今回からオリジナル展開要素ぶちこみました、ほんとすみません……。
しっかり原作に沿った形で進ませますので、どうか今後もよろしくお願いします。
セリカplus様、お気に入り登録ありがとうございます!
まさか教授から御登録いただけるとは……!(笑) これからも頑張ります!
今回は昨晩のグレセラいちゃこらの後から始まります。
◇Side システィーナ◇
セラにこってりと絞られた翌朝。システィはいつもより一時間半ほど早く起床し、身嗜みを整えるなどしたあと、一階のキッチンへと向う。
朝日が上がり切る前のこの時間帯でも、構わず屋敷の庭からは甲高い金属音が響いている。
ちら、と窓の外を見れば、幼馴染と共に鍛錬を行う想い人、アステル=ガラードの姿があり、笑顔で何合も打ち合っている二人をしばしぼーっと眺めてしまい、ハッと自分の目的を思い出してキッチンへ急ぐ。
すでにそこには当家のメイド長、セラの姿があり、笑顔で挨拶をしてくれたことから昨晩の怒りは静まったらしい。
システィは若干引き気味に挨拶を返すと、最近購入したアステルのエプロンを肩に掛けながらセラのお手伝いを買って出る。
「あれ? システィちゃんがお手伝いしてくれるなんて……」
「あはは……。いつもはアステルやシャルがやってくれてるから、たまにはと思って」
彼女の本心はそこではないのだが、なんとか誤魔化しを利かせながら朝食の下拵えを行うなど、その作業段階の合間に簡単なサンドイッチを作ってゆく。
流石に具材を挟んでいたあたりでセラにも気付かれ、ニヤニヤとえらく上機嫌で笑われる。
「ふふっ、そのサンドイッチ、誰にあげるのかな~? お姉さん、ちょっと気になるなぁ~♪」
「うう……セ、セラさんこそグレン先生にあげるお弁当、どうなんですかっ? ひょっとしてもう出来ちゃってたり……?」
「ううん、まだ作ってないよ? 私もサンドイッチにしようかなー」
システィは装えていないポーカーフェイスを気取りながら対抗するも、成す術もなくセラと共にお弁当作りに着手する。
流石は料理上手であり、我が家のメイド長。手際よくサンドイッチを作り上げてゆく。紙で包まれた状態のサンドイッチをまな板で均等に圧を掛けることで、具材を均等に馴染ませる。
五分ほど時間が空くので、その間にウィンナーなどを焼いていると、お弁当用の小さなバスケットを二つ分、棚から取り出すセラに、
「それで、本当にどうしたの?」
「……はい」
自分の目的を聞かれる。
システィは待っていましたとばかりに火を止め、フライパン返しをキッチンのシンクに置きながら、真剣な表情でセラへと向き直った。
そして、彼女へと頭を下げる。
「セラさん、お願いします……。私に、戦い方を教えてください」
「……ひとつ、聞いてもいいかな?」
「はい」
「どうして、私なの?」
いつもの明るいセラとは打って違う、真剣な声音で諭すように尋ねる彼女に、システィは頭を上げ、同じように真剣な瞳で彼女を見つめた。
セラは魔術が使えない。なぜなら、魔術の行使に最も重要な左腕には、彼女が重症を負ったことに因る後遺症が残り、魔力を通すための
だからこそ、セラは訪ねた。もう魔術を扱えない自分を、どうして選ぶのか。
「強くなりたい、という気持ちはもちろんあります。でも私……セラさんが好きなんです」
「……え?」
