守銭奴がいく!   作:トルソー

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4話になります。まだまだ不透明なこともいっぱいありますが、徐々に書いていけたら...と思ってます。

お楽しみいただければ幸いです!


4

生臭神父の到着は早かった。

そこまで遠くはないけれど、ここまで速いとなると、車かバイクで来たのだろうか?

やっぱり神父らしくない神父だ。

とうに現実感を失って、なんだかのんびりしていた私は、息急き切った神父の様子によって切迫した現実に引き戻された。

 

「それで、親父さんはあれからどうしてる?!」

『起きる気配もないです。なにせ自慢の一太刀を浴びせちゃったもんで。』

錆び錆びの階段をカンカンと上がっていきながら現状確認。

2階に上がり私たちの部屋の前に辿り着くと、なんだか禍々しい雰囲気がボロボロの扉の向こうからする気がする。

 

「お前さんは下がってな。」

唐突に警戒態勢を取った生臭神父は、私を後ろに下がらせる。

一応私も竹刀を中段に構えた。

 

そっと神父がノブに手をかけ、立て付けの悪いドアが軋みながら開く。

 

ギイィィイィ......

 

父さんはあれから一度目覚めていたみたいだ。

四肢を束ねて背中側にまとめた状態で、仰向かせて転がしておいたはずが、四つん這いになっている。まあ、ビニール紐ごときで拘束できる「悪魔」には見えなかったけど。

 

神父も警戒してか、固唾を飲んで父さんの様子を観察している。「父さん」か、「おかしい方の父さん」なのか。唸り声か何かを上げてくれない限りは、こちらにそれを判断するすべはない。

 

じっとりと嫌な汗が出るような沈黙。

まさしくこういう状態を膠着状態って言うんだろうな。また現実逃避して、この間やった国語の問題に思いを馳せる。

暇だ。とても暇だ。まだ神父の観察は続いている。呼吸さえ潜めながら父さんの様子を舐めるように観察している。

思えば神父は「父さん」にあったことも無いのだから、私以上に「おかしい方」か否かの判断ができないはずだ。

 

ええい、まどろっこしい!

『父、さん?』

私は思い切って口を開いた。

固まっていた空気に音が響く。

神父も「父さん」も一瞬びくりとした。

 

『父さん?目が覚めたの?なんとか言ってよ、』

一歩、前に踏み出そうとしたところで

神父が息を飲む音が聞こえた。

「下がれっ‼︎」

 

「グルァアアアアアアッッ‼︎‼︎」

おっとっと、「おかしい方の父さん」がさっきはその手になかった異様に鋭い爪をキッと立ててプロ野球のピッチャーばりの速度で振り下ろして来た。

慌てて神父の背中に飛び込む。

本当に中身は「悪魔」らしい。

でも体はインドア派な父さんのものだから、さっきの動きにも耐えられなかったみたいで、プツプツと嫌な音がする。動けるところを見ると、腱は切れてないようだけど肉離れは至る所で起こっていそうだ。

 

「まずいぞ、中級か上級の悪魔が憑いてやがる。あんまり刺激してくれるな、親父さんの肉体が持たなくなっちまう。」

『さっきのでよく分かりました!それで、あなたは中にいるヤツをお祓いできるんですか?できないんですか?』

「あァ、できるとも。」

 

先程自覚したばかりのことを重ねて注意されて若干イラッとした私は、つい端的な二者択一を迫ってしまった。断られたら縋れる先など無いというのに。

それでも神父はニィと笑って再び悪魔に向き直った。

 

「....神に逆らう者はそうではない

彼は風に吹き飛ばされる籾殻。

神に逆らう者は裁きに堪えず

罪ある者は神に従う人の集いに堪えない。

神に従う人の道を主は知っていてくださる。

神に逆らう者の道は 滅びに至る!」

 

あれは旧約聖書の一節か?

