正義の味方が箱庭入りしたそうですよ?   作:雄良 景

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賽は振られた。歯車は動き出す。カウントダウンは始まっている―――――

それは誰かが夢見た『奇跡』のおはなし
誰かが流した涙の数だけ、叶うことの無かった夢物語

赤い魔女は怒った
花の少女は願った
器の家族は祈った


赤い影が言う―――――愚かな未熟者がいたのだと、そんなザマを笑ってくれと言う。


―――――馬鹿な人。笑うくらいなら、救いたいのよ





あいすべきばかなひと
prologue-one:かつて夢見た美しき


 

 

 

 ―――――『英雄』の話をするとしよう。

 

 ―――――古今東西、世界には様々な『英雄』が存在する。一覧表なんて作ろうものなら広辞苑をゆうに超えるだろうさ。

 ―――――今回はその一部をちょっとおさらいしてみようか!

 

 ―――――例えばケルトの英雄『クー・フーリン』。彼は父親が太陽神だね。

 ―――――インドの英雄『カルナ』の父親も太陽神だ。で、異父兄弟の『アルジュナ』だって神様の息子というのも知っているね?よしよし。

 ―――――あとは、『ギルガメッシュ王』や…『イスカンダル王』にも神様の血が流れていると言われているねえ。

 

 ―――――さぁて、ここでクエスチョン!『そも、英雄とは何ぞや』。

 

 ―――――まあ三者三様、十人十色な回答がある質問だけれど、そうだな…ここでは『人智を超えた偉業を成し遂げた者』としようか。

 ―――――ふむ、念のため、『アーラシュ・カマンガー』くんは除外しておこうか。ファラオ基準では彼は『勇者』だからね。ファラオの英雄観もなかなか興味深いものだ。ああ、実に。

 

 ―――――え?質問してきたのに答えを聞いてくれないのかだって? いやいや、前代未聞な(マスター)の英雄観なんてめちゃくちゃ気になるに決まっているとも!

 ―――――このカルデアの英霊召喚システムってかなり無茶苦茶で判定ガバガバだだし、英霊にもめちゃくちゃ干渉されてて面白いよね。本来の聖杯戦争じゃ呼べない面子まで石と運で釣りあげちゃうし…え? そこにかかる苦労? うーんその話はまた今度ね! 来世くらいに聞くよ、長くなりそうだし。

 ―――――まあ私は世界が滅びないと死なないから来世なんてないのだけれど! 夢魔ジョークだよ。どうかな?

 

 ―――――話を戻そう。ええと、どこまで話したかな。え? 回りくどくて長い? 簡潔にダイジェストで話せ? ええ…流石に酷くない? あ、酷くない。はい。絶対話聞かなかったの根に持ってるよね…

 

 ―――――まあいいや。で、だ。英雄が生まれるのには『超常的な何か』…つまり『神仏』だとか『神秘』だとかが関わってくる確率が非常に高い、という認識をしてもらえればいいよ。統計的な話だけれどね。

 

 ―――――『ジークフリード』は邪龍を討ち滅ぼし

 ―――――『ジャンヌ・ダルク』は神の声を聴いた

 

 ―――――100%人間として生まれても、どっかで祝福を貰ったり災いを贈られたり、だいたいはその時代の神秘に見合った結果とかが付いてくる。ほら、『ドラゴン』なんて神秘の薄い現代じゃお目にかかれないだろう?ああいうのを、『英雄』が生まれるための『必要悪』とでもいうのかな…いや、この話はやめよう。場合によっては君の保護者に袋叩きにあいそうだからね!