「いつも笑顔でいてくれて、私達が間違ったことをすると叱ってくれる。そんな優しくて強い貴女に、私は憧れた。どんなに重く辛い過去を背負っていても、いつも私達には笑いかけてくれた貴女に感謝しているんです。そして私は、そんな貴女をもっと知っていきたい。メイドと雇い主の娘という間柄だけじゃなく、一人の人間として。魔術師の卵として。セラ=シルヴァースという魔術師の存在が、どれだけ大きなものだったのかを」
「システィちゃん……」
「たとえセラさんがどんな過去を背負っていても、私にとってセラさんはセラさんです。そして、私は貴女のようになりたいのではなく、システィーナ=フィーベルとして。貴女という魔術師を理解したうえで、貴女と付き合っていきたい。おこがましいかもしれないけれど、その為に、貴女の技術を私に教えてください」
システィはセラの後を追い、そして彼女を真の意味で理解するために魔術を習いたいと、そう言ったのだ。
そしてそれは、セラという存在を受け入れる為に必要なことでもある。
確かに主従の絆はあるだろう。姉妹のような絆も、彼女達は出会った一年と数か月で育んできたはず。
だからこそ、システィーナ=フィーベルという少女は、更に彼女へ踏み込もうとしている。
自分の為だけではなく、フィーベル家に住まう人々の気持ちを代弁する形で。
言外の意味を理解したセラは、思わず口元を抑え眦に涙が溜まってゆく。
ここまで自分を理解してくれようと思ってくれる人物に再び出会えたこと。そして、彼女の気持ちに自分が影響を与えたことで生まれ始める新しい“師弟”という絆の形に、喜ばずにはいられなかった。
「……それだけじゃ、ダメですか……? ――って、どうして泣いてるんですかっ!?」
「だ、大丈夫……。嬉しくって、つい……」
えっ、嘘私泣かせるような事言っちゃった……!? と呟きながらあたふたするシスティを見て、セラは目じりに溜った涙を拭いながらふふっと微笑む。
彼女はシスティの肩に手を伸ばし、ぽんっと両手を置いたあと、
「――
初めて彼女を呼び捨てにしながらも、システィを抱き締めた。
「そんな、私の
「それでも、だよ? それじゃあ、今日ばかりは流石に準備をさせてもらえるかな?」
「大丈夫です!」
「うんっ。なら、明日から訓練を始めよっか」
「――はいっ! よろしくお願いします!」
システィの輝かんばかりの笑みを見たセラは大きく頷き、新たな距離感に嬉しさを覚えながらも、その日の朝食とお弁当は出来上がるのだった。
◇Side アステル◇
そんな一幕があったとは知らず。アステルはパンにベーコンと目玉焼きを乗せて早々に学院へ登校。生徒会長のリゼ=フィルマー経由で学内依頼として『魔術競技祭実行委員の全補助』を頼まれ、実行委員の彼らから『開催に必要な備品の点検・消耗品の在庫確認』を。クラスのセコンドとして『飛行競争』に出場するロッドとカイ、『決闘戦』に出るカッシュの朝練に始業まで付き合う予定になっていた。
朝の七時を過ぎた頃には、白衣に袖を通したアステルが学院内にある埃くさい大倉庫に居り、実行委員から渡された木製の板に紙を挟んで備品の在庫確認と、会場に必要なテントの骨組み、その本数や劣化具合を確認している。
薄暗い屋内でも難無く見える様、アステルは独自の錬金法で苔と石同士をぶつけ合わせることで光を発する鉱石を混合。ぐに、と丸まった苔を親指で一刺ししてやれば発光する『ヒカリゴケ』をランタンの中に突っ込みながら、倉庫内を見回ってゆく。
「……これでよし、と」
