明後日からついに12月ですね……。ポッキーの日とか11月28日(いいニーハイの日)にグレンの聖なる探索が出せなかった……悔しいっ!!
二巻の途中でも番外編でクリスマス編は書きたいと考えてます(ちなみに誰ルートとか関係なしに。来年まで続くと思うので来年には各ルート書ければと思います)。よろしくお願いします!
そしてお気に入りも30に近づいて参りました……! 本当に嬉しい限りですっ! ありがとうございます!!
ゴドウィン将軍様、魅華様、正宗03698様、お気に入りご登録ありがとうございます!
二巻終了は年明けになりそうですが、頑張って書きますので年末年始もどうかよろしくお願いしまーす!
それでは最新話をご覧あれっ!!
◇Side セラ◇
学院の敷地内北東部に座する魔術競技場。
石造りの円形闘技場が、本日のメインイベントである魔術競技祭が行われる舞台となっていた。
中央には芝生が敷き詰められ、三層構造の観客席は外側へ向けて高くなっている仕様であり、最も高くなっている見晴らしの良いバルコニー型の貴賓席には女王陛下の御姿が覗かれている。
生徒達は恐らく選手入場口に整列しており、今か今かとその晴れ舞台へ立つ瞬間を待っていることだろう。
魔術競技祭は学年次毎のクラス対抗戦。一年を通して三度行われるそれは、一年、二年、三年次生の三つの部が存在することになる。今回開催されるのは二年次生の部であり、更に今回の二年次生の競技祭のみに限り、女王陛下自らが表彰台に立ち、優勝クラスに勲章を直接下賜するという帝国に住まう民ならば誰もが羨むような名誉が与えられることになっていた。
そんな誰もがその栄誉を手にしたい思いで一杯の中、グレン率いる二年次生二組は生徒全員を参加させるという平等出場。
アステルの出場枠はなかったものの、セコンドと呼ばれるクラスの中心であり指令塔という重大な役割を担っており、ハーレイ以外の講師からは「勝負を棄てた」「魔術師の風上にも置けない男」などと酷評されており、編成者はアステルであることを知っていたハーレイは、心労からか己が毛髪は風に吹かれれば数本抜けていくという事態にまで陥っており、胃の痛みからここ数日食事がまともに喉を通っていなかった。勿論彼もプロの魔術講師。生徒の前では毅然とした態度で振舞っているが、歩く事に抜けてゆく髪を目撃した生徒からは哀れみの視線が送られていたのは、語るまでもないだろう。
(大丈夫かなぁ、みんな……)
すでに場が温まり切っている観客席で、セラは一人膝上に大きめのバスケットと水筒を抱きながら不安げに会場の中心部を見つめていた。
「(グレン君は忘れ物しちゃうし、アステルくんもアステルくんで剣忘れちゃうし……ぶつぶつぶつ……)」
「お、おい母さん……あそこのお姉さんずっと独り言ばかりしてるけど大丈夫なのか……?」
「だ~いじょうぶよぉ。きっと弟さんか妹さんが女王陛下の前に出るもんだから心配なのさね」
「そうかぁ……。弟妹思いのいい姉ちゃんなんだなぁ………」
ぐずり、と近くに居た夫婦のうち旦那の方が鼻を大きくすする音が聞こえ、それに気づいたセラはハッとして辺りを見回した後、愛想笑いを浮かべるのだった。
◇
所替わり、選手入場口。
そこにはいつもより硬い表情を浮かべる生徒と講師達の姿がある。
それぞれが緊張した面持ちの中、特に目を引くのはアステルだった。他の生徒とは異なる服装であり、その腰には細剣とは異なる刃渡りの広い剣であるロングソードを佩いており、講師としての身分を表す黒い外套に身を包んだグレンやシスティと共にクラスメイト達を鼓舞している。
競技場への移動中に実行委員から呼び出され、魔術の拡声音響器の調子が悪い、入場整理が追いつかない、迷子の子が出た……などなど、挙げればキリがないほどよく起こりうる様々なアクシデントへの対応に追われていた。
