CookieClicker   作:natsuki

2 / 14
第二話 ゲームセンター


02

【002】

 

 ルークには一つ不安材料があった。

 

「……そういえば、メソトどうしたんだ」

 

 メソトはよくゲームセンターに遊びに行く人間だった。

 そして、今日もゲームセンターへ向かう旨をルークに伝えていた。

 

「何も問題が無ければいいんだが……」

 

 呟いて、ルークは再び街を駆け出した。

 街の中心にあるリンドンバーグ・ゲームセンターは街唯一のゲームセンターであり、学生が挙って訪れる場所である。メソトも例外にもれず、不良学生ではないものの、ここに遊びに来ていた。

 ここにあるゲームの種類は様々である。シューティングからロールプレイングゲーム、格闘ゲームなどがある。流石は、街唯一のゲームセンターである。殆どのゲームが満席となっていた。

 その中でも彼はレースゲームが好きだった。架空の峠を自動車で走り、その早さを競うものだ。彼はこれが得意だった。

 コインを入れ、愛車を選ぶ。まだ十五歳の彼にとって、『愛車』と呼ぶのもナンセンスだが、このゲームの中では、彼はこの車の持ち主だ。だから、愛車と呼んでも間違ってはいないのだった。

 メソトがレースゲームを始めたそれと同時に、ルークもリンドンバーグ・ゲームセンターへ足を踏み入れていた。足を踏み入れた瞬間、周囲の視線が痛く感じられた。母親がした通報は、相当に範囲が広いということを物語っていた。

 そんな視線を無視して、一先ずメソトを探すことにした。彼の言い分通りに行けば、今日もゲームセンターに居て、レースゲームで遊んでいるはずだった。

 

「居た」

 

 小さく呟いて、ルークはそちらを見た。そこにはレソトが予想通りレースゲームで遊んでいた。

 

「おい、メソト――」

 

 ルークがレソトの肩を叩こうとした、その時だった。

 ドゴン!! と轟音が響いた。

 始め、それは何の音だったのか解らなかった。しかし、音が発生した場所を見て、それが何かを理解した――。

 それは、壁が破壊された音だった。

 何に?

 それは、巨大な猫だった。

 大きさは、ルークの身長の十倍ほど。

 ピンクの毛をした、猫がルークたちを睨みつけていた。

 

「……おいおい、どういうことだよこりゃあ!? こんなものが出歩いていたら街中大パニックだぞ!!」

 

 ルークは叫んだが、ここで漸く彼は何かに気が付いた。

 人が、居ないのだ。

 あんなに居た人が、メソト一人を除いて居なくなってしまっていたのだ。

 そして、そんな事態を気にもせず、メソトはまだレースゲームに夢中になっていた。

 猫はゆっくりとこちらに向かってきている。急いで逃げなければ――死ぬだろう。

 

「お、おい! メソト!」

 

 ルークはメソトの肩を叩く。

 

「今いいところだからちょっと待ってくれ……! おっと、こいつ手ごわいな……」

「そんなことより、化け猫が目の前にいるんだよ! ティラノサウルスくらいの大きさのが!」

「はっはっは、何を言っているんだよルーク。風邪でもひいたか?」

 

 だめだ。メソトはまったく気にしてやいなかった。

 ルークはそう考えると、強引にシートからメソトの身体を引き剥がした。そして、無理やりその猫の方向に、メソトの身体を向けた。

 はじめ、嫌悪を露わにしていたメソトだったが、猫を見ると、

 

「う、うわっ!?」

 

 大きな声を上げ、後ずさった。

 

「お、おい! ルーク、こいつはどういうことなんだよ!?」

「俺に言われても解んねえよ! ……ただ、母さんに『クッキー』のことを訊いただけで……!」

「クッキーのこと?」

 

 メソトが何か感付いたと同時に、猫はルークたち目掛けて走り出した。

 それを見て、慌てて二人は立ち上がる。

 踵を返し、一目散に走り出した。

 走る。走る。走る。

 店の奥にある『STAFF ONLY』と書かれた扉をくぐって、彼らは漸く息をついた。

 

「……なあ、さっき『クッキーのことを訊いただけで』こうなった、って言ったよな?」

 

 話は、メソトから切り出された。その言葉に、ルークは小さく頷く。

 

「クッキーのことを言いだしたら、通報されて、こんなことになっちまったんだ」

「……ならよ、答えはたった一つじゃねえか」

「?」

「クッキーについて知られたくないことがある。それは大人の共通認識として残っていて、それを知られないようにするために、感づかれた子供を殺す……おおかた、こういうことなんじゃねえか?」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 クッキーについての共通認識。これについては、誰も疑問に思うことなどなかった。それについては、『そうあるから、そうなんだ』としか誰も思わなかった。

 だからこそ。

 それについて、考えられた人間にはあるプロセスを施さなくてはならない。何も、殺そうとか思ってはいない。

 それはそれだと思い込ませ、仲間にすることだ。

 非常に簡単なことだ。

 平和な――ことだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……社長、ニュージャージーにおいて、『反逆者』が出たとのことですが、いかがなさいますか」

 

 リンドンバーグ社、社長室。一人のスーツを着こなした青年が、回転椅子に腰掛ける人間に対し、そう言った。

 

「反逆者が出るのは、どれくらいぶりだ」

「おおよそ、三年ぶりです」

「何名だ?」

「二名です」

 

 会話は続く。

 

「……ならば、私自ら向かおうではないか」

 

 そう言って、社長と呼ばれた人間は立ち上がる。それを見てスーツの青年が狼狽えた表情を見せる。

 

「……! 社長自らが出向くことなどございません! 私たちにご命令くだされば……」

「何を言う。先ずは社長が出向いてこそ、部下がそれを見て働くのだ。先ずは私が手本を見せねばなるまい」

 

 そう言って、社長は机からあるものを取り出した。それは銃のようだった。

 銃を構え、窓へ撃つ。窓には弾丸が当たらず、代わりにそこに空間の穴が出来た。それを見て、青年は訊ねる。

 

「これは……ポータル、ガン……ですか?」

「そうだ。私はこれで向かう。君もついてきたまえ」

 

 その言葉に、青年は小さくお辞儀をした。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。