指差し確認、と呟いたアステルは一つ息を吐いて在庫の個数確認を終えると、大倉庫にしっかりと施錠を施しながらその場を後にする。
道中で不自然な喉の痛みを感じた彼は水道でうがいと手洗いを行いつつ、金色の懐中時計を見れば、分針はすでに二十分ほどを指している。そろそろカッシュ達も登校する頃合いだろうと思い、二年次生二組の教室へと向かった。
しかし、すでにそこには男子生徒達の荷物が机の上に置かれており、教室の窓から外を見れば中庭で準備運動をしている三人の姿があった。
『おせーよ、アステルー!』
「ごめんごめん! 遅れた!」
手を振って中庭から大声で叫んだカッシュにアステルは手を振り返して、自分も荷物を置いて急ぎ中庭へと向かう。
そして、中庭を覗けるベンチには、暗号解読の教本を広げたウェンディが腰かけており、集まってくれた皆にアステルは再び遅れたことを謝罪した。
「なーに気にすんなって! そんな埃だらけの白衣見せられちゃ、何かしてきたってのは分かるからさ!」
「そうだよ、オレらにも手伝えることがあったらいつでも言ってくれな?」
「アステル一人では難しいこともあるのではなくて? 私達も頼ってくださいな」
「はは……ありがとう、みんな。その時はお願いさせてもらうよ」
なら良しっ! と元気よく頷いた面々に、アステルは意気込んで拳を空へ掲げる。
「本番まで残り六日。ここからは時間との勝負のはず。カッシュは特に慣れない競技に出る事になるから、調整はグレン先生にも見てもらわないといけない。色々と課題はあるけれど――みんな、頑張っていこう!」
『おーっ!』
「……やれやれ、朝っぱらからスポ根かよ」
そんな彼らへと水を差すように、同学年の一組――ハーレイの担当するクラスの生徒、クライスが肩を竦めながら現れ、カッシュ達は険しい顔つきになる。
以前からクライスという少年は二組に対して対抗意識があるようで、今回の魔術競技祭は学院の中でもビッグイベント。各クラスで一位を奪い合うという、闘争心が顕著に表れるこの時期も相まって、その嫌味交じりの煽りは鋭さを増していた。
そして何よりも昨日のグレンとハーレイに於ける『賭け発言』によって、更に牽制の度合いも強くなっている。
そればかりはアステルも回避不能であり、師であるハーレイの『アステルを出場させない』『何故お前も出場しないのだ、出場する意思はあったのだろう』というモンスターペアレントならぬモンスターマスター発言によって言葉を噤まざるを得なかったのだ。
まさに板挟みの状況である中、グレンの『この編成はアステルが考えたウチの最強の布陣なんスよ』発言によってフォローされ、一層怒りを露わにしたハーレイがそれを『構想した者がいない編成などありえん!』と全否定。なら賭けをしようという話になったのである。
「競技祭もテストと同じだろ? 元から弱い奴が何をしたって、たった一週間の練習でクラス内トップの人間に勝てるわけないだろうが!」
「お前!?」
「そんな言い方……っ! あんまりですわ!」
「やってみなきゃ分からないじゃないか!」
「カッシュ。みんなも落ち着いて」
クライスの煽りにカッシュを筆頭とした面々が怒りだし、アステルは腕を伸ばして彼らを制す形で静かに引き留めた。
「――っ。すまん」
「いいんだ。みんなの気持ちは痛いほど分かる」
「ハッ……魔術もマトモに使えないヤツの言葉で引き下がっちまうのかよ?」
「なんだとテメエ――!?」
「カッシュ!」
「まったく傑作だよな、ガラード!?