さらに追い打ちをかける様に彼はこの後の開会式で選手宣誓を行う事になっており、その後各競技に入るまでは選手達の最終調整や、各競技に沿ったフィールドの設営をする為に管理室への指示を飛ばすなど。昼休みには食事もそこそこに、生徒会長からの依頼で本館で行っている出店の視察を兼ねて問題が起こった場合の対応役を、他にも出店に於いて食品や道具などを提供してくれた一般の雑貨屋を始め各店舗の店主やオーナーへの挨拶を行うといった、これでもかというくらい凝縮されたスケジュールが待っているのである。
午後の競技に入ればピークタイムを終えた後輩と先輩が駆けつけてくれるとのことだったが、開会式までの短い時間でもこのアクシデントの数々。キャパオーバーを起こして混乱する実行委員も少なからず発生することは容易に予想できた。
「(ねえシャル。アステルの顔……)」
「(ああ……。悪い予感ってのは当たるもんだぜ。ありゃ悪い兆候だ)」
二列で隣り合ったルミアとシャルは、前方でクラスメイトへ緊張を和らげるべく語りかけているアステルの様子にいち早く気付いていた。
先ほどのアクシデントの対応に追われていたからか、汗によって目元のファンデーションが落ちかけている。昨晩はルミア監視のもと睡眠を摂ったアステルだったが、一晩だけでは隈は取れなかったのは一目瞭然である。
流石は幼馴染であり、この数年を共に歩んできた者達。更にルミアは彼が隈を作るほど現状の仕事に忙殺されていることを知っている為、心配の度合いが違う。
「ルミア、シャル」
そんな二人の心配などつゆ知らず。アステルはいつも通りの明るい表情を浮かべながら二人へ歩み寄り、「今日は頑張ろう」と言って来る。
正直周りの雰囲気からその言葉に応じなければならないというのをルミア達は理解してはいるものの、表情は不安の色が出ている。アステルは一瞬彼女の表情が理解できなかったものの、すぐに悟った。
「大丈夫。昨日はちゃんと眠れたし、強壮剤は飲んできたから」
「いやそれただのドーピングじゃ……。ねぇアステル、そういうことじゃないんだよ?」
「ま、まぁ……。でも体調はすこぶる良いし、一日くらいなら全然」
そう言って苦笑交じりに笑い飛ばすが、むっと怒りの表情を浮かべたルミアに何も言えなくなってしまう。
昨晩といい今日といい、連日いつもは滅多に怒らない彼女を怒らせてしまっている。アステルは(困ったな……)と内心で小さな罪悪感を覚えていると、ずいっと彼女が顔を寄せてきた。
「今日の予定は?」
「……分かった、分かったから。言うよ。だからお願いその笑顔はやめて……」
観念した様にアステルは今後の予定を語ってゆく。
それを真剣な表情で頭に入れるべく目を伏せ聞いていたルミアはその凝縮されたスケジュール、しかも彼なしでは成し得ない内容ばかりで次第に眉根を寄せていった。シャルは大きく溜息を吐きながら肩を竦め「(コイツ全然分かってねぇ)」と呟きながら呆れていた。
「ねえ、アステル? きみ、休む気ないでしょう?」
「え? いや勿論お昼はみんなと一緒に食べるつもりだよ? セラさんもお弁当作ってくれてたから楽しみでさ」
「はぁぁ~っ……」
「……えっと」
ついにルミアからも盛大に溜息を吐かれてしまい、アステルは苦笑しながら後ろ頭を掻く。
するとそこで更なる追撃者であるシスティが前方からやって来た。
「どうしたの、ルミア?」
「もぉ~聞いてよシスティ! アステルが――」
「うん? ふむふむ…………う、ぇ?」
彼女も彼女でルミアの言葉を聴きながら次第に驚いたような表情を浮かべ、事実確認をするべくアステルへ顔を向けると、そこには申し訳なさげに眉を寄せ反省している彼がいる。
システィは呆れたように首を傾げてため息を吐くと、軽く右手を上げて「二組、集合」と言って招集をかけた。
なんだなんだとカッシュやウェンディを筆頭にクラスの面々が一瞬で集まり、システィはアステルの背を押し、無理矢理事情を説明させてゆくと。
「なるほどな……。まぁ外部の人達を招いているわけだし、こうなる事は目に見えてた案件だもんなぁ。――っしゃ! 俺も手伝うぜ! フィールド変更時の誘導は任せとけっ!」
「同じく、ですわ。実行委員もそれなりの仕事はあるのでしょうけれど、流石にアステル一人だけでは対処しきれませんわよね」
