ただ一人、君の為なら。   作:ぶんぶく茶の間

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 こんにちは、ぶんぶく茶の間です。
 ついに五話……。今回はシリアス系からの上昇! 稚拙な文脈が多々あります、ご注意を。

 今回はグレセラ? セラグレが多分に含まれています。甘めのBLっ気も混じっていますので、それでもOKBLなんてアルグレどんと来い! とかいう人は喜んでどうぞ!


第五話 解けて行く空白

 学院を卒業する頃、グレン=レーダスという齢十五の少年は帝国魔導士団に引き抜かれ、戦果は絶大。グレンは特務分室へ所属し、執行官ナンバー0、コードネーム『愚者』として、魔術師を、特に外道な魔術師を抹殺する日々を送っていた。

 その数は同僚ほどではないにしろ、若く、三階梯に過ぎない魔術師にあるまじき数であり、曰く、魔術師としては三流だが、魔導士としては一流だった――らしい。

 ただその魔術を人殺しに使う日々、魔術を貶めるような輩達の存在は、少年の純粋な心を否定させるには充分すぎるものだった。

 こうしてグレンの魔術への純真な想いが打ち壊されてゆくなか、同じく特務分室に所属する偉大なる遊牧民族出身であり、随一の風の魔術師、セラ=シルヴァースの存在は、彼の心が病んでゆくのを抑えてくれていた。

「白犬」「グレン君」。そう呼び合う二人の仲は、喧嘩はありつつもまるで姉弟のような関係であり、『正義の魔術師になる』という、魔術師暗殺の日々と相反する理想を掲げている子供だったために敬遠されがちだったグレンにとって、決してその理想を無碍にしない、暗殺稼業には似つかわしくない朗らかな性格のセラは数少ない普通の友人であり、まだ年頃の少年として、男として――なかなか素直になれない女でもあった。

 そんなセラ=シルヴァースという同僚が、グレンを庇い殉死を遂げたと思われた日に。

 最早魔術に対し、セラに対し、「手の届く範囲の人を、大切な人を守れればいい」という妥協にも――大人になったとも取れる想いしか抱いていなかったグレンが、宮廷魔導士団を去ることに戸惑いはなかった。

 

 

 

 繁華街のとある路地裏へ入り、人と熱気で溢れる表通りとは裏腹に、ひんやりとした人気のない路地裏を進んでゆくと……やがて奥まった場所にひっそりと隠れる様に据えられた、場末のバーが現れる。

 知る人ぞ知る隠し店のような趣のその店に、グレンとセラは迷わず足を踏み入れていた。

 店内は薄暗く、客はピークタイムだというのに殆どいない。所々に設置されたランタンの火が店内をぼんやりと淡く暗闇から浮かび上がらせており、二人は奥にあるカウンター席へ腰かけ、店内に並ぶテーブル席には、席ごとに仕切りが立てられ個室の様な案配になっている。

 この店は客に対して徹底した秘密厳守・非干渉を貫くことが売りの店であり、貴族や政治家、あるいは脛に傷持つ裏社会の住人達などが、密談・密会に使うような店なのだ。

 そんな店内のカウンター席、その端にあるスツールへ二人は座っており、早々に店員へと酒を注文する。

 

「雰囲気のいいところだねー。ふふ、グレン君はこういうお店が好きなんだ?」

「まっ、気楽に飲めるからな」

 

 出されたウィスキーをグレンはロックでちびりちびりと飲みながら、カクテルを頼んでいたセラもそれに倣って、グレンを横目で見つめながら口を付けた。

 

「グレン君もお酒飲むようになったんだねー。びっくりしちゃった」

「そりゃそうだろ。俺ももう十九――立派な成人様だぜ?」

 

 ずきりと、胸に締め付けられるような痛みが走り、それを平静を装いながら隠し通すグレン。

 細められた暗い瞳は、カランカランとグラスの中で回転させる氷を目で追い、不意に目を閉じた。

 正直、セラとしては彼の心境も察し済み。もう少しこうしてグレンと普通の会話を交わしていたかったが、それも難しいだろう。

 彼女はカクテルのグラスをテーブルに置き、両手を脚に置いて眉根を寄せながら俯いた。

 