 

 ―――――ああ待って急かさないで! つまり本来、神秘が薄れるに比例して新しい『英雄』というのは産まれにくくなっていくわけなのだけれども。

 

 

 ―――――だから…ああ! 君が急かすから話がごちゃごちゃになっちゃったじゃないか! こんなんじゃあ語り部として名乗れないよ。

 ―――――もう、仕方ないなあ。じゃあ本題に入るけど、

 

 

 

 

 ―――――君は『彼』を『英雄』だと思うかい。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、その問いに君は何と?」

「…んー……なんか―――――分かんなくなっちゃってさあ」

 

 

 薄暗い夜の食堂で、そっと二人分の声が響く。ひとりはカウンターに座り、もうひとりは小さな音を立てながらキッチンで作業をしながらの会話だった。食器のこすれる音だけの静かな空間には、話し声がよく響く。

 昼間は賑わうこの場所も、夜更けは他に人影はなく、しかし、夜の静けさが背徳感を煽り自ずと声を潜めてしまう。

 

 

「……『英雄』の定義が『人智を超えた偉業を成し遂げた者』なら―――――『あの人』は『英雄』と呼ばれるんじゃないかなって、思った」

 

 

 カウンターに座っているひとり―――――多くの英霊にマスターと呼び慕われる子供の声はどこか不安定で、迷子のように揺らいでいた。

 

 

「思った、ん、だけど…」

 

 

 言い淀んだそれを、しかし相手は気にするそぶりを見せない。その手はただ黙って作業を続けた。

 

 ―――――『英雄とは何ぞや』

 

 最期に見た背中を思い出す。神との決別。全能の王は奇跡に願い、只人となった。しかし彼は、今際の際に願いを捨てた。

 

 それが、正しいことであるかのように。

 

 

 

「―――――いやだなあ、って、思っちゃった」

 

 

 

 そっと、小さな声で子供から零されたのは、歳に見合わない癇癪のようで、しかし―――――その子供の確かな本心だった。

 

 

「別に、英霊がやだとか、変な意味じゃないんだよ。でもさ、なんか、だって……」

 

 ―――――コト、

 

 

 整理のつかない感情を荒ぶらせたような子供の声が、ふと―――――止まる。

 いつの間にか俯いていた視界に、柔らかい白が割り込んだからだ。

 ―――――それは、キッチンで作業していたもうひとりが話を遮るように置いたマグカップ。

 

 置かれた白いマグカップ。何の変哲もない無地のそれからは柔らかい湯気が出ていて、見るだけで暖かいとわかる。

 思わず子供は誘われるように手を伸ばし、口を付けた。

 

 ―――――ああ、甘い。ミルクセーキだ。

 

 

 

「………お゛いじ ぃ 、」

 

 

 

 子供の声が、震える。

 温度は飲みやすい適温で、やけどをしないように熱すぎず、けれど温まるようにぬるすぎず。その繊細なひと手間が目の前の優しい人の心遣いを感じた。

 じんわりと、夜の冷たさに侵されたような体に温かさが沁み込んでいく。

 

 優しい味だ。悪い夢を見たと泣く子供のためにお母さんが作ってくれたような、甘くて優しい味だった。作った人の優しやが溶けた味だった。

 

 

 ―――――グッと、目頭が熱くななる。子供はどうしようもなく泣きたくなった。

 優しい気持ちになったからだ。幸せな気持ちになったからだ。

 

 ―――――ああ、あの人にもこうやって、あったかいものを…たくさんたくさん渡したかった。渡せばよかった。渡せるはずだったんだ、いくらでも。

 

 今は全てが繋がってしまう。何もかにもが後悔となってこどもを締め付けてくる。

 『後に悔いる』から『後悔』。使い古された皮肉が子供の胸を焼く。

 

 恥も見分もなく、みっともないくらいに泣きわめいてしまいたくなった。

 

 

「…―――――どくたーが、えいゆうになるのは、やだなあ…」

 

 

 それでも涙を流せなかったのは、複雑な思春期のちっぽけなプライドか。それとも―――――背負っていた世界という重圧の弊害か。

 もうひとりは、何も言わない。ただ、子供の横にそっと座って変わらず話を聞き続けた。

 

 

「ドクターは、ヘタレでチキンで、ゆるふわで、ちょっと頼りなくて、」

 ―――――本当に?

