神様を殴る為に神を目指すのは間違っているだろうか   作:-恵-

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最下層

6月12日、晩

 

50階層へと辿り着いた僕達は、テントを張っていた。

 

 

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19階層での出来事の後、あのモンスターはケイトの魔法によって全快し、腕も引っ付いた。

モンスターの名前は白い体毛からケイトに「ハク」と名付けられ、実力不足ということもあって1時間ほど異空間での例の修業も行ったことで強くなった。今ではLv.7相当となっている。

 

そうして準備も整っていよいよ50階層へ向けて移動するといった所で、19階層から50階層へ行く前に僕はハクに尋ねた。

 

 

「所で、ハク」

『なに?』

 

「君の付けている防具についてだが…冒険者からはいだのかい?」

『…同胞が、殺したの。

私は…助けられなかった。逆に両方から攻撃されるばかりで、怖くって…隠れてた。

 

それで、防具だけが残されていて…私も着れる大きさだったから』

 

「なるほどね…死人のそれをはぎ取ったのは、少しでも痛みを軽減したいからか」

『うん…その…ごめん、なさい』

申し訳なさそうに頭を下げてくるハクに、僕は瞠目しながら思ったままの言葉を呟いた。

 

「!驚いたな」

『?』

 

「いや…モンスターでありながら罪悪感を示すのを見たのは初めてでね…

君以外のモンスターは全て、人を見た瞬間に襲い掛かってくるものだから」

『私は…違うよ?』

 

「ああ。知っている。

それに君が謝ることじゃないさ。

 

生き延びる為に最善の策を取っただけ。

死体に申し訳なさを感じるぐらいなら、彼等の冥福を祈った方がいい」

『あ!そうだよね。ありがとう!』

 

「ははっ…どう致しまして^^」

再び頭を下げてくる彼女に僕は笑いかけ、ハクはその場に跪いて合掌した。それも僕達に背を向けて…無防備にも程がある。

 

僕はハクが身に付けている男物の防具、左腕に付けられた籠手を見ていた。

アイズは…ケイトと話し合って割り切れたのか、隊列に戻っている。

 

 

いけないな…これ以上は、どうしても感情移入しそうになる。

それだけじゃなく、調子も狂う。

 

人の心を持ったモンスター…その存在を明らかにすれば暴動が起き兼ねない。

 

 

モンスターを倒して資源を手に入れて生計を立てている冒険者、それに反対する者が現われる可能性もある。

心のあるなしは周囲のモンスターから襲われているか否かで選別するとして…ケイトに対して庇う行動を取るモンスターを目の当たりにしてしまった。

 

モンスターを攻撃する手を緩める。その場合、より死に近付いてしまう。

躊躇えば躊躇うだけ、より危険に瀕する。

 

 

だから見分け方についても道中で提示していた。

 

 

・集団で行動している場合は難無く攻撃できる。

その中にいた場合、先に攻撃されるのはモンスターだ。単独行動を取る他ない。

 

だが一つ問題がある。意思のあるモンスター同士で徒党を組んでいる場合だ。

その場合はどうなのかわからないのでケイトが分身を作って姿を変えてから出すようにしてみた所、ハクは言われずとも同胞だと見分けれたらしい。なので、ハクから制止の声がかかるまでは遠慮なく攻撃していいということにした。

 

 

・人間の防具を着ている、もしくは武器を装備している場合が多い。

これはハクと話してわかったように、生き残る為だろうね。

 

・人間の言葉を話す、もしくは意思を伝えようとする。

攻撃されようとしない限りは仕返さない。だがこれはやはり人にもよる、いやモンスターにもよるだろう。

 

 

そうして方針が固まったこともあって僕達は50階層まで移動し、ちょうど到着した。

というのが現在の状況だ。

 

 

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ちょうど全てのテントも組み立て終え、晩御飯の準備をこれからするという時に、僕達へ向けてケイトは提案した。

 

 

「「「「1分が500時間!!?」」」」

「うん、皆にはLv.8だった私の分身と全力で戦ってもらう!」

瞠目する僕達へ向けて、ケイトは事もあろうに再び異空間での修業を提案してきた。

 

「勝つまで抜け出せない、中の時間で何年でも何十年でもLv.8だった時の自分を倒せない限り出れないという異空間に入って欲しい」という申し出だった。

それも2時間で120時間所の比じゃなく、1分を500時間とするそうだ。

 