「……ごめんね、グレン君」

「あん……? なんのことだ」

「貴方に何も言わずに離れちゃったこと……ずっと、後悔してたんだ」

「………」

 

 グレンは静かに再びグラスを傾けると、一つため息を吐いた。

 

「はぁ……。そんな事で悩んでたのかよ」

「そんな事って……ひどいなぁ、グレン君は。私、これでも結構繊細なんだよ? もっと優しくしてよぅ……」

「甘えた声出すんじゃねーよ気色悪ぃ……」

「ひどい!?」

 

 涙目になったセラを半眼でうなりながら鎮めるグレンは、後ろ頭をがりがりと掻き毟った。

 

「そんなこっちゃお前、俺の方がロクでなしだろうが……」

「……え?」

「あの時、あの瞬間。お前は間違いなく殺されかけた。誰の所為(せい)? 俺の所為に決まってんだろ……!? 顔向けできなかったのは俺も同じだし、今もこうしてお前と酒飲んでられるような奴じゃねーんだよ……俺は……お前にどの面下げて……!!」

「グレン君……」

「本ッッッッ当に、自分(テメエ)自身が情けねえ……ッッ!!」

 

 今でも昨日の様に思い出す彼女が散りかけた光景は、瞼を閉じただけでも再生されそうなほどに鮮明であり、その場で何も出来なかった後悔と自分への憤りを口にしたグレンは、酒の力でも頼らなければ今にも崩れ落ちてしまいそうだった。

 情けなくテーブルに顔を伏せ(むせ)び泣く。きつく握られた拳に、セラは頬に涙を伝わせながら彼の拳と背中に触れ、優しく撫でてゆく……。

 ……長い間、そうしていた気がする。握られた拳が少しだけ緩み、セラはその隙間へ指を入れ彼の拳を解し、最終的に手と手を握り合う形となった。

 

「……私が最後に貴方に言った言葉。覚えてる?」

「………いや……」

 

 よく聞き取れなかったが、きっと自分に対する恨み言なのだろうと覆っていたグレンは今、彼女の言葉に顔を横に振って見せる。

 セラはそっか、と呟いてから、彼へ上体を寄せ、耳元で囁くように告げた。

 

「君だけは魔術を嫌いにならないで」

「――え……?」

 

 不意にグレンは顔を上げ、涙によって半音高くなった疑問符を浮かべると、目の前のセラは少し辛そうにしながらも微笑んでいた。

 

「でも、きっとあの時グレン君は悪い方に捉えるだろうなっていうのも分かってた。どういう形になっても、特務分室を抜けることは簡単に想像できた。魔術に……夢に愛想を尽かして別の道に進むことも。だから、ごめんなさいグレン君……。結局、貴方から魔術を遠ざけちゃった一番の原因は、私なんだから」

「そんなこと――」

「あるよ。あるもの……じゃないと、私も自分を嫌いになりそうなの……」

 

 その眦には涙が溜まっており、今にも伝いそうになっていた。

 握っていた彼女の手が弱々しく震えており、どうすべきか悩んだグレンは、天井を向いて彼女の肩に手を回し自分の胸を貸すことにする。

 たったそれだけの行為だったが、今度はセラが咽び泣く番だった。

 グレンはその間も天井を向き続け、ただ自分の胸元にある女性の温度が確かであることを実感してゆく。

 全てがあの頃に戻ったわけではない。けれどそれでも、自分にとって大切な存在が未だいることに、彼は深く安堵するのだった………。

 

 

 

「……私、あれから貴方の事を探そうとして帝都へ足を運んだけれど……あったのは謂れもない私自身のお墓。詰め所にも近づけなくて、結局、ここに戻って来ちゃったんだ。途方に暮れていた私を支えてくれたのは、システィちゃん達だった。『私の家のメイドになってください』。最初はびっくりして、私なんかに務まるのかなぁって思ったけれど、やってみたら案外面白くて。みんなも優しいし、私も自分でいられるような……酔いすぎちゃったかな、まとまらないや」

「世話焼きたがりなお前のことだし、そっちのが向いてんじゃねーの? さしてあの頃と変わらんだろ」

 