「フン。詰めが甘いというのはこのことだな。管理室での調整役も必要だろう? なら僕がやろう。各競技毎にローテーションを組めばなんとかなるはずだ」
「アステルが……無理、してるのは、知ってたけど……。わたしも、迷ってる子が居たら、案内する……ね?」
「なら俺とロッドの競技が終わったら買い出し兼ねて出店の方見回って来るよ」
「あっ、それ賛成! 僕も何か買いに行きたかったし! クレープの出店があるんだよね? あれ食べたかったんだ~! 喧嘩沙汰は苦手だけど、二人なら手分けして係の人呼べばいいもんね」
「ふふっ、そういう事でしたら私達は両親への挨拶も含めて、会場を回りましょうか?」
「そうだねー。親が応援に来てくれてる子達は会場周辺の対応をするのもありだよね」
「確かに。折角の平等出場だし、親にいい顔見せてどんなもんだ! って言ってやりたいもんなっ!」
カッシュ、ウェンディ、ギイブル、リン……。二組の面々がそれぞれ自分達に出来る事を考え、他でもないクラスメイトであり友人でもあるアステルの助けになろうと話し合ってゆく。
その渦中であるアステルはだらだらと額から脂汗を流し出し、これだけの大ごとになってしまった事に罪悪感を感じてしまう。
ましてや今日は皆の晴れ舞台であり、それぞれが主役なのだ。各競技の合間でそんなことをしてしまえば、クラスの士気が下がりかねない。それはなんとしてでも避けたかった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! みんな、折角の競技祭なんだよっ? もっと自分の為に時間を――」
「――見くびるな。僕達は今日の為に様々な準備をしてきたんだ。今更こんな話を聞かされて、競技に支障が出るわけがないだろう」
「むしろ、こうして……みんなに打ち明けてくれた事が、素直に嬉しい……かな?」
「右に同じく、ですわ」
「え……?」
珍しく声を荒げたアステルに、ギイブルがぴしゃりと眼鏡の位置を直しながら答える。
それに続くように照れくさげに微笑んだリンが、腕を組んで頷いたウェンディが同意してゆく。
「まっ、そういうことだ」
「何が起きても俺達が傍にいるんだ! 心配はないだろ? なっ?」
「いつでも、貴方の力になりますよ?」
「……ぁ……」
ニヤリと笑ったシャルに続いてカッシュがサムズアップし、続いて普段彼の開発面で必要な部品を工面してくれていたテレサが微笑む。
そんな面々にアステルは驚いていると、不意にルミアが彼の手を取る。
傍にはこの光景に納得し腕を組んでいたシスティがおり、ルミアと視線を合わせて頷き合う。
アステルは手を握ったルミアへと視線を合わせると、彼女は微笑み交じりにウィンクした。
「一人じゃ無理でも、ここに居るみんなとなら、大丈夫なんじゃないかな?」
「ルミア……」
彼は顔を上げ、自分の仲間であるクラスメイトそれぞれの顔を見回す。
それぞれと視線が合う度に頷き返され、中には笑顔を浮かべて親指を立ててくれるクラスメイトもいた。
アステルは全員を見回して、一切の反論がなかったことに感謝する。そして、今までの仕事を全て独りよがりで行っていた自分を恥じた。
「みんな……。……ありがとう」
彼は心の底からこの場に集まってくれた仲間達に礼を言うと、それぞれが笑っていた。
……何故頼らなかったのだろう。自分は……こんなにも素晴らしい仲間達に囲まれているのに。恵まれた環境に居たのに、と。
それはきっと、幸せに鈍感になっていたからなのではないか、と。
アステルは目を伏せて俯きながら今在る幸せを噛みしめ、新たに決意する。
――なら、これからは。みんなと共に歩める日々に幸福を感じながら進んでいこうと。
選手入場の合図であるファンファーレが鳴り響く。その場に緊張が走ってゆく中で、彼は悲愴的な表情を振り払い、目を開き、顔を上げ、目の前の仲間達へと告げる。
「――ここから先は、人生で一度きりの魔術競技祭だ。それを成功に終わらせる為に、みんな、改めて力を貸してくれ――!!」
『応っ!!』
二組の生徒達が声高らかに
先頭はグレン、アステル、システィの三名。
