神様を殴る為に神を目指すのは間違っているだろうか   作:-恵-

6 / 31
叫び

「悲鳴が聞こえた時は驚いたよ。急に血を吐いたんだ」

 

そう微笑みかけながら、「飲むかい?」と吸い飲みを片手に携えて尋ねたそれに私は血の味をどうにかしたくて小さく頷いた。

 

水を飲ませてくれた礼を言った後、言わなければいけないことを伝えることにした。

 

 

「……えっと…心配かけて、すみません」

「無理に起き上がらなくていい。まだ横になっていた方がいいだろうからね」

 

掛けられたシーツを押し退け、頭を下げようと起き上がろうとした矢先、左肩へ右手を右肩に左手を掛けられてベッドへと軽く押された。

 

 

何か…値踏みするような眼に感じる。気のせいだろうか?

 

人当たりのいい性格を演じているだけのような…

ダメだ、ソード・オラトリア1巻しか読んでないからわからない。

 

と言うか、これだけで決めつけていい理由にはならないし…

 

 

でも…あったかい感じがしたんだよなあ…

 

その好意?いや、気遣いは心底有難い。今まで…それを見せる人自体、私の傍には…

 

いや、恩師と友達の二人だけはいた。

助け出そうと動いてくれることまではなかったけれど話し相手になってくれたわけだし、そんな人さえもいなかったから…

 

 

「だから…選んだんだ」

 

「?」

 

自分が幼い頃から夢見て抱き続けてきた「理想の家族像」…それが、ロキ・ファミリアと全く同じだったから――

 

掠れた声で天井を見つめながら呟く中、彼は眉を顰めて訝しむような眼を向けていた。

 

 

 

「えっと…私はケイトと言います。

多大な迷惑をおかけしてしまい、誠にすみません。ベッドの上から失礼します」

 

起き上がれず動けない為、顔を横向きにして強引に頭を下げた。

すると、「気にしなくていい」と言いながら額に滲む汗をわざわざ手で拭ってくれた。

 

あれ?手袋してない?…って、それは別に気にしなくていいこと…だよね?

 

 

「僕はフィン・ディムナ。ロキ・ファミリアの団長をしている。

 

君といたハイエルフ、リヴェリアは副団長だ」

 

「そうだったんだ…」

 

「ああ」

 

「よろしくお願いします」ぺこ

 

「こちらこそよろしく」

 

笑みを浮かべつつ、軽く頭を下げてくれた。

 

随分と紳士のようにも感じるんだけども…あれ?フィアナパネルがいない。

 

 

辺りを見渡してもパネルは見つからず、フィンさん一人がいるだけだった。

 

 

「あの…なんて、お呼びしたら?ディムナさん?」

 

「フィンでいい。こちらもケイトと呼ばせてもらうから気兼ねなく振る舞ってくれ。

アイズにもそう言ったんだろう?」

 

「…はい(微笑)

ありがとう、ございます^^//」

 

笑いかけてそう言うフィンに、気付けば私は笑みを浮かべていた。

 

何気ないその気遣いが、とても嬉しかった。

 

 

「//…顔色もよくなってきたね」

 

「あっ!そう言えばシーツ汚しちゃったんじゃ!?」

「大丈夫だ。洗濯すればいい話だしね」

 

「それと庭!マグマあああ!!」

「気にしなくていい。水を掛ければ元に戻った」

 

そう顔色を指摘された矢先、気付いた矢先に口をついて言葉が出てきた。

 

真っ青になりながら必死に叫んだが、打てば響くとはまさにこのこと。

綺麗に即答で返して心配することではないとまで言ってくれた。

 

 

が…

 

 

 

「マグマを消した水は、あのパネルが出してくれてね」

 

「え?そうなの?」きょとん

『違うわよ』

シュンッ!

 

何もない空間から突如、パネルが出現した。それにフィンは目を丸くし、凝視する。

 

話には聞いていたが、実際に見るのは初めてなのだろう。

 

 

一つ嘘を混ぜた理由…

 

それは、パネルを見る為に加えたものだとその時はまだ頭も回っておらず、見定めるかのように中止するフィンの視線に私は気付かなかった。

 

 

 

注意深くパネルに見入るフィン、それに気付くのは女神フィアナのみ――

 

 

「……」

 

『リヴェリアの魔法で冷やされていったわ。

慎重に少しずつ威力を強めていく調節は綺麗で芸術そのものだったわよ。録画してるから見る?』

 

「お願い、します。こふっ」

 