 かなりの時間を経て、ようやく泣き止んだセラと、どこか毒気を抜かれたグレンは、お互いに目元を赤く腫らしながら酒を飲んでいた。

 泣きながら彼女がここ一年余りの行動を語りグレンは静かに聞いていたが、落ち着いたところでグレンはようやく口を開く。

 恐らくセラは自分の行動なんてアステルなんかから聞いているだろうと踏んでいたグレンだったが、まさにその通りで。

 

「グレン君はその間家に引きこもってセリカさんの脛齧ってるって言うし、ギャンブル依存になっちゃうし、お酒も飲めるようになっちゃって悪い遊びとかしてそうだし……くどくどくどくど………」

「………」

 

 完全に酔いが回り、首筋まで赤くしたセラがグレンにしな垂れ掛かりながらも本人を前に皮肉を言いまくり、仕舞いには説教が始まってしまい……。

 グレンはそんな彼女を見て、つい安心からかふっと笑ってしまう。

 セラは彼が笑うのを見て更に怒り出し、分かりやすく頬を膨らませた。

 

「もう……。……いつでも君の事が心配で、どうしても傍で見ていてあげたくなっちゃうんだよ? だからかな、今日、何かあったんだよね? よかったら話して?」

「………まあ、なんつーか……」

 

 言い出し難かった。先ほど『魔術を嫌いにならないで』と言われてしまっては、彼女を理由にすることもできなくなったグレン。これ以上追い打ちをかけるわけにも行かず、酔いの回った頭でなんとか言葉を探す。

 そして、魔術を人の為に役立てる方法を模索し日々努力している少年と、世界の神秘に憧れを抱きながらも、いつかその神秘を解き明かす事を信じている少女の話をした。

 その二人の理想を、特務分室から出てきた自分の価値観が相違してしまい、激しく非難してしまったことを語ったグレンは、ひどく落ち込みながら深いため息を吐く。

 セラに語っている間に、自分がつくづく最低な人間だと実感させられる。グレンは口を湿らせるように酒を含み、ゆっくりと嚥下させる。

 

「……前に一度話したことがあったと思うけれど、今後、自分の持つ魔術で何を為すか、良心に従って行動した時、何ができるのか。その行動が自分の理念に基づくものであったのなら、その時、自分は初めて正しく在れるんじゃないかな?」

「あー……。あれか」

 

 特務分室時代、グレンの心が病みかけ、「日々人殺しに明け暮れる自分は、果たして正義の魔法使いになれるのだろうか」という疑問に打ちのめされていた時、セラが言ってくれたものだ。

 それによってある程度心の整理を付けることが出来た彼は、その日もまた彼女をからかって眠りについたのを覚えている。

 

「今更そんな言葉を聞くはめになるとはなぁ……」

 

 もっとしっかり聞いておくべきだった、とグレンは頭を掻きながら反省した。

 セラはくすくすと笑いながら目を伏せると、「年上の言う事はちゃんと聞いた方がいいよー?」と軽く説教が飛んでくる。

 

「……出来るかな、俺なんかに。魔術師の卵を育てる事なんて」

「出来るよ。グレン君だもの。それに私はもう魔術を使えないけれど、それでも触れてきた時間の分だけ、誰かに伝えることはできる。君は君だけに出来ることがきっとあるよ。いつも疑問を持って前へ進み続けてきた貴方なら、きっと大丈夫」

「……そっか」

 

 グレンは再びグラスに口を付けると、不意に自分にしな垂れかかっていたセラの重さが僅かに増す。振り向けば、整った寝息を立てる想い人の姿があった。

 

「ったく、良い事言ってすぐに寝るんじゃねーよ……。……でも、ありがとな。白犬」

 

 彼女が「また白犬って言ったー!」と怒りそうだが、グレンは含み笑いを浮かべながらも今は彼女の確かな重さを感じることにした。

 

 

       ◇

 

 

 翌日。アステルは気分を入れ替え、制服に身を包んで朝のホームルームから少し余裕をもって登校し、学院長室を尋ねていた。

 そこにはすでにハーレイと学院長であるリック=ウォーケンがおり、彼は緊張した面持ちで二人から聞かされた言葉に、思わず聴き返した。

 