 

「「「「あの地獄の訓練がもう一度!!?;」」」」

悲鳴が上がり、中には涙と共に泣き崩れる者まで現れ騒然に陥る中、ケイトはなおも言葉を続ける。

 

「大丈夫だよ。全部完璧に避けれるようになってたし。

後はそれに魔法が付け加えられながら全力が加わるだけ!」

「「「「「無理!!!!!」」」」」

その言葉に、ほぼ全ての人達が悲鳴の如く叫び声を上げた。

 

基本アビリティである数値が耐久も魔力も全てがS999となるまで続き、なってもなお続き…気付けばランクアップしていたというのもある。

 

言葉にすれば簡単だが、その内容は熾烈を極めていた。気が休む時間が1秒さえない。

最終的には5日間続いたそれに全員慣れてしまい、いつ如何なる時でも避けることも対処も可能。動きが全て隙無く予備動作も無く達人みたいになってしまっている。

あの修業を喜んでいたのはアイズぐらいだ。

 

現状でさえそれなのに、まだ足りないのか?

そう考えた矢先、さらに衝撃的な情報が与えられる。

 

 

「ロキから血も預かってる。それを媒体に自動更新する魔法をかけれる。

(ロック)の解き方も教わった。既に織り込み済みって顔だった」

「「「「「!!!」」」」」

再びほぼ全員が驚きを示す中、僕はケイトへ歩み寄ってから問いかける。

 

「…それをしたとして、君の狙いは何だ?

 

一つ腑に落ちないことがある。

君がその気にさえなっていれば…遠征までの期間の間に提案できていたはずだ。

だがそれをしなかったのは一体何故なのか、そこをはっきりしてくれなければ聞けない。

 

君のことだ…忙しそうだったからというのもありそうだが、それだけじゃないんだろう?」

その問いかけに、ケイトは一言で答えた。

 

「最下層に行く」

「「「「「!!!??」」」」」

そして次の言葉に僕達は息を呑むばかりで…その為にLv.8まで上げようとしているのかと悟った。

 

Lv.2の冒険者がLv.3の冒険者を倒した場合、Lv.3に達する。それほどにLv.差1つは重い。

それを利用してLv.8まで引き上げようとしているのだと。

 

 

「そこに…フィアナへ辿り着く答えがある。

 

最短ルートを教えてくれる魔法を、【自由自在】で作った。

私は…異空間で【狂神化(ベルセルク)】を完全にものにする!」

 

「無茶だ!!初見で行けるわけなど

「是が非でも私が護る!!

 

ごめん…決めたんだ」

 

「それほどの理由がどこにある!?」

リヴェリアが視線を合わせて跪きながら、ケイトの肩を両手で掴んで揺する。

 

その中で…ケイトは俯き、ようやく理由を打ち明けた。

 

 

「フィアナが…消えちゃう」

「「「!!」」」

ポツリと、消え入りそうな言葉が静寂の中で響き…僕達はケイトを凝視した。

 

「あいつは…馬鹿だから…今も、私の背に神愛加護って形で神の力を送り続けてる。

そしてその神の力は回復しない。神として居られる時間さえも失い続けている。

 

異空間に入っている時も、神愛加護は働いていた。でもそれで期間が短くなるわけでもない。減っていたのは外での実時間分だけだった。

だから…私はたとえ一人でも、反対されたとしても行く!」

 

「「「「「……」」」」」

 

真剣な表情で顔を上げ、覚悟を決めたかのように真っ直ぐに僕らを見据えながら叫んだ。

 

その中で誰も反応は返さず、静寂ばかりが辺りを包み込んでいた。

 

 

「なるほどね。いい機会じゃないか」

「フィン!!?」

そのケイトの言葉に僕は微笑し、隣にいたリヴェリアは何事かと叫ぶ。

 

「どうせ、僕達は最下層まで攻略する気でいるんだ。

 

史上初の全階層攻略…未知への挑戦。それが早まっただけだろう?