「へえ…驚いたね。極東の言語か。

リヴェリアやアイズから話には聞いていたけれど…よもや現実にあるとは思いもしなかったよ」

 

『あら。読めるのね?』

「ああ。既に習得済みだ」

 

『流石ね。で…ケイトのあれを見ない?』

 

「?あれ?」

 

『そう…ケイトの魔法、その名もプロミネンスよ!』

「どさくさに紛れて今名前を付けるな!」汗

『別にいいじゃない。ノリと勢いでどんな魔法でも実現できるのだから。イメージが追いつけば』

 

「待って…ちゃんと、自分で、つけたかったのに…

はあっ。というか何で今その話を…ああ!あの時に見せた魔法と原理の話をする為…」

『その通りよ。感情の起伏を伴って魔力が魔法へと繋がるの。

 

済まないのだけれど、ケイトの喉が渇いたみたいだからお水お願いしてもいいかしら?

その間に映像を準備しておくから』

 

「わかった」

 

意思を有しているかのように動くそれに、フィンは再び右手に持った吸い飲みで左手を後ろ頭に回して軽く持ち上げて飲みやすい体制にしてから口へ流し込んでくれた。

 

 

「あり…がとう」

 

「そんなに礼を言うことはない」

「でも…助かった、から」

 

理由を述べながら感謝はちゃんと伝えておきたいと真っ直ぐに目を見つめて言い、感謝の言葉を再び伝えて笑みを向けると…

 

「律儀だね、君は」

 

そう言葉と共にくすりとフィンは笑みを浮かべ、そっと枕へ後ろ頭を下ろしてくれた。

 

 

『ステイタスのアップの場合、身体に影響を及ぼすから気を付けてね?』

 

「だから…事前に教えてくれませんか?」

『だってあなたとの愛の力じゃない♪』きゃぴっ

 

怒りでわなわなと震える最中、返ってくる言葉は変わらずだった。

 

 

「私の怒りにも限度があるんですが…?」

『忘れちゃった♪ごめんなさい!』

 

「……殴ろう…せめて、いつか一矢報いろう」わなわな

『まあまあ。無事に済んだし強くなったんだからいいじゃない』

 

「全身引きちぎれるかと思ったよ!それぐらいの激痛だったんだよ!」

『ドンマイ♪』

「お前が言うなあ!!」

 

「いきなり血を吐いたのはそれでか」

 

「はい…口や両目から血が出たかと思ったら今度は肺からごぷって出てきて、呼吸がし辛くなって…全身に走る激痛に思わず叫んでました」

『耐久をLv.9からLv.10はそれぐらいで釣り合うのよ。もうこれ以上上がらないけれどね。

 

器用の凄さ、理解した?』

 

「うん…まさか、最初から10だとは」

 

『この世界の限界値に合わせたのよ。

 

魔力を合わせたら会話できないから、魔力と精神力を無限大にしたけれどね。

望んだ影響しか及ぼさないにしても全力の余波は凄まじかったわ。

 

力や敏捷は元々Lv.7だったからね』

 

「何で上げたんだい?」

 

「その…7と9の数字が嫌いだからです…(汗)

9は苦しむだし、7よりも8の方が好きだったので…ほら、横に倒せば無限大!験担ぎです!」

 

「なるほどね…そのパネルは力の強さを変えれるのか?」

 

理由について今更伝えられた時、フィンも見ていたこともあり会話に混ざってきた。

 

 

 

『正確には…こことは違う世界で得た経験値をもとにLv.に換算しているのよ。

 

はい、動画スタート♪』

 

その映像の先には水をかけるタイミングに合わせ、リヴェリアが【ウィン・フィンブルヴェトル】で周囲から凍らせていっていた。

中心地となるマグマに横たわる自分を気遣ってか、自分の周囲だけは完全に凍り付かないようじわじわと芸術的な魔力の動きを醸し出しており、自分の下に位置するマグマは雪がじわりじわりと侵食していった。

 

そして抱き上げて運ぶそれまで収録されており、傷がないか確認しながらも治療魔法をかけて身体に負担をかけないよう丁重に運んでくれた。

 

血を吐いた後の対処まで映してくれて、非常に申し訳なくなった。

初対面の人にこれほど手間をかけさせるなど、と何度も何度も感謝と謝罪の旨を頭を何度も下げながら述べた。

 

 

 

「(気にしなくていい。そう言ったとしても、気にするんだろうね)

…正直、同じ小人族(パルゥム)として、君のような同族がいることが素直に嬉しい」

 

「え?」

 