 

「ほんとはすんごく頑張ってて、たくさんたくさん頑張ってくれてて、」

 ―――――俺が見ていたドクターは、本当に彼の本心だったの?

 

「俺、俺は、そんなドクターが、―――――大好きで、」

 ―――――俺が甘えてしまっていた彼は、俺をどう思っていたの。

 

 

「立香」

 

 

 ぽろぽろと言葉が零れ出す。そこにはたくさんの感情が溶けていた。何より、言葉の裏で彼を疑ってしまっている自分の心が苦しかった。

 悲しい。寂しい。苦しい。怒りもある。整理のつかないぐちゃぐちゃの気持ちをひっかきまわすと吐き気がした。苦しさから逃れるために彼の優しさを十字架にかけようとしている自分の心が醜くて仕方なかった。

 零れる声は内容に反してか細く冷たく。かえしの付いた針のように子供に刺さる。音になった重たい気持ちは子供を埋め尽くし窒息させてしまいそうで、だからこそ、もうひとりが名前を呼ぶ。

 

 それは静かな声だった。それでいて、優しい声だった。

 

 

「『英雄』の定義は千差万別だと言われたのだろう? まったくもってその通りだ。あの男が言った『人智を超えた偉業を成し遂げた者』というのも数多ある答えの一つに過ぎない。―――――この問いに、正解はないのだから」

 

 

 優しい声が子供の心に沁み込んでいく。隣から伝わる体温が温かい。

 

 

 

 

「…ああ、そうだな。例えば私にとって、英雄とは―――――

 

 

 

 ―――――『背中』だった」

 

 

 

 

 俯いてもうひとりの言葉に耳を澄ませていた子供は、思わず顔を上げた。

 

 『背中』。そのワードで思い出すものがある。あの時、あの瞬間、あの人がかつての願いを捨てたとき―――――ああ、ならばあの人は本当に、『英雄』になってしまうのだろうか。

 

 ―――――いや、違う。そうじゃない。子供は思いとどまる。

 歯を食いしばるように考えを留める。結論に駆け寄るな。まだ、この優しい人の声をちゃんと聞け。答えはきっとそこじゃない。

 

 子供の瞳に光が差していく。それは沈んだ夜に朝日が昇るような美しさがあって、もうひとりは小さく笑ってしまった。

 そうだ。この、諦めが悪くて素直で誠実な子供が、多くの英雄に慕われたその心のありようなのだと、何かと比べるように。

 

 

「いい感情だけを抱くわけじゃない。実際酷く憎く思ったこともある。隣にいても遠い。走っても走っても手が届く気がしない。―――――それなのに、諦めきれずに手を伸ばしてしまう。自分の中の理屈じゃないところがどうしようもなく『憧れ』てしまう。嫌いでも、遠くても、その『背中』に追いつきたいと思ってしまう。」

 

 

 

 

「彼女たちは紛れもなく―――――『地上の星(えいゆう)』で、」

 

 

 

 

 

「『英雄』は、私にとって―――――『背中(あこがれ)』だった」

 

 

 

 

 

 それは、どこか幼さを孕んだ声だった。それでいて、なんだかとても納得してしまうような声だった。

 きっとその言葉は、小さな子供がいつの日か抱きしめた、柔らかい光の色をしていた。

 きっとその音には、歴戦の老兵がかつての優しい記憶に思いを馳せるような、鋭い柔らかさがあった。

 

 頭の中の呆けたところが、彼女がこういった心情を吐露してくれるのは珍しいなあ、とズレたことを思う。それが自分のためだと子供は理解していた。だから子供はこの優しい人がどうしようもなく大好きだった。

 

 

 『憧れ』―――――そうか。

 『追いつきたい背中』―――――ああ、そうか。

 

 

 

「立香。ロマニ・アーキマンは君の『英雄』だったかね?」

「―――――ううん」

 

 

 

 今度こそ―――――子供ははっきりと、自分の心を決められた。

 そこに、自分の『英雄観』を持って、子供は確かに、否定することができた。

 

 

