神様を殴る為に神を目指すのは間違っているだろうか   作:-恵-

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原作から1年前(6月6日)
出会い


「げふっ」

 

背中から着地した後、僅かに感じた圧迫感に咳き込んだ。

 

不思議と土煙も起きず、辺りは静かで着地の際にも何の音も出さなかった。

 

 

…着いたその時の体勢、仰向けのまま大の字で目の前の光景に見入るばかりだった。

 

というのも…最初に視界に入った雲一つないどこまでも広く続く晴天の青空が綺麗で、風も本物で…現実味がなかったからだ。

 

 

 

これは…バーチャルだと思った方がいいのかな?

 

そう考えながら起き上がり、容姿を確認する為にガラスを探した。

魔石灯しかなく、覗き込んでみると…見た目自体はあちらと同じで、焦げ茶の目と一重、中世的な顔立ちだった。

 

 

本物だろうか?

 

今一実感もない為、思わず魔石灯の縁に触ると固い感触がし、頬を撫でる風もまた爽やかで…現実そのものだった。

 

 

「っ」

 

どうやら縁で掌を切ったらしい。

思わず声を上げたが、父がいる時は当たり前だったというのに…何故?

 

悲鳴を上げたり泣き叫べばより強く殴られ蹴られていたから、悲鳴など上げた試しが一度として無かったのだが…

 

 

 

そんな時…右側の通りの先から声がかかった。

 

 

「あの…大丈夫?」

 

そうかけられた声にふと視線を向けると、あの人がいた。

 

恐る恐ると言ったように声をかけ、首を傾げるその人…それは、アイズ・ヴァレンシュタインだった。

 

 

 

女神様…出会いはもう少し考えた方がいいと思います。せめて自然にして下さい。

 

遠い目になりながらも思った矢先、それに答えるかのように目の前に黒いパネルが現れた。

 

 

シュンッ!!

『自然です♪』

「「!!!?」」

 

突如として目の前に浮かんだ真っ黒なパネルに、白く文字が浮かんでいた。

 

大きさは縦15cm,横25cmの長方形、厚みは5mmほどで、何もなかったはずの空間から現れたそれは…

 

 

 

「?それ…何?」

「何でもありません!!」

 

アイズさんにまで見えているようだった。

 

ちょうど話しかけられた時、右側にいた彼女の方へ振り返って正面から向かい合っていた為、現われた所まできっちりと見られていることだろう。

 

 

必死に隠す最中、再び彼女は問うた。

 

 

「…右手は?」

 

向き直ってから「大丈夫大丈夫」と笑って答えて右手を振った。

あ、切ったままなの忘れて…え?

 

 

じゅううううう

 

「「!!!」」

 

ふと右掌を見つめると、傷口の周囲が蒸気を上げて瞬く間に治っていく所だった。

 

 

 

「「………」」

 

お互い見合わせたまま何も言えず…何とも言えない空気が間に流れるばかりだった。

 

 

どうしよう!!

 

『この方が誘われやすいでしょ?』

殴ってもいいですか!!?

 

黒いパネルに書かれた文字が切り替わって読んだ瞬間、思わず内心で叫んだ。

 

 

『これは神の力がないと壊せないの。残念♪

だから最強の盾だと思ってね?』

 

うん…打ち合わせって、大事だと思うんですけど!!?

『無理。これがないと会話ができないもの。

 

第一…』

 

ん?…第一?続きは?

 

そう疑問に思う最中、すぐ言葉は返ってきた。

 

 

『その方が面白そうだし、ね?^^』

いつか絶対一発殴る!!

 

きゃぴっという擬音も付けながら現れ小首傾げまで絶妙に再現するそれに、私は殺意を覚えた。より決意を強く固めた。

 

小馬鹿にして手玉に取って遊んでいるのは、この会話から否が応にでも察した。

言わずもがなだった。知らない方がよかった!

