正義の味方が箱庭入りしたそうですよ?   作:雄良 景

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 例えば、朝起きて朝食を作るとき。
 昼になり学校で友人と会話をするとき。
 夕方、にぎやかな食卓で夕食を食べるとき。
 夜が来て、おやすみとあいさつするとき。

 そんな節々の、日常の些細な出来事。
 ―――――それがあまりに愛おしく、罪深かった。




prologue-three:理想に忠実な

 

ごう ごう

  めら  めら

 

 

 炎が燃えます。まちが燃えます。

 お空には真っ黒なたいようが昇り、たいようは黒い涙を流してしくしくと泣いています。

 

 

 

 

 

しく しく

  めそ  めそ

 

 

 涙はたくさんあふれてきて、まちを燃やしてしまいます。

 

 

しく しく

  めそ  めそ

 

 

 子供が泣いています。一人ぼっちで泣いています。

 周りには誰もいません。おとうさんもおかあさんもいません。

 

 

ふら ふら

  とぼ  とぼ

 

 

 子供は歩き始めました。目的地はありません。いえ、もしかしたらあったかもしれません。

 けれど子供にはもう、何もわかりません。

 

 

よた よた

  のろ  のろ

 

 

 なんで歩いているのでしょうか。どこに向かっているのでしょうか。何が欲しかったのでしょうか。

 子供にはもう、何もわかりません。

 

 

ごう ごう

  めら  めら

 

 

 まちが燃えています。人も燃えています。

 まだ息のあるいのちが、子供に手を伸ばします。

 

 

たすけて あつい くるしい くるしい たすけて

 

 

 たくさんたくさん声がかけられます。でも、子供は何もできません。

 子供の小さな手では、何もできません。ぼろぼろの体では、誰も救えません。

 

 

ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい

 

 

 やがて子供は力尽き、その場に倒れ込んでしまいます。

 

 

ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい

 

 

ごう ごう 

  めら  めら

 

 

 

 ―――――■■■■

 

 

 

 

「ああ―――――よかった」

 

 

 

 

 

 

 

(たち)の悪い悪夢よ、こんなの」

 

「だって全然納得いかないもの」

 

「全部よ! 全部! 道理にかなってないわ。理不尽よ」

 

「あんたが納得しても私は納得できない」

 

「ねえ、■■■。あんたは―――――しあわせになるべきよ」

 

 

 

 

 

 

「■■。私、■■のこと、大好きです」

 

「私を救ってくれた人。私を見つけてくれた人」

 

「地獄の幕開けのようだった毎朝が、あなたのおかげで美しいものになりました」

 

「あなたに会えると思っただけで、先の見えない暗闇のようだった明日が待ち遠しくて仕方なくなりました」

 

「ねえ、■■。どうかあなたも―――――しあわせになってください」

 

 

 

 

 

 

「本当にしょうがないんだから」

 

「でもいいわ、私はお姉ちゃんだから」

 

「私たち、兄妹(きょうだい)だもの。そうして、姉弟(きょうだい)だもの。ふたりぼっちの、家族だもの」

 

「私の兄。私の弟。私の家族。愛しい子」

 

「ねえ、■■■。あなたに―――――しあわせを贈ってあげる」

 

 

 

 

 

 

「優しい子。そいういところ、本当に切嗣さんにそっくりだったわ」

 

「あの人がいなくなってから、小さな■■を守るのは私だって、ずっと思ってたの」

 

「それがいつの間にか随分と大きくなって、安心安心って思ったのに」

 

「おっきくなったのは図体だけじゃない。……本当に、変わらなかったのね」

 

「ねえ、■■。こんどはちゃんと―――――しあわせを教えてあげたいの」

 

 

 

 

 

 

「■■■。私の鞘。我がマスター。私が愛した、ただひとり」

 

「あなたは私を尽くただの女の子のように扱おうとしました。当時はそれに思うところが多くありましたが」

 

「あなたの性質をよく知れば知るほど、その言動の真意にどうにも照れくさく感じたものです」

 

「きっとあれは、まぎれもない私の幸福の形でした。私にとってあなたは、あまりにまばゆいものでした」

 

「ねえ、■■■。いまは只のひとりとして、私はあなたの―――――しあわせを願います。」

 

 

 

 

 

 

「ほとほと呆れかえるぜ。あの皮肉屋の正体が小僧と知ったときはひっくり返るかと思ったが」

 

「魂や精神と一緒に愛嬌まで削り節みたいにしやがってよお。このひねくれもんが」

 

「あれだけのいい女にこぞって『しあわせ』を願われて祈られて、だのにテメェはそのザマってんだから甲斐性無しにもほどがあらぁ」

 

「だがま、いい加減その辛気臭せぇ澄まし面も見飽きたところだ」

 

「なあ、■■■■■。それでもお前が『しあわせ』に成れないってんなら、そんときゃ俺が―――――『おまえのしあわせ』をくれてやるよ」

 

 

 

 

 

 

「ねえ、■■■。俺はさ、結局■■■のことをほとんど知らないんだ」

 