アステル達はグレンと肩を並べると、グレンが「お前、いつか過労死すんぞ」と軽く叱ったあと、満面の笑みを浮かべて拳と手の平を打ち合わせた。
「っしゃあ、お前らー! 気張って行くぞ―――ッ!!」
『おーっ!!』
こうして、彼らは初の晴れ舞台へと飛び出してゆく。
『そしてそして! 今回の目玉の入場ですッ! なんと通常では考えられない全員平等出場! 二年次生、二組―――!! 近頃生徒間で最も人気高いグレン=レーダス講師。そして一年次からファンクラブ結成! 規模はフェジテの街まで幅広い! その容姿や性格からコロッと落ちた女性は数知れず! 女性講師の間でも囁かれるほど! 《森獣の導き手》、《白き天使》、《人助けの妖精》などなど、挙げれば切りがないほどの
キィィ―――ンッというハウリングを起こすほど強烈な文句を会場へ響かせた、実況担当者であるアースが実況席から立ち上がりながら興奮気味にアステルの経歴を解説してゆく。
その中で飛び出した渾名の数々は彼すら知り得ておらず、ぎょっとして実況席を見上げた。
「えっ、ちょっと待ってっ? 僕裏でそんな風に呼ばれてるの!?」
「むしろ今まで貴方の耳に入ってなかった方が驚きなのだけれど……」
「全っ然知らなかった……」
システィに指摘され、はあ……とアステルは疲れたように額に手を当てて嘆息すると、グレンがくつくつと笑っている。
会場は盛大な拍手と歓声で包まれており、それに応える様にアステル達は手を振りながら指定された位置へ着く。
「ようやくこの日がやってきたな」
「おはようございます、ハーレイ先生」
「ああ」
整列したアステル達へと声を掛けたのは、眼鏡のブリッジ部を持ち上げたハーレイだった。
彼へ挨拶したアステルにハーレイは頷き返すと、フン、とひとつ鼻を鳴らしてグレンを睨み見る。
「グレン=レーダス。アステルが考案した編成だからとて油断はするな? 我々とて最強の布陣であることに間違いはないからな」
「へーへー、ハーなんとか先輩もそっちはそっちで頑張ってくださーい、っと」
「(こいつ……!)」
「ま、まぁまぁ。女王陛下の御前ですよ」
いつも通りのグレンの対応にハーレイは両肩を持ち上げ怒りを露わにするものの、アステルが申し訳なさげに苦笑いを浮かべてそれを宥めてゆく。
やがて二年次生の生徒と講師達が整列し、開式の言葉から国家斉唱、関係者からの式辞などを終え……。
『選手宣誓。二年次生代表、アステル=ガラード』
「はい」
学院長のリックに呼ばれたアステルは一つ声を上げ返事すると、グレンに軽く背を押されて軽く振り返る。
「しっかりな」
その表情はどこか誇らし気であり、彼が登壇するのは当然と言ったように、いつも通りニヤリと笑っていた。
アステルは無言で頷き返し、ゆっくりと登壇してゆく。
他の生徒とは異なる制服の彼が登壇することで、一時場が騒然とする中、階段を上り切り目の前に立っていたリックは一つ頷いてからその場を譲り、女王陛下の居るであろう貴賓席を見上げながら左腕を上げた。
そして、目の前にある拡声音響器へと語りかける。
『――宣誓。我々アルザーノ帝国魔術学院、二年次生一同は、日頃培ってきた勉学、練習の成果を十二分に発揮し、帝国の歴史ある礼式に則り、正々堂々競技を行い、全力を尽くすことを誓います。――生徒代表、二年次生二組所属、アステル=ガラード』
アステルは自分の名前を告げることでそう締めくくると、目の前の貴賓席からは、どこか優しく嬉しそうな眼差しが自分へ届く。
目を凝らせば、そこにはアリシア七世が席を立ち彼を見つめていた。
会場から拍手が飛び交う中で、アステルはただただ、亡き両親からも感じていた優しい視線を感じながら目を伏せて一礼するのだった。
◇
競技場の外周には等間隔にポールが立っており、その外側を飛行魔術、【レビテート・フライ】を起動させた選手たちが風を切りながら翔ける、翔ける。
二人一組で広大な学院敷地内に設定された五キロスもの広大なコースを、一周の交代制で二十周も回る『飛行競争』という競技。
