 

(負?いや、違う。

 

何か黒くてドロドロとしたような…これは…執着心?)

 

そう僅かに感じる違和感を、霊感が目に見える形で映した…

 

 

彼女の周りに、黒い何かを見させた。

 

それに思わず後退る中、フレイヤ様は私へ歩み寄って「どうしたの?」と不思議そうな顔をして尋ねられた。

 

 

 

「あ、いえ。何でもないです!

 

用事があるので、これで。失礼します!」

そう頭を下げてから移動しようと背を向けると、「またね」と声を掛けられた。

 

その表情は先程とは打って変わって、ちゃんと笑っており…

振り返りながら見たその表情に、手を振るフレイヤ様に私は安堵しながら笑みを浮かべ「また!」と叫びながら手を振り返して走っていった。

 

 

私の帰る場所、ロキ・ファミリアへ向けて――

 

 

(やっぱり我が家が一番!外は怖い!!)

 

そう考えながら必死に走った。

 

 

 

しかし、走る最中で疑問を感じた。

 

「?」

フィアナの潜む位置はわかる。私の隣にぴったりと引っ付いている。

 

 

(それでも…何で……

いつもより小さく感じるんだろう?)

 

走る中もなお感じるフィアナの力…それに私は「まあいっか!」と流した。

 

何かあればきっと、自分から教えてくれるだろうと…そう、楽観していた。

 

 

その日の内に聞いておかなかったことを、次の日…私は死ぬほど後悔することになる。

 

 

-------------------------

 

 

フレイヤ視点――

 

 

「…よろしいのですか?」

 

「ええ。今はまだ、これでいいわ。

 

恐らく…あの子は一週間も待たずに神に至るでしょうね」

「!!」

 

彼女の魂は、ちゃんと見た。

 

その上で…わかった。

彼女は既に、本来ならば人の身ではなかっただろうということに。

 

だからこそLv.8に急激に上がったのだろうと…察しが付いた。

 

 

それと…何やら、不思議な力も感じる。

 

彼女の(恩恵)で、僅かに光を上げる何かの存在に…目を細めた。

 

 

「あれほどに白く、強く発光し続ける魂は見たことがない。

まるで太陽…かの最高神のようにまで見えたわ。

 

あれを御するのは難しいでしょうね…頑なで、頑固で、良くも悪くも一途過ぎるわ」

 

「…攫ってきましょうか?」

「やめなさい。彼女が率先して全力で迎え撃ってくるわ。

戦争遊戯にまで発展すれば、勝ち目はないに等しい」

 

「……」

 

「安心なさい。

神になったとして、彼女は敵に回ることもないわ。

 

攻撃されない限りは、自分から攻撃することなんてできない人よ。あれはね」

 

「…」

「今は見守りましょう」

 

神に至ったその日になってからでも遅くはない――

 

そう言いながら、私は去っていった彼女の背を見送ってから、彼女に背を向けてバベルの塔へ向けて歩いて行った。

 

 

(そう言えば、ロキの所がちょうど遠征だったわね。

 

その時を境に、なるかもしれない――神へ。

譲れないものの為に『精神』を本当の意味で解放した時に…

 

抑圧され続けることしか知らなかった魂…

それが解放された時にこそ、彼女は本当の意味で『神』の高みへと辿り着く。

 

卵の殻を突き破るかのように、そのまま遥か高みへと……

ああ…今からその時が楽しみで仕方がないわ//)

 

そう考えながら…熱く湧き立つ思いに、私は恍惚としながら笑みを浮かべた。

 

 

彼女の、それへと辿り着く未来を思い浮かべながら…

 

 

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