ただ一人、君の為なら。   作:ぶんぶく茶の間

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 こんばんは、ぶんぶく茶の間です!
 ようやく第二巻開始です……。序盤から少しばかり重いのをぶっこんでしまいましたが……大丈夫かな(滝汗)

 というわけであらすじからどぞ!(目次にもコピペします!)

 アルザーノ帝国魔術学院自爆テロ未遂事件からおよそひと月半。
《第四階梯》へと昇格した少年、アステル=ガラードの周りは一変していた。
 先の講演会より帝国政府から技術面で目を付けられ、魔導兵器の設計などを要請され苦悩しながらも応えてゆく中で、学生である彼の周りも少しずつ変化してゆく。
 学院に於いては恒例行事となっている魔術競技祭の参加。アステルはグレンから出場するクラスメイト達の練習相手や指示を行うセコンドの役割を与えられる。
 帝国政府からの要請、生徒会長からの民間依頼、魔術競技祭の実行委員からの要請、クラスメイト達のセコンド。
 果たして彼はどうなる。動き出すロクアカ第二巻、『魔術競技祭編』スタート!





第2章 魔術競技祭編
第十話 魔術競技祭に向けて


「よう、やってるな少年ー!」

「………」

 

 日の暮れたアルザーノ帝国魔術学院、魔術実験室にて。

 飄々と現れた長身の男性が、自身の発明である《飛行杖(ニンバス)》のメンテナンスを行っていた少年、アステル=ガラードへと一枚の封筒をかざしていた。

 通常であれば学院の結界により部外者は侵入禁止となっているはずの区域へふらりと現れたその男性は黒い生地に緋や白の鮮やかな装飾が施されたスーツを着込んでおり、程よく伸びた朱色の髪、その髪の合間からは捉えどころのない翡翠色の目を光らせている。

 アステルは溜息交じりに《飛行杖》を床に置き、静かに睨み付けた。

 

「貴方達は……いつも唐突に現れるんですね」

「一応これも、俺の領分だからなァ」

 

 曖昧な返事のおまけにウィンクと来た。アステルは飛んできた星を手で弾き返すと、男性は悲壮な表情を浮かべて「俺の星っ!!」と叫ぶ。それでも頼まれごと、ましてや帝国政府からの要請(・・・・・・・・・)ともなれば拒否するわけにはいかない。

 彼は目の前の男性について情報を知り得ていない。唯一知り得るのは帝国政府の関係者であり、それも彼の見た目からの年齢から推測するにかなりの腕前だということが伺える。だというのに、いつも持ち込まれるのは公にはならない裏の仕事であり、帝国に住まう者として見過ごすことのできない内容ばかり。

 ――軍用魔導器の設計、今も尚戦火が広がり続ける北セルフォード大陸の覇権を争う、レザリア王国からの攻撃への抑止力となる事。それが彼に与えられた要請だった。

 それを拒否すれば何千何万の帝国の人々が死ぬことになり、了承すれば敵対国の人々が死んでゆく。

 人を殺さない為の発明をしたいと願う彼が、国を守るために人を含めた様々な存在を手に掛ける。なんと理不尽極まりない選択か。

 男性は封筒の中から一枚の羊皮紙を取り出し、アステルへとかざした。

 

「――アステル=ガラード殿。……帝国政府の要請(オーダー)を伝える」

「……今回は、何を?」

「戦争区域にて魔術素養のない兵士が使用できる魔導装具を設計せよ。攻性、耐性の両立を求む。……どうやら軍のお偉いさん方にお前さんの《飛行杖》が目に留まったみたいでな。その技術転用を求めているようだぜ?」

「……あれは……」

「何も防具だけで空を飛ばせなんて考えちゃいないさ。恐らく、元《女帝》のお姉さんの為にお前さんが作ったハルバードの上位互換だろう。これは俺の勝手な推測だが、現地はこれからの時期かなりの荒れ具合になるはずだ。安定性を含めて新しい武器が欲しい。そんな魂胆だと思うけどな」

「……そうですか」

「良い答えを聞けそうだな」

 

 男性はニヤリと笑い、アステルはその紙を受け取り胸に手を当てた。

 そして伏せていた目を開き、目の前の男性をしっかりと瞳に映しながら……

 

「その要請(オーダー)――しかと承りました」

「期限は学院の前期が終わるまでだ。学生のお前さんにこんな事を頼むなんて世も末だと思うが……まっ、一種の修行だと思って頑張りたまえ若人よっ!」

 

 彼は鋼鉄によって出来た荊の道へと、足を踏み込んだ。

 

 

       ◇

 

 