「……っ」
「~~~ッ! もう我慢ならねえっ! ダチを悪く言われて黙ってられるか!! アステル、お前がやらないのなら俺が――ッ!!」
「抑えてカッシュ! ここは我慢だ!」
アステルが必至にカッシュを羽交い絞めにしながら抑えにかかる。しかし、その後ろには怒りを孕んだ瞳できつくクライスを睨み付けるロッド達の姿があった。
「ほぉ~らほら、凶暴な犬が脱走しそうになってるぞー!? ちゃんと鎖で繋いどけよガラード!」
「……君もそこまでにしたらどうだ。確かに僕は魔術を皆の様には扱えない、魔術師として欠陥だらけの存在だろう」
嘲笑う様に自分の腹を抱えながら爆笑するクライスに、アステルは息を荒くしたカッシュを抑えながらも眼を伏せる。
そして自分は魔術師として欠陥品だと認めた言葉を放った途端、クライスの視線が更に愉快に歪んでゆく。
しかし、「けれど」とアステルは言葉を紡いだ途端、彼の眉間に皺が寄り、「あ?」と口を開け、彼が更に言葉を繋ぐという予想外な事態に苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。
「それでも僕は魔術を扱えている。自分なりの使い方で人の役に立てる事の何が悪い? 魔術とは、人の心を突き詰める
「っ……!!」
「もしもそれで君達が勝ったというのなら、潔く僕はこの学院を去ろう。けれど、僕らが勝った時には――今の、僕の大事なクラスメイト達を貶した言葉だけは絶対に取り消してもらう」
「――ッ!?」
アステルから発せられた言葉の威圧感は凄まじく、まるで怒り狂った龍の様に荒々しく襲い掛かる。今まで嘲笑を浮かべていたクライスの顔に他人を卑下する意思の欠片もなかった。
――殺される。
恐らく今までの人生で一度も経験したことのない、明確な“恐怖の根源”が目の前に在る。それを悟ったクライスは顔を引き攣らせながらその場に尻もちを突き、悲鳴を上げ脱兎の如く逃げ出してゆく。
アステルはふう、と一つ息を吐くと、怒気も同様にそよ風の様にどこかへ吹きやられてしまう。
「カッシュ、カッシュ。終わったよ」
「あ、あぁ……?」
まるで背中から鋭い刃を突き付けられたような感覚だったカッシュの頬に冷や汗が伝い、ゆっくりと怒気を沈めてゆく。
そして後ろを振り返れば、怯えるように両腕をさするロッドとカイ、そして顔を真っ青にして口をパクパクさせていたウェンディと視線を合わせ、こくこくと頷き合う。
「さて、それじゃあ気を取り直して。練習を始めよう!」
「そ、そうですわね!」
「お、おおおうっ! あんなヤツに負けてたまるかよ!」
「はは、頼もしいね」
「ああ任せとけ! 決闘戦で捻り潰してやるぜ!!」
先ほどの事などまるでなかったように、それぞれが意気込んでゆく姿を見て安心しながら微笑むアステル。
いつもは穏やかで笑顔の印象が強い人物を怒らせると此処まで恐ろしいのか、という事を彼らは痛感するのであった。
「やれやれ……俺が入ることもなかったみてーだな」
そして昨晩の出来事を尋ねようと思い、早めに出勤したグレンは、大倉庫から追っていたアステル達のやり取りを物陰に隠れ見守ったあと、競技祭の準備等に刈られていることに納得し、静かにその場を去る。
(怒ることもあるんだなぁ、アイツも)
先ほど見せたアステルの、友達の悪口を言われたことで、静かに怒っていた彼の表情を思い出しながらニヤリと笑う。
(やっぱ、お前は
せめて以前の様な事件に見舞われないことを祈りつつ、グレンはアステルの行き着く先を想像しながら教室へと向かうのだった。
◇
昼休みに頼まれた仕事を片付け、食堂へ向かったアステルを見つけ、呼び出したグレンは揃って魔術実験室の準備室へと向かう。
その場には何故かシスティが付いてきており、彼女の手にも緑色のハンカチで包まれた弁当箱が握られている。
「なんで白猫まで付いてくるんだよ。こっからは男同士の会話なんだぜ?」
「正直先生とアステルを二人きりにさせたら、何をしだすか分かったものではないので」
「あんだとっ!? 少しは担任講師を信じろよ! いや信じてください!?」
「イヤです!? とくにアステル絡みとなれば先生いっつも暴走するんですから!?」