僕達からすれば、願ってもない申し出じゃないか」

 

「だが…」

「リヴェリア、ケイトのいた世界では「苦労は買ってでもしろ」という格言がある。

 

苦労無くして人は成長しないし

苦労も無しに強くなったとして、それには何の意味ももたらさない。

 

僕はそう思うのだけれど…皆は、違うのかな?」

 

「私は…やる」

「アイズ!?」「アイズさん!!?;」

 

『私も、やりたい!護りたい』

「「「!!?」」」

 

「さて…モンスターであるハクまで言い出すんだ。

モンスターを倒す冒険者として、恥ずかしくはないのかい?」

「「「「「!!」」」」」

 

「…俺はやるぞ」

「え!?」「ベート!!?」

 

「勘違いすんじゃねえ!

…お前にとって未だ雑魚に成り下がってんのが気に食わねえだけだ!!」

「キャー!痺れるー!!カッコいいー!><//」

「僕の言葉には痺れなかったのかい?;」たらたら

ベートの言葉に歓喜と共に叫ぶケイトに対して、僕は苦笑交じりに冷や汗がだらだらと流れ落ちるのを感じながらも問いかけ、ケイトは答えた。

 

「ん?何言ってんの?

フィンの言葉なら百万ボルトだよ!!ベートのは電気ショック」

「どういう違い?」

そのケイトの言葉にティオナは疑問を呈し、その次に出されたケイトの言葉は…とても、衝撃的なもので……

 

「んっと…早い話、フィン以上の存在はいないよね!^^//」

「!!??///」ぼんっ!!

隣にいたケイトが真っ直ぐに僕のすぐ正面で向き直っての言葉、それに一瞬で顔が上気して頭が文字通りフリーズした。

 

「真っ赤だな」

「惚気切っておるわい」

「フィンもケイトも真っ赤だねー」

「羨ましい!妬ましい!!」

のほほんと見た感想を呟くリヴェリア、ガレス、ティオナ、ギリギリと白目をむいて睨んでくるティオネの言葉を背に…

 

ケイトに抱き付かれる中、僕は…愛しさのあまり抱き締めながら周囲の目も気にせず、唇を奪った。

 

 

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ケイトが言うには、残り期間はもう1日もないらしい。

だからこそ1分を500時間、つまり…60分で30000時間…1250日、大体3年5か月にあたる。

 

「外での1時間で、異空間内は3年5か月か」

「異空間の中は死に掛けたら即全快、皆の恩恵の自動更新させる魔法は今からかける。

 

そして…異空間での修業開始は、次の日の朝にする」

 

「わかった。

明日は早い。しっかり休んで備えるんだ」

「最下層までの階層は全部、魔法で紙に起こしておく。道も階段も環境も温度も敵の傾向も全て込みで!」

「ああ。助かるよ」

そのケイトの言葉に、僕は頷いた。

 

本来ならば自分の足で踏破すべきだろう。

だが、急を要する。この機会を逃せば、二度とフィアナの下へは辿り着けない。

 

晩御飯を食べてから、ケイトから魔法が示す「フィアナへ辿り着くまでの最短ルート」を聞いて情報を整理し、その道のりを進んでいく際の傾向を検めた後に計画を立ててから朝の修業後に皆に伝えることにした。

 

 

まずは52階層にある『竜の壺』とも呼ばれる「58階層にいる砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)大火球(フレア)によって何層もの階層を貫通狙撃されてできた縦穴」、それを使って一気に58階層まで行く。

それから階段を使って58階層から60階層までの最短ルートで降りた後、60階層にある壁に道が続いているらしく、そこから最下層まで直通で行けるようだ。

 

その壁に何があるかは行ってみなければわからないらしく、不安げな表情を浮かべて俯いていた。

 

 

「ケイト…」

「ん?」

テントで二人きり、互いに椅子に座って向かい合ったまま…僕はケイトに伝えた。

 

「大丈夫だ」

「え?」

 

「何年でも何十年でも待つ」

「!!」

瞠目する彼女に対し、僕は椅子から立ち上がって歩み寄り、しっかりと後ろ頭に右手を回し左腕を背に回して抱き締めた。

 

「君がたとえ、帰ってくるまでどれだけの時間がかかろうが…待ち続ける。

 

君以上の相手は、今後現れはしないだろうからね^^」にこ

「!!」ぶわっ

驚きと共に僕の方へ顔を向けるケイトへ笑いかけながら言い放った後、不意にぽろぽろと彼女の双眸から涙が零れ落ちて行く。

 

それに微笑みかけたまま、僕は言葉を続ける。

 

 

「言っただろう?逃がさないと」

「で、でも…帰ってこれない可能性だって」

言葉を詰まらせながらも、ケイトは必死に叫んだ。

 