「でもさ、■■■の作ったご飯は美味しくて、たくさん心配してくれて、怒ってくれてて、皆のことをよく気にしてくれてることは知ってるよ」

 

「無名だっていうけど、すんごく頼りになることも知ってる」

 

「それにね、きっと聖杯戦争に出たことがあるんだろうなぁ、とか………たくさん、たくさん、いろんなことが有ったんだろうなって事とかも、ちょっと分かったよ」

 

「だからね、■■■。あの夜あなたがくれたみたいに、あなたにも―――――しあわせを、たくさんもらってほしいなぁ」

 

 

 

 

 

 

ぎい ぎ い

 ぎぃ  ぎぃい

 

 

 きしむ音が響きます。

 

 

ぎいい ぎぃ

 ぎ ぎい ぎぃ

 

 

 それは縄がきしむ音です。

 

 

ぎ   ぎい ぎ

 ぎい ぎぃ ぎぃ

 

 

 それは縄に吊られたなにかが揺れる音です。

 

 

 ぎーい ぎい

ぎい ぎい ぎい

 

 

 

 これでいいのです。これでいいのです。

 

 これが正しい形なのでしょう ――――― 何にとって?

 これがあるべき姿なのでしょう ――――― そんなの誰が決めたというの

 

 いいのです。いいのです。

 彼/彼女はこれでいいのです。

 

 めでたしめでたし、ハッピーエンド。

 彼/彼女の骸の上で、みんなは幸せになりました。

 

 

 だからこれで―――――

 

 

 

 

 

 

「いいわけないでしょ」

 

 

 

 

 

 

 ―――――ものがたりに、続きを追加しましょう

 

 

 

「あんた、馬鹿よね。ほんとうに馬鹿。」

「好き勝手やって、こんなくたばり方して」

 

「でもいいわ。あんたがそうするなら、私も―――私たち(・・・)も、好き勝手にするんだから」

 

 

 

 ―――――本編すら霞むような、盛り沢山の蛇足を加えましょう

 

 

 

「頑張ってるヤツには、頑張った分だけ報酬がないと納得がいかないのが私だもの」

 

 

 

 ―――――原作すら食いつぶしかねない、夢物語のような荒唐無稽の二次創作(アフターストリー)

 

 ―――――読者から匙を投げられそうな、ご都合主義の主人公補正(オリジナル)だって添えて

 

 ―――――友情も努力も勝利も、きれいなものはところ構わずつぎ込んで

 

 ―――――たくさんの温かくてやわらかくて優しいもので満たしてしまえばいいのです。

 

 

 

 ―――――だってこれは、私たちがあんたへ贈る、私たちのため(・・・・・・)の『ものがたり(ハッピーエンド)』。

 

 







「おやおや、罪作りなレディだね」
「さすがの手腕だわ。流石すぎてドン引きだわ」
「ここまで想われていて当人がああだと、周囲はそうとうヤキモキしてただろうねえ」
「まったくだぜ、だから(たち)が悪ぃのさ」
「ある種の『釣った魚にエサはやらない』では?」
「なるほど言い得て妙だ! 釣った自覚もないだろうがな」
「まあ本人がどう思っていようと、私は勝手に手を出させてもらうよ。」
「流石半魔。言いぐさが人外のそれ! ケケケ、まっ、あのオニーサマ……いやオネーサマか? も年貢の納め時ってわけだ」
「事が事だし、相手が相手だからねえ。今回ばかりは傍観者の私も積極的に介入せざるをえまい」
「神妙な面しやがって色男さんよぉ。介入は今に始まったことじゃねぇ(・・・・・・・・・・・・・・・)くせに」
「さぁて、なんのことかな?」
「ま、ここは大魔術師様にここまで慎重なテコ入れされなきゃどうにもできない、あのオネーサマの精神構造に感服しておくか」
「まったく手強いレディだよ。……レディと言えば彼女たちにも随分と驚かされた」
「ガッツ有りすぎだよなあ」
「まさか私がこんなことをする羽目になるとは」
「各々のポテンシャルがやべぇってったって、限度があるっつーの」
冠位魔術師(グランドキャスター)の私が使いっ走り扱いだ!」
「アンタもオレをおつまみ感覚で引っ張り出してきたけどな」
「必要経費さ。君は適役だった(・・・・・・・)
「ひっじょーに腹立つ話だが、納得せざるをえまい」
「さて」
「時間か」
「彼女がようやくピースを揃えてくれたからね」
「いやぁ長かった! いやここからも長いんだが」
「見ごたえがあるだけいいじゃあないか」
「にしてもなんで『あそこ』なんだ?」
「ベストだろう?」
「不釣り合いでもある」
「多少いびつでないと彼女を留めておけないのだから仕方ない」
「そしてきれいに型にハマっていても『しあわせ』を認めてくれない、ってわけか」
「今回の私は大盤振る舞いさ!」
「ご都合主義がすぎるぜまったく」


「それじゃあ、夢で逢おう」
「ケケケ、観念しろよぉオネーサマ!」


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