ただ一人、君の為なら。   作:ぶんぶく茶の間

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 大っ変お待たせしました……! 最新話でっす……!
 今回からかなり短めになります、ご了承くださひ……!


第十六話 邂逅と逢瀬

「――グレンとセラ、だな」

「……ん。どう見てもグレンとセラ」

 

 簡素なカップに淹れられたコーヒーを啜りながら口を開いたのは、藍色がかった長い黒髪の青年だった。

 その隣で紙に包まれたハンバーガーを頬張っていた少女は、まだ十代半ばの小柄な少女であり、ナイフの様に鋭い目つきに、やや眠たげに細められた二人の瞳の先には、仲睦まじく生徒達と共に昼食を楽しんでいるグレンとセラの姿があった。

 そして、二人と楽し気に会話を繰り広げる白髪の少年を見て、青年は安心した様に息を吐く。

 

「それに……彼もいるのか」

「ん。アステルも元気そう。……よかった」

 

 一瞬だけ穏やかに微笑んだ少女を見た青年は、グレンについての話を戻す。

 

「俺達に何も言わずに去って行ったと思ったら……。こんな所に居たとはな」

「でもセラが居るなら、納得できる」

 

 青年の隣に立っていた少女は音もなく、グレン達のいる方へと歩き始めた。

 

「待て」

 

 威嚇するような固い声と共に青年は手を伸ばし、少女の後ろ髪に括られた尻尾(・・)を無慈悲に掴んで引き留める。

 がくんっと少女の頭が引っ張られ、その小さな身体が後ろに傾いた。

 

「……何をするの? アルベルト」

 

 表情のないまま、少しも感情をにじませず、少女が青年に尋ねる。

 すると彼女はさも当然とばかりにこう答えた。

 

「それは俺の台詞だ。何をする気だ? リィエル」

「決まってる。……グレンからアステルを取り返しに行く」

 

 ぐいっと。青年――アルベルトは掴んだリィエルの後ろ髪をさらに引っ張った。

 

「痛い。どうして引っ張るの?」

「余計な事はするな。任務を忘れたのか?」

「…………。んーと…………よく分かんない」

 

 子猫の様に無表情で小首を傾けたリィエルに、アルベルトは眉間に指を当て凝り固まった表情筋を解しながら、彼女へと伝えてあった任務について語り始めるのだった。

 

 

       ◇

 

 

 昼食を終え、腹ごなしにとセラに学園内の案内を始めるシスティ達。食べ過ぎで腹を膨らませたグレンは、アステルと共にレジャーシートでその姿を見守りながら、食後のコーヒーを啜っていた。

 

「なあ、お前さ……。魚は好きか?」

「魚……ですか?」

 

 足を前へ投げ出しながら右腕を地面にやり、遠くを見つめているグレンに、アステルも胡坐をかいて尋ね返す。

 

「あぁ。そして、東洋の一部では「寿司」と呼ばれる米の上に生魚の切り身を乗せた食べ物があるらしい。ネタ、そしてシャリ……。そう呼ばれているそうだ。その寿司とやらのミニマリズムを、俺達は……軽視してた気がするんだ。俺は最近、あのシンプルさには、何かがあると思い始めた……」

「ニーハイは、どうなったんですか……?」

 

 今日のセラの格好は、見事に二人の約束の通り。白黒のボーダーニットに、黒色のやや短めのスカート。そして、ニーハイ。上着にはカーキ色のミリタリージャンパーを着込み、見事にニーハイを際立たせた服装をしていた。

 これがグレンの差し金だとすれば……。彼は、やってのけたのだ。

 あれだけの仕事量。そして学院には女子生徒の目がある中で、その視線を掻い潜り、ようやく見つけた……モデル。

 

 それが、彼女(セラ)だったのである。

 

 彼の見立ては正解であり、年若い少年であれば彼女の姿を見れば息を呑んでしまうほどの……脚線美。

 以前にグレンが主張した、ソックスの口ゴムとボトムスの間に出来る領域。彼女の短いボトムスと上着の長さも相まり、自然と目の行くその領域には、黒い絹同士に合間から伺える新雪の様な瑞々しい白肌が、夜明の太陽の様に煌めていた。

 

 アステルは不安げにグレンの表情を伺ったが、彼は目を伏せ顔を横に振る。

 