 放課後のアルザーノ帝国魔術学院、東館二階。

 魔術学士二年次生二組の教室は、びっくりするほどカオスになっていた。

 翌週に迫った魔術競技祭と呼ばれる年間行事。

 年に三度に分けて開催される、学院生徒同士による魔術の技の競い合いであり、それぞれの学年次ごとに各クラスの選手達が様々な魔術競技で技比べを行い、総合的に最も優秀な成績を収めるべく、クラスが一丸となって挑む一種の祭典である。

 原則的に各クラスの成績優秀者が殆どの競技をローテーションで受け持つというテンプレートな構成が組まれているはずなのだが、アステル達の居るクラス、二年次生二組は一風変わった編成が行われていた。

 はじめはシスティとルミア主導で各競技の立候補者を募っていたものの、外部から魔術界における官僚達がやってくる為、将来を掛けて挑むべきだと語るギイブル、そしてクラスで結託し、一つの目標へ向かう姿勢が大切であると語るシスティの間で口論が始まってしまい、それを引き留めたのは担任講師であるグレン=レーダスだったのである。

 それがまた波乱を呼び、生徒一人一人の適正に合わせた競技種目を割り当てられ、それに対しての異議申し立てが出るなどまさにてんやわんや。

 なんとか生徒達のブーイングを止めるべく、グレンがアステルの許へ駆け寄り、おもむろに彼が勝手に書き留めていたクラスメイト達の編成表を公にしてしまう。

 

「あッちょ、先生それまだ!?」

「見ろォお前ら! 俺以外にも似たような事考えてるヤツがここに居るんだぜ!? アステルの信頼を無下にする気かよ?」

 

 その言葉によって一気にアステルへと視線が向かい、彼は滝の様な汗を流す。

 

「どういうことですの、アステル? (わたくし)が『決闘戦』に見合わないとでも!?」

「う、ううん。そういう事じゃないよ?」

 

 もの凄い剣幕でアステルへ歩み寄るのはツインテール少女、ウェンディ=ナ―ブレス。

 友達としても相性のいい二人だったが、今回は彼女が一方的にアステルが自分を信じていないと決めつけてしまい、彼の前に立ちはだかる。

 それでも彼は心の底からこのクラスメイト達を信じている。だからこそ、彼は顔を横に振ったあと、彼女を正面から見つめて語った。

 

「確かにウェンディは魔術の知識や行使できる呪文の数、魔力容量も高いのはみんな知ってるはず。でも、突発的な事故……例えば詠唱の失敗や対抗呪文(カウンタースペル)への対応からの立て直しは苦手でしょう?」

「うぐっ……」

 

 一年次生だった頃、アステルとウェンディはよく法陣構築の授業で同じ班分けとなることが多く、唯一彼にとっては魔術に触れられる機会だったその授業だったからこそよく覚えている。

 霊点の結び方や触媒の配置があまり理解できずに四苦八苦してしまい、挙句混乱してしまう事があった。現在は克服しているものの、彼女は生徒間でのコミュニケーションでドッキリを取り入れられると挙動不審になってしまうのだ。

 それを知っている彼だからこそ、説得力があった。

 

「ウェンディが怪我をしてしまうところを、その……僕は見たくない、かな」

「む、ぐっ……うう……っ」

 

 これで説得になっただろうか。自問自答するアステルは小首を傾げながら彼女へ微笑みかけると、ウェンディは耳まで赤くしつつ、涙目で呻く。

 パッとが咲いたような笑みを浮かべられては、そんな甘い言葉を掛けられた方としては納得せざるを得ない。

 ましてや御嬢様然としている彼女だ。よりによって異性であり友人の彼から言われては逃げたくなるのも当然。

 

「ウェンディは頭も良いからさ、【リード・ランゲージ】による『暗号早解き』。これは満場一致でうちのクラスで一番だと思うんだ。頭脳戦なら君は強い。競技祭までにしっかり力を付けて、一緒に頑張ろう?」

「わっ、わかりましたわ! ですからあっ、アステルっ! もうそのくらいでやめてくださいなっ!」

「やるなぁオメェ」

「あ、あはは……。――それにカッシュはスポーツも強いし、気配り上手だからさ。きっと『決闘戦』で自分で思っているよりもずっと強い立ち回りが出来ると思うんだよね。僕でよければ練習付き合うからさ、いつでも呼んで!」

「おう! 存分に付き合ってもらうぜ! 覚悟しろよなっ!」

「オッケー!」

 

 幼馴染のシャルはアステルの隣の席で頬杖をつきながら見守っており、アステルは後ろの席でガッツポーズするカッシュを見て、彼は軽く手を振ると、ぞろぞろとクラスメイト達が彼の元まで集まり、自分の長所と見つめ直す点、そして競技に対する動き方などを聞きに来る。

 

(やーれやれ、俺が手を出すこともなかったかねぇ?)

