以蔵はまさかの限定、吐血しそう
正直に言おう。
私は原作を知っていたからナザリックのNPCらの反応やら態度やらをなんとなくは知っていた為にある程度心持ちはしていた。
前世を見てもメイドとか護衛とか、そういう経験なんて一つたりともなかったがある程度対応は考えていた。考えていたんだけどなぁ……。
冒険でやや汚れた鎧を着ていたら……
『ネームレス様、装備が汚れています……よろしければ拭かせて頂きますが……』
『え、いや、別に……』
『どうか、至高の御方の装備を拭かせて頂けますよう……』
『あ、はい。よろしく』
マイルームでゆっくりしようかな?と思えば……
『どうぞ、ネームレス様』
『え、あ、うん』
『お待ちを。室内の安全確認を』
『え、あ、はい』
マイルームに持ってきてくれた飲み物、それを飲もうと自分でコップに入れれば……
『ッ!?な、何か、粗相をしてしまいましたでしょうか!?』
『え?』
『申し訳ございません!どうか、どうか、御許しください!!??』
『えぇぇ……』
うん、いや、想像していたものの何倍もヤバいよ。こう、あまりにアレでナザリック帰還の一日目で胃に穴が空きそうな程に緊張してます。まあ、ナザリックにいる間は人化の指輪を外してるから穴が空く胃は腐って……いや、ゾンビ系の種族だがメインがメインだから別に内臓腐ってるわけじゃないのか?
一応ものは食べられるのだから。いや、そもそも今は着けてるから空くわ。
で、とりあえず正面を見よう。
「いやぁ、ネームレスさんも俺と同じ緊張を味わってくれて嬉しいですよ」
「いい笑顔をするな、いい笑顔を」
現在、私は予定通りナザリックに帰還し、感動した守護者たちから祝いの言葉を受け、専属メイドやら護衛やらの些か過保護な扱いを受け、胃に穴が空きそうな程緊張し、そして今こうして私のマイルームでモモンガさんと二人きりで食事をとっていた。
やはり、人化の指輪を送っておいたのが良かったのかとても人間性溢れる良い表情で食事をしている。良い表情だがいい笑顔だ、殴りたいこの笑顔。
「それでどうです?リアルじゃ到底味わえない食事は」
「ほんと、感謝しかないです。いや、マジで、異世界に来て最高ですよ」
「モモンガさんを考えるとユグドラシルのサービス終了したら、ヘロヘロさんとは言わなくともかなり壊れますね……それを鑑みればやっぱり異世界転移は最高の偶然ですね」
「「まあ、その代わりプレッシャーがデカいですけどね」」
台詞が被った私とモモンガさんは互いの顔を見て、思いっきり笑いあった。人化の指輪により種族特有のスキルは機能しない為、互いにアンデッド種の精神沈静化は発動せず途中で気分が平坦になる事は無い。
人化の指輪が送られるまで、どんな感情も強制的に沈静化させられていたモモンガさんからすればそれは人間性を留める良いものとなる。
私は彼を魔王になどさせない。
私はモモンガさんをアインズ・ウール・ゴウンにはさせない。
その為なら私は────
「ネームレスさん?」
「……え、あ、すいません。少し考え事をしてまして」
「考え事ですか?……あ、もしかして冒険者のですか?」
「まあ、そんなところですね」
適当に誤魔化しつつ、モモンガさんの話を聞く。転移してからの事、カルネ村での出来事、ガゼフ・ストロノーフの事、陽光聖典の事、様々な出来事を聞き私はただ、ただ笑みを浮かべる。
さながら、それは子供が親に学校でどんな事があったのかを楽しげに話すのを微笑ましく見ている親のような気持ちだ。
「それで、ネームレスさんはどんな事がありました?伝言でそれなりに教えてもらいましたけど、そこまで詳しくは教えてもらえませんでしたから」
「うーん、私としては冒険者になにやら憧れを向けてるモモンガさんのそれを失望させるような事は言いたくないんですがねぇ……まあ、いいですよ」
まあ、モモンガさんが冒険者になった時のことを考えて話すのが一番か……。
「そうですね……まず、冒険者としての最初の仕事はですね────────」
「…………なるほど、つまり冒険者は俺が思ってるような冒険をするものではなく、モンスターに対する傭兵または何でも屋みたいなものなんですね……」
「残念ながら」
私の話にあからさまに残念がっている態度を出すモモンガさんに私は苦笑をしつつ、件の陽光聖典の話にシフトする。
「さて、モモンガさん。件の法国の特殊部隊ですが」
「あぁ、彼らですか。とりあえず法国とあまり敵対しない事を考えると捕虜の扱いも慎重にしないといけないので第六階層の一角にマーレのスキルで牢を作らせてその中に」
天使を呼んでも弱くて牢は破れないんで大丈夫ですよ。そう、笑うモモンガさんに私は頷きつつ、陽光聖典をどうするかを考える。
未だ、法国と縁はない。そんな状態で陽光聖典を法国に送り返しては少しまずいだろう……となれば、どう法国と繋がりを持つか……。
「一先ずは法国と何らかの繋がりを持つまではいまのままの扱いでいいでしょう」
「法国と繋がりですか……となるとあまり、守護者たちやそれ以外のシモベに人間を襲わせないように言わなきゃならないですね」
「うーん、その辺は野盗やらカルト集団とかの社会的に駆除されるべき悪人に対してのみ許可すればいいのでは?それと、ナザリックの不利益になる〜とか言っておけばあまりやらなくなるんじゃないですか?」
「なるほど……後は極力そういった悪人以外に対しては退却する事を命令すれば大丈夫ですかね?」
「多分、そうすれば、いいんじゃないですか?」
まあ、そんな漠然とした対策しか出来ないんだよなぁ。彼らが何かやらかす前に私が接触出来ればいいんだが…………いや、待てよ?
