守銭奴がいく!   作:トルソー

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思い立ったが吉日と書き始めてみました。
一応プロットは固めてあるのですが、書溜めてはいないので不定期更新となります。
超絶カメ更新が予想されますが、どうぞお付き合いくださいませ。


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『っらっしゃいませー』

深夜二時、居酒屋。夜を引きずってきたような真っ黒なカソックを着込んだ神父が店に入ってきた。

 

『ご注文はどうされますか?』

伝票片手に定型文を聞けば、ジャラジャラとチェーンのついたメガネから鋭い鳶色の目線をよこして

「芋の水割り、それとふろふき大根」

とキメキメで答えられた。なんだ、ただの生臭神父か。

 

その後もオネーちゃん若いねーとか色々言われるけど気にしない。

伝票に略語を殴り書きして厨房に渡す。

『4卓さんオーダーお願いします!』

「あいよー」

『厨房入りまーす。』

 

ふろふき大根はもう鍋物系担当の人がやってるから、私はスピードメニューやおつきだしを作ろう。

ざく切りキャベツのタッパーを出して手早く盛ったり、枝豆を出したり...。

 

「すいません高堂さん!フライヤーお願いします!」

『はーい!オーダー何?』

「カルト(単品)でポテ塩、鳥からです!」

『ポテ塩、鳥から?了解です。』

 

このフライヤーができるか否かで給料が100円違うからすごいよね。

一応バイトリーダー的な立場なので厨房での立ち回りは達人級の自負がある。

フライヤーで跳ねる油を物ともせずに揚げ物たちを突っ込んでいくと、新顔たちにすげえ...みたいな視線を向けられる。

と言っても、私たぶんあなたたちより4歳は下なんだけどね。

 

『揚げ物あがりまーす!アイスと果肉の下拵え入りまーす。』

「はいよー、ラストオーダーいってきます。」

今度はカクテルに添える果肉とかデザートの自家製アイス、シャーベットの下拵え。最近はソルティライチが人気だなあ。

それが終わったら折を見てグラスやら食器やらを洗っていく。なんで山盛りになるまで誰も洗わないんだよ...乾燥機空いてるし....。

 

「ラストオーダースピードなんで自分やります!」

「10卓さんお会計でーす」

「あいよー、高堂さんもそろそろ上がりましょう!賄い冷めちゃいますよー。」

『はーい!』

返事しながら10卓と11卓のバッシングを済ませ、外の暖簾を下ろす。

ようやく閉店だ。

 

席にはまだラストのお酒を飲み中のお客さんがいるのでエプロンを外して厨房の一角で立ち食いする。

残った焼きそばにカリカリで攻撃力高めな唐揚げ、そして新人の練習で無造作に盛られたサラダ。

美味しいけど、こんな時間にこんなにたくさん食べているという事実が恐ろしい。もちろん、食べ残したりはしないけど。

 

タイムカードを書いて、同僚たちを労って店の外に出ると、生臭神父がいた。

 

『どうかされましたか?』とりあえず定型文定型文。

「アンタ、大学生じゃないだろ?補導される時間、とうにすぎてるぞ。」

藪から棒にいう神父は、やはりさっきのように目をギラつかせている。鈍くて、暗い、冷たい色だ。

 

『あちゃー、バレちゃったか。秘密にしてよオジサン。今月キビシイんだ。」

あえてチャラい女子高生風に返す。じゃあお金稼ぎにエンコーとか言われたらヤバイけど、流石にそこまで腐った神父じゃないはずだ。最悪、不審者に襲われたと言って店に戻ろうか。

 

「ウソだね、アンタは女子高生ですらない。個人経営の店だから、履歴書とかも出さないで面接で通ったんだろうが....中坊が背伸びすんな。」

『っ...オジサン、どっかであった?』

こちらの年齢を的確に指摘してきたということは、ただのエンコー目的の酔っ払いオヤジじゃないってことだ。

変な児童保護施設の職員とか?公共料金の請求か?父さんの前の職場のお偉いさん?知らないうちに作ってた借金の返済請求とか???

「なーに慌ててやがる。ただ息子の授業参観でアンタを見かけただけだよ。」

私の思考をぶった切るように、のらりくらりと神父が言った。まあ、顔が知られてたんなら、もう誤魔化しようもないか。

 

『...そう。さっきも言った通り、こっちも生活がかかってるわけ。それに、さっきの居酒屋だけど、今は私がめちゃくちゃ出張ってなんとかシフトを回してて、実はオヤジさん倒れてんの。お気に入りの飲み屋を潰したくなきゃ、私を見逃してほしい。』

いちかばちか、真実を話すことにした。神父の慈悲とやらで警察に突き出さないでくれるかもしれないし、こっちが懺悔したことにして守秘義務を課したっていい。

 

「そーかよ。マァなんだ、警察に突き出すとかそういうクセーことをする気はねェよ。」

神父はニヒルに笑って言った。

『そうか、じゃあ私はもう帰る。さっきのは聞かなかったことにしてくれ。今後ともどうぞご贔屓に。』

くるりと踵を返して帰路につこうとしたけれど、後ろから首根っこを掴まれてブラーンと吊るされた。

「まーまーそう急ぐなって、ほれ。なんかあったらここに来な。」

『なんかってなんだよ...。』

 

南十字教会 神父 藤本獅郎

 

もらった名刺にはそう書いてあった。

教会かー、頼ることもないと思うけど。

ごそごそっとポケットに詰めて、チェーンの錆びたチャリを漕ぐ。

父さん、まだ起きてるかな。起きていてくれるといいんだけど。

 

 

 

 