「バカだな……。冒険の中で一番の宝物は、回り道、だろ?」

「先生……。ええ、そうですね。僕も、思い当たる所がたくさんあります」

「そうか……分かってくれるか」

 

 互いにしみじみと頷いていく。

 グレンは話題を戻す為にカッと瞳を開き、アステルを見つめた。

 

「次のムーブメントは、シンプルな……「生脚」、だ」

「なっ、生脚……!?」

「――ホンモノに、飾りなんか要らない! 飾らない脚を見て、そこに漲る命の息吹を、ただ……感じればいい……」

 

 拳をきつく握りしめ、饒舌に語るグレンを見たアステルも、彼の言葉に耳を傾け、そしてその言葉が耳朶を叩き、性少年としての脳を覚醒させていく。

 

「飾り……。――そうかっ! ニーハイとは、着飾ることで見出せる、絶対的な領域……! シンプルかつ、自分だけが曝け出せる、オンリーワンのその輝きは……つまりっ」

「ああ。俺達の求めている……女性の美。そのものだ」

「それが嫌いな人は、男性とは認められないんじゃないでしょうか」

 

 ピシガシグッグッと互いの腕を合わせる二人。双方の瞳には決して折れることの無い意志が芽生え、それと同時に、二人の間には鋼よりも強固な絆が生まれていた事を……彼らは改めて痛感する。

 

「――決まりだ。モデルの心配は要らない、俺が全力で探す! 聖なる探索は、次のフェーズへ移行する……!!」

「はいっ、先生!!」

 

 彼らの輝かしい笑顔とは裏腹に、下心丸出しの会話を聞き取った周囲の女子生徒達は、頬を赤らめながらも静かにスカートの裾をつまんで下げた……。

 

 

       ◇

 

 

 休憩時間も中盤に差し掛かった頃。アステルは生徒会長であるリゼ=フィルマーに同行し、学院校舎の前で出店してくれている店舗のオーナーへの挨拶等を済ませた後、彼女の指示のもと、学院敷地内の北部にある森……通称『迷いの森』の入り口付近で、来場者などが居ないか見回りを行っていた。

 その指示には彼自身を休憩させるというリゼなりの計らいでもあったのだが、まじめな彼はその気遣いなど露知らず。木陰や生い茂った草を掻き分け、子供などが迷い込んでいないか逐一見て回っている。

 彼女が見れば呆れを通り越して感心する所だが、それを発見したのはルミアだった。

 

「あっ、アステル~」

「ん、ルミア? どうしたのさこんな所で」

 

 いつもより目立つ服装だったアステルを彼だと認識するのも秒、といったレベルで、軽い足取りで駆け寄るルミア。

 半ば確信を持っていたものの、もしも間違っていた時の気まずさはない。「(よかったぁ、当たってた)」、と呟いた彼女は照れくさげに軽く頬を赤く染め、後ろで手を組む。

 

「うん、学院中が賑やかだから、少し落ち着かなくて。アステルは?」

「あはは……。実は、会長から迷子が居ないか見てきて欲しいって頼まれてさ」

「(それって休めってことなんじゃ……)」

「え?」

「ううんなんでもないよっ? ね、せっかくだし、アステルもちょっとだけ一息つかない?」

 

 畳みかける様に誤魔化したルミアは、持っていた紅茶の入った水筒を取り出しながらアステルを誘う。

 

「ははっ、そういうことなら」

 

 そのくらいなら会長も許してくれるだろう、と思ったアステルは、ルミアと共に近くにあったベンチに腰かけた。

 ゆったりとした所作で水筒のコップに紅茶を注ぐルミアを視界の端に捉えたあと、アステルは背もたれに身体を預け、ゆっくりと目を伏せて深呼吸する。

 草木が揺れ、深緑の葉がこすれ合う……アレックス達と過ごした森に似た雰囲気を感じ取ったアステル。

 激流の様に押し寄せた忙しさも、この一時は忘れることができた。

 不思議と閉じた瞼が上がらなくなり、心地良く吹いた風によって意識がさらわれていく。

 

「――………」

「(……やっぱり、寝ちゃったかー)」

 

 コップを両手で抱えたルミアは、中に入った紅茶をちびりと口に含んだあと、彼の寝顔を見ながらゆっくりと嚥下する。

 さほど重いわけでもないコップ。それを両手で持ったまま、というのは少し勿体無い。

 そんな気がしたルミアは、彼の目元に乗った前髪を右手でそっと払いながら……片頬に優しく触れた。

 張りがあり、彼の身体で恐らく一番柔らかいであろうその頬の触り心地は堪らず、あのルミアでさえも冷静さを失いかける。

 