そして、その中でも特に異質な――否、異質としか言い様のない、従来ではすでに廃れてしまってた杖型の魔導器を使用した二組のロッドとカイのコンビが、周囲の生徒達よりも半周ほど差を付けて翔け抜けていた。
純度の高い魔力素子が吸排機構から排出されることで、銀色の粒子が軌跡を作り上げ、人体に限りなく影響を低減させたことで安心のパフォーマンスを繰り広げてゆく。
現在は指輪型の反重力操作魔導器に加え【レビテート・フライ】を使用することで完成するスタイルが主流となっているが、過去には箒型の気流操作魔導器が主だった為、今回の杖型魔導器の使用も公式的に認められていた。要は『箒も杖も元は木で出来てるんだから一緒じゃん』ということである。
しかし彼らの跨る二器の杖型の魔導器――《
箒型や指輪型は魔術を使用し、宙空へ身体を浮かせ維持するための補助的な装置。しかし《飛行杖》という魔導器は違う。使用することで使用者の身体を宙空へ浮かせ、挙句自動的に移動することが可能。
簡単に表現するのであれば、自力でペダルを漕いで動かす自転車と、必要最低限の
言うなれば――そう。『飛行補助魔導器』ではなく、本物の『飛行魔導器』なのだ。
『そして、さしかかった最終コーナーッ! 二組のロッド君がぁ、ロッド君がぁああ――ゴールテープを――き、切った―――ッ!! まさかの二組が、まさかの二組が―――これは一体、どういうことだぁあああ――ッ!?』
「流石だな、アステル。仕事の早さは一級品だ」
「いや、これはテレサのお陰だよ。彼女が居なければ二本目は作れなかった」
「うふふっ、クラスの為ですもの。このくらいどうと言う事はありません♪」
『なんとぉおおお!? 「飛行競争」は二組がぶっちぎりの一位! あの二組が一位だぁ――ッ!! なんという番狂わせッ!! 誰が、誰がこの結果を予想したァアアアアア――ッ!?』
洪水の様な拍手と大歓声が上がる中、まるで一着が当然、というように競技参加クラス用の観客席にてギイブルが眼鏡のブリッジを持ち上げながらレンズを煌めかせ、見事堂々一位を勝ち取ったカイとロッドが空の上でハイタッチしてから肩を組み合い、互いに空いた左右の腕を空へ突き上げていた。
そんな二人の笑顔を見たアステルは心底安心したように胸を撫で下ろし、隣に居たテレサへと礼を言う。
その拍手の発生源は主に競技祭に参加できなかった生徒達からのものであり、グレンとアステル率いる二組とは別のクラスだったが、何か共感できるものがあったのかもしれない。
『開催前からトップ争いに突入するはずだった一、四、七組が圧倒的大差を付けられるという、大・大・大どんでん返し―――ッ!! 凄いぞ二組ッ! 彼らには、あとどれだけの力が隠されているのか――ッ!?』
続いて二位争いが巻き起こり、結果的には一組と七組の順でゴール。それでも彼らの前を翔け抜けたロッドとカイの二人は、あまりにも異色に見えたのだろう。一組の生徒からの視線は戦意を削がれかけているのか、どこか畏れを抱いたものになっている。
近くではルミアが手を打ち鳴らして大喜びするルミアの姿が見え、システィもはしゃいでいたのか、顔をほんのりと紅く上気させながらやれやれ顔でアステルへと近づく。
「貴方、二器目なんて聞いてないわよ。いつ作ったの?」
「はは……。この一週間で。なんとか形に出来たよ」
「一週間て……。よくあの二人が間に合ったわね」
「元々一器あったからね。練習にはそっちを使って貰ったんだ。……二人と喜び合いたいけど、調整もあるし僕はもう行くね。歓待よろしく。――ギイブル君は管理室へ。カッシュ、ウェンディ! フィールド変わるよ誘導お願い!」
「ああ、任せておけ」
「おっしゃあ! 出番だなっ!?」
「任されました! ふふっ、まだ秘策がおありなのでしょう? 何を見せて頂けるのか、今から楽しみですわっ♪」
「そうあれる様に、頑張るよ」
それぞれが別の意味で浮足立っている仲間達にアステルは微笑を浮かべながら、セシルと共にその場を空け、生徒達の荷物置き場へと向かう。
そして彼ら二組の荷物が置かれた場所までやってくると、アステルは台車の上に積み重なったトランクを引っ張り出す。
