アズレン夕立と艦これ夕立が提督(指揮官)をとりあう話

夕立が出たてのころに書いたのでアズレン夕立のキャラがガバガバなので注意

無断転載被害記念です。こっちには掲載する予定は無かったのですけど、掲載します。

YouTubeにこの『沈まぬ日の入り』が無断転載されましたが、視聴せずに権利の侵害で通報してくださいね。
因みに作者は水上凪となってますが、なぁのいもの本名義ですので、作者は合ってるので悪しからず。

悪いのは許可した覚えがないのに動画にされ、アップロードされたことなので。

1 / 1
沈まぬ日の入り

『同一人物』と言う言葉をご存じだろうか?

 

 簡単な説明をするとすれば、全く無関係である二人の人物が、実は同じ人物である時に使われる言葉だ。

 

 例えば、物語の変身ヒーローの正体が普段は冴えない人物であった時である場合。例えば、刑事物などで犯人じゃないと思っていた人物が、実は名前を変えた犯人だった場合。

 

 物語で例を挙げるとすれば、『ジキル博士とハイド氏』という物語が該当するだろう。

 

 しかし、最近は『同一人物』と言う言葉では表せられないが、根幹とする物は同じと言う面白い存在がある。

 

 それらを、最近作られた言葉であてはめるとしたら『同一存在』と呼ばれているものたちだ。

 

 同一存在は、同じ題材を扱っている物に言える。とは言え、最近の言葉故に定義はまだあやふやな物だ。

 

 今回の定義は、『同じものを根幹とした別人』と言う程度に捉えて頂きたい。

 

 そして、今から織りなす物語は、同一存在の少女が繰り広げる物語である―――

 

 

 

 

 

 ある鎮守府の提督は、海外へと派遣される事になったらしい。

 

 らしいと言う不確定な言い方なのは、派遣の情報は秘匿情報であり、秘書艦ですら、『海外に提督が派遣される』と言う情報位しか提督から与えられなかった為だ。

 

 どの位の期間派遣されるかは提督自身にもわからず、もしかしたら一、二年は戻ってこれないかもしれないと彼は語った。

 

 その事を言われた秘書艦であり、彼から左手の薬指で流星の様な輝きを放つ絆の証を、唯一人贈られた少女、夕立は、泣きながら彼を引き止めた。

 

 そんな長期間離れる事は我慢できないと、遠くに行ってしまうのなら自分も一緒に行くと、子供の様に泣きじゃくって彼に縋りついた。

 

 作戦から帰投すれば自分の帰るべき場所に大好きな提督が迎えてくれる。そんな小さな幸福が崩れるだけじゃ無くて、提督が自分から離れていくようでそれを拒絶したいのかのように彼に泣きついたのだ。

 

 彼も自分も夕立から離れるのは嫌だと、自分の本心を吐露しつつ、上の命令には逆らえない事と、新たなる脅威に脅かされた人類を守る為に自分は行かないといけないと何度も説得した。

 

 途中、夕立から駆け落ちと言う何とも魅力的な提案をされたのだが、強い心で理性を乗りこなし、自分だけならまだしも夕立には国にも狙われるような危険な橋を渡って欲しくない一心で夕立を説得した。

 

 長い話し合いの中で、一日に三回は電話をかけるか、かけられたら出来るだけ出る事、メールには遅くてもいいから全て返信する事を互いに認め、夕立は提督を送り出すと決意したのだ。

 

 夕立は提督代理として、提督が去る前に言われた通り、毎日演習と遠征をこなすことに務めながら、互いにメッセージを送りあって寂しさを埋めると言う毎日を二ヶ月送っていた――のだが、提督からまた鎮守府に帰還する事が出来ると先日伝えたのだ。

 

 そこから夕立は大変である。喜びの余り鎮守府を駆け回り、演習では一人で戦艦六隻相手に圧勝し、遠征のメンバーに組み込まれては過積載と思われる量の資材を全ていつもの半分の時間で持ち帰る。皆は二重キラ付けを超え、もはや恒星と呼べるレベルに輝いていたと語る。

 

 そして、本日は提督が鎮守府に帰還する日。皆で食堂を飾りつけてパーティーの準備の真っ最中。夕立も本日は提督代理の権限で鎮守府の業務の殆どを停止させ、自分も提督お帰りなさいと言う看板を設置するのを手伝っている。

 

 夕立はチラチラと食堂の壁にかけられた時計を見る。時刻は10時58分。提督は十一時に到着する筈と言っていたから、もしかしたら――。そう思っていた所で館内放送から大淀のアナウンスが入る。提督が港に到着したと。

 

 一緒に看板を取り付けていた白露は夕立がそわそわと落ち着かない事に気が付くと、肩に手を置いて白い歯を見せながらウィンクする。

 

「ほら!一番にお帰りって言ってきなって!!」

 

「う、うん!!突撃するっぽい」

 

 いつもは姉らしくない姉の背中を押してくれる言葉に頷いて、夕立は食堂から駆け出る。

 

 ――提督さんが帰ってきたらどんな事をしよう。どんな話をしようか。パーティー喜んでくれるかな?