「…うん、うん、違うなあ……ドクターのこと、すごいとは思うけど、『英雄』じゃないよ。」

 

 

 あの瞬間、彼の背中を押したのは何なのだろうか。彼に階段を上らせたのは誰だったのだろうか。もう、想像することしかできない。

 いつか、彼の人生とは本来ならありえないボーナスステージで、いつ消えるともわからない幻影(きせき)だったのだと誰かが言っていた。

 それでも確かにそこにはあったのだ。彼が生き抜いた、『願い(じんせい)』が、十年間があったのだ。

 かけがえのない尊いもの。それを、あの場で捨てることで―――――世界を救うための一歩を踏み出してくれた。

 

 それは義務感だったのだろうか。使命感だったのだろうか。正義感だったのだろうか。

 彼の心はもう本人に聞くことができない。

 けれどただひとつ、子供にも分かることがあった。

 

 彼は、懸命に生き抜いた十年間の答えを示してくれた。

 この世界を―――――愛しているのだと。

 

 子供はただ、その美しさに応えたかった。

 

 

 

 瞼の奥で思い出す。ふわふわの髪の毛を揺らしながらびっくりした顔の初対面。そのときの会話を、鮮明に思い出す。

 ベッドの上で、嬉しそうに微笑んだ彼と交わした、社交辞令のような、他愛もない、宝物のような会話を頭の中でリフレインする。

 

 

「ドクターは『友達』だから」

 

 

 子供の頬がやんわりと緩む。それは、心からの笑顔だった。

 

 ゆるふわなあの人。リアクションがオーバーで、怖がりだったあの人。臆病なくせに、嘘つきで、優しかったあの人。大好きな、『友達』。

 彼のかけてくれた言葉が、笑顔が、本物かどうかなんてどうだっていいんだ。そんなことは悩むほどのことじゃない。

 なぜなら彼はあの時、確かに信じてくれたはずだから。十年間分の人生を、費やした成果を、あの玉座の前で俺に託してくれたから。

 

 それこそが何人も侵すことのできない真実だった。

 

 ―――――もうひとりが教えてくれた彼女の英雄観。例えばそれに彼を当てはめてみたら、なるほど。まったくダメだ!

 背中なんて追っかけない。そもそも、そんなに後ろに居たらあのゆるふわが転んだときに助けてあげられないじゃないか。―――――だから、隣で一緒に歩かないと。

 並んで一緒に、生きていかないと。

 

 

「『うわぁい、やったぞう!』…なんてね」

「ふ、彼の真似か?」

「似てるでしょ? 自信あるんだ」

「ああ、そっくりだった」

「へへ…なんかいちごタルト食べたくなってきたなあ」

「なら、明日のおやつはそれにしようか」

 

 

 既にお互いの声は柔らかく、そこには温かさがあった。

 なぜ英雄になってほしくなかったのか。なぜあれほど拒絶感を感じたのか。最初は全然わからなかった。未知の不快感。だからなおさら嫌だった。

 出どころも、落としどころも分からないようなそれが、あまりにも苦しくて―――――

 

 ―――――けれどもう、大丈夫。

 

 今ならわかる。それは多分きっと、寂しかったのだ。彼への否定のように感じてしまったのだ。

 

 英霊のみんなはすでに終えた人生があって、だから今をボーナスステージだという。自分たちがすでに過去のものだという認識がある。もちろん、そうでない人もいるけれど。

 ただ、それを彼に当てはめたくなかっただけ。そうすることで、彼を、『ロマニ・アーキマン』という一人の人間の人生を、否定してしまうような気になっただけ。

 

 ―――――だからもう、大丈夫。

 

 

 彼の声を、笑顔を、思い返すだけで視界が熱く滲んでしまうけれど。

 大丈夫だよ、愛しい人。きっといつか、美しい空耳になる。―――――人間はそうやって、明日を生きていくのだと教えてもらったから。

 

 