「……えっと、今のお話は本当なのでしょうか?」

「勿論だとも。君には二週間後に帝都で行われる魔術学会に参加してもらいたいのだ」

 

 執務机に肘を置いて、口元の前で手を組んだリックは朗らかに笑い、その隣に立っているハーレイは眼鏡のブリッジを持ち上げながら口元だけを緩ませる。

 

「私の推薦でな。助手であれば自分の研究内容を発表するのも当たり前のことだ。無論、当日は私の講演のフォローもしてもらうことになるが」

「それは知っていましたが……まさか僕みたいな若輩者がそんな恐れ多い場所に立てるだなんて……」

「何を言うのだアステル! お前はすでに私以上の成果を以てあの《飛行杖(ニンバス)》を完成させたのだ! これを発表せずなんとする!?」

「で、ですがハーレイ先生。《魔導浮揚器》自体は未だ調整中です。飛行試験は昨日済ませましたが、未だに魔力量の制御が利きません。これでは未完成品をお店に出すようなもので――」

「だが、すでに内部構造は出来上がっているのだろう?」

「は、はいリック学院長……」

「なら問題ないだろう。発展途上の研究成果を発表するのも大切なことだ。どうか君も、あの場にいる大人たちの胸を借りるつもりで行ってきなさい。実りあるものになることを、期待しているよ――」

 

 

       ◇

 

 

(なんて言われてしまったけれど、正直僕には荷が重いというかなんというか……)

 

 朝一番にこれまた難題を課せられたアステルは、頭を抱えながら実験室で一息ついて教室へ戻ると。

 そこには昨日、自分の研究成果を見てもらった恩師、グレン=レーダスが――

 親友であり盟友のシスティーナ=フィーベルへと謝罪している場面に出くわした。

 

「どっ、どどどどうしたんですかグレン先生!? 一体何が……!?」

「おう。お前にもちっと話があるんだわ。授業(・・)が終わったら、ちょっといいか」

 

 顔を真っ青にしてグレン達へと駆け寄ったアステルは、どこか吹っ切った風の雰囲気を纏っているグレンを見上げる。

 その瞳には僅かながらも光が差していたが、眉根はヘコんだように垂れ下がっていた。

 ちら、と隣のシスティを見れば露骨な敵意に満ちた視線をずっとグレンへと送っており、黒板へ背を向けて歩いていく彼の後ろ姿を「………授業?」と疑問符を呟いたアステルの淡い希望の視線が絡み合い見送る。

 教壇の傍らでこちらへ振り向いたグレンは目を閉じており、その場に居るアステルとルミア以外の猜疑の視線を彼は完全無視していた。

 やがて予鈴が鳴り、弾ける様にして目を開いたグレンは誰かの名前を呟きながら教壇に立つ。

 そして、彼の口から信じられない言葉を聞くのだ。

 

「――じゃ、授業を始める」

 

 どよめきがうねりとなって教室中を支配した。誰もが顔を見合わせ、その中でも隣同士であり、昨夕に自分たちの目標を語ったアステルとルミアは目を輝かせながら笑みを浮かべた。

 ……だが。

 呪文学の教科書のページをぱらぱらと流し読みしたグレンの表情が明らかに渋い顔になり、挙句それを

 

「そぉぉぉいッ!!」

「え……エエエェェェエエエ―――ッ!?」

 

 思い切り床へ叩きつけた。

 アステルは思わず声を上げてしまい、それはもう角から落下したために表紙が激しく折れ曲がり、平も若干破けかけていた。

 彼はスッキリしたような清々しい表情で教壇に手を添え、「さて、授業を始める前にお前らに一言言っておくことがある」と前置きする。

 

「お前らって本当に馬鹿だよな」

 

 そしてとんでもない暴言を吐いた。

 その後彼は日々熱心に勉強していた生徒たちを褒め、皮肉り、そして侮辱する。

 もちろん生徒たちもただ黙っているわけではなく、黒魔【ショック・ボルト】でさえ一説詠唱できないグレンの技量を貶し、彼は不貞腐れるなどしながらかわしていった。

 やがてグレンはチョークを手に取り黒板へ書いた【ショック・ボルト】の呪文の節を切り、三節から四節となったそれを見て彼は何が起こるのかと、設定を肉付けし生徒達へと聞いたが、誰もが口を閉ざしている。