鮮やかに大きな十字を切りながら、今までとは打って変わった威厳ある声で聖言を唱える神父はまさしくー

 

「ウゥゥ、グアァァァァッ セッカクノオレノヨリシロガ....ゥオノレェェェッ、エクソシストォォォ‼︎‼︎」

 

十字を切られると同時に、もがき跪いた「おかしい方の父さん」が壮絶な恨み言を口にする。

その異形の手で神父を道ずれにせんと必死の形相で神父に手を伸ばすが、今度は神父が素早く小瓶を壁にぶつけて叩き割り、父さんに中の液体をブチまける。

 

ジュウッと熱したフライパンに水を入れた時のような音がしたと思ったら、なんとも言えぬ苦悶の声を上げながら「おかしい方の父さん」が消えていくのを感じた。

 

『終わった...んですよね?』

「あァ」

再び訪れた沈黙に恐る恐る問いかければ肯定。

 

父さんはまさしく憑き物が落ちて、無垢な胎児のように床で丸くなっている。

 

『とう、さん?』

「父さん」はまだ生きているのだろうか。

肉体だけが生きているなんてことがありはしないだろうか。

不意に怖くなって、そっと手を父さんの方に置く

 

 

ザシュッ

 

 

いや、置いた()()()だった。

『え...?』

 

不意に私の右手首に切り傷が現れた、血が溢れ出す。わぁ、鎌鼬みたい。

呆然としている間に、後ろからグイッと引っ張られて神父と位置を後退させられた。

 

ハッと気づいて、傷口のある右手首を圧迫しつつ少し上に掲げて出血を可能な限り抑える。失血死とか笑えないし、何か縛るもの...と思って目線を父さんの方に向けて、ようやく私は異変に気付いた。

 

父さんは上品に笑っている。先程の野獣のような唸りもない。

様相もなんだか違っていて、爪は多少引っ込んでいるけれどやっぱり長めで、牙や角まで生えている。

 

「戯れにこちらに来てみましたが、なかなか悪くない容れ物も居るものですね....実に快適....おや?そこに居るのはエクソシスト、とやらでしょうか?」

 

父さんの声だけれど、数倍艶のあるテノールになった「変な父さん」が喋り出した。

....ちゃんと日本語だ。やっぱりさっきの悪魔じゃないのかな?

 

「そうだ。そしてこれからお前を祓う。」

神父が淡々と、というよりは温度も何もない言い方で返答した。

 

「ふぅーん。どうやら君は結構やり手らしいですね。僕が劣るとは思いませんが、せっかく見つけたいい容れ物。目印もろとも追い出されてしまったら悔しいですしねぇ...?」

そこまで言ってなぜか「変な方の父さん」はついっと私に視線を投げて来た。

「!?おい、待ちやがれ!」

「ま、今回は平和的に手を引いてやろうじゃあありませんか。なかなか快適でしたがね。それでは今しばらく、御機嫌よう。」

神父の制止も虚しく、パ、と表情を思案顔から切り替えた「変な方の父さん」は颯爽と挨拶して消えていった。

糸が切れた操り人形のように、グシャリと父さんが床に座す。

角やら牙やらは消えていた。爪も普通の長さに戻ってる。

でもあの着地は正直...膝の皿割れてないか心配だ。

 

ホッとしたけど、今度は迂闊に近寄ったりせず、神父に確認をしっかり取ろう。

『ねえ、今度こそ終わったの?』

あ、ヤベ。ついタメ口に....

ちらっと神父の方を見ると、神父は嫌に深刻そうな顔をして考え込んでいた。

 

『あの!さっきみたいに別の悪魔が入れ替わり立ち替わり父さんに憑いてるんですか?憑いてないんですか?どっち?』

やはり気になることは端的に聞くのが一番だ。思いっきりズバッといっちゃおう。

どうやらズバッと行きすぎたようで、弾かれたように顔を上げた神父はやはり眉根を寄せていた。

 

「もう憑いてないが、目印だなんだと言っていた....明らかに後のやつの方が高位の悪魔だった...あんな風に憑依体に変化を起こして、その上自意識や言語疎通が明快と来るとさっきのやつは間違いなく上級悪魔だ。その前のやつはその点がどうも微妙だった。同じ悪魔にしてはこの差はデカすぎる....。」

ブツブツと分析を述べる神父の言葉に、私の感覚が合っていたことを知る。

やはり「おかしい方の父さん」と「変な方の父さん」は全く違う悪魔だったらしい。

それより今は、私と父さんの手当てをしてほしいんだけど....