そうだよ。確か陽光聖典と相対した時に対情報魔法に対する攻勢防御発動したんだよな……となれば、土の巫女姫は死んでしまったわけで……原作通りなら漆黒聖典が破滅の竜王の調査に来るわけだから……シャルティアに先んじて接触がもしかしたら出来るのでは?
そうすれば、シャルティアが操られるという展開が無くなるわけで…………よし、そうしよう。
「と、そうだ。モモンガさん」
「なんですか?ネームレスさん」
「冒険者やるって言ってましたけど、お一人ですか?私は状況が状況だったから一人ですけど…………」
護衛役は沢山潜んでいるけどね。
原作ではプレアデスのナーベラルが護衛役として相方を務めていたが……。
「ええ、実はアルベドにせめて護衛役を、と言われまして……」
「なるほど……しかし、護衛役をナザリックからですか。全体的にカルマ値は悪ですからねぇ……揉め事が起きそうで、何とも言えないですよ」
「善よりのユリやセバスがいいかなぁ、と思ったんですが……セバスは王国に商人チームとして行きますし……ユリはデュラハンなのでなにかのひょうしに首が外れたら……アウトなんで……」
「ううむ…………宝物殿」
「ゴフッ」
あ、吐血した。……ぇ。
まさか、いまの一言が胃に穴でも空けたのか?やばいな、黒歴史。
……え?黒歴史?わっかんないなぁ…………あぁでも会わなきゃならないか……レティシアはともかく彼女はなぁ。
レティシアはフレーバーテキスト的にも、性格的にも問題は無いが彼女は…………仕方ない、会わねば始まらん。
「アクターなんだから、命令さえすればボロも出さないでしょう」
「た、多分、そうなんでしょうけども……」
「モモンガさん。今回会わなかったら次、顔出すのはいったい何時になるんです?絶対先延ばしにするでしょ、あなた」
「うぐ……」
実際、原作でもシャルティアのアレがなければ顔を出しにいかずに何やかんやで先延ばしにするであろう、というのはなんとなく分かる。
まあ、黒歴史を見たくないのはわかる……その黒歴史が動いてるならなおさらだ。
「まあ、いずれ会わなきゃならないんですから。会いに行きましょ?」
「で、でもですね……」
「でもも何もねぇよ、行け骸骨」
「焼死体」
互いに微笑みながら互いの頬を掴み、私はモモンガさんにヘタレと呟く。それが突き刺さるのか呻くモモンガさん、掴んでいた頬をはなし席を立つ。
「……片付けですか?」
「ええ、互いに人間性を保つ為にはきちんとした生活をせねばならないですし。多少の徹夜はしょうがないとして」
「う……善処します」
食べ終わった皿をこの……あの、……そのなんだアレだ。食事とかを乗っけて運ぶ手押し車?に重ねていく。……そうだ、ワゴンだ。……ワゴンであってるのか?前世でもあまり口に出したり紙に書いたりしないような名前だから分からん。
そんな私を見て、モモンガさんも立ち上がり自分が使ったグラスやらをワゴンに乗せようとしたが私はそれを止める。
「モモンガさん、下手にやるとアレなんでどうぞそのまま宝物殿に」
「え、まさかの確定事項」
「ハリーハリーハリー!」
「えぇぇ…………」
渋々といった顔で私の部屋を後にするモモンガさんを見て、私は軽く肩を竦めてワゴンに汚くならないように皿やグラスを置いていく。
メイドに任せれば良い話だがあまり誰かにこういったことを任せるのは得意でないため、一人でやる。
まあ、また失望されたと勘違いしてしまうメイドが出るかもしれないがこれは性分、なかなか変えれるものではない。ノックされた扉の方へ入室の許可を出し私は席に再びつく。
「失礼します、ネームレス様」
「ああ。それじゃあ下げてくれ」
「承知致しました」
ワゴンを引き、そのまま部屋を出ていくメイドを無視して私は寝室へと入っていく。
「はてさて、彼女に会わねば話は進まない。気が引けるが…………うぅむ」