 そっと、子供は手のひらを握りしめる。そこには自分だけの答えがあった。壊れないように、なくさないように、尊いものを慈しむように。

 明日は朝イチでこの答えをあのロクデナシに叩きつけてやろう。―――――ああ、そうだ。自分の見つけた英雄観と一緒に。

 

 隣に座る人を見つめる。『英雄とは何ぞや』。俺はそれに、どう答えるのか。

 

 『英雄とは』。思い返す旅の思い出。出会った人々。『英雄』。そして今、隣にいる人。

 いつも、皆が導いてくれた。進む先を照らしてくれた。怖いこともたくさんあった。絶望に膝をついたことだってあった。その度に、彼らの、彼女らの背中が恐ろしいものから守ってくれた。支えてくれた。先に進むことを、願うことを、許してくれた。

 だから、どんな状況だって皆がいれば大丈夫だって―――――そう、信じることができた。

 

 導いてくれるもの。照らしてくれるもの。希望をくれるもの。

 

 ―――――決めた。

 藤丸立夏にとって『英雄』とは―――――『みちしるべ』だ。

 

 その言葉で、背中で、生き様で、『後世の人々(まようひと)』に『未来(みち)』を示してくれるもの。

 みんながいるから、いてくれたから、俺は、俺たちは、自分の未来を生きて(えらんで)いけるから。

 

 

「ねえ―――――エミヤ」

 

 

 子供はもうひとり―――――エミヤに話しかける。

 どうか届けと、願いながら。

 忘れないでと、祈りながら。

 彼にできなかった後悔を、繰り返さないように。

 

 たくさんの感謝と、親愛をこめて。

 

 

「ありがとう―――――大好き」

 

 

 叙事詩のない無名の英雄。厳しくて、暖かくて、面倒見がよくて、優しい―――――優しい、カルデアの英雄(みちしるべ)

 いつかの悪意の生贄にされた少年は嗤っていた。「優しいィ? まっさか!『アレ』はどうしようもない『歪み』だぜ。―――――狂ってんのさ。」

 

 ―――――けれど子供は何度だって、それを『優しい』と呼びたかったから。

 

 

「 いつか、いつかエミヤも――――― 」

 

 

 

 

 ―――――薄桃色が舞う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、君もそれを願うのだね。」

 

 

 

 







 拝啓、愛しい人(Dear friend)

 あなたとのたくさんの思い出を抱えて、俺たちは未来を歩きます。
 悲しいこともたくさんあるでしょう。何度も貴方に会いたいと思うかもしれません。

 今だって、貴方の声を追ってしまいます。

 それでも歩み続けます。あなたが愛したこの世界を、俺たちも、愛していたいから。
 この胸の奥を締め付ける、どうしようもない苦しさや、寂しさも、いつか思い出にしてみせるから。

 ただ、ひとつ。

 貴方に十年分のご褒美をあげたかったなあ。

 あれだけたくさん頑張ったのだから、貴方にはその権利があったはずだから。聖杯を賭けたっていい。
 誰だっていいって言うだろう。ダウィンチちゃんだって花丸をくれる。何より俺が、そうしたかった。

 だって、きっと喜んでくれると思うんだ。

 ―――――それとも、貴方はもう、知っていたのかな。

 全能を取り戻したあの一瞬。未来を見通すその瞳は、あの景色を見ることができていたのかな。

 だから、あんなにも優しく微笑んでくれたのかな。
 ―――――そうだといいなあ。

 でも、やっぱり、その場で見てほしい気持ちもあるんだ。
 だって、誰よりも貴方が望んだことのはずだったから。
 きっと泣くほど喜んでくれるんじゃないかって思うんだ。
 そんなことになったら、みんながからかうかもしれなかったけど。
 でもそうなったらきっと、俺も泣いちゃうだろうから、ふたりでみんなに怒るんだ。
 その場に居てほしかったんだ。一緒にその奇跡と幸福を、噛みしめてほしかったと思ってしまうんだ。

 あの、突き抜ける青空の下で微笑む、貴方が最も愛した少女の姿を―――――



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