え?ロートレク?ソラール?……解呪がね……おかしいなこんなに死ぬもんだったかな……
俺は沖田オルタを引くぞ!ソラァァル!!
いつもと変わらない風景。
いつもと変わらない喧騒。
なんらいつもと変わらないある日、それはやってきた。
リ・エスティーゼ王国にある都市エ・ランテル、その都市にある冒険者組合の扉が開かれた。
組合の中で仲間たちと談笑を交わしていた冒険者が、掲示板を見て依頼を吟味していた冒険者が、冒険者らに仕事を斡旋する受付嬢が、何となくその入ってきた人物に目を向け、固まった。
シンプルな騎士鎧に青いサーコート、首元に巻かれた赤いスカーフ、とうてい一冒険者では用意出来ないような国宝級の鎧に身を包んだ騎士。そんな彼を見た冒険者はどこかの貴族の息子かその護衛が着飾ってるんだろうと考えたが、その鎧についている歴戦の傷や騎士の佇まい、そして何よりその胸にかけ下がっているプレートを見てその考えは誤りだと理解した。
アダマンタイト。
騎士のかけ下げているプレートはそれを示すものだった。エ・ランテルは王国の中でも大きい方の都市で、それに見合った情報が流れ込んでくる。故に冒険者たちはその騎士を見て自分たちの知るアダマンタイト冒険者を思い浮かべたがすぐにその誰とも違うと考えた。
受付嬢は一瞬、偽装か?と考えたがアダマンタイトは希少金属でそうそう偽装など出来はしないし調べれば簡単に分かってしまう。偽装するにしても白金級かオリハルコン級のだろう。
さて、件の騎士は組合に入って脇目も振らずにまっすぐと受付嬢のもとへ向かっていく。そんな姿に受付にいた冒険者たちは次々と道を開けていき、受付嬢と騎士は対面した。
「え、えっと、ど、どのような御用でしょうか……」
竜王国より拠点をこちらへ移す為に来た。
「はい、わかりました…………え?」
竜王国?竜王国のアダマンタイト?拠点を移す?騎士────セレネの言葉にそれを聞いていた周囲の冒険者は仲間内で顔を見合わせる。
竜王国について詳しいものは竜王国のアダマンタイトと聞いてすぐにセレネについて思い出そうとするがしかし、セレネが冒険者となりアダマンタイトとなったのはつい数日前の事、いまだその情報は王国まで届いてはない。
「り、竜王国の冒険者ですか……えっと、その……」
アダマンタイトの偽装を疑っているのだろう?わかっているとも。
セレネはそう言うと、かけ下がっているプレートを外し更には腰に下げている筒状のものを取り外し受付嬢へと手渡した。
プレートはともかく手渡された筒状のものに受付嬢は首を傾げるがすぐに恐らく蓋の部分とも思われる場所に記されている竜王国の紋章に目を見開きセレネへと目を向ける。
竜王国が王より貰い受けた証文だ、組合長に渡してくれ。
「は、はい!!??」
もはや、そんなものまで渡されては目の前の冒険者が偽装しているなど思えるわけもなくすぐさま受付嬢は組合長を呼びにその場を後にした。
焦っているのか慌てたように走り、途中躓き転びそうになった受付嬢の背を見ながらセレネはただ首を竦めるだけ。
そんな彼を見て、周囲の冒険者たちは彼がいったいどんな偉業をなしてアダマンタイトになったのかを口々に話し合い始めた。
「竜王国ってこたァやっぱり、ビーストマン相手に色々尽力したってことか?」
「うぅむ、確かに竜王国でアダマンタイトになるとしたらそれが一番確実であるな」
「だな。それに、ビーストマンの相手は熟練の冒険者でも苦戦するらしい…………もしも本当にビーストマン相手にかなりの功績をあげたのなら……」
「相当な実力、英雄級の冒険者ってことですね…………」
「あの鎧……相当なモンだな、だが貴族か王族とかそういうのじゃねえ…………ありゃあ本物の英雄だ」
「ああ、身のこなしといい一切の隙がねぇ……」
そんな大きいような小さいような話し声を右から左へ流しつつ、セレネはこれからの事を考えていた。
セレネは転生者だ。故に何となくではあるがこの世界のこれからの流れが大まかではあるが分かっている。暫くはこのエ・ランテルが中心となって物事は起きてくる。
と言ってもそれらはギルドマスターことモモンガ、が変装した冒険者モモンがこの都市に来てからの話。前回からの情報交換を考えてもまだまだモモンはこの都市に来ないだろう。
故にセレネがやる事はモモンがこの都市に来るまでに信頼を勝ち取る事だ。
モモンガがこの都市で動きやすくする為の、その為のアダマンタイト────
(とりあえずナザリックに合流するまでは冒険者として励むとするか、モモンガさんには悪いが冒険者を存分に楽しませてもらおう)
────のはずだ。
と、そこでようやく先程組合長のもとへ向かった受付嬢が戻ってきた。
「はぁ、はぁ……んん。はい、プレートは本物、竜王国の証文も紛れもなく本物でした。では、組合の登録の為、書類に必要事項を御記入ください」
心得た。
受付嬢が出した書類を受け取り、腰に下げたポーチから何やら高価そうな羽根ペンを取り出しインクに付けず書き始める。
それに受付嬢は疑問符を浮かべたがすぐにその疑問は解消された。インクに付けていないのにその羽根ペンは次々と文字を記していくのだ。
恐らくはそういうマジックアイテムなのだろう、流石はアダマンタイトと納得した受付嬢だが実際はそれだけではなくこの羽根ペンには文字を書く際に設定した言語を自動的に書くという機能を持ったユグドラシルではネタアイテムの一つである。
(まさか、これが役に立つとは思わなんだ)