 優等生であるシスティすら、額に脂汗を浮かべ悔しそうに押し黙っていた。

 だが。その中で。

 目をキラキラさせながら笑みを浮かべ、グレンが教鞭をとっている姿に感動している少年が、彼から左斜め前の席に居た。

 まるで主人から与えられる餌を待つ犬のように。

 

(わっかり易ッ。あー、こいつは完全に犬だわ)

 

 グレンは内心でそう思いながら、彼との――アステル=ガラードとの視線を合わせながら「ちょっと待ってな」とアイコンタクトすると、更に彼は一層目を輝かせ口をあわあわと震わせる。恐らく尻尾が生えていたら縦横無尽に振り回しているだろう。

 

「これはひどい。まさか全滅か?」

 

 その熱意ある視線を受けながらもグレンは生徒達を嘲笑い、「そんな変なところで区切った呪文なんてあるわけがない」と反論したツインテールの少女、ウェンディが声を張り上げ、机をたたきながら立ち上がった。

 彼女の返答にグレンはハラを抱えながら下品極まりない嘲笑を上げ、まるで仇を討つようにアステルとシスティに次ぐ成績を持つ男子生徒――ギイブルが立ち上がり、眼鏡を押し上げながら負けじと応戦する。

 

「その呪文はマトモに起動しませんよ。必ずなんらかの形で失敗しますね」

「必ずなんらかの形で失敗します、だっておー!? ぷぎゃ――ははははははっ!」

「な――ッ」

「あのなぁ、あえて完成された呪文を違えてんだから失敗すんのは当たり前だろ? 俺が聞いてんのは、その失敗でどういう形で現れるのかって話だよ?」

 打ちひしがれたように俯くギイブルを後目に、

 

「何が起きるかなんてわかるわけありませんわ! 結果はランダムです!」

 

 ウェンディはさらに負けじと吠え立てるが――

 

「ラ ン ダ ム!? お、お前、このクソ簡単な術式捕まえて、ここまで詳細な条件を与えられておいて、ランダム!? お前らこの術、究めたんじゃないの!? 俺の腹の皮をよじり殺す気かぎゃははははははっ! やめて苦しい助けてママー!」

 

 ひたすらグレンは人を小馬鹿にするように大笑いし続ける。

 この時点でアステルとルミア、ただ茫然とその話を聞いているシャル以外のクラスの苛立ちは最高潮に達していた。

 

「もういいか。――おい、そこのさっきから目ぇキラキラさせながら俺見てる開発馬鹿」

「はい!!」

「ちょっ、アステルに対してその言葉は酷くないですか!? ってアステルもなんで反応しちゃうのよ!?」

 

 グレンのあんまりな呼称を糾弾するようにシスティが立ち上がるが、嬉々として返事をし勢いよく立ち上がったアステルを見てぎょっとする。

 

「答えは右に曲がりますっ! さらに五節に区切ると射程が三分の一ほどになり、三節中の一言を抜けば出力が格段に低下します! 原理としては体内の魔力の流れが右回転ということから、直線状、それも力線駆動などによる雷撃の黒魔に於いては――」

「ストップ、ストップだ。細かい説明までありがとよアステル、座っていいぞ。っとまあ、分かってんのはこいつくらいか? まあ、究めたっつーなら、こいつくらい頭に入ってねーとな?」

 

 チョークをくるくると指の上で回転させ、アステルが回答したというのにどや顔を浮かべるグレンだったが、腹立たしいことに、クラス中の生徒たちは誰一人として言い返せない。

 それから彼の投げかける疑問の解を生徒達の呟きから拾い上げて進んでゆく授業。アステルは(やっぱり、この人は凄い人だ……!!)とこれからの彼の授業に思いを馳せ、懐の羊皮紙に羽ペンを走らせてゆく。

 

「つーわけで、今日、俺はお前らに、【ショック・ボルト】の呪文を教材にした術式構造と呪文のド基礎を教えてやるよ。ま、興味ない奴は寝てな」

 