(なにこのほっぺ!? プリンみたいに柔らか――じゃなくてっ! あぁぁ摘まんでみたいけど絶対起きちゃうし……うぅぅ……)

 

 あぁでもないこうでもないと瓦解しかけた理性を働かせようと目を瞑り顔を振り、その合間も優しく彼の頬をふにふにと指圧するルミア。

 そんなところに、一人の女性に声を掛けられた。

 

『――おや。暫く見ないうちに、随分と仲良しになられたのですね』

 

 びっくぅ! とその声に思わず飛び上がったルミアは咄嗟にアステルから手を……放さない。

 ギギギ、と油の刺されていないブリキ人形の様に顔だけを声の主に向けると、その女性を見て更に驚く。

 

「おか……じょ……女王陛下……?!」

 

 

 そこに居たのは他でもない――アルザーノ帝国女王アリシア七世、その人だった……。

 

 

       ◇

 

 

「(……さて。アリスのやつ、うまく接触できたかな?)」

「あっ! セリカさん、ここのクレープアステルくんのお勧めなんですっ! 一緒に食べませんか?」

「ほう? そうか、彼も甘味には詳しいようだし、どれ、一つ貰おうか」

 

 昼下がり。セリカはセラと共に露店を練り歩いていた。

 その笑顔を輝かせながら手にしていたクレープを差し出すセラの手に触れて受け取り、苺のピューレとチョコレートが掛けられたそれを一口頂く。

 いつもならば親友のアリシア――アリスと午後のティータイムと洒落込むところだったが、彼女の「娘に逢いに行く」という言葉に倣い、自分も「(将来の)娘に会いに行こうか」と相成ったのである。

 もちろん、アリスを離席させるために王室親衛隊の隊士達をちょろまかした後で、だが。

 一応グレンも誘ったのだが、「女同士ゆっくりしてこい」との事だったので、久々の嫁と姑(希望的観測かつ絶対案件)水入らずになっていた。

 

「おぉ……うん、美味いなこれは!? なるほど、チョコレートの甘さを控えて、苺の酸味と甘みを引き出しているのか……なるほど、やりおるっ」

 

 手元のクレープを見つめながら「帰ったらグレンに真似させよ」と呟いたセリカにセラは思わず笑ってしまう。

 

「んっ、どうした? 私の顔に何かついてるか?」

「ふふっ……セリカさん、口にクリームが付いてますよ?」

「おっ……」

 

 セリカは自分の口元を見た後、軽く頬を赤らめて親指でそれを絡めとり、口元に運んだあと、むすーっと軽く頬を膨らませて「笑うより先に教えてくれ、私も大の大人なんだぞ」と軽い恨み言を呟く。

 そんな姑(仮)の一面を見たセラは思わず(可愛いなぁ)と感じてしまった。

 二人の関係は良好だろう。人の好い性格のセラに、あのロクでなしを女手一つで育て上げたセリカの愛称は抜群に違いない。

 

(まったく、アイツには勿体ない恋人だよ)

 

 フッと再び口元にクリームを付けたセリカはクールに笑うのだった。

 

 

 

「やっぱ俺じゃあ力不足だったみたいだな。ここは後日また改めて出直すとすっか。グレン=レーダスはクールに去るぜ」

 

 二人を陰ながらに見守っていたグレンだったが、自分以上にセリカと良好な関係を築いているセラに安心して踵を返す。

 ――彼と擦れ違う様に、一人の黒髪のメイドがセリカへと凶報を持ち込む事も知らずに。




 此処までお読み頂きありがとうございます!
 UAがついに1万近くに……お待たせして申し訳ありませぬ……。

~あとがきのコーナー~

 システィ:先生がストーカーじみてきたわね……

 アステル:いやいやいや、陰ながら僕達を見守ってくれてると思えばっ!

 セリカ:いや、あの様はまさにストーカーのそれだぞ? 衛士に突き出しても構わんが

 アステル:教授もほどほどにしてあげてください!? 物語が進みません!?

 セリカ:そんな事言われてもな……。ぶっちゃけ主人公がストーカーって……なくね?

 アステル:(あ、なんだかグレン先生への風当たりが強い……そしてメタい……)
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