 

 グレンはそんな様子を彼の横で見守りつつ、そう思う。

 だとすれば答えは一つ。

 

「よぉしアステル。お前を二組の『セコンド』に任命する! 異議は認めんッ!」

「ふぇ?」

 

 ビシッとグレンに指をさされ、眼を丸くしたアステルは素っ頓狂な声を上げた。

 アステルに割り振られた役職は『セコンド』。それは選手の介添えや練習・本番に於いて指示に当たる存在であり、セカンドとも呼ばれるものである。

 本来アステルも選手として出すべきだと考えていたが、生憎と彼の真骨頂を発揮できる競技がない為にどうしたものかと悩んでいたところだった。

 しかしこうして、自分以上にクラスメイトの事を見ていた彼へこの役職を任せるのは正解だともグレンは感じていた。

 

「お前は競技祭終了までこのクラスの『指令塔』だ。まっ、フォローくらいはしてやるから、全員への指示出しはお前がやってみろ。できるか?」

「は、はい!」

「うむうむ、良い返事だ」

 

 そんなこんなで、クラスメイト全員が先の魔術競技祭に於ける編成に納得し、それぞれの練習の日々が始まるのだった。

 

 

       ◇

 

 

 この学院では、魔術競技祭前の一週間は、競技に向けての練習期間となっている。

 アステルの師匠であるハーレイも一組の面倒を見なくてはならず、研究どころではない為、アステルにとってその期間は一種の長期休暇に等しかった。

 彼がセコンドとして任命されたその日、帰りがけにクラスメイトであり、お菓子好きという共通点を持つ友人、リン=ティティスがおずおずと彼に声を掛けたそうにしていた。

 そんな視線を感じたアステルは彼女と視線を合わせてから、ゆっくりと歩み寄る。

 

「リン? どうかした?」

「そ、その……。競技祭のことで、ちょっと、相談、したいことが……あって………。いま、大丈夫……かな?」

「うん、大丈夫だよ? そうだね……少し、落ち着けるところに行こうか」

「……ありがとう」

 

 何人ものクラスメイトが残った教室では彼女も落ち着いて話せないだろう。アステルはそう思い、鞄を手にリンと共に図書館へと向かう。

 道中、幼馴染のシャルやルミア、親友のシスティが彼へ声を掛けるものの、一歩後ろを歩くリンの姿を見て「また後でね」と声を掛けてくれた。有難い心遣いである。

 放課後でも遅くまで開放されている図書館へ入り、アステルは二階席のテーブル席へ腰かけると、隣に腰かけたリンはひとつ深呼吸をした。

 

「わ、わたし……まだ、『変身』のテーマが決まっていなくて……」

「まぁ、それはそうだよね……さっき決まったばかりだし」

 

 くすっ、とアステルは小さく笑うと、リンの表情も少しばかり強張りが解け、落ち着いてくる。

 

「そうだなぁ……。リンとしての希望はある? こう、何かの物語に出てくる登場人物とか」

「……うーん……。……アステルは?」

「え、僕?」

「うん……。できれば、アステルの意見も聞いてみたいの……ダメ?」

「ううん、そんなことないよ。僕だったら、かぁ……」

 

 上目遣いで訪ねてくるリンのお願いをアステルは快く引き受けるものの、なかなか思いつかず、いつもの下顎を指でちょんちょんとつつく癖を見せた。

 そして何か思いついたように「あっ」と小さく声を上げると、リンは食い入るように彼を見つめる。

 

「……今なら苺タルト、かなぁ?」

「……ぷっ。っふふふふっ……もう。食べたいものじゃないよ?」

「そうだった……」

 

 ごめん、と照れくさげに笑いつつ後ろ頭を掻いたアステルを女の子らしく笑うリンは少しだけ頬を赤くした。

 

(……そっか。派手じゃないものでもいいんだ……)

 

 自分のなりたいものを形にすればいいと、彼の言葉から感じたリンは、ひとつ、彼へと相談することにする。

 

「あのね、アステル……。わたし、『時の天使』ラ=ティリカ様が好きなの……」

「時の……」

「う、うん……。どう、かな?」

 

 アステルは彼女の提案を真剣に考える。

 あくまで伝説上の存在であり、模倣の難しいもの。

 けれど、折角気弱な彼女が真剣に相談してくれているのだ。それに応えられなければ自分にセコンドを名乗る資格はないと考えたアステルは、その天使が記されている書記を思い当たるだけ記憶から探り出すように、彼は席を立った。

 