「知っての通り、女神フィアナは実在しない。神が下界に降りた後、それを皮切りに廃れてしまった。

 

君も、理不尽な思いをしてきただろう…」

 

「……運命は、変わりません」

 

ぎゅっとシーツを握り締めながら、呟いた。

 

 

「?」

 

「自らどれだけ動いたとしても、どれほど抗おうと、叫ぼうと…

人は決して、変わりません。その方が楽で、変わるにしてもその分労力が要って、しんどいからです。

 

だから…自分にできることは、どれだけ打ち捨てられようと、どれほど打ちのめされようと、自らを奮い立たせ、掲げる信念を胸に抗い続けること。

 

それが、私にとっての『フィアナ』です」

「!!」

 

「たとえフィアナが実在していようと、していなかろうと…そんなの、関係ありません。

私は…信じるものを、決して投げ出す気はない。

 

フィアナは…私にとって…生きる為に欠かせない、大事な生き様です!

 

それが無かったら、私は折れていた!今ここに生きていなかった!!」

むくっ!

 

痛む身体に鞭を打ち、強引に起き上がった。

 

赦せなかった。

ただ、怒りが込み上げた。

 

鬼気迫る表情で、走る痛みなど意に介さずに叫んだ。

 

 

「ケイ

「勇猛な騎士団を生み出し!たとえ仕えた国に裏切られようとも!たとえ誰にも助けられなかろうとも!

周囲に手を差し伸ばし!助け!!勇気を与え!奮わせ!!最期の最期まで戦い抜いた!!!

 

最期の最期まで!命尽きるその瞬間(とき)まで!!仲間の為、果敢に立ち向かった『私の誇り』です!!!

 

それを…そんな風に言うな!!…フィアナを、侮辱するな!!!!」

 

気付けば、叫んでいた。

 

眉間に皺を寄せながら、涙が頬を伝ってもなお…構わずに叫んでいた。

 

 

悲鳴にも聞こえる叫びはとても痛々しく見え、傷だらけで満身創痍の姿を想起させたという。

 

 

 

息が荒れる。身体が辛い。でも…それ以上に、心が辛い。

 

誰も…手を差し伸べて、助けようとする人など…誰も居なかった。

どれほど尽くそうと、護る為に奮闘しようと…逆は、決して無かった。訪れることもなかった。

 

それがひどく、心を痛ませた。

 

 

涙と共に自然と出てくる鼻水をすする中、幼いながらに図書館で読んだフィアナ騎士団の神話に憧れ、折れずに頑張り続ける原動力となった。

 

それでも…それでも……環境は、決して変わることなど無かった。

いじめを受けてもなお、決して抵抗しなかった。傷付けたくなどなかったから。

 

その全てが…それに全てを捧げてきた人生までもが…まるで、馬鹿にされたようで…

いじめっ子にも反論したことがなかったのに、これだけは…どうしても、赦せなかった。

 

 

 

「済まない」

 

ぎゅうっ

 

未だ、涙が止まってくれない。震えも止まらない。

 

私のそれは無駄だったのか?努力も、何もかもが無駄に思えて…それでも……呑まれるわけにはいかなかった。

死する最期の瞬間まで…諦めたくはなかった。

 

しかしそれさえも…穢されたように感じた。

誰か助けてと求めそうになる中、必死に口を噤んだ。求めてもいじめられるだけだった。嘘つき呼ばわりされるだけだった。

 

私には…何も、なかった――

 

 

思いを寄せる友も、気を許せる存在も…24歳になるまで、一人としていなかった。

 

しかし…それでも…助けてくれる存在など…聞いて共感を示してくれる人さえも、いなかった。

 

その抱き締めてくれる温もりでさえ…無かったのにっ…

 

 

目の前にあるそれに、私は気付けば縋り付いていた。

 

泣き止ます為か抱き締められる中、その温もりに、私は身を埋めた。

 

 

 

「済まなかった。君の誇りを穢す気はなかったんだ。

 

ただ…現状を……」

 

「ひっく…えっ」

 

ぼろぼろと嗚咽と共に涙が止めどなく溢れては止まらなかった。

 

 

「……(見つけた)」

ぎゅうっ

 

抱き締める力を強められる中、私は咽び泣くばかりだった。

 

慟哭のようにすすり泣く音…それは…押し付けられたフィンの胸によって消された。

 

 

 

フィン視点――

 

最初は小人族の現状を伝えるだけのつもりだった。よくその性格を保っていられたと褒め称えるつもりだった。

 

だが…その答えは、他のそれとは一線を画していた。

 

 

その叫びは胸を貫いた。強く高鳴らせ、心を掻き立て、震わせ、昂ぶらせた。

 

高揚を覚えさせるほど、真に迫るものがそこ(彼女の叫び)にはあった。

 

 

きっと君は、理不尽な扱いを受けてきたのだろう。それも数え切れないほど…フィアナを心の支えとするほどに。

 

「私『も』誰もいなかった。誰も助けてなどくれなかった!」と言っているようにも聞こえて、涙ながらに叫ぶそれはあまりに痛々しく…傷だらけに見えて仕方がなかった。

 

どれほど傷だらけになろうとも助けようともしない周囲、それに彼女は…絶望しなかったのだろうか?