 

 飾り着けてる最中に思い浮かんだ期待と不安は、いつの間にか吹き飛び、今は提督に会いたいと言う澄んだ気持ちで一杯になっている事を感じる。

 

 息も絶え絶えに港に向かうと、そこには客船から降ろされたタラップを降りる提督の姿が。

 

 出迎えようと予め出待ちしていた長門達の隙間を通り、夕立もタラップを駆け上がると、

 

「て・い・と・く・さーん!!」

 

 提督に飛びつく。提督は驚いて目を丸くしながらも、瞬時に足に力を入れて体を固定し、若干よろめきながら夕立を受け止める。

 

「あ、危ないぞ夕立…」

 

「えへへー、我慢できなかったっぽい!」

 

 夕立は提督のお腹に頭を押し付けるようにして抱きしめる。提督は仕方がないなと言わんばかりに微笑を浮べて夕立のされるがままになる。

 

 そのまま二人で手を繋いで降りようとも思った夕立だが、そこで違和感に気が付く。夕立の指先に感じた感触はサラサラとした素肌の感触なのだ。

 

 提督はちゃんといつもの軍服を着ているのに素肌の感触はあり得ない。感じるとしたら布のちょっとザラザラとした感触の筈。

 

 夕立がお腹から横に視線を向けてみると、白い脚が確認できた。

 

 提督に密着するのを止めて顔を離してみると、提督の肩ごしに、灰色みを帯びた髪の毛と犬耳のような黒い三角形の耳のようなものが見える。提督の血の流れる音の背後から小さく寝息が聞えるところから推測すると、提督は誰かを背負っているらしい。

 

 夕立は上目遣いに提督を見上げる。ただし、それは恋人に向ける物でも甘い意味ではない。言うならば、夫の不義の関係を見てしまった時のような目だ。

 

 対する提督も、夕立から不穏な何かを感じ取ったらしく、表情筋が氷ついてしまっている。

 

「提督さん…その子…だれ……?」

 

「あっ、えっと…その…だなぁ…」

 

 提督は答えを求めるかの様に空をあげながら考えると、小さく頷きながら、顔を戻す。視線だけはちょっと逸らし気味で。

 

「『夕立』、聞いて驚かないでくれ……この子は……『夕立』なんだ」

 

「えっ……?」

 

「ふわぁ……なんだ指揮官、メシか?」

 

 驚きで固まる夕立をよそに、もう一人の夕立は瞳を擦りながら、提督の肩から顔をあげた。

 

 

 

 

 

 

 提督が言うには、向こうの『夕立』はどうやら、貨物の中に隠れて紛れ込んでいたらしく、貨物室から異音を聞きつけたクルーが原因解明の為に貨物を開けたところ、健やかに眠っている『夕立』が中に居たらしい。

 

 気づいたのは鎮守府に到着する寸前だったため、向こうに送り返す事も出来ず、こうして鎮守府に一緒に来ると言う事になったらしい。

 

 現在、二人の夕立と提督は執務室に居る。パーティーが開催されるまでに長旅の疲れを癒す為と夕立と二人で語り合う憩いの時間となる筈なのだが、今は――

 

「うううぅ!!」

 

「わぅうう!!」

 

 二人の夕立が睨みを効かせ合う戦場と化した。

 

 それもその筈、『夕立』がはっきりと目を覚ますや否や、

 

『んぁ…あれ?なんで指揮官がここにいんの?驚かすつもりだったのに。まぁ、いいや!ここが指揮官の鎮守府なんだろ?!早く案内してくれよ!』

 

 と夕立の事を差し置いて、提督の手を引いて駆け出したのもある。

 

 出迎えの為に居た長門達に首根っこを掴まれて捕獲され、提督から先程まで背負っていた少女が向こうの『夕立』であり、何故ここに居るのかと言う理由を話した後に、長門達によって、提督と夕立だけじゃ無くて『夕立』も執務室に居る事になったという事もある。

 