「リン、ちょっとだけ着いてきてくれる?」

「何か、思いついたの?」

「少しだけ。『時の天使』に関する物語があった気がするんだ。……確か」

 

 記憶を頼りに、リンを連れて図書館を歩く。

 

「リンは、ラ=ティリカ様の物語はどのくらい読んだことがあるかな?」

「す、少し……だけ。……伝記を読み齧ったくらい……かな」

「なるほど……。だとしたら同じものかもしれないね。力になれなかったらごめん……」

「そんなっ。アステルが謝ることじゃない、よ……」

 

 ようやく目的の棚まで辿り着き、アステルは自分の背よりも高い本棚から記憶の中で内容を吟味し、出来る限り彼女の中での天使像に近づけようと三冊ほど本をピックアップしていく。

 彼女としてはおもむろに案内された本棚であり、その無数に詰められている本を手にアステルが真剣な面持ちでパラパラとページを捲っていくものだから、自分も何かしなくてはという思いに駆られて一冊、本を手にする。

 ずしりと来るかなり厚みのある本だったが、冒頭さえ読んでしまえば読書好きな彼女はその物語に一瞬で引き込まれてしまう。

 あまりに作業に真剣になりすぎてリンの事を思い出し、ハッとしたアステルも、隣で真剣に本の字を追っていた彼女を見て安心し、ペースを速めて行った。

 そして最後は画集コーナーに並んでいる聖画集を手に取り、最初に腰かけたテーブル席まで戻る。

 

「……うん。これならイメージもしっかりできる気がする………」

「そっか……よかったぁ……」

 

 アステルはほっと安堵の息を吐くと、聖画集を手にしたリンは最後にそのラ=ティリカが描かれた画を見て、瞳を輝かせている所を目にした。

 それは自分とお菓子談義をしている時よりも一層楽しそうに見え、彼女としては一番うれしそうな表情でもあった。

 興奮のあまり頬を朱色に染めて、もくもくとその画を見ながら伝記を読んでゆくリン。

 気付けば図書館の外は暗くなってきており、先日ハーレイから送られた金色の時計を見てみれば最終下校時間まであと数分、といった所だった。

 それに気づいたアステルは慌ててリンを説得し、本の貸し出し許可を貰いながら学院から飛び出す。

 校門から出たところで、息も切れ切れになったリンを心配していたものの。

 

「「……あっ」」

「っそ、その……ごめん」

「う、ううん……。ありがとう、アステル。手、握っててくれて。ひとりだったら、間に合わなかったかも……」

 

 無意識に繋がれていた手を離し、アステルは夕焼け色の空を見上げ、リンは彼に握られていた右手に触れていた。

 貸し出された本はアステルの右脇に抱えられ、コンパスの短いリンに歩幅を合わせる。最大限の配慮はしていたつもりだったけれど、まさかこんなことになるとは、と顔が熱くなる。

 お互いしばらく無言で息を整え、やがて落ち着いたところで小さく笑い合った。

 そしてどちらかが言い出すでもなく、アステルはリンが住まう家へと送っていくと、玄関の前で。

 

「今日はありがとう、アステル」

「これくらいどうってこと。もし内容で難しい所があったらいつでも呼んで? 自分なりの見解でよければ伝えられるし、グレン先生もアドバイスしてくれると思うからさ」

「うん。がんばる」

「その意気だよ。競技祭が終わったら、また美味しいお菓子食べに行こうね」

「ふふっ、スイーツだよ? アステル」

「あはは、そうだった。スイーツね」

 

 リンは微笑みながらアステルへ訂正を持ちかけると、彼はそれに応じ、彼女は満足気にうなずく。

 

「送ってくれてありがとう。また明日から、よろしくね」

「こちらこそ。またねー」

 

 お互いに軽く手を振りながら、アステルは家路を辿り、リンは家へと入っていった。

 

(まさかリンが、自分で意見を言ってくれるなんてなぁ……)

 

 どこか小動物的で、大人しい友人。

 意外な一面を知ることが出来た彼の頬は緩んでおり、すっかり暗くなった夜空を見上げる。

 

「……ようしっ、明日も頑張るぞっ!」

 

 そう意気込んで声を上げたアステル。

 そんな彼の進んでゆく道を、月の光はまるで彼を導くように行く先を煌々と照らしているのだった。

 

 

       ◇

 

 

 一方その頃。

 ハーレイ=アストレイは憤りを感じていた。

 

「何故だ……なにゆえアステルがメンバーに入っていないのだ………ッッ!!?」

 