たとえ帰るとしても、一瞬で帰れるかまではわからない、保証できないとも。

 

「大丈夫だ…

どちらにしろ、僕の妻は未来永劫君以外いない」

「!!」

「だから、必ず帰ってくるんだ。僕を一人身にさせたくなければね?」

 

真っ直ぐにケイトの目を見たままくすりと笑いかけながら片目を瞑ると、余計にケイトは涙腺が崩壊したようでその場で子供のように咽び泣き、不意に椅子から立ち上がってから飛び付いて、そのまま座り込んで泣き崩れた。

 

「おっと」

それを支える中、僕もまた座り込む動きに釣られて尻餅をついた。

 

「…僕達のことは心配しなくていい。今は目の前のことに集中すればいい。

 

最下層まで行き、フィアナの下へ辿り着き、そして…必ず帰ってくるんだ」

「うん!…うんっ!!」

微笑みかけながら頭を撫でてそう言い聞かせると、ケイトは未だ涙を流して僕の胸元の服を握って震えながら…僕の胸元へ顔を埋め、叫んだ。

 

「絶対…絶対、帰ってくるから!

もし無理になっても、絶対にこの腕の中に帰るから!!」

 

「ああ…待ってるよ」

 

その叫びに僕は静かに頷き、微笑みかけてから…指輪を彼女の左手の薬指へとはめた。

 

 

「!!」

「この指輪に誓おう。女神フィアナにもね^^」

「うん…私も誓う」

 

「僕は待ち続けることを」

「私は必ずフィアナと帰ることを」

 

そう言い合いながら互いに左手薬指にある指輪に口付け、誓いを立てた後…

僕達はいつものように抱き締め合いながら寝ることにした。同じ寝床で。

 

無論、そういう行為はしない。

それについては…遠征を終えた次の日、打ち上げが終わった後の夜でと話を付けた。

 

 

そうして僕達は同じテントで眠りにつく。抱き締め合ったまま…

 

無論、夜警については予定通り交代ですることになっている。

 

 

遠征の目的は『未到達階層の開拓』。

未知の最下層への挑戦…その為の足掛かりが修業…

 

それらの考えを纏め終えた僕は、親指が深く疼くのを感じながら笑みを浮かべ…目の前の温もりに身を埋めながら眠りについた。

 

 

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6月13日、朝7時

 

アイズ視点――

 

 

「ケイト…ごめんね。本気で、攻撃して」

 

「あー…しょうがないよ。

私も譲れなかったし…意地張って、話し合えなくって、ごめん;」

「ううん。こっちこそ」

そう頭を下げられる中、私はただ申し訳なくて再び頭を下げた。

 

今、ケイトは食事を作る準備をしてくれている。

 

異空間内での食事と風呂と寝床についても設定?を細かくして何十年でも快適に過ごせるように、入った時点から決して体の老いが進まないようにしている所らしい。

今度は食事と風呂と寝床の間は攻撃しないみたいで、少しだけ残念に感じた。

 

上達が見違えるほどに日に日に上がっていくのを、より強く感じられたから…その感覚が気に入っていたのに。

何でか持ち掛けられた時に咽び泣く人達まで出ていて驚いた。

 

 

そう考える中、またケイトへ目を向けた時には朝御飯は完成していて…

揃って食事を取りながら、ケイトは異空間の最終調整に向かった。異空間の修業についてはハクも受けるつもりみたい。

 

キャンプの防衛についてはケイトに任せて、遠征部隊の皆が異空間での修業に専念するつもりみたい。

前と同じく、分身魔法のLv.8のケイトとマンツーマン形式で。ただし時間はとっても長い。倒せないと出れないから頑張らないと…

ちなみに分身魔法が解けた際の疲労は還元されないよう改変したと聞いた。

 

 

警備については、ケイトが【自由自在】で50階層にモンスターが入った瞬間にも元々いたそれもまた「魔石のみを囲う結界魔法」が発動するよう仕込んだらしい。勿論、ハクは除いている。

 

でも監視は必要だからケイトもまた、外と同じ空間に居ながら「周囲の時間だけを組み替える魔法」で修業をするみたい。

今朝から頑張っていたら作れた、らしい。

 

 

それらの情報を共有した後、ケイトは言った。

 