 グレンはそう言って一呼吸置きつつ、再びチョークを黒板に走らせ始めるのだった。

 

 

       ◇

 

 

「……要するに魔術式ってのは超高度な自己暗示っつーコトだ。だから、お前らが魔術は世界の心理を求めて~なんてカッコイイことよく言うけど、そりゃ間違いだ。魔術は人の心を突き詰めるもんなんだよ」

 

 ドンッと自分の胸板へ手を当てたグレンを見て、先ほどから好奇心一杯羨望一杯のまばゆいばかりの視線を送っていたアステルはごくっと生唾を飲み込んだ。

 そこからざわざわとクラスがざわめき、グレンは更に生徒達の言葉を拾っていく。

 

「何? たかが言葉ごときに人の深層意識を変えるほどの力があるのか信じられないって? ……ったく、あー言えばこう言う奴らだな……おい、そこの開発馬鹿」

「はい?」

「だから彼は開発馬鹿じゃありません! 彼にはアステル=ガラードって名前が――」

「……愛している。実は一目見た時から俺はお前に惚れていた」

「え゙……」

「は?」

「ほーうっ?」

「なッ――」

「……なななな、貴方、何を言って――ッ!?」

「はい、注目ー。白猫達の顔が赤くなったり青くなったり黄色くなったりしましたねー? 黄色は危ないと思うが見事に言葉ごときが意識になんらかの影響を与えましたねー? 比較的理性による制御の容易い表層意識ですらこの有様なわけだから理性のきかない深層意識なんて――どわぁッ!? ちょ、この馬鹿! 教科書投げんな! ってかそこの金髪(シャーリィ)テメェ今ナイフ投げたな!? 刃物投げちゃダメ絶対!!」

「シャーリィ=メドラウトだ! 馬鹿はテメェだッ!! 何授業中にいたいけな男子口説いてんだテメェは!?」

「先生の馬鹿ぁぁっ!」

「馬鹿はアンタよッ! この馬鹿馬鹿馬鹿――ッ!」

 

 ひと騒動の痕、顔を真っ赤に腫らし、頬には複数の切り傷の出来たグレンは術式の呪文の関係について話し始める。

 アステルの両側からフーッ、フーッと猫や犬が威嚇している時の呼吸音が聞こえるが、彼は気を取り直して彼の話に聞き入った。

 

「ま、要は連想ゲームだわな。例えば、そこの白猫と開発馬鹿と聞けば白髪、と誰もが連想するように呪文と術式の関係も同じだ。ルーンで呪文を括ることで相互――痛ぇッ!? ちょ、頼むから教科書投げないでぉおぶはぁッ!?」

 

 グレンの顔に、さらに本の痕が付く。今度は他のクラスメイトもグレンへ近い者から本を投げ出し、彼は滅多打ちに遭ってしまう

 それから後も時に聞き入り、時に考え、時に激しいツッコミの押収が続き、あっと言う間に授業は終わってしまうのだった。

 

 

       ◇

 

 

 授業が一区切りついたところで昼休みとなり、グレンはアステルを呼び出し西館の屋上バルコニーへと出た。

 

「どうしたんです? 今日の授業といい、グレン先生、昨日何かあったんですか?」

「あー……まぁ、色々とな。見直すことが多かったっつーか……」

 

 グレンは壁に寄りかかり、空を見上げる。すると視界のどこにでも、あの空に浮かぶ城が目に入る。

 それを見て意を決し、少しぶっきらぼうな口調で語り出した。

 

「昨日、セラと会った」

「……そうですか」

 

 アステルももちろんセラが外出したことは知っている。深夜まで戻らなかったので心配していたが、その予感は的中。泥酔しかけたセラがべろべろになって屋敷へ戻ってきたため、その時間まで研究に没頭していたアステルは慌てて彼女を介抱したのである。

 尚、現在その話の中心であるセラは絶賛二日酔いに悩まされダウンしているので、今日の臨時料理当番はシスティが受け持つことになった。

 