 くしゃりと、一週間後の魔術競技祭における出場表を手にした彼は怒りのあまりそれを握りつぶす。

 目は血走り、ギリギリと歯を軋ませながら音を立て挙句もぐもぐとそれを口の中に入れて咀嚼した。

 その原因は先の通り。彼の愛弟子であるアステルの名前が一つも入っておらず、まして彼以外の生徒の名前は見事に並んでおり、それにより一層の怒りを覚えた彼は髪を掻き毟りながら床をのたうち回る。

 自分のあまりに傲慢不遜な態度から生徒達に嫌われていることは知っていたがまさかここまでとは。アステルは私のせいでハブにされているのではないかと過保護なあまりネガティブな妄想に陥った彼は「ファー――ッ!!」と誰も居ない自宅の書斎で吠えた。

 

「おのれグレン=レーダス……ッ!! アステルを……我が愛弟子を無下に扱うなど……! 許さんッ……このハーレイ=アストレイ、絶対に許さんぞォオオオ――――――ッ!!」

 

 怒りは憎悪となり、グレンに対するヘイトは彼の中でより一層高まってしまい、後日勘違い極まりない論争と賭けを呑むことになったのは言うまでもない。

 ……余談だが、翌日彼の部屋へ清掃に入ったメイドは床に落ちていた毛。その多さたるや……。それを見て悲鳴を上げ失神してしまった事はぜひとも内密にしていただきたい。彼の名誉と威厳の為にも。

 

 

       ◇

 

 

 翌日。日直でフィーベル邸を早めに出たアステルは、開錠されていない教室の扉の前でウェンディの姿を見つけた。

 彼女はぼうっと窓の外に流れる雲を眺めており、手には鞄が握られ、身体は壁に預けている。

 どこか御嬢様然とした少女が、あんなにも憂いた表情をしている。いい画になることは間違いない。

 

「おはようウェンディ。ごめん、待った?」

「おはようございます、アステル。今来たばかりですわ。お気になさらないで」

 

 早いね、と言ったアステルは教室の鍵を開け、ウェンディに協力して貰いながら日直の仕事をこなしてゆく。

 ……朝のホームルーム前の仕事を片付けた二人は並んで席に腰掛けた。

 

「それで、何か相談事?」

「さすがはアステル。話が早いですわね」

 

 くすっと小さく笑ったウェンディはアステルを見つめると、「実は……」と語り出す。

 曰く、【リード・ランゲージ】の精度を高める為に、昨晩自宅にある暗号本を読み耽ったのだが、これといった成果は得られず……。

 何度も同じ問題をしている感覚に陥りマンネリ化しそうになってしまったという。

 

「なるほどね……」

「パターンを覚えてしまえば簡単ですから、手応えがないといいますか……」

「……うーん」

 

 どうしたものか。アステルは考える。

 結局自分では解けない問題を彼女に解かせることになるのは必至なため、下手な問題は出せない。となれば……。

 

「ねぇウェンディ。悪いのだけれど今日の練習の時間を貰えないかな?」

「もちろん構いませんわ! 私の方からお願いしているのですから、そういったお気遣いはしないでくださいな?」

「はは……ありがとう」

 

 昼休み中に図書館などから資料をかき集めて自分が理解し、その上で彼女が見出しそうな結露に沿って知識を肉付けしていけばいい。

 とは言うものの決して簡単ではないはず。それでもまだ手はある。

 アステルは幾つかのアテを頭に浮かべながら、軽くウィンクして見せたウェンディへ朗らかに笑うのだった。

 

 

       ◇

 

 

 昼休みでもアステルは大忙しだった。

 図書館を駆け回り、学院内で困っていた生徒を助け、先日の講演会によって舞い込んだ国立魔術開発研究工房からの開発依頼を含めた帝国政府からの要請。生徒会長からの依頼で競技祭実行委員の手伝いを行うなどなど……。

 

「大丈夫かなぁ、アステル……」

「そうねー。少し働きすぎなんじゃないかしら。頼まれやすい体質だっていうのは知っていたけれど、生徒会長からも当てにされてるみたいだし」

 

 中庭の木陰でいつもの三人娘が集まり、ルミアはシャルと談笑しながら廊下を駆けてゆくアステルの姿を見て呟くと、読書を嗜んでいたシスティはその手を止めて視界に入って来た銀髪をかき上げ、ちらっと彼を見ながら答えた。

 一方でシャルはまじまじと二人の心配げな表情を見つめたあと、ニヤッといやらしい笑みを浮かべる。

 

「最近隠さないようになってきたよなぁ、お嬢たちも」

「うっ、うるさいわね……言われなくても分かってるわよそのくらい」

「あ、あはは……」

 

 システィは耳まで赤くなり、再び本に目を落とす。シャルは笑いつつもため息交じりに腕を頭の後ろで組み、まぁと続けた。

 