「はは……。そんなこと言わないでくださいよ、先生。システィも落ち着いて? 何か伝えたいことがあるんだよね?」
グレンが一つ言葉を発せばシスティが噛みつくように反論する。そんな様子を席を勧めコーヒーの準備をしているアステルがフォローすると、システィは内緒事がバレた子供の様にしゅんとしてアステルへ向き直った。
「う……分かる?」
「分かるよ。でも悪いことじゃなさそう」
アステルはくすりとほほ笑みながら二人へミルク入りのコーヒーを出し、すでにセラ特製の弁当であるサンドイッチ入りのバスケットを広げていたグレンはそれを片手で受け取り、飲みながら「ほーん?」と呟く。
「一体なんの話だよ? 授業は最近マトモにやってんだろー?」
「ええ……。それについては色々と聞きたいこともあるんですが、今日は別件で」
「……別件?」
「はい。あの……私、セラさんに師事することにしました」
「………。……………はっ?」
たっぷり数十秒フリーズし、ぽろっと彼の手に握られたサンドイッチがバスケットの中へと落ちる。そして口をあんぐり開けたグレンは彼女へと向き直った。
事の真意を問おうと食事の手を止めたグレンに、システィはアステルから受け取ったマグカップをテーブルに置き、決意の籠った瞳で彼を見つめ返す。
アステルも彼女の言葉に驚きつつ、二人の間でそのやりとりを見守ることにした。
「それは……本気で言ってんのか?」
「本気でなければこんなタイミングで言うわけないじゃないですか」
「……だよな。しかしどうして今更白犬に」
「私も、彼女が好きだから。今までも所々でセラさんの過去を知ってきました。でも、それだけじゃ足りないと感じてしまって。魔術師としてのセラさんはどんな人だったのか、私個人としても、識りたいと思ったんです」
「お前……」
「あなたがセラさんの元同僚で、どんな仕事をしてきたのかは知っています。けれど、ただそれは知識としてそこに在るだけで、理解には至れていない……。それを成し遂げる為に、私はセラさんからも魔術を学びたいんです」
「……そうかい」
グレンははぁ~っと溜息交じりに納得の声を上げると、彼は椅子の背もたれに身体を預けながら、アステルの淹れたコーヒーに手を付ける。
「……白犬は風の魔術が得意だったからな。同じ属性の先輩が居るってだけで学びやすいこともあるだろ」
「えっ、そうなんですか!?」
「なんだよ。お前知らなかったのか?」
「は、はい……。その、セラさんの魔術の話はあまり聞けなかったので……」
「ああいった現場で、自分の得意分野を自慢げに話す奴はいねーからな。弱点が漏れれば即、命取りになる。覚えときな」
「なるほど……」
「まあ、なんだ。……アイツはかなり面倒見がいいからな。相性はいいんじゃねーの? ――励めよ、白猫」
「――はいっ!」
憂いの無くなったシスティの笑顔を、まるで眩い物を見る様に目を細めながら眺めたグレンはコーヒーを口に含んで嚥下する。
話は終わり、といった雰囲気が流れ出し、アステルはいよいよシスティと共にお手製の弁当箱を広げると、中にはグレンと似たようなサンドイッチが詰められていた。
「あんだよ、俺と同じかー? 摘まめねーじゃん」
「あはは……出来上がったキッチンが同じなので、メニューは似たり寄ったりで……ですから摘ままないでくださいね、先生?」
「わーったよ」
苦笑を浮かべながらグレンにくぎを刺すシスティを見て、アステルは苦笑を浮かべながら合掌し、「いただきます」と言って手を付ける。
均等に馴染んだ卵サンドは、咀嚼するごとにパンの甘味が引き出され、卵の塩加減も絶妙。アステルは唸る様に嚥下すると、隣に座ったシスティは彼の感想を待っているのかその様子をまじまじと見ていた。
「美味しいよ。ありがとうシスティ」
「そ、そう……。よかったぁ」
「ん? っつーとこれは白猫の手作りか?」
「先生のはセラさんでーす」
「あ、そ」
つーんっと顔をそっぽに向けたシスティはそう言うと、グレンもそっけなく応え、持ち直したサンドイッチを見つめる。
このままではグレン先生の気分次第で何か追撃が来るかもしれないと思い、アステルは額に脂汗を流しながら「へ、へぇ~」と声を上げフォローに徹した。