「――ありがとな」

「え……?」

「まあ、なんだ……その、結局アイツを救おうと真っ先に飛び出してったのはお前なんだと思うし、まずはお前から礼を言っとこうと思ってさ」

「先生……」

 

 グレンは後ろ頭を掻きながら照れくさげに笑う。そんな彼の見たことのない表情を目にしたアステルは、思わず涙腺が緩んだ。

 

「なーんでお前が泣いてんだよ。おらっ」

「うわあっ! や、やめてください戻すの大変なんですから!」

「はははっ! うりうりこいつめーっ!」

「せんせーっ!!」

 

 くしゃくしゃと癖の強い前髪をさらにぐちゃぐちゃにされながら撫で回されながらじゃれ合い、最終的に完全にセットが乱れたアステルは涙目でそれを戻してゆく。

 

「……また頑張るからさ。付き合ってくれないか? さっきみたいに、俺の授業に」

「当たり前じゃないですか。先生の教科書に縛られない授業、僕はとても好きです。考えて考えて、根本から見つめ直して一から……いえ、ゼロから組み上げていく魔術というものが好きです。どうかこれからも、よろしくお願いします、グレン先生」

「――おう。任しときな」

 

 ふっと笑ったグレンは大きく頷いたあと、「でも」と付け加える。

 

「はい?」

「まずはメシだ。腹減った~もう仕事いや~」

「っはは……!」

 

 自分の腹をさすったグレンを見て、アステルは白い歯を見せて笑うと、二人で食堂へと向かうのだった。

 

「そうだ先生、セラさんとはお付き合いされてるんですか?」

「ばッ!? ち、ちげーよっ!? あいつとはまだ何もしてねぇっ!!」

「……まだ?」

「……もうやだぁ……お家帰るぅ……」

「ああっ、先生待って! 逃げないで! そっち食堂じゃないです!?」




 ここまでお読みいただきありがとうございます! 次回もどうか、よろしくお願いします……!!
 ※6/16、リック学院長のお話を少し修正しました。大変申し訳ありません!
 ここら辺で少し人間関係図を記入していきたいと思います。学生組はほぼハーレムとなっていますが、グレンとの絡みも多めに考えておりますのでご安心ください!
 第一弾はアステルです。どうぞ!


1.〇〇からアステルに対する印象

①システィ:……好きよ。当たり前じゃない。――って、何言わせてんのよ馬鹿ぁぁぁ――ッ!!(ゲイル・ブロウ)

②ルミア:好きだよ? 大好き♪ システィとくっついても大丈夫かなぁ

③シャーリィ:まぁ、好きな部類なんじゃねーの? つっても恋愛感情はあまりねーから、お嬢と姫さんのやりとり見てニヤニヤしてるのが性に合うっつーか

④セラ:可愛い弟分! いつかめいっぱいなでなでしたい!!

⑤ハーレイ:私の弟子天使すぎィ!!

⑥グレン:開発馬鹿。滅茶苦茶授業気に入ってくれてるっぽいが……まっ、これからも頑張りますか

⑦セリカ:もっと出番くれ 全員:直球!!


2.アステルから〇〇に対する印象

①システィ:親友、かな? 同じ目標を持っている大切な人で、お互いに支え合えるように頑張ります!

②ルミア:彼女は幼馴染です。立場的に危ういところに居るけれど、彼女を守れるように頑張ります!

③シャーリィ:幼馴染で頼れる親友! かな? たまに僕よりも男らしくてカッコイイところがあるけれど、ちゃんと女の子としても見てあげたいなぁ

④セラ:システィの家の縁の下の力持ち。メイド服可愛いです。優しくて時には叱ってくれるところも愛情があるとてもいい人だと思います!

⑤ハーレイ:師匠。ツンデレで少しコミュニケーションが大変だけれど、毎日楽しく研究できているのも先生の御蔭です、ありがとうございます!

⑥グレン:色々と危なっかしい人。もっと仲良くなりたいなぁ

⑦セリカ:恐れ多くも先の大教授、セリカ=アルフォネア公であらせられるぞ! この紋所が目に入らぬか! ハハーッ!!(土下座)


グレン:おいアステル最後の……

シャーリィ:ってか「!」大杉!




※次回はグレン先生です、お楽しみに!

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