魔法科高校の楽園の巫女 作:にゃんくる
入学式前
これまで監禁生活を送っていたが高校に通うということで数日前に新たな住居へと身柄を移送された。隣の席はいつも世話をしてくれるメイドさんであったが、数人の見知らぬ男性に囲まれながら車で来たため、緊張で何もできず、気付いたときには家具も揃った新居にメイドさんと二人残されていた。
それから数日は監禁生活を送っていた時と何も変わらないひきこもり生活であった。私は勉強をして、メイドさんが私の面倒を見てくれる。完全にダメ人間である。高校入学したらがんばろう。お皿洗い、とか……
そんなこんなで本日入学式当日、家から出たくない私をメイドさんに無理やり身だしなみを整えられる。ある程度の常識やら魔法科高校のことやらを教えられたとはいえ、入試の時のトラウマのせいかお外怖い。
「霊夢様、行きますよ」
最後の抵抗、動かない。しかし対人力の低い私は少しひっぱられるだけで自分から歩いてしまう。
「うぅ……」
少し泣きそうだが、人を困らせるなどできないので我慢してついていくことにする。ちなみにメイドさんはこれから毎日途中まで送っていってくれるらしい。流石にメイドさんに高校まで付き添ってもらうと絶対目立つのでどうにか諦めてもらった。いつまでもうじうじしてても仕方ないので覚悟を決めよう。入学式は大事だ、主にこれからの高校生活で目立たないように過ごすための第一歩として。
メイドさんにひっぱられてしばらく進むと、見知った顔の人物が立っていた。
「おはよう霊夢、久しぶりね」
「深雪!」
私の数少ない友人、司波深雪であった。もしかしたらお母様が一緒に登校してくれるよう言ってくれたのかもしれない。母親に感謝しながら、メイドさんに引っ張られるだけであった霊夢は初めて自分から進む。しかしそこで初めて、深雪の隣でこちらをじっとみる男性に気付き、立ち止まる。
「ああ、霊夢は初めてよね。こちらは私の兄の司波達也よ」
「司波達也だ、よろしく頼む」
「よ、よろしく」
司波達也、彼については知っていた。深雪はここ最近は会う度にお兄様お兄様言っていたのだ。そのため、深雪視点の司波達也については既にかなり詳しかった。とはいえ初対面であることには変わらないためそのまま深雪の影に隠れる。
「全く霊夢はしょうがないんだから」
深雪は霊夢が人見知りであることを知っていたため、責める様子もなく苦笑する。
「それでは深雪様、達也様、霊夢様をよろしくお願いします」
そう言ってメイドさんは一度礼をするとすぐに立ち去ってしまう。私のつたない説得で付き添いを途中までで諦めてくれたのは二人がいたからなのだとわかった。
「霊夢、今の方はどなたなのかしら?」
人の機微に疎い私でもわかる、少し緊張したような顔と震えた声で尋ねられた。
「メイドさん……いつも私の世話をしてくれる」
「そうなの」
「二人とも、そろそろ行こう」
「そうね、行きましょう霊夢」
「うん」
メイドさんを見て深雪の様子が少しおかしくなってしまったように感じたけれども、その違和感もすぐになくなったため、気にしないことにした。それよりも私にはこれから高校に行くという事実の方が重くのしかかってくるのであった。
高校についたのは入学式には2時間も早い時間であった。入学式の新入生代表として深雪は生徒の前でスピーチをするらしい。私はそのスピーチの場に自分を置き換えて想像してしまい、身震いする。多くの人間の前でスピーチなんて到底自分には無理な話だ。そんなわけで深雪はリハーサルに行ってしまい、現在達也と二人きり。聞き知っているとはいえ本日初対面なため、やはり緊張してしまう。そんな私に気を使ってか少し距離を開けてくれている。
「人通りの少なそうな休める場所を探そうか」
「は、はい!」
一定の距離を開けて少し前を歩く達也についていく。こちらを見ることなく、気配か足音で察知しているのか、少し間があくと歩く速度もゆっくりになる。朝から緊張しっぱなしで気付かなかったが彼は朝も常にこちらに気を配っている様子があった。できる男である。将来もし職にあぶれたらメイドさんとして雇ってもいいと思うくらい。
しばらく進んで手頃なベンチを見つけ、少し距離を取って座る。入学式までの二時間は暇つぶしをするにはかなり長い時間であるがひきこもり霊夢にとっては日常茶飯事でもあった。常日頃から時間をもてあましている霊夢は何をしていたかといえば何もせず瞑想のようなものをして過ごしていた。目を閉じ、自分の内側に入っていくような感覚、周囲から感じる圧力のようなものから解き放たれ、自由になる感覚。この状態になるといつも時間が過ぎるのが早いため、二時間などあっという間に過ぎてしまうだろう。
ふと、何かを感じて瞑想状態から戻る。すると目の前には一人の女性が立っていてこちらを見ていることに気付き、咄嗟に目線を下に向ける。達也が既に立っていることから、二人は話していたのかもしれない。
「あなたは、四葉霊夢さんね?」
なぜ知っているんだという疑問はもちろん口に出せず、ただ頷いて返事をする。
「生徒会長の七草真由美です。よろしくね?」
そう言って膝を曲げ、私の視線に合わせてくる。直感的に理解する。この人はおそらく私の苦手なタイプの人間だ。率直に言えばコミュ障の天敵だ。
「そろそろ時間ですので、失礼します。四葉さんも行きましょう」
私が何も反応できず困っているのを達也が助けてくれた。七草先輩は残念そうな顔を隠さずこちらを見ていたが、私はすぐその場で一礼して達也を追う。やはり達也は気がきくようだ。きっとメイド服も似合うだろう。
「霊夢でいい……」
ぼそっと小さい声で呟いたがしっかり聞こえていたようで反応を示す。
「わかった、よろしくな霊夢」
やはりメイドにしたいと思う霊夢であった。
なんか思ってたのと少し違う……
霊夢がメイド好きになってしまった。