 執務室を物珍しそうに物色して子供の様に駆け回るのは我慢できた。服装こそ、上着は胸をぎりぎり全て覆い隠す位の丈しかないし、スカートもスリットが入って全体的に際どい格好だが、背丈は夕立より一回り小さいので、そこは自分より子供だと言う心の中の優越感で堪え切れた。

 

 しかし、夕立と提督が話している途中に『指揮官指揮官!あれはなんだ』と『夕立』が一々聞いて来てたのも我慢できなかったし、提督も嫌な顔一つせずに受け答えしていた事も眉間に力が入る原因となったし、いつの間に冷蔵庫を漁ったのか夕立がとって置いた大好きなワッフルを勝手に食べられたことで、表情筋は固まった。

 

 しまいには『指揮官、頭をなでなでしてぇ』と甘ったるい声で提督におねだりし、提督もそれに応えるように頭を撫でたのだ。

 

 そこで夕立の堪忍袋の緒は切れた。夕立の瞳の深紅の瞳が濁った赤色に染まったのだ。

 

『あなた、なんなの!?夕立と提督さんの時間を邪魔しないでほしいっぽい!!』

 

『はぁ?初めての場所なんだから指揮官に一々聞いてもいいだろ?それになんだそのぽいって!変な口癖ー!』

 

 対する『夕立』も応戦するとばかりに自分から火に油を注いで夕立を小ばかにする。

 

 夕立の怒りの火の勢いは彼女の口癖を馬鹿にされた事で更に増す。

 

『夕立と提督さんはケッコンした仲なの!邪魔しないで欲しいっぽい!!』

 

 夕立は一気に決着をつけれる切り札を、左手のグローブをとって薬指に嵌った絆の証を『夕立』に見せつける。普通なら『ケッコン』と言っても通じないし、別の意味に捉えられるだろうが、夕立の狙いは後者の様に捉えさせて『夕立』の勢いを殺す事だ。

 

 対する『夕立』は狙いどおり固まった――と思いきや、

 

『ああ、知ってるぜ』

 

 けろりと冷静に語る。

 

『えっ…』

 

 その言葉で勢いを殺されたのは夕立の方だ。『夕立』も先ほどの夕立の行動に習うかのように黒と赤を基調とした左手のグローブをとると、中からは朝日を反射する波の様な輝きを放つ銀の指輪が現れた。

 

『て、提督さん!どういう事っぽい?!』

 

 まさか本当に提督が浮気をしたのかと、同様を隠せず揺れる瞳で提督の方を向くが、提督は深刻そうな表情で二人の事を見つめる事しか出来ない。

 

『アタシはアンタと指揮官がケッコンしてるのを知ってて指揮官とケッコンしたけど、アンタは自分以外の人を指揮官が愛するのが嫌って心が狭い事を言うってのか?』

 

『何をー!!!』

 

 ここから先ほどの様な睨みあいが始まる事となったのだ。

 

 その様子は犬らしさを感じさせる二人の外見とは違って、猫の縄張り争いに近い。

 

 お互いに睨みあい、唸りあい、そして、戦いの火ぶたは切って落とされた。

 

 二人は互いの頬に手を伸ばし、抓って引っ張り上げたのだ。同じ『夕立』と言う名を冠する者だけあってか、考える事は同じようだ。

 

 限界まで伸ばさんとされる二人の頬はとてもよく伸びて、見る者に二人の肌の柔軟性を伝えるが、そんな呑気な場面では無い。

 

「私は、心が狭くないっぽい!!」

 

「アタシは心が広いし!アンタの様にあざとく無いけどね!!」

 

「夕立はあなたの様にっ!食い意地なんかはってないし!!」

 

「二人ともいい加減にやめてくれ!」

 

 提督は二人に制止の言葉かけつつも、二人の共通点は多いのにとも思う。

 

 二人の犬の様な外見と、嘘をつかない実直な性格、他にも戦闘が得意だとか、頭を撫でられたり、お腹を撫でられたりすのが好きだと言う共通点は多いのだが、二人が実直すぎる故か、噛みあってか上手くかみ合わないようだ。

 

 それに、互いがケッコン相手と言う事が、二人の腹立たしさを加速させているのだろう。それも、同じように重大な意味を持つケッコン相手だと言う事が。

 

「ぐるるるる!!!」

 

「わうううう!!!」

 

 二人の罵り合いは苛烈さをまし、提督の言葉はもはや届くことは無い。提督が実力行使に出ようと決意し、行動に移そうとした所で執務室のドアが開かれた。

 

「提督!パーティーの準備が出来たよ!ほら、一番に夕立と――って、アレ?」

 