これがただのNPCだったなら特に何も言わない。彼女もまたレティシアや私のようにダークソウル的なフレーバーテキストが盛り込まれている。そして、苦手意識がある……いや、苦手意識というよりも罪悪感というか申し訳なさというかついでに言えばレティシアと違い彼女は私が殺したわけで…………。
「ついでに言えば、ぶっちゃけユグドラシル時代からあんまり会ってなかったから彼女を創ったのを忘れていた……というなんとも最低な理由がある…………からなぁ」
どうしよう…………モモンガさんにああ言った手前、私が彼女に会わないというのは……うぅむ。
仕方ない……ナザリックを出る前に会いに行くか……。はぁ、不安だ。
────────────────────
「ふん、何が不死王だ。そこらの亡者よりちと頭が回って魔術が使えるだけじゃないか」
「ぎぃぃ…………」
王都・八本指が一部門、警備部門の根城として使われているとある家屋にて真鍮の鎧を纏った騎士が何か人間大のものに腰掛けていた。
よく見れば小刻みに動き、呻いているそれは人間……いや、アンデッド……俗に言う
そんな彼に腰掛けているのはつい最近、警備部門の中でも屈指の実力を誇る六人の猛者『六腕』の内の一人を瞬殺し空いた席に座った男。
カリムのロートレク。
親しき者は嘗てロートレクと呼び、共に笑いあった異界の騎士である。
そんな彼はショーテルをその手で弄びながらその足を『不死王』デイバーノックの片手の甲に置き、踏み躙る。
「この世界の奴らもどいつもこいつも弱い奴らばかり……にも関わらずさも自分が強いとばかりに振る舞う…………子供か何かなのか?ん?」
ロートレクの言葉にあるのは苛立ちだ。
理由は定かではないが嘗てとある男……友人と呼べる────ロートレクは恥ずかしいのか頑なに呼ばなかったが────騎士に殺され、ソウルが尽きて亡者として彷徨う事もなく意識が消失した筈なのだ。
だが、気がつけばこの見知らぬ世界にて目覚めていた。聞けば嘗ての様な不死人はいないが亡者もどきのアンデッドやモンスターがいる、それはそれで面白いと意気込んでみれば、
「この始末」
どれもこれも弱いのだ。
無論、磨けばアノール・ロンドの番兵共を倒せるようになるだろう人間もいた。
だがしかし、大半が目に余るほどに素質が無く、そして諦観しているのだ。決して上を目指そうという者がいないというわけではないが目指している場所がロートレクからすれば低いのだ。
故にロートレクからは彼らは諦観しているようにしか見えない。
「雑魚がいきがるな、雑魚は雑魚らしく部屋の隅で震えてろ」
「ふざけ……るナ……」
「どうした?何か言い返したいなら言ってみたらどうだ」
せせら笑うロートレクにデイバーノックは歯がゆい思いをし、どうにか動こうとして────
「もう、我慢、ならん……死ねッ」
空気を切り裂きながらロートレクに不可視の刃が放たれた。
振るったのは黒い全身鎧を身にまとった戦士。彼もまた六腕の一人で『空間斬』の異名を持つ男、名を────
「ぎぃああ!?」
「な……!」
しかし、憐れな事に男が放った一撃はものの見事にデイバーノックを切り裂き、ロートレクは既にそこにはいなかった。
仲間を切り裂いた事に男は動揺した為か、消えたロートレクを探すのに一瞬のラグが挟まり、そして
「まったく、憐れでしょうがない」
「こふっ」
男の鎧を貫通して腹から生え出たショーテルの刀身、兜から吹き出る血液、急速に熱が失われていく手足、背後から聞こえる声。
「ま、雑魚が一匹二匹消えた所で何も変わりはしないか」
鎧ごと肉を引き裂きショーテルを抜いたロートレクはそのまま仲間に切られ動けないデイバーノックの頭を踏みつけ、部屋を出ていった。
後に残るのは血濡れの部屋と遺体だけであった。
感想で言われてしましたが主人公のヒロインはかぼたん以外はろくすっぽ考えてないです。増えるかもしれんし増えないかもしれない……