 

 

その時…ハンターの目をした誰かのことを、私は思考に夢中になっていて忘れていた。

 

 

 

 

アイズ視点――

 

 

ダイダロス通りを歩いていると、小さな女性が目の前で降ってきた。

 

二重の意味で驚いた。

一つは音も立てず風も起こさずに落ちてきたこと、そして何もない場所…突如現れた黒い空間から急に現れたこと。

 

 

咄嗟に右手を剣の柄にかけて身構えた。けれど彼女は微動だにせず、数分ほど天を見入っていた。

 

よくよく見ると彼女の格好は簡素なもので、辺りへの警戒は一切感じなかった。

それでも未知の存在に警戒を解くわけにはいかないと、未だ剣に右手をかけたままにしていた。

 

 

それから彼女は気が済んだのか起き上がり、ウロウロと辺りへ目を向けて、魔石灯を覗いて縁を擦った。

 

その時、血が落ちたのが見えて、剣にかけていた手を下ろして話しかけると…

 

彼女の目の前に、いきなり黒い板が現れた。

 

 

そして慌ただしく隠す様子からスキルだと考えた。

スキルや魔法の詮索はマナー違反だからと、思考を切り替えて傷のことを尋ねた。

 

けれど、振ってこられた手をよくよく見ると…蒸気を上げながら瞬く間に治っていく様子をこの目で見た。

 

 

 

「あなたは…何者?」

 

「え?えっと?」

「小人族(パルゥム)だというのはわかる。けれど、どこのファミリアの冒険者?」

 

「あ、あ、あの、アイズさん?」

「私を知っているということは、君も冒険者だよね?」

 

ずかずかと歩み寄っていくと、恐れたかのような眼で必死に下がっていった。

 

 

捕まえないと!

 

不思議と警鐘が頭の中で鳴り響いた。

見た目は筋肉質、よく鍛え込まれている。それに…あの浮かんだままの黒い板…油断ならない!

 

 

「【目覚めよ!(テンペスト)――風(エアリエル)!!】」

だっ!!!

 

すかっ

 

風を切る音が聞こえた。

 

即座に避けられて、壁に書かれた矢印の通りに走り出した。大通りへ向けて…

 

 

「逃がさない!」きっ!

 

本気でやらないと捕まらない。不思議とその動きを見ただけで、そう思わされた。

 

 

 

再びケイト視点――

 

殴られてきた。ただ、殴られてきた。

ある時は蹴られ、ガラスごと突き破られ大怪我もした。

 

しかし、大怪我をすればより怒られて別の個所を殴っては蹴り飛ばされる。

 

 

その経験が長年に渡り、10歳(小学5年)になった頃、予備動作だけでどこへどれほどの力加減で何が来るのかがわかるようになった。

手に取るようにわかる次の動き。それに対して避ければ余計暴言を吐きながら暴れられる。

 

だから、素早く鍛え込んでいた瞬発力かつ敏捷性を利用してインパクトの瞬間に身体にダメージが残らないギリギリを見極めていなす術を身に付けた。

相手に当たった、全力で殴れたと思わせるほど、ギリギリのそれ。しかし身体はノーダメージ。

 

 

経験が次の行動を読ませ、怪我が軽減されるよう、動けるようになっていた。

 

結果として…風を纏って加速したアイズの掴みをかわした。

『これで入団間違いなしですね♪』

 

絶対狙ってやっただろ!!

 

そう考えを巡らす最中、大通りが見えるほど間近に迫った。

 

 

が、頭上を超えて目の前に再び現れる。

 

着地と共に抜剣し、喉元に突き付けられた。

 

 

 

「もう一度、聞かせて。

 

あなたは…何者?」

 

「……ケイトです」

 

「私が聞きたいのは名前じゃない」

 

「年齢?)27歳」

 

「違う」頭を振る

 

「大阪府?」

「そうじゃない。…どこ?」

 

「日本って国の…」

 

「…私は知らない」

 

「………はああっ(話さないと剣を収めてくれないだろうなあ」

 

『あなたが落ちる所を見せましたから♪』

お前のせいかい!!

 

「……女神フィアナに落とされました」

 

「…?…そんな神、ここにはいない」

 

「いや…こっちには何故か居て…あの…剣、下ろして?