ボロボロの木造二階建てアパート。

六畳一間のこの部屋が、私と父さんの牙城である。

今はゴミ捨て場で拾ってきたちゃぶ台が置いてあるけれど、寝るときはちゃぶ台をすみに寄せて布団を敷く。ちゃぶ台が置いてあるということはまだ父さんは起きていて、つまりは正気だということだ。

一通り観察してから、一声『ただいま』声をかける。

ベランダ側の部屋の隅で、父さんは小さく肩を揺らした。

 

『今日ね、寿司盛り合わせがあんまり出なくて、シャリが余っちゃったの。閉店まで粘ってもらってきたから、オムライス作るね?ご飯、まだでしょ?』

返答はない。たとえ食べていたとしてもガリガリで、いつ栄養失調で倒れるか、という感じなのだ。無理やり食わせよう。

 

硬くなったシャリをフライパンで温めながらくずして、ほんの少し水を加えて、そこにみじん切りにした玉ねぎと鶏肉を合わせていく。火が通ったらケチャップをぶちまけて、全体にいい感じに行き渡ったら皿に盛る。

手早くフライパンを洗ってから、今朝雌鶏のロッキーとラッキーが産んでくれた卵を茶碗に割り入れ、解いてから手早くフライパンで焼いていく。残量わずかのデミグラスソースを居酒屋の厨房で貰ってきたから、それをぶっかければ完成だ。

 

『はい、父さんお待ちどうさま。明日からまた袋詰めの軽作業回してもらえるように頼んだんだ。しっかり食べてしっかり働いてな。』

父さんの目の前にちゃぶ台を引きずっていって、スプーンを握らせる。

 

「...おれ...の、さく、品...は...」

ひび割れた唇がかすかに動いて、カスカスの声が漏れる。目は相変わらず私を見ないけど、久しぶりに父さんの声を聞いた。

『納期が読めなさすぎるって、いろんなディーラーに手ェ切られちゃったんだ。....3年くらい前に。それより冷めちゃうからさ、食べてよ、父さん。』

私の言葉に従って、枯れた枝みたいな手が動いて唇に一口オムライスを運ぶ。

 

「...ん、うまい。ごめんなぁ、透。おれが、おれが不甲斐ないばっかりに...ごめんなぁ、ごめんなぁ。」

一口食べたはいいけれど、やっぱり目を合わせないまま涙を流して謝り始めてしまった。

 

無理やり父さんの口にオムライスを押し付けて、やっと黙って食事を再開するけれど、やっぱり咀嚼し終わると

 

「透、ごめんなぁ、ごめんなぁ。」

と繰り返す。昔っからだ。父さんはずっと変わらない。

オムライスが半分くらいになったところで、お父さんはいよいよ目に涙がたまって、私を正しく認識できなくなったようだった。

 

「ごめんなぁ、ごめんなぁ、ごめんなぁ夏子。ごめんなぁ。」

母さんの名前をしきりに呼びながら、むせかえってカビ臭い畳に伏してしまう。そのままずっと母さんの名前を呼ぶ。

オムライスの半分はラップをして冷蔵庫に入れて置いた。ーーそろそろだ。

 

「ウゥウ、ナツコ、ナツコオオオ!」

父さんの形相は激しく変化して、ひどく引きつったいびつな笑みを浮かべている。置き場がなくて、仕方なしに居間に置いてあった父さんの作品たちーー陶芸の花瓶やら皿やらは父さんがこういう状態になるたびにだんだん壊されている。あの枯れ枝のような腕がしなって、鋭く土からできた精巧な器たちを割って回る。その割れる音までも綺麗な陶芸品たちは、一瞬だけ昔の父さんを偲んで砕けていく。

かつては気鋭の陶芸家として一躍有名になった父さんだけど、もう買い手もつかないし、ここらで壊れるのがモノの定めなのかもしれない。

 

『はいはい、夏子はここにいますよ。』

こういう時、私にできるのは母になりすますことだけだ。

 

かつて“祓魔師”という職についていた母さんは、私が幼い頃に火災事故で亡くなっている。私もその時におったやけどで(魔障とか言うらしい)悪魔、とやらが見えるけれど、足繁くお寺に通っているおかげかあんまり寄ってこない。母がどんな人だったか。それは父さんが父さんの時に聞き出すしかないのだけれど、結局のところよくわからないまま、私はとりあえず母を演じている。

 

『そう大きな声を出さないで。透がびっくりしちゃうから。』

そっと手を父さんの肩において話しかければ、悪魔が嫌がって出ていったようだった。

 

「ナツコ...そうだな、そうだ。透、透が、とおるが、な...」

父さんはそのままスゥースゥーと寝息を立てる。

ハァーと思いっきり息を吐いて気合を入れてから、寝支度をした。

今日も父さんとは不毛なやりとりしかしてない。

でも、確かに私も父さんも、ちゃんと生きている。

とりあえず今は、それでいい。

 

明日も学校へ行って、授業を聴きながら受験勉強をして、寺の道場で居合道の練習をして、月謝がわりの掃除をしてからバイトをする。父さんの方の日雇い封入作業は難航しそうだから、帰ってから手伝わないとかも。あれ?それとあの生臭神父の息子とやらにも注意を払わないといけないんじゃないか??居酒屋バイトバラされたら終わりだし...ああ、頭が痛くなってきた。

まずは寝て、英気を養わなくちゃ。

 




いやー、ノリで書き始めましたが、面白くなる予感が微塵もない...
先ほども書いた通りありとりあえずプロットはできてるんですけどね。ええ(遠い目)。

過去話に持っていってもいいんですが、長ったらしくなっちゃって原作にずっと入れない未来が見えたので原作一歩手前から〜という形で初めて見ました。気長にお付き合いいただければ幸いです。

追記 多少見やすいように再度編集しました。アマリカワッテナイカモ....

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