「確かにありゃ働きすぎだわな。セコンドとしての仕事をしつつ、あの生徒会長の手伝いだもんな。簡単そうにゃ聞こえるが、あの様子を見てそうは言えねーわ」

「うん……。せめて競技祭までに身体壊さないといいんだけど……」

「身体だけは頑丈なヤツだからな。そこらへんは心配ねーだろ」

 

 芝生の上に寝転がりながら素っ気なく答えるシャルに、ルミアはぷくっと頬を膨らませる。彼の事が心配だからこその話題だというのに、シャルはそれを大丈夫の一点張りで終わらせようとしているからだ。同じ幼馴染として少しばかりいら立ちが沸くのは仕方がない。

 

「シャルはアステルの事が心配じゃないんだ……」

「どーしてそんな話になるんだよっ? 一応あたしも心配してるんだぜ?」

「それでも心配を前に出すべきところよ、そこは」

「ぐっ……」

 

 拗ねたように唇を尖らせながら言ったルミアに、シャルは慌てて起き上がりながら弁明する。そこにシスティの言葉が入り、胸に槍が刺さったようにシャルは胸元を抑えながら口を噤んだ。

 観念した様にシャルははぁぁぁ、と盛大に溜息を洩らすと、伸ばした片足を曲げ、その上に腕を置きながら彼を見つめる。

 

「……あたしだって心配だよ。アイツが本当に容量限界(キャパオーバー)迎えそうになったら助けてやる。けどさ、生まれてこの方、あたしはアイツの限界ってのを知らねーんだ。もちろん目を逸らしていたわけじゃねぇ。それでもアイツは、一番しんどい時に辛そうな顔を一切見せずに歩いてきた」

 

 それに、今の彼には心の支えだってある。その中に自分もいてくれたらと淡い想いはあるものの、それを胸中に留め、表に出す事はなく……ただ彼を信じて傍にいる。

 必要な時に力を貸して。貸してもらって。己の限界を理解しながら共に歩んでいければとさえ思う。

 お互い限界(そこ)に対する甘えはなく、辿り着いた時には肩を貸せるくらいには近くに居るはず。

 そこで不意にシャルは気付く。

 

(あぁ……。居たい(・・・)のか、あたしは。そこに)

 

 居るはずなのではなく、近くに居たいと。傍に居たいと。彼と肩を並べ、肩を貸し合い、支え合いながら互いに前を向いて進みたいと。

 それが彼女、シャーリィ=メドラウトの願いであり、彼に対する想い。

 付き合いの長い少年に想いを寄せる物語はよくあるものの、まさか自分もそうだと気付くまでに十数年もかかるとは。

 目を伏せ再び盛大な溜息を吐いたシャルは、対等でありたいと望む彼を見つめた。

 髪と白衣による白い軌跡が廊下へ漂い、思わず目を追ってしまう。

 

「なんつーのかな……。理屈じゃねえんだよ。眺めてれば眺めているだけ、どんどん助けてやりてぇって気になってくる。けど、それじゃあアイツが育たねぇ。アイツが学べねえ。だから、必要な時に手を貸してやればいい。……それが、あたしなりの“支える”ってコトの意味さ」

「シャル……?」

「あなた……」

 

 気付けば二人は目を丸くしながら彼女へ振り向いており、その視線と自らがくさい台詞を吐いたことによってシャルは羞恥心に煽られ、顔を真っ赤にしてしまった。

 

「なっ、なんだよ。そんな目で見んなッ!」

「ふふっ、シャルも乙女だったんだね」

「あたしゃ元から女だ!?」

「まさかここにきてダークホース到来とはね……負けないわよ?」

「違うんだぁぁぁああああっ!!」

 

 くすくすとほほ笑むルミアに乗ってシスティも好戦的な視線をシャルへ送る。

 思わず自分の本心を語ってしまったシャルは、恥ずかしさのあまり脱兎の如くその場から逃げ出すのだった……。




~あとがきのコーナー~
なんちゃってお芝居
※キャラ崩壊注意、動画の耳コピです。めちゃ長い
『ソードマスターシャーリィ 誤植編』


システィ@作者:もうっ! なんなのよこれ!? 担当に文句言ってやるわっ!!
アステル&クロノス:翌日~(子供っぽい声で)
システィ:レーダスさん!? 酷いじゃないですか! 読みましたよ今月号の私の漫画!
グレン@編集:え? 酷いって物語(ストーリー)が?
システィ:ぐ……え……!? 違いますよ! 誤植ですよ誤植! 台詞の文字が間違っているんですよ!
グレン:えーほんとにー? どこどこ何ページ目?
システィ:ほら、シャーリィが四天王の一人ジャティスに挑む前の会話で「アイツだけは許さねぇ」って最高にカッコイイ台詞が