 

『あの、流石にそろそろ血が足りなくなって来るんですけど....父さんも身体中がやばいことになってそうだし....』

「...あァ、そうだな。スマンスマン。一応エクソシストの方の応急処置として、親父さんに軽ーくお守りを付けておこうと思うんだが、いいか?」

パッと切り替えたらしい神父がカソックのポケットから小さなロザリオを取り出してユラユラ揺する。宗派的な意味で、みたいなことかな?

『今更、じゃないですか。』

「マァ祓魔の時は非常時だったもんで。お守りとしてなら、本来の宗派の方が効果を発揮するんだ。」

『ああ、そゆこと。それは問題ないはずです。父さんはプロテスタントですから関係はあると思うし、生活に困った時は禅寺に身を寄せていたこともありますし。ほぼ無宗教と思っていただいて構いません。』

「そうか。んじゃさっさとやりますか!」

 

「ー我らの魂は主を待つ。

主は我らの助け、我らの盾。

我らの心は喜び

聖なる御名に依り頼む。

主よ、あなたの慈しみが

我らの上にあるように

主を待ち望む我らの上に。」

 

滔々と再び聖書の一節らしきものを読み上げた神父はロザリオに少し水を垂らして十字を切る。そしてそれを、気を失ったままの父さんの首に引っ掛ける。

苦悶に満ちていた父さんの顔が、少し和らいだ気がした。

一安心すると身体を疲労感が襲う。そうだ、めっちゃ出血してたんだった。

 

『ありがとう、ございます。とりあえず、救急車を...』

「うんにゃ、それについては医工騎士(ドクター)だ。その傷は普通の怪我じゃあない、魔障ってやつなんでな。」

『ドクター?魔性??』

聞きなれない単語と含みのある名詞が飛び出してきて頭についついハテナが浮かぶ。

「ドクターってのは医術専門のエクソシストのことで、魔障ってのは悪魔に受けた傷のことだ。裂傷でも通常より血液凝固が遅かったり、酷く膿んだりしちまう。まーお前は悪魔が見えてるところを見ると、どうやら既に魔障を負ってるようだが。」

ふーん、魔障の件は私の仮説通りか。ふむふむと聞いていたけれど、傷が治りにくいとか困る!それただのリスカした痛いやつじゃん!バイトにも支障が出るし....あれ?利き手を切られてるからリスカじゃなくて暴行事件を心配される可能性も微レ存?やだそれめんどくさい。

 

『えー、それは困りますよ!どうしようエクソシストとのコネクションとかないし...』

うえぇぇどうしよ...と思っていると、神父が()()()、いやうざったいドヤ顔で

「なーに言ってんだ。俺がドクターなんだよ。」

と言ってきた。

『そういう情報は早く言え!!』

「えー、喜んだりしねェのそこは。ほらァ、必死で頼ったペティナイフが実は十徳ナイフだった、みたいな。」

『うーん、とりあえず今回の依頼料とか諸々が分かってこないことには諸手を挙げて大喜び、というわけには行かないですね。』

「チッ、所帯染みた女子中学生だぜ。」

『そういうの、結構なんでとっとと治療してください。』

「はいはい」

 

.....to be continue......

 

 

 




獅郎の詠唱については新旧共同和訳聖書の詩篇から引用しています。
原作が詩篇っぽい文章を引用していたのと、手元に新旧共同和訳しかなかったためです。原作の詠唱は極力原作に準拠しようと思ってますが、オリジナルの詠唱についてはこういう形を取ろうと思います。
ただ、真言については手元に文献がないのでどうしたものか........
なかなか原作には入れませんが、あと2、3話くらいで原作には入れたらなぁと思ってます!
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