シュナイゼル独白。テレビアニメ『コードギアス』最終回後。

映画を見に行って、書けなくなりそうな設定だったから。

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世界がそうあれかしと望んでも

 カノン、君はこう思っているんだろう? 何故僕がいつまでもゼロに付き従っているのか? この人は本当にギアスにかかっているのだろうか、とね。

 

 そう、おそらく君の考えていることは正しい。僕は確かにギアスにかかってはいる。いるけれど、別にそのことでゼロに付き従っているわけではないんだ。

 

 当たり前だろう? ルルーシュは僕に「ゼロに仕えよ」と命を下した。「ゼロに」と言ったところで、それを口にしたのはルルーシュだ。僕が付き従うのはゼロという名のルルーシュで、その弟も既に死んだ。ルルーシュのかけたギアスは今、ほとんど何の意味も残っていない。

 

 そうでなくてもね、カノン。絶対順守なんて言えば聞こえはいいが、付き従うという言葉には様々な解釈がある。その解釈そのものが僕に委ねられているのだから、ルルーシュの言う「優しい世界」を実現する手法が、僕の考える恐怖政治であっても、それはそんなにおかしいことじゃない。おかしいことじゃないと思えさえすれば、ギアスの呪いは僕に力を及ぼさない。まやかしの力というのは、その程度のことさ。

 

 じゃあ、何故、今になってもゼロに。いや、スザク君に付き従っているのか。カノン、君にはそれが不思議なんだろう?

 

 僕はね、嬉しいのさ。みんな、僕のことを「心のない人間」だと言う。言わなくてもわかるさ。僕にとっては自然なことでも、みんなにとってはそうでないのだろう? 僕にはね、特別というものがないのさ。

 

 これまで僕はブリタニア皇帝の息子として、望まれることをしてきたつもりだ。学び、鍛え、導いてきた。それが望まれたものだと思ってきたからだ。おそらくね、それは誰にでもできることだ。できないのは、自分自身を特別なものだと考えるからさ。必要なことを必要なだけできる。そういうことが、たぶん、みんなにはできない。そうなんだろう?

 

 僕がゼロに仕える理由はね、既にブリタニアという国がないからさ。少なくとも、僕にそうあれかしと望んだ神聖ブリタニア帝国はもうない。今僕に求められているのは、ルルーシュ亡き後の平和な世界さ。手っ取り早いから恐怖政治を選んだだけで、手の中に平和があれば、慈しむくらいの心はある。

 

 しかし、そう、カノン、君はこうも思っているはずだ。ゼロは有能な人間だとはとても言えない。ルルーシュの言う優しい世界を実現するにしても、スザク君の愚直な正義感は障害になる。どうして自分自身がトップに立とうとしないのか、とね。

 

 そのことについて、実は僕もずっと考えていたのさ。それで、その答えがついさっき出た。気づかされた、というべきかな。ナナリーにね。

 

 僕はね、特別なものを手に入れたのさ。「ゼロに仕えよ」というギアスの呪いはね、僕に価値観というものをもたらした。僕はずっと周囲の人間の望むもの、希望や価値観のバランスを取ってきた。僕にはね、正直なところ、みんなが言う好きとか嫌いというものが分からないのさ。平和にしたいと行動したのも、それが普遍的価値のあるものだとみんなが言うからさ。言い訳がましいかな。

 

 全てが僕の中で平等だった。何を見ても凪のようで、特別に何か思うということもなかった。そこらに落ちている石ころと自分自身のどちらが重要なのか、ということも。別にね、どちらでもいいんだ。みんなの中では僕の方が重要なんだろう? だから、僕は僕に値をつける。そういうものさ。

 

 ギアスがその平行を崩した。僕の中に、ゼロという特別なものを置いた。ゼロそのものに価値があるかは、どうでもいいことさ。基準ができた、ということなんだ。この基準の高さからいって、ナナリーはどこに置くべきか。ユーフェミアや兄上をどこに置くべきか。そういうことが考えられるようになった。誰かの考える価値じゃない。僕自身の中に価値を決める物差しができた。

 

 君には分からないかもしれないな、カノン。僕はね、これが嬉しいのさ。白と黒しかなかった世界に、突然色がついたようなものさ。僕以外の人間はこんな風にものを見ていたのか。大事な人、嫌いな人間、愛すべき人間と唾棄すべき相手。そんなことを自分が考えるなんて、思ってもみないことだったんだよ。

 

 「お兄様は笑っている」。ナナリーがね、そう言ったのさ。人はみな怒っているよりも笑っている方が喜ぶだろう。だから、僕は笑うようにしていた。顔の形は変わらないはずさ。でも、ナナリーはそう言ったのさ。僕は僕自身が笑える生き物だなんて、その時に初めて分かった。

 

 たぶんだけどね、カノン。ルルーシュにはそのことが分かっていたのだと思う。客観的な事実として、ルルーシュは僕に劣る。主観でものを見る人間は必ず心に足を取られる。同じ戦力を持っていたとしたら、僕は必ずルルーシュに勝てる。

 

 ただし、僕にもできないことがある。人の気持ちを知ることさ。おそらくルルーシュは僕という人間が価値判断を持たないということを理解していたのだと思う。だからこそ、無意味と分かっていても、「ゼロに仕えよ」と命令を下した。それ以外のどんな命令を下しても、僕を味方につけることはできないからさ。

 

 ルルーシュが死ぬまでは、この絶対順守のギアスは僕を縛り付ける。ルルーシュが死んだ後は、解釈次第でどうにでもなる。そうして意味のないものであればこそ、僕はそれを利用して自分自身の価値基準を持つことができる。そうすれば、僕は必ずルルーシュの願った世界を実現できると考えたのだろうね。

 

 今の僕には感情がある。自分だけの心がある。おそらくルルーシュと対峙した頃の僕よりも、頭の回転は鈍くなっている。それでもあの時のルルーシュと同じくらいのことはできる。できるのであれば、可愛い弟の頼みくらいは聞いてやろうと思うものだよ。

 

 僕はね、カノン。世界平和なんて馬鹿々々しいものだと思っているよ。世界がそうあれかしと望んでいても、今の僕には価値がない。何故そんなことのために、家族や兄弟を犠牲にしなければいけないんだい? それでも、僕がこうして仕事をするのは、可愛い妹と今は亡き弟のお願いを叶えるためさ。

 

 おかしいと思うかい?



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