シャル:『パンツだけは…許さない!』

システィ:酷いですよこれ!? 
グレン:あっ、ほんとだw やっちゃった☆(テヘペロ)
システィ:いや「やっちゃった☆」じゃないですよもうっ! 主人公がいきなりノーパン趣味に目覚めちゃったみたいじゃないですか!?
グレン:HAHAHA☆
システィ:「HAHAHA」ァ!? どうしてご機嫌なんですか!? 誤植はここだけじゃないんですよ!
グレン:え~ほんとー? どこどこ?
システィ:主人公が暗い過去を語って「オレの憎しみは消えないんだ……」って決意を新たにする超渋いシーンで

シャル:『オレの肉しみは消えないんだ……!』

グレン:あ、ホントだ帝国語間違ってる。やっちゃった☆
システィ:いやだから「やっちゃった☆」じゃないですよちょっと!?
グレン:HAHAHA肉しみってちょっと何?w 脂汗? ハッハッハww
システィ:「HAHAHA」じゃないですよなんでそんなに上機嫌なんですか!?
グレン:いやぁ~実は先日彼女が出来ちゃって♪(※本編ではまだお付き合いされてません)
システィ:え? ほんとですかよかったですね? でもこちとら全然良くないんですよまだ誤植あるんですよっ!!
グレン:え~どこどこ? 
システィ:ほら、ついに現れた四天王のジャティスが「お前がシャーリィか!」っていう超緊迫した場面で

ジャティス:『お前はトマトか!』

グレン:あ、ほんとだw 
システィ:『お前はトマトか!』ってなんですか!? どんなボケをしたらそういうツッコミが返ってくるんですかもぉおお~~~っ!! また「やっちゃった☆」とか言わないでくださいよ!?
グレン:やっちゃったZE☆
システィ:いや「やっちゃったZE☆」じゃないですよ! なにちょっとカッコイイ言い方してるんですか!? 誤植はまだあるんですよ!!
グレン:え~どこどこぉ? 彼女居ない歴ゼロ年の僕が一体どんな間違いを~?
システィ:その次のコマですよ!! シャーリィが「オレがシャーリィだ!」って言う超クールなシーンが

シャル:『オレはポテトだ!!』

システィ:なんで主人公がいきなりお芋宣言してるんですかぁぁ!!
グレン:あ~ほんとだ間違ってる
システィ:間違えすぎです!!
グレン:HAHAHAやっちゃったZE☆
システィ:格好良く言わないでください? 気に入ったんですかその言い方?!
グレン:気に入ったんだZE☆ 取っちゃやだZE☆
システィ:取りませんよそんな喋り方ァ!! それよりももっとあるんですよ誤植ゥ!!
グレン:えぇ~まだあるの? どの辺なんだZE?
システィ:どの辺なんだZE!? そんな無理に言わなくても……最後ですよ最後のページ! シャーリィが「オレの新しい技を見せてやる!」っていう超ドキドキのシーンですよ!!
グレン:どれどr……

シャル:『オレの新しい脇を見せてやる!!』

グレン:あ、ほんとだやっちゃったZE☆
システィ:なんですか新しい脇って!?
グレン:ごめ~ん彼女の事で頭がいっぱいでついうっかり……
システィ:しかももっと酷い誤植が最後のコマにあるんですよ! シャーリィが赤雷の剣を構えて「うおおぉぉーっ!」って突っ込む所ですよ!!
グレン:えぇー? そんな台詞間違えないと思うけど
システィ:間違えてるんですよ!!

シャル:『まそっぷ』

システィ:なんですか「まそっぷ」って!? もー意味わかんないししかもこのコマについてる煽り文句!
グレン:『彼女が出来ました~♪』
システィ:何自慢してるんですか!!?
グレン:やっちゃったZE☆
システィ:「やっちゃったZE☆」じゃないでしょ!? 煽り文は自慢したくてつい言っちゃっただけでしょ!? 
グレン:言っちゃったZE☆
システィ:だから「言っちゃったZE☆」じゃなくてはぁぁ~~~もぉぉぉおおお~~~っ! なんかもぉぉぉっ!! やってられないんだZE!!
グレン:ごめんネだZE☆