若干のコレクター癖があるセレネが処分せず残しておいたそれの意外な活躍にセレネは感心しつつ必要事項を書き終わらせ受付嬢へと書類を渡す。
「はい、ありがとうございます。名前は……セレネ様ですね。我々エ・ランテル冒険者組合は貴方様を歓迎します」
はい、ではこれからどうぞよろしく。
そんなふうに軽く兜の下で笑い、一瞬だけ掲示板へと顔を向けたがすぐに出入り口である扉の方を向きそのまま歩いていく。
その姿を見た冒険者らはいままでアダマンタイトがいなかったこのエ・ランテルでは自分の実力に見合う依頼がまだない、と判断して今日は登録だけして帰るのか、と想像し……扉へ消えるその背を見送った後すぐにセレネについて興奮するように話し始めた。
────────────────────
ふぅ……登録は終わったな。後はどこで寝泊まりするか……。
冒険者組合を後にし、様々な道を進んで人気のない路地裏に辿り着いたセレネは壁に寄りかかりながらその頭を包む兜を外す。
そうすることで外気に晒されるのは目付きが鋭く肌の白い灰色の髪の美男顔。驚くべきは兜の下に眼鏡をかけていたことだろうか、セレネは眼鏡の位置を直すように人差し指の関節で眼鏡のブリッジを押し上げ、兜を被り直そうとして動きを止めた。
壁に寄りかかりながら、セレネはその鋭い視線を路地裏のより奥、周囲の建物のせいで光が入らず影が満ちる空間へと向ける。
その空間より僅かに微かに感じた違和感にセレネが心中を吐露すれば、一際影が濃い部分が蠢きそこから現れたのはネームレスも見たことがある人間大の異形。
忍者服のようなものを着た黒い蜘蛛のようなそれを見て、セレネは一つ頷く。
「ハッ、モモンガ様の御命令を受け、ネームレス様の下に馳せ参じました」
ふむ……つまるところ、モモンガさんは貴公を私の好きなように扱ってもいい、という事で送り付けたと認識していいのだな?
「はい、御身の手足として働く様に命ぜられました」
なるほど。そう呟いたセレネは虚空────アイテムボックスを開きそこからとあるアイテムを取り出す。
暗い青色の布にとある紋様が刺繍されたもの。それを八肢刀の暗殺蟲へと与える。
「こ、これは……!!」
見間違える、という事はないだろうが……私の指揮下にいるという証だ。そうだな、腕に巻いておくといい
「は、ハハァッ!!」
感涙し五体投地────常人と違い腕が四本多く、この場合は九体投地だが────する八肢刀の暗殺蟲にセレネは肩を竦め、次にスクロールを取り出し空中へ放る。
《
放られたスクロールは空中で焼け消え込められた魔法が発動する。
『《
『────!?ネ、ネームレス様っ!?』
伝言が発動し、繋がったのはナザリックにて一二を争う知恵者。ナザリック第七階層が守護者デミウルゴス。
『謝辞やら何やらは不要。私からの指示を実行して欲しい』
『わ、わかりました……いったいどのような御命令でございましょうかネームレス様』
『影の悪魔を数体……そうだな、十体ほど私の指揮下に送って欲しい』
『影の悪魔を十体ですか?……わかりました、私如きでは窺いしれぬお考えがあるのですねネームレス様』
『うむ……さて、ナザリックだがこちらでの信用を確固たるものにしてから向かう。しばし待て』
『はい、わかりました。ネームレス様』
『では、切る────』
デミウルゴスとの伝言を切り、セレネは兜を被り直し待機している八肢刀の暗殺蟲へと目を向ける。
では、私は冒険者としての活動に従事する。貴公は……そうだな、この都市にて強者を探せ……あらかじめ言うがレベル30以上がこの世界では英雄クラスだ……それを考慮せよ
「御意」
そう返事し、すぐにその場から姿を消した八肢刀の暗殺蟲を見送り、セレネもその場を後にした。
────────────────────
場所は移り変わり王都の某所にてそれは起きた。
「ぃぁ────」
「エドストレーム!!??」
その同胞らが眼を剥く中、彼らの長はただただ冷静に下手人を見つめる。
「……ふん、何故わざわざこんなのを浮かばせるんだ。盾を浮かばせた方がよっぽどマシだろう」
それは真鍮の鎧をまとった誰かだった。
エドストレームが持つ三日月刀と似たような形状の武器を両手に持った戦士、声音からその戦士が男なのだと理解出来る。
彼ら、『六腕』の長であるゼロは目の前の戦士が自分では到底敵わない存在だと本能で見抜いた。そして、同時にその気になればこちらが迎撃準備が完了する前に輪切りにされたエドストレームのようになると理解していた。
ダメだ。勝てない。命乞いが通じるのか?
そんなふうな思考を回しながら、ゼロは目の前の戦士を見て────────戦士はゼロを見た。
「なぁ、一人死んだな」
「俺の武器とコレのそれは似ているだろう?」
何を言っているのか理解出来なかった。その言葉にいったいどんな意味があるのか分からなかった。
「一つ席が空いたな」
「俺には情報が必要だ。俺にはやる事があるのかもしれない。なら、差し当って必要なものがある」
「金だ。情報だ────なぁ、わかるだろう?」
その言葉にゼロは今度こそ理解し、戦士へとその手を差し出した。
全ては生きる為に。この目の前の人の形をした化け物から自らの命を守る為に。
ゼロはその話に乗った。
「お前は……いったい…………」
「俺か?俺の名は────────」
不死人の癖にタコ殴りで死なないとかチートだろ。ユグドラシルスキル持ってるから仕方ないね。