「二人で作ったんだ?」
「ええ。アステルも昨日はバタバタしててあまりご飯食べられなかったじゃない? お弁当なら好きな時に食べられると思ったのよ」
「……愛だねぇ」
「なっ……そっ、そそそそんなんじゃないですよ!!」
しみじみと語りつつ、口角を上げセラ特製のサンドイッチを頬張るグレンに、システィは首筋まで赤くしながら否定する。
(あぁ、いつもの光景だ)
アステルはくすっと笑いながら次のサンドイッチに手を出し始め、ゆっくりとした昼休みは過ぎてゆくのだった。
◇Side セラ◇
「ん、しょっと……」
一方フィーベル邸では、セラ=シルヴァースが使用人として与えられた、自身の部屋の片隅に置いてあったトランクを開いていた。
その中には、もう使う事もあまりなくなった魔術道具などが詰められている。
風の魔術を使用していた彼女には風霊魔術などを使用する為に小道具が多かった。
以前に使用した時と言えば、この屋敷に住まう子供達が魔術学院に入学するための教材として使用するくらいだっただろうか。
「……ふふっ」
たった一年ほど前だというのに、何故か不思議と懐かしさを覚えたセラ。思わず笑みが漏れる。
純粋に魔術についての知識を深めようとする子供達の瞳が、あんなにも綺麗に見えた。
過去形になってしまったものの、今でもその瞳は変わらずにいる。
ただ、魔術の知識を深め目を輝かせてくれたあの瞬間ばかりは、彼女にとってもう見ることはできない光景だろう。
「(すごいなぁ、グレン君は)」
微笑み交じりに、そんな呟きがぽつりと出た。
なぜなら今その中心には、かつてセラの相方であったグレンの姿があるのだから。
魔術の使えない臨時講師よりも、今も扱えて、様々な角度から見ている彼のもとで学んでいる。
それが自分事の様に嬉しくもあり、日々育ってゆく子供達を見守ってゆく。
少し寂しいけれど、親の気持ちを自分も勉強していると思えば前向きに考えることができた。
「あ……。あった」
セラはトランクの底深くに眠っていた、年季の入った古い長方形の木箱を取り出す。
中の物が出ない様に紅い紐で結い、紐の片方に付いた鈴が揺れ、リン、という小さな音が鳴ると同時にセラはその紐を解いた。
そして、特務分室時代に使用していた愛剣が姿を現し、彼女はその鍔無しの剣を引き抜く。
鍔のない淡いセルリアンブルー色の柄から徐々に色を無くし、白銀へと徐々に色を変えた刀身。
長さとしては片手剣と短剣の中間地点といったところか。少女が振るうにしても最適なサイズであり、それでいて刀身も細身の為に扱いやすい代物だった。
彼女は刃
再び自分に教えを請いてくれた少女の期待には応えたい。
だがこれからの時代、そうも言っていられなくなるだろう。
憂いを帯びた瞳を振り払ったセラは、その《精霊剣》が収まった柄を抱き締め、たくさんの想いを籠める。
「どうか、あの子達が健やかに育ち、無事に思うがままの道へと巣立ってゆけますように……」
目を閉じ心の底から願った彼女の呟きに応じてか、もしくは偶然か。彼女の後ろにある窓から優しい風が吹き込む。
はっとして振り返れば何もない、普通の街の光景。しかし微かでも、その“存在”を感じ取れたセラはふふっと優しく微笑むのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
最近文字数が若干少なくなっています……オリ要素入れているのでこれから!という時なのにすみません……!
というわけで簡単に作中に出た“精霊剣”について触れます。
精霊剣:セラの私物であった儀礼用の刀剣。
鍔のないシンプルな形状であり、扱い方は短剣から片手剣まで様々なアクションが掛けられる。使い手のセラは舞う様にこの剣を扱う事から簡易的な儀式魔術も使用可能であった。
ある種セラさん全盛期の強化要素として登場させました。そしてグレン先生に師事するのはまさかのあの子になります。……大丈夫だよねアステル?(滝汗)
次回以降も今回の精霊剣について触れつつ、魔術競技祭直前まで行きます。どうか今後も、よろしくお願いします!