 扉を開けた白露に飛び込んできたのは、頬を引っ張り合う夕立と見知らぬ少女と、それを止めようとしている提督と言う、珍妙な光景。

 

 白露の事を確認した夕立は、『夕立』の頬から手を離す。対する『夕立』も何かを感じ取ったのか、夕立のほっぺたを引っ張る事をやめた

 

「……一時休戦っぽい」

 

「……賛成」

 

 二人は手を離すと同時に、夕立は提督の右手を、『夕立』は提督の左手を掴んで、強引に執務室から立ち去る。

 

「え……、あ、あれ……?」

 

 後に残ったのは、『夕立』の事などつゆ知らず、呆けた表情を浮かべる白露のみだった。

 

 

 

 

 

「ふーん。この子が提督が派遣された先の『夕立』ってわけかー」

 

「んー、あんまり耳は触んないでくれ」

 

「あ、この犬のぬいぐみ可愛いね」

 

「それ、指揮官が着けてくれたんだぜ」

 

「ふふっあなた小さくてかわいいかも」

 

「頭をなでるなー!」

 

 あの後、パーティー会場についた提督は『夕立』の事を皆に簡単に紹介し、大淀の音頭をとってからパーティーが始まった。

 

 『夕立』は食堂に沢山置かれたご馳走の山に瞳を輝かせて、好きなだけ料理を満喫している所に、興味深そうに、白露、時雨、村雨の三人が寄って来たという訳だ。

 

 夕立は好き勝手に食事をこなしながら、三人の言葉を受け流していたのだが、

 

「ねぇねぇ!向こうの『白露』ってどんなかんじなの?!」

 

 と、白露が目を輝かせて聞いて来たので流石に箸を置いて答える事にした。

 

「白露か…、凄く方向音痴のくせにしっかりと目的地につく人だったかな。後、いっつもおどおどとしてた」

 

「こっちの白露とは真逆だね」

 

「そうね、こっちの白露は猪突猛進、が正しいのかしら」

 

「で、時雨。アンタはもうちょっと明るくしてていいんじゃないかって思うぜ。向こうの時雨は常に明るいし、どっちかっていうと小悪魔チックてやつかな。なんか、アンタは幸薄そうだし」

 

「ひ、酷いじゃないか…」

 

「こっちも真逆だね」

 

「ねっ、村雨は?」

 

「…………」

 

「ちょっ、無視?!」

 

「会った事無いからわからん」

 

「そんなー!!」

 

 白露達の会話を聞いていたのか、他の艦娘達も向こうの自分たちと同じ名前を持つ『存在』について気になっていたらしく、わらわらと『夕立』に群がる。

 

 余りにも多くの艦娘が群がるので、鬱陶しそうな表情を表面では浮かべていた『夕立』ではあったが、どことなくその口許は緩んでいる様にも見える。

 

 そんな『夕立』を遠くから見守るのは夕立と提督。皆が『夕立』に群がる様にちょっと夕立は面白くなさそうな表情を浮かべながらも、提督に対して口を開く。

 

「提督さん」

 

「何が言いたいかわかってる…。向こうにもこっちのケッコンと同じようなシステムがあってな。いや、言い訳しない方がいい…か。ケッコンと言うシステムがあって、俺は『夕立』とケッコンしたんだ。こっちと違って、練度が必要という訳じゃ無くて、あの子達の心からの信頼が必要な代物だ」

 

 ケッコンカッコカリ。そのシステムの名前からすると、深い意味合いを持っていそうだがその条件は練度が限界を迎えるだけでいい。だから、ケッコンするだけならば困難ではあるが、誰でも出来る物なのだ。なのに、そのケッコンを夕立としか交わらなかったと言うのは、提督なりに不快意味合いを持たせての事。つまり、夕立ただ一人を愛し続けると言う思い。

 

 それなのに、提督はケッコンした。それも、同じ夕立であって違う『夕立』と。それも、確かな絆を結んだ形で。提督は向こうで『夕立』の信頼を勝ち取り、信頼以上の関係へと進んだのだ。自分の意志で。

 

 提督は今隣に居る夕立に対して目を伏せる。まるで懺悔をする教徒の様に。

 

「君からすれば、不義の関係か。俺も君に合わせる顔が無いと思った。でも、君の事を忘れた事は一度も無かったし、君を今も愛し続けている事は変わらない。……ただ、あの子の事も愛している事も事実だ。あの子も、君とケッコンしている事を承知でケッコンしたんだ。だから、あの子だけじゃ無くて、責めるなら俺の事も責めてくれ……」

 