「ねえ、アステルはさ……研究者になりたいの?」
「え? うーん……そうだね、何かを作って人々の暮らしに役立てたいとは思ってるけど、研究者ではないかなぁ?」
緊張した面持ちで壁に身体を預けていたセシルは、ふうっと息を吐きながら石作りの天井を見上げ、ふとした疑問にアステルは苦笑いを浮かべながら答えた。
セシルは緊張をしやすい性格でありながら、本番にはかなり強い。ある種胆が据わっているというべきか、魔術の実技ではかなりの命中精度で的に当てることから、アステルは彼を強く評価している。
だからこそ、アステルは彼を信じ「魔術狙撃」の競技を任せた。
魔術を扱うにもかなりの制約が必要なアステルが出来る事と言えば、その命中精度と彼の緊張時に於ける不安要素を取り払う事だろう。
そこで作り上げたのが……
「はい、セシル」
「えっ? うわぁ~……! お守りまで作ってくれたの!?」
彼へ手渡したのは、従来の回転式拳銃をベースにストックやチークパッドと呼ばれる部品を取り付け、銃身を長く保った木の狙撃銃。
当然弾丸など射出される機構は存在せず、ただただ“構え”を練習するためだけに作られたそれのトリガー部から麻布の紐で吊るされているのは、森の仲間であり、細工の得意なポンが作成した、球状の木に幾つかの穴を開けたキーホルダー。中には綿で作られた匂い袋が入っており、彼の好きな紅茶の茶葉が詰められている。中の匂い袋はキーホルダー上部を軽く捻り、中心から通された紐を引くことで取り出せるようになっている。
これはアステルが魔導装具を考案している際、モデルとして作成したものにストックなどを付け加えたものだったのだが、照準の造りなどからセシルに最適だと判断した。開発の副産物を利用する点に於いてはかなり有効的であろう。
「うん。僕の友達が作ってくれたものなんだけどね」
「それに凄くいい匂い……。こんな香りの強い茶葉を嗅いだのは初めてだよ」
「っはは、きっと皆も喜ぶよ。伝えておくね」
「それはもう! 今度買いに行かせて!」
ちなみに茶葉についてはポンの兄であるケンが森の畑で栽培しているものであり、最近ではアレックスやメアリーと共にハーブにも手を出し始めたのだとか。
綿袋や麻布の生地作りから裁縫は長男のジャンが担当し、キーホルダーはポンが。綿と麻、紅茶の栽培はケンが担当するといった三兄弟の合作である。
しかしこの品物は非売品であり、ましてや例え売れたとしても売る者は人ではなく動物である。果たして種族の垣根を越えて買物は出来るのだろうか、とアステルは心配するのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます! めっちゃ寒くて手が震えてる!(緊張もあるかも笑)
森の皆が第二巻に入ってかなり登場してますね……。シャルの眷族とクロノスがが一切出てないけど(笑)
彼らの見せ場もしっかり考えてありますので、ご期待くださいっ!
さてさて、今回のアステルの活躍ですが、作中ではグレン先生と似たような事をさせてみました。
ハーレイ先生はじめ他の講師勢は体裁や格式にこだわった編成で優秀な生徒を使い回しに、グレン先生は表向き精神論でもその裏はかなりシビアでガチに勝ちに行く編成をしていました。
アステルも同じく、時代に沿って進歩してゆく魔術と魔導器に対して、表向き最新鋭と語っていても、古くから培われた魔導器(気流操作などを《飛行杖》の基軸にして)をこの時代に合わせた形で再現しています。
うん、ある意味で似た者同士……なのかな?(苦笑)
書いていた筆者の気分は某劣等生のお兄様です、本当にありがとうございました。
おまけですが、アステル考案時はどんな容姿にしようかかなり迷いました。
個人的にグレセラのカラーリングは黒と銀だったのですが、それを後の世代(システィやルミア)にも踏襲するのもなぁ……アステルの性格も天使(笑)だし……と思って思いついたのが白でした。
結果的にカップリングで
次回はセシル、ウェンディ、ルミア三名の見せ場です! 後半はグレセラもあるよ!!
追記:短編集の白犬編はガチで泣きました