「私達は最下層まで行く。で、ここのキャンプの防衛に回る人達に言っておかないといけないことがある」

「何だい?」

その言葉にフィンが見やっていた。どうやら聞かされてなかったみたい。

 

「私とフィアナの間には、繋がりがある。糸みたいな、送り付けられた神愛加護が。

天に向けてこの階層も貫いている。迷宮には働きかけられてないし認知もされてない。

 

神に至った後、私は光魔法をその糸へ添わせて皆に見えるようにする。魔法を外殻で覆って神の力だと迷宮に悟らせないようにしながら。

そしてその時、皆を迷宮から黄昏の館へ瞬間移動させるから一か所に固まってて」

 

「…なるほど。神の力の影響による異常事態を防ぐ為か」

「うん。最下層に置いてけぼりにして一人だけフィアナの下へ行くわけにはいかないから」

「ちゃんと話してくれたことは助かるけれど、いきなり過ぎる」

肩をすくめながら言うフィンに、ケイトは一言ごめんと言いながら謝った。

 

その計画は通った、というのも…

時間がもう6時間しか残されていないようで…最下層から地上までの道中にケイト自身ついて行けないから、いきなり最下層まで行くのだから帰りの体力が持つとは思えないから、そして…

 

 

「必ず黄昏の館に帰るから、迎えて欲しい//」

そう恥ずかしそうに俯いて要望を零すケイトに、フィンは笑った。

 

「仕方ない。今回だけにしておくれよ?」

「うん。その後で、いくらでも聞くから」

「わかったよ^^」

なでなで

頷くケイトの頭をぐわしぐわしとフィンは満面の笑みを向けながら撫で回した後、私達の方を見ながら「皆もそれでいいね?」と問いかけて、私達はそれに頷いた。

その中に「仕方ないか」といった声も聞こえた。

 

 

そうして私達は食事を終え、8時から異空間内に入って修業に勤しんだ。

もう何年戦い続けたか…数えていない。ただ一つ言えるとすれば…入ってから3時間もの時間が流れていて、残り2時間となったこと。

 

そして倒してから自動で外へ出された時にはフィンとリヴェリアとガレスとハクは目覚めていて、他の皆はまだだということ。

さらに30分が過ぎるまでに、主力全員が出されて…30分の休憩の後に、主力全員とハクで最下層へ先に行くことが決められた。

その休憩中に道中で使う道、敵の傾向等々の情報を共有して、打ち合わせをしていた。

荷物はケイトが「無限に入れれて重さが一切変わらず中の時間は止まっているカバン」で持ってくれるとのこと。

 

その間にラウルが出されて、キャンプとまだ出れていない者達の防衛と残された者達への指揮、伝言をフィンが頼んでいた。

レフィーヤもまだ出れていない。だから防衛を頼むつもりみたい。

 

「任せて下さい!ケイトさん以上に怖いものなんてないっす!」

「私がいつ怖いことしましたかああ!?」ずいっ!

「異空間でっすよ異空間!!;」

真剣な表情で語るラウルへ【狂神化(ベルセルク)】状態のままケイトは詰め寄って、それにたじたじとびくつきながら彼は叫び、そのやり取りを見て皆は笑っていた。

 

それから程なくしてケイトは【狂神化(ベルセルク)】を解除してから、私達が戻らない間に作っていたポーションで虚脱状態を脱していた。カバンの中にまだまだ入っているみたい。

 

 

「さあ、出発しよう」

そのフィンの言葉に頷き、私達は51階層へと繋がる階段を駆けていった。

 

これは後で聞いた話だけれど…

その時点からさらに30分が過ぎた頃にようやく皆が一人残らず無事に出され、「何度死んだかわからない!!」といった絶叫、「よかった、生きてる!」と涙ぐむ者…色んな反応を示す人達がいたけれど、皆一様にLv.8になっていたそうだ。

 

 

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6月13日、昼12時

 

51階層へと出発してから5分もかからず52階層に辿り着いて、そこにある58階層への縦穴を見つける。

それまでの道中にリヴェリアに防御魔法を並行詠唱でかけさせて、「総員飛び込め!」という叫びに一斉に縦穴へ飛び込んだ。

 

ケイトが体外の魔力を全て使い、加速魔法を全力で使っているらしい。

空中で中庭をマグマに変えた魔法、プロミネンスの威力を半減させたものを使ってレーザーのように展開させて竜を全て薙ぎ倒した。

 