『ソードマスターシャーリィ 完結編』

クロノス@担当役:もしもし、月間フェジテのクロノス=ガラードです。お疲れ様です
システィ:え? ガラードさん?
クロノス:今日から僕がソードマスターシャーリィの担当になりました。よろしくお願いします
システィ:え、あの、レーダスさんは?
クロノス:亡くなりました
システィ:うそォォオ―――!? な、なんで?
クロノス:実は初めて出来た彼女と初デートの前に作者から付き合う設定の添削があったようで
システィ:ええぇ……それで自ら命を?
クロノス:いえショック死です
システィ:ショック死!?
クロノス:なんか仕事中に彼女から別れのメールが来て「ありえないんだZE!!」と叫んでバタンとぶっ倒れました
システィ:最期までその喋り方だったんですか
クロノス:それで仕事の話に戻しますが、ソードマスターシャーリィ、来月号で最終回ですので
システィ:うそォォォオオオオ――――――ッッ!?
クロノス:悪く言えば打ち切りですね
システィ:わざわざ悪く言わないでください!?
クロノス:もともとあまり人気がありませんでしたが、今月号ぶっちぎりで不人気だったんですよ。ReLさんの「よっこらタルトちゃん」より人気なかったです
システィ:マジですか!? でも急に最終回とか言われても困りますよ! 私の漫画、やっと盛り上がってきたところなのに……。四天王とか出てきて!
クロノス:戦いはこれからも続くーみたいな終わり方でいいじゃないですか
システィ:そういう終わり方ってよくありますけど、私の漫画の場合敵のボスのフェロードに主人公の両親が捕まってるじゃないですか! しかも食事は一日にパン一枚で地獄の様な労働を強いられているんですよ!?
クロノス:よっこらタルトちゃんと被ってますね
システィ:いや全然被ってないですよ!? とにかくそういう訳で、フェロードを倒さないとスッキリしないっていうか……
クロノス:そうですね……
システィ:しかもその為には色々条件があって、(以下略)
クロノス:どうしてそんな面倒な設定に……
システィ:十話くらい引っ張ろうとおもって……。あと主人公に生き別れの妹がいるらしいことを第一話からほのめかせているんですが、これどうしましょう?
クロノス:さあ……まあうまくまとめてください
システィ:はあ……(新しい担当なんだか冷たい……)。で、そのページは何ページ貰えるんですか?
クロノス:3ページでお願いします
システィ:うそォォォオオオオ――――――ッッ!? なんで私そんなにひどい扱いなんですか!?
クロノス:本当人気なくて……
システィ:四コマ漫画の「よっこらタルトちゃん」だって毎回4ページあるのに!?
クロノス:「よっこらタルトちゃん」も次回で最終回です
システィ:え、そうなんですか? タルトちゃんの最終回は何ページなんですか?

クロノス:4ページです

システィ:チクショォォ――――――――――ッ!! も、もう月間フェジテでは、書きません゙から゙ね゙!
クロノス:はい


ソードマスターシャーリィ 最終話
希望を胸に すべてを終わらせる時…!


シャーリィ「チクショオオオオ! くらえジャティス! 新必殺・魔人千裂衝!!」
ジャティス「さあ来いシャーリィィイイイ! 僕は実は一回刺されただけで死ぬぞォォオオッ!」
(ザン)
ジャティス「グアアアア! こ このザ・フジミと呼ばれる四天王のジャティスが…こんな小娘に……バ……バカなアアアア――!!」
(ドドドドド)
ジャティス「グアアアアッ!」
四天王A「ジャティスがやられたようだな…」
四天王B「ククク…奴は四天王の中でも最弱…」
四天王C「人間ごときに負けるとは我らの面汚しよ…」
シャーリィ「くらえええ!」
(ズサ)
3人「グアアアアアアアッ!」
シャーリィ「やった…ついに四天王を倒したぞ…これでフェロードのいる魔神城の扉が開かれる!!」
フェロード「よく来たなソードマスターシャーリィ…待っていたぞ…」
(ギイイイイイイ)
シャーリィ「こ…ここが魔神城だったのか…!感じる…フェロードの魔力を…」
フェロード「シャーリィよ…戦う前に一つ言っておくことがある お前は私を倒すのに『聖剣』が必要だと思っているようだが…別になくても倒せる」
シャーリィ「な 何だって!?」
フェロード「そして奴らはやせてきたのでむしゃむしゃしておいた あとは私を倒すだけだなクックック…」
(ゴゴゴゴ)
シャーリィ「クク……上等だ……オレも一つ言っておくことがある アステル(!?)は実の妹だと思っていたがそんなことはなかったぜ!」
フェロード「そうか」
シャーリィ「ウオオオいくぞオオオ!」
フェロード「さあ来いシャーリィ!」

シャーリィの勇気が世界を救うと信じて…! ご愛読ありがとうございました!





セラ@手で布団叩きをトントン:グレンくーん……何か言うことは?
グレン:あの、ちょ、セラさんお待ちを。ちょっとした出来心でして……


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