いや…たとえ絶望しようとも、戦う以外に選択肢などなかったのだろう。頼れる者も無く、たった独りで…

 

フィアナのようにひたすらに献身する中で、人の温もりに憧憬を抱いているようにも見える。

 

 

彼女にとってフィアナとは…自らが貫いた生き方、そのものなのだろう。

 

見つけた――

不思議と、そんな想いが胸を刺していた。




女神フィアナの想い――

ダンまちの世界から見て異世界、異空間にあたる場所からケイトを見ていた。
椅子に座ったまま頬杖をついて一人呟いていた。


「ケイト…あなたは、人に頼らなかった。
人に自ら関わるとすれば、それは助けを必要とする者を目撃した時だけ。それ以外は、決して自分から話しかけなかったわ。

最期の最期まで、自らを主とする母を見捨てられず、邪険に扱えず…彼女が抱く苦しみに、痛みに、胸を痛めて聴き入るばかりだった。
深夜に起こされようと、反抗期を迎えて自分とは違う人間だと悟ろうとも…たとえ精神が限界を迎えてもなお、決して投げ出さなかった。


そんなに辛いなら離れればいい。口では簡単に言えるわ。でも、人の痛みを考えて踏み止まるのは難しい。
余裕もないほど追い詰められていて、必死に追い縋る。そんな母に対して強く当たれず、我を通せなかった。

幼少からの数え切れない暴言と暴力、その環境に伴う考え方の違い、同年代からの度重なるいじめ。
自らの訴えも全て無碍にされ続ける中、次第に自らが抱いていたはずの欲求を無くし、生きる気力を無くし、それでもなおたった一つだけは捨てなかった。

誰かが苦しむのを見ていられなかった。その中に自分はいなかった。


両親が生きているだけいい。贅沢だと罵られていたようだけれど…心を通じ合わせる人ではなかった場合は?
両親がいないものにはわからないでしょうね。普通のものであれば尚更に。
子を都合のいい道具としか思わず、自らのペース、価値観で振り回し、自らを否定しない同意者になるよう洗脳する親もいるというのに…

ケイト…あなたは、あなたには…24歳となるその時まで、心を通わせようとする人に出会えなかった。
それでも迷惑をかけまい、同じ痛みを味合わせまいと気を使ってばかり。

結果として、誰にも頼らぬまま過労死してしまった。
気が安らぐ暇さえも無いまま、27年に渡る精神的及び肉体的ストレスによって重篤な不整脈を起こして…


自らを犠牲にしてでも、護りたいと思った。行動に示し、姉を、母を、父による暴力から護り続けた。
母から不条理を与えられようとも、護る手を止めなかった。

環境が要因でも、それを言った所で人のせいにしていると侮辱されるだけ。
優しさなど、通用しない人もいる。それを受けて仕返しをしないからと、増長する人ばかりなのが世の常。


あなたを私が選んだのは…使徒として送り込んだのは、今度こそ自分の人生を歩んで欲しいから。
自分というものを出して、本当の意味で生を謳歌して欲しいから。

ふふっ…ちゃんと、感情を出せるようになったじゃない。

まあ…煽っていくスタイルを取っているのは、あなたがちゃんと自分の感情を自覚して欲しいと言うのもあるのだけれど…
やっぱり、どうしたいかという心を取り戻して欲しいわね。呼び出した時にある程度回復させたけれど、それにも限度があるもの」

その視線の先は、堰が切れたかのように未だ子供のように泣きじゃくるケイトがいた。


「(やっと…感情らしい感情が発露したわね)

大事にしてね、自分を…今度こそは』

その言葉はパネルにも表示され、そのパネルはケイトのすぐ傍で浮かんでいた。

そしてケイトの近くにいたフィンにまで見えていたことで、女神フィアナの想いは筒抜けとなっていた。
「見せるようにしているのよ」ぽつり
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。