そして着地と同時に59階層への階段へ向けて走る。

ドロップアイテムと魔石はケイトが空間魔法で範囲を指定して集め、ちゃんとカバンに収納している。

 

 

階段の前へ辿り着いた瞬間…極寒の冷気が私達を包んで、体の動きを鈍らせる。

しかし次の瞬間、打ち合わせ通りにケイトが私達へ空間魔法をかけて極寒の冷気だけを寄せ付けないようにする。

 

「前進!!」

フィンの叫びに揃って足を速める中、59階層の全貌が見えた。

あったのは極寒の氷河、至る所に氷河湖の水流が流れ、進み辛くしていた。

 

 

「右斜め前方!走れ!!」

再び響くフィンの叫びに、私達は即座に走った。

 

氷河の上を踏み締め、冷気が遮断された中で…寒いはずなのに体は熱い。

それが、現実感を減らしていた。まるで、夢でも見ているかのように……

 

私達は吹雪のように荒れ狂う極寒の中を走り抜けていった。

 

 

「残り時間は!?」

「あと50分!!」

フィンの叫びにケイトが悲鳴のように叫ぶ。

それを聞く中、ついに階段へ着いて60階層へと辿り着く。

 

居たのは全長20Mほどの強大な人型の階層主…しかし……既に情報を貰っていたことで、休憩時間の間に対策は既に取っていた。

技や魔法を出される前に倒す!

 

最下層のボスはケイトが単独で、「代わりに60階層のボスは僕達に任せて欲しい」と。

 

 

ティオナとティオネが右足、ガレスが左足を後ろへ倒れるよう同時に後ろ足のかかとの腱へ一撃を加えながら掬い上げる。

その直後にベートさんが顎を蹴り上げ、フィンが【ヘル・フィネガス】を使用した上での槍の一撃で胸を突き飛ばして仰向けに寝転がせる。

 

そこに間髪入れず、リヴェリアが【レア・ラーヴァテイン】でモンスターが横たわる地面ごと一点集中でぶつけ、大穴を開けたその中にはまらせて身動きできないよう、起き上がれなくする。

 

それを確認後、【レア・ラーヴァテイン】が止んだ後で私はモンスターの真上に位置する天井に立ち、それを足場に【風】を一点集中させたリル・ラファーガを放った。

 

総合して12秒もかからずに倒した後、素早くケイトの言う壁の中の最短ルートがある位置へ向かう。

ドロップアイテムと魔石はまた例のカバンの中に入れてもらった。

 

 

「この先に隠し通路が?!」

ケイトがそう手を壁に当てる中、私達は駆け寄る。

その壁には、直径30Cほどの丸い円が刻まれていた。

 

「?円の中に何か書かれてる…

異端児との共生を望む者、共に手を重ねろ?何語だ?これ」

「異世界言語というスキルをフィアナは君に与えていただろう?」

「パネルのスキル全部覚えてたの!!?」

「ああ。だが…僕達には読めない言語だ。まだ神愛加護が生きている証だろう」

そうケイトとフィンが会話し合う中、それならとハクがケイトの手を取って重ねた。

 

すると突如、壁に直径5Mの穴が開き…急にハクから引っ張られていたこともあって、体勢を崩していたケイトが足を滑らせながら落ちていった。

 

 

『ケイト!』

咄嗟にその中へ飛び込んで追い掛けるハクを見て、私は指示を仰ぐ為にフィンを見た。

 

「フィン!閉まるぞ!!」

「わかっている!総員飛び込め!!」

リヴェリアの言葉にフィンが叫ぶ。その直後、私達は行動に移す。

 

1秒ごとに20Cずつ閉まっていく壁の穴、それに私達は迷わず飛び込んだ。

 

 

その穴の先にあったのは階段ではなく、ただの踏ん張りも付かない傾斜で…まるで、ケイトが教えてくれた『滑り台』のようだった。

 

 

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ケイト視点――

 

残り時間、45分

 

 

最下層へと辿り着いた。

それを理解したのは…『ここより下は存在しない』『ここにあるのは異端児との盟約』という、見たことのない言語の『壁に刻まれた書付』が隠し通路の先にあたる壁にあって目に入ったからこそ。

 

直後…赤土とも言える壁だと認識するよりも前に、右横から現れた今までになく巨大な階層主に私は息を呑んだ。

 

 




壁よりも前に→壁だと認識するよりも前に
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