 静かに拳を握りしめて覚悟を決める。夕立が提督にどんなに罵倒しようともそれをしっかりと受け止める覚悟だ。これは夕立に対しての裏切りの行為に等しいのだから。

 

 彼の言葉に応えるように夕立は、彼の握りしめた拳を柔らかい掌で包むと指を絡ませる様に握りしめる。

 

「提督さん、夕立。怒ってないよ。うん、それどころかちょっと嬉しいのかも」

 

「夕立…」

 

「あの子も同じ『夕立』だからかな。ちょっと複雑だけど、嬉しいの。どんな夕立であっても提督さんは『夕立』を好きだって言ってくれて、愛してくれるんだって。だから、ちょっと嬉しい」

 

「……そっか」

 

「でも、提督が他の名前の子とケッコンしてたらちょっと怒るっぽい。夕立は心はお空の様に広いけど、ちょっと考えるような事は流石にあるっぽい!」

 

「向こうでも、色んな子に迫られたんだけどな。やっぱり向こうでも『夕立』にしかそっちの意識は向かなかったよ」

 

「むぅ。やっぱり夕立もついていたよかったっぽい。提督さんはどこでもモテるし」

 

「夕立にだけモテればそれでいいさ」

 

「んっ…」

 

 夕立は提督の胸元に顔を埋める。顔を小さくすりすりと擦りつける様に動かしながら。夕立は『夕立』より、やって欲しい事を直接言わず、こうやって態度で表す。これは頭を撫でて欲しい彼女なりのサイン。

 

 提督は夕立の頭に手を置いて撫ぜる。手櫛をするように、引っかかることの無い夕立の髪を整えるように優しく。

 

「向こうの『夕立』も頭を撫でて貰ってる時、凄く嬉しそうだった。だから、ちょっと嫉妬が爆発しちゃったっぽい。今までは夕立だけの特権だったから。うん。これを邪魔されたら夕立も怒るかも」

 

「うん…。お気に入りだもんな」

 

「あっ!ズルいぞオマエ!指揮官!アタシもアタシも!!」

 

 質問攻めから解放された『夕立』も提督のもとにやってきて、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、自分もとねだる。まだ、提督が撫でる感触を味わっていたかったが、また喧嘩に発展するような事はしたく無いから大人しく夕立は離れる。

 

「ねぇ、あなたは提督さんの事、好き?」

 

 夕立の素朴な問いかけに、『夕立』は当たり前だと言わんばかりに口角を持ち上げながら答える。

 

「好きじゃなかったら、貨物に紛れてまでついていこうとしないだろ?それと指揮官にはこれからいつでも夕立の頭をなでなでして、美味しい物をいっぱい食べさせる義務があるんだし!」

 

 少しばかり顔を赤くしながらも、自信を持って夕立は答える。

 

「オマエはどうなんだ?」

 

「夕立は提督さんの事が大好きよ」

 

「ふーん。そこでぽいを使わないんだな」

 

「うん。決まってる事だから」

 

「んっ。そうだぜ。決まってるからな」

 

 二人からの告白に提督は辛抱たまらず二人纏めて抱きしめる。

 

「ありがとう…俺も大好きだ」

 

「「夕立も提督さん(指揮官)の事が、大好き!!」」

 

 互いを認め合った夕立と提督はその絆の強さを表す様に、強く強く抱きしめあった。

 

 

 

 

 

 その日の晩、三人は同じ布団の上で寝っ転がっていた。

 

 提督の右側には夕立が、左側には『夕立』が陣取って、提督の腕を抱き枕にし脚に身体を絡める様に横になっている。

 

「ちょっと場所をとりすぎっぽい!!こっちまで足を延ばさないで欲しいっぽい!!」

 

「仕方ないだろ。長い間箱の中に身体を納めるようにしゃがんでたから、身体を伸ばさないと辛いんだって」

 

 些細な口喧嘩こそはあるが、出会ったばっかりの時に喧嘩をしていた時よりかは平和な物だ。それに提督個人としても、両腕が柔らかい感触に包まれるのは良い事だ。

 

「もういいか?」

 

「いいぜ」

 

「いいっぽい」

 

「じゃあ、おやすみ」

 

「おやすみ(なさいっぽい)」

 

 程なくして、二人が寝息を立てる。夕立はパーティーの準備、『夕立』は慣れない姿勢を長時間し続けたことの疲労感からすぐに眠った様だ。

 

「ありがとう二人とも」

 

 自分が二人の『夕立』を愛する事を許してくれた事に感謝をし、これからの生活に想いを馳せて、提督も二人の後を追う様に夢の世界へと旅立った。




無断転載ダメ絶対、です


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。