 

武器、私は持ってないから」

 

「他に持ち物はない?確かに…何も持っていない)

 

……ごめん…」

 

ちゃきっ

 

大人しく剣を鞘に収める姿を見て、ようやく落ち着いて一息付けた。

 

 

「あの…」

 

「?」

 

「…行く所は、あるの?」

 

「えっと…冒険者じゃなく一般人なので」

 

「なら、ロキ・ファミリアに来ない?」

 

「…え?」

『計算通り』

黙って。思考が回らない。

 

 

「…その黒い板に書かれた文字は何?」

 

「?日本語で…読めない?」

 

「うん」

 

頷くアイズに、私は何も言えず、そもそも何を言ったらいいかさえもわからなかった。

 

おろおろとどうしようか悩んでいると、手を取って引っ張られた。

 

 

 

「え?え?」

 

「こっち」

 

「あ…ロキ・ファミリアへ?」

 

「うん」

 

すたすた

ぴたっ

 

歩んでいたアイズは徐に足を止め、私へ向き直った。

 

 

「ん?」

 

「私は、アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

さっきは…いきなり攻撃してごめんなさい」

 

「い、いやいや。警戒するのは当然のことだし。気にしないで下さい!」

 

「うん…(こんな人を…私は…)

 

……本当に…ごめんね」

 

しょげている!!見るからに肩落として落ち込んでいる!!

 

 

「えっと…(どうしたらいいんだ!?

 

いや、冷静に何か言えば大丈夫だ。多分、きっと!)

 

…攻撃って言っても寸止めだったし、気にすることはないと思うよ?

第一、傍から見たら私ってかなりの不審人物だし」

 

頬を掻きながら苦笑交じりに言うと頭を振られた。

 

 

 

「ううん…逃がしたくないからって、やり過ぎた」

 

「ならいいじゃない。本人は気付いているわけだし。

次もし同じようなことがあったとして、逃がしたその人が悪いことをしないとは限らない。

 

だから…そんなに気に留める必要はないと思うよ?

私だって怪我無いし、いきなり掴み掛ろうとされた時に慌てて走って逃げちゃった私にも要因はあるわけだしさ…」

 

「………ありがとう」

 

ポツリと呟かれた言葉が耳を打ち、よくよく顔を見ると赤く染まっていた。

 

 

???何だ?

 

『天然タラシスキルは変わらず無限大』

はい!?

 

『あなたは気付いてないかもしれませんが、かなりのお人好しですよ?』

え?

 

『でなければわざわざ転生させません。ビバ・新生活!』

何言ってんのこの人(女神)は!!!(汗)

 

女神はスルーすることに決めた。

 

 

 

「その…ケイトさん、よろしく、お願いします」

ぺこり

 

おずおずとお辞儀をしてくるアイズさんに、私は…

 

 

「あー、敬語は抜いて大丈夫だよ^^

こっちもそうするから。呼び捨てにしてくれると嬉しい」

 

「…でも、年上で」

 

「肩の力を抜いて、気楽に付き合っていければなお嬉しいんだ」微笑

 

「……じゃあ…」

「ん?」

 

「私も…アイズって呼んで//」ぼそり

 

「うん。わかった。

 

よろしく、アイズ」

 

「こちらこそ」

 

そう言いながら右手を取り、優しく握り締めた。

 

それにアイズは真っ赤な顔のまま、俯きながら繋いだ手を振った。

 

 

離したいのかな?

 

そう考えて手を離すと、再び手を取られてされるがままに引っ張られていった。




おまけ


アイズ視点――

この人は、絶対に強い。

走りながら軽く何度もいなし続けていた。
ある時は片手で腕の横に添えて弾いて、軌道を逸らしていた。

もし、冒険者じゃないのなら…絶対に、逃すべきじゃない!!


ハンターの眼をしたアイズが一方的にある一人を追い掛け回す鬼ごっこ…

それは後に、ダイダロス通りで剣姫が誰かを追い掛け回していたという目撃情報と共に、『ダイダロス通り裏の5分間の死闘』と呼ばれることとなるなど、今は誰も知らない。


見た人の感想

「何だあの速度は!!?」
「全部かわした、だと!?」

屋根の上からの見物人がわらわらと増えていたことに、当時は二人共に気付けなかった。



頬を染めた理由

(本当に、よく似ている…私のお父さんに//)

「???」

『本当に鈍感ですよね、霊感あるのに。
人から向けられる好意にはとことんそうなんですから』

女神フィアナは様子を見ながら、しみじみと